第1章 高齢化の状況
第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向
コラム1 「お節介」による人のつながりと地域づくり~独身者の出会いの支援~
地域には、住民同士が互いに支え助け合う“つながり”をもったコミュニティが存在する。しかし、人口の減少や単身世帯の増加、地域活動に対する関心の低下などから、最近はこのコミュニティの担い手が不足し、その維持自体が難しくなっている。平成25年国民生活基礎調査(厚生労働省)によると、世帯構造別世帯数では「夫婦と未婚の子のみ」の世帯が最も多く、次いで「単身世帯」である。同様に、内閣府実施の調査「結婚・家族形成に関する意識調査」(平成26年度)によると、単身の8割近くは結婚の意向があるにもかかわらず、適当な相手に巡り合わないという理由で結婚していないといった結果がでており、いまや晩婚化や少子高齢化は日本社会全体の大きな課題となっている。
ここでは、高齢者の広い人脈と社会的信用を生かした「お節介な地域貢献」でコミュニティを再構築しようとする地域について紹介する。
岡山県を中心に活動をする、その名も「お節介クラブ」。当クラブは、岡山商科大学大学院の鳥越良光教授が中心となって呼びかけ、現在708名の個人会員のほか59団体の団体会員からなる「お節介人」が独身者の出会いを支援している。
これは、独身者の仲をとりもつ出会いの支援であり、いわゆる「結婚紹介所」ではない。かつて、日本でよく見られていた、お節介な人たちによって若者が出会える仕組みが再び見直されて、形を変えて登場したものである。当クラブの会員になるためには会員の紹介がなければならず、また結婚を希望する独身者も会員の紹介で登録される。このクラブの関係者はみな「知り合いの知り合い」という、高齢者の人脈と信用で成り立っている。
お節介人は結婚希望者の意向に沿って出会いの機会をつくり、お見合いの場に同席する。場合によってはその後のお付き合いの助言や指導も行い、この「お節介」が時に「お説教」になることもある。お説教は、お見合いの内容に限ったことではない。当日の急なキャンセルや相手に対する思いやりのなさなど、大人としての振る舞いやコミュニケーションのとり方にまで及ぶ。これはもう、人生経験を積んだ高齢者だからなせる業であり、お節介人の厳しい言葉の中には、これからの幸せを願う温かい気持ちが感じられる。独身者にとって、身内の話は素直に聞けなくても、高齢の他人の話には耳を傾けられることが多い。この「お節介」には、豊富な人生経験が不可欠であり、高齢者の能力が存分に生かせるのだ。もちろん、お節介人は自身の経験をもとに一方的にお説教をするわけではない。より良いお節介をするため、定期的に研修会を行い、情報共有やスキルアップも図る。
この熱意あるお節介は、平成24年のクラブ設立以来、平成26年7月31日現在で、お見合い総数767組、成婚率7.8%の成果をあげてきた。結婚希望者が成婚した場合、会員(紹介者)は「成婚報酬」を受け取ることができる。しかし、会員は報酬を目当てに「お節介」しているのではない。自分の紹介で登録した「結婚希望者」が、結婚する相手に出会えたその喜びが活動を続ける原動力になっている。
成婚者は、今度はお節介人となり、結婚希望者を紹介する役割を担う。お節介人にもらった「恩」は「恩返し」するのではなく、次へと「恩送り」「恩渡し」することで、お節介の輪は広がっていく。
このお節介の過程で築かれたつながりは、お見合い後ももちろん続く。人の紹介で成り立っているため、成婚し、結婚希望者としての登録がなくなった後も、子育てや介護といった場面で、地域で互いに支え合う、古き良きコミュニティが復活しているのである。
我が国は世界に例のない速さで高齢化が進んでいる。だからこそ、意欲と能力のある高齢者の社会参加活動は、これからの活力ある社会の構築に必要不可欠だと考えられている。「お節介」を辞書で調べると、「余計な世話を焼くこと」とある。確かに、独身者の仲を取り持つなど余計なお世話かもしれない。しかし、相手のことをよく見て、知っておかなければこの「お節介」はできない。高齢者の豊富な人生経験がなければ、相手の気持ちに届く「お節介」はできない。このお節介は、人との結びつきや地域のつながりを新たに生んでいる。この地域貢献こそ、高齢者だからできる「コミュニティの再構築」なのかもしれない。