平成24年度 高齢社会対策
第1 平成24年度の高齢社会対策
高齢社会対策の推進
平成24年度における主な施策は次のとおりである。
(1)総合的な推進のための取組
○社会保障と税の一体改革について
子どもや子育てへの支援を強化するなど人生前半の社会保障を手厚くし、全世代を通じた国民生活の安心を確保する「全世代対応型」社会保障制度の構築を目指すとともに、社会保障の安定財源の確保と財政健全化の同時達成への第一歩として、消費税率(国・地方)を10%へ段階的に引き上げることなどを内容とする「社会保障・税一体改革大綱」を平成24年2月に閣議決定した。
平成24年通常国会には、同大綱に示された工程に従って、社会保障改革関連法案や税制改正法案を提出しており、今後とも同大綱及び同年3月末に閣議決定した社会保障改革の工程表に基づき改革を進めていくこととしている。同大綱に盛り込まれている高齢者に向けた施策のポイントとしては、①できる限り住み慣れた地域で在宅を基本とした生活の継続を目指す「地域包括ケアシステム」の構築や、②低年金・無年金問題に対応し、年金制度の最低保障機能の強化を図る観点から行う受給資格期間の短縮や低所得者等への年金額の加算、③高齢者雇用対策として、雇用と年金を確実に接続させ、無収入の高齢者世帯が発生しないようにするための継続雇用制度に係る基準に関する法制度の整備などが挙げられる。
また、社会保障・税に関わる番号制度については、社会保障・税番号大綱で示したスケジュールに沿って取組を進めるとともに、平成23年度に引き続き全国でマイナンバーシンポジウムを開催することとしている。
(2)就業・所得
○中高年齢者の再就職の援助・促進
再就職が困難である高年齢者の円滑な労働移動を強化するため、求職活動等のための休暇を1日以上与え、休暇日に通常の賃金の額以上の額を支払うとともに、再就職支援を民間の職業紹介事業者に委託し、再就職を実現した中小企業事業主に対して助成を行う労働移動支援助成金について、高年齢者の再就職を実現させた場合の助成を拡充する措置を実施する。
○高年齢者労働移動受入企業助成金の創設
新たに高年齢者労働移動受入企業助成金を創設し、定年を控えた高年齢者で、その知識や経験を活かすことができる他の企業での雇用を希望するものを、職業紹介事業者の紹介により雇い入れる事業主に対して助成し、高年齢者の円滑な労働移動の促進を図る。
○日本年金機構による適切な運営と年金記録問題への対応
国民年金の適用事務については、住民基本台帳ネットワークシステムにより把握した20歳、34歳及び44歳到達者に対する届出勧奨及び届出がない場合の資格取得等の手続を確実に実施するとともに、国民年金の収納事務については、平成24年度の現年度納付率について平成21年度の納付実績を上回る水準を確保し、60.0%台に回復することを目標に、国民年金保険料収納事業受託事業者との連携・強制徴収業務を更に強化する。
(3)健康・福祉
○高齢者の体力つくり支援事業
総人口に占める65歳以上の人口が23%を超え、超高齢社会を迎えた我が国においては、高齢者の心身の健康や体力の保持増進を支援することは、国の重要な責務であるとともに、高齢者が生き甲斐を持って健康で活力ある生活を営むためには、定期的、継続的な運動・スポーツが不可欠である。そこで、生活基盤の比重が仕事中心から地域社会へ大きく移行する年齢層が、それぞれの適性や健康状態に応じて無理なく継続できる運動・スポーツプログラムの普及啓発を行うとともに、高齢者の体力つくりに係るシンポジウムを開催し、健康で活力に満ちた長寿社会の実現に資する高齢者の体力つくり支援事業を実施する。
○必要な介護サービスの確保
平成24年度においては、地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、訪問介護と訪問看護が密接に連携した「定期巡回・随時対応サービス」や、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の機能をあわせ持つ「複合型サービス事業所」等の在宅サービス拠点の充実や、サービス付き高齢者向け住宅等の高齢者の住まいの整備等を進める。
○介護サービスの質の向上
介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方について、「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」における議論や試行事業の実施を踏まえ、「介護基盤の強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」を第177通常国会に提出し、平成23年6月に成立、公布され、24年4月から施行する。
○地域の支え合いによる生活支援の推進
いわゆる「孤立死」の防止対策として、地域における取組みの参考となるよう、個人情報の取扱いについて改めて示すほか、先進的な取組みを実施している地域の事例も紹介することにより、地域で総合的な取組みが行われるよう支援していく。
また、地域の支え合いを推進するため、地域福祉等推進特別支援事業において、高齢者等の地域社会における今日的課題の解決を目指す先駆的・試行的取組を行う自治体等への支援を行う。
さらに、高齢者を含む一人暮らし世帯等が地域において安心して暮らすことができるよう、見守り活動等への支援を行う安心生活創造事業の普及を図る。
○地域における包括的かつ継続的な在宅医療の提供
平成23年度から取り組んできた在宅医療連携拠点事業について、その実施箇所数を拡大するとともに、普及啓発や人材育成等の機能を拡充する等の取組みを行っていく。また、在宅医療に関する達成すべき目標や医療連携体制等について、平成24年度に各都道府県が策定する新たな医療計画(平成25年度から実施)に記載することとし、地域における在宅医療の計画的な推進を図っていく。
(4)学習・社会参加
○生涯学習の基盤の整備
全国生涯学習ネットワークフォーラムを開催する。これにより、生涯学習活動の成果を生かして社会的課題の解決(=「新しい公共」による社会づくり)に取り組む行政、大学、NPO等の団体、企業等の人々が一堂に会し、課題について研究協議等を行いその成果を情報発信するとともに、継続的な活動を充実させ関係者相互の情報交換等を日常的に行えるよう、様々な分野にまたがる関係者等のネットワーク化を図る。
また、都道府県及び市町村における社会教育行政の充実に資するため、優れた資質と専門的能力を有する社会教育指導者の養成等を図る。
○高齢者の社会参加と生きがいづくり
地域の主体的な取組による高齢者を対象とした生涯学習が促進され、高齢者の社会参加と生きがいづくりが促進されるよう、研究協議会を開催する。
また、学校の教育活動を支援する「学校支援地域本部」や、放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して、体験・交流活動等を提供する「放課後子ども教室」、家庭教育に関する学習機会の提供等を行う「家庭教育支援」などを一体的・総合的に推進することなどにより、高齢者を含む幅広い世代の地域住民の参画による地域全体で子どもを育む環境づくりを支援する。
移動制約者の旅行の機会を拡大することにより誰もが旅行に参加しやすい環境づくりを進めるため、ユニバーサルツーリズムの先進事例のモデル化を行うことで地域の自治体やNPO法人の取組を側面支援するユニバーサルツーリズム促進事業を実施する。
(5)生活環境
○良質な民間賃貸住宅の供給促進
民間賃貸住宅を活用した住宅セーフティネットを構築するため、地方公共団体との連携を図りつつ、増加傾向にある民間賃貸住宅の空家をリフォームし、子育て世帯・障害者世帯等の住宅確保要配慮者向けに適切な契約・管理の下で賃貸する事業について支援する制度を創設する。
○住宅市場の環境整備
中古住宅・リフォームトータルプラン(平成24年3月策定)に基づき、中古住宅・リフォーム市場の拡大に向けた市場環境の整備を図るため、インターネット等を活用した中古住宅やリフォームに関する消費者向け情報提供の充実、インスペクションの普及に向けたガイドラインの作成、かし担保責任保険の充実、高齢者・子育て世帯等に賃貸すること等を条件とした民間賃貸住宅のリフォーム支援などの施策を推進する。
○高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援
高齢者等居住安定化推進事業により、高齢者等の居住の安定確保に資するすまいづくり・まちづくり等を行う事業の提案を公募し、先導性や普及性等に優れた事業に対して補助を行う。
○悪質商法等からの保護
振り込め詐欺や利殖勧誘事犯の犯行グループは、被害者や被害者になり得る者等が登載された、いわゆる「闇の名簿」を利用している。当該名簿登載者の多くは高齢者であり、今後更なる被害に遭う可能性が高いと考えられるため、捜査の過程で警察が入手したこれらの名簿をデータ化し、都道府県警察が委託した会社のオペレーターがこれを基に電話による注意喚起を行うなどの被害防止対策を実施する。
○東日本大震災への対応
介護保険において、被災された方を経済的に支援する観点から、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う警戒区域等の住民の方については、介護保険の利用者負担や保険料の減免に対する財政支援を最長1年間継続し、警戒区域等以外の方についても、自治体が行う被災者への利用者負担や保険料の減免に対し、特別調整交付金を活用して、平成24年9月分まで財政支援措置を行うこととしている。
日本司法支援センター(法テラス)では、震災に起因する法的トラブルを抱え、経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者を支援するため、震災以降の取組を継続し、「震災 法テラスダイヤル」(フリーダイヤル)や被災地出張所における業務の適切な運用を行うなど、生活再建に役立つ法制度などの情報提供及び民事法律扶助を実施する。また、東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律(平成24年4月1日施行)に基づき、東日本大震災法律援助事業(東日本大震災に際し災害救助法が適用された市町村の区域(東京都を除く。)に平成23年3月11日において住所等を有していた者の東日本大震災に起因する紛争について、その者の資力状況にかかわらず、訴訟代理、書類作成、法律相談等に係る援助を行う業務)を実施する。
○活力ある農山漁村の形成
近年、高齢化の進展や食料品小売店・飲食店数の減少等社会・経済構造の変化によって、中山間地域はもとより都市部においても、住民に食料品の購入や飲食に不便や困難をもたらす「食料品アクセス問題」が発生しており、地域の実態に応じた有効な食料品のアクセス改善を図ることが緊急の課題となっている。このため、食料品へのアクセスが困難となっている地域において、高齢者等への食料品の円滑な提供を図るため、民間事業者等が「食料品アクセス問題」を抱える市町村等と連携して行う地域の実態を踏まえた取組を支援する。
(6)調査研究等の推進
○福祉用具等の研究開発
「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(平成5年法律第38号)に基づく「福祉用具の研究開発及び普及を促進するための措置に関する基本的な方針」(平成5年厚生省、通商産業省告示第4号)に沿って、福祉用具の実用化開発を行う事業者に対する助成や研究開発を行うために必要な情報の収集・分析及び提供を実施する。
介護等の分野で役立つサービスロボットについて、実用化のために障害となっている対人安全性を克服するため、実際環境における実証、安全検証手法確立、安全認証体制整備、国際標準化議論への貢献に向けた取組を引き続き推進する。
○脳の仕組みを活かした技術開発の推進
脳の仕組みを活かし、日常生活における行動・コミュニケーション支援において必要となる簡単な動作や方向、感情などを「強く念じる」ことで移動支援機器やコミュニケーション支援機器などに伝えることを日常的に可能とする技術の研究開発を引き続き推進する。