第4章 住みよい環境の基盤づくり 第1節 5
第1節 障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策
5.公共交通機関、歩行空間等のバリアフリー化の推進
(1)公共交通機関のバリアフリー化
ア 法令等に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
① バリアフリー法に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
公共交通機関のバリアフリー化については、2000年11月に施行された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年法律第68号)に基づく取組が行われてきたが、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)においても、公共交通事業者等に対して、鉄道駅等の旅客施設の新設、大改良及び車両等の新規導入に際し、「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第111号。以下「公共交通移動等円滑化基準」という。)への適合を義務付けている。また、既設の旅客施設・車両等についても「公共交通移動等円滑化基準」に適合させるよう努めなければならないこととしている。
② 旅客施設に関するガイドラインの整備
公共交通機関の旅客施設のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」(旅客施設編)の改訂版を2019年10月及び2020年3月に公表し、整備のあり方を具体的に示すことで、利用者にとって望ましい旅客施設のバリアフリー化を推進している。
③ 車両等に関するガイドライン等の整備
公共交通機関の車両等のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」(車両等編)の改訂版を2019年10月及び2020年3月に公表し、整備のあり方を具体的に示すことで、利用者にとってより望ましい車両等のバリアフリー化を推進している。
また、2007年8月、「旅客船バリアフリーガイドライン」を策定し、障害のある人等を始めとした多様な利用者の多彩なニーズに応え、全ての利用者がより円滑に旅客船を利用できるようなバリアフリー化の指針として、その望ましい整備内容等を示している。
イ 施設整備及び車両整備に対する支援
① 鉄道駅等旅客ターミナルにおけるエレベーター等の施設の整備に対する助成及び融資
都市鉄道整備事業及び地域公共交通確保維持改善事業などにおいて、鉄軌道駅等のバリアフリー化に要する経費の一部補助を実施している。
また、地方公営企業の交通事業のうち、地下鉄事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
② 障害のある人にやさしい車両の整備についての助成及び融資
ノンステップバス、リフト付きバス、福祉タクシー、低床式路面電車(LRV)等の導入に対して、訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業などにおいて経費の一部補助を行っている。
障害のある人のための車両整備に対する低利融資制度として、地方公営企業の交通事業のうち、バス事業及び路面電車事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。また、ノンステップバス、リフト付きバス及びユニバーサルデザインタクシーに係る自動車重量税及び自動車税環境性能割の特例措置が講じられているほか、低床式路面電車(LRV)に対する固定資産税の特例措置が講じられている。
③ 共有建造における国内旅客船のバリアフリー化の推進
バリアフリーの高度化・多様化に資する船舶(車いす対応トイレ、エレベーター等障害のある人等の利便性及び安全性の向上に資する設備を有する船舶)を建造する場合に、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の共有建造制度が活用されている。
なお、地方公営企業の交通事業のうち、船舶事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
(2)歩行空間等のバリアフリー化
ア 福祉のまちづくりの推進
障害のある人が自立して生活し、積極的に社会参加していく上で、まち全体を障害のある人にとって利用しやすいものへと変えていくことの重要性が、近年、広く認識されるようになっている。このため、幅の広い歩道の整備や建築物の出入口の段差の解消、鉄道駅舎のエレベーターの設置やホームドア等の転落防止設備の導入、音響式信号機等の整備等による障害のある人の円滑な移動の確保、公園整備等による憩いと交流の場の確保等、福祉の観点も踏まえた総合的なまちづくりが各地で進められている。
国土交通省においては、「バリアフリー法」に基づき、公共交通機関、建築物、道路等の一体的・連続的なバリアフリー化を推進している。
このほか、福祉のまちづくりへの取組を支援するため、以下のような施策を実施している。
① 公共交通機関の旅客施設等を中心としたまちのバリアフリー化の推進
障害のある人が介助なしに外出し、公共交通機関を利用できるようにするためには、歩行者交通、自動車交通、公共交通が連携し、一連の円滑な交通手段を確保することが必要である。このため、駅等の交通結節点において道路・街路事業等により駅前広場やペデストリアンデッキ、自由通路等を整備するとともに、エレベーター、エスカレーター等の歩行支援施設の整備や沿道の建築物との直接接続を行っている。
さらに、障害のある人等に配慮した活動空間の形成を図り、障害のある人等が積極的に社会参加できるようにするために、快適かつ安全な移動を確保するための動く通路、エレベーター等の施設の整備や障害のある人等の利用に配慮した建築物の整備等を行う「バリアフリー環境整備促進事業」を実施している。
② 農山漁村における生活環境の整備
農林水産省においては、障害のある人に配慮した生活環境の整備を図るため、「農山漁村地域整備交付金」や「農山漁村振興交付金」等により農山漁村地域における広幅員歩道の整備や段差の解消等について支援している。
③ 普及啓発活動の推進
最近における地方公共団体の動きとしては、総合的なまちづくりを効果的に進めるために、福祉のまちづくりに関する条例の制定など制度面の整備が行われるとともに、事業面においても、ユニバーサルデザインによるまちづくり(全ての人にやさしいまちづくり)が行われている。
総務省では、地方公共団体が行う高齢者、障害のある人、児童等全ての人が自立していきいきと生活し、人と人との交流が深まる共生型の地域社会の実現に向けた取組を支援するため、ハード・ソフト両面から必要な地方財政措置を講じている。ソフト事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくりや特定非営利活動法人(NPO法人)等の活動の活性化を推進する地方公共団体の取組に要する経費に対して、普通交付税措置を行うとともに、ハード事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくり、地域の少子高齢化社会を支える保健福祉施設整備、共生社会を支える市民活動支援のための施設整備等に対して、地域活性化事業債等により財政措置を講じている。
また、国民一人一人が、高齢者や障害のある人の困難を自らの問題として認識し、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」社会を実現するため、国土交通省では主に小・中学校生を対象としたバリアフリー教室を開催している。
高齢者や障害のある人の自立と社会参加を促進するためには、高齢者や障害のある人等が公共交通機関などの施設を円滑に利用できるようにすることが必要であるが、バリアフリー施設の整備といったハード面の対応だけではなく、国民一人ひとりが高齢者や障害のある人等の移動制約者を見かけた際に進んで手を差し伸べる環境づくりといったソフト面の対応も重要である。
このため、多くの国民が高齢者や障害のある人等に対する基礎的知識を学び、車いす利用体験や視覚障害者擬似体験・介助体験等を行うことを通じて、バリアフリーについての理解を深めるとともに、ボランティアに関する意識を醸成し、誰もが高齢者や障害のある人等に対して自然に快くサポートできる「心のバリアフリー」社会の実現を目指すことを目的として、全国各地で「バリアフリー教室」を開催している。
2018年度には、全国で287件の「バリアフリー教室」を開催し、約1万6千人の参加を得た。小中学生をはじめとした学生や、鉄道やバスといった公共交通関係事業に関わる現場職員等、様々な方にご参加いただいている。
体験終了後、参加した学生からは、「大変さや苦労を知ることができた」、「とても勉強になった。声をかけることはとても勇気がいると思うが、学んだことを生かし、素直な気持ちで障害のある方のお手伝いができたらと思う」などの感想をいただくなど、本教室が高齢者・障害のある人等の移動制約者に対する理解とボランティアに関する意識啓発の一助となっている。
2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)の関連駅においては、大会を契機として、バリアフリールートの複数化、エレベーターの大型化、ホームドアの設置等のバリアフリーの高度化を進めることとしており、例えば、国立競技場の最寄り駅である千駄ヶ谷駅、信濃町駅、青山一丁目駅、外苑前駅において、東京2020大会までにエレベーターの増設又は大型化、ホームドアの整備等を行うなど、高次元のバリアフリーに向けた整備を実施している。2019年度においては、明治神宮前駅(東京メトロ千代田線)、九段下駅(都営新宿線)においてホームドアの整備が完了した。
また、新宿駅、東京駅等の大規模駅においては、エレベーターの増設により、移動経路を大幅に短縮することとしており、例えばJR新宿駅においては、2020年までに、駅の改良にあわせてエレベーターの増設を行うことで、移動経路を大幅に短縮し、UDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー:身体障害者のほか、高齢者や妊産婦、子供連れの人等、様々な人が利用できる構造を持ち、流し営業にも活用できるタクシー車両)の普及とあわせて、シームレスかつ最短経路での移動を実現することとしている。
新宿、渋谷、品川等の都内の主要ターミナル等においては、2020年の供用を目標として都市再開発プロジェクトを実施する中でバリアフリー化を推進することとしており、例えばJR新宿駅では、2016年3月にとりまとめたバリアフリー等に関する「新宿ターミナル基本ルール」の理念に合わせ、東西自由通路の整備を実施している。
また、東京2020大会を契機として、全国の鉄道駅についても安全性・利便性を向上させる取組を実施しており、例えば、車椅子使用者の利用環境の改善に向けて、予約時の利便性の向上等の取組を進めるとともに、ハンドル形電動車椅子の鉄道車両等への乗車要件について、車椅子使用者の人的要件を撤廃、車椅子の構造要件を大幅に緩和し、2018年4月より運用を開始している。新幹線においては、2019年12月に鉄道事業者、障害者団体等からなる「新幹線のバリアフリー対策検討会」を設置し、検討会の下に設置したワーキンググループで具体的な施策の検討を進め、2020年3月3日に車椅子用フリースペース(仮称)の設置やウェブによる予約方法の改善などについての中間とりまとめを行った。
・大規模駅のバリアフリー化:JR新宿駅の改良例
駅ホームの安全性向上については、ホームドア整備の前倒しや駅員による誘導案内などハード・ソフト両面からの転落防止対策を推進している。このうちホームドアについては、一日当たりの乗降客数が10万人以上の駅において、車両の扉位置が一定など整備条件を満たしている場合には、原則として2020年度までに整備することとしており、2018年度末時点で一日あたりの乗降客数10万人以上の279駅のうち、123駅が整備を完了している。
「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)に基づく「公共交通移動等円滑化基準」においては、プラットホームと車両の床面をできるだけ平らにするとともに、プラットホームと車両との間隔をできる限り小さくすることを求めているが、その段差・隙間についての数値基準等は定められていない。
このため、国土交通省においては、2018年10月から、「鉄道駅におけるプラットホームと車両乗降口の段差・隙間に関する検討会」を立ち上げ、実証試験等を通じて、車椅子使用者の単独乗降と列車の安全確保を両立しうる段差・隙間等について検討を行い、2019年8月、それらの目安や整備の方向性などをとりまとめた。
その結果を踏まえ、2019年12月から、山手線内を中心に単独乗降しやすい駅を路線図上で分かりやすく示したバリアフリーマップをインターネットにおいて公表している。
・整備実現に向けた当面の目安値
コンクリート軌道 | バラスト軌道 | |||
---|---|---|---|---|
段差 | 隙間 | 段差 | 隙間 | |
直線部 | 3cm | 7cm | 目安値(3cm)を参考に、 できる限り平らに |
目安値(7cm)を参考に、 できる限り小さく |
曲線部 | 3cm | ― (できる限り小さく) |
目安値(3cm)を参考に、 できる限り平らに |
― (できる限り小さく) |
・東京都心部バリアフリー鉄道MAP
都内の路線バスのノンステップバス比率については、2017年度末で92.7%であったところ、2018年度末で93.8%となっており、引き続き導入を促進することとしている。空港アクセスバスについては、新宿等と羽田・成田を結ぶ路線において、リフト付バスの運行を開始するなど、バリアフリー化を拡充しており、更なるバリアフリー化の推進策や目標について検討をしている。また、都内のタクシーについては、2020年に4台に1台をUDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー:身体障害者のほか、高齢者や妊産婦、子供連れの人等、様々な人が利用できる構造を持ち、流し営業にも活用できるタクシー車両)化することを目指し、支援を実施している。
なお、既存の導入支援策に加え、2017年10月から交付を開始した東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会特別仕様ナンバープレートにおける寄付金の活用によるバス・タクシー車両のバリアフリー化を推進している。
空港のバリアフリー化については、成田空港、羽田空港等において、2016年度に設定したエレベーターの増設やトイレの機能分散等の数値目標に基づき、取組を推進している。2019年度末時点で、成田空港、羽田空港国際線・国内線ターミナルにおいて多機能トイレ又はトイレ機能の分散化が完了しており、今後も各空港において数値目標達成に向け取組を推進していくこととしている。さらに、成田空港では、主に発達障害等のある子供向けに空港の行程を予習できる冊子を制作・配布し、また、聴覚障害のある人等に保安検査場での検査内容をピクトグラムでの指さしにて説明できるコミュニケーション支援ボードを配置するなど多様なニーズに応じた取組を推進している。
イ 都市計画等による取組
都市計画における総合的な福祉のまちづくりに関する取組としては、適切な土地利用や公共施設の配置を行うとともに、障害のある人に配慮した道路、公園等の都市施設の整備、土地区画整理事業や市街地再開発事業などの面的な都市整備を着実に進めていることがあげられる。
市町村が具体の都市計画の方針として策定する「市町村の都市計画に関する基本的な方針(市町村マスタープラン)」の中に、まちづくりにおける高齢者や障害のある人等への配慮を積極的に位置付けることも考えられる。
全国の都市の再生を効率的に推進する観点から、地域の創意工夫を生かした個性あふれるまちづくりを実施するため、「都市再生整備計画」に基づく事業(都市再生整備計画事業)に対して、社会資本整備総合交付金による支援を行っている。さらに、「都市再生整備計画」に基づく事業のうち「立地適正化計画」に位置付けられた誘導施設や公共公益施設整備等に対して集中的に支援する制度として都市構造再編集中支援事業を2020年度に創設している。これらの制度の活用により、全国各地において、地域住民の生活の質の向上と地域経済・社会の活性化、持続可能で強靭な都市構造への再編に向けた取組が進められており、その一環として、バリアフリー化等を通じて、安心・快適に過ごせるまちづくりが多くの市町村で実施されている。
市街地再開発事業等においては、再開発ビルに一定の社会福祉施設等を導入するものを「福祉空間形成型プロジェクト」と位置付け、通常の助成対象に加え、共用通行部分整備費、駐車場整備費等を助成対象とするとともに、社会福祉施設等と一体的に整備する場合の整備費に関する助成額の割増を実施しており、これにより、再開発ビルへの社会福祉施設等の円滑な導入を促している。
また、バリアフリー化等に対応した施設建築物を整備する場合に生じる付加的経費について、別枠で補助を行っている。
ウ 歩行空間のバリアフリー化
移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう歩道、信号機等の交通安全施設等の整備を推進している。
「バリアフリー法」に基づき、新設又は改築を行う際に「移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する主務省令で定める基準」(道路移動等円滑化基準)(平成18年国土交通省令116号)に適合させなければならない特定道路の指定を拡大し、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路や駅前広場等において、高齢者や障害のある人を始めとする誰もが安心して通行できるよう、幅の広い歩道の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化、視覚障害者誘導用ブロックの整備、エレベーター等の付いた立体横断施設の設置等による歩行空間のバリアフリー化を推進している。また、整備に当たっては、「バリアフリー法」を踏まえて、駅構内、病院など公共的施設のバリアフリー化やノンステップバスの導入等と連携して整備を行っている。
さらに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国家公安委員会・総務省・国土交通省告示第1号)では、重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機等については、2020年度までに、原則として全ての当該道路において、バリアフリー対応型信号機等の設置等の移動等円滑化を実施することを目標としており、音響により信号表示の状況を知らせる音響式信号機や、歩行者等と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等の整備を推進している。
加えて、冬期の安全で快適な歩行空間を確保するため、中心市街地や公共施設周辺等における除雪の充実や消融雪施設の整備等のバリアフリーに資する施設整備を実施している。
エ 路外駐車場のバリアフリー化
高齢者、身体に障害のある人等を含む全ての人々が安全で快適に自動車の利用ができるよう、路外駐車場のバリアフリー化を図ることが必要である。
「バリアフリー法」に路外駐車場のバリアフリー化が位置づけられ、同法の規定に基づき、「移動等円滑化のために必要な特定路外駐車場の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第112号)を制定し、バリアフリー化を推進している(2018年度末現在の特定路外駐車場のバリアフリー化率:64.8%)。
また、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、特定路外駐車場のバリアフリー化の目標を定めており、引き続き、目標達成に向け、地方公共団体及び関係団体等に対して周知の徹底を図り、路外駐車場のバリアフリー化を一層推進していくこととしている。
(3)移動支援
ア 福祉タクシー等の普及促進
障害のある人等の輸送をより便利にするため、地域公共交通確保維持改善事業により福祉タクシー車両の導入等に対して経費の一部補助を行うなど、福祉タクシーの普及促進を図っている。
また、バス事業者、タクシー事業者のみによっては十分な輸送サービスが確保できないと認められる場合において、移動手段の確保のために必要であると地域の関係者による協議が調った場合には特定非営利活動法人(NPO法人)等による福祉有償運送を可能としている。これらにより、福祉タクシーとNPO法人等による福祉有償運送がそれぞれ多様なニーズに応じて輸送を提供し、障害のある人等の外出が促進されることが期待される。
2018年度末における福祉タクシーの導入状況は、28,602台となっている。
また、屋外での移動が困難な障害のある人について、外出のための支援を行うことにより、地域における自立生活及び社会参加を促すため、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(平成17年法律第123号)に基づく地域生活支援事業において、各市町村が地域の特性や利用者のニーズに応じて、個別支援型、グループ支援型及び車両移送型など柔軟な形態で、ガイドヘルパーの派遣などのサービスを提供する「移動支援事業」を実施している。
イ 移動支援システムの規格開発
経済産業省では、障害のある人等がITを活用して社会・経済に積極的に参画できる環境を整備するため、2004年度に「高齢者・障害者配慮設計指針-移動支援のための電子的情報提供機器の情報提供方法(JIS T0901)」を制定した。
ウ 障害のある人に対する運賃・料金割引
鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空等の各公共交通機関では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人、療育手帳の交付を受けた知的障害のある人及び常時介護を要するこれらの人の介護者に対して運賃・料金の割引を実施している。
有料道路では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人が自ら運転する場合や、身体に重度の障害のある人又は重度の知的障害のある人の移動のために介護者が運転する場合において、通行料金の割引を実施している。
また、精神障害者保健福祉手帳については、2006年10月1日より身体障害者手帳及び療育手帳と同様に写真貼付を行うこととし、本人確認を容易にし、手帳の信頼性を向上させ、各自治体における公共施設の入場料や公共交通機関の運賃に対する割引等の支援の協力を得やすくしている。さらに、発達障害のある人及び高次脳機能障害のある人について、手帳の交付の対象であることを明確化するため、2011年4月には、手帳の診断書の様式及び判定基準を改正した。
なお、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた精神障害のある人及びその介護者の運賃・料金の割引については、鉄道、バス、タクシー、旅客船等の一部の公共交通事業者において既に実施しているところであるが、2018年度より、多くの航空運送事業者が導入し、全モードの公共交通事業において実施されることとなった。
エ 駐車禁止の交通規制からの除外措置
一定の障害のある人に対して駐車禁止除外指定車標章を交付し、駐車禁止の交通規制の対象から除外している。
オ 障害者等用駐車区画の適正利用の確保
国土交通省では、障害者等用駐車区画の適正利用を確保する観点から、多くの地方公共団体において導入されている「パーキング・パーミット制度」について、好事例の共有を通じた制度の改善を促進するとともに、制度のメリット等の周知を行う等により未導入の地方公共団体に対する制度等の普及を促進している。
カ ICTを活用した歩行者移動支援の推進
国土交通省では、高齢者や障害のある人、訪日外国人旅行者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援の取組を推進している。
民間事業者等によるサービス創出に向けたオープンデータ推進等の環境整備を行っており、施設や経路のバリアフリー情報等の移動に必要なデータを多くの方の参加により効率的に収集する新たな方法等について検討した。また、移動支援サービスの普及を促進するため、渋谷駅において民間主体による屋内電子地図、測位環境の整備を支援し、民間アプリを活用した屋内外シームレスなナビゲーションサービスの実証実験を実施した。
障害のある人を含む全ての人が、屋内外を問わず、自分の現在位置や、目的地までの経路等の情報を容易に入手できるよう、GPSの電波が届かない地下街や公共の施設内におけるインフラ(屋内電子地図、測位環境)の整備や施設のバリアフリー情報を含む各種データのオープンデータ化等を推進している。2019年度は2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)の競技会場周辺エリア等における歩道の段差や幅員等の情報をデータ化し、オープンデータとして公開するとともに、歩行空間の情報を多くの方の参加により収集する実証を実施した。また、国立競技場(オリンピックスタジアム)等東京2020大会の競技会場に近く、大会開催時に主要な乗換駅の一つとなると想定される渋谷駅において、民間主体による屋内電子地図、測位環境の整備を支援し、民間アプリを活用した屋内外シームレスなナビゲーションサービスの実証実験を実施し、歩行者移動支援サービスのさらなる普及を図った。
(4)ユニバーサルツーリズムの促進とバリアフリー情報の提供
2012年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」に基づき、障害のある人を含む誰もが旅行を楽しむことが出来るユニバーサルツーリズムを促進している。
2018年8月に「宿泊施設におけるバリアフリー情報発信のためのマニュアル」を作成・公表するとともに、2019年4月に「観光地におけるバリアフリー情報の提供のためのマニュアル」を作成・公表した。また、2019年度には、観光案内所において、バリアフリー情報のきめ細やかな発信を可能とするための実証事業を実施した。
さらに、障害のある人を含む訪日外国人旅行者がストレスフリーで快適に宿泊できる環境を整備するため、旅館・ホテル等におけるバリアフリー化への改修の支援を実施した。
加えて、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団では、高齢者や身体に障害のある人等の移動支援のため、インターネットによる公共交通機関のバリアフリー情報提供の一環として「らくらくおでかけネット」を運用しており、2019年4月には英語対応やスマートフォン対応、検索機能の改修等を行った。この「らくらくおでかけネット」(https://www.ecomo-rakuraku.jp/ja)では、約8,000の駅・ターミナルのバリアフリー情報を提供し、約3,006万件(2002年1月の運用開始時から2019年12月末時点までの累計)のアクセス数となっている。
(5)公園、水辺空間等のバリアフリー化
ア 公園整備における配慮
都市公園は、良好な都市環境の形成、地震災害時の避難地などの機能を有するとともに、スポーツ、レクリエーション、文化活動などを通じた憩いと交流の場であり、障害のある人の健康増進、社会参加を進める上で重要な役割を担っていることから、利便性及び安全性の向上を図ることが必要である。
「バリアフリー法」では、一定の要件を満たした園路及び広場、休憩所、並びに便所等の特定公園施設について、新設等の際の基準への適合義務、既存の施設等に対する適合努力義務等を定めている。
都市公園のバリアフリー化については、障害のある人を含む全ての人の利用に配慮した公園施設とするため、園路の幅の確保や段差・勾配の改善、車いす使用者を始め、多くの人にとって利用可能な駐車場やトイレの設置など、公園施設のバリアフリー化を行ってきており、「都市公園移動等円滑化基準」(平成18年国土交通省令第115号)の運用等により、今後一層推進していくこととしている(2018年度末現在の公園施設のバリアフリー化率(園路及び広場:57%、駐車場:48%、便所:36%))。また、社会資本整備総合交付金により、都市公園のバリアフリー化を推進している。
全国の国営公園においては、身体等に障害のある人や介添する人に対する入園料金を免除することにより、野外活動の機会の増進や経済的負担の軽減を図っているほか、国営昭和記念公園等においては、障害のある人も楽しく安全に遊ぶことができるバリアフリー化した遊具等を設置している。
環境省では、国立公園等において、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等のユニバーサルデザイン化を推進しており、人にやさしい施設の整備を進めている。
また、新宿御苑では、障害のある方を含めた多くの方々に園内の自然や文化を楽しんでいただくために、ユニバーサルガイドアプリ「Smart Town Walkerサービス」の試行を実施した。
イ 水辺空間の整備における配慮
河川、海岸等の水辺空間は、公園と同様に、障害のある人にとって憩いと交流の場を提供するための重要な要素となっている。このため、河川利用上の安全・安心に係る河川管理施設の整備により、良好な水辺空間の形成を推進している。また、日常生活の中で海辺に近づき、身近に自然と触れ合えるようにするため、海岸保全施設のバリアフリー化を推進している。
ウ 港湾緑地・マリーナ等における配慮
港湾緑地は、誰もが快適に利用できるよう、計画段階から周辺交通施設との円滑なアクセス向上に配慮するとともに、施設面においてもスロープ、手すりの設置や段差の解消等のバリアフリー対応が図られるよう取り組んでいる。また、マリーナ等については、障害のある人でも気軽に安全に海洋性レクリエーションに参加できるよう、マリーナ等施設のバリアフリー化を推進している。
エ 森林の施設の整備における配慮
森林は、心身の癒しや健康づくりの場等として、幅広い国民に利用されている。このため、年齢や障害の有無等にかかわらず多様な利用者に対応できるよう、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえた森林歩道等の整備を推進している。
1日当たりの 平均利用者数 3,000人以上の 旅客施設数 |
2018年度末 | 1日当たりの平均 利用者数3,000人 以上かつトイレを 設置している旅客 施設数 |
2018年度末 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
段差の解消 | 視覚障害者誘導用 ブロック |
障害者用トイレ | ||||||
旅客施設全体 | - | - | 90.4% | 94.7% | - | - | 86.7% | |
鉄軌道駅 | 3,586 | 3,241 | 90.4% | 3,397 | 94.7% | 3,343 | 2,901 | 86.8% |
バスターミナル | 47 | 44 | 93.6% | 45 | 95.7% | 40 | 30 | 75.0% |
旅客船ターミナル | 14 | 14 | 100.0% | 11 | 78.6% | 12 | 11 | 91.7% |
航空旅客ターミナル | 37 | 32 | 86.5% | 36 | 97.3% | 37 | 34 | 91.9% |
2018年度末 | 車両等の総数 | 2018年度末移動等円滑化基準に適合している車両等 | |
---|---|---|---|
鉄軌道車両 | 52,673 | 38,564(73.2%) | |
バス | ノンステップバス | 46,872 | 27,574(58.8%) |
リフト付きバス | 13,530 | 696(5.1%) | |
旅客船 | 666 | 308(46.2%) | |
航空機 | 655 | 643(98.2%) |
生活関連経路を構成する道路法による道路のうち、多数の高齢者、障害者等の移動が通常徒歩で行われるものであって、国土交通大臣がその路線及び区間を指定したもの。