第1分科会第2部「高齢社会フォーラム・イン横浜」
<第2部> -パネル討議-「地域社会で支え合う仕組みづくり」
地域で支え合う仕組みを構想し、自治体と市民の協働、シニアの自助・共助のための社会参加活動、等を語り合います。
- ■コーディネーター
- 吉田 成良
高連協専務理事、エイジング総合研究センター専務理事
- ■パネリスト
- 原野 哲也
東京江戸川区福祉部長
堀田 力
さわやか福祉財団理事長
徳田 文男
横浜市健康福祉局地域福祉保健部長
馬 利中
上海大学教授
〔はじめに/分科会の趣旨説明〕
吉田:第2部に入りたいと思います。
最初に、東京都江戸川区の福祉部長原野さんから区民と共に長年展開してこられた江戸川区の協働事業活動のいくつかについて、お話しいただきます。
そのあと、堀田さんはじめパネリストの方々にお話しをいただき、「地域社会で支え合う仕組みづくり」についてパネル討議を行いたいと思います。
〔各パネリストからの報告〕
◆原野 哲也(東京江戸川区福祉部長)
原野:江戸川区の原野でございます。江戸川区は「地域力は人にあり」として、区民と協働しながら非常にユニークな施策を行っていますので、本日はそれをご紹介したいと思います。
○江戸川区の概要
江戸川区は、東京23区の東端に位置し、千葉県に隣接しています。東西を荒川と江戸川に囲まれ、南は東京湾に面しています。面積は49km2、約68万人の区民がおられ、世帯数は約30万世帯です。区域の7割が海抜ゼロメートル地帯です。
○健全財政に支えられる子どもと高齢者のための予算
江戸川区は年間3,300億円の予算がございますが、半分は子どもと高齢者のために使っています。これは、江戸川区が全国トップレベルの健全財政であるからできることです。国が約1,000兆円の借金があると言われていますが、江戸川区も平成13(2001)年では借金が貯金を上回っていました。そこで、江戸川区は貯金を増やし、借金を減らす試みを始めました。その結果、平成16(2004)年以降はずっと貯金が借金を上回っています。それを可能にしたのは、既存事業の見直しや民間活力の導入、職員の削減などの取り組みです。たとえば、2000年度に5,057人いた職員は2011年度には3,781人になりました。この間1,276人減らした結果、1,047億円のコストの削減ができました。削減した職員の仕事は民間委託で対応しており、浮いたコスト1,047億円のうち、約700億円は民間委託の費用に充てられています。
○江戸川区の特徴
江戸川区の特徴の1番目は若くて活気があることです。まず、区民の平均年齢は41.96歳と非常に若く、23区中1位です。1年間に35,000人ほどの転入・転出がありますが、大体30代の方が8割です。出生率1.36は全国平均を少し下回るぐらいですが、23区中一番高く、年少人口の割合14.56%も23区中一番高いのです。
2番目は、高齢者が元気なことです。介護保険第1号被保険者認定率が13.36%と23区中最も低い。つまり、元気な方が多く、介護保険サービスを受けている方が少ないのです。国民健康保険と後期高齢者医療制度の医療費も平成21(2009)年度一人あたりの年間平均額が36万9,255円で、23区中一番低額です。医者にかかる高齢者が少なく健康であるということです。高齢化率は、18.42%で23区のなかで、中央区、港区に次いで低いほうから3番目です。
特徴の3番目は、水と緑が豊かであることです。公園の数が非常に多い。また、日本で初めて「親水公園」をつくったのは江戸川区です。日本三大金魚の養殖地の一つです。区内に船堀という駅がありますが、この駅舎には華麗な金魚が泳いでいる姿が描かれています。それから、鉄分やカルシュームを多く含む小松菜の発祥の地でもあります。
1972年に江戸川区は、「ゆたかな心、地にみどり」という標語を策定し、その実現に向けて、私たちは区民とともに水と緑豊かなまちづくりを推進してきました。公園面積約350万平方メートルは、23区で一番広い。公園の数は454あります。親水公園は5ヶ所、親水緑道は18路線です。それから、樹木の数も約601万本あります。区民一人あたりの樹木数を10本にしようと頑張っておりますが、人口も増えましたので現在のところ8.8本です。
○街の基盤整備
区民との協働の歴史を振り返りますと、まず街の基盤整備です。区域の4分の1に相当する1,200haの区画整理を推進してきました。
それから下水道は、1977~1996年の20年間で完備しました。
また、終戦直後江戸川区は小・中学校合わせて33校しかなったのですが、高度経済成長に随伴して増えた人口に対応して学校を増やすことが必要でした。区画整理して生まれた土地もありましたが、住民の方々が自分たちの土地を醵出(きょしゅつ)して学校をつくりました。ですから、「俺が学校」という意識が非常に強いのです。現在、小学校が73校、中学校が33校、計106校となっています。
○「3大公害」との戦い
1970~1972年に3年続けて、区民が強く結束して公害と戦いました。1970年の葛西ごみ公害、1971年の航空機騒音問題、1972年の成田新幹線江戸川区内通過問題のいわゆる3大公害に対し区民が一体となり、数々の困難を克服しました。このように、江戸川区には区民皆で何かに対して立ち向かおうという歴史的があり、DNAがあります。
○熟年施策における協働
もう1つは、熟年者との協働です。江戸川区では、高齢者のことを高齢者や老人とは言わず、「熟年者」という言い方をしています。「熟年者」は永年の努力で今日の日本の繁栄を築いた社会の尊い財産であるという価値観にもとづいて、私たちは、既に30年前から、この熟年者の皆様を地域で積極的な役割を担う存在として位置づけ、熟年者の皆様との協働によって施策を展開しています。
○熟年者が主体となっている活動の事例
熟年者施策における協働の事例をご紹介します。まず、「くすのきクラブ」があります。江戸川区は、くすのきを区の樹木としています。「くすのきクラブ」は、60歳以上の熟年者を対象に、地域で相互の交流促進を図るために自主的に結成された組織です。江戸川区では、「老人クラブ」という言い方をしないで、「くすのきクラブ」と言います。クラブ数は207、都内で第2位です。登録会員数は1万9,202人で、都内で最多です。江戸川区では、65歳以上の方は現在12万を超えていますけれど、要介護の認定を受けている方が13%いますから、それらの方を除いても、このクラブ数と会員数はかなりの組織率です。「くすのきクラブ」は、清掃・リサイクル、ふれあい・友愛、見守り、安全パトロール等の活動を行っています。
もう1つ、江戸川区で代表的なものに「リズム運動」があります。熟年者の健康の保持、仲間づくりのために、社交ダンス(マンボ・ルンバ等)を独自にアレンジした軽運動で、江戸川区のみで実施しています。
さらにもう1つは、熟年者によるボランティア活動です。先ほど、社会参加活動事例として内閣府から表彰を受けた「江戸川シニアパソコン・ネットワーククラブ」もその1つで、自分たちが熟年者にパソコンを教えていこうというグループです。会員数は387人、平均年齢は72歳です。
○熟年者を中心に区民が主体となっている活動の事例
熟年者施策における協働の事例のなかで熟年者を中心に区民が主体となっている活動の事例として、2004年に江戸川区が立ち上げた総合人生大学があります。北野 大(まさる)氏が学長をしています。総合人生大学は、これから地域のボランティア、社会貢献をしようという方々のはじめの一歩の扉を開く生涯学習機関です。定年退職をしたら地域で何かをしたいと思っても、最初はきっかけづくりが難しいので、区民との協働の象徴として、江戸川区がつくりました。この大学は、学習成果をボランティア活動として実践するところが特徴です。2年制でございまして、1学年100名、授業料は年間3万円です。
また、「アダプト活動プログラム」というものもあります。江戸川区には、公園や樹木等がたくさんありますが、そういう公園や道路の樹木は自分たちの財産なのだから自分たちでちゃんと世話をしようという制度です。区内に450余りある公園の世話を全部公費で行うのは大変ですので、住民の皆様に清掃活動や花壇等世話をしたりしていただいています。
○地域が主体となっている活動の事例
次に、地域が主体となっている活動の事例として、「すくすくスクール」というものがあります。江戸川区にある小学校全児童数の70%が登録しています。学校の放課後を使って地域の方々と触れ合うのが「すくすくスクール」です。学童登録をしている子どももそうでない子どもも皆一緒です。子どもを中心にして、その周りを地域、学校、家庭、教育委員会が一体となって、子どもの創造性・自主性・社会性などを養い、豊かな人格形成を育もうとするものです。多くの熟年者もボランティアとして参画しています。
また、江戸川区には、中学2年生を対象とした「チャレンジ・ザ・ドリーム」と名づけられている活動もあります。江戸川区の全中学校33校の2年生全員が区内のいろいろな事業所へ行って、5日間職場体験をするプログラムです。これは、地域の皆様の協力がなければ絶対できません。3日目まで朝の挨拶もできなかった生徒が4日目にはきちんと挨拶できるようになりますから、この5日間というのがポイントだと言われております。
○子どもが主体となっている活動の事例
子どもが主体となっているユニークな活動事例もあります。「お背中流し隊」というもので、小・中学生が「敬老の日」に区内にある50ヵ所のお風呂屋さんへ行き、熟年者の背中を流すという取り組みです。
○事業者や団体が主体となっている活動の事例
大きなお風呂に入るのは非常に気持ちがいいし、家から出ていかなければならないし、銭湯で人と会いますからコミュニケーションの場にもなります。そこで、江戸川区は2001年に、熟年者の健康増進と引き籠り予防のために、「健康長寿協力湯」という制度をつくりました。これは、区内の50軒のお風呂屋さんに入浴証を提示すると半額料金の220円で、年間何回でも入浴できるという制度です。昨年は延べ113万回の利用がありました。
○熟年者住まいのボランティア、住宅改造事業
江戸川区には、65歳以上の一人暮らしや熟年者を対象に、区内の大工さんが工賃無料で家の中を修理してくれるボランティアがいます。また、熟年者の住まいの改造助成の制度もあります。これは、日常生活で介助を必要とするようになった60歳以上の熟年者で、施設にもなかなか入るのが難しいような場合に、住まいを改造する費用を区が助成する制度です。介護保険のほうで20万円まで、本人は1割負担ですが、これを超えたに部分については、江戸川区が負担します。金額の制限は設けておりません。施設に入所されるより公的負担も節約になりますし、何より自宅にいたいというご本人の要望に叶うからです。
○安心生活応援事業
江戸川区では、見守りの体制もつくっています。民生・児童委員、地域包括支援センター、区が熟年者に対する「目配り」をする一方、ふれあい訪問員、新聞販売店・仕出し弁当店等の事業者をはじめとする協力機関の人たちが熟年者の日常とは異なる状況に気づいたならば、その「気づき」が「目配り」の機関に通報されるシステムになっています。それぞれの地域全体で、熟年者の方への温かく、さりげない見守りの輪が形成されています。
いろいろ述べてきましたが、熟年者の皆様にとって健康が一番だと思います。でもいくら健康に気をつけていても人間ですから、どこかで病気になります。そのときは地域で助け合うことが大事です。そして、熟年者の方々に1日でも長く地域に出てきて、元気な顔を見せていただきたいと思っております。それが必ず江戸川区の次の活力につながっていくと信じております。
吉田:「自治体と地域の協働」について、興味深い活動をわかりやすくご紹介くださり、誠にありがとうございました。
引き続いて、横浜市地域福祉保健部長の徳田さんから横浜市の活動についてお話をいただきたいと思います。
それでは、徳田さん、よろしくお願いします。
◆徳田 文男 (横浜市健康福祉局地域福祉保健部長)
○横浜市における地域の福祉保健推進のための仕組みづくり
徳田:横浜市の徳田です。私ども地域福祉保健部は、地域の福祉保健を推進していく役割を担っているところです。
午前中、内閣府の内野審議官から、今年の「高齢社会白書」の内容は、高齢者の居場所と出番づくりを進めること、孤立を防止していくこと、さらに現役のときから健康づくり等高齢化に向けて備えるという3つの方針で組み立てられているというお話がありました。「健康戦略」につきましては、先ほど企画課長が話しましたので、主に高齢者の居場所と出番、並びに孤立を防ぐ観点からご報告をさせていただきたいと思います。
○地域福祉保健の使命
私は、地域福祉保健の使命というのは、地域に暮らす方々の「生力(せいりょく)」、つまり「生きる力」を醸成し、伸ばすことを支援することにあると思います。人は一人で生きていけないので、つながりをつくり出すことが大事です。そういうものが今の社会に欠けていますので、そうしたつながりをつくっていくことが、地域福祉保健では最優先すべきことではないかと思っています。
○地域福祉保健計画とその策定に当たっての留意点
それでは、地域保健福祉計画に関連して、4つのことをお話させていただきたいと思います。これは社会福祉法にもとづく行政計画です。市の計画で方針を出して、区ごとに計画をつくっていくもので、単に行政がつくるのではなく、地域が主体で、それに社会福祉協議会、地域ケアプラザ、それからの区役所の3者が連携して、一緒になって地域の課題を明確にし、それに向けた解決策について考えていこうとするものです。地域福祉保健計画の推進は、現在2期目に入っています。横浜市の特徴は、区ごとにつくるだけではなくて、全部で236ある地区それぞれが、主に連合町内会の単位で地区別計画をつくっています。この地区別計画の策定は、地域の方々主体に課題を出し合って、それへの取り組みを計画に盛り込んでいくというかたちで行われています。
地域福祉保健計画をつくるに際に、横浜市として、3つの柱立てを行っています。
柱の1つ目は、地域づくりを進めるために、今お話ししました地区別計画をつくることです。
柱の2つ目は、必要な人には必ず支援が届く仕組みをつくることです。困っている方はなかなか自分で助けて欲しいことは言えない。困っている方を把握して必要な支援につなげていく。その支援が不十分であれば、新たな支援を開発していこうというものです。
柱の3つ目は、担い手についてです。担い手不足の問題がどこの地域でも課題としてあるからです。そこで、担い手の裾野を広げて、できるだけ多くの方々に参加していただこうと、うまくいっている自治会、NPO、ボランティア団体の代表者に集まっていただいて、いろいろな担い手をつくりだし、広げていただくための提言をいただきました。昨年末にそれに基づいて「人が集まる!活動が動く!地域活動のヒント集」を作りました。横浜市健康福祉局のホームページにも出ています。珠玉の言葉がその「ヒント集」に掲載されていますので、是非ご覧いただきたいと思います。
このような柱立ての下に、現在計画を地区単位、区単位、市単位で進めているのが1番目です。
○地域ケアプラザ
2番目は、横浜市が日常生活圏域に「地域ケアプラザ」という3つの役割を持っている拠点を整備していることです。
地域ケアプラザの役割の1つ目は、地域の身近なよろず相談所です。かつては高齢者への対応が中心でしたが、現在は障害者の方や子育ての悩みの方にも幅広く対応しています。
2つ目に、地域の保健福祉活動の拠点であることです。地域には、サロン活動、配食活動、見守り活動等さまざまな活動が行われていますけれど、そうした活動を手助けする、あるいは担い手をつくるための講座を開く拠点です。
3つ目は、地域包括支援センターの機能を持つことです。地域包括支援センターは、平成18(2006)年に国の制度によって創設されたのですが、横浜市は、幸いにも地域ケアプラザを整備してきた関係上、同センターをスムーズに導入できました。同センターの役割は、高齢者を中心とした相談・支援、介護予防や認知症予防、そして成年後見の活用と高齢者虐待防止です。こうした役割を継続的包括的に行うために域内のケアマネジャー、事業所、民生委員といった方々のネットワークづくりが必要です。
この3つの役割を持つ「地域ケアプラザ」を中学校区ごとに設けまして、専門の社会福祉士、保健師、看護師、ケアマネジャーを配置し、出張相談からいろいろな活動の応援まで行っています。地域包括支援センターの機能と地域活動交流の機能を併せ持つのは、横浜が進めてきた独自の施策で、全国的にもあまり例がありません。
○75歳以上の単身高齢者の見守り活動の推進
3番目は、そうした地域ケアプラザと、 横浜の4,000人の民生委員さんが連携して、75歳以上の単身高齢者の見守りを進めることになったことです。従来から、単身高齢者の方の見守りは地域の方々が、民生委員さんを中心に行っていましたが、個人情報保護条例で本人の同意がなければ情報は出せないということがネックになっていました。そこで、今年の3月に個人情報保護審議会の承認を得て、この秋からモデル事業を行い、民生委員さんや地域包括支援センターに個人情報をお出しし、市内に約11万人おられる75歳以上で、単身で生活されている方々の状況を把握したうえで、支援が必要な方には地域包括支援センター、または区役所につないでいく、あるいは地域の配食活動、サロン活動、見守り活動を行っているところにつないでいくことにしました。
○市民後見人の養成
最後に4番目の市民後見人の養成です。先ほど堀田先生からお話がございました。全国的に見ても、成年後見制度の利用はまだ十分とは言えません。横浜でも要介護認定を受けている方の半分が認知症であるというデータが出ていますけれど、特に認知症の方、もしくは単身高齢者の方、または障害者の方について、まだ十分成年後見人が選任される状況にはないと言えます。全国的に見ても、親族が約6割、残りは弁護士、司法書士といった、いわゆる専門職ですが、専門職のマンパワーが不足しています。横浜市は現在委員会をつくって、市民後見人の養成を検討しています。来年度は市の社会福祉協議会が中心になって、社会貢献の希望を持っている方に積極的に応募していただいて、社会福祉協議会で研修をさせていただき、それで実務経験を経たうえで、地域福祉の担い手の一人として、見守り活動と連携して成年後見人になっていただき、権利擁護をしていきたいと思っています。
吉田:それでは次に、地域で支え合う仕組みのあり方や考え方について、堀田さんから基調講演とも関連して、お話をいただきたいと思います。
◆堀田 力 (さわやか福祉財団理事長)
堀田:先ほど原野さんからご紹介いただいた熟年とういうのはいい言葉ですね。
素晴らしいお話が続いていますが、午前中私が基調講演で申しあげたのは、熟年になっても、自分のため、家族のため、そして、若い人たちと連携を深め、共感を持てるように、自分の能力を活用して何か活動をしましょうということでした。それでは、どういうところで活用するのか。横浜と江戸川では、行政がいろいろプランを立てられて、いろいろな活動を展開されていました。特に、江戸川では非常に多彩で楽しい活動を展開されています。でも、私たち全員が江戸川区に住んでいるのではありません。
○自治会の退潮とNPOの台頭
さて、嘗てはNPOなんてない時代でしたから、地域のことは、元々は自治会でみていました。この自治会は、会長さんが厳めしいおじさんでした。高連協(高齢社会NGO連携協議会)の共同代表の樋口恵子さんの回想によりますと「草の根封建おやじ」、これが自治会長で沢山いた。生活のことが全然分かっていないで、あれやれ、これやれと回覧板を回してくるのと、昔からの赤い羽根共同募金等の寄付を集めに来るなど、面白くないことばかりでした。
このような自治会ではかなわないと逃げ出す方が多くて、地域活動が殆どなくなったところが多くなりました。1990年代になると、その反動もあって、急激に出てきたのがNPOでした。現在、いろいろなNPOが出てきていて、全部でもう40,000を超えています。公益法人は、100年もかかって25,000ですけれど、NPOは、10年ちょっとで40,000を超え、凄い力を持っています。
○NPOと地域の課題を解決するための組織
NPOは、自分の力を生かして地域の皆様のために役立つ絶好の団体です。何といっても一番いいのは好きなことを行えることです。NPOはテーマ解決型ですから、その活動内容はそれぞれ多種多様です。だから、自分の好きなテーマのNPOに入ることが長続きの秘訣です。ときどきNPOのなかには、リーダーに厭な奴がいて、会社で出世し損ねたので、NPOで出世してやろうという人間がいたりします。そういう人間がいるNPOからは、さっさと逃げ出すことです。
ところで、NPOの活動範囲は大体地域よりも広く、また、NPOの課題だけでは、地域の課題も解決できません。地域の課題は、嘗ての自治体型か、町内型かがいいということになりかねませんが、やはり問題があるので、このごろでは、地域の方々が、地域の課題を解決する協議会等の組織をつくって、いろいろある課題を何でも解決しようとするものが生まれています。神奈川県だと、湘南地区がこういう取り組みを行っています。地域の全問題を篩(ふる)い出して、解決していくこのやり方だと、確かに地域は住み易くなりますが、注視していますと、そういうやり方はあまり長く続かない。やはり、あらゆる問題に取り組み続けるということは、余程そのまちが好きでないと、なかなか続かない。
○地域の課題解決に向けた新しい仕組みの登場
あらゆる問題を解決する素晴らしい地域があるのだけれど、ちょっと続かないなと思っていたら、その後同じ課題をやろうという地域の人たちが集まって協議会をつくって、NPOではないけれど、地域において特定テーマを自分たちで取り組もうというケースが出てきました。このように、NPOのテーマ型と地域型とを合わせたような地域問題への取り組み方が結構出てきました。江戸川区もまさにこの型だと思いますが、これは非常にいい。好きな人が取り組むのだし、地域もよくなるし、結構続きます。それをうまく行政が後押しをするならば、長く続くのではありませんか。たとえば、東北の横手市や湯沢市のあたりは、地方協議会に予算をつけていますよ。このやり方は、名古屋市長の河村さんが始めたものです。横手市や湯沢市は、地方協議会に2,000~3,000万円も市の予算をつけています。そして、地方協議会は、たとえば、雪下ろしなど、地域の課題に応じて勝手に使ってよいことになっています。
このように、やることは住民が選ぶ。地域の皆がやりたいことをやる。金は行政がちゃんとつける。いまや、そこまで進んできています。自分の好きなことをしながら、市のためにも、地域のためにもなるやり方が出てきているのです。さらにそれとNPOとが協定し、課題のある部分についてはNPOに分担し、その分予算を分けてあげるという上手な予算の使い方をしているところもあります。このやり方は長持ちしていますし、今後も続くと思いますね。
○皆で、楽しく、仲良くいいまちづくりを目指そう
何故続くのか。人柄とかいろいろありますけれど、何かあると一緒に飲んだり、食べたりしています。何にもやらなくても飲んだり、食べたりしています。集まって、ああでもない、こうでもないと議論をし、自分たちのあげた成果をお互いに述べ合いながら、いい気分になって、仲良くなって、このまちが好きになる。随分いろいろな活動が動き出しておりますので、いろいろなところを見て、中に入って、押したり、引いたりして、いろいろ楽しくやりましょう。皆で仲良く、いいまちをつくりましょう。
〔質疑応答〕
吉田:それでは、これから会場の皆様方と共に討議を行いたいと思います。馬先生にも加わっていただき、4人のパネリストの方に対し会場の皆さまから質問や意見を頂戴し、パネリストの方からそれについてお話しいただくことで進めたいと思います。
質問者1:横浜在住です。地域で見守り活動を行っています。基調講演で堀田先生がお話しされた高齢者の義務についてのご意見に同感です。私たちは、健康で、就職の心配もなく、年金もいただいています。よく考えると貴族です。だから、ノブレス・オブリッジで、恵まれた状態は地域に返さないといけないと思います。ただ、NPOに参加しようと思っても、具体的にどうしたらいいか分からないことがあります。この点について、堀田先生からアドバイスいただければありがたいと思います。
堀田:素晴らしいご意見をうっとりして聞いていました。たしかに、さて気持ちはあるのだけれど、どうやっていいか分からない、という人が結構おられるのですよね。そのうち、大半はそう言っているだけで、その気はないのです。ですから、気持ちがない人にはなかなか難しいのですが、少しでも気持ちがあれば、やはり好きなことをやるのが一番です。好きでないと長続きしません。こう言うと、女性の方は皆さん好きなことがいろいろあるので問題ないのですが、男性の場合、特に大企業とか、公務員とかのホワイトカラーだった方は問題です。大体仕事一筋できたため、仕事が終わると、お姉さま方のおっしゃる「濡れ落ち葉」とか、「粗大ゴミ」とか、「産業廃棄物」とか言われるようになってしまいます。「好きなことは何ですか」と聞くと、好きなことがないのです。そういうときには、私は、思春期のころに自分がこういう風になりたいなと憧れた職業とか人とかをその人に尋ねます。思春期は、その人の心が大人になる時期ですから、その時期に憧れた職業や憧れた人の職業は、その人に向いていると思うのです。ですから、王、長嶋になりたかった人は少年野球のコーチをやればいい。看護師さんになりたかった人は高齢者のお世話が上手ですし、ケーキ屋さんになりたかった人は熟年配食をすればいいかもしれない。だから、思春期を思い出してもらい、そのラインで考えてみると、道が見つかるかもしれません。
質問者2:金沢区で高齢者の方の支援をしているNPO法人の代表をしています。堀田先生がお話になられた行政が地域協議会を支援している事例を聞いて、元々無理と思っていましたが、質問の手を挙げさせていただきました。高齢者の独居世帯、精神障害のかたの安否確認を始めてから17年目を迎えます。当初助成金をいただいて育てていただきましたが、あるときこれ以上1銭も出せないと言われ、助成金が打ち切られてからしばらく経ちます。団体の事務経費や相談員の交通費が出せるようにすることが、当団体の事業の継続に繋がると考えています。不用品の収集や相談員として身につけた研修技能を活かした出前研修等で、僅かですけれど収入をはかるなど、いろいろな自助努力をしながら、活動を行っていますが、もう少し行政がNPO法人の地域活動を支援する道を考えていただきたいなと思います。
堀田:徳田さんが聞いておられたので、発言されただけで非常に意味があると思います。行政の支援は税金で行うものですし、やはり限りがありますから、どうしてもずっと行うのは難しくて、できるだけ自立して欲しいということは基本的にあります。自立することは、大事なことですけれど、お金が入ってくるはずのない事業ですから、他からお金を集めるしかない。なかなか他から集めるのは難しい。それでいろいろご苦労されているわけです。しかしながら、たとえば、いろいろなご相談を受けておられますが、それは先方が困って相談されることですから、これは、行政にとって、一番何とかしなければならない、しかしなかなか入ってこない情報で、孤独死に至る情報等行政が本来何とかしなければならないけれど、その行政すら入ってこない、最先端のところの情報です。そこで、「行政が対応しなければならないけれど、行政が集められないニーズを私たちが集めております。これは行政の仕事ですから、情報収集代について負担していただけないでしょうか」と、行政の費用のなかで予算を組める部分ですから、情報を必要とする行政に買ってもらう方法もあります。研修についても、行政職員の新人研修として「市民と協働する研修のあり方」について行政職員を対象に研修を請け負われる方法もあります。だから、なかなかお金が入ってこないのですけれど、いろいろ工夫をして集めましょう。それで、寄付文化をさかんにしましょう。
徳田:私どもも、NPOの方から活動にあたっての困難をお聞きします。先ほど申し上げた、担い手の話、拠点、それから資金の3つが非常に大きいネックだと思っています。私ども社会福祉協議会を通じた「ふれ合い助成金」といった制度もありますので、あとで個別に事情をお聞きし、どういう支援ができるかについてご相談したいと思います。
私は、堀田先生がおっしゃった、把握することが一番の出発点で重要なことだと思います。平成22年の国勢調査によれば、都市部のほうが地方よりも単身者の率が高く、横浜市では75歳以上は5人に1人が単身者です。単身者の方は、「何かあったときに誰に相談すればいいのか、どこで相談すればいいのか、どのようなサービスがあるのかが分からない」ということが問題です。また、障害者の方も、親御さんが亡くなられたあとが最大の問題で、市は、「親亡き後の安心」を障害福祉施策の重要な柱に据えて、その計画に取り組んでいるところです。そうしたお困りを抱えている方がひどい状態になるまえに、把握して支援させていただく仕組みをいかにつくるかが、「孤立化社会」、「単身者急増社会」の中で大事だと思っています。これは、地域、NPO、ボランティア等の協力なしに行政だけでできることではありませんので、連携して取り組んでまいりたいと思っています。よろしくお願いいたします。
質問者3:緑区からまいりました。12年間地域で車椅子を押したり、車を出して病院や施設等の送迎の手伝いをしたりする等地域から求められたら何でもやるボランティア活動をしている団体の代表です。活動をしての悩みが、2つございます。1つは、団体のメンバーは、70歳代が多く、60歳前後の若い方になかなか入ってもらえないことです。もう1つは、運転資金が少ないことです。毎年申請してなにがしか頂戴できているのですが、これを有効に活用して、活動を発展させたいと思っています。徳田部長さんにアドバイスをお願いします。
徳田:横浜市は現在124か所の地域ケアプラザを整備、運営しており、そこを拠点に人づくりを行っていまして、プラザで講座を開催したグループが障害団体と連携して、障害児の方の放課後の居場所づくりを定期的に開催するようになった事例とか、それからプラザと学校が連携して、中学校の子どもたちのボランティア活動を体験する企画をしたところ、それを通じて横浜市で小学校で放課後の居場所づくりに関わることになった例があります。そのように、既存の拠点を利用して地域で活動されている方と連携して熟年世代の活動の場について情報提供して、1人でも2人でも参加者の裾野が広がるように取り組んでいきたいと思っています。運転資金については、非常に頭を痛めています。社会福祉協議会に基金があるのですが、今低金利なので運用利息は殆ど出ません。そのため、市が地域の方に隈なく運転資金なり、立ち上げ資金なりを提供することが今の時代非常に難しくなっています。しかし、資金繰りについては、知恵を出してお金がうまく地域で循環するような方策を考えていきたいと思います。今後とも、人づくりや裾野を広げることに取り組んでいきたいので、よろしくお願いします。
原野:ヒントになるかどうか分かりませんが、他の自治体にもあると思いますが、江戸川区ではシルバー人材センターに60歳以上の方4,000名が登録いただいております。基本的に一番多いのは、中古自転車をつくったりとか、襖の張替えをしたりするとか、ちょっとした軽作業や清掃をしたりするとかが多いのですが、実は自分は大企業でずっと経理の仕事をしていたとか、パソコンだったら相当なレベルですよという方が登録されています。でも登録されても地域の需要がないとその方の働く場がないわけです。それでは折角の能力がもったいないので、シルバー人材センターの元々の意義は、能力を地域で活用していただいて、なにがしかの所得を得ることでございますので、いま年間全体で12億円ほどの売り上げを得ているなかに、いま大変ヒントになったのですが、お手軽なお手伝いチームをつくっておくと、車の運転ができることや車椅子を押せること等自分たちができることをチームとしてPRすることによって、地域にその需要があったときに、それに対応できます。1つ仕事が来るとなにがしかの所得も入ります。そういうことがうまく組み合わされると、1つの団体の活動というよりも今後の社会のなかでは、組み合わせによっては地域が地域を活性化することになるかなと、いまお話を伺っていて思いました。
質問者4:千葉県の流山から来ました。自治会活動をしてきました。いま、市との「コミュニティづくりの協働」に取り組んでいます。私の意見を述べますとともに、堀田先生にご質問をさせていただこうと思います。
嘗て自治会が取つき難く、それでNPOが出てきた事情は承知しているのですが、現在は状況が違うと思います。高齢社会に対応するために何かやりたいと思うときに、自分の一番身近にあるのが自治会活動だと思うし、横浜にせよ、江戸川にせよ、行政がいま一番住民に訴える窓口は自治会だと思います。自治会を通すと、行政はすべての住民に訴えることができます。いま、地域の課題を解決するために、自治会、NPOならびに市民団体から成る「まちづくり協議会」ができ、NPOが活発に活動していますが、地道に進めるためには、やはりもっと自治会を活用すべきではないかと思います。自治会はまた、それを求めています。それができなければ、やる気のある人が入って、リーダーになって自治会を変えていけばいい。また、行政は自治会をフル活用して、高齢社会に対応できる地域を構築していくことが必要ではないかと特に強く感じています。
それから、堀田先生が基調講演で述べられた「地域包括ケアのまちづくり」ですが、現状と今後について教えてください。
堀田:ありがとうございます。ご意見は全く賛成です。流山は、1980年代の高速道路を通すことへの反対運動を通じて自治会が非常に大きな力を発揮して、以後自治会が実質NPOのような、協議会のような素晴らしい活動を展開しておられると思います。私が申しあげた形式的に上から言われて、ただ回覧板を回すような自治会ではなく、おっしゃるような自治会にその組織を実質的にしていくことが非常に大事なことだと思います。全面的に賛成です。
「地域包括ケア」については、介護保険制度の5年目の改正のときに、もっと自宅で、介護を受けられるような仕組みにしたいという考え方が出てきて、それが熟してきて、10年目の改革のときに、しっかり24時間365日サービスを中核に置いて、この制度を介護保険制度に取り入れるという意見が通り、今年の5月にその施行のための法律も通りました。もちろん、これに反対する施設事業者等もいますけれど、厚生労働省としては、もう法案も通して、今年から全国37地区でその試行が始まっています。横浜は入っておりませんが、神奈川県では小田原は入っております。東京都では、新宿と世田谷が入っております。千葉県では銚子が入っています。このように、北海道から九州までその試行が始まっておりまして、その間に利用者にとって、その尊厳を守るために非常にいいし、事業者にとってもしっかりやれるんだということが実証されつつありますので、来年度はもう4月から本格施行に入るところまできています。これも法律ができておりますが、本格施行も手挙げ方式ですので、手を挙げていただかないと、住んでいる地域はこれが実現しないという、そういう対応の仕方です。手を挙げる市にとっては365日24時間しっかりサービスするというのは、ちょっと恐いけれども、全部やらなければならないということではないので、思い切って住民のためにどんどん挑戦してくれることを願っています。これは皆様の尊厳への願いを込めた制度ですから、必ず発展していくと私は信じております。被災地でもこの仕組みを少しずつ拡げていますので、皆様に喜んでいただいております。
馬さんに質問をしたいと思います。馬さんのいらっしゃる上海に寄せていただいて、人口問題の学者の方々とも協議しました。そこで、私は、日本は高齢化が一番進んでいるモデルであるが、いいモデルとは言えない、と申しました。どうしてかと言えば、高齢化が進んだときも、60歳定年を変えないで、まだ働ける方を働く場から締め出しておきながら、それを支える仕組みをつくったからです。もっと働きたい人は働けるような仕組みをつくりながら、支えなければならい方は支えるというふうに、スムーズに移っていって欲しい。馬さんの本日の説明にもあるように、中国は、本当に自立意欲が非常に強い。自立意欲を失わずに高齢者の働く場を拡げながら、支える仕組みをつくられたほうがいいと中国の方々に申しあげました。高齢者の働く場があることは、私も見学させていただきましたけれど、その後もしっかりその点は維持されていますかどうか、そのあたりの最近の状況をお伺いしたいと思います。
馬:中国は、1979年に高齢社会に入ったのですけれど、是非高齢者には仕事の場を提供しようと考えました。1980~1990年には国有企業が退職高齢者を対象にした老年事業会社をつくるのが多かったのですけれど、企業は競争社会になって、良いものは残り、親会社に頼っていた会社は消えています。最近の退職者企業は70歳まで仕事ができる高齢者の働く場を目指しています。
欧米とは異なり、東アジアの国々では、皆、健康維持のため、あるいは社会貢献のため、死ぬまで仕事をしたいのです。かつては上海に1万以上の退職者企業がありました。高齢者の働くことの主目的は、「健康づくり」と「生きがい」、それと「老後の生活費の補充」です。
また、上海は金融センターづくりや第三次産業を発展させることに重きを置いたため、多くの企業が倒産し、40代、50代の人たちが失業しました。そのため嘗て高齢者の受け皿のためにつくった退職者企業は、高齢者がそこで管理者となる一方、失業した若い人たちを受け入れて働かせるという、若い世代にも仕事を提供する大きな役割を果たしています。
吉田:はや、予定されている時間が来たようです。
まだまだ続けたいところですが、これにて「高齢社会フォーラム・イン横浜」の第1分科会を終了させていただきます。
会場の皆様、本日は長時間誠にありがとうございました。