第1章 高齢化の状況
第3節 一人暮らし高齢者に関する意識
コラム5 被災前のコミュニティの復活・維持を目指して~復興公営住宅サポーターの取り組み~
東日本大震災により、地域のコミュニティにも甚大な被害を受けた釜石市。
ここでは、震災により失われた地域コミュニティを復活させようと活動する、復興公営住宅サポーターの取組を紹介する。
釜石市は、東日本大震災による大津波で未曾有の被害を受け、そこに住む人の多くは、大切な人や住まい、生きがい、仕事などを失い、地域コミュニティも甚大な被害を受けた。これまでの生活は一変し、浸水区域の住民は仮設住宅等で散り散りに避難生活を送ることとなり、今までの地縁的なつながりが途絶えがちになった。このため、それまでの地縁的なつながりを維持しつつ、活気ある町作りを進めるためにも地域コミュニティの復活・維持を積極的に働きかけることが必要になった。
釜石市の平成27年2月の高齢化率は35.5%であり、全国の高齢化率を上回っている。総世帯は17,073世帯、そのうち一人暮らし高齢者は約2割(平成26年9月時点)。現在、災害公営住宅は建設予定1,308戸のうち3棟は完成し、現在入居が進められ、平成29年の全公営住宅の完成を目指して急ピッチで作業が進められている。
釜石市は震災以前から地域経済の低迷や少子高齢化の進展などの課題を抱えており、震災による影響と相まって、生活課題は複雑化、深刻化している。このため、被災者それぞれの状況に寄り添った継続可能な個別支援が求められている。
釜石市社会福祉協議会は、平成26年2月から3棟の復興公営住宅を対象に3名のサポーターを配置し、復興公営住宅サポート事業をスタートした。主な業務は①安否確認、生活指導、相談業務などの入居者への個別的な支援、②地域住民との交流を図るためのサロン事業、③ワンストップとしての総合相談。また、地域福祉の中核的な機関としての機能も期待されている。復興公営住宅サポーターは、この1年間に1,100回程度の戸別訪問と、800件程度の面接を行い、サロンを130回開催した。
また、公営住宅を、被災者が入居する住宅から周辺地域へ同化共生させていくアプローチが大切であると考え、周辺地域の理解を促進するために、ご近所支えあいマップ(※)を作成した。公営住宅の課題は、地域の課題(高齢者の生活支援、孤立死の防止、コミュニティーづくり)に共通するものが多く、地域の福祉力を向上させ、持続可能な地域社会づくりに取り組んでいる。
復興公営住宅サポーター 小笠原さんへのインタビュー
様々な方を訪問支援していますが、一例として、病気を抱えてお一人で暮らしていらっしゃる50代後半の男性の方を訪問しています。この男性は震災後に避難所を経て仮設住宅から現在の復興住宅に来られました。男性は仮設住宅時に病気で倒れ入院療養後、通院療養まで回復したので復興住宅に転居し暮らしています。入居当初は、同じ住宅には知り合いもなく、何かあった場合に不安でしかたなかった、自死も考えたことがあるとおっしゃってましたが、私が定期的に訪問すると「あなたが来るのを待ってたよ。遠くから来ていただいてありがとう。」との言葉をかけられるなど、男性との信頼関係もできてきました。この仕事を初めて1年間経ちますが、このような言葉をいただくと、今後もこの仕事を続けていきたいと感じております。
住環境的には、復興もしくは自立とみなされる復興公営住宅入居者や自立再建世帯も、ついの住家で少しでも被災前の暮らしに近い生活をしたいという希望と、新しい場所での不安が交錯している。しかし皆一様に支援を欲しているわけでもなく、適切な距離感を保った関わりが大切となる。要援護者であっても本来持っている力を他者や近隣の為に活かしたいと願っている人は多く、一方向的な支援は、本人の尊厳を奪い生活意欲を低下させる一因にもなりかねないことから、本人のいま持っている力を活かす工夫を大切にしている。また、本人の流儀やペースに留意しながら、近隣周囲と双方向の関わりが生じるようなアプローチが必要となることから、生活歴やしあわせ感といった本人の考えへの理解に努めている。このように、仮設住宅等への個別訪問支援活動で培ってきた被災者(住民)との信頼関係を基に、新天地での暮らしの安定と地域との共生を支援している。
今後、被災から時間が経過するにつれて復興支援全体の規模やそのあり方が見直されることが予想されるため、こうして被災者への生活や困りごとの相談などで培った活動の実績を活かし、疲弊した地方の再建や社会づくりにむけ恒常的な事業への展開や、新たな取り組みを視野にいれて活動を進めていくこととしている。