第2章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1

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第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策

1.特別支援教育の充実

(1)特別支援教育の概要

障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。現在、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、「通級による指導」(※1)においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。特別支援教育は、発達障害も含めて、特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。

2019年5月1日現在、特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに小・中学校及び高等学校の通級による指導を受けている児童生徒の総数は約56万人となっており、増加傾向にある。なお、このうち義務教育段階の児童生徒については、義務教育段階の全児童生徒数の約5.0%に当たる約48万6千人である。

※1:通級による指導
小・中学校及び高等学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、ほとんどの授業(主として各教科などの指導)を通常の学級で行いながら、一部の授業について障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う指導形態。対象とする障害種は、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱。

図表2-1
特別支援学校等の児童生徒の増加の状況
資料:文部科学省

(2)多様な学びの場の整備

ア 特別支援教育に関する指導の充実

① 特別支援学校等における教育

障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導といった多様な学びの場が提供されている。2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始され、2018年度は45都道府県において実施、2019年度からは全都道府県において実施されている。また、障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。2019年5月1日現在、小学部1,247人、中学部754人、高等部822人の児童生徒が、この訪問教育を受けている。

2017年4月に新特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、2019年2月に新特別支援学校高等部学習指導要領を公示し、①重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性、②障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、③キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させた。また、新特別支援学校学習指導要領等の円滑な実施のため、学習指導要領の趣旨を踏まえた教育課程の編成や、一人一人の障害の状態等に応じた指導方法の改善・充実について、先導的な実践研究を実施した。

幼稚園、小・中学校及び高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。また、2018年8月には、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)を一部改正し、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒、小・中学校の特別支援学級の児童生徒及び小・中学校、高等学校において通級による指導を受けている児童生徒について、個別の教育支援計画を作成することとし、当該計画の作成に当たっては、当該児童生徒等又は保護者の意向を踏まえつつ、医療・福祉・保健・労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととしている。

② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実

特別支援学校の児童生徒にとっては、その障害の状態等によっては、一般に使用されている検定教科書が必ずしも適切ではない場合があり、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版の教科書、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)及び音楽の教科書、知的障害者用の国語、算数(数学)及び音楽の教科書を作成している。

なお、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。

また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※2)の普及を図っている。

具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、2019年度に使用された、小・中学校の学習指導要領に基づく検定教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、ほぼ全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。このほか、通常の検定教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げか所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材がボランティア団体等により製作されており、文部科学省においても必要な調査研究等を行うなど、その普及推進に努めている。

加えて、障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術(ICT)などの活用を進めることが重要であることから、企業・大学等が学校・教育委員会等と連携して行う、ICTを活用した教材など、児童生徒の障害の状態等に応じた使いやすい支援機器等教材の開発の支援を実施した。

さらには、近年の教育の情報化に伴い、2020年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、2018年に「学校教育法」(昭和22年法律第26号)等の改正等を行い、2019年度より、視覚障害や発達障害等の障害等により紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の困難を低減させる必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書(※3)を使用することができることとなった。

※2:教科用特定図書等
視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定教科書に代えて使用し得るもの。

※3:学習者用デジタル教科書
紙の教科書の内容の全部(電磁的に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。

③ 学級編制及び教職員定数

公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下「義務標準法」という。)及び「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」(昭和36年法律第188号)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。

・学級編制

1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。

・教職員定数

公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。

2011年4月の「義務標準法」の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。

また、2017年3月の「義務標準法」の一部改正により、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしている。この他、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、高等学校における通級による指導の制度化に伴い、2018年3月に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律施行令」(昭和37年政令第215号)を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。

④ 教員の専門性の確保

特別支援教育担当教員の養成は、現在、主として大学の特別支援教育関係の教職課程等において行われている。また、幼稚園、小・中学校及び高等学校の教員養成においても、2017年11月の「教育職員免許法施行規則」(昭和29年文部省令第26号)の改正により、教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目を必修化したところである。2019年4月から、中央教育審議会の審査に基づき、文部科学大臣の認定を受けた大学において新しい教職課程が始まっている。

また、教員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教員等に対する研修や講義配信を行っているほか、独立行政法人教職員支援機構(2017年4月に「独立行政法人教員研修センター」から名称変更)においても、各地域の中心的な役割を担う教員を育成する学校経営研修において、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。さらに、都道府県等教育委員会においては、小学校等の教師等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修においても、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。この他、放送大学において、現職教師を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。

また、教員免許更新制における免許状更新講習においても、必修領域の事項の一つである「子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)」の中で特別支援教育に関する内容を扱うことが規定されている。

⑤ 特別支援学校教諭免許状

2007年度より、従来、盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教諭の免許状が、特別支援学校の教諭の免許状に一本化されている。同時に、特別支援学校教諭免許状の取得のためには、様々な障害についての基礎的な知識・理解と同時に、特定の障害についての専門性を確保することとなっている。また、大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与することとしている。

ただし、特別支援学校教諭免許状については、「教育職員免許法」(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼稚園、小・中学校及び高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、専門性確保の観点から保有率を向上させることが必要である。

特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、全体で79.8%(2018年5月1日現在)であり、全体として前年度と比べ2.1ポイント増加しているが、特別支援教育に関する教師の専門性の向上が一層求められている中で、専門の免許状等の保有率の向上は喫緊の課題となっている。このため、各都道府県教育委員会等において教師の採用、配置、現職教師の特別支援学校教諭等免許状取得等の措置を総合的に講じていくことが必要であることから、文部科学省において、特別支援学校教諭等免許状の取得に資する取組を実施した。

/文部科学省
第2章第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
TOPICS
学習者用デジタル教科書の活用について

教育の情報化に対応し、2020年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、一定の基準の下で、必要に応じ、紙の教科書に代えて「学習者用デジタル教科書」を使用できることとする「学校教育法」(昭和22年法律第26号)等関係法令の改正が行われ、2019年度より施行された。

特に、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒については、文字の拡大や音声読み上げ等の機能により、教科書の内容へのアクセスが容易となり、効果的に学習を行うことができる場合には、教育課程の全部においても、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できることとなった。

今後、児童生徒向けの1人1台端末や高速大容量の通信ネットワーク等のICT環境の整備の進展とともに、学習者用デジタル教科書の更なる活用が見込まれる。

学習者用デジタル教科書のイメージ
学習者用デジタル教科書の制度化に関する法令の概要

例えば、以下のような活用方法により、教科書の内容へのアクセスが容易となることが期待される。

①文字の拡大、色やフォントの変更等により画面が見やすくなることで、一人一人の状況に応じて、教科書の内容を理解しやすくなる。

②音声読み上げ機能等を活用することで、教科書の内容を認識・理解しやすくなる。

③漢字にルビを振ることで、漢字が読めないことによるつまづきを避け、児童生徒の学習意欲を支える。

④教科書の紙面を拡大させたり、ページ番号の入力等により目的のページを容易に表示させたりすることで、教科書のどのページを見るかを児童生徒が混乱しないようにする。

⑤文字の拡大やページ送り、書き込み等を児童生徒が自ら容易に行う。

(「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」(2018年12月、文部科学省)より)

※学習者用デジタル教科書の制度化の詳細については、文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/seido/1407731.htm)を参照。

イ 学校施設のバリアフリー化

文部科学省では、学校施設の整備について、障害のある幼児児童生徒が支障なく学校生活を送るために障害の種類や程度に応じたきめ細かな配慮を行うよう、学校種ごとの学校施設整備指針を作成し、施設の計画・設計上の留意点を示している。このほか、学校施設のバリアフリー化に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示した「学校施設バリアフリー化推進指針」を策定するとともに、具体的な取組を事例集として取りまとめている。また、報告書「災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~」では、災害時に避難所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性について示している。これらの指針や事例集等は、地方公共団体等に配布するとともに、研修会等を通じて普及啓発に努めている。

さらに、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープなどのバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っている。

また、私立の特別支援学校並びに小・中学校の特別支援学級において、障害に適応した教育を実施する上で必要とする設備の整備を学校法人が行う場合に、国がその一部を補助している。補助対象となる設備には、立体コピー設備、FM等補聴設備、音声表出コミュニケーション支援装置(VOCA)、携帯用防犯ベル、スクールバスなどがある。

学校施設のバリアフリー化の事例(スロープ・多目的トイレの設置)

ウ 専門機関の機能の充実と多様化

① 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(https://www.nise.go.jp/nc)は、我が国における唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や高等学校における通級による指導などに関する「指導者研究協議会」を実施しているほか、インターネットを通じて、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義の配信や特別支援学校の教師の免許状保有率の向上に資する免許法認定通信教育を実施している。また、全ての学校を始めとする関係者に必要かつ有益な情報を提供するため、インターネットを活用し、発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センター」、合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及び支援機器等教材活用に関する様々な情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信を行っている。さらに、研究成果の普及等を行う「研究所セミナー」(東京都)を開催しているほか、「教材・支援機器等展示会」(全国4か所)を実施するなど理解啓発活動も行っている。

このほか、2016年度に「インクルーシブ教育システム推進センター」を設置し、地域や学校が直面する課題を研究テーマとし、その解決を目指す「地域実践研究」や諸外国の最新情報の発信を行うとともに、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に十分に教育を受けられるよう、一人一人の教育的ニーズに応じた多様で柔軟な仕組みの構築に関する相談支援等を通して、地域や学校における取組を強力にバックアップしている。

② 特別支援教育センター

都道府県の特別支援教育センターにおいて、当該都道府県における特別支援教育関係職員の研修、障害のある子供に係る教育相談、特別支援教育に係る研究・調査等が行われている。

(3)充実した支援体制の整備

ア 切れ目ない支援体制整備

2012年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」において、インクルーシブ教育システムを構築する上で、教育委員会や学校等は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要であり、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークを形成することが有効であることなどが示された。

文部科学省では、特別な支援が必要な子供が、就学前から卒業後にわたる切れ目ない支援を受けられる体制の整備に必要な経費(①保護者支援、②連絡協議会の設置、③個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することなどに係る経費)の一部を補助する事業を実施するなどして、教育委員会や学校等における取組を推進している。

図表2-2
切れ目ない支援体制整備充実事業
資料:文部科学省

イ 教育と福祉等の連携

岩手県陸前高田市作成(http://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/
kategorie/syussan-ikuji/ikuji/soudan-kyoushitu/kosodate-
komarigoto.pdf

発達障害をはじめ障害のある子供への支援における教育と福祉の連携については、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されている。これを踏まえ、各自治体の教育委員会や福祉部局が主導し、支援が必要な子供やその保護者が、乳幼児期から学齢期、社会参加に至るまで、地域で切れ目なく支援が受けられるよう、文部科学省と厚生労働省では、両省連携による、家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを2017年12月に発足させ、翌年3月に、教育と福祉の連携を推進するための方策及び保護者支援を推進するための方策について報告書を取りまとめた。報告書には、具体的な今後の対応策として、各地方自治体において、教育委員会や福祉部局が主導し、学校と障害福祉サービス事業者との関係構築の場を設置することで教育と福祉の連携を加速させることや、相談窓口の整理を行うなど保護者支援の取組を充実させることなどを掲げている。両省では、同年5月に連名の通知を各地方自治体に対して発出し、報告書の趣旨を広く周知するとともに、自治体の好事例等も併せて示し、教育と福祉の一層の連携の推進に向けた積極的な取組を促した。また、通知を踏まえて、地域における支援の情報や相談窓口について記載された保護者向けのハンドブックを作成した自治体の例を紹介し、他自治体の取組の参考とした。

文部科学省では、同年8月に、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)の改正を行い、「個別の教育支援計画」の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととした。また、2019年度より、学校と放課後等デイサービス事業所などの障害児通所支援事業所の連携促進に資するため、連携に際してのマニュアルを作成するモデル事業を開始した。


ウ 発達障害のある子供に対する支援

「学校教育法の一部を改正する法律」(平成18年法律第80号)により、幼稚園、小・中学校及び高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。

2016年6月には「発達障害者支援法の一部を改正する法律」(平成28年法律第64号)が公布され(同年8月施行)、発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、小・中学校、高等学校等における発達障害の可能性のある児童生徒等に対する支援に当たって、①特別支援教育の視点を踏まえた学校経営構築の方法、②学習上のつまずきなどに対する教科指導の方向性の在り方、③通級による指導の担当教師等に対する研修体制の在り方や必要な指導方法、④学校における児童生徒の多様な特性に応じた合理的配慮の在り方に関する研究を実施した。

また、文部科学省と厚生労働省の両省主催で2020年2月に「発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」を開催した。

エ 医療的ケアが必要な子供に対する支援

2018年5月に文部科学省が実施した調査結果によると、公立の特別支援学校や小・中学校に在籍する医療的ケアが必要な幼児児童生徒の数は増加傾向にある。このような状況を踏まえ、文部科学省では、学校への医療的ケアのための看護師配置に係る予算を拡充するなどして、教育委員会や学校等における取組を支援している。

図表2-3
特別支援学校や幼稚園、小・中・高等学校に在籍する医療的ケア児等の推移
特特別支援学校に在籍する医療的ケア児等の推移
出典:令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査(文部科学省)
幼稚園、小・中・高等学校に在籍する医療的ケア児等の推移
出典:令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査(文部科学省)

また、近年、医療技術の進歩等を背景として、気管切開や人工呼吸器を使用する子供が増加傾向にあり、学校においてはこれらの幼児児童生徒の受入れ体制の構築が喫緊の課題となっている。このことから、文部科学省では、酸素療法や人工呼吸器の管理などの医療的ケアに学校が対応する際の体制の在り方等に関する調査研究を2017年から実施している。

さらに、医療機関ではない学校においては、教職員と看護師の「共働」もしくは「協働」によって医療的ケアが行われることが望ましい。このような特殊性から、教職員のみならず、看護師に対する研修も重要である。文部科学省では、教育委員会による看護師に対する研修機会の提供を確保・充実するため、厚生労働省や日本看護協会の協力の下、学校で医療的ケアを行う看護師等を対象とした研修会を開催した。

オ 私学助成

私立の特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園等の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育条件の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、「私立学校振興助成法」(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。

カ 家庭への支援等

教育の機会均等の趣旨及び特別支援学校等への就学の特殊事情に鑑み、保護者の経済的負担を軽減し、その就学を奨励するため、就学のために必要な諸経費のうち、教科用図書購入費、交通費、寄宿舎居住に伴う経費、修学旅行費等について、保護者の経済的負担能力に応じて、その全部又は一部を助成する特別支援教育就学奨励費が保護者に支給されている。

/文部科学省
第2章第1節 特別支援教育の充実
TOPICS
新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議について

少子高齢化の一方で、医療の進歩・特別支援教育への理解の広がり・障害の概念の変化や多様化など、特別支援教育をめぐる社会や環境の変化に伴い、特別支援教育を必要とする子供の数は増加している。

こうした状況のもと、特別な配慮を要する子供たちがその可能性を最大限に伸ばすとともに、自立と社会参加に必要な力を培うための適切な指導・必要な支援の重要性がますます高まっている。初等中等教育の在り方について総合的に検討するため、2019年4月17日に開催された中央教育審議会総会において行われた「新しい時代の初等中等教育の在り方」についての諮問でも、特別支援教育について諮問事項とされ、検討が求められている。こうした問題について、より集中的かつ専門的な見地から、議論を深めるべきとの特別部会での指摘を踏まえ、医療や福祉との連携の推進、障害者の権利に係る国際的な議論の動向等を踏まえつつ、特別支援教育の現状と課題を整理し、一人一人のニーズに対応した新しい時代の特別支援教育の在り方や、その充実のための方策等について検討を行うことが重要である。そこで、2019年9月6日に「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」を設置した。

有識者会議における主な検討事項の例として、以下のものが挙げられている。これらに関しては順次議論を行っている。

・新しい時代の特別支援教育の目指す方向性・ビジョン

・特別支援教育を担う教員の専門性の整理と養成の在り方

・障害のある子供たちへの指導の充実

・小・中・高等学校及び特別支援学校における特別支援教育の枠組み

・幼稚園・高等学校段階における学びの場の在り方

・切れ目ない支援の推進に向けた教育と医療、福祉、家庭の連携

学習者用デジタル教科書のイメージ
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