第1章 高齢化の状況 第3節 人口減少社会における高齢者の能力発揮

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1 企業における就業

(1)「団塊の世代」の退職の影響

○ 内閣府が実施した「高齢者の社会参加の促進に関するアンケート調査」の企業調査によると、「団塊の世代」の退職による生産、販売等の企業活動への影響については「特に影響はない」が43.8%で、49.0%(「多少ある」、「かなりある」の計)の企業が何らかの影響があるとみている。
○ 「団塊の世代」の退職が与える企業活動への影響については、多くの企業は、コスト軽減や組織の活性化という面では肯定的にとらえており、その背景としては、「団塊の世代」層の人員数の多さに加え、年功的な賃金・処遇システムの存在があると考えられる。
  一方で、管理・指導者層の確保、専門・技術者層の確保、技術・技能の伝承といった面では懸念を抱いている企業も多い。その背景としては、近年の経済環境の下で、採用が抑制され、後世代への円滑な継承を意識した人員配置や能力開発が必ずしも計画的に行われなかったことが考えられ、より若い世代への円滑な技術・技能の継承の移転等は大きな課題といえる(図1-3-2)。

図1-3-2 「団塊の世代」の退職による影響(具体的内容)

(2)「労働力減少社会」に向けた企業の対応
○ 今後の労働力減少の下での「人材確保の困難度」については、「大きな変化はなし」とする企業が40.2%と最も多いが、「より困難になる方向」は34.9%あり、約3社に1社を占める。企業規模別にみると、企業規模の大きい企業ほど「より困難になる方向」との回答が多い傾向がある(図1-3-3)。

図1-3-3 人材確保上の困難

○ 「高齢者の活用」、「女性の活用」については、いずれも、「大きな変化なし」が最も多く(59.1%、63.1%)、これに対し、「拡大する方向」(24.0%、27.4%)は約4社に1社にとどまっている(表1-3-4)。

表1-3-4 今後の人材活用の変化の方向

○ これらの調査結果からは、多くの企業が今後の人口減少下での労働力の確保に対する問題意識を有しつつも、将来に向けて高齢者の雇用を拡大したり、定年制度を見直すといった方針には必ずしもつながっていない現状がうかがわれる。
  ただし、規模の大きな企業ほど、人材確保が「より困難になる方向」とする割合が高く、また、高齢者、女性等の活用について「拡大する方向」とする割合も高い。特に規模の大きい企業において、人材活用システムの大きな見直しが求められる可能性を示すものとみることができる。

2 ボランティア活動

○ NPO活動に対する高齢者の意識をみると、高齢者の47.3%はNPO活動に関心を有している一方で、実際に参加している高齢者は3.6%と少数にとどまっている。このことから、多くの高齢者が自らの知識や経験をいかした社会参加を望んでいるにもかかわらず、必ずしも具体的な活動には結び付いていない。
  高齢者がNPO活動に参加しなかった理由をみると、「きっかけや機会がない」が最も多く、「NPOに関する情報がない」との回答も上位を占めている。

○ 内閣府が実施した「高齢者の社会参加の促進に関するアンケート調査」のNPO調査によると、高齢者がNPO活動に参加するきっかけとなった情報の入手手段をみれば、参加者自身の身近な交友関係に依存する割合が突出して高い。今後、高齢者の参加ニーズとNPO側の人材へのニーズとをより円滑に結び付けることができるよう、情報の入手経路の多様化や、NPO側からの情報発信の強化を図ることが課題となるものと考えられる(図1-3-14)。

図1-3-14 参加のきっかけとなった情報の入手手段

3 地域における高齢者の活動
―高齢者による子育て支援―

○ 高齢者の社会参画については、就労やNPOを通じたボランティア活動以外にも、シルバー人材センターや老人クラブなどによる様々な活動がある。
  近時、地域で広がりをみせているのが、高齢者による子育て支援の分野である。例えば、シルバー人材センターにおいても、会員による乳幼児の世話や保育施設への送迎などの育児支援等を行う子育て支援事業を拡大しつつある。また、通学時の子どもの安全の確保に対する社会的関心が高まる中で、老人クラブ、シルバー人材センターによる地域における子どもの安全確保のための活動も活発化している。

・老人クラブにおける通学路等の安全確保の取組(所沢市長生クラブ連合会)
・シルバー人材センターにおける通学路等の安全確保の取組(荒川区シルバー人材センター)
・シルバー人材センターにおける子育て支援への取組(「親子のひろば のび~すく」:草加市)

  今後、我が国の活力を維持・増進していく上で、高齢者自身が、高齢社会の担い手の一員として、能力や経験をいかしつつ、一層活躍できるような社会を実現していくことが不可欠である。そのためには、
 ・ 高齢者を始めとする各労働者が、年齢にかかわりなく自らの希望等に応じて様々な形態での就労を通じて一層能力を発揮できるようにし、それにふさわしい公正な処遇を受けることができるようにすること
 ・ 良好なボランティア活動等の活動機会の拡大や情報提供の強化など、高齢者の参加意欲を具体化するための取組を強化していくこと
 などが必要である。


コラム 「高齢者による通学路等の安全確保の取組」

ア 所沢市長生(ちょうせい)クラブ連合会
 埼玉県所沢市にある「所沢市長生クラブ連合会」所属の老人クラブ(94団体)では、会員が防犯パトロールと併せて子どもの通学時の安全確保のための見守り支援を行っている。
 老人クラブの会員が、散歩、買い物などの外出時に、各々専用の帽子を着用し巡回するとともに、小学校児童の下校時間に合わせ、通学路の要所において児童の見守りを行うなど犯罪や事故の抑止に貢献している。


イ (社)荒川区シルバー人材センター
 東京都の「社団法人荒川区シルバー人材センター」では、荒川区及び荒川区教育委員会からの要請を受け、通学路を中心としたパトロール業務を請け負っている。
 パトロールは、区内23のすべての小学校ごとに各6名を下校時刻に合わせて毎日2時間、また、21の学童保育クラブごとに各4名を児童の帰る時刻に合わせて毎日2時間、それぞれ配置し、通学路等を中心に巡回を行い、児童の安全を見守っている。


「高齢者による子育て支援への取組」

○ 「親子のひろば のび~すく」
 埼玉県草加市のシルバー人材センターでは、国と草加市から財政支援を受けて、会員(10名。男性2名を含む)が育児の支援をする事業(親子のひろば のび~すく)を実施している。
 商店街の空き店舗だったところを活用しており、1日平均30~40組の親子(子どもは0~3歳児)が好きな時に訪れ、遊んだり育児の仲間を見つけたりしながらのびのびと過ごしている。スタッフである会員は、子どもの遊び相手になったり、母親の相談に応じている。


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