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第1章 第4節 4 事例紹介

第4節 高齢者が活躍できる環境づくり

4 事例紹介

(1)高齢者の就労を促進している事例

「70歳まで働ける企業」の実現に向けた取組

独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が平成20(2008)年から毎年発行している「70歳いきいき企業100選」より、2社の事例を紹介する。

朝日車輛株式会社(三重県四日市市)は、19(2007)年に70歳定年制度を導入し、また22(2010)年には従業員からの要望で60歳から70歳の間で定年を自由に選択できる制度に変更した。高齢になっても可能な限り現役を続けてもらうことにより、技術力が確保でき、その伝承も図れるという。同社の従業員は54人で60歳以上が6割以上を占めている。

ホームページ作成などを手掛ける株式会社エス・アイ(兵庫県姫路市)は、18(2006)年に、本人が希望する限り働き続けることができる「エイジフリー制度」を導入した。同社では、年齢にかかわりなく働きやすい職場にするため、作業設備、能力開発、健康管理等についてきめ細かな配慮を行っているほか、出勤・退勤時間を個人が自由に決めることができる「自由出勤制度」を導入し、生活や体力に合わせた働き方が可能となっている。従業員64人中、70歳以上の2人を含めて60歳以上が9人(13%)である。

東京都しごとセンター

公益財団法人「東京しごと財団」が運営する「東京都しごとセンター」では、ハローワーク及び民間の就職支援会社等と協力して、キャリアカウンセリングや就業相談、能力開発、職業紹介等、求職者のニーズに即したワンストップサービスを提供している。同センターのシニアコーナーでは、個別相談や各種セミナーのほか、ハローワークと連携した職業紹介を行っている。セミナーは、履歴書の書き方等を学ぶ「再就職支援セミナー」、退職後の生き方や働き方を総合的に学ぶ「定年等退職者向け就業支援総合セミナー」(平成24(2012)年度から名称変更)、建物関連分野(清掃、警備等)や生活サービス分野(介護等)の知識・技能を習得する「就職支援講習」、営業・人事・財務・製品開発等の専門スキルを中小企業で活かすための「エキスパート人材開発プログラム」など多岐にわたる。

(2)高齢者の地域活動、ボランティア活動を促進している事例

子育てを地域で支援する「ファミリー・サポート・センター」

乳幼児や小学生の送迎や放課後の預かりなどを地域住民が相互に行うことを橋渡しする「ファミリー・サポート・センター」は、厚生労働省の「子育て支援交付金」の対象事業として全国の669市区町村(平成23(2011)年度)に設置されており、有償ボランティアを行う会員は10万人を超え、そのうち3人に1人は60歳以上である。活動内容は、「保育施設の保育開始前や保育終了後の子どもの預かり」(21.2%)が最も多く、次いで「保育施設までの送迎」(18.6%)、「放課後児童クラブ終了後の子どもの預かり」(14.6%)、「学校の放課後の学習塾等までの送迎」(10.1%)となっている。高齢男性も増えており、22(2010)年6月末時点で60歳以上の男性2,200人以上が会員となっている。

認知症高齢者を支える市民後見の取組

認知症高齢者等の尊厳のある暮らしを守るために、介護サービス手続き等の身上監護や財産管理を後見人が代行し、判断能力の不十分な人を保護し支援する「成年後見制度」の重要性が高まっているが、現在、認知症患者数に対して、親族以外の後見人(弁護士、司法書士等)は決定的に不足しており、その新たな担い手として、市民が市民後見人養成講座で必要な知識を身につけ、「市民後見人」として活躍することが期待されている。

特定非営利活動法人「市民後見人の会」(東京都品川区)は、平成18(2006)年より成年後見活動の普及及び市民後見人の育成を目的に市民後見人養成講座を始め、20(2008)年からは品川区との共催事業として実施している。この講座を受講した定年退職者を中心とした100名余りの会員が、被後見人に対して正副2人の担当者がつく形で成年後見活動を行っている。会員はそれぞれのキャリアを生かして新たな課題に取り組み、稀に相続や不動産管理の問題等、専門的な知識が必要な場合には、専門家との人的ネットワークも活用し活動を行っている。

(3)高齢者による被災地支援の事例

高齢者のまごころをこめた「元気袋」

東日本大震災では、財団法人「全国老人クラブ連合会」が日用品と激励のメッセージカードを詰めた「元気袋」の作成を全国の老人クラブに呼びかけ、取組は全国に広がった。このうち兵庫県の赤穂老人クラブ連合会で作成した元気袋は、平成23(2011)年4月17日に被災者の心のケアのために被災地に向かった兵庫県警のパトロール隊「のじぎく隊」に託され、宮城県石巻市の避難所などに届けられた。また、富山県老人クラブ連合会は、8月に福島に文房具や折り紙、縄跳び、被災児童へのメッセージを詰めた「元気袋」を送り、原発事故により外で遊ぶことができない子どもたちを励ましてきた。全国の老人クラブから被災地に届けられた元気袋は、23(2011)年11月末までに11万5千個を超えている。

仮設住宅における「パラソル喫茶」の取組

特定非営利活動法人「市民福祉団体全国協議会」は、被災地の市民団体等と協力し、パラソルの下でお茶やコーヒーを振る舞う「パラソル喫茶」の取組を行ってきた。「パラソル喫茶」は、被災者が一息つくことのできる居場所づくりや住民同士の交流を目的に、平成23(2011)年5月に東松島市の避難所で設置したのが始まりで、避難所が閉鎖された後も東松島市のほか仙台市や山元町の仮設住宅等で行ってきた。24(2012)年2月までに各地で89回開催し、市民協が月1回用意するボランティアバス等で、シニアを中心とした延べ1300人以上が活動に参加してきた。活動を行っている間に、仮設住宅に住むお年寄りも、自主的に食事づくりやお茶運び等を手伝ってくれるようになったが、今後は、仮設住宅ごとにNPOをつくり住民自身による継続的な活動を支援することや、さらには被災者の自立に向けた仕事づくりにも取り組む予定である。

「福島原発行動隊」の取組

公益社団法人「福島原発行動隊」は、福島第一原発事故の収束作業に当たる若い世代の放射能被曝を軽減するため、退役技術者・技能者を中心とする高齢者が、長年培った経験と能力を活用し、現場におもむいて行動することを目的として、平成23(2011)年4月に発足した。同年7月には、福島第一原発内の現場視察を行い、また、放射線測定や除染等業務に関する研修にも参加して、現地での活動に備えているが、未だ現地での活動をスタートさせる環境が整っておらず、現在は学習会やシンポジウムの開催、提言活動、放射線量の測定、簡単な除染作業などを行っている。24(2012)年5月現在で行動隊員は679人を数える。福島の事故現場では、10年以上にわたって安定的に動かす設備を建設し、これを保守しながら運転するという作業となるため、息の長い取組が必要であるが、若者の被ばくを最小限にとどめるために、現地での一刻も早い活動の開始を待ち望んでいる。

〔コラム:被災地の連携 ~神戸市から東日本大震災被災地に向けて~〕

○平成7(1995)年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の被災地では、復興が進む中で、高齢者が転居先で誰にも見守られずに亡くなる事例が目立ち、社会的な注目を集めた。こうした高齢者の孤立問題に対処すべく、神戸市では高齢者の安否確認等、高齢者の見守り活動を進めてきた。安否確認等の緊急事態対応だけではなく、緊急事態に至る前の「地域から孤立した状況」を回避するためのコミュニティづくり(高齢者と地域との関係づくり)も重視しており、大規模な災害復興住宅には、空き部屋等を利用して、高齢者が気軽に立ち寄れる「あんしんすこやかルーム」を設置する取組等を行ってきた。

○東日本大震災後、宮城県では、こうした神戸市の取組を参考に県内の市町村や仮設住宅を訪問する支援員等を対象とした研修を実施している。

○阪神・淡路大震災では、兵庫県内外から多数の市民がボランティアとして駆けつけ、震災が発生した7(1995)年は「ボランティア元年」とも呼ばれた。神戸市社会福祉協議会は、この際のボランティアの受け入れや避難所での活動経験を生かし、東日本大震災直後に迅速な支援活動を行った。震災の翌日の23(2011)年3月12日には、先遣職員4人を仙台市に派遣し、3月14日からは、仙台市で避難所の運営支援、災害ボランティアセンターの立ち上げ等を行い、岩手県陸前高田市、宮城県南三陸町、福島県等でも、保健衛生活動、医療活動、インフラ復旧活動やボランティアセンター運営支援等の活動を実施した。派遣された神戸市や神戸市社会福祉協議会の職員は、震災直後の自治体の状況が想像されたことや、同じ被災経験都市であることで被災地からの信頼・共感が得られたことから、現地職員と連携して迅速な活動が実施できたという。

○東日本大震災被災地の復興にあたっては、過去の大災害の経験を生かして、数々の課題に対処することが求められており、こうした被災地の連携は今後も重要となるだろう。

〔コラム:シニアのICT(情報通信技術)利用促進の取組〕

○インターネットをはじめとしたICT(Information and Communication Technology)の利用促進により、地域の活性化等を目指す取組が生まれている。

○佐賀県は、平成21(2009)年に、大手IT企業や県内の市民団体と協力し、「地域活性化協働プログラム」を実施した。この中で、パソコンやインターネットの便利さや快適さを伝える「ICTセミナー」、パソコン教室等の講師を養成する「ICTリーダー養成講座」等が実施された。また、有効な情報発信手段を持たない自治会や市民団体等の活動を、ICT活用により活性化させるための講座等も開催した。この講座が交流の場ともなり、これまでになかった新しいつながりを生み出している。

○ICT利用促進の取組は、東日本大震災の被災地でも行われている。特定非営利活動法人「NPO事業サポートセンター」は、23(2011)年4月上旬から文部科学省と連携し、避難所等に、学生や社会人の「復興支援ITボランティア」を派遣し、ICTを利用した被災地の情報発信や情報収集を支援してきた。また、ICTは仮設住宅に住む高齢者の孤立防止や生きがいづくりにも役立つと期待されており、震災前からシニア向けのパソコン教室を開いていた地元の市民団体の活動再開を支援する動きもある。現在、インターネットにつながるネットワーク環境や仮設住宅等でICT機器を管理する体制を整えることが課題となっており、今後も被災地において、情報発信や情報収集手段を確保するといった「情報」面での継続的な支援が求められている。

〔コラム:地域における雪害対策の取組〕

○我が国では近年、豪雪地帯において屋根の雪おろしなど除雪作業中の事故が多発しており、雪害の犠牲者は平成22(2010)年度に131人、23(2011)年度に132人に達した。また、豪雪地帯の多くは人口減少や高齢化が進んでおり、23(2011)年度の犠牲者のうち64%は65歳以上の高齢者であった。

○こうした雪害に対して、内閣府及び国土交通省では、「大雪に対する防災力向上方策検討会」において、豪雪地帯の雪害対策について検討を行い、24(2012)年4月に「大雪に対する防災力向上方策検討会提言 -豪雪地域の防災力向上に向けて-」を公表した。

○山形県山形市では、平成18年豪雪の際、年始で人手不足のために高等学校へボランティアの要請を行ったことをきっかけに、高校生による除雪ボランティアの取組を始めた。市の社会福祉協議会が、民生委員による情報をもとにした要支援者等のリスト作成、用具の貸し出しを行い、23(2011)年度は、市内9校の高校生や中学生がボランティアに参加した。年々、除雪活動を行う学校は増えており、除雪だけでなく一年を通した交流に発展している事例も見られるという。

○また、同県尾花沢市では、20(2008)年度より、宮沢地区の地域住民が共同で高齢者宅等の一斉除雪作業を行うとともに、地元中学生による除雪ボランティアを毎年実施している。

〔コラム:高年齢者と若年者の雇用について〕

○平成22(2010)年11月より、今後の高年齢者の雇用・就業機会の確保のための総合的な対策を検討するために開催された「今後の高年齢者雇用に関する研究会」の報告書では、急速に進展する我が国の少子高齢化に伴う労働力人口の減少を跳ね返し、経済の活力を維持するためには、若者、女性、高年齢者など全ての人が可能な限り社会の支え手となることが必要であると指摘している。

○若年者や高年齢者の就労実態について、年齢階級別の完全失業率をみてみると、若年層はほかの年齢層に比べて完全失業率が高く、65歳以上は低くなっている。

○一方、19歳以下及び65歳以上は求人倍率が高く、新卒労働市場では、未就職卒業者が発生している一方で、若年者の確保に苦慮している中小企業もあることから、若年層には、求人と求職のミスマッチが生じていると言える。

○高年齢者雇用を進めることにより若年者の雇用機会が減少するなど、若年者雇用と高年齢者雇用の代替性が指摘されることがあるが、「今後の高年齢者雇用に関する研究会」で実施した企業に対するヒアリング(23(2011)年2月)では、専門的技能・経験を有する高年齢者と基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や、新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく、景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定しているといった意見があった。

○将来的には、特に若年者の労働力供給が減少し、必要な人材の確保が難しくなると見込まれることから、長期的な視野をもち、若年者の雇用対策や高年齢者の雇用促進を同時に進めて、年齢にかかわりなく意欲と能力のある労働者を適切に活用することが重要な課題となっている。

〔コラム:地域包括ケアシステムの推進について〕

○高齢者が住み慣れた地域で尊厳を持って安心して生活できるようにするため、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを日常生活圏域内において有機的かつ一体的に提供する「地域包括ケアシステム」が推進されている。

○新潟県長岡市では、「高齢者総合ケアセンターこぶし園」が市内で医療施設や介護施設を運営するとともに、市内12か所にサポートセンターを設け、在宅の高齢者に対して24時間体制で施設と同様のホームヘルプサービス等を提供している。サポートセンターでは地域交流を重視しており、カフェテラス(地域交流スペース)、キッズルーム(児童の遊び場)、入浴施設、トレーニングルーム、診療所等を併設しているところもあり、地域に住む一般の方の利用も可能となっている。入浴施設は、子ども料金を設けて若い世代の利用を促進しており、地域の健康・活力の拠点としての役割も担っている。

○千葉県柏市の豊四季台団地地域では、住民6,000人のうち65歳以上の高齢者が約4割を占めており、団地の建て替えを機に、平成21(2009)年に柏市、東京大学高齢社会総合研究機構及び都市再生機構の三者で「地域包括ケアシステム」の検討・実践を進め、24時間対応できる訪問看護・介護の充実や、医療・介護を一体的に提供するサービス付き高齢者向け住宅の整備に向けて取り組んでいる。また、退職した高齢者が生きがいを持って働くことができるようにするため、農業、生活支援、育児、地域の食の4分野で、高齢者を雇用する事業を23(2011)年から試行的に実施している。

〔コラム:アメリカにおける高齢者コミュニティ〕

○子どもが学校を卒業した後に夫婦で小さな家に住み替えていく習慣があるアメリカには、「リタイアメント・コミュニティ」と呼ばれる、ゴルフ場を中核として住居に加え、娯楽、医療等が整備されたアクティブシニアのための街が2,000以上存在している。その名が示すように、退職された方を居住者とする街で、多くは55歳以上を居住の条件としている。しかし、ここには世代の偏りによる「世代間交流の不在」、快適な環境のもとでの「知的刺激の不在」という課題もあった。

○その課題を解決したのが「大学連携型コミュニティ」である。このコミュニティは大学の敷地内や近隣に設置されており、居住するシニアは生涯学習講座で学び、再びキャンパスライフを体験することができるようになっている。

○例えば、マサチューセッツ州のラッセル・ビレッジでは、入居条件として年間450時間以上の講座を受講することとなっていたり、他の大学ではシニアが講師になる講座もあり、元弁護士や元投資銀行家、元エンジニアが学生のキャリア・アドバイザーになっている。そして、シニア自身も学んだり教えたりすることで「何かに打ち込んでいる」、「誰かの役に立っている」という実感を得ることができるようになっている。

○このような形態の高齢者コミュニティは、高齢化が今後も進展する日本にとって、参考となる事例の一つであろう。

〔コラム:地域をつなぐ「くるくるバス」〕

○福島県福島市の蓬莱地区には、どこでも何度でも無料で乗れるコミュニティバス「くるくるバス」が走っている。

○この「くるくるバス」は、地元の市民団体「まちづくりコミュニティ ぜぇね」(「ぜぇね」は福島県の方言で「いいね」という意味)が、平成20(2008)年に、家に閉じこもりがちなお年寄りの外出を支援したり、コミュニティづくりのために運行を始めた。

○運賃は無料で、運行資金はバス車体の広告収入(協賛金)と、住民等からの寄付金や募金で賄っており、行政からの補助金は受けていない。

○「まちづくりコミュニティ ぜぇね」の事務所は蓬莱ショッピングセンター内にあり、「くるくるバス」の待合室にもなっていて、気軽に立ち寄れる居場所として多世代交流が図られている。

○現在、蓬莱の東西3コースを1日5回(原則平日のみ)循環しており、1日70人ほどが利用している。23(2011)年の東日本大震災の際は、関係者も被害を受けて一時的に運行を止めたが、4日目からは運行を再開し利用者の信頼を得た。蓬莱地区では、「くるくるバス」を地域で支え合うことにより、まちの活気と住民の交流が育まれている。

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