第1章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり 第3節 3
第3節 東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした取組
3.ユニバーサルデザインの加速に向けた取組状況
この行動計画をもとに、関係省庁等が共生社会の実現に向けた諸施策を推進する中、2018年12月に「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議(第3回)」を開催し、レガシーとしての共生社会の実現に向け、施策の更なる進展を図り、取組の加速化を確認した。また、障害のある人の視点を施策に反映させる枠組みとして、構成員の過半を障害当事者又はその支援団体が占める「ユニバーサルデザイン2020評価会議」(以下「評価会議」という。)を設置・開催した。
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第3回関係閣僚会議
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ユニバーサルデザイン2020評価会議(第1回)
評価会議は2019年末までに計3回実施されており、構成員の意見を踏まえ、以下のとおり改善が図られている。
(1)共生社会ホストタウンのレガシー化
・パラリンピック選手との交流を契機にユニバーサルデザインの街づくりと心のバリアフリーを推進し、共生社会の実現を目指す「共生社会ホストタウン」の取組が2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)のレガシーになるよう、国土交通省において「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)のマスタープラン・基本構想制度における心のバリアフリーの取組を強化し、共生社会ホストタウンの取組を「バリアフリー法」の中に取り込むバリアフリー法改正案を2020年通常国会に提出し、同年5月に成立した。
(2)ホテルや飲食店のバリアフリー化の推進
・東京2020大会期間中に我が国に来訪する障害者やパラリンピアンが、宿泊や飲食を満喫できる環境をスピード感をもって整備するため、宿泊施設や施設内の飲食店のバリアフリー改修を補助金で支援。
・国は、一定規模以上のホテル又は旅館の建築等を行う場合、2019年9月から、当該建築等を行う客室総数の1%以上のバリアフリー客室の設置を義務化(既存客室は補助金で支援)。
・東京都は、2019年9月から、一般客室についても一定水準(浴室・トイレのドア幅70cm、段差解消等)のバリアフリー化を義務化。さらに、誘導水準(同75cm)を推奨基準化(推奨基準を達成する場合に補助金を嵩上げ(9割)するとともに、容積率規制を緩和)。
(3)障害者割引の利用者利便の改善
・公共交通機関の障害者割引について、2019年3月に障害者手帳の提示以外の電子的な方法等による本人確認が可能であることを明確化したことを踏まえ、一部交通事業者が障害者手帳に代わるスマートフォンを利用した電子的な本人確認手続きを導入。
・障害者手帳の提示以外の本人確認について、スマートフォンやインターネットによる障害者割引の活用促進を目指し、マイナンバーカードを活用した電子的な確認方法の技術基準を2020年に策定予定。
・2018年10月から、各航空会社において、航空旅客運賃の障害者割引の対象者として、精神障害者を加えるよう、順次拡大。未導入の公共交通事業者に対して割引制度を導入するよう要請。
(4)バリアフリーマップ等の整備・充実
<鉄道駅のバリアフリーマップの整備充実>
・2019年10月、「公共交通機関の旅客施設・車両等に関するバリアフリー整備ガイドライン」(以下「バリアフリー整備ガイドライン」という。)を改訂し、車椅子使用者の単独乗降と列車走行の安全確保を両立する鉄道駅のプラットホームと車両乗降口の段差・隙間の目安値等について明確化。
・大会の競技会場へのアクセシブルルートとなる駅や途中の乗り換えに利用される駅など首都圏の主要駅において、大会に向けて対応可能な駅やプラットホームを選定し、単独乗降がしやすくなるよう整備を進める。
・2019年12月、東京都心部の単独乗降しやすい鉄道駅情報をマップ化し、インターネットによる公共交通のバリアフリー経路案内(らくらくおでかけネット)において公表。
・らくらくおでかけネットについて、視覚障害者向けの読み上げ対応や外国語対応が可能になるよう改良。
<視聴覚障害者等に配慮したウェブサイトによる情報提供>
・公共交通事業者による視聴覚障害者等に配慮したウェブアクセシビリティを確保すべく、バリアフリー整備ガイドラインを改訂。
<電話リレーサービスに係る制度整備>
・手話、文字を利用して電話を介した意思疎通を可能とする「公共インフラとしての電話リレーサービス」の実現に向けて、関係者による会議体を設置し、2019年12月に報告書を公表。
・同報告書を踏まえ、2020年通常国会に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律案」を提出、同年6月に成立。
(5)心のバリアフリーの拡大・向上
・全ての子供たちへの「心のバリアフリー」教育を実施するため、小学校で2020年度から、中学校で2021年度から全面実施される新たな学習指導要領において、「心のバリアフリー」教育を充実させるとともに、パラリンピック教育を実施し、機運の盛り上げを推進。
・「教育職員免許法施行規則」(昭和29年文部省令第26号)を改正し、2019年4月以降の新たな教員養成課程では、「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」の科目の一単位以上の履修を義務付け。
・大学において、障害のある学生が円滑に修学できるよう、先進的な取組を行ってきた東京大学と京都大学での取組の成果を共有・活用し、他の大学に展開。
・障害のある学生が卒業後に社会で活躍できるよう、「共生社会の実現」の観点も踏まえ就労支援を含めサポートの強化を検討。
(6)ユニバーサルデザインタクシーの改善
・ユニバーサルデザインタクシーの多くを占める車種を改良し、車椅子の乗降時間を約3~4分に短縮。既販車についても2019年8月までに改修を概ね完了。
・上記車種に車椅子が乗車する際のスロープの耐荷重を200kgから300kgに引き上げる改良を行い2020年1月より販売。
・ユニバーサルデザインタクシー車体補助の条件として、実車を用いた接遇改善研修を義務化。
・地方運輸局等において、接遇が優良な運転者に対して表彰する取組を実施。
・主要な施設の乗り場に常設スロープの設置を推進し、迅速な乗降を実現。
・ユニバーサルデザインタクシーや福祉車両の配車体制の構築に向けた実証実験を2019年度内に実施。ニーズに応じた円滑な配車が可能となるよう、車椅子情報のデータベース化や当該データの閲覧を可能とするため、関係者と調整を図る。
・ユニバーサルデザインタクシーの普及を加速し、東京23区内のユニバーサルデザインタクシーの割合を2020年夏までに25%にすることを目指す。
「案内用図記号(JIS Z8210)」はピクトグラムとも呼ばれ、言語ではなく目で見ただけで案内が可能となることから、多くの公共交通機関や公共施設等で広く使われている。本規格は、2002年に開催されたサッカー日韓ワールドカップを契機に、日本人だけでなく外国人観光客の円滑な移動誘導を目的とし、理解度・視認性テスト等を経て経済産業省が制定した。
また、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)では、より多くの外国人観光客の来日が見込まれることから、あらゆる人にとってより分かりやすい案内用図記号とするため、JIS Z8210原案作成委員会において、関係省庁、観光業界、障害者団体等の幅広い関係者を含め検討を重ね、2017年7月20日にJIS Z8210を改正した。具体的な改正内容は、既存の図記号についてISO規格との整合化を図るとともに、ヘルプマークなど新たに図記号を追加した。
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国際規格(ISO)への整合(例)
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新しい図記号の追加(例)
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公共交通機関などの優先席などに掲示し周囲の配慮を求める事例(右図参照)
2017年以降の改正については、以下の通り。
(1)トイレ関連図記号の追加(2019年2月20日)
訪日外国人の大半が、外出先で洋風便器や温水洗浄便座の付いたトイレを選択する傾向にある。今後増加が見込まれる訪日外国人観光客をはじめ、全てのトイレ利用者に向け、利用したいトイレをわかりやすく案内する図記号の必要性が高まっており、関係者の意見等を踏まえ、「洋風便器」、「和風便器」及び「温水洗浄便座」の案内用図記号を追加した。
(2)AED、加熱式たばこ専用喫煙室の追加(2019年7月22日)
わが国ではAED(自動体外式除細動器)を表す統一的なピクトグラムが存在しておらず、人命救助の観点からも、緊急時にすぐに理解できる統一的なピクトグラムが必要とされたため、AEDの設置場所を表示する案内用図記号を追加することとした。
また、2018年7月25日に公布された「健康増進法の一部を改正する法律」(平成30年法律第78号)において、2020年4月1日以降、施設の類型や場所ごとに喫煙室への標識の掲示が義務付けられることとなった。そのため、標識に用いる加熱式たばこ専用喫煙室のピクトグラムの利用促進のために、「健康増進法」(平成14年法律第103号)の規定に基づく「健康増進法の一部を改正する法律の施行について(受動喫煙対策)」(平成31年2月22日厚生労働省健康局長通知)に記載されている「加熱式たばこ専用喫煙室」の案内用図記号を追加した。
東京パラリンピック競技大会を契機に、レガシーとして共生社会を実現することが重要である。このため、政府レベルの取組としては、2017年2月に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を策定し、障害のある人の視点を施策に反映させる枠組みとして「ユニバーサルデザイン2020評価会議」を設置して更なる施策の改善に取り組んでいる。
この行動計画に基づく取組とあわせて、ユニバーサルデザインへの自立的なきめ細かい取組を促すため、パラリンピアンの受入れを契機に、全国各地における共生社会の実現に向けた取組を加速し、大会以降につなげていく「共生社会ホストタウン」制度を2017年11月に創設した。2020年6月末現在92件(96自治体)※が登録されている。
※共生社会ホストタウン登録済み自治体(2020年6月末現在)
北海道札幌市、北海道釧路市、北海道滝川市、北海道登別市、青森県弘前市、青森県三沢市、岩手県遠野市、岩手県陸前高田市、宮城県仙台市、宮城県登米市、宮城県加美町、秋田県能代市、秋田県大館市、秋田県仙北市、山形県鶴岡市、山形県酒田市、山形県東根市、福島県福島市、福島県猪苗代町、茨城県潮来市、群馬県渋川市、群馬県富岡市、群馬県みどり市、埼玉県北本市、埼玉県富士見市、埼玉県三芳町、千葉県成田市、千葉県柏市、千葉県浦安市、東京都世田谷区、東京都練馬区、東京都足立区、東京都江戸川区、東京都武蔵野市、東京都町田市、東京都国分寺市、東京都西東京市、神奈川県横浜市、神奈川県川崎市、神奈川県平塚市・神奈川県、神奈川県藤沢市・神奈川県、神奈川県小田原市・神奈川県、神奈川県厚木市、神奈川県大磯町・神奈川県、神奈川県箱根町・神奈川県、新潟県長岡市、石川県金沢市、石川県小松市、石川県志賀町、福井県福井市、山梨県山梨市、山梨県富士河口湖町、岐阜県岐阜市・岐阜県、岐阜県岐阜市、静岡県静岡市、静岡県浜松市、静岡県焼津市、静岡県伊豆の国市、愛知県豊橋市、三重県伊勢市、三重県鈴鹿市、三重県志摩市、滋賀県守山市、滋賀県甲賀市、大阪府池田市、大阪府守口市、大阪府大東市、兵庫県神戸市、兵庫県明石市、兵庫県加古川市、兵庫県三木市、奈良県大和郡山市、鳥取県鳥取市・鳥取県、島根県益田市、島根県邑南町、岡山県岡山市、岡山県真庭市、山口県宇部市、徳島県鳴門市・徳島県、香川県高松市、愛媛県松山市・愛媛県、福岡県北九州市、福岡県飯塚市、福岡県田川市、福岡県築上町、長崎県島原市、大分県大分市、大分県別府市、大分県中津市、大分県佐伯市、宮崎県宮崎市、鹿児島県龍郷町(92件・96自治体)
共生社会ホストタウンの取組は、以下の二つの柱から構成される。
○共生社会の実現に向けた取組
障害のある海外の選手たちを迎えることをきっかけに、ユニバーサルデザインの街づくり及び心のバリアフリーに向けた、自治体ならではの特色ある総合的な取組を実施。大会のレガシーにもつなげていく。
○パラリンピアンとの交流
東京パラリンピック競技大会直後の交流も含め、幅広い形でのパラリンピアンとの交流を通じ、パラリンピックに向けた機運を醸成すると共に、住民がパラアスリートたちと直に接することで、住民の意識を変えていく。
また、共生社会ホストタウンのうち、他の共生社会ホストタウンのモデルとなる自治体を「先導的共生社会ホストタウン」として認定する制度を2019年5月に新たに創設し、パラリンピアンとの交流やホテル・公共交通機関のバリアフリー改修支援などについて国が重点的に支援することとした。
※先導的共生社会ホストタウン(2020年6月末現在)
青森県三沢市、岩手県遠野市、福島県福島市、東京都世田谷区、東京都江戸川区、神奈川県川崎市、静岡県浜松市、兵庫県神戸市、兵庫県明石市、山口県宇部市、福岡県飯塚市、福岡県田川市、大分県大分市(13件・13自治体)
<取組例>
○オランダのパラリンピック選手と交流。障害のある人のスポーツ相談窓口を設置し、その受け皿として東京パラリンピック22競技実施環境を整備、障害のある人が継続して通える複合型地域スポーツクラブを開設。(東京都江戸川区)
○英国のパラリンピック選手と交流。発達障害のある子供を対象に、国内初センサリールームによるサッカー観戦や連携企業による移動サポート、感覚過敏を疑似体験できるVR映像の作成等を実施。(神奈川県川崎市)
○共生社会ホストタウンの首長等が一堂に会する「共生社会ホストタウンサミットin飯塚」を開催し、共生社会ホストタウンの連携強化と取組の発信を実施。(福岡県飯塚市)
○日本国内で新型コロナウイルス感染症が拡大したことを受け、市で事前合宿を行ったタイのボッチャチームから「私たちと一緒に乗り越えましょう」という励ましの動画メッセージが贈られるなど、新型コロナウイルス流行下でもインターネット等を活用して交流を継続。(秋田県大館市)
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オランダパラ選手との交流(江戸川区)
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センサリールームでのサッカー観戦(川崎市)©J.league
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共生社会ホストタウンサミットin飯塚(飯塚市)
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インターネットを活用した交流(大館市)
今後とも、関連省庁等とも連携し、共生社会ホストタウンの取組を大会のレガシーとして継続していけるよう取り組んでいく。