6-2 ハンガリーに関する総括所見以降の状況

(1) 審査プロセスの現状

 障害者権利委員会は、2012年9月に開催された第8会期において、ハンガリーの包括的な最初の報告に関する総括所見を採択し、10月22日に発表した。総括所見の中で障害者権利委員会は、採択された措置についての情報を書面で12か月以内に提出するように求め、ハンガリー政府は回答を障害者権利委員会に提出している。
 2017年2月から3月にかけて、市民社会などから複数の情報提供資料や事前質問事項の試案が障害者権利委員会に提出された。障害者権利委員会はこれらを参考に審査を進め、2017年3月の第17会期で2回目の事前質問事項をまとめる。これを踏まえて、ハンガリー政府は2017年8月の第18会期までに、2回目の政府報告を障害者権利委員会に提出する。

図表6-2 ハンガリーの報告書提出状況(図表6-2のテキスト版

(出所:障害者権利委員会サイト及び各資料より作成)

(2) 障害者権利委員会の総括所見及びハンガリー政府回答の主な論点

 ハンガリーの「簡略化された報告手続」は、2017年3月の段階では第1サイクルの総括所見に対するハンガリー政府の回答と、幾つかのNGOからの報告及び事前質問事項の提案が障害者権利委員会に提出されたところである。ここでは、第1サイクルの総括所見のポイントと、それに対するハンガリー政府の回答のポイントを示すこととする。

1)第1サイクルの総括所見145のポイント

 第5条 平等及び無差別
 障害者権利委員会は、ハンガリーには合理的配慮の欠如が差別になることを示す法律がなく、これを法律で規定するよう保証する措置を求めた。また、胎児の生命の保護に関する法律が、障害の可能性のある胎児の中絶を可能にすることを懸念し、障害のみを理由として妊娠中絶を認める規定を無効にするよう求めた。

 第6条 障害のある女子
 ハンガリーでは、男性と女性の社会的平等を推進する国家戦略が進められているが、総括所見では、同戦略の中で障害のある女性や女児の平等促進の取組が不足していると指摘し、障害のある女性や女児に対する複合的差別防止のための具体的措置をとること、障害に関する法律や政策に性別の観点を組み込むことを求めた。

 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
 ハンガリーにおける公共サービスのアクセシビリティ達成には期限が設けられているが、総括所見ではその期限が守られていないことや財政面の課題があることを指摘し、法定のアクセシビリティ障壁撤廃期限を遵守すること、資金提供と監視の仕組みを強化することを求めた。

 第12条 法律の前にひとしく認められる権利
 ハンガリーでは民法の改正が検討されており、その草案には支援付き意思決定の計画が盛り込まれている。総括所見はこれを歓迎する一方、修正された代理意思決定の制度も維持される可能性があると懸念を示した。また、新しい民法の立法手続が、支援付き意思決定の実現に必要な、可視化された枠組みの提供につながっていないとの懸念を示した。
 その上で障害者権利委員会は、民法改正の手続を効果的に活用し、障害者や障害者団体との協議・協力を進めること、公務員・裁判官などを含むすべての関係者に対し、支援付き意思決定の仕組みについての研修を提供することを勧告した。

 第19条 自立した生活及び地域社会への包容
 総括所見は、ハンガリーの脱施設化計画が30年の時間枠を設定したことに懸念を示した。また、ハンガリー政府が地域の支援サービス構築よりも障害者隔離につながる大規模施設建設に大きな資源を投入していることに懸念を示した。
 その上で、障害者権利委員会は、障害者が在宅・居住型施設及びその他の地域社会サービスを利用でき、自分の住居を選ぶ自由を享受できること、地域社会への包容のための合理的配慮を保証すること、地域における障害者支援サービス提供と小地域住居センターへの資金割り当ての見直し(強化)を求めた。

 第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
 第21条については、総括所見で取り上げられていない。

 第24条 教育
 総括所見では、手話・点字教育が行われていることを評価する一方、障害のある生徒の多くが特殊教育機関で教育を受けていることを遺憾とした。また、普通学校における合理的配慮やインクルーシブ教育を促進する措置が取られていないことに懸念を示した。
 その上で、障害者権利委員会は、インクルーシブ教育制度の開発に十分な資源を配分すること、障害のある子供への合理的配慮を提供すること、教員などへの研修を継続することなどを勧告した。また、特にロマ民族の問題を取り上げ、ロマ民族の障害のある子供の普通教育へのアクセスや支援の提供、親との協議の不足に深い懸念を表明し、ロマ民族の障害児が普通教育プログラムで学べることを保証するプログラムの開発を求めた。

 第33条 国内における実施及び監視
 総括所見は、ハンガリーが条約実施の監視の仕組みの整備に取り組んでいることは認めつつ、独立した仕組みである国家障害者委員会はパリ原則に従っておらず、条約第33条2項に従っていないと懸念を示した。その上で、障害者権利委員会は、パリ原則に従った独立した監視の仕組みの設置と、これらの枠組み及び手続に障害者団体の参加を保証するよう求めた。

2)総括所見に対するハンガリー政府の回答146のポイント

 ハンガリー政府は総括所見に対する回答を障害者権利委員会に提出したが、その内容は、一部の項目に限って回答を示したものである。本報告書で取り上げている項目の中では、第12条についてのみ、回答を示している。そのポイントを以下に示す。

 第12条 法律の前にひとしく認められる権利
 総括所見における指摘に対し、ハンガリー政府は、新しい民法で障害者の後見は廃止されるが、極めて限定的な条件下では、障害者の行為能力を完全に制限することがあるとしている。その対象は現行民法より大幅に狭め、後見の期間は無制限でなく、5年以内に義務的審査を受けるなど、現行制度から大幅な見直しとなることを強調している。
 また、支援付き意思決定の導入のため、2013年に新たな法案を提出したこと、新しい制度では支援者は被支援者に代わって決定してはならないこと、新制度の導入に当たって、すべての法定支援者に対し研修講座を提供することなどを報告している。

図表6-3 障害者権利委員会の総括所見とハンガリー政府回答の主要論点
項目 総括所見のポイント 総括所見に対する回答のポイント
第5条
平等及び無差別
  • 締約国の法律では合理的配慮の否定が差別になることを述べていないと懸念している。これを明確に法律で規定するよう保証するための措置を要請する。
 
  • 胎児の生命の保護に関する法律が、障害の可能性がある胎児の中絶を可能にしてしまうことを懸念している。障害のみを理由として妊娠中絶できる法の規定を無効にすることを勧告する。
 
第6条
障害のある女子
  • 男性と女性の社会的平等を推進する国家戦略において、障害のある女性や女児の平等促進のための具体的行動の不足を遺憾に思う。
 
  • 障害のある女性や女児に対する複合的な差別を防止するために効果的で具合的な措置を採択し、障害に関する法律や政策の中で性別の観点を組み入れるよう要請する。
 
第9条
施設及びサービス等の利用の容易さ
  • 締約国が国・地方の公共サービスのアクセシビリティ達成の期限を設け、予算を割り当てたことに感謝する。しかし、期限が守られていないこと、監督官庁の財政的な課題を懸念している。
 
  • 定められた期限を延期することなく、法令や政策に組み込まれた、アクセシビリティ障壁の撤廃期限を遵守する取組を求める。締約国が十分な資金を提供し続け、監視の仕組みをさらに強化することを求める。
 
第12条
法律の前にひとしく認められる権利
  • 新たな民法草案における、支援付き意思決定を認めるための一連の計画を歓迎する。しかし新たな民法草案において、修正された代理意思決定の制度が維持される可能性について懸念する。また新民法の立案手続が条約第12条の規定に則った、支援付き意思決定を実現する詳細かつ可視化された枠組みの提供に利用されていないことを懸念する。
  • 行為能力は裁判所の決定によってのみ完全にまたは部分的に制限される。
  • 新民法は行為能力を排除する後見を廃止しているが、極めて限定的な条件下では行為能力を完全に制限する機会を与えている。現行民法よりも対象領域を狭め、裁判官による慎重な検討により最後の手段としてのみ適用される。
  • 後見の期間は無制限ではなく、5年以内に審査を受けねばならない。義務的審査に例外を認めない点は、現行法からの重要な相違点である。
  • 代理意思決定から支援付き意思決定への移行を視野に、後見からの脱却を迅速に進めるため、締約国が現在の民法及び関連法の審査手続を効果的に活用することを勧告する。さらに、障害者及び彼らを代表する組織との協議・協力の上で、公務員、裁判官、ソーシャルワーカーを含むあらゆる関係者に向けて、障害者の行為能力の認識と支援付き意思決定の仕組みについての研修を提供することを勧告する。
  • 支援付き意思決定に関する新たな法制度を導入するために、別の新たな法律を可決する必要がある。法案は2013年9月に提出された。
  • 法案では、支援者は行政・民事・刑事上の手続のすべての段階に立ち会い、支援対象者と問題について議論しなければならない。支援者は被支援者に代わって決定してはならない。
  • 新しい法制度の導入に当たって、すべての法定支援者に対して研修講座が提供される。
第19条
自立した生活及び地域社会への包容
  • 締約国が、脱施設化計画に30年の時間枠を設定したことに懸念を表明する。さらに、締約国が地域社会に基づく支援サービスネットワーク構築のために配分した資源と比較して、不均衡に大量の資源を、引き続き障害者を隔離することにつながる大規模な施設の再建設のために投入していることを懸念する。締約国が地域社会に十分かつ適切な支援サービスを提供していないことを懸念する。
 
  • 障害者が個別支援も含めた日常生活におけるすべての範囲の在宅、居住型施設及びその他の地域社会サービスが利用できるなど、他者との平等を基礎として自分の住居を選ぶ自由を享受し、地域社会への包容を支援するために合理的配慮の享受を保証するよう締約国に求める。
 
  • 締約国に対し、障害者のための支援サービスの提供と小地域住居センターに使われる資金の割り当てを再審査すること、条約第19条の規定を完全に遵守することを保証するよう求める。
 
第24条
教育
  • 障害のある学生が、手話と点字を利用し学習する機会を得ていることに感謝する。しかし、障害のある学生の多くが特殊教育施設に通い続けていることを遺憾に思う。さらに、締約国が普通教育施設に通う障害のある学生に対する合理的配慮の提供、インクルーシブ教育制度を構築し促進する措置をとっていないことに懸念を示す。
 
  • 障害のある児童のためのインクルーシブ教育制度の開発に十分な資源を配分するよう、締約国に求める。締約国が、学生の個別のニーズに基づいて障害のある子供に合理的配慮を提供すること、通常の教育制度の中で要求される支援を障害のある学生に提供すること、教員や他の教職員がインクルーシブ教育の環境で働くことができるよう研修を継続することについて、努力を大幅に増やすことを勧告する。
 
  • ロマ民族の障害のある子供が普通教育にアクセスすることを保証するための社会的プログラムの不足と、彼らが教育を受ける権利を満たすための支援について彼らやその親との十分な協議が行われていないことを深く懸念する。ロマ民族の障害のある子供が、普通教育プログラムで学べることを保証するプログラムを開発するよう締約国に要請する。
 
第33条
国内における実施及び監視
  • 条約実施の監視の仕組みを整備しようとする締約国の取組にもかかわらず、独立した監視の仕組みとして機能するよう指定された国家障害者委員会がパリ原則に従っていないため、条約第33条2項に従っていないことを懸念する。
 
  • 委員会は締約国に対し、パリ原則及び条約第33条2項に従って独立した監視の仕組みを設置するよう求める。また、監視手続と枠組みにおいて、市民社会、特に障害者団体の完全な参加を保証するよう求める。
 

145 CRPD/C/HUN/CO/1
146 CRPD/C/HUN/CO/1/Add.1

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