第1章 高齢化の状況
第3節 一人暮らし高齢者に関する意識
コラム4 ニュータウンの高齢者宅へのホームステイ~近隣大学による試み~
日本の高齢化率は26%を超え、高齢者の一人暮らしや夫婦のみの世帯数は毎年増えている。世界的にも高齢者の孤立や希薄化した地域住民のつながりが社会問題となる中、フランスなどの欧米諸国では高齢者と学生が同居することによって、高齢者の孤立を防止しようという取組が進められている。ここでは、愛知県中部大学が行っている、大学生と高齢者の世代間同居に関する取組を紹介する。
高蔵寺ニュータウンは、愛知県春日井市に位置するニュータウンで、名古屋市のベッドタウンとして開発された。日本三大ニュータウンのひとつ(他は多摩ニュータウン、千里ニュータウン)で、1968年より入居を開始した、歴史の古いニュータウンでもある。
ニュータウンの抱える問題のひとつに、入居者全体がまとまって高齢化してしまうというものがある。これによって、ニュータウンの高齢化率は急速に上昇してしまう。この問題に対し、高蔵寺ニュータウンの近隣にキャンパスをもつ中部大学が、地域活性化・学生共育事業をうちたて、課題解決に乗り出した。
中部大学が推進している地域活性化・学生共育事業のなかに、大学生の高齢者宅へのホームステイ事業がある。
高齢者宅へのホームステイは地域活性化・学生共育事業をうちたてた平成25年から開始した。学生から参加者を募るとともに、受け入れ宅となる高齢者の募集を行う。高齢者宅の募集にあたっては、平成24年に行ったアンケート調査で、学生のホームステイに関心を示した世帯に説明会を案内した。平成25年、26年ともに100世帯ほどに説明会の案内を出しているが、実際に説明会に来たのは7世帯。うち4世帯が受け入れに協力の意思を示した。
受け入れ先の決定には、学生と高齢者の趣味の一致や、心理診断による性格傾向分析などが利用された。ホームステイへの参加を希望する大学生と、大学生の受け入れに関心を示す高齢者のお見合いを経て、マッチングが行われた。
実際にホームステイを行ったのは、平成25年に3世帯、26年に3世帯。夫婦世帯へのホームステイが多いが、単身世帯へのホームステイも行っている。
学生の期待や関心は高かったが、受け入れ世帯の数を考慮して希望学生を限定的に募集し、平成25年に18名、26年に6名の学生がホームステイを希望した。
ホームステイは3泊4日間の日程で、学生は買い物以外にも、趣味や老人クラブ活動にも一緒に参加し、高齢者の日常生活を体験する。普段は行かない近所の美術館に足を運ぶ人もいた。
高齢者側に関心があっても、受け入れに協力ができない背景としては、同居者の賛同が得られないなど、一部に協力の意思があっても世帯として断らざるを得ない場合や、大学生という他人を自宅に受け入れることへの不安といったことが挙げられる。また、自宅に大学生が出入りすることに、地域住民からの目が気になるという声も挙がっている。この事業に携わる中部大学の杉村公也特任教授は「地域ぐるみで意識改革を行っていかなくては」と語る。
今後、地域の活性化や、世代間交流に大学生や高齢者が抵抗感をもたずに積極的に参加できるような社会を作っていくため、長く続けられるように制度を整えていきたいと杉村教授は語る。このホームステイが、大学で学んでいることを実践する場となるよう、授業のカリキュラムなどの見直しの計画も進めている。また、地域の自治会や老人クラブと連携して、地域で説明会を開催することによって、より多くの高齢者に関心を持ってもらえることを目指している。介護の必要な人や認知症の人がいる世帯にホームステイしたり、期間を1週間にのばしたりと、今までのホームステイにはない取組への挑戦にも意欲を示している。