第1章 高齢化の状況
第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向
6 高齢者の生活環境
○高齢者の8割は現在の住居に満足している
- 60歳以上の高齢者に現在の住宅の満足度について聞いてみると、「満足」又は「ある程度満足」している人は総数で76.3%、持家で79.1%、賃貸住宅で56.6%となっている(図1-2-28)。
○高齢者の交通事故死者数は減少しつつあるが、交通事故死者数全体に占める割合は過去最高
- 65歳以上の高齢者の交通事故死者数は、平成26(2014)年は2,193人で前年より減少に転じたが、交通事故死者数全体に占める割合は53.3%と過去最高となった(図1-2-29)。
○高齢者の犯罪者率は減少傾向、被害に遭う割合は増加傾向
- 平成25(2013)年の65歳以上の高齢者の刑法犯の検挙人員は、15(2003)年と比較すると、検挙人員では約1.5倍、犯罪者率では約1.2倍であるが、犯罪者率は近年減少傾向となっている(図1-2-30)。
- 犯罪による65歳以上の高齢者の被害の状況について、刑法犯被害認知件数でみると、平成14(2002)年にピ―クを迎えて以降、近年は減少傾向にあるが、高齢者が占める割合は、25(2013)年は12.9%と、増加傾向にある(図1-2-31)。
○生きがいを感じている人は約7割
- 60歳以上の高齢者が生きがいをどの程度感じているかについてみると「十分に感じている」人と「多少感じている」人の合計は約7割である。(図1-2-32)
○毎日の生活を充実させて楽しむことに力を入れたい人が多い
今後の生活で「貯蓄や投資など将来に備える」ことよりも「毎日の生活を充実させて楽しむ」ことに力を入れたい人の割合は、60~69歳は77.0%、70歳以上は83.1%であり、50~59歳では約5割、49歳以下の各層では4割前後であるのに対して、60歳以上の各層の割合は高い。また、平成15(2003)年と比べると、約7割から約8割に増加している(図1-2-33)。
○孤立死と考えられる事例が多数発生している
- 誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような「孤立死(孤独死)」の事例が報道されているが、死因不明の急性死や事故で亡くなった人の検案、解剖を行っている東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成25(2013)年に2,869人となっている(図1-2-34)。
- 独立行政法人都市再生機構が運営管理する賃貸住宅約75万戸において、単身の居住者で死亡から相当期間経過後(1週間を超えて)に発見された件数(自殺や他殺などを除く)は、平成25(2013)年度に194件、65歳以上に限ると129件となっている(図1-2-35)。
- 誰にも看取られることなく、亡くなったあとに発見されるような孤立死(孤独死)を身近な問題だと感じる(「とても感じる」と「まあ感じる」の合計)人の割合は、60歳以上の高齢者では2割に満たないが、単身世帯では4割を超えている(図1-2-36)。
○東日本大震災における高齢者の被害状況
- 岩手県、宮城県、福島県の3県で収容された死亡者は、平成23(2011)年3月11日から27(2015)年3月11日までに15,821人にのぼり、検視等を終えて年齢が判明している15,738人のうち60歳以上の高齢者は10,396人と66.1%を占めている(図1-2-37)。
コラム:「お節介」による人のつながりと地域づくり~独身者の出会いの支援~
- 内閣府の調査によると、単身の8割近くは結婚の意向があるにもかかわらず、適当な相手に巡り合わないという理由で結婚していない。
- 「お節介クラブ」は、岡山商科大学大学院の鳥越良光教授が中心となって呼びかけ、現在708名の個人会員のほか59団体の団体会員からなる「お節介人」が独身者の出会いを支援している。
- お節介クラブは、いわゆる「結婚紹介所」ではなく、かつて日本でよく見られていた、お節介な人たちによって若者が出会える仕組みが、再び見直されて形を変え登場したものである。お節介人は結婚希望者の意向に沿って出会いの機会をつくり、お見合いの場に同席する。場合によってはその後のお付き合いの助言や指導も行っている。
- 独身者にとって、身内の話は素直に聞けなくても、高齢の他人の話には耳を傾けられることが多い。「お節介」には、豊富な人生経験が不可欠であり、高齢者の能力が存分に生かされている。
- 平成24年のクラブ設立以来、お見合い総数767組、成婚率7.8%の成果をあげている。
- 会員は、自分の紹介で登録した「結婚希望者」が、結婚する相手に出会えたその喜びが活動を続ける原動力になっているという。
- 結婚希望者も会員の紹介によって登録されるなど、クラブの関係者はみな「知り合いの知り合い」という、高齢者の人脈と信用で成り立っているため、成婚した後も、子育てや介護といった場面で、地域で互いに支え合っている。この地域貢献こそ、高齢者だからできる「コミュニティの再構築」とも言える。
コラム:イギリスにおける認知症の人へのサービス~認知症ビフレンディング・サービス~
- イギリスでは、現在およそ450万人が認知症とされており、高齢化の進展に伴い今後さらに増加すると予想されている。同国では、2009年から認知症の人が住み慣れた地域でよい環境のもとで生活するための国家戦略が始まっており、さまざまな取り組みが進んでいる。
- 認知症ビフレンディング・サービスは、ロンドンのカムデン区にある慈善団体AgeUK カムデンで始まり、他の組織でも取り組みが行われている。AgeUK カムデンでは、サービスの提供に、無償ボランティアと有給職員であるコーディネーターがあたり、利用者は無料でサービスを利用することができる。
- サービスは、週に1回の自宅訪問が基本で、生活リズムを作るためにも同じ曜日の同じ時間に訪問する。利用者はアポイントを忘れることもあるため、訪問の30分~1時間前に電話で確認をする。
- 認知症の人にとって、自分の声を聴いてくれる人がいると実感できることは非常に重要である。ボランティアが定期的に訪問することで本人の社会的な関係が構築され、スキルの維持につながっている。
- 成果は認知症の人だけでなくボランティア側にもあり、非常に豊かな経験をしてきた利用者と一緒に過ごして話を聞くことで、多くのことを学ぶことができている。
- イギリスはボランティア活動の長い経験と実績を持ち、充実した研修やコーディネーターの活動など非営利組織の運営に長じている。認知症の人を地域で支えるために、国際的にさらに経験とアイデアを学び合い、多様な主体による多様なサポートを進めることも今後一層重要と考えられる。