第1章 高齢化の状況(第3節3 事例集)
第3節 前例のない高齢社会に向けた対策・取組の方向性
事例集
(高齢者を地域で孤立させないことで犯罪被害、消費者被害防止に取り組む事例)
○専用110番電話を開設して悪質商法など高齢者被害の防止に取り組んでいる事例
東京都消費生活総合センターは、東京都消費者センター(昭和44年設置)を再編整備して平成9年4月に発足した。同センターは、相談受付、情報・学習機会の提供など消費者を支援する各種の事業を展開するとともに、都内の市区町村消費者センターの支援の強化にも取り組んでいる。相談者に、法令・関連資料等の情報提供、自主解決への助言を行うほか、事業者との交渉、あっせんも行っている。
東京都(市区町村への相談を含む。)の契約当事者が60歳以上の高齢者の相談件数は、28,933件(平成17年)となっている。不当・架空請求関連の相談が減少したため前年(32,223件)より約10%減少したが、高齢者の全相談に占める高齢者相談は約2割と従前に比べて増加している。商品・役務別にみると「工事・建築・加工」(住宅リフォームに関するトラブルが大半を占める。)が最も多く、販売購入形態別にみると「訪問販売」が最も多くなっている。
高齢者の悪徳商法による被害が社会問題となる中、平成18年4月に、被害にあったり、不安を感じたときにすぐに相談ができるよう、高齢者とその家族からの相談を受け付ける専用電話「高齢者被害110番」を開設し、専任相談員4名を配置することとした。都の担当者は、高齢者からの相談に当たっては、「丁寧に優しく対応すること、相手の話をよく聞き、相談員の方からは、分かり易くゆっくりと話すことが肝心です」としている。
また、同センターでは、高齢者の身近にいるヘルパー、ケアマネージャー等の介護事業者、民生委員等から、地域で発見した高齢者被害についての通報を受け付ける専用電話「高齢消費者見守りホットライン」も同時に開設した。
この取組は、都が平成16年度に実施した調査で、介護事業者約600人のうちの半数が「悪質商法の被害にあった高齢者がいる」と回答したことなどを受けて、高齢者を消費者被害から守るためには、介護事業者や民生委員等の高齢者の身近にいる人々との連携した取組が重要となっていると判断したことを受けたものである。
都の担当者は、悪質商法等の被害から高齢者を守るためには、まず高齢者本人が「知らない人の話には乗らない。家には入れない。商品価格はよく比較する。家族にもよく相談する。御近所とのコミュニケーションを欠かさない。」ことを自覚することが必要であるとしている。また地域においては、定期訪問などにより高齢者を見守り、孤立させないために、市区町村、自治会、ボランティア団体などが連携して取り組むことが重要としている。
○支え合いマップを作成して災害時の高齢者保護に取り組んでいる事例
愛知県安城市は、人口約17万人余の農・工・商業のバランスがとれた街であるが、高齢化率は14%を超えて増加傾向が続いている。
市は、東海地震の「地震防災対策強化地域」と「東南海・南海地震防災対策推進地域」に指定されている。大規模災害時には、地域の相互機能による支援が求められること、ボランティア団体などから市長に対し災害時の救援体制について情報提供等の要望があったこと、市内の先進的地域では「防災・福祉マップの作成」が既に行われていたことなどの状況を受けて、平成16年9月に「災害時要援護者支援制度」を開始した。
同制度では、一人暮らしの高齢者や障害者などの要援護者は、登録申請書に、住所、氏名、家族の人数、身体的状況に関する特記事項、日常的に必要な保健・医療・福祉サービス、地域支援者(日頃の見守り活動をしてくれる人、本人の同意が必要)の氏名・連絡先を記入し、さらに申請書の情報を自主防災組織、福祉委員会(町内会単位に設置されている)役員、民生・児童委員、地域支援者に提供することを同意署名した上で市長に提出する。この申請書の情報は台帳に登録され、原本は市長が保管し、副本が要援護者本人のほか、自主防災組織等に提供される。現在までに対象となる要援護者4,144人のうち3,095人(約75%)が登録済である。未登録者の主な理由は、まだ現役で働いているから、家族がいるから大丈夫などとされている。自主防災組織や福祉委員会は、共に町内会が兼ねているところが多いが、災害発生時は自主防災組織が、日常の見守り等の支援は福祉委員会が中心となって支えることとされている。
花ノ木町内会は、JR安城駅前の中心市街地のほぼ中央に位置する花ノ木町と小堤町の一部の世帯で構成されている。昔ながらの商店街を中心にした高齢化の進んだ地域である(高齢化率は花ノ木町が25.6%、小堤町が20.3%)。防災福祉支えあいマップの作成を通じて、一人暮らしの高齢者の状況把握、災害時の避難場所や問題点の確認などを行なっている。また、災害時に役立つ物、専門の資格・技術を持った人の確認・登録など物的・人的資源の発掘などにも努めている。また町内の60歳代の定年退職男性を中心に発足した「おやじの会」は、親睦と交流を深めながら「1月3善(1ヶ月に3回良いことをしよう)」運動を標榜して、各自が日常生活で気付いた問題点を出し合い、その解決策を話し合うなど町内会活動の有力なサポーターとして活躍しており、災害発生時には支援の担い手としての活動も期待されている。
同町内会のエリアでは、40人が要援護者登録されたが、このうちほとんどの登録者は地域支援者が決まっていなかった。そこで登録者全員を民生委員、町内会役員などが一緒に訪問し、よく行く店、よくあいさつを交わす人など日頃から関わりのある人を聴き取り、本人の了解のもとに地域支援者の候補を選んでいる。この際、訪問時記入用紙により、日常過ごす場所、寝る部屋、家具の状況、外に出るまでの通路など、防災面のチェックも合わせて行うことで登録者の生活ニーズや防災面の課題などを確認している。聴取後に、選ばれた候補者を訪問して了解を得ることとしている。花ノ木町内会長によれば、要援護者への家庭訪問に当たっては、本人と親しい人を同行させるなど、本人が話しやすい雰囲気をつくることなどの配慮が必要としている。また、今後の課題は、支援制度の登録者だけではなく全世帯を対象とした支援体制の仕組みづくりとしている。