平成29年度 高齢社会対策
第1 平成29年度の高齢社会対策
平成29年度における主な施策は次のとおりである。
○一億総活躍社会の実現に向けて
我が国の構造的な問題である少子高齢化に真正面から挑み、「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新・三本の矢」の取組を通じて「一億総活躍社会」の実現を目指す。
平成28年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に基づき、平成29年度においては、介護人材の処遇改善等の介護離職ゼロに向けた取組について、予算を確保し、実施することとしている。
○働き方改革の実現に向けて
平成29年3月28日に策定された「働き方改革実行計画」では「高齢者の就業促進」がテーマの一つとされた。平成29年度においては、「働き方改革実行計画」に盛り込まれた施策について、10年先を見据えたロードマップに沿って進めていく。
(1)就業・年金
○高齢者等の再就職の援助・促進
「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、交付を希望する高年齢離職予定者に求職活動支援書を交付しない事業主に対しては、公共職業安定所が必要に応じて指導・助言を行う。求職活動支援書の作成に当たって、ジョブ・カードを活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促す。
平成29年1月1日に施行した「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第17号)に基づき、65歳以上の労働者も雇用保険の適用対象とすることについて、改正後の法の内容の周知を図る。
○起業の支援
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度(女性、若者/シニア起業家支援資金)により開業・創業の支援を行う。
また、中高年齢者等の雇用機会の創出を図るため、中高年齢者等が起業(いわゆるベンチャー企業の創業)する際に必要となる、雇用の創出に要する経費の一部を助成する措置を引き続き実施する。
○仕事と家庭を両立しやすい職場環境整備
中高年を中心として、家族の介護のために離職する労働者が増加していることから、「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」の普及促進を図るとともに、平成28年度に策定した介護休業等を取得する労働者が発生した場合の企業の対応モデル「介護支援プラン」の充実化を図るための改定を行い、普及させることで、労働者の仕事と介護の両立を支援し、継続就業を促進する。
また、介護休業の分割取得、介護休暇の半日単位取得、介護のための所定外労働の制限制度の新設等を定めた「雇用保険法等の一部を改正する法律」が29年1月1日に施行したことを受け、同法の周知及び着実な履行確保に向けて取り組む。
○情報通信を活用した遠隔型勤務形態の開発・普及
平成28年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」等に基づき、テレワークが高齢者等の遠隔型勤務形態に資するものとして、一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を関係府省が連携して推進する。
○持続可能で安定的な公的年金制度の確立
平成28年12月14日に成立した「年金改革法」に基づき、平成29年4月から施行される中小企業等で働く短時間労働者について、労使の合意に基づき、企業単位で被用者保険の適用拡大を可能とする措置の円滑な実施を図るとともに、30年度以降に施行を予定している国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除など、年金改革法に基づくその他の施策についても円滑な実施に向け、必要な準備や周知に取り組む。
老齢基礎年金等の受給資格期間を25年から10年に短縮する措置について、平成29年8月1日に施行し、同年10月から新たに約64万人の方々に年金の支給を開始することとしており、その円滑な実施を図る。
働きたい人が働きやすい環境を整える観点から、被用者保険の適用拡大を進めることとしており、平成29年4月から施行される中小企業等で働く短時間労働者について、労使の合意に基づき、企業単位で被用者保険の適用拡大を可能とする措置の円滑な実施を図る。
○高齢期に備える資産形成等の促進
勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進する。
また、認知症高齢者等の財産管理や契約に関し、本人を支援する成年後見制度について周知する。
(2)健康・介護・医療
○生涯にわたる健康づくりの推進
平成25年4月に開始した健康日本21(第二次)に基づき、企業、関係団体、地方公共団体などと連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施していく。
さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が健康増進法に基づき実施している健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図る。
○介護予防の推進
要介護状態等になることを予防し、要介護状態等になった場合でもできるだけ地域において自立した日常生活を営むことができるよう市町村における地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進する。
平成27年度から開始された「介護予防・日常生活支援総合事業」は、多様な生活支援の充実、高齢者の社会参加と地域における支え合い体制づくり、介護予防の推進等を図るものであり、引き続き地域包括ケアシステムの構築に向け、市町村の取組を支援していく。
○必要な介護サービスの確保
地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、訪問介護と訪問看護が密接に連携した「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や、小規模多機能型居宅介護と訪問看護の機能をあわせ持つ「看護小規模多機能型居宅介護」等の地域密着型サービスの充実、サービス付き高齢者向け住宅等の高齢者の住まいの整備、特定施設入居者生活介護事業所(有料老人ホーム等)を適切に運用するための支援を進める。
あわせて、介護人材の確保のため、平成28年度に引き続き、地域医療介護総合確保基金の活用により、「参入促進」「労働環境の改善」「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援するとともに、①離職した介護人材の再就職支援のため、介護職に2年間の勤務で返済を免除する再就職準備金の貸付、②介護職を目指す学生に、介護職に5年間の勤務で返済を免除する学費貸付、③ボランティアを行う中高年齢者への入門的研修・職場体験の実施等の取組を行っていく。加えて、29年度に、臨時に介護報酬改定を行い、介護職員処遇改善加算を拡充し、介護職員一人あたり月額平均1万円相当の処遇改善を実施する。
○認知症高齢者支援施策の推進
平成27年1月に策定した「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」では、①認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進、②認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供、③若年性認知症施策の強化、④認知症の人の介護者への支援、⑤認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進、⑥認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進、⑦認知症の人やその家族の視点の重視として7つの柱を掲げており、これらに沿って総合的に推進していく。
平成28年3月の認知症高齢者の列車事故における最高裁の判決を踏まえ、認知症の方による事件、事故に社会としてどのように備えていくのか、「認知症高齢者等におけるやさしい地域づくりに係る関係省庁連絡会議」においてワーキンググループを開催し、トラブル・事故等の実態把握の方法などについて検討を行った。ワーキンググループにおける検討結果を踏まえ、事故等の未然防止・早期対応として、
- 徘徊・見守りの体制整備について、都道府県が未実施市町村の支援や広域での体制整備を推進する事業の新たな実施
- 認知症サポーターが地域の見守り体制で活躍している事例などを広め、より効果的に活動できる仕組みづくり
などを、また、起こりうる損害への備え・事故等が起こった場合の損害への対応として、民間保険の紹介・普及等を、今後進めていくこととしている。
○高齢者医療制度について
制度の持続可能性を高めるため、世代間・世代内の負担の公平や負担能力に応じた負担を求める観点から、低所得者や急激な負担増となる方に配慮した上で、70歳以上の高齢者の高額療養費制度の算定基準額を平成29年8月から段階的に見直すとともに、後期高齢者医療制度発足時における激変緩和措置として実施されてきた保険料軽減措置を、29年度から段階的に本則に戻すこととしている。
また、被用者保険者の後期高齢者支援金について、総報酬割部分(平成28年度は3分の2)を引き上げ、29年度から全面総報酬割とする。
さらに、後期高齢者の特性に応じた専門職による訪問指導等のモデル事業を引き続き実施するとともに、事業の効果検証等を踏まえ、平成29年度に後期高齢者医療広域連合が実施するフレイル対策等の保健事業のためのガイドラインを策定し、30年度から全国展開を図ることとしている。
○地域の支え合いによる生活支援の推進
年齢や性別、その置かれている生活環境などにかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、自治体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「地域における生活困窮者支援等のための共助の基盤づくり事業」などを通じて、引き続き地域福祉の推進に取り組むこととしている。
また、住民に身近な圏域で他人事を「我が事」に変えていくような働きかけや複合的な課題、世帯の課題を「丸ごと」受け止める場を設けることにより住民が主体的に地域課題を把握し、解決を試みることができる体制の構築を支援する。
(3)社会参加・学習
○学習機会の体系的な提供と基盤の整備
高齢者を含めた一人一人の生涯にわたる学習活動の成果が適切に評価され、企業・学校・地域等での社会的な活用につながるようにすることが重要である。中央教育審議会答申(個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について(平成28年5月))を踏まえ、様々な学習活動の成果が適切に評価される社会の実現に向け、「検定試験の評価等の在り方に関する調査研究協力者会議」において検定試験の自己評価や第三者評価に関する検討を行い、検定試験の質の保証・社会的活用の促進等を行う。
○勤労者の学習活動の支援
就業に向けた高齢期の能力形成にも資するよう、有給教育訓練休暇制度の普及促進などを図るとともに、教育訓練給付制度の活用により、勤労者個人のキャリア形成を支援し、自己啓発の取組を引き続き支援する。また、平成29年3月31日に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成29年法律第14号)に基づき、専門実践教育訓練給付の給付率等を引き上げることについて、着実な施行が図られるよう、改正後の法の内容の周知を図る。
(4)生活環境
○高齢者の居住の安定確保
高齢者世帯などの住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者向け住宅の登録制度等を内容とする新たな住宅セーフティネット制度を平成29年度に創設し、住宅の改修や入居者負担の軽減等への支援を行う。
また、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅について、利用者を保護する観点から、前払金の返還方法や権利金の受領禁止の規定の適切な運用を引き続き支援する。
○公共交通機関のバリアフリー化、歩行空間の形成、道路交通環境の整備
バリアフリー法に基づき、公共交通事業者等による旅客施設や車両等のバリアフリー化の取組を促進する。このための推進方策として、公共交通移動等円滑化基準・ガイドラインについて、平成28年度末までに改正内容の方向性を整理し、29年度はその検討結果等を踏まえ、必要な追加的検討を行うとともに、具体の改正作業を行う。また、鉄道駅等旅客ターミナルのバリアフリー化、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシーを含む福祉タクシーの導入等に対する支援措置を実施する。27年2月閣議決定された交通政策基本計画においても、バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の1つとして掲げており、これを踏まえバリアフリー化の更なる推進を図る。
○ユニバーサルデザインの推進
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催及びその後に向けて、29年2月に決定した「ユニバーサルデザイン2020行動計画」におけるバリアフリーの具体的な施策内容に着実に取り組む。
○交通安全の確保
高齢運転者対策の推進を図るため、臨時の認知機能検査を導入すること等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」(平成27年法律第40号)(29年3月12日施行)について、その円滑な運用に努める。
運転免許証の更新を予定している70歳以上の高齢運転者を対象とした高齢者講習においては、現在、運転適性検査の項目の一つとして、水平方向の視野検査を実施している。これまでの調査研究により、高齢者に多くみられる緑内障等の病気は上下方向を含めた視野全体に影響を与え、これが安全な運転に影響を与えていることが明らかとなったことから、視野全体を検査することができる新たな検査方法の導入に向けた具体的な検討を実施する。
高齢運転者の交通事故防止について、関係行政機関における更なる対策の検討を促進し、その成果等に基づき早急に対策を講じるため、平成28年11月24日に設置された、交通対策本部(本部長:内閣府特命担当大臣)の下の関係省庁局長級を構成員とする「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」において、平成29年6月を目途に全体的な取りまとめを行うとともに、それ以降も検討が必要なテーマについては引き続き検討を継続していくこととしている。
また、平成29年3月31日には、高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車(安全運転サポート車)のコンセプトや愛称「セーフティ・サポートカーS(略称:サポカーS)」等が決定され、今後、官民を挙げて普及啓発に取り組むこととしている。
○成年後見制度の利用の促進
認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度について周知する。
成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理又は日常生活等に支障がある者を支える重要な手段であり、その利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、平成28年4月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が成立し、本法律に基づき、「成年後見制度利用促進委員会」における議論を踏まえ、平成29年3月に「成年後見制度利用促進基本計画」を閣議決定した。今後基本計画に沿って、成年被後見人等の財産管理のみならず意思決定支援・身上保護も重視した適切な支援に繋がるよう、利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善や権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりなどの、成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進していく。併せて、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度(いわゆる欠格条項)について、検討を加え、必要な見直しを行うこととしている。
(5)高齢社会に対応した市場の活性化と調査研究推進
○高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究等
高齢者の健康保持等に向けた取組を一層推進するため、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)、要介護状態になる要因の一つである認知症等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を行う。
○情報通信の活用等に関する研究開発
高齢者事故対策や移動支援等の諸課題の解決に大きな期待がされている自動車の自動運転に関して、「国土交通省自動運転戦略本部」の下、高齢者事故対策を目的とした自動運転技術の開発及び普及促進策の検討や、中山間地域における「道の駅」等を拠点とした自動運転サービスの実験・実装を推進する。
(6)全世代が参画する超高齢社会に対応した基盤構築
○雇用・就業における女性の能力発揮
平成28年4月1日に全面施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の実効性を確保するため、常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主について、同法に基づく報告徴収の実施により、策定された一般事業主行動計画の進捗状況に留意し、課題の改善にあたって必要な助言を行う。
一方、労働者の6割以上は、計画策定が努力義務である300人以下の事業主に雇用されているのが実情であるため、中小企業においても女性の活躍推進の重要性を理解し、取組を加速化させていく必要があることから、中小企業のための支援体制を構築し、引き続き集中的に中小企業の女性の活躍推進を支援する取組を講じる。
○非正規雇用労働者対策の推進
平成28年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」を受けて、「多様な正社員」の導入事例や、非正規雇用労働者の正社員転換等の取組を行っている事例を収集し、ホームページで周知・啓発を図るとともに、シンポジウムや企業向けセミナーを開催し、「多様な正社員」や非正規雇用労働者の正社員転換等に対する社会的機運の醸成を図るほか、雇用管理上の留意事項及び成功事例の周知・啓発を行うとともに、「多様な正社員」の導入を検討している企業への支援としてモデル就業規則の作成やコンサルティングを実施する。
また、平成28年12月に働き方改革実現会議で示された「同一労働同一賃金ガイドライン案」等を参考とした企業における非正規雇用労働者の待遇改善を支援するため、全都道府県に「非正規雇用労働者待遇改善支援センター」を設置し、労務管理の専門家による個別相談援助や電話相談等を実施する。
○子育て支援施策の総合的推進
少子化社会対策基本法第7条に基づく大綱等に基づき、子育て支援施策の一層の充実や結婚・出産の希望が実現できる環境の整備など総合的な少子化対策を推進していく。
子ども・子育て関連3法に基づく子ども・子育て支援新制度について、平成28年4月から開始した仕事・子育て両立支援事業も含め、制度の着実かつ円滑な実施に取り組む。