第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節1(1))
第3節 分野別の施策の実施の状況
1 就業・所得
「就業・所得」分野について、高齢社会対策大綱は、次のような方針を示している。
高齢化が急速に進展する中で、経済社会の活力を維持するため、高齢者がその知識と経験をいかして経済社会の担い手として活躍することができるよう、雇用・就業環境の整備を図る。
特に、労働力人口の構成の高齢化や公的年金の支給開始年齢の引上げ等を踏まえ、原則として希望者全員がその意欲と能力に応じて65歳まで働けるよう、定年の引上げや継続雇用制度の導入等による安定的な雇用の確保を図る。
勤労者が、職業生活と家庭や地域での生活とを両立させつつ、職業生活の全期間を通じて能力を有効に発揮することができるよう、職業能力の開発、労働時間の短縮、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の一層の確保、育児・介護休業制度の普及などの施策を推進する。
職業生活からの引退後の所得については、国民の社会的連帯を基盤とする公的年金を中心とし、これに職域や個人の自助努力による企業年金、退職金、個人年金等の個人資産を適切に組み合わせて、その確保を図る。
(1)高齢者の雇用・就業の機会の確保
ア 知識、経験を活用した65歳までの雇用の確保
少子高齢化の急速な進行等を踏まえ、平成18年4月より、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(昭和46年法律第68号。以下「高齢法」という。)に基づき、公的年金の支給開始年齢の引上げに合わせ、事業主に対して、22年度からは64歳、25年度からは65歳までというように段階的な定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)を講じることが義務付けられている。
高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導、助言を実施するとともに、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構の高年齢者雇用アドバイザーによる技術的事項についての相談・援助を行っている。
これらの取組によって、平成22年6月1日現在、31人以上規模の企業において、高年齢者雇用確保措置の実施済企業の割合は96.6%となっており、企業における高年齢者雇用確保措置は着実に進展している。
公務部門においては、国家公務員及び地方公務員の定年退職者等を対象として、フルタイム又は短時間の勤務形態による65歳までの在職(上限年齢については、満額年金の支給開始年齢に合わせて3年に1歳ずつ引上げ)を可能とする再任用制度の活用を基本としながら、高齢者雇用を推進している。
イ 中高年齢者の再就職の援助・促進
中高年齢者をめぐる雇用情勢が厳しい状況にある中で、公共職業安定所を中心に中高年齢者に対する再就職支援を実施している。また、高齢法に基づき、「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した書面(以下「求職活動支援書」という。)を作成・交付するよう、事業主に対する周知・啓発を行うとともに、必要な指導・支援を行っている。なお、これらの中高年齢者の有する豊富な職業キャリアの記載ができる「職業キャリアが長い方向けのジョブ・カード」を求職活動支援書としても活用することが可能となっている。
また、高年齢者等の安定した就職の実現を図るため、常用雇用に向けて中高年齢者を一定期間試行的に雇用する事業主に対して中高年齢者トライアル雇用奨励金を支給するとともに、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施している(表2-3-1)。
中高年齢者トライアル雇用奨励金 |
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・中高年齢者を常用雇用への移行を前提として試行的に受け入れ就業させる事業主に対して助成 |
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金) |
・高年齢者(60歳以上65歳未満)等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して賃金相当額の一部を助成 |
特定求職者雇用開発助成金(高年齢者雇用開発特別奨励金) |
・65歳以上の離職者を公共職業安定所等の紹介により、1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して賃金相当額の一部を助成 |
高年齢者等共同就業機会創出助成金 |
・45歳以上の高年齢者等3人以上が、その職業経験を活かし、共同して新たに法人を設立し、労働者を雇い入れ、継続的雇用・就業機会を創出する場合に、事業開始に係る経費の一部を助成 |
定年引上げ等奨励金 |
・65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする70歳以上までの継続雇用制度、希望者全員を対象とする65歳前に契約期間が切れない安定的な継続雇用制度の導入又はこれらの措置とあわせて高年齢者の勤務時間の多様化に取り組む中小企業事業主、希望者全員が65歳以上まで働くことができる環境を整備するため、高年齢者の職域の拡大や処遇の改善、外部の高年齢者の活用について先進的な取組を行う事業主及び傘下の事業主に対して希望者全員が65歳まで働ける企業や70歳まで働ける企業への取組等を進める事業主団体に対して助成 |
資料:厚生労働省 |
このほか、事業主団体と公共職業安定機関との協力の下、技能講習、合同面接会等を一体的に行うシニアワークプログラム事業を実施している。
ウ 多様な形態による雇用・就業機会の確保
高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等個人差が拡大し、その就業に対するニーズも多様化することから、これらに対応した就業機会を確保していくことが重要である。
このため、高齢者の多様な就業ニーズに対応し、高齢者が生きがいを持って地域社会で生活できるようにするため、定年退職後等において、臨時的・短期的又は軽易な就業を希望する者に対し、意欲や能力に応じた就業機会、社会参加の場を総合的に提供するシルバー人材センター事業(平成22年3月末現在、シルバー人材センターの団体数は1,332団体、会員数は約79万人)について、「教育、子育て、介護、環境」の分野を重点にシルバー人材センターと地方公共団体が共同して企画提案した事業の支援を拡大するほか、各シルバー人材センターにおいて会員が身近な地域で安心して働くことができるよう多様な就業機会を提供するとともに、適切な運営の確保を図っている。
また、高齢者の技術、技能、資格、職業経験等を登録し、地域の企業、団体、家庭、地域コミュニティなどからの高齢者ニーズに適合させるために、ワークショップ、就業支援講座等を開催するシニア就業支援プログラム事業を実施している。
エ 起業の支援
新規事業の創出・育成は、新たな雇用を生み出すなど、我が国経済の活性化にとって極めて重要である。多様な事業者による取組を支援するため、株式会社日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度(女性、若者/シニア起業家支援資金)により開業・創業の支援を行った。
また、45歳以上の高年齢者等3人以上が共同して新たに法人を設立し、労働者を雇い入れ、継続的な雇用・就業機会を創出した場合に、当該事業の開始に要した経費の一部を助成することにより、自らの職業経験等を活かす等により創業しようとする高年齢者等を支援している(表2-3-1)。
オ 年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた取組
「雇用対策法」(昭和41年法律第132号)第10条に基づき、労働者の一人一人により均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行っている。
また、高年齢者雇用確保措置の一層の普及・定着を図ることに加えて、希望者全員が65歳まで働ける制度、さらには企業の実情に応じて70歳まで働ける制度の普及を図るため、公共職業安定所等において企業に対する啓発指導を行う他、「70歳まで働ける企業」推進プロジェクトにより、全国の先進的企業の取組内容等の周知や70歳雇用支援アドバイザーによる人事処遇制度等の見直しに対する個別相談・援助を実施するとともに、各地域の事業主団体等に委託し、地域において波及効果が期待できる企業を、規模・業種別にトライアル企業として選定し、希望者全員が65歳まで働ける制度及び70歳まで働ける制度の導入のための検討を行い、取組の意義や課題、ノウハウを関係者が共有することで、地域における気運の醸成と成果の波及を図っている。
また、定年引上げ等奨励金について、65歳以上への定年の引上げ、希望者全員を対象とする70歳以上までの継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする65歳前に契約期間が切れない安定的な継続雇用制度の導入、又はこれらの措置と併せて高年齢者の勤務時間の多様化を行う中小企業事業主に対して助成するとともに、65歳以上まで働くことができる環境を整備するため、高年齢者の職域の拡大や処遇の改善又は外部の高年齢者の活用に係る先進的な取組を実施した事業主に対して助成を行っている。さらに、新たに高年齢者雇用確保充実奨励金を創設し、事業主団体が傘下の事業主を対象として希望者全員が65歳まで働ける制度の導入や、70歳まで働ける制度の導入等の高年齢者雇用確保措置の充実等を図るための相談・情報提供その他の援助を行う事業を実施した場合に、助成を行っている(表2-3-1)。
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用を伴う設備投資を行う事業者に対しては、雇用要件の緩和措置(2名以上から1名以上に緩和)を継続した。
加えて、平成22年11月より、今後の高年齢者の雇用・就業機会の確保のための総合的な対策を検討することを目的として「今後の高年齢者雇用に関する研究会」を開催し、<1>希望者全員の65歳までの雇用確保策、<2>年齢に関わりなく働ける環境の整備、を中心として調査・検討を行っている。