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4.イギリスにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング

4-1 障害者権利条約の実施と障害者政策に関する概況

(1)障害者権利条約の批准、実施、報告に関する概況

イギリスは2009年に障害者権利条約を批准し、これに基づいて各施策を行ってきた。2011年には国連に包括的な最初の報告を提出しており、当時の障害者権利条約の実施状況が報告されている。2014年秋には国連での報告審査が行われる予定である。

一方で、市民社会によるパラレル・レポートについては、まだ完成しておらず、作成に向けた議論が行われているところである。

(2)障害者政策の枠組み(法律、基本計画、障害者の定義等)

1) 障害者政策に関連する法律

 イギリスにおける中核的な差別禁止法で、障害者政策の基盤となっている法律が、2010年に制定された2010年平等法(Equality Act 20101である。

 2010年平等法は、それまで差別理由ごとに存在していた差別禁止法を整理し統合した法律であり、年齢、障害、性転換、婚姻及び市民的パートナーシップ、人種、宗教・信条、性別、性的指向を理由とする差別を禁止する法律である。同法では、直接差別(障害者に対し直接不利益な取扱いをする場合)だけでなく、間接差別(障害者に対し差別的な規定、基準又は慣行を適用する場合)、障害に起因する差別(障害者に対する扱いが適法な目的を達成するための均衡の取れた方法であることを証明できない場合)、調整義務を果たさないことによる差別、障害者に対するいやがらせ、報復的取扱い、違法行為の指示等を禁止している。また、同法では、障害者を不利に取り扱ったり、実質的に不利な立場に置くことになる場合、あるいは適切な補助的支援がなければ障害者が実質的に不利な立場に置かれる場合等について、障害者の雇用者等に対し、必要な調整措置を行う調整義務を課している2

 障害者権利条約の批准過程では、イギリス政府は既存の制度と障害者権利条約が合致するかを検討し、その結果、新規立法の必要はないとの判断を下した3。そのため、障害者権利条約を中心とした障害者政策に対する新規の立法は行われておらず、既存の法律を組み合わせることで、障害者権利条約の要求水準を満たしているとイギリス政府は考えているようである。

2) Fulfilling Potential Making It Happen

 イギリスの障害者政策に関する基本計画としては、障害者問題担当室(Office for Disability Issues:ODI)が作成している「Fulfilling Potential: Making It Happen 行動計画」が挙げられる。Fulfilling Potential: Making It Happen は、キャメロン政権が策定したイギリスの新しい障害者政策の基本戦略で、2013年7月に発表された。

 キャメロン政権は、2010年から新たな障害者戦略の策定プロセスを開始し、3年をかけてFulfilling Potential: Making It Happen を策定した。策定に当たり、その透明性を確保するため、段階的なアプローチ(phased approach)を採用している。各ステップ(図表4-1を参照)ごとに文書を公開しており、Fulfilling Potential: Making It Happen は「Fulfilling Potential」シリーズの第5番目の文書である。これらの文書を公開しながら、段階的なプロセスを経ることによって、障害者及び障害者団体など当事者の考え方が反映されるように配慮している。

 イギリス政府は、Fulfilling Potential の策定過程において、パートナーシップを重視しており、障害者者及び障害者団体といった当事者、更により広く社会の参加を呼び掛け、政府はその主体・提唱者(advocate)となると述べている4

 更に、Fulfilling Potential: Making It Happen では、Fulfilling Potential の策定過程において、様々な進展があったと述べられている。例えば、特別な教育ニーズのある子供のためのシステムを変更する「子供と家族法」(the Children and Families Bill)が2014年に裁可(Royal Assent)の見込みとなったり、2012年にはSupported Internshipプログラムが試験的に行われるなど、多くの成果を強調している。特に、Disability Action Alliance が設立され、良いパートナーシップの効果が表れていると述べている5

図表4-1 Fulfilling Potential Making It Happenの策定プロセス(図表4-1のテキスト版

Fulfilling Potential Making It Happenの策定プロセスを示すフローチャート

出典:Fulfilling Potential: Making It Happen p.9より作成

 Fulfilling Potential: Making It Happen は障害者権利条約批准後に策定された戦略であるため、障害者権利条約の実施を強く意識した内容となっている。Fulfilling Potential: Making It Happen の主な目的については、「障害者の独立した生活を支援すること(support disabled people to live independent lives)」「個人的なサービス(personalise services)」「より多くの選択と自己決定の提供(give more choice and control)」「社会全般における役割を果たす機会の向上(improve opportunities to work and play a full part in society)」であると述べられている6

 Fulfilling Potential: Making It Happen が示すビジョンの実現に向けて取るべき行動については、ディスカッションで得た情報や分析データを用いて、6つのハイレベルな戦略目標(six high level strategic outcomes)と指標を策定している。戦略目標は、教育、雇用、収入、健康と福祉、包容的なコミュニティ、選択と自己決定の6分野からなり、各分野の戦略目標をサポートするための指標が示されている。より詳細な行動計画は、「Fulfilling Potential: Making it Happen 行動計画」としてまとめられている。

 なお、Fulfilling Potential: Making It Happen に示された障害者政策の基本戦略とその実施モニタリングについては、障害者権利条約批准以前に策定された戦略との関連性が指摘できるが、これについては後述する。

3) 障害者の定義

 2010年平等法第6条の中で、障害者に関しては「身体的あるいは精神的な機能的障害を有し、通常の日常的な生活を送るために『かなりの』『長期的な』悪影響がある7」者と定義されている。また、過去に障害を有した者も障害者に含むとしている。

(3)政権交代による影響

 イギリスでは、2010年の総選挙の結果、労働党のブラウン政権から保守党のキャメロン政権への政権交代があった。この政権交代の前後で、障害者権利条約の国内実施の内容やプロセスには相当の変化が認められる。特に、予算配分については大きな変化が生じているようで、これに伴った関連組織の変化も見られる。これらの新たな体制や実施項目は2014年から始動するものも多く、今後さらなる概況の変化が予想される。


1 本法については http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2010/15/ を参照。
2 長谷川聡
3 現地調査報告Stephen Thrower氏インタビュー
4 Fulfilling Potential, paragraph1.5, p.3 (参考資料4-7
5 Fulfilling Potential, paragraph15.2 ,p.32-33 (参考資料4-7
6 Fulfilling Potential参照
7 https://www.gov.uk/definition-of-disability-under-equality-act-2010別ウィンドウで開きます

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