第1章 高齢化の状況

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第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向

コラム2 イギリスにおける認知症の人へのサービス~認知症ビフレンディング・サービス~

イギリスでは、現在およそ450万人の人が認知症とされており、高齢化の進展に伴い今後さらに増加すると予想されている。このため、認知症の人が地域の中でよりよく生きていくことができる環境が必要とされている。同国では、2009年から認知症の人が住み慣れた地域でよい環境のもとで生活するための国家戦略が始まっており、さまざまな取り組みが進んでいる。

ここでは、ボランティアが在宅の認知症の人を支える試みである、認知症ビフレンディング・サービス(Dementia befriending service)を紹介する。

○イギリスにおける認知症の課題と認知症ビフレンディング・サービス

日本における認知症施策の基本的考え方は「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」とされており、この考え方は国際的に共通している。2015年2月にイギリスで発表された最新の認知症施策「首相のチャレンジ」の中でも、研究開発費の大幅な増額などとともに、現在100万人の認知症フレンド(日本の認知症サポーターにあたる)を増やすなどの努力をさらに進め、現在82カ所の認知症フレンドリー・コミュニティを全国に大きく広げていくことが中心課題の一つとなっている。

○サービス提供組織

認知症ビフレンディング・サービスは、ロンドンのカムデン区にある慈善団体「AgeUK カムデン」で2009年から始まり、他の組織でも取り組みが行われている。

AgeUK カムデンは、高齢者を対象にしたサービスや情報提供、自治体や政府への提言などを行っている。AgeUK連盟の下で、全英で170の独立した地域団体が活動しているがAgeUK カムデンはロンドンで最大規模である。60人の専従スタッフと260人のボランティアが活躍している。地元企業からのボランティアも積極的に受け入れている。

サービス提供組織
サービス提供組織

○ボランティア

認知症ビフレンディング・サービスの提供には、40名の無償ボランティアと有給職員であるコーディネーターがあたり、利用者は無料でサービスを利用することができる。ボランティアの年齢層は18歳から75歳までと幅広く、特に30歳から50歳が多い。ボランティア活動を始めるきっかけはさまざまだが、家族を介護した経験者も多い。

ボランティアの男性
ボランティアの男性

○コーディネーター

認知症ビフレンディングコーディネーターは、サービスを進めるボランティアの管理者であり、また後方支援者である。その主な業務は、認知症の人のアセスメント、ボランティアの面接・トレーニング・アドバイス・管理、ボランティアと高齢者とのマッチング、認知症の知識普及などである。

利用者自身が直接サービスを申し込むケースはほとんどなく、カムデンメモリーサービス(認知症専門クリニック)から紹介されてくる人が多い。医療機関、住宅サービス、友人からの紹介もある。ひとり暮らしであることが利用者を選定する際の優先基準の一つとなっている。

サービスは、週に1回の自宅訪問が基本で、生活リズムを作るためにも同じ曜日の同じ時間に訪問する。利用者はアポイントを忘れることもあるため、訪問の30分~1時間前に電話をして確認する。

○実際にボランティアとして活動している女性の活動例

毎週、火曜日の朝10時から午後1時までを利用者と一緒に過ごしている。最初に、利用者が自分の1週間におきたことを教えてくれる。いつもスーパーマーケットに行って、その後カフェでケーキとカプチーノを注文する。薬局やクリニック、美容院に一緒に行くこともある。最初の頃は利用者の家族のことなどを良く聞いていた。また、iPadを使ってその人の好きな映画を見たり一緒に歌うこともある。利用者が入院した時も訪問を続けた。最近は、手のマッサージを学んで利用者に行っている。

活動の様子
活動の様子
左側ボランティアの女性。右側コーディネータの女性
左側ボランティアの女性。右側コーディネータの女性

○成果

認知症の人にとって、自分の声を聴いてくれる人がいると実感できることは非常に重要である。ボランティアが定期的に訪問することで本人の社会的な関係が構築され、スキルの維持につながっている。例えば、訪問の際に利用者がお茶を入れるだけでもそれには動作を伴う。小さなことでも継続していくことが、認知症の進行を少しでも遅らせることにつながる。

また、成果は認知症の人だけでなくボランティア側にもあり、非常に豊かな経験をしてきた利用者と一緒に過ごして話を聞くことで多くのことを学ぶことができている。

○日本への示唆

イギリスは、ボランティア活動の長い経験と実績を持ち、充実した研修やコーディネーターの活動など非営利組織の運営に長じている。認知症は、日本やイギリスのみならず人類共通の課題であることから、認知症の人を地域で支えるために、国際的にさらに経験とアイデアを学び合い、多様な主体による多様なサポートを進めることも今後いっそう重要と考えられる。

(国際長寿センター「平成26年度生涯現役社会づくりに関する活動の国際比較調査研究報告書」を参考とした。)

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