第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス4)

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第3節 高齢者の暮らし~経済や生活環境に関する意識(トピックス4)

トピックス4 IoT等を活用した介護への取組

現在の日本において、他の先進国と比べても高齢化が進んでおり、特に、「団塊の世代」と呼ばれる世代が65歳以上を迎え、さらなる高齢者人口が増加しているなか、介護を必要としている高齢者の割合も増加している。

こうした現状に対して医療・介護分野における地域包括ケアなどの進展による様々な情報の共有・連携の強化への取組みや、介護分野におけるICTを用いたIoT1の活用などが注目されている。

以下において、介護分野におけるIoT等の活用事例として、高齢者に対するサポートや情報連携等でIoT等を取り入れた取り組みについて紹介する。

(1)Fujisawaサスティナブル・スマートタウンの概要

神奈川県藤沢市の「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」は、民間企業18団体2からなるFujisawa SST協議会で推進する街づくりプロジェクトであり、持続的なコミュニティ醸成に向けて、医療・介護・教育・保育の垣根を越え、一つの拠点で、高齢者福祉・子育て支援・教育を通じ、乳幼児から高齢者までを対象とした地域包括ケアと多世代交流を実現する多機能複合型拠点「Wellness SQUARE(以下、ウェルネススクエア)」を展開している。

ウェルネススクエア

(2)ウェルネススクエアの概要

ウェルネススクエアは、北館と南館の2棟から構成される拠点で、南館は、学研グループが運営するサービス付き高齢者向け住宅、居宅介護支援施設、訪問介護施設、通所介護(デイサービス)施設、訪問看護施設、認可保育所、学童保育施設、学習塾、株式会社アインファーマシーズが運営する薬局、医療法人山内龍馬財団が運営するクリニックが入居。北館は、社会福祉法人カメリア会が運営する特別養護老人ホームと短期入所生活介護施設が入居している。

ウェルネススクエアの概要

(3)多世代が健やかに過ごせる環境づくり

南館北館ともに多世代交流を促す交流スペースを設け、南館は、神奈川県の未病センターとして登録され、入居者はもちろん街や周辺住民、施設の従業員などが、健康や介護、介護保険などについて気軽に相談することができる。北館の地域交流スペースには、管理栄養士が常駐するカフェ「Camellia Cafe」を併設。隣のガラス張りの厨房「魅せるキッチン」で焼かれた菓子やパンをドリップコーヒーとともに楽しむことができ、地域に開かれた多世代交流の場として誰もが利用することができる。両館の交流スペースでは、高齢者と子どもたちが一緒に参画するイベントやサークル活動や、健康・福祉に関する勉強会や、育児や教育に関する講座開設など、多世代の交流を図り、地域住民の健やかな暮らしを支える取り組みを行っている。また、学研グループは、運営するサービス付き高齢者向け住宅を中心に、クリニック、薬局、通所介護(デイサービス)、訪問介護、訪問看護との間でICTを活用した情報連携や各事業所間の人的交流を通じ、ウェルネススクエアを核とした地域包括ケアのネットワーク構築を進めている。北館の特別養護老人ホームとも連携し、介護を中心とした地域のニーズにも対応する予定としている。サービス付き高齢者向け住宅では、全室にパナソニックの「スマートエアコンみまもりサービス」を採用3し、エアコンとセンサーが入居者の活動量、在不在を見守ることで、施設職員と入居者に負担なく介護に必要な情報を集約している。

多世代交流を促す交流スペース

(4)今後のとりくみ

Fujisawa SST協議会は、子どもから高齢者まで街に関わる人々が交流を育み、健やかに暮らすコミュニティを醸成するウェルネススクエアを目指し、参画企業・団体の協業で実現する、ICTや先端技術を活用した施設間の情報連携・介護入居者の見守り・新学習サービスや、「健康」「福祉」「教育」に関するサポートメニュー3などを通じて、街のスマートコミュニティを支え、サスティナブルに続く快適なくらしの実現に向けた取り組みを推進していくこととしている。

以下、スマートエアコン見守りサービスについての活用事例を挙げる。

〈活用事例1〉

「夜間巡回担当者の記録では、よく眠られているようでしたが、翌朝には睡眠不足や体調不良を訴えられ、夜間の睡眠状況や体調不良の原因を調べたい。」という現場からの要望が多く上がっている。センサーを用いて夜間全体の睡眠状態を“見える化”することにより、巡回だけではわかりにくい夜間の睡眠状態を把握できるようになった。この結果、昼夜逆転の傾向などの早期発見につながり、職員の申し送り時などに入居者の状況を正確に伝達することで、一人ひとりにあった質の高いケアが可能となった。

〈活用事例2〉

センサーデータを中長期的に蓄積し、介護記録とのクロス分析をすることでより質の高いケアを実現している。月に数回体調不良を訴える入居者の睡眠状態を分析したところ、一晩毎に良眠と不眠を繰り返す傾向があったが、一晩の不眠だけでは体調は崩れず、二晩連続で不眠が続くと体調不良を訴えることが判明した。この結果から、体調不良に起因するふらつき・転倒などの危険を予見でき、入居者に対して的確なサポートをすることができるようになった。

図、夜間不眠及び介護記録の一例
図、夜間不眠及び介護記録の一例

1 Internet of Thingsの略。IoTとは様々なモノにICT(※)を搭載することで、インターネットを介して情報のやり取りを行うことができる技術のこと。「IoT」と表記する。
※Information and Communication Technologyの略。「ICT」と表記する。
2 パナソニック株式会社(代表幹事)、株式会社学研ホールディングス、株式会社学研ココファンホールディングス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、湖山医療福祉グループ 社会福祉法人カメリア会、株式会社 電通、東京ガス株式会社、パナホーム株式会社、東日本電信電話株式会社、三井住友信託銀行株式会社、三井物産株式会社、三井不動産株式会社、三井不動産レジデンシャル株式会社、ヤマト運輸株式会社、株式会社 アインファーマシーズ、アクセンチュア株式会社、株式会社サンオータス、綜合警備保障株式会社
3 介護を必要とされる方に関して、室内の温度管理が極めて重要であり、特に、夏場には脱水症状/熱中症リスクの軽減のため、職員が施設内を巡回し、温度環境を調整する必要がある。パナソニックは、IoT×AI技術を活用した「スマートエアコン見守りサービス」を開始しパソコンやタブレットで、全居室の温度環境やエアコン設定を一覧で確認するのみならず、必要に応じ、エアコンを(管理室等から)遠隔制御することを実現し、入居者の熱中症などのリスク軽減や、夜間の居室巡回など職員の負担軽減が図られている。更に、利用者の睡眠や活動状況の把握が可能なことから、より充実した質の高いケアの立案と実施が可能となるといえる。「スマートエアコン見守りサービス」は、2016年6月のサービス開始以来、現在(2016年12月時点)362戸12棟に導入・運用されている。
また、介護を必要とされている方へのデジタル技術を応用した新スタイルのリハビリ機器として「デジタルミラー」がある。これは鏡に映る手本と自分の姿勢を比較(見える化)することで、ゲーム感覚で楽しみながらのリハビリを実現し、要介護高齢者の重度化を防ぎ、社会コストの軽減にも貢献する。
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