第1章 障害を理由とする差別の解消の推進 4
4.障害者差別解消法の施行後3年の見直し検討を踏まえた法改正と施行に向けた動き
「障害者差別解消法」附則第7条においては、「政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、第8条第2項に規定する社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の在り方その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。」と規定されている。
2019年4月に施行から3年が経過することを踏まえて、内閣府の障害者政策委員会において、2019年2月から11回にわたり見直しの検討が行われ、2020年6月に意見書が取りまとめられた。
意見書では、事業者による合理的配慮の提供について、建設的対話の促進や事例の共有、相談体制の充実等を図りつつ、事業者を含めた社会全体の取組を進めていくとともに障害者権利条約との一層の整合性の確保等を図る観点から、更に関係各方面の意見等を踏まえ、その義務化を検討すべきとされた。これに基づき、内閣府において2020年10月に事業者団体及び障害者団体へのヒアリングを実施した。
意見書やヒアリングの結果を踏まえ、事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを内容とする同法の改正法が2021年6月に公布された。その施行期日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされている。(改正法の概要については図表1-4)
同改正法の施行に向けては、障害者政策委員会において、政府全体の方針となる基本方針の改定に係る審議が行われている。また、内閣府において、2021年度に地域の実情その他の実態等を踏まえつつ、今後の効果的な相談体制の整備、事例収集・共有の在り方等についての基本的な考え方を検討・提示するための調査研究を実施した。
長野県では10の圏域を設置しており、そのうちのひとつである上小圏域は、近隣の4市町村(上田市・東御市・長和町・青木村)で構成されている。上小圏域では障害者差別解消に関する取組として各市町村に相談窓口を設置するとともに、圏域単位の地域協議会を設置し、域内での相談事案の検討や共有等を進めることにより、圏域全体での相談体制を構築している。
1.圏域内各市町村における相談対応の実施体制
障害者差別解消に関する相談窓口は圏域の4市町村にそれぞれ直営で設置されており、相談の受付と解決に向けた取組(必要な場合には紛争解決に向けた調整)等を行っている。
各市町村における相談窓口のほか、障害者総合支援法に基づき長野県から上小圏域に委託設置されている基幹相談支援センターにおいても障害者差別に関する相談対応を行っている。
2.相談員の配置・育成の取組
4市町村における相談員は主に障害福祉課の職員が担当しており、専門職の資格を持つ職には社会福祉士、精神保健福祉士、社会福祉主事がいる。市町村の相談窓口担当者は数年ごとに入れ替わり、経験値の高い人材が継続して相談対応を担うことができないため、基幹相談支援センターとの合同研修会を年度当初に実施するなどの取組を通じて、市町村担当者の相談対応力の向上を目指している。
3.相談対応の流れ
圏域内の各市町村における相談対応は、主に、①相談の受付、②課内の上司に報告し課内で検討、③相談者及び相手方への事実確認、④解決に向けた相手方への説明と合意、⑤相談者に回答する、という流れとなっている。一連の対応に当たっては「上小圏域障がい者自立支援協議会」(以下「自立支援協議会」という。)で作成された共通の受付票等を用いることとし、個人情報等に留意しつつ圏域内での共有を行っている。共通の書式を用いることにより、相談対応に係る圏域内での市町村格差が生じるのを防ぐとともに、同書式により相談受付、支援計画、その後の評価まで行うことで、支援業務のスキルアップが図られている。
また、個別の対応の際には相談者と相手方双方と綿密にコミュニケーションを図るように努めるとともに、相談事案を検討する支援会議に基幹相談支援センターが同席し、相談内容の把握と対応について多角的に検討することで解決に至る方法を探ることとしている。特に相手方への説明を丁寧に行うことにより、理解を求めることを解決への重要なポイントとしている。
4.圏域における会議体の組織構成
上小圏域では、障害のある方の福祉・医療・保健・就労・教育等に関する各種サービスの総合的な調整及び推進を図り、相談支援事業を始めとした上小圏域全体でのシステムづくりに関する主導的役割を担う協議の場として「自立支援協議会」を設置している。同協議会が上小圏域における地域協議会としての機能を兼ねており、前述の各市町村における相談対応で解決できない事案を本協議会で協議することにより、圏域全体での事案解決が図られている。以下、自立支援協議会内における組織構成について示す(以下の各会議の関係については図1を併せて参照)。
(1)事務局会議
自立支援協議会の事務局担当者である障害者総合支援センター職員等で構成される毎月開催の会議であり、障害者差別に関する相談に係る状況報告や検証等の機会を設定し協議するとともに、適時市町村相談の協議にも参加している。
(2)運営委員会
自立支援協議会の企画・運営機能を担っており、圏域内各市町村の担当係長や障害者総合支援センター職員等で構成されている。同委員会は障害者差別に関する相談事案の協議・検討・共有や、障害者差別解消法に係る啓発活動の企画等を任務とする「権利擁護委員会」(地域協議会の実務者会議)の機能障害者差別解消に関する取組事例(自治体)を併せ持つこととされており、月に一回程度「権利擁護委員会」の業務として差別に関する相談事案等に係る議論を行っているほか圏域内での差別に関する相談・解決に向けた検証を年1回実施し本会への報告を行っている。
(3)自立支援協議会全体会(本会)
各市町村の担当課長を始め、医療・教育・福祉・就労など各分野の代表者約50名で構成された会議であり、地域協議会の代表者会議の機能を兼ねている。全体会は年3回開催され、圏域内における障害者差別に関する相談内容・対応内容の報告と検証が実施されている。
構成員 | 上田市立長野大学教授(座長)、市町村課長・医療機関・特別支援・校長会・就労(労働局)・支援関係機関代表・当事者会市町村代表・県保健福祉事務所・基幹相談支援センターなど(計50名程度) |
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5.障害者差別解消に係る周知啓発
上小圏域においては、上記の相談体制構築に係る取組のほか、障害者理解の周知・啓発活動として、パンフレット(図2)の作成と全戸配布、コンビニや医療機関等への周知活動展開を行っている。
株式会社イトーヨーカ堂では、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。通称「バリアフリー法」)の前身となった「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(平成6年法律第44号。通称「ハートビル法」)の施行を契機として、店舗全体をバリアフリーの視点で捉え、障害のある方々等が買い物しやすい環境を整えるためにハート面(思いやり・配慮)とハード面(設備)の組合せで自然で永続性のあるノーマライゼーションを推進していくことを目的に、「ユニバーサルデザイン店舗設備見学会」(以下「見学会」という。)を実施している。また、従業員にノーマライゼーションに係る各種研修を実施し、全ての従業員が合理的配慮の提供をスムーズにできるよう取り組んでいる。
1.ユニバーサルデザイン店舗設備見学会の開催
見学会は、新規店舗(一部食品館等は除く)がオープンする前に、障害のある方々等に実際に店舗の設備を見学していただいて意見を伺うための取組で、1996年に開店したイトーヨーカドー石巻あけぼの店(宮城県)から開催している。
開催に当たっては、様々な配慮が必要な方からの意見をいただくため、肢体不自由の方(車いす利用等)、視覚障害、聴覚障害、内部障害(オストメイト等)のある方々に参加いただけるように各障害者団体、地域の社会福祉協議会や行政窓口(障害福祉課等)に協力を仰いでいる。
見学対象の施設等は、バリアフリートイレ内の設備、エスカレーターの速度や障害者用の駐車場等で、実際に体験・確認していただいた障害のある方々等からの意見を「環境の整備」「合理的配慮の提供」に結びつくように店舗設計に活かしている。今後も、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況を踏まえつつ、新規店舗出店時には見学会を開催する予定である。
《見学会参加者からの意見の例》
・ゆったり試着室は、付き添いも一緒に入ることができ使いやすい。(車いす・肢体不自由)
・低速エレベーターは、安心して乗り降りできる。(肢体不自由・高齢者)
・階段の色分け(1段ごとに)がわかりやすい。
手すりの高さ(2段)や点字があるのが良い。(視覚障害)
・案内板を始め、各種ボタン等の点字を付けて欲しい。(視覚障害)
・障害者専用駐車場(リモコン式)の台数が少ない。
各入口付近に設置して欲しい。(車いす・肢体不自由)
2.従業員に対するノーマライゼーション体験研修、手話講習会等
従業員が障害についての正しい知識や接客マナーを身に付け、より適切に合理的配慮の提供をできるようにするため、ノーマライゼーションの体験研修や啓発教育、手話講習会を実施している。
ノーマライゼーション体験研修は、車いすや視覚障害のある方の介助方法について、実際に車いすや杖・アイマスクを用意し体験しながら学んだり、聴覚障害の方への対応として、簡単な手話について学んだりするもので、新入社員研修時や新規店舗の従業員(テナント従業員も含む)に対して実施している。
また、聴覚障害の方への環境の整備として、「手話講習会」を実施して各店舗に手話の出来る従業員(初級程度)を配置する取組を行っている。
これらの取組を通じ、全ての従業員が障害のある方々の買い物のお手伝い(合理的配慮の提供)ができるよう取組を進めていく。
株式会社三越伊勢丹ホールディングスでは、「お越しいただいた全てのお客さまに笑顔でお帰りいただける接客」を目指している。主力事業である百貨店は、その公共性から、長年に渡り様々な利用者(障害のある人、高齢者、妊婦等)を迎えることのできる設備、サービスを展開しており、そのノウハウを蓄積している。三越伊勢丹グループでは、このノウハウをグループ全体、全従業員の知識として継承していくために、2018年3月に「ユニバーサルマナーハンドブック」を作成した。また、このハンドブックの内容をベースとしたeラーニングを1万人以上の従業員に実施し、ユニバーサルマナーを浸透させている。
さらに、その他の取組として、その人の強みを生かせる職場を創出するなどして、障害者雇用を行い、ダイバーシティを推進している。障害のある従業員と障害のない従業員との交流を通じて社内全体の障害への理解促進を図っており、厚生労働省等から賞を受けるなど高い評価を受けている。
1.ガイドラインを整えたハンドブックの作成
2018年3月に「ユニバーサルマナーハンドブック」を作成し、従業員間で共有している。このハンドブックでは、視覚障害、聴覚障害、知的障害、精神障害、内部障害のある方、高齢者、妊婦、LGBTQ+の方など、配慮が必要な方への対応について事例をあげて紹介している。
今後は従業員がすぐにアクションできることを重視した教材・媒体とするため、店頭勤務者から体験談や掲載希望内容のヒアリング等を実施し、より実践力のある内容に改善していく予定である。
また、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症が日本国内でも拡大したことに伴い、コロナ禍であってもサービスレベルが落ちない工夫を盛り込んだ「コロナ禍でもできるユニバーサルマナー」を作成し、グループ全体での浸透を図っている。
2.従業員への教育
2019年度より、「ユニバーサルマナーハンドブック」をベースにした教材を作成し、定期的に社内向けeラーニングを実施している。
このeラーニングは、売場の責任者から開始し、段階的に受講者を拡大している。2021年度からは、百貨店事業で働く従業員だけでなく、カード事業の従業員まで受講することとしており、グループ全体で障害のある方に適切な対応が出来るようにするための取組を進めている。
3.障害のある従業員と障害のない従業員との交流
グループ会社の株式会社三越伊勢丹、株式会社岩田屋三越では、特例子会社にて障害のある人を雇用し、その人の強みを生かす職場作りを行っている。障害のある従業員が職場で活躍し、また、障害のない従業員と業務を通じて接点を持つことによって、社内全体の障害や障害のある人に対する理解の深まりに繋がっている。