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III.自助グループ活動の展開

1.交通事故被害者支援におけるネットワーク化と自助グループ

(1)交通事故被害者支援機関の間のネットワーク

1) 経緯
 我が国でネットワークというと、各都道府県警察の「被害者支援連絡会」がある。具体的にどのような機関が含まれているかというと、例えば、弁護士会が連携機関として以下のようなものをあげている。
 弁護士会、警察庁、検察庁、犯罪被害者の組織(例:全国犯罪被害者の会、交通事故被害者の会など)、精神的支援では(社)被害者支援都民センター・東京都立精神福祉センター・日本臨床心理士会、女性、児童に対する犯罪では東京都児童相談センター・東京都女性相談センター・(財)東京女性財団、暴力団犯罪についは(財)暴力団追放運動推進都民センター・日弁連ないし単位会の民事介入暴力に関する委員会、経済的支援では(財)法律扶助協会・福祉事務所(区、市、都)など。
 交通事故の被害者支援の展開を考える上で、すでに活動を開始しているこうした既存の犯罪被害者ネットワークを最初に概観することは参考になると思われる。

 被害者自身が直面する問題は、多種多様であるだけでなく、複数の問題にかかわることになる。被害者のために総合的な支援組織ができればよいのだが、現実にはまだそのような形での組織は存在しない。そこで、被害者支援活動を行うそれぞれの機関は、専門分野以外の問題については速やかに被害者を他の機関に紹介する必要が生じる。この紹介が行われるためには、各被害者支援機関が他の支援機関の活動についての正確な情報を持っていることが必要になり、関係機関の間の協力関係が形成されることが不可欠である。それは結局、被害者支援機関のネットワークを形成することが何よりも重要だということになる(冨田信穗「地域支援ネットワークの形成」、『犯罪被害者に対する民間支援』2000年、P.124〜。同「ネットワーク化して全国に広げる」、『トラウマから回復するために』1999年、P.362〜)。
 例えば、東京都犯罪被害者支援連絡会は、警視庁犯罪被害者支援室を事務局とするもので、「被害者の抱える問題は、広範多岐にわたっており、一つの機関・団体だけでなく、被害者支援に関わりを持つ多くの機関・団体が相互に協力、連携することが不可欠の用件と」なり、「これらが一体となった被害者支援ネットワークを構築し、相互に協力、連携して、被害者に対する支援活動を効果的に推進することを目的として」設立されたという。現在、参加機関・団体は35だが、新たな参加団体も増えているようで、さらに活動の幅を広げていくようである。

 最近では、被害者を支援する民間の活動が全国各地で行われるようになり、次第に一般にも知られるようになってきている。これらの組織も、相互に連携を図ることによって、よりよい支援活動ができるというものである。また、同じ趣旨の下、全国各地で活動している組織同士が交流を深めることは、絆の輪を広め、互いの組織への刺激となり、重要である。我が国には、「全国被害者支援ネットワーク」という、民間機関の間のネットワークを代表するものがある。この支援ネットワークは、昨年(2003年)10月3日に、同日を「犯罪被害者支援の日」とする制定記念・中央大会を開いた。このとき集まった各団体は、それぞれが訴えたいこと、知ってほしいことを沢山抱えているということで、中央大会で、そして冊子で、その一端を披露している。「こうしたネットワークに集う者たちにとって、犯罪被害者の声はその活動の原点であると同時に道標となるもの」なのである。
 この被害者支援ネットワークは、1991年10月3日、「犯罪被害給付制度発足10周年記念シンポジウム」において発せられた一遺族の声がきっかけとなり、発展してきたものである(「犯罪被害者・遺族の会―それぞれの歩み」平成15年発行より)。このネットワークに期待されている役割は、

(1)被害者支援に関する社会への広報、啓発と教育
(2)全国各地における民間支援組織設立の推進と連携
(3)民間支援組織の支援スタッフの教育と研修
(4)犯罪被害者の権利を擁護する諸施策の実現や法整備を促す活動
(5)被害者・遺族の自助グループへの支援と、連携

であるという。このうち(3)については、「被害者支援者の研修」委員会が、(4)については、「被害者の権利」委員会が、(1)・(2)・(5)については、事務局が中心となって活動している(山上皓「民間被害者支援の歩み」、『犯罪被害者に対する民間支援』2000年、P.11〜)。このように振り返ってみれば、ここ十数年という歴史ながら、我が国でも一歩一歩確実に被害者の支援活動は前進してきたといえよう。

 『犯罪被害者支援ガイドブック』(東京都犯罪被害者支援連絡会、平成15年)によれば、
被害者に直接的、間接的に関わるネットワーク会員同士が、相互の業務内容に通じることや担当者同士の意思疎通を図ることで、被害者がいずれの窓口に行っても、その問題に的確に対応できる機関・団体などに引き継いだり、紹介したりすることができる、とする。
ネットワークの効用として、

以上の5点を挙げている。先の被害者支援ネットワークが、その活動の推進、発展を意識すると同時に被害者当人同士の心の触れ合いの場ともなるのに対し、警視庁の犯罪被害者支援室を事務局とするネットワークは、被害に遭った状況の改善、様々な方面からの被害者のサポートを充実させながらネットワーク活動の推進を目指そうとするもののようにみえる。いずれにせよ、今後の被害者支援活動の発展に、ネットワークが必要だということは、十分理解できる。

 警察、検察、弁護士が連携機関を組織する範囲については当然把握できるが、民間の団体の場合、各々が様々な趣旨に基づいて活動を行い、その形態も異なるので、全国にある団体のすべてを網羅するのは困難であるうえ、日々新しい活動が生じていることも考えられる。ちなみに、全国被害者支援ネットワークには、2003年10月末現在で、30団体が加盟しているという。先に記した「犯罪被害者支援の日」制定記念・中央大会に参加した団体は以下の通りであった。

小さな家
地下鉄サリン事件被害者の会
少年犯罪被害当事者の会
Japan Victim Assistance Ring
全国犯罪被害者の会(あすの会)
北海道交通事故被害者の会
あひる一会
(社)被害者支援都民センター自助グループ
「生命のメッセージ展」実行委員会
NPO法人 交通事故後遺障害者家族の会「koisyo」
NPO法人 犯罪被害者支援の会appui
犯罪被害者きょうだいの会
風通信
犯罪被害者自助グループ「緒あしす」

2) 現状
 犯罪被害者については、上記のような動きが見られる。確かに、交通事故被害者は犯罪被害者の中の一部であり、交通事故被害者だけでネットワークを形成することにはデメリットがある、という考え方もある。しかし、交通事故被害者は(交通)犯罪の被害者であるという捉え方をすれば、現在ある犯罪被害者支援の制度・組織を活用することは当然可能なので、そのネットワークについて上記で分析してきたわけである。
 本年(2004年)早々に出された警察庁の報告によれば、平成15年中の交通事故死者数は、7,702人、前年比で624人の減少。そして、昭和32年以来46年ぶりに8,000人を下回ったという。負傷者数は、1,181,431人で、こちらは前年比13,576人の増加であった。これに対し犯罪白書を見ると、(交通関係業務上過失を除く)一般刑法犯による死亡者数は、(平成14年で)1,368人、負傷者数は46,762人である。確かに、交通事故の死亡者数が減少していることは、傾向としては認められるものの、その数は、一般刑法犯による死亡者数の5倍以上で、毎年大変多くの尊い命が犠牲となり、多くの人が負傷していることがわかる。今後、犯罪被害者支援機関の間のネットワークのみならず、交通事故被害者関係機関の間でもネットワークが充実することは、単純にこの数を見ただけでも、できるだけ早期に実現するようにすることが望ましいといえるだろう。

 では、具体的に交通事故に遭った被害者(及びその遺族)に対して、どのような支援が行われるだろうか。(以下、『犯罪被害者救急マニュアル』第二東京弁護士会犯罪被害者支援センター運営委員会、2002年、24頁以下より)
 基本的には、犯罪の被害に遭ったケースと同様の支援が行われる。まずは、被害者や遺族と応対する専門の警察官が、被害者の下に駆けつけ、捜査の手順や刑事手続を説明したり、被害者の家族や職場などに連絡をとったりする。被害者が亡くなった場合には、葬儀の手配などのために、警察署の被害者支援のネットワークを利用することもできる。(このネットワークは、地域の医師、弁護士、会計士、福祉事務所、不動産会社、葬儀会社、警備会社が加入しているというが、地域によってその構成は異なるという。)それから直接的支援、カウンセリング、被害者への通知、裁判傍聴の付き添い、法廷での意見陳述にも、民間の支援団体や、地元の福祉事務所、精神保健福祉センター、検察庁の被害者支援員、弁護士会などが活動している。また交通事故の特徴として、ほとんどの場合に損害保険会社が関与してくる。被害者の示談交渉になると、加害者に代わって任意保険会社の担当者が行い、加害者や加害者の家族などまったく顔を見せないことも多いようである。こうした場合には、被害者の傷ついた心は一層打撃を受けかねない。精神的なケアについては、いつ、どんなときでも対応できるようにしておきたいものである。
 以上のような様々な支援活動が、事故が起きたあとの一連の経過から浮かび上がってくる。しかし、先に指摘されたように、地域的なばらつきが見られるということになると、個々の事件により対応も異なる場合もあるだろう。こうした事故にともない被害者が遭遇する状況を断片的でなく、全体として各団体が把握し、互いの連携を密にしておくことが肝要だ、ということになる。

 ここで、交通事故の被害者・遺族に対する調査を見てみることとする(『平成14年度 交通事故の被害者に関する調査研究報告書』、内閣府政策統括官 交通安全対策担当、2003年、P.6〜より)。

「被害者らが相談に赴いた窓口」「さらにこれから相談したい窓口」
1.都道府県の交通事故相談所1.都道府県の交通事故相談所
2.市町村の交通事故相談所2.警察の相談所
3.警察の相談所3.市町村の交通事故相談所
4.自動車事故政策センター

 一方、これまで相談したかどうかにかかわらず、これから相談したい相談窓口は、

1.日弁連交通事故相談センター
2.交通事故紛争処理センター
3.警察の相談所
4.市町村の交通事故相談所

 その他の相談窓口としては、都道府県交通安全活動推進センター、法律扶助協会、法務省の人権相談、被害者の会や遺族の会など、民間の被害者支援組織、その他、である。
 このような数字をどう解釈するかは単純ではない。しかし、事件後間もない被害者にとって、(裁判等を含む)事故処理について直面しなければならないことに、できるだけ多くの情報を得たいという気持ちがあることは否定できない。そうなれば、各都道府県や市町村の相談所が上位に位置するのは推測できることである。また、上記のような窓口が上位の理由としては、警察との連携ができているか、という点も考慮されるべきであろう。民間の支援組織が上位でないのも、現時点で全都道府県に支援機関が出来ているわけではないし、各組織によって活動内容も様々である。ある一定の人員や活動内容を備えてはじめて、警察との連携も可能となることも考えなければならない。
 それゆえ、数字が高くないからといって、民間の被害者支援組織やその会などについて軽視することはできない。被害者にとってまず否応なく直面する事故後の処理・手続とは別に、心のケアを中心に対応する民間組織は、明らかに役割が異なるのである。今後の展開を考えれば、上記に掲げる各窓口の連携が進めば進むほど、数の変化の可能性も高まるだろう。(『交通事故の被害者に関する調査研究報告書』内閣府政策統括官(総合企画調整担当)交通安全対策担当、2002年、P.10参照)

 ところで、交通事故被害者による講演活動は、被害者支援というよりは、加害者に犯した事故の重みを理解してもらう、被害者を一人でも少なくしようとする、という趣旨で、意義深いものがあるという。講演活動は、交通安全関係団体や、交通刑務所などの主催となるが、啓蒙活動として効果が高い。こうした活動がますます行われるようになるためにも、さまざまな団体のネットワークの充実がかぎとなるだろう。

 「平成14年度 交通事故の被害者に関する調査研究報告書」で紹介されている民間の被害者の会・遺族の会・自助グループは、次のものである。(2003年10月3日の被害者支援ネットワークによる中央大会の参加団体と重複しているものもある。)

全国交通事故遺族の会
被害者自助グループ「小さな家」
JVAR Japan Victim Assistance Ring
TAV 交通死被害者の会
交通事故、不慮の遺族の会
北海道交通事故被害者の会
全国犯罪被害者の会(あすの会)
犯罪被害者自助グループ「緒あしす」
自助グループ「一歩の会」
犯罪被害者きょうだいの会 B & S
特定非営利活動法人 犯罪被害者支援の会 appui(アピュイ)

(2)交通事故被害者支援におけるネットワーク化の具体例

 交通事故に遭った被害者・遺族(及び後遺症者)の関係の活動は、その活動内容によってさまざまなものが考えられる。広報活動中心のグループ、政策改善・変更を求めるグループ、ネットワーク活動の支援団体、精神的ケア中心のグループ、経済的支援を目指すもの、そして自助グループがある。また単独で活動するものもある。それぞれの趣旨に基づく活動が全国各地で行われたり、相互にネットワークを築いているものもあるだろう。
 ここでは、交通事故被害者遺族鈴木共子さんへの支援活動の一例を紹介し、具体的な動きを追うこととする。

「交通事故被害者遺族への支援」

支援を受けた感想
 「支援の時期は早ければ早いほどその意味が深まります。私が都民センターの支援を受けていなかったら署名活動はしていませんでしたし、今の私もありません。まだ意味を飲み込めていない時から、これから起きるであろう様々なことを教えてくださり、専門的アドバイスや精神的ケアを受けられたことは、息子の死を無駄にしないと行動を起こす大きな原動力になりました。危機介入という実践型の支援は、支援する側からのはたらきかけは最初の場合が多いものです。しかし、被害直後の被害者は何が何だか分からない状態に置かれています。そんな時、支援の手を差し伸べられても素直に受け入れられないかもしれません。被害者が支援センターの存在を知っていれば、その反応は違ってくるでしょう。支援を受け入れるか否かは被害者一人一人違います。たとえ拒絶され無視されたとしてもあなたを見守っているという確かなサインを、手紙やFAXで被害者の心が開かれるまで送り続けてください。」

 このように、被害直後から、相互に協力する体制が整っていれば、適切な支援を受けることが可能であり、関係機関や社会や周囲から2次被害、3次被害を受けることが少なくなるし、被害者であっても、人の目を気にせず被害体験を活かし社会改革をしたいと思えるようになる。
 被害者になったことで気づかされた社会の理不尽さや不平等さを、堂々と発言できそれを受け止める度量のある社会は、一人一人の人権が尊重される、次の世代が暮らしやすい、成熟した社会でもあると思う。


2.交通事故被害者自助グループの今後の課題

 次第にさまざまな被害者支援活動が拡大し、相互のネットワークが重視されていくことが必至であると思われる中で、自助グループの役割にも大きな期待が寄せられるだろう。自助グループは、他の支援活動とは異なる意義を有している。事故による被害者自身がこの自助グループの活動へ参加することを通じて、被害者本人の内面にさまざまな影響を与えられるからである。(『平成14年度 交通事故の被害者に関する調査研究報告書』内閣府政策統括官(総合企画調整担当)交通安全対策担当、2003年、P.48以下参照)世間的には、「自助」と聞いてもまだイメージがわかない人も大勢いるだろう。しかし、先に見たように、年間で8,000人弱の事故による死者が、そして100万人以上の負傷者が記録されている現実からも、多くの被害者・遺族の「声にならない叫び」が押し寄せてくるようである。被害者支援活動がこの分野に力を注ぐことは意義深いことだということは理解できる。

 しかし、その実態については、正確に把握されていない。各地で産声をあげた自助グループは、全国でいくつ存在するのか、具体的にはどのような内容の活動を行っているのか、活動のめざす方向性は妥当であるのか、などの点について総括しているような組織はないのである。例えば、都民センターでは、各自助グループとは、色々な事務連絡をとる程度のところがほとんどで、連携をとる段階には至っていないという。そのような中でも同センターと(社)いばらき被害者支援センターの各自助グループ間のネットワークはある。また別に、自助グループの連合体というものもあれば、個々の自助グループが他機関とネットワークを築いているものもある。このように、自助グループの活動はグループによって非常にさまざまなのである。順序としては、まず全国各地に自助グループを備える必要性がある。そして、各自助グループが独自の活動内容を求め、築いていくのと並行して、同じ趣旨のもとに作られたグループ同士が、互いの活動内容を報告し合い、今後の発展に向けて刺激し合っていくことが重要となる。この点については、「被害者の自助グループを育成するために、精神科医や心理関係者、弁護士等を公的機関が助言者として派遣してくれる人的・経済的支援制度が十分に行われることと、安心して被害者が集まれる場所の確保。グループ同士のネットワークと、研修制度があればより効果的なグループ活動が展開できる」(大久保恵美子「セルフヘルプグループの意義と役割」、『犯罪被害者に対する民間支援』2000年、P.204)ことが、すでに提言されている。今回の事業として、自助グループの立ち上げ支援が行われたことは、その一歩を踏み出したものといえるだろう。

 被害者・遺族は、自助グループを通じて、互いの経験を共有し合うだけではなく、心の内に閉じ込められていたものを少しずつ口に出していくことで、感情のコントロールが可能になる。さらに、自助グループのネットワークを実現すれば、その活動を通じて、社会へ反映させることで、亡くした者を活かしているという意義を実感することができるのである。他のグループ、他の機関とネットワークを持つことは重要である。自助の効果として、うつ傾向の改善、社会への信頼の回復、感情のコントロールがあることは、常に念頭においておくべきことである。

 自助グループを大きく2種類に分類すると、一つは民間の支援組織に付随するものと、独自の活動を行うものがある。それぞれの団体が、それぞれの趣旨の下に活動している、という状況が、ネットワーク機能がなかなか進んでいかない要因にもなっている。
 被害者・遺族、あるいは支援者が、一人でできることはどうしても限られてしまう。先に述べたように、個人を超えたネットワークの必要性は十分にある。では、ネットワークにはどのようなモデルが考えられるか、というと、民間の支援組織に付随するもの、付随する者同士のネットワーク、例えば東京や水戸などで、それぞれの地域に複数ある自助グループ間のネットワーク、独自に活動しているもの(行政に関わっていないもの)もある。実際に、これらすべてを視野に入れるのは困難である。そこで独自に活動するものは、まずはネットワークの対象から除くことになるだろう。
 ネットワーク形成に向けて、まずは、民間の支援組織に付随する、あるいは連絡のとれる自助グループを対象にして進めていくことになる。

 交通事故のネットワークについて今後の方向性を考えるならば、まず年間を通じて活動一般を統括する事務局の存在を確保されることが望ましい。(事務局については、新たに設ける、既存の団体の代表で作る、既存の団体で順番に担当する、など考えられる。)そして、各団体の代表による、定期での会合等を設ける必要があるだろう。
 活動内容としては、


3.海外における自助グループ活動の紹介

(1)アメリカ合衆国における自助グループの活動

1) はじめに‐被害者行動主義‐
 本報告書の「I 総論」やその他の部分において既に詳しく説明されている通り、自助グループの活動の本質は、被害者自身が自ら積極的に、被害回復を含むさまざまな課題の解決に関わることである。このような「行動する被害者」による積極的な関わりを、「被害者行動主義」(Victim Activism)と呼ぶことができよう。
 この「被害者行動主義」に基づく活動の中心は、本研究の課題である自助グループ活動であるが、それのみに止まらない。被害者による他の被害者への支援活動、「被害者の権利」確立のための活動(Victims' Rights Advocacy)、被害防止活動への参加なども、この「被害者行動主義」に基づく活動である。今後の被害者支援活動のあり方を考える場合、この「被害者行動主義」を積極的に取り上げ、正当に評価することが必要であると思われる。しかしながら、この「被害者行動主義」の全体について論じた文献(1)は、それほど多く無いように思われる。そのような状況の中で、以下に掲げる文献はこれを正面から論じた数少ない文献であり、きわめて有意義であると思われる。文献全体にわたって紹介する紙幅がないので、この「被害者行動主義」を正しく発展させるために、なされるべき具体的な方策について論じている部分を中心に紹介することとする。

2) 『苦痛から力へ』
 ここで紹介するのは、アメリカ合衆国司法省司法政策局犯罪被害者対策室『苦痛から力へ‐行動する犯罪被害者』1998年(2)である。本書は連邦政府の「犯罪被害者対策室」の研究費により、アメリカ合衆国最大の被害者支援機関であるVictim Services(3)によって書かれたものであり、本書の注に示されているようにアメリカ合衆国司法省の公式見解を示したものではない。

(1)冨田信穗「飲酒運転追放に向けた民間団体の取り組み‐MADD(アメリカ)の活動を中心に‐」、『人と車』(財団法人全日本交通安全協会)2001年10月号(2001年)は、この点につき、アメリカ合衆国とわが国の状況を論じている。
(2)U.S. Department of Justice, Office of Justice Programs, Office for Victims of Crime, FROM PAIN TO POWER: Crime Victims Take Action, September 1998
(3)Victim Servicesの活動の一部については、筆者による簡単な紹介がある。冨田信穗「アメリカ合衆国における犯罪被害少年に対する援助活動」全国少年補導員協会編『助けを求める少年達』(全少協少年研究叢書7)所収、社団法人全国少年補導員協会、1996年。なお、Victim Servicesは現在Safe Horizonと改名されている。また、本書の執筆に実際に携わったのは、Victim ServicesのLucy N. Friedman, Susan B. Tucker, Peter Nevilleの3名である。
なお、本書の内容は、アメリカ合衆国の被害者政策を理解するうえで不可欠とも言える、以下の文献に反映されている。
U.S. Department of Justice, Office of Justice Programs, Office for Victims of Crime, New Direction from the Field: Victims' Rights and Services for the 21st Century, May 1998.

3) 本書の構成
 既に述べたとおり、ここでは本書のうち「被害者行動主義」の発展のための具体的施策について紹介するが、本書の全体像を明らかにするために、以下に本書の目次を掲げることとする。なお、原著では章節の番号が付けられていないため、以下の番号はここでの便宜的なものである。

  1. はじめに 二つの事例
  2. 暴力事件による精神的外傷の与える大きな影響
  3. 1982年大統領特別委員会報告書以後の被害者の地域社会への関わり
  4. 犯罪の与える影響
  5. 被害者の地域社会への関わりの利点
        自尊心の再構築
        孤立感の軽減
        無力感の克服
        不安および怒りの克服
  6. 被害者の地域社会への関わりの具体例
        被害者支援
        被害者の権利の主張および擁護
        暴力犯罪の防止
  7. 被害者行動主義が注意すべき点
  8. 被害者の地域社会への関わりの障害となるもの
  9. 被害者行動主義に関する勧告
        被害者支援機関に対する勧告
        政府に対する勧告
  10. 結論
  11. 付録:被害者の行動への関わり
        「飲酒運転に反対する母親たち」(MADD)
        「殺害された子どもの親たち」(POMC)
        「世界の人々の目を現実に向けさせる人々」(P.O.W.E.R.)
        「飲酒運転者を無くせ」(RID)

4) 初期の「被害者行動主義」
 「1. はじめに 二つの事例」においては、まず、1985年に23歳の息子をニューヨーク市において射殺された事件の父親(Ralph Hubbard)が、自助グループを組織し、さらには暴力犯罪防止運動に関わってゆく事例が紹介され、その父親の、何ら強制されて行動したのでは無く、「自分にとって必要なことだから行なうものであり、自分の治療に役立つものなのだ」という言葉が引用される。次に1993年のロングアイランド鉄道における大量殺人事件の遺族が、その後暴力犯罪の防止運動に大きく関わった事例につき、「私は今や急進主義者である。私は我々全ての人々の安全のために急進主義者なのである」という言葉が紹介される。
 「2. 暴力事件による精神的外傷の与える大きな影響」においては、暴力犯罪の被害者の回復のためには、自ら行動することが重要であることが広く認識されるまでの経緯が紹介される。これに続き「3. 1982年大統領特別委員会報告書以後の被害者の地域社会への関わり」においては、この大統領特別委員会報告書が刊行された以後、各州の憲法において犯罪被害者の権利章典が制定されるようになり、この動きと共に被害者の行動も次第に活発になったと論じられる。(4)

5) 犯罪の与える影響とその回復
「4. 犯罪の与える影響」においては、暴力犯罪のみならず侵入窃盗などの被害者についてもその精神的影響は長期に亘り、被害者は自尊心の喪失、孤立感、無力感、不安や怒りの感情に直面することが論じられる。「5. 被害者の地域社会への関わりの利点」では、これらからの回復には、被害者が積極的に行動し、地域社会との関わりをもつことが有効であることが強調される。次いで、自助グループの活動が、自尊心の再構築、孤立感の軽減、無力感の克服、不安および怒りの克服などに役立つことが、具体例を交えて解説される。

6) 被害者の地域社会の関わりの具体例
「6. 被害者の地域社会への関わりの具体例」においては、犯罪被害者の地域社会への関わりは、アメリカ合衆国においてこの20年の間に地域レベルでも全国レベルでも大きく発展したと評価したうえで、その活動は、「被害者支援」、「被害者の権利の主張および擁護」、および「暴力犯罪の防止」の3種に分類できるとする。
 「被害者支援」は主として自助グループ活動であり、「子どもを殺された親たち」(POMC) などの活動がこれにあたるとする。「被害者の権利の主張および擁護」は、主として刑事手続きにおける被害者の法的地位向上を目指す活動であり、「ステファニー・ローパー財団」(5)や「飲酒運転に反対する母親たち」(MADD)の活動うち、これに該当するものの簡単な紹介がなされる。さらに、被害者自身の被害回復のみならず、広く犯罪の防止を目指す

(4)なお、この大統領特別委員会の果たした役割や犯罪被害者の権利章典については、以下の文献を参照のこと。
冨田信穗「アメリカ合衆国における犯罪被害者の保護」『慶應義塾大学法学部法律学科開設百年記念論文集(慶応法学会篇)』慶應義塾大学法学部1990年
冨田信穗「アメリカ合衆国における犯罪被害者補償制度」『警察学論集』第54巻第3号2001年
(5)「ステファニー・ローパー財団」 (Stephanie Roper Foundation)の活動は、現在は「メリーランド犯罪被害者資源活用センター」(Maryland Crime Victim Resource Center)に引き継がれている。この活動については、 http://stephanieroper.org/ を参照のこと。
「暴力犯罪の防止」のための活動も一般的なっていると指摘し、「世界の人々の目を現実に向けさせる人々」(P.O.W.E.R.)の活動などがこれにあたるとする。なお、以上の団体などの活動の詳細については、「11付録:被害者の行動への関わり」において紹介されている。

7) 被害者の地域社会への関わりをめぐる諸問題とそれへの対応
 「7. 被害者行動主義が注意すべき点」においては、被害者が地域社会の関わりを持つことの限界が論じられ、それが必ずしも全ての被害者の回復に有効ではなく、また一部の被害者にとっては深いと感じることもありうることが指摘される。さらに「8. 被害者の地域社会への関わりの障害となるもの」においては、いわゆる被害者の有責性を非難する傾向が社会に存在することなどにより、被害者の社会への関わりが阻害されることがあるが指摘され、この改善が必要であると論じられる。これを受けて「9. 被害者行動主義に関する勧告」では、「被害者行動主義」を推進するために、「被害者支援機関に対する勧告」および「政府に対する勧告」の二つの勧告が提案される。
 なお、「10. 結論」においては、被害者支援の発展のためには、被害者支援機関と「行動する被害者」との連携が必要である、との結論が示される。
 以下においては、この二つの勧告の全文を翻訳する。

被害者行動主義に関する勧告(6)

被害者支援機関に対する勧告

 犯罪被害者と直接の接触を持って一緒に行動することにより、被害者支援機関は、犯罪および暴力に関する広範囲の政治的および社会的状況を被害者に説明するために、役立ちうる立場を得ることができるのである。そしてまたそのことは被害者が行動する機会を提供するのにも役立ちうるのである。そのために、被害者支援機関は以下のことを行うべきである。

  1. 被害者が地域社会に対して行動することの意義を理解するように、また被害者が被害者支援機関の内外で活動する機会があることが重要であることを理解するように、職員を訓練する。
  2. 被害者支援機関の委員会活動や新しい支援サービスの開発などを通じて、被害者支援機関の運営に犯罪被害者にも参加してもらう。
  3. 犯罪被害者のニーズや権利、暴力の原因などについて、被害者が会議などで発言し、また議員、刑事司法関係者、警察、医療関係者、その他の人々と話し合うことができる機会を提供し、それを促進するために、講演委員会を作る。
  4. 警察、被害者支援機関およびその他の人々を対象とするDV講習会での発表者にDV被害女性を加える。
  5. 自助グループへの支援から支援活動の運営に関することなど、支援機関の活動のあらゆる場面において、有給職員あるいはボランティアとして被害者に積極的に携わってもらう。
  6. 活動している被害者が、メディアとの関わりをもつ仕事を出来るようにする。
  7. 被害者支援に関する地域的および全国的な団体を通じて、被害者行動主義の意義について知ってもらう。例えば全米被害者支援機構(NOVA)や全米被害者センター(NVC)は、被害者の関与を促進するための訓練および技術援助を提供している。
(6)これは、「From Pain to Power-Crime Victims Take Action」の25ページから28ページの翻訳である。

政府に対する勧告
 新たに制定された法律や刑事司法の改革が、個々の事件における被害者の関与を促進したと同時に、その他の公的機関においても、財政上の制約にもかかわらず、それぞれの地域において被害者が関与することのできる範囲を拡大するための能力を獲得することとなった。以下の勧告はほとんどあるいは全く新たな予算を必要とするものではない。むしろこれらは政策決定あるいは予算決定の優先順位の変更に焦点を合わせたものである。公的機関は以下のことを行なうべきである。

  1. 被害者に関係する政策の決定には、犯罪被害者に積極的に関与してもらう。被害者支援、被害者の権利および暴力の防止に関係する法律および政策に関する公聴会には被害者自身による証言を必ず含むものとする。
  2. 被害者に関わる仕事(例えば刑事司法、社会福祉、医療、法執行など)に関するすべての教育・訓練に関する専門的教科課程に被害者が関与することを必要条件とする。
  3. 補助金の交付に際しては、被害者の参加を考慮する。このことにより犯罪被害者が支援、権利擁護および暴力防止の役割に関わるような施策の開発を促進することになる。これらの施策の申請書には、被害者が顧問、計画者あるいは有給あるいはボランティアの職員として参加していなければならない。
  4. 被害者が関与できるために最も効果的であると思われる施策を開発するために、実際に効果を示せるような施策をまず開始することである。このためにの一つの方法はAmeriCorps(7)を利用することである。これを利用することにより、犯罪被害者が社会的な行動に参加できるように、若者が地域社会において活動することが可能になるのである。
  5. DV被害女性がより公然とそしてより活発に地域社会に関わることができるような機会を提供する。DV被害女性に力を与え、彼女たちの教育、職業訓練や就職を含む自己決定の感覚を強化するための支援サービスは、彼女たちが他者との交流を持つために必要とする技能と自信を与えることになる。彼女たちが無力であるという誤った先入観をくつがえすための一般人を対象とする教育活動は、自分のことを積極的に語る女性を社会に受容することを促進することになるのである。
  6. 地域社会に根ざした警察活動に犯罪被害者に参加してもらう。警察と警察が活動する地域社会との協力関係を作り出すことを目的として行なわれるここの試みは、犯罪を減少させ、困難な状況にある人を援助するために、被害者が警察と一緒に行動するための理想的な状況である。
  7. 一般人に対する教育(公共機関の発表、報道および娯楽メディア)を通じて、被害者支援および暴力防止の諸問題について、犯罪被害者と共に全ての市民が関与することを促進させる。被害者が地域社会に基礎を置いたさまざまな活動を始めたり参加したりするときには、被害者は自らが経験した不正義が社会全体に影響を与えていると理解しているために、そのように行動することがしばしばある。犯罪はあらゆる人に影響を与えるという広く行き渡っている考えは、被害者の関与を支持するような雰囲気を作り出し、被害者の落ち度を非難するというような一般的な傾向のような、被害者の社会における活動の妨げとなるものを減じることができるのである。
  8. 地域社会との関わりを持つことが被害者の回復に役立ちうることをより明確に証明できるような調査研究を助成する。この種の研究は、被害者支援機関が被害者団体との連携を確立し、被害者の関わりを促進することの必要性につき、その根拠を与えるものとなる。
(7)「AmeriCorps」(アメリコー)は、青少年の社会貢献活動を推進している大規模な団体である。1993年創設。上部団体は、Corporation for National and Community Service−「全国および地域奉仕活動団(定訳不明)である。
詳細については、http://www.americorps.org./を参照のこと。


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