第2章 高齢社会対策の実施の状況(第2節)
第2節 高齢社会対策の動き
1 主な法律の制定・改正
平成21年度に推進された高齢社会対策について、主な法律の制定・改正の動きを挙げれば、次のとおりである。
(1)「国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律」(平成21年法律第62号)の成立(厚生労働省)
年金制度の長期的な給付と負担の均衡を図り、年金制度を持続可能なものとするとともに、将来的な給付水準(現役世代の手取り収入の50%)を確保し、国民の年金制度への信頼確保を図る観点から、平成21年度からの基礎年金国庫負担割合2分の1を実現するため、「国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案」を第171回国会に提出し、同年6月に成立した。
これにより、平成21年度及び22年度においては、財政投融資特別会計からの一般会計への繰入れにより臨時の財源を手当てし、基礎年金国庫負担割合を2分の1とするとともに、「税制の抜本的な改革」により所要の安定財源を確保した上で2分の1を恒久化することとなった。また、仮に恒久化する年度が24年度以降となった場合には、それまでの間も、臨時の法制上及び財政上の措置を講ずることにより2分の1とすることとなった。
(2)「道路交通法の一部を改正する法律」(平成19年法律第90号)の施行(警察庁)
運転免許証の更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の者については、運転免許証の更新期間が満了する日前6月以内に、講習予備検査(認知機能検査)を受けなければならないこととする「道路交通法の一部を改正する法律」(平成19年法律第90号)が平成21年6月に施行された。
(3)「道路交通法の一部を改正する法律」(平成21年法律第21号)の成立(警察庁)
身体機能の低下が運転に影響を与えるおそれのある高齢運転者等による駐車を支援するため、道路標識により指定されている場所では、高齢者等が運転し、都道府県公安委員会が交付した専用場所駐車標章を掲示した普通自動車に限り、駐車又は停車をすることができることとする高齢運転者等専門駐車区間制度の新設等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」(平成21年法律第21号)が平成21年4月に成立し、同制度は22年4月に施行されることとなった。
(4)「高齢者の居住の安定確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成21年法律第38号)の成立・施行(厚生労働省・国土交通省)
高齢者の居住の安定の確保を一層推進するため、基本方針の拡充、都道府県による高齢者の居住の安定の確保に関する計画の策定、高齢者生活支援施設と一体となった高齢者向け優良賃貸住宅の供給の促進等の措置を講ずることを目的とした「高齢者の居住の安定確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成21年法律第38号)が平成21年5月に成立し、同年8月に一部施行された。
(5)育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)の改正(厚生労働省)
さらなる仕事と家庭の両立支援の推進を図るため、介護のための短期の休暇制度の創設等、平成21年6月に育児・介護休業法が改正された。
2 主な取組
○無年金・低年金問題への対応(厚生労働省)
無年金・低年金問題への対応は極めて重要な課題であり、平成21年12月には、記録上では年金の受給資格期間を満たしていないが、任意加入等により年金受給に結びつく可能性がある63歳以上の加入者約50万人を対象として、加入期間の確認を促すためのお知らせを発送した他、記録上は受給資格期間を満たしているにもかかわらず請求を行っていない方に対して、請求を促すためのお知らせを送付するなどの対策を講じている。
さらに、平成22年通常国会に提出した「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律案」には、保険料を納めやすくすることで、将来の無年金・低年金を防止する等の観点から、国民年金保険料の納付可能期間を2年から10年に延長する等の措置を行うことを盛り込んでいる。
○日本年金機構の発足と年金記録問題への対応(厚生労働省)
平成22年1月、社会保険庁は廃止され、新たに非公務員型の公法人として日本年金機構が設立された。
これにより、公的年金については、国が財政責任・管理運営責任を担いつつ、一連の運営業務は日本年金機構が厚生労働大臣から権限や事務の委任委託を受け、その直接的な監督の下で担うこととなった。
年金記録問題については、日本年金機構と厚生労働大臣とで密接に連携し、その対応を当面の最重要課題として取り組むこと等を日本年金機構法に基づき中期目標において指示を行った。
○「新年金制度に関する検討会」の設置(内閣官房)
平成22年3月、年金制度の抜本改革について議論を開始し、新制度の構築に向けて、5月をめどに基本的な原則をまとめることとしている。
○シルバー人材センターの支援等(厚生労働省)
高齢者の就業ニーズに応じて、地域社会に根ざした臨時的・短期的又は軽易な就業機会を提供するシルバー人材センター事業の推進を図っている(平成21年3月末現在、シルバー人材センターの団体数は1,329団体、会員数は約76万人)。
さらに、「教育、子育て、介護、環境」を重点にシルバー人材センター事業と自治体が共同して企画提案した事業を支援するほか、高齢者の知識・経験を生かすためのワークショップの開催、企業等とのマッチングを行うシニア就業支援プログラム事業を実施している。
○介護従事者等の人材確保のための処遇の改善(厚生労働省)
近年の介護サービスを巡っては、介護従事者の離職率が高く、人材確保が困難であるといった状況にあり、第169回国会で「介護従事者等の人材確保のための介護従事者の処遇改善に関する法律」(平成20年法律第44号)が成立したことを踏まえ、平成21年4月にプラス3.0%の介護報酬改定を行い、さらに、平成21年度第一次補正予算においては、介護職員(常勤換算)1人当たり平均月額1.5万円の賃金引き上げに相当する介護職員処遇改善交付金を創設するなど、介護従事者の処遇改善を図った。
○介護基盤の緊急整備(厚生労働省)
平成21年度第一次補正予算において介護基盤の緊急整備として、各都道府県において第4期計画で既に計画されている特別養護老人ホーム、老人保健施設、認知症高齢者グループホーム等の整備量の合計が約12万人分であるところ、さらに約4万人分の上乗せを行い、23年度までの3年間で合計16万人分を目標として整備を推進するため、介護基盤緊急整備等臨時特例基金(各都道府県に設置)を創設し、助成等の拡充を3年間行うこととしている。
○後期高齢者医療制度の廃止と新たな制度の検討(厚生労働省)
後期高齢者医療制度については、制度に対する国民の御意見等を踏まえ廃止することとし、廃止後の新たな制度の具体的なあり方を検討するため、平成21年11月に、厚生労働大臣の主宰により、関係団体の代表、高齢者の代表、学識経験者からなる「高齢者医療制度改革会議」が開催された。同会議においては、検討に当たっての基本的な考え方として、「後期高齢者医療制度の年齢で区分するという問題を解消する制度とする」、「高齢者の保険料が急に増加したり、不公平なものにならないようにする」、「市町村国保の広域化につながる見直しを行う」等の6原則が示され、この原則に基づき検討が進められている。
○シニア海外ボランティア事業の実施(外務省)
豊富な知識、経験、能力を有し、かつ途上国の社会や経済の発展に貢献したいというボランティア精神を有する中高年が、海外技術協力の一環として、途上国の現場で活躍できるよう、引き続き独立行政法人国際協力機構を通じシニア海外ボランティア事業を実施した。
○住宅防火対策の推進(総務省)
高齢者を中心に増加する住宅火災による死者数の大幅な低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動を通じて「高齢者等の災害時要援護者の把握とその安全対策に重点を置いた死者発生防止対策の推進」等を重点項目として、地域が一体となって、住宅用火災警報器等の早期設置や防炎品の普及促進を含めた総合的な住宅防火対策を推進した。
平成21年3月に発生した群馬県渋川市の老人ホーム火災を踏まえ、未届の有料老人ホームを含む全国の入所社会福祉施設等に対し、防火対策の徹底を求めるとともに福祉部局及び建築部局と連携を図り緊急調査を行った。調査の結果、特に未届の有料老人ホームに高い割合で消防法令違反が発見されたため、フォローアップ調査を行い違反是正の徹底を図った。
○公共交通機関、建築物、道路等のバリアフリー化(国土交通省)
「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー新法」という。)に基づき、公共交通機関、建築物、道路等のバリアフリー化の取組を推進している。
○歩行空間の形成(国土交通省、警察庁)
移動はあらゆる生活活動に伴い発生する要素であり、また、就労、余暇を支える要素である。したがって、その障壁を取り除き、すべての人が安全に安心して暮らせる道路交通環境づくりを行うことが重要な課題となっており、信号機、歩道等の交通安全施設等の整備を推進している。
3 高齢社会対策の総合的な推進のための取組
(1)明日の安心と成長のための緊急経済対策(全省庁)
平成21年12月、現下の厳しい経済・雇用状況、直面する円高・デフレ状況を踏まえ、景気回復を確かなものとするための経済対策を閣議決定した。
その対策の柱として、「雇用」、「環境」及び「景気」を掲げ、「雇用」の分野においては、介護・医療等の分野における新たな雇用機会の創設や人材育成の推進、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)、女性・高齢者・障がい者等の労働参加促進や多様な働き方の確保などを内容とする「雇用戦略」の本格的な推進に取り組むこととしている。
(2)新成長戦略(基本方針)(全省庁)
平成21年12月、6つの戦略分野の基本方針と目標とする成果をまとめた新成長戦略(基本方針)を閣議決定した。
その6つの戦略分野のひとつである「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」において、高齢者向けのバリアフリー住宅の供給促進、高齢者の将来の不安を解消し、生涯を楽しむための医療・介護サービスの基盤強化、地域における高齢者の安心な暮らしの実現を掲げており、平成22年6月を目途に「新成長戦略」として取りまとめることとしている。
(3)「新しい公共」円卓会議
第173回国会における所信表明演説に基づき、「新しい公共」という考え方やその展望を市民、企業、行政などに広く浸透させるとともに、これからの日本社会の目指すべき方向性やそれを実現させる制度・政策の在り方などについて議論を行うことを目的として、平成22年1月より開催されている。