第1章 高齢化の状況(第3節 コラム7)
第3節 高齢者の社会的孤立と地域社会 ~「孤立」から「つながり」、そして「支え合い」へ~
コラム7
日本人の'無縁化'
~NHKスペシャル「無縁社会」の取材現場から見えてきたもの~
地縁、血縁という従来の「絆」が薄れゆく日本社会。「絆」のもつ呪縛から解かれ、自由なライフスタイルを確立した一方で、高齢者の「孤立」=無縁化が広がり、深刻な問題を生み続けている。とりわけ目立って増えているのが「独身を貫く人たち」だ。故郷を離れ、都会へ働きに出た後、結婚せずに亡くなった男性。社会的な自立を求められ、仕事に邁進し、独身を貫いた女性。このように生涯を独身で通す'生涯未婚'が20年後、男性の約3割、女性の2割強にまで急増すると推計されている。無縁社会、すなわち高齢者の孤立化は、加速度的に拡がろうとしているのだ。
さらに、たとえ家族がいても「迷惑をかけたくない」という理由から、独りで生きていくことを選ぶ高齢者が増えている。「介護」が必要になった時、‘無縁’で生きる難しさを知らされるという。
「離れて暮らす甥や姪に迷惑をかけたくないのです。」
取材でこう話してくれた70代の男性がいた。がんで闘病していた妻を看取ってから、自分も心臓にペースメーカーを入れるほど体調が悪化。今は、「急に倒れた時に備えて、NPOに葬儀などの手続きを生前契約している」と話す。しかし、NPOと契約しても、日々の暮らしの中の孤独感は少しも拭われなかったという。
自治体に保管される身元のわからない遺骨
「話し相手もなく、寂しくて、声が出なくなったこともある。」
絶望的なまでの「孤独感」―――。
定年退職まで仕事中心の生活を送ってきた人ほど、仕事場を離れたところに知人や友人を持たない例が多い。会社を辞めた途端、社会との一切のつながりを失って無縁になってしまう。そして誰にも頼らず、救いも求めず、独りで亡くなっていく人が多い。
家族に見守られることなく直葬される遺体
「私がここで死んでも、骨になっていても、誰にも気づいてもらえない。」
自宅の食卓でそう話してくれた70代の女性は、ガンで闘病しながら必死に生きていた。取材の最後、別れ際にその女性がつぶやいた言葉が忘れられない。
「独りで生きていると喜びもない。生きる意味が見いだせなくなった。」
ひとりで生きる人が増えていく時代。「安心して生きられる、安心して死んでいける」社会を目指すために、社会と個人とが有機的につながる仕組みづくりが急務であろう。
(NHK報道局社会番組ディレクター 板垣淑子)
*NHKスペシャル「無縁社会~“無縁死”3万2千人の衝撃~」は、2010年1月31日にNHK総合テレビで放映された。同番組は、日本が急速に“無縁社会”ともいえる絆を失った社会に変わりつつある現実を提示し、大きな反響を呼んだ。