第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節 4(1))
第3節 分野別の施策の実施の状況
4 生活環境
(1)安定したゆとりある住生活の確保
本格的な少子高齢社会、人口減少社会を迎え、現在及び将来における国民の豊かな住生活を実現するため、平成18年6月に「住生活基本法」(平成18年法律第61号)が制定された。
「住生活基本法」においては、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進に関して、4つの基本的理念(〔1〕現在及び将来の住生活の基盤となる住宅の供給等、〔2〕住民が誇りと愛着を持つことのできる良好な居住環境の形成、〔3〕民間活力、既存ストックを活用する市場の整備と消費者利益の擁護、〔4〕低額所得者、高齢者、子育て家庭等の居住の安定の確保)を定めるとともに、基本理念の実現に向けた各主体の責務、基本的な施策等を定めており、同年9月には、同法に掲げられた基本理念や基本的施策を具体化し、推進するための基本的な計画として「住生活基本計画(全国計画)」を閣議決定した(表2-3-32)。
表2-3-32 住生活基本計画(全国計画)における高齢社会対策に関する目標、成果指標及び基本的施策
ア 良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進
良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄、住宅金融公庫の証券化支援事業及び融資並びに勤労者財産形成持家融資を行うとともに、住宅ローン減税などの税制措置を講じている。
(イ)良質な民間賃貸住宅の供給促進のための支援制度の活用等
高齢者世帯の増加に対応するため、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年法律第26号。以下「高齢者居住法」という。)に基づき、高齢者向けのバリアフリー化された優良な賃貸住宅の供給の促進を図っている。
(ウ)公共賃貸住宅の適切な供給
公共賃貸住宅の供給は、民間による賃貸住宅の供給を補完するものであり、公営住宅、都市機構賃貸住宅、公社賃貸住宅等それぞれの目的に応じた住宅の供給に努めている。
公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して良質な賃貸住宅の供給を行うことを目的に整備が行われており、平成17年度末のストックは約219万戸となっている。
都市機構賃貸住宅は、大都市地域等においてファミリー向け賃貸住宅を中心として独立行政法人都市再生機構が供給しており、平成17年度末の管理戸数は約77万戸となっている。
公社賃貸住宅は、地方住宅供給公社により、地域の賃貸住宅の需要状況に応じ、住宅金融公庫融資や地方公共団体融資等の資金を活用して供給されており、平成17年度末の管理戸数は約15万戸となっている。
また、既設公営住宅及び既設都市機構賃貸住宅について高齢者の生活特性に配慮した設備・仕様の改善を推進するとともに、特に老朽化した公共賃貸住宅については、居住水準の向上等を図るため、建て替えを計画的に推進している。
(エ)住宅市場の環境整備
ライフステージに応じた住み替えや買い換えを通じて既存住宅ストックを十二分に活用し得るような市場を整備するため、既存住宅流通市場、住宅リフォーム市場等の環境整備に向けた施策を展開している。
イ 多様な居住形態への対応
(ア)持家における同居等のニーズへの対応
高齢者の多様な居住形態に対応した住宅供給を促進していく必要があるため、住宅金融公庫の証券化支援事業において、親族居住用住宅を対象としている。さらに、親の住宅を子が債務者となって建設する場合等に融資を行う住まいひろがり特別融資(親族居住型)、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施している。
(イ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化
民間賃貸住宅においては、家賃滞納等への不安から高齢者の入居が敬遠される事例が見られることから、高齢者居住法に基づく、高齢者の入居を拒まない賃貸住宅の登録・閲覧制度に、専ら高齢者に賃貸する住宅についてより詳細な情報提供を行う制度として高齢者専用賃貸住宅制度を平成17年度に追加し高齢者に対する情報提供体制を整備するとともに、登録された賃貸住宅(登録住宅)に入居する高齢者世帯に対する家賃債務保証制度を行うことにより、高齢者の居住の安定確保を図っている。
また、地方公共団体、NPO・社会福祉法人、関係団体等が連携して、高齢者等に対する居住支援等を行うあんしん賃貸支援事業を平成18年度に創設し、上記制度と併せ、高齢者等の入居の円滑化と安心できる賃貸借関係の構築の支援に取り組んでいる。
(ウ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給
公共賃貸住宅については、高齢者のニーズに対応するため、公営住宅において、高齢者世帯を優先入居の対象とする老人世帯向公営住宅を供給している。また、60歳以上の者については単身入居を認めるとともに、高齢者世帯の入居収入基準を地方公共団体の裁量で一定額まで引き上げることを可能にしている。
都市機構賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対して、新規賃貸住宅における募集時に当選率を優遇するとともに、1階又はエレベーター停止階への住宅変更を認めるなどの措置を行っている(表2-3-33)。
年度 | 老人世帯向公営住宅建設戸数 | 都市機構住宅の優遇措置戸数 | 住宅金融公庫の割増貸付け戸数 | ||
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賃貸 | 分譲 | 計 | |||
平成2年度 | 937 | 2,665 | 684 | 3,349 | ― |
3 | 1,109 | 2,014 | 608 | 2,622 | 21,498 |
4 | 1,324 | 2,088 | 221 | 2,309 | 27,934 |
5 | 2,178 | 2,096 | 217 | 2,313 | 57,795 |
6 | 1,438 | 1,658 | 796 | 2,454 | 80,365 |
7 | 2,032 | 2,532 | 572 | 3,104 | 20,593 |
8 | 1,941 | 3,146 | 442 | 3,588 | 55,951 |
9 | 1,563 | 3,198 | 485 | 3,683 | 38,689 |
10 | 2,057 | 3,143 | 571 | 3,714 | 34,832 |
11 | 2,333 | 4,349 | 531 | 4,880 | 11,831 |
(946) | |||||
12 | 1,476 | 8,265 | 212 | 8,477 | 4,951 |
(2,317) | |||||
13 | 1,216 | 10,344 | 123 | 10,467 | 2,822 |
(4,963) | |||||
14 | 1,203 | 8,959 | 149 | 9,108 | 1,115 |
(4,117) | |||||
15 | 627 | 7,574 | 45 | 7,619 | 558 |
(3,524) | |||||
16 | 724 | 5,510 | 0 | 5,510 | 244 |
(3,353) | |||||
17 | 1,333 | 2,944 | 0 | 2,944 | 60 |
(1,662) | |||||
資料:国土交通省 | |||||
(注1)平成15~17年度の老人世帯向公営住宅建設戸数については実績見込みである。
(注2)都市機構住宅の優遇措置戸数には、障害者及び障害者を含む世帯に対する優遇措置戸数を含む(空家募集分を含む)。
(注3)優遇措置の内容としては、当選率を一般の10倍としている。
(注4)( )内は高齢者向け優良賃貸住宅戸数であり内数である。
(注5)住宅金融公庫の割増(平成10年に制度改正)貸付け戸数は、マイホーム新築における高齢者同居世帯に対する割増貸付け戸数である。
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(エ)高齢者の高齢期に適した住宅への住み替え支援
高齢者の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する制度を平成18年に創設し、高齢者の高齢期の生活に適した住宅への住み替えを図っている。
ウ 自立や介護に配慮した住宅の整備
(ア)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進
加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合にも、高齢者が安心して住み続けることができるよう、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)の普及など住宅のバリアフリー化の施策を積極的に展開している(表2-3-34)。
○ 趣旨 |
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○ 主な内容 |
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資料:国土交通省 |
高齢者居住法に基づき、民間土地所有者によるバリアフリー化された高齢者向けの賃貸住宅の供給促進を図る高齢者向け優良賃貸住宅制度や、加齢対応構造等を有する住宅への改良に対して住宅金融公庫等の金融機関が行う融資について、元金の返済は死亡時に一括償還とすることができる高齢者向け返済特例制度を設けている。
住宅金融公庫においては、証券化支援事業(買取型)において、バリアフリー等の性能が特に高い住宅に金利の引下げを行う優良住宅取得支援制度を設けている。さらに、高齢者に対応した構造・仕様等をあらかじめ備えた住宅に対して割増貸付けを行うとともに、バリアフリー化工事等を施した住宅の建設・購入及びバリアフリー化工事等を行う住宅改良に対して貸付条件の優遇を行っている。
(イ)公共賃貸住宅
公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、新たに供給するすべての公営住宅、改良住宅(不良住宅密集地区の改良等による住宅)及び都市機構賃貸住宅について、段差の解消等の高齢化に対応した仕様を標準化している。
この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について補助の対象としている。都市機構賃貸住宅についても、中層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準としている。
(ウ)住宅と福祉の施策の連携強化
加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合でも、可能な限り自立かつ安心して在宅生活を営めるようにするためには、住宅設備等のハード面での配慮に加えて、医療・福祉サービスといったソフト面からも生活の支援を行っていくことが重要である。このため、福祉施策との連携を図りつつ、高齢者向けの公共賃貸住宅の整備を積極的に推進している。
シルバーハウジング・プロジェクト事業として、日常生活上自立可能な高齢者単身世帯、高齢者のみの世帯、高齢者夫婦世帯等を対象に、LSA(ライフサポートアドバイザー:生活援助員)による日常の生活指導や安否確認などのサービスが受けられ、かつ、高齢者の生活特性に配慮した設備・仕様を備えた公共賃貸住宅の供給を推進しており、建設費等の補助を行っている。平成18年度末現在、821団地、2万1,975戸を管理している。また、民間の土地所有者等が供給する高齢者向け優良賃貸住宅や高齢者専用賃貸住宅等についても、生活援助員の派遣に対し支援を行っている(図2-3-35)。
図2-3-35 シルバーハウジング・プロジェクトの概念図
また、平成18年度から、一定の要件を満たし都道府県知事に届け出た高齢者専用賃貸住宅を介護保険法の特定施設として取り扱うこととなり、さらに一定の人員基準等を満たした場合には特定施設入居者生活介護の指定を受けられることとして、連携を図っている。
さらに、高齢者住宅対策など、地域特性に応じた住宅対策の目標、具体的施策の展開方針等を内容とする地方公共団体による住宅マスタープランの策定に対して補助を行っている。