特集 「高齢者に係る交通事故防止」
I 高齢者を取りまく現状

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I 高齢者を取りまく現状

1 高齢化の進展

(1)高齢化の進展

我が国では,急速に高齢化が進み,平成28年10月1日現在,65歳以上の人口は3,459万人となり,総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%と約4人に1人となっている。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば,今後,高齢化率は,総人口が減少する中で高齢者人口が増加することにより引き続き上昇し,48(2036)年には,33.3%と3人に1人となり,54(2042)年以降高齢者人口が減少に転じた後も上昇を続け,77(2065)年には38.4%に達すると推計されている(第1図)。

特集-第1図 高齢化の推移と将来推計
(2)高齢の運転免許保有者の増加

平成28年末の運転免許保有者数は約8,221万人で,27年末に比べ約6万人(0.1%)増加した。このうち,75歳以上の免許保有者数は約513万人(75歳以上の人口の約3人に1人) で,27年末に比べ約35万人(7.3%)増加し,今後も増加すると推計される(第2図)。

特集-第2図 75歳以上の運転免許保有者数の推移
(3)加齢に伴う高齢者の身体的特性

高齢者は加齢により,動体視力の低下や複数の情報を同時に処理することが苦手になったり,瞬時に判断する力が低下したりするなどの身体機能の変化により,ハンドルやブレーキ操作に遅れが出ることがあるなどの特性が見られる※ⅰ

また,加齢に伴う認知機能の低下も懸念されるところであり,警察庁によれば,平成28年に運転免許証の更新の際に認知機能検査を受けた75歳以上の高齢者約166万人のうち約5.1万人は認知機能が低下し認知症の恐れがある第1分類と判定されている。

※ⅰ 鈴木春男「高齢ドライバーに対する交通安全の動機づけ-交通社会学的視点-」 IATSS Review Vol.35.No.3,国際交通安全学会,pp194-202,平成23年2月

「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」及び同プランに基づく取組

厚生労働省では,平成24年9月に公表された「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)の着実な実施を図り,認知症施策を加速するため,27年1月に「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」(以下「総合戦略」という。)を関係府省庁と共同で策定した。また,策定・公表に当たって,認知症施策推進関係閣僚会合が開催され,総合戦略に基づき,関係府省庁が一丸となって認知症施策に取り組んでいくことが確認された。

総合戦略は,いわゆる団塊の世代が75歳以上となる37年を目指し,認知症の人の意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会を実現すべく,7つの柱に沿って,認知症施策を総合的に推進していくもので,29年度末等を当面の目標年度として,施策ごとの具体的な数値目標などを定めている。

具体的には,<1>認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進,<2>認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供,<3>若年性認知症施策の強化,<4>認知症の人の介護者への支援,<5>認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進,<6>認知症の予防法,診断法,治療法,リハビリテーションモデル,介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進,<7>認知症の人やその家族の視点の重視の7つの柱に沿って施策を推進している。

新オレンジプランの7つの柱

2 高齢歩行者等の交通死亡事故の特徴

(1)高齢歩行者等の死亡事故の発生状況

平成28年の交通事故死者数は3,904人(前年比-213人,-5.2%)で,昭和24年以来67年ぶりに4千人を下回った。人口10万人当たり死者数は,高齢者を含め全年齢層で減少傾向にあるものの,高齢者人口自体が増加しているため,死者全体のうち高齢者の占める割合は上昇傾向にあり,平成28年は過去最高の54.8%となった(第3図)。

特集-第3図 交通事故死者数及び人口10万人当たり交通事故死者数の推移(平成18~28年)
平成18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28年
高齢者の割合(%) 44.3 47.4 48.4 49.9 50.3 49.2 51.4 52.6 53.3 54.6 54.8

注 1  警察庁資料による。ただし,「10万人当たり死者数及び人口と事故死者数の関係(平成18~28年)」については,内閣府作成。
2  算出に用いた人口は,各前年の総務省統計資料「人口推計(各年10月1日現在)」(補間補正前人口)又は「国勢調査結果」による。以下同じ。
3  寄与度:ある項目の指数の変動が、総合指数の変化率にどの程度寄与したかを示したもの。

状態別(自動車乗車中,二輪車乗車中,自転車乗用中,歩行中)の死者について,高齢者の死者数及びその占める割合は,歩行中が1,003人(73.7%),自転車乗用中が342人(67.2%)と,他の状態(自動車乗車中643人(48.1%),二輪車乗車中142人(20.8%))と比較して高い水準にあり,高齢歩行者等が死亡する事故が多くなっている。

また,高齢者の歩行中死者,自転車乗用中死者のうち,死者数に占める法令違反ありの死者数の割合はそれぞれ約60%,約80%で推移しており,高齢者自身の法令違反が交通死亡事故の一因となっているものと考えられる(第4図)。

特集-第4図 歩行中・自転車乗用中死者(高齢者)の法令違反状況(違反率)の推移(平成18~28年)
(2)高齢歩行者等が死亡する交通事故の特徴とその要因

高齢歩行者等が死亡する交通事故を類型別にみると,歩行者は道路を横断中に車両と衝突する横断中死亡事故,自転車利用者は交差点において出会い頭に車両(自動車)と衝突する事故が,それぞれ多くなっている。その詳細についてみると,歩行者の横断中の事故については,交差点,単路のいずれにおいても,高齢者が高齢者以外より多く,また,夜間,左からの進行車両と衝突する事故が多く発生しており,特に高齢者の件数が多くなっている(第5図及び第6図)。また,自転車乗用中の事故についても,夜間に自転車が交差点直進中に左からの進行車両と衝突する交通死亡事故の割合が高く,その傾向は特に高齢者において顕著となっている(第5図及び第7図)。

特集-第5図 歩行者・自転車衝突死亡事故のイメージ図
特集-第6図 昼夜間別の横断中死亡事故の車両進行方向別件数(平成28年)
特集-第7図 昼夜間別の交差点出会い頭衝突事故における直進自転車に対する車両(自動車)進行方向比較(平成28年)

歩行者等が左からの進行車両と衝突する死亡事故が多いことについては,車両運転者が,右のフロントピラーが死角となることや,交差点等においては運転者が左方向から進行してくる車両に気を取られやすいこと等により,右から進行してくる歩行者等に気付くのが遅れること等も考えられる。

その上で,高齢歩行者等側の直前直後横断,横断歩道以外横断等が,高齢歩行者等が左からの進行車両と衝突する死亡事故が多い要因の一つとして考えられる。歩行者について,年齢層別に人口10万人当たりの横断中死者の法令違反内容を平成24年から28年の期間で見てみると,年齢が高くなるとともに法令違反が多くなり,特に高齢者では走行車両の直前直後横断,横断歩道以外横断等の法令違反によるものが多くなる傾向があり(第8図),自転車乗用中の交差点での出会い頭衝突事故についても同様に,年齢が高くなるとともに法令違反が多くなり,高齢者では一時不停止や信号無視等の法令違反によるものが多くなる傾向がある(第9図)ことから,加齢による身体機能の変化等のみられる高齢者がこれらの違反により事故に遭いやすいことが考えられる。

特集-第8図 人口10万人当たり横断中死者における歩行者の法令違反内容比較(平成24~28年合計)
特集-第9図 人口10万人当たり交差点出会い頭衝突事故における直進自転車の法令違反状況(平成24~28年合計)

3 高齢運転者による交通死亡事故の特徴

(1)高齢運転者による死亡事故の発生状況

75歳以上の運転者の死亡事故件数は,75歳未満の運転者と比較して,免許人口10万人当たりの件数が2倍以上多く発生している(第10図)。

特集-第10図 年齢層別免許人口10万人当たり死亡事故件数(原付以上第1当事者)(平成28年)

高齢運転者の特性については,年齢や体力,過去の経験等によって大きな個人差が認められるものの,一般的に,

  • 視力等が弱まることで周囲の状況に関する情報を得にくくなり,判断に適切さを欠くようになること
  • 反射神経が鈍くなること等によって,とっさの対応が遅れること
  • 体力の全体的な衰え等から,運転操作が不的確になったり,長時間にわたる運転継続が難しくなったりすること
  • 運転が自分本位になり,交通環境を客観的に把握することが難しくなること

などが挙げられており,これらの特性が,75歳以上の運転者が死亡事故を起こしやすい要因の一つになっているものと考えられる。

また,75歳以上の運転者による死亡事故について,件数自体は10年間ほぼ横ばいで推移しているものの,死亡事故件数全体が減少する中,全体に対する構成比は上昇傾向にあり,平成28年は全体の13.5%を占めている(第11図)。

特集-第11図 75歳以上の運転者による死亡事故件数及び割合(原付以上第1当事者)(平成18~28年)
(2)齢運転者による交通死亡事故の特徴とその要因

高齢運転者による交通死亡事故を類型別にみると,75歳以上の運転者による事故は,車両単独事故の割合が多くなっており,全体の40%を占めている。これは75歳未満の運転者による単独事故の割合(23%)と比べて高い割合を示しており,具体的類型としては,道路上を進行中,運転を誤って車線を逸脱し物件等に衝突するといった工作物衝突が最も多く発生している。一方,75歳未満の運転者では,人対車両による事故が相対的に多く,具体的には横断中の事故が多く発生している(第12図)。

特集-第12図 原付以上第1当事者の類型別死亡事故件数比較(平成28年)

また,高齢運転者による交通死亡事故の人的要因をみると,75歳以上の運転者はハンドル等の操作不適による事故が最も多く,次いで内在的前方不注意(漫然運転等),安全不確認の順に発生している。一方で,75歳未満の運転者では内在的前方不注意,安全不確認が比較的多く発生している。さらに,ハンドル等の操作不適による事故のうちブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故は,75歳未満では死亡事故全体の0.7%に過ぎないのに対し,75歳以上では5.9%と高い割合を示している(第13図)。

特集-第13図 原付以上第1当事者の死亡事故における人的要因比較(平成28年)

○高齢運転者による事故事例

平成28年11月,普通乗用車を運転する80歳代の男性が,栃木県下野市内の病院の駐車場においてブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み込んだことにより車両を暴走させ,ベンチに座っていた女性及び建物の支柱等に衝突した結果,女性1人が死亡し,女性2人が重軽傷を負った。

高齢運転者による事故事例
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