平成26年度 高齢社会対策 第2 分野別の高齢社会対策
第2 分野別の高齢社会対策
1 就業・年金等分野に係る基本的施策
(1)全員参加型社会の実現のための高齢者の雇用・就業対策の推進
ア 年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた取組
「雇用対策法」(昭和41年法律第132号)第10条に基づき、労働者の一人ひとりにより均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行う。
高年齢者が健康で、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会(以下「生涯現役社会」という。)の実現に向けた取組として、地域の中核的企業をモデル企業に選定し、当該企業における取組を通じ、生涯現役社会実現に向けた地域の機運醸成を図るほか、高年齢者に対して高齢期の職業生活設計に係るセミナーを開催する等、生涯現役社会の実現に向けた環境整備を図る生涯現役社会実現事業を実施する。
また、企業における高年齢者の活用を促進するため、高年齢者の職域の拡大、作業環境の改善又は雇用管理制度の整備等を行う事業主を支援するとともに、定年を控えた高年齢者等で、その知識や経験を活かすことができる他の企業での雇用を希望する者を、公共職業安定所又は職業紹介事業者の紹介により雇い入れる事業主を支援し、高年齢者の雇用の維持を図る。
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)の融資制度(地域活性化・雇用促進資金)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用等を行う事業者に対しては当該制度の利用に必要な雇用創出効果の要件を緩和(2名以上の雇用創出から1名以上の雇用創出に緩和)する措置を継続する。
また、高齢者の活用に積極的な企業を表彰することで、そのような企業のすそ野を広げるため、高齢者を始めとした多様な人材の能力を最大限発揮させることにより、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業を選定し、「ダイバーシティ経営企業100選」として表彰する。
イ 多様な形態による雇用・就業機会の確保
高年齢者の多様な就業ニーズに対応し、定年退職後等において、臨時的・短期的又は軽易な就業を希望する者に対し、意欲や能力に応じた就業機会、社会参加の場を総合的に提供するシルバー人材センター事業について、地方公共団体が地域のニーズがあると認めた分野において、シルバー人材センターが立ち上げる「地域ニーズ対応事業」を支援するほか、各シルバー人材センターにおける就業機会の拡大・会員拡大などの取組を支援することにより、各シルバー人材センターの会員が身近な地域で安心して働くことができるよう多様な就業機会を提供するとともに、適切な運営の確保を図る。
また、平成25年度補正予算において「地域人づくり事業」として基金(緊急雇用創出事業臨時特例交付金)を活用し、地方自治体において、関係機関が相互に連携し高年齢者の就労支援事業を展開する。これにより、高年齢者の就業・社会参加の充実を図るモデル的な取組を推進する。
ウ 高齢者等の再就職の援助・促進
「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、交付を希望する高年齢離職予定者に求職活動支援書を交付しない事業主に対しては公共職業安定所が必要に応じて指導・助言を行う。求職活動支援書の作成に当たって、中高年齢者の有する豊富な職業キャリアの記載ができる「職業キャリアが長い方向けのジョブ・カード」を求職活動支援書としても活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促す。
主要な公共職業安定所において、高年齢求職者を対象に職業生活の再設計に係る支援や、特に就職が困難な者に対する就労支援チームによる支援を行う。
あわせて、地域の事業主団体等と公共職業安定機関の参画の下、高年齢者の居住する身近な地域において雇用を前提とした技能講習、面接会、フォローアップ等を一体的に行うシニアワークプログラム事業を実施する。
また、常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により一定期間試行雇用する事業主に対する助成措置(トライアル雇用奨励金)や、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施する。
さらに、再就職が困難である高年齢者の円滑な労働移動を強化するため、平成25年度補正予算において抜本的に拡充した労働移動支援助成金により、離職を余儀なくされる高年齢者等の再就職を民間の職業紹介事業者に委託した事業主や、高年齢者等を受け入れて訓練(OJTを含む)を行った事業主に対して、助成措置を行い、能力開発支援を含めた労働移動の一層の促進を図る。
エ 起業の支援
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度(女性、若者/シニア起業家支援資金)により開業・創業の支援を行う。
オ 知識、経験を活用した65歳までの雇用の確保
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(昭和46年法律第68号)は事業主に対して、65歳までの雇用を確保するために継続雇用制度の導入等の措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)を講じるよう義務付けており、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導等を実施するとともに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の高年齢者雇用アドバイザーによる技術的事項についての相談・援助を行う。
公務部門における高齢者雇用において、行政機関における国家公務員については、現行の国家公務員法に基づく再任用制度の適切な運用を図るとともに、特に雇用と年金の接続を図る観点から、平成25年3月の閣議決定(「国家公務員の雇用と年金の接続について」)に基づき、再任用制度の適切な運用を図る。地方公務員については、同閣議決定の趣旨を踏まえ、地方の実情に応じて必要な措置を講ずるよう各地方公共団体に対して必要な助言等を行い、雇用と年金の確実な接続を図る。
(2)勤労者の生涯を通じた能力の発揮
ア 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発
職業生涯の長期化や働き方の多様化等が進む中、労働者が職業生活の全期間を通じてその能力を発揮できるようにするために、労働者の段階的・体系的な職業能力の開発・向上を促進し、ひいては人材の育成・確保や労働生産性の向上につなげる。
このため、職業訓練の実施や能力本位の労働市場の形成を支援するのみならず、個々人にあった職業生涯を通じたキャリア形成支援を推進する。
イ ゆとりある職業生活の実現等
仕事と生活の調和の実現のため、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に向けた取組を中心として、労働者の働き方・休み方の見直しを進めており、年次有給休暇の取得促進などのための効果的な情報発信や、恒常的な長時間労働の実態にある業種や職種に重点化した対応など、労使の自主的な取組の支援を行う。
ウ 職業生活と家庭生活との両立支援対策の推進
(ア)改正育児・介護休業法の円滑な施行
平成24年7月に全面施行された改正育児・介護休業法について、引き続き制度の内容を周知するとともに、企業において改正内容が定着し、法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導等を行う。
(イ)仕事と家庭を両立しやすい職場環境整備
育児や介護を行う労働者が働き続けやすい環境整備を推進するため、両立支援等助成金の支給や、両立支援に関する情報を一元化した「両立支援総合サイト(両立支援のひろば)」の運用を行う。
また、中高年を中心として、家族の介護のために離・転職する労働者が増加していることから、企業向けに構築した仕事と介護の両立支援対応モデルを活用し、人事労務担当者等を対象とした研修の実施や、大企業及び中小企業各々における具体的課題を抽出するための実証実験、実験結果を基にした企業向け事例集の作成・周知を行うことで、労働者の仕事と介護の両立を支援し、継続就業を促進する。
さらに、仕事と育児・介護等の両立支援のための取組を積極的に行っており、かつその成果が上がっている企業に対し、公募により「均等・両立推進企業表彰」を実施し、その取組を広く周知することにより、労働者が仕事と家庭を両立しやすい職場環境の整備を促進する。
エ 多様な勤務形態の環境整備
(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備
パートタイム労働者がその能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するため、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)に基づく是正指導や、専門家による正社員との均等・均衡待遇や正社員への転換に関する相談・援助、事業主に対する職務分析・職務評価の導入支援等により、正社員との均等・均衡待遇確保のための取組を推進する。また、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の確保や納得性を高めるための措置等の更なる充実を内容とする短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第27号。以下「改正パート法」という。)が、平成26年4月に成立した。今後は、その内容の周知徹底を図るなど、円滑な施行に取り組む。
さらに、パートタイム労働者の雇用管理改善に積極的に取り組む企業の表彰制度の創設等、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の取組推進に向けた機運醸成を図り、あわせてパートタイム労働者のキャリアアップ支援等に取り組む。
また、所定労働時間が短いながら正社員として適正な評価と公正な待遇が図られた働き方であり、育児・介護や地域活動など個々人のライフスタイルやライフステージに応じた働き方を実現させるものとして期待される「短時間正社員制度」について、その導入・定着を促進するため、制度導入支援マニュアルの配布のほか、制度を導入した事業主に対する助成金等の活用、「短時間正社員制度導入支援ナビ」の運営、人事労務担当者を対象にしたセミナーの実施等により、短時間正社員制度の概要や取組事例等についての情報提供等を行い、周知・啓発に努める。
(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の開発・普及
平成25年6月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」に基づき、テレワークが高齢者等の遠隔型勤務形態に資するものとして、一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を関係省庁が連携して推進する。
これに基づき、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握、テレワーク展開拠点施設の需要や必要な機能等を把握することにより、テレワークの普及・推進施策の検討等を行う。
また、テレワークの本格的普及に向けて、仕事と子育て・介護等の両立など柔軟な働き方が可能となる新たなテレワークモデルを確立するための実証を実施するとともに、テレワーク導入企業に対する労務管理や情報通信技術に関する専門家の派遣、相談への対応、事業主や労働者等を対象としたセミナーの開催やテレワーク導入経費等に係る支援等を行う。
(3)公的年金制度の安定的運営
ア 持続可能で安定的な公的年金制度の確立
平成26年度以降の基礎年金国庫負担割合については、消費税増税による税収によって、2分の1を恒久化する。また、24年に成立した「国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(平成24年法律第99号)に基づき、年金財政の改善と世代間の公平を図る観点から、特例水準の解消を進めており、26年4月には、特例水準を1%解消する。
また、社会保障制度改革プログラム法等で、長期的に持続可能な制度とし、社会経済情勢の変化に対応したセーフティネット機能を強化し、世代間及び世代内の公平性を確保する観点から示された今後の課題について、検討を進めていく。
イ 低年金・無年金問題への対応
平成24年度に成立した年金関連4法による年金の受給資格期間の短縮や、年金生活者支援給付金の支給等については、27年度からの円滑な施行に向け、必要な準備や周知に取り組む。
ウ 働き方やライフコースの選択に中立的な年金制度の構築
年金関連4法による産休期間中の社会保険料免除等の円滑な施行に取り組むとともに、短時間労働者への社会保険の適用拡大の28年度からの円滑な施行に向け、必要な準備や周知に取り組む。
エ 年金記録問題への対応・業務運営の効率化
日本年金機構については、厚生労働大臣が定めた中期目標に基づき、日本年金機構により作成された平成26年度計画を認可し、その着実な実施を求めることにより、公的年金制度の適切な運営の確保に努める。
具体的には、年金記録問題への対応については、①ねんきん定期便等による「加入期間などに誤りがあると思われる方は年金事務所で相談してほしい」旨の働きかけや、②持ち主が明らかでない年金記録をインターネット上で検索できる「ねんきんネット」の充実や利用者の拡大、③広報による働きかけなどにより、本人に心当たりの記憶を申し出るよう協力を求める取組を進める。
また、国民年金の適用事務については、住民基本台帳ネットワークシステムにより把握した20歳、34歳及び44歳到達者に対する届出勧奨及び届出がない場合の資格取得等の手続を確実に実施するとともに、収納事務については、平成26年度の現年度納付率について21年度の納付実績を上回る水準を確保することを目標に、国民年金保険料収納事業受託事業者との協力・連携により効率化を図るとともに、強制徴収業務を更に強化する。
厚生年金保険等の適用事務については、法務省の保有する法人登記簿情報を活用して適用調査対象事業所の効率的な把握を行い、引き続き加入勧奨・加入指導に努めるとともに、厚生年金保険等の徴収事務については、長期・高額の滞納があり、国税庁への委任要件に該当する悪質な滞納事務所に対しては、国税庁に委任する仕組みを適切に活用することで、効率的に取り組む。
給付事務については、年金給付の請求書を受け付けてから年金が決定され、年金証書が請求者の方々に届くまでの所要日数を「サービススタンダード」として設定し、迅速な支給決定に取り組むとともに、その達成状況を適切に把握していく。
この他、お客様と直接接する年金事務所等第一線の職員からの要望等に基づく業務運営の効率化や年金相談の充実、お客様サービスの向上、業務の公正性・透明性の確保などの取組を進める。
(4)自助努力による高齢期の所得確保への支援
ア 企業年金制度等の整備
平成25年6月に公布された「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第63号)について、関係者と協力しつつ、着実な実施に努める。
また、企業年金等の普及・促進を図るため、同年9月に社会保障審議会に設置した企業年金部会において、確定給付企業年金・確定拠出年金等の制度改正に向けた議論を行う。
また、平成26年度税制改正大綱に基づき、企業型確定拠出年金の拠出限度額の引き上げ等の措置を講じる。
イ 退職金制度の改善
中小企業における退職金制度の導入を支援するため、中小企業退職金共済制度の普及促進等の施策を推進するとともに、中小企業以外の企業も含め、退職金制度に関して必要な情報提供等の支援を行う。
ウ 高齢期に備える資産形成等の促進
勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進する。
また、認知症高齢者等の財産管理の支援等に資する成年後見制度について周知する。