第3章 スキルアップ事業各種相談窓口等意見交換事業
I.目的
近年、交通事故死者数は減少しているものの、交通事故件数、負傷者数は依然として高水準で推移している。このような状況から、「第8次交通安全基本計画」の中でも8つの柱のひとつとして「被害者支援の推進」が謳われている。
新たな交通事故被害者が日々増加し続ける中、交通事故は、いつ我が身に振りかかってもおかしくない状況にあるといえる。
内閣府では、国民が互いに支え合う、安全で安心できる交通社会の実現を目指し、平成15年度から交通事故被害者支援事業を実施してきたが、今年度は、交通事故相談所と被害者支援センターとの更なる連携・強化、交通事故相談所の現状を調査し、交通事故被害者の早期回復方策を探求することを目的とする。
II.概要
現地の被害者支援センターにおいて、専門家、現地の交通事故相談員、現地の被害者支援センター担当者間で連携強化・問題点の改善等を図るため、表3-1に示すとおり3箇所で意見交換を実施した。
いばらき | 秋田 | 長崎 | 石川 | 大阪 | 愛知 | |
---|---|---|---|---|---|---|
交通事故相談所意見交換会 | 平成19年 1月26日 |
12月25日 | 12月21日 |
なお、意見交換会を円滑に実施するため、事前に交通事故相談員に対してアンケート調査を実施した。(資料2 参照)
III.体制
当該事業を進めるに当たっては、小委員会を設置せず、下記の体制で実施する。
- 専門家
- 冨田 信穗(常磐大学人間科学部教授)
- 同行者(犯罪被害相談員)
- (社)被害者支援都民センター
- 地域の交通事故相談所との連絡調整
- 内閣府
- 記録係
- (社)被害者支援都民センター
- 報告書執筆担当
- (社)被害者支援都民センター
- 当日のプログラム
- 当日は、表3-2のとおりのプログラムに従って、意見交換会を実施した。
時間 | 担当 | 内容 |
---|---|---|
13:00〜13:05 (05) |
冨田教授 | 開会挨拶 |
13:05〜13:15 (10) |
全員 | 自己紹介 |
13:15〜14:00 (45) |
冨田教授 | 交通事故の被害者に対する支援について |
14:00〜14:30 (30) |
事務局 | 「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」ビデオの映写 |
14:30〜14:40 (10) |
休憩 | |
14:40〜15:25 (45) |
相談所 | 交通事故相談窓口業務について |
15:25〜16:55 (90) |
全員 | 意見交換 「交通事故被害者の支援担当者マニュアル」、ビデオ、交通事故相談所が使用しているテキスト及び事前調査票を基に意見交換を行う。 |
16:55〜17:00 (05) |
冨田教授 | 閉会 |
IV.意見交換会
1.石川県における意見交換会
平成18年12月25日(月)13時から17時まで、NPO法人石川被害者サポートセンターの会議室において、冨田教授、県民生活課2名、石川被害者サポートセンター7名、(社)被害者支援都民センター1名、事務局1名が参加して行われた。
冨田教授より開会の挨拶として、「第8次交通安全基本計画」では、被害者支援の推進が取り上げられており、損害賠償請求の援助の活動を強化するとともに、交通事故被害者等の心情に配慮した対策の推進が必要であるとされている。その実現のためには、自助グループ活動を支援している民間の犯罪被害者支援団体と交通事故相談所の連携強化が大切であるが、十分とはいえない状況である。したがって、双方の連携強化につながることを目的に今回意見交換会を開いたことが述べられた。
意見交換会は、以下のとおりの内容で進められた。
- 冨田教授による交通事故の被害者に対する支援についての説明
- 内閣府製作のビデオ「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」の映写
- 相談員による交通事故相談窓口業務についての説明
- 参加者全員による意見交換
(1)交通事故の被害者に対する支援について
冨田教授より、交通事故の被害者に対する支援について、資料1を基に説明が行われ、その後内閣府製作のビデオ「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」の映写を実施した。資料1は、NPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンター及びNPO法人長崎被害者支援センターにおいても説明のため使用した。
(2)交通事故相談窓口業務について
石川県の交通事故相談所の主な業務内容は、以下のとおりである。
- 相談員は2名である。
- 相談時間は、8時30分から17時45分までである。(土、日、祝日は休み)
- 奥能登行政センターは、8時30分から17時15分までである。
- 電話相談は、月3回火曜日に県庁の相談コーナーで実施している。
- 平成17年度は、1,100件の相談実績がある。
- 相談内容の8割は、賠償に関することである。例:算定の妥当性、過失の程度、示談の方法、保険会社との手続き方法など
- その他の内容は、更生問題に関する相談である。例:身体障害の更正、生計の維持、各種援助措置の利用など
- 死亡に関する相談は、平成17年度実績で74件あった。
- 相談に来る方の比率は、被害者本人47%、家族又は親戚31%、加害者14%である。
- 精神的な相談は、全体の件数からみておおよそ10%程度である。
- 精神面での相談件数は、毎年同程度であり増加していない。その中で、主な相談は、現在の生活における不眠、不安、抑うつなどである。
- 精神的な相談を受けた際、専門家に相談した方が良いと思われる相談者が、来ることもある。相談内容は、「毎日ゆううつな気持ちが続いている」というものであった。その際は、回復には個人差があることを理解し、無理をしないことを伝えるなどの対応を実施した。
- 相談時間は、1時間から1時間半程度である。3割が電話相談で、残りは面接相談である。
- 市や町に対する研修会を年1回開催している。
- 被害者に対しては、話す内容をしっかり把握し、適切な対応に心がけている。
- 高齢者対応として、平成15年より「交通安全思いやり家族サポート事業」を開始している。例として、アマチュア演劇集団による被害者の気持ちを表現した朗読会を行っている。平成18年度は、講演会を実施した。
- 今後、内閣府開催の講習等に相談員を参加させたいと考えている。
- 相談員の経歴は、県の職員(OB)と民間人であり、警察出身者はいない。
- 地元に被害者支援センターがあることは、知らなかった。
(3)参加者全員による意見交換
参加者全員による意見交換を行い、連携強化に向けた話し合いが行われた。主な内容は、以下のとおりであった。
1.交通事故相談所の相談内容
- 相談内容の約8割は、賠償に関することである。
- 精神的な相談は、約1割程度である。
- 相談者への対応は、「交通事故に合われた皆様へ」という小冊子を渡し、説明している。
※小冊子には、NPO法人石川被害者サポートセンターの所在は、記載されていない。
など
2.NPO法人石川被害者サポートセンターの相談内容
- 交通事故に関する相談は、1割以下であり少ない。
- 精神的な相談内容は、加害者に誠意が見られないことに対するものが多い。
など
3.相談者の要望について
- 相談者は、精神的な問題や補償問題だけで連絡してくることはない。種々の情報を得るために交通事故相談所へ連絡してくることもある。
4.精神的な相談の対応について
- 本来「自分は精神的に困っている」と言って相談に来る者はいない。相談を受ける者に相手の本心を素直に聞く姿勢がないと、相手は心の内を話さないものである。
- 相手の話を受け身で聞くばかりでなく、積極的に一歩踏み込むことも必要である。
- 積極的に踏み込む場合、対応策を持ち合わせていないと逆に被害者に害を及ぼすこともある。
- 被害者は、損害賠償のことを質問するがその裏にある感情を理解して、対応することが必要である。
5.交通事故相談所が精神的な相談を受ける場合の問題点について
- 交通事故相談所は、被害者から精神的な内容を聞き出す技量を持ち合わせていない。
- 精神的に不安定である被害者は、法律に関するアドバイスを受けてもきちんと対応できないこともある。そのため、交通事故相談所との人間関係が悪くなる場合もある。
6.支援センターと交通事故相談所との連携について
- 交通事故相談所にどの程度まで精神的な相談を対応させるべきか考える必要がある。
- 被害者から精神的な内容を聞き出す技量が乏しいのであれば、他機関との連携・補完が必要となってくる。
- 「交通事故に合われた皆様へ」には、どのような問題にも相談に応じると明記されているが、対応が難しいと判断される事案については、支援センターに依頼することも考えなければならない。
- 交通事故相談所の位置付けは、損害賠償の適正化である。しかし、精神的な問題に配慮して相談するという心構えで接する必要もある。相談内容によっては、支援センターを紹介する事も考えなければならない。
- 法律上の問題に対応するため、支援センターから交通事故相談所を紹介することも連携として考える必要がある。
7.その他の問題点
- 交通事故相談所と支援センターは、年1回被害者等連絡協議会に出席するが、資料を読み上げるだけでお互いの連携は出来ていないのが実態である。
- 交通事故の悲惨さを表現した小冊子は良くできているが、さらに専門家のコメントが記載されているとより理解されると考える。ただし、被害に遭ったことのない人の多くは、小冊子を読んでも「自分は被害者にならない」と考えとともに、被害に遭うのは、被害者に落ち度があったからだと考える傾向にある。
- 他の適切な機関を紹介しても、たらい回しと思われることがある。
- 電話相談の場合は、匿名性があるため単に怒りをぶつけるだけの時もある。本当に他の機関に紹介すべき被害者かどうか見極めることが必要である。
- 交通事故相談所に寄せられる相談のうち、精神的な内容の相談が少ない原因としては被害者の気持ちが混乱している場合と、「精神的な問題は自分の中で解決しなければならない」という思いの2つのことが考えられる。
8.被害者支援に関する全般的な意見
- これまでは、補償に主眼が於かれていた。第8次交通安全基本計画で支援の方法が示されれば、支援の強化につながっていくと考える。
- 交通事故相談所が、被害者支援の機能を持つことで、より被害者を支援する体制になることが望ましい。
- 被害者は、様々な機関に相談することがあるが、どの機関からも必要な情報が入手できるような連携を構築する必要がある。
- 交通安全に対し見識を持った者が、交通事故被害者の意見を多く集めたうえで、社会にPRをしていくことが大切である。
2.大阪府における意見交換会
平成18年12月21日(木)13時から17時まで、NPO法人大阪被害者アドボカシーセンターの会議室において、冨田教授、交通事故相談員2名、NPO法人大阪被害者アドボカシーセンター4名、(社)被害者支援都民センター1名、事務局1名が参加して行われた。
冨田教授より開会の挨拶として、交通事故は、社会にとって深刻な問題である。第8次の交通安全長期計画の中に被害者支援の推進という項目があり、一昨年4月より犯罪被害者等基本法が施行され、昨年12月に基本計画が出来たが、交通事故被害者も犯罪被害者等基本法の対象である。
内閣府では、平成15年度より交通事故被害者支援事業を開始しており、交通事故被害者が直面する経済的問題のみならず、精神的な問題も広く理解してもらうため、アンケートやマニュアル及びビデオの作成、さらには海外の活動についても取り上げてきた。
全国に、被害者支援センターは増えてきているが、これまで交通事故相談所との間で意見交換する機会は少なかった。お互いの業務内容を理解し情報交換を行うことで、被害者支援の強化につながることを目的に意見交換会を開いたことが述べられた。
意見交換会は、以下のとおりの議題で進められた。
- 冨田教授による交通事故の被害者に対する支援についての説明
- 内閣府製作のビデオ「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」の映写
- 相談員による交通事故相談窓口業務についての説明
- 参加者全員による意見交換
(1)交通事故の被害者に対する支援について
冨田教授より、交通事故の被害者に対する支援について、石川県と同様に資料1を基に説明が行われ、その後内閣府製作のビデオ「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」の映写を実施した。
(2)交通事故相談窓口業務について
大阪府の交通事故相談所の概要は、以下のとおりである。
- 相談員は9名である。
- 豊野、三島、北川市、中川市、南川区、泉北、泉南の7カ所のプラザがあり、それぞれ1名で対応している。(週4日)
- 電話相談と面接相談は、被害者、加害者合わせて年間約4,000件の実績がある。
- 毎週火曜日と木曜日は、弁護士相談を実施している。(6名まで)
- 相談内容は、損害賠償の額の妥当性及び過失割合に関することが多い。
- その他、保険会社の対応が悪いという相談が多い。
- 損害額を高くするため、被害者の代理人という者からの電話相談もある。それらの対応には、9名の担当者が一緒のレベルになるよう心がけているが難しい。
- 相談員になって日の浅い人では、マニュアルどおりの対応になりやすい。
- 相談時間は、30分から1時間程度である。
- 被害者に対しては、話す内容をしっかり把握し、適切な対応に心がけているとともに、命令口調や横柄な態度を取らないように気をつけている。
- 精神的な相談は、全体の件数からみておおよそ10%〜30%程度である。精神面での相談件数は、増加傾向にある。その中で、主な相談は、現在の生活における不眠、不安、抑うつあるいは、日々の生活で感じる疲労感や無力感に関することなどである。
- 精神面での相談を受けた際は、相談員の他、被害者支援ネットワークから該当する箇所を紹介している。
- 精神的な相談を受けた際、専門家に相談した方が良いと思われる相談者が、来ることもある。相談内容は、「毎日ゆううつな気持ちが続いている」あるいは、「事故の記憶がまるでその場にいたかのようによみがえる」というものであった。その際は、人によって悲しみに違いがあることを理解しながら話しをする、あるいは回復には個人差があることを理解し、無理をしないことを伝えるなどの対応を実施した。
- 地元に被害者支援センターがあることも、その活動内容も知っていた。
- 交通事故相談所と被害者支援センターは、今後連携を密にして被害者を支援していくことが大切である。また、被害者支援センターと勉強会などを定期的に行うことで、被害者への対応を的確に行うことが大切であると考える。
- 精神的な相談に対して困っていること、又は相談員として悩んでいることは、「高次脳機能障害」になる被害者が増えているように思われるが、その対処方法である。また、保険会社などが、PTSDを認めない傾向にあることも悩みである。
(3)参加者全員による意見交換
参加者全員による意見交換を行い、連携強化に向けた話し合いが行われた。主な内容は、以下のとおりである。
1.交通事故相談所の相談内容
- 損害賠償の額の妥当性及び過失割合についての相談が多い。
- 保険会社の対応の悪さについての相談も多い。
など
2.NPO法人大阪被害者アドボカシーセンターの相談内容
- 損害賠償や保険会社の対応に関する相談も多い。
- 問題が紛糾している場合は、交通事故紛争処理センターを紹介する。
- 月に1回弁護士相談を開催している。
など
3.相談者の要望について
- 被害者は、損害賠償金額を多くするための相談であり、加害者はできる限り損害賠償金額を少なくするための相談である。
4.精神的な相談の対応について
- 被害者に対しては、医師が症状固定をする場合の記載内容についてアドバイスを行っている。
5.交通事故相談所が精神的な相談を受ける場合の問題点について
- 交通事故相談所は、PTSDについて医者に相談させるようにしているが、だれでもがPTSDを理解しているわけではない。PTSDの相談があれば支援センターに連絡すべきである。
6.支援センターと交通事故相談所との連携について
- 今回の意見交換会によって、お互いの業務内容や相談内容が把握できたので、今後の連携に繋がり被害者のためにもなる。
- 被害者への支援には、広い範囲に対応できる機関もあれば、交通事故相談所のような専門的な機関も必要である。それらを仕組みとして連携させることが大切である。
- 定期的な会合を開くことが、連携には必要である。例えば、「被害者支援連絡協議会」のような会合が開催されれば良いと考える。
7.その他の問題点
- 保険会社などは、精神面における損害を認めない傾向にある。また、保険会社は、自賠責の基準のみの賠償額を提示してくるので、実態をよく知らせることが大切である。
- 保険会社の対応には問題があるので、国が厳しく指導すべきである。
- 交通事故相談所に配属になってから、支援センターの存在を知った。
- 多くの相談者は、支援センターの存在を知らないのが現状である。各市町村は、存在を伝えるべきである。
- 交通事故相談所は、相談者の中から支援センターの自助グループに参加したいと考えている相談者を見分けることができない。
8.被害者支援に関する全般的な意見
- 被害者の相談は、一つではない。統計上上がってこない内容も多いと考える。
- 相談は、被害者側が大半である。
- 内容によっては、交通事故紛争処理センターや大阪弁護士会を紹介する。
- 相談者は、法律上の事柄を知らない人が多い。例えば、自賠責の内容から教えることもある。
- 被害者は、支援に関する知識があっても混乱している事もあるので、しっかり説明する必要がある。
- 相談者の聞きたい内容をしっかり把握し、その上で適切な機関を紹介することが大切である。
- 被害者がどこまで支援に関する知識を持っているかを確認し、その後、相談所へ訪問させ話を聞き、大阪府が作成している「手引き」に従ってアドバイスするようにしている。
- 交通事故相談所の役目は、民事に限る事としている。
3.長崎県における意見交換会
平成19年1月26日(金)13時から17時まで、NPO法人長崎被害者サポートセンター近くの出島交流会館会議室において、冨田教授、内閣府1名、交通事故相談員2名、市民相談室1名、県警本部警務課2名、NPO法人長崎被害者サポートセンター9名、(社)被害者支援都民センター1名、事務局1名が参加して行われた。
冨田教授より開会の挨拶として、内閣府では、平成15年度より交通事故被害者支援事業を開始している。事業では、交通事故被害者が直面する経済的問題のみならず、精神的な問題にも広く理解してもらうため、アンケートやマニュアル、ビデオの作成、さらには海外の活動についても取り上げてきた。
これまで交通事故相談所との間で意見を交換する機会がなかったので、お互いの業務内容を理解することにより、被害者支援の強化につながることを目的に意見交換会を開いたことが述べられた。
(1)交通事故の被害者に対する支援について
冨田教授より、交通事故の被害者に対する支援について、石川県と同様に資料1を基に説明が行われ、その後内閣府製作のビデオ「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」の映写を実施した。
(2)交通事故相談窓口業務について
長崎県の交通事故相談所の概要は、以下のとおりである。
- 長崎市役所自治進行課は、市民相談係があり、付属して交通事故相談所がある。弁護士による無料法律相談を週3回実施している。一人当たりの時間は、20分である。
- 交通事故相談所は、午前9時〜午後4時まで開いている。
- 相談員は、2名である。
- 2週間に一度、水曜日に弁護士相談がある。
- 月延べ100件程度の相談がある。
- 相談内容は、加害者に対する損害賠償請求方法の他、労災保険等治療に関係する保険の相談である。
- 相談時間は、15分から1時間程度である。
- 被害者に対しては、話す内容をしっかり把握し、適切な対応に心がけているとともに、心の悩みを解きほぐすように気をつけている。
- 精神的な相談は、全体の件数からみておおよそ10%〜20%程度である。精神面での相談件数は、やや増加傾向にある。その中で、主な相談は、現在の生活における不眠、不安、抑うつなどである。
- 精神的な相談を受けた際、専門家に相談した方が良いと思われる相談者が、来ることもある。相談内容は、「毎日ゆううつな気持ちが続いている」というものであった。その際は、日常生活を大切にし、自分の生活を取り戻すように話しをするなどの対応を実施した。
- 地元に被害者支援センターがあることも、その活動内容も知っていた。
- 交通事故相談所と被害者支援センターは、今後連携を密にして被害者を支援していくことが大切である。また、被害者支援センターと勉強会などを定期的に行うことで、被害者への対応を的確に行うことが大切であると考える。
- 精神的な相談に対して困っていること、又は相談員として悩んでいることは、軽度のうつ状態になっている相談者から何度か相談を受けるが、うつに対する解決方法が見つけられないことである。
- 交通事故相談所を知らない人もいる。
- 何を相談したいのか、どこまでの解決を望んでいるのか聞き、それによって、できることできないことを選別して、他の機関に相談するか決める。
- 新聞の切り抜きを取っておき、被害者に紹介することもある。
- 保険会社に対する苦情がある。保険会社は、早く打ち切ろうとする。このため、うつになる被害者もいる。
- 被害者の中には、より以上の金額を求めようとする傾向の者もいる。
(3)参加者全員による意見交換
参加者全員による意見交換を行い、連携強化に向けた話し合いが行われた。主な内容は、以下のとおりである。
1.交通事故相談所の相談内容
- 相談内容は、加害者に対する損害賠償請求方法の他、労災保険等治療に関係する保険の相談である。
- 精神的な相談は、全体の件数からみておおよそ10%〜20%程度である。
- 刑事処分について相談された場合は、検察や弁護士に相談するようアドバイスをする。
など
2.NPO法人長崎被害者サポートセンターの相談内容
- 交通事故の他、殺人、DV、傷害に関する相談も受けている。
など
3.相談者の要望について
- 交通事故相談所では、損害賠償問題が多い。
4.精神的な相談の対応について
- 交通事故相談所としては、特定の医院を紹介することはしない。弁護士会に相談して判断してもらうようにアドバイスをする。
- 支援センターにおいても、特定の医師や弁護士は紹介していない。支援センター自身が専門職として対応している。
5.交通事故相談所が精神的な相談を受ける場合の問題点について
- 精神的な相談は、受けていない。
6.支援センターと交通事故相談所との連携について
- 支援センターと交通事故相談所の連携がうまく機能していないので、被害者はどのように相談したらよいか分からないのが現状である。
- 支援センターで対応が難しいと思う事例については、弁護士を紹介をしていたが、交通事故相談所も紹介機関の一つに考えたい。
- 交通事故相談所は、損害賠償問題の取り扱いが多いので、精神的な問題については、支援センターが役立つと考える。
- 被害者は、刑事的処分を早い段階で行動を起こすことも必要である。そのためには、情報を早く入手したいと検察、警察も考えているので、交通事故相談所との連携は必要である。
- 交通事故相談所の業務を、被害者支援ネットワークは把握する必要がある。
7.その他の問題点
- 県警では、賠償問題等の相談に対して捜査を担当している立場から介入できない。しかし、事故の中身については捜査に支障がない程度で話す。
- 警察は、賠償問題もあり、被害者、加害者を区別して対応することは難しい。
- 相談に来る時期は、通院中や入院中あるいは示談をした後に来る人もいる。また、症状固定が確定してから来る人もいる。
8.被害者支援に関する全般的な意見
- 被害者が抱える悩みに共感して、適切なアドバイスをすることが必要である。
- どのような対応が回復に良いのかを考えながら、適切な機関を紹介していかなければならない。
- 交通事故相談員としての心構えは、被害者と同じ目線で話しをし、事務的な対応にならないことであると考える。
- 被害者の精神的な支援においても、検察、警察との連帯は必要である。
- 交通事故相談所は、被害者だけでなく、加害者の対応もする。その際は、基本に従って対応する。決して被害者あるいは加害者に同情して対応はしない。
- 交通事故相談所は、交通事故対策基本法の損害賠償の適正化が目的であり、公正な立場を取らなければならない。
V.問題点と改善策
石川県、大阪府及び長崎県のそれぞれの交通事故相談所との意見交換会を実施した結果、以下のことが共通の問題として取り上げられた。
- 被害者支援センター及び交通事故相談所は、お互いの業務内容を十分把握していない。
- 被害者支援センター及び交通事故相談所は、自身が作成している冊子に被害者支援センター及び交通事故相談所を紹介している記載がない。
- 被害者支援センター及び交通事故相談所が集合する会合などの機会が少ない。
- 被害者支援センター及び交通事故相談所の人事を含めた交流が少ない。
などが上げられる。
交通事故被害者に対する支援には、被害者支援センターと交通事故相談所のそれぞれの得意な分野を最大限に生かすことが必要であり、そのためには定期的な会合や研修会を持ち、互いの業務を十分把握し、連携を密にすることによって精神面及び損害賠償面の対応を実施することが必要である。
VI.まとめ
本事業により、これまでほとんど交流のなかった被害者支援センターと交通事故相談所が、一同に介して意見交換会を実施したことは、これからの交通事故被害者支援にとって大変有効なものであった。それぞれ、得意とする支援がありながら、互いの業務を十分理解していなかったため、所属する機関のみで対処しようとするあまり、被害者のみならず応対した者にも精神的な負担が掛かっていたのが現状であった。
今回、意見交換会を実施し、互いの業務を理解したことにより、交通事故被害者支援の強化に当たっては、緊密な連携が必要であることを再認識したことは重要であった。
今後は、被害者支援センターと交通事故相談所の交流や研修会などが一時的なもので終わるのではなく、定期的に開催するように努め、日々研鑽し合い交通事故被害者支援に対応していくことが求められる。
さらには、交通事故被害者支援強化のため、被害者支援センターと交通事故相談所との連携だけに限らず、医師、弁護士、検察、警察なども含めた体制での連携強化を目指していくことが重要である。