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コラム1 夢のみずうみ村~生活力回復を促す介護~

長寿化による高齢者人口の増加に伴い、介護を要する高齢者数も増加しており、介護現場の量や質の確保、向上が必要とされている。

ここでは、山口県山口市にあるデイサービスセンターで行われている「生活力回復を促す介護」の取組について紹介する。

毎日300名ほどが利用している山口県山口市の「夢のみずうみ村山口デイサービスセンター」では、リハビリを「生活できる能力を確認すること」、「生きるエネルギーを再生産すること」と位置付け、施設に通う要介護者に、楽しみながら自身に埋もれている能力を引き出すようなユニークな仕掛けを多数備えている。

例えば「バリアアリー」。通常、高齢者が通う福祉施設などでは、転倒防止のため、段差をなくし手すりを設けるなどバリアフリー化されているところが多いが、夢のみずうみ村では、段差や坂、階段など日常生活で遭遇するバリア(障壁、障害物)を意図的に配置している。これは、利用者自らでバリアの克服方法を習得してもらい、施設外での生活範囲を広げることを目的としている。

そして、施設内の通貨「YUME(ユーメ)」も代表的な仕掛けの一つ。夢のみずうみ村での生活は、ユーメを支払ってリハビリプログラムに参加したりコーヒーなどの買い物を行っている。一方、ユーメを手に入れる方法は、一日の予定を立てたり自分で血圧測定をするといった簡単なことから、リハビリの一環として施設内のいたるところに配備されたクイズに回答したり職員手づくりの訓練具に挑戦したり、また、高難度のものとしては施設見学者の案内を行うなど、たくさんの方法が用意されている。

この施設内通貨の仕組みによって利用者に、財布からお金を出し入れするといった指先の運動だけでなく、お金が必要であるという注意力、理解力や、手持ち金で足りるかどうかを考える推測力、計算能力、そして足りなければ稼いでためるという計画性や行動力などを培っている。

利用者は、施設に到着すると、最初にその日の施設内での過ごし方を自分で決め、プログラムの書かれたマグネットをプログラムボードに貼り付けていく。プログラムのメニューには習字や料理教室、体操、マッサージなど、リハビリにつながる多くのものが用意されており、中には「ボーっとする」、「何もしない」といったゆったり過ごすものもある。それらの中から利用者の自己選択・自己決定によりスケジュールを組み、一日を主体的に過ごすことで、利用者が楽しんで意欲的にリハビリに取り組んでいるのである。

利用者一人ひとりが異なるスケジュールで動き、かつ、あえて「バリアアリー」とするこれらの取組は、利用者全員が行動を共にし、バリアフリー設備で過ごす方式よりも、施設側には多大な負担とリスクが伴う。しかし、施設利用契約の際に利用者やその家族の理解と同意を得た上で、リスクを背負ってでも利用者の能力を引き出すことを優先する夢のみずうみ村の理念には、目を見張るものがある。

利用者の皆さんは驚くほどに笑顔で、夢のみずうみ村に通って良かったことについて「決められたことではなく、好きなことができる」、「これができるようになりたい!という目標ができた」、「プログラムを通して同じ趣味を持つ友達と出会え、人間関係が広がった」などと話された。

理事長を務める藤原茂さんは、「リハビリにより「人生の回復」を遂げていただきたい。自分でできることを増やして生活力を回復し、自信をつけることによって新たな夢を描いてもらう。その実現のお手伝いをすることこそ夢のみずうみ村のリハビリ。利用者の人生を、障がいを抱える前よりももっと輝かせることが目標。」と語られた。

夢のみずうみ村に通う利用者の中には、要介護度が改善した人も多く、その中には現在、同施設の職員として活躍している人もいらっしゃるそうだ。

新しい高齢社会対策大綱では、「尊厳ある自立と支え合い」による超高齢社会の実現を謳っている。心身の機能が弱まったとしても誇りや尊厳を高め、意欲や能力を引き出すような介護・支援の取組が、今後さらに広がりをみせることが期待される。

施設内通貨YUME(ユーメ)
一日のスケジュールを自分で決め、プログラムの書かれたマグネットをプログラムボードにはる様子
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