安沢 直次さん
~簿記実務教育と人間教育に64年間~
名前(年齢) | やすざわ なおじ 安沢 直次さん(89歳) |
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地域 | 東京都墨田区 |
活動概要 | 終戦後間もない昭和24年に、戦災で家族を亡くし学校に通えない子どもたちの学びの場を作ろうと自宅を開放して私塾を開いた。その後、現在まで64年以上ボランティアで人間教育と簿記実務指導を行っている。 |
表章の類型 | 自らの時間を活用し、近所づきあいや仲間うちなどでの支え合い活動に積極的に貢献している事例 |
キーワード | そろばん塾/簿記講習/地域の清掃 |
(注)年齢は、平成25年4月1日時点
活動のきっかけ
高校教師の経験をいかしてそろばん塾
昭和24年(当時26歳)、終戦後の墨田区は、空襲の傷跡が残る地域であり、家族を失い学校にも通えない子どもたちがたくさんいました。母親に「あなたは、あの子たちを見ても何も思わないの」と問われたことがきっかけとなり、自宅の製材所の一角を開放して「読み書きそろばんを教えよう」と手書きのチラシを配ったところ、48名の子どもたちが集まったのを機に、高校教師でもあった経験をいかしてそろばん塾を開設しました。
この取組を噂で聞いて、仕事のために簿記を習いたいという大人たちも参加するようになり、昭和37年(39歳)に「厩橋(うまやばし)簿記講習会」を発足させることにしました。やがて教育制度も整備され、子どもたちも学校に通うようになり、そろばん塾の受講生は大人の簿記講習会にとって代わりました。
活動内容や現在の活動状況
64年間に7,572人の卒業生
昭和48年(50歳)に、区内の信用金庫に会場を移し、毎週木曜日と金曜日の2日間、午後7時から9時までボランティア講師として講義をしています。高校生以上で勉強する熱意のある方であれば、老若男女を問わず、誰でも会員になれます。但し、自営業者かその家族の方で青色申告会に入会しているか、入会することを前提とする方に限し、教材費と懇親会などを開く運営費(通信費、事務費、一般行事費)として毎月2,000円を要する)。毎年4月から翌年3月までのカリキュラムが組まれ、卒業試験で70点以上であれば合格です。卒業時には決算書や確定申告の作成能力が身に付きます。受講者は、20代から80代の中小企業経営者や弁護士、税理士、医師など幅広い職種と年齢層からなっています。毎年40人ほどの受講生が卒業していきます。平成24年3月末で7,572人が卒業しています。
安沢さんは、受講生の人間関係が、「1学期はお互い『知人』、2学期は『友人』、そして3学期は『同士』とどんどん深まっていく様子は、何よりも人間としての成長の証です」と、教えることに誇りを抱いています。簿記を学ぶことは入り口にすぎず、たくさんの人に出会って、人間の幅を広げていくことを期待しています。
ポイント、工夫している点
卒業生を中心とする研究会
授業とは別に、安沢さんの講習会の卒業生が集まる研究会を月2回開いています。それぞれの悩みや疑問を相談し合うために、毎回100名以上が参加しています。回答するのはその分野に詳しい卒業生で、税理士、弁護士、医師、経営者などです。「事業がうまくいかない」、「遺産相続で兄弟がもめている」、「離婚を考えている」などさまざまです。「娘が交通事故に遭った。どうすればよいか教えてほしい」と打ち明けた相談者に、卒業生の弁護士が交渉を買って出て課題が解決したという事例もありました。
その他の活動
人の心を変える「ほうきおじさん」
安沢さんは地域で「ほうきおじさん」と呼ばれています。毎朝5時に起きて家の周りを1時間くらいかけて掃除をすることを習慣としているからです。終戦後、敗戦を経験してみんなが沈んだ気分に陥っていたとき、空襲で汚れたまちをきれいにすれば、心も変わるだろうと思い、始めました。