高齢期における生活の質を高く維持するとの観点から,高齢者の健康状況は極めて大きな影響を有するものと考えられる。
60歳以上の者を対象とした「健康に関する意識調査」(平成9年)(総務庁)をみると,約4分の3は,健康の維持増進に心がけており,多くは食事・休養・運動の健康の3大要素に気を付けている。
65歳以上の高齢者の推計患者数は,「患者調査」(平成8年)(厚生省)によれば,入院が約77万人,外来が約276万人となっている。65歳以上の高齢者人口の10万人当たりの推計患者数の割合を示す受療率は,入院が4,058,外来が1万4,509となっている。受療率を都道府県別でみると,入院では,高知県が最も高く,最も低い長野県の約2.9倍,外来では,広島県が最も高く,最も低い沖縄県の約2.3倍となっている。
65歳以上の高齢者が入院した際の平均在院期間を「患者調査」(平成8年)(厚生省)でみると,63.5日で,全年齢の40.8日の約1.6倍となっている。
70歳以上の高齢者の1人当たりの老人医療費は,「老人医療事業年報」(平成8年)(厚生省)によると,約78万円となっており,国民1人当たり医療費約23万円の約3.4倍となっている。
高齢者に多くみられる疾病として,がん,脳血管疾患,心疾患,高血圧性疾患,糖尿病などが特徴的なものとして挙げられる。
長寿化に伴い「健康寿命」(寝たきり等にならず健康に生活できる期間)を伸ばし,高齢期の生活の質を高めていくことが重要となっている。
近年,「生活習慣病」という考え方のもと,若年期からの生活習慣を健康的なものとし,病気の発症そのものを予防することが重視されてきている。
政府においては,これまで生涯にわたる健康づくりを推進してきたが,10年度からは生涯を通じた健康づくりの推進及び生活習慣病の予防等の観点に立ち,総合的かつ包括的な国民の健康づくりのための具体的な達成目標と手順を示した「健康日本21」計画の策定について検討を行うなどの取組を進めている。
若年期からの健康づくりは,「健康寿命」を伸ばし,高齢期を充実した実りあるものとすることにつながると考えられる。
一般会計予算における高齢社会対策関係予算は,平成10年度においては9兆932億円,11年度においては10兆2,890億円となっている。
施策・事業の主な予算額(平成11年度)をみると,国民年金及び厚生年金保険 (国庫負担分)が5兆390億円,老人医療費の確保が3兆8,611億円,老人保護事業(特別養護老人ホーム等)が4,453億円,在宅サービス事業が3,032億円などとなっている。
平成10年度に推進された高齢社会対策について,主な動きを挙げれば次のとおりである。
高齢者の知識・経験を社会において活用するとともに,年金制度の改正に合わせ,60歳台前半の生活を雇用と年金の連携により支えることが課題となっていることを踏まえ,公務員制度を高齢社会に対応したものとするため,国家公務員法等の一部を改正する法律案を第145回国会に提出した。
改正法案は,国家公務員の定年退職者等の新たな再任用制度を,満額年金の支給開始年齢の引上げスケジュールに合わせて段階的に導入し,最終的に65歳までの在職を可能とすること,短時間勤務の制度を設けること等を内容としている。
また,国との均衡を図る観点から,地方公務員についても,新たな再任用制度等を導入するための地方公務員法等の一部を改正する法律案を同国会に提出した。
男女共同参画社会の実現により,男女の人権が尊重され,かつ,少子高齢化等の社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会がもたらされることにかんがみ,男女共同参画社会の形成に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため,男女共同参画社会基本法案を第145回国会に提出した。
同法案は,男女共同参画社会の形成について,基本理念を定め,国・地方公共団体・国民の責務を明らかにし,政府による男女共同参画基本計画の策定等施策の基本となる事項を定める等を内容としている。
高齢社会への対応,高齢者福祉等の充実の観点から,痴呆性高齢者等の判断能力が不十分な者の保護を図るため,禁治産・準禁治産制度の改正等及び任意後見制度の新設を内容とする,民法の一部を改正する法律案,及び任意後見契約に関する法律案を第145回国会に提出した。
民法の改正は,現行の禁治産・準禁治産制度を,各人の判断能力及び保護の必要性の度合いに応じた柔軟かつ弾力的な措置を可能とする制度とするため,補助(新設)・保佐(準禁治産の改正)・後見(禁治産の改正)の制度に改めるとともに,社会福祉協議会等の法人や複数の者が成年後見人等となることを可能とし,成年後見人等の権限濫用を防止するために監督制度の充実を図ることなどを内容としている。
任意後見契約に関する法律案においては,本人が自ら選んだ任意後見人に対し,判断能力の不十分な状況における自己の後見事務について代理権を付与する任意後見契約を締結することにより,公的機関の監督の下で任意後見人による保護を受けることができることとしている。
また,これらの法律案の提出に併せて,制度を利用しやすいものとする観点から,禁治産・準禁治産の宣告を戸籍に記載する現行の公示方法に代え,補助・保佐・後見及び任意後見契約について新しい登記制度を創設する後見登記等に関する法律案を第145回国会に提出した。
平成4年(1992年)の国連総会において,1999年を国際高齢者年(InternationalYearofOlderPersons)とする決議が採択された。
国際高齢者年は,平成3年(1991年)の国連総会で採択された高齢者のための国連原則(高齢者の自立,参加,ケア,自己実現,尊厳)を促進し,政策や実際の計画・活動において具体化することを目的としている。
国連により,国際高齢者年のテーマとして,「すべての世代のための社会をめざして」(towardsasocietyforallages)が設定されている。これは,高齢化が,多次元,多分野,多世代等の多様な問題を含んでいるからである。
平成9年(1997年)の国連総会決議において,国連は,高齢化に対する人々の認識を高めるため,各国政府を含むあらゆる主体(民間団体,地方公共団体,企業,学校等)が国際高齢者年を活用するよう促している。
なお,国連では,毎年10月1日が国際高齢者の日と定められていることから,国際高齢者年に関する活動の開始時期を1998年(平成10年)10月1日からとしている。
我が国においては,平成10年3月に,国際高齢者年に関する諸活動を行っていくに当たって,関係行政機関相互の緊密な連絡を図るため,関係22省庁による関係省庁連絡会議を設置した。関係省庁連絡会議においては,10年7月,国際高齢者年における取組の基本的考え方について申し合わせたところであり,この基本的考え方に沿って,広報啓発活動,地方公共団体等への情報提供その他の国際高齢者年に関する取組を推進している。(表3−2−1)
なお,国際高齢者年については,高齢者に関する活動を行っている民間団体など国以外においても自主的な取組が進められており,様々な国際高齢者年関係事業が積極的に行われている。