第2章 高齢社会対策の実施の状況(第2節 4)
第2節 分野別の施策の実施の状況(4)
4 生活環境等分野に係る基本的施策
「生活環境等分野に係る基本的施策」については、高齢社会対策大綱において、次の方針を示している。
住宅は生活の基盤となるものであり、生涯を通じて豊かで安定した住生活の確保を図っていく必要がある。このため、将来にわたり活用される良質な住宅の供給を促進し、併せて、それらが適切に評価、循環利用される環境を整備することを通じ、高齢者が保有する住宅の資産価値を高め、高齢期の経済的自立に資するとともに、その資産の次世代への適切な継承を図る。さらに、高齢者の居住の安定確保に向け、重層的かつ柔軟な住宅セーフティネットの構築を目指す。
高齢者等全ての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、自宅から交通機関、まちなかまでハード・ソフト両面にわたり連続したバリアフリー環境の整備を推進するとともに、子育て世代が住みやすく、高齢者が自立して健康、安全、快適に生活できるような、医療や介護、職場、住宅が近接した集約型のまちづくりを推進するものとし、高齢者向け住宅の供給促進や、地域の公共交通システムの整備等に取り組む。
また、関係機関の効果的な連携の下に、地域住民の協力を得て、交通事故、犯罪、災害等から高齢者を守り、特に一人暮らしや障害を持つ高齢者が安全にかつ安心して生活できる環境の形成を図る。
さらに、快適な都市環境の形成のために水と緑の創出等を図るとともに、活力ある農山漁村の再生のため、高齢化の状況や社会的・経済的特性に配慮しつつ、生活環境の整備等を推進する。
(1)豊かで安定した住生活の確保
「住生活基本計画(全国計画)」(平成28年3月閣議決定)に掲げた目標(〔1〕結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現、〔2〕高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現、〔3〕住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、〔4〕住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築、〔5〕建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新、〔6〕急増する空き家の活用・除却の推進、〔7〕強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長、〔8〕住宅地の魅力の維持・向上)を達成するため、必要な施策を着実に推進している(表2-2-10)。
目標2 高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現
(1) 高齢者が安全に安心して生涯を送ることが出来るための住宅の改善・供給
(2) 高齢者が望む地域で住宅を確保し、日常生活圏において、介護・医療サービスや生活支援サービスが利用できる居住環境を実現
【指標】
- 高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合
2.1%(平成26)→4%(平成37)
- 高齢者生活支援施設を併設するサービス付き高齢者向け住宅の割合
77%(平成26)→90%(平成37)
- 都市再生機構団地(大都市圏のおおむね1,000戸以上の団地約200団地が対象)の地域の医療福祉拠点化
0団地(平成27)→150団地程度(平成37)
- 建替え等が行われる公的賃貸住宅団地(100戸以上)における、高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯の支援に資する施設の併設率
平成28~平成37の期間内に建替え等が行われる団地のおおむね9割
- 高齢者の居住する住宅の一定のバリアフリー化率※
41%(平成25)→75%(平成37)※一定のバリアフリー化率:2箇所以上の手すり設置又は屋内の段差解消
【基本的な施策】
(1)住宅のバリアフリー化やヒートショック対策を推進するとともに、高齢者の身体機能や認知機能、介護・福祉サービス等の状況を考慮した部屋の配置や設備等高齢者 向けの住まいや多様な住宅関連サービスのあり方を示した「新たな高齢者向け住宅のガイドライン」を検討・創設
(2)まちづくりと調和し、高齢者の需要に応じたサービス付き高齢者向け住宅等の供給促進や「生涯活躍のまち」の形成
(3)公的賃貸住宅団地の建替え等の機会をとらえた高齢者世帯・子育て世帯等の支援に資する施設等の地域の拠点の形成
(4)公的保証による民間金融機関のバックアップなどによりリバースモーゲージの普及を図り、高齢者の住み替え等の住生活関連資金の確保
(5)高齢者の住宅資産の活用や住み替えに関する相談体制の充実
ア 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進
良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄の普及促進等を図るとともに、独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業及び勤労者財産形成持家融資を行っている。
また、住宅ローン減税等の税制上の措置を活用し、引き続き良質な住宅の取得を促進した。
(イ)高齢者の持家ニーズへの対応
住宅金融支援機構において、親族居住用住宅を証券化支援事業の対象とするとともに、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施している。
(ウ)将来にわたり活用される良質なストックの形成
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(平成20年法律第87号)に基づき、住宅を長期にわたり良好な状態で使用するため、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備え、適切な維持保全が確保される「認定長期優良住宅」の普及促進を図った。
イ 循環型の住宅市場の実現
(ア)既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備
売買時点の既存住宅の状態を把握するための現況検査に対する消費者等の信頼の確保と円滑な普及を図るため、検査方法やサービス提供に際しての留意事項等について指針を示す「既存住宅インスペクション・ガイドライン」(平成25年6月)に添った、適正なインスペクションの普及促進を図っている。また、既存住宅の取引時における建物状況調査(インスペクション)の活用等を促進するための「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」(平成28年法律第56号)が平成28年5月に成立した。
既存住宅売買に活用可能な瑕疵担保責任保険については、関連制度との連携や、新たな保険商品の開発等を通じ、利用件数が増加した。
さらに、住宅リフォーム事業の健全な発達及び消費者が安心してリフォームを行うことができる環境の整備を図るため、住宅リフォーム事業者の業務の適正な運営の確保及び消費者への情報提供等を行うなど、一定の要件を満たす住宅リフォーム事業者の団体を国が登録する「住宅リフォーム事業者団体登録制度」を実施している。
長期優良住宅化リフォーム推進事業により、既存住宅の長寿命化に資するリフォームの先進的な取組を支援し、既存住宅ストックの質の向上及び流通促進に向けた市場環境の形成を図った。
(イ)高齢者に適した住宅への住み替え支援
高齢者等の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する制度により、高齢者に適した住宅への住み替えを促進した。
また、同制度を活用して住み替える先の住宅を取得する費用について、住宅金融支援機構の証券化支援事業における民間住宅ローンの買取要件の緩和を行っている。
さらに、高齢者が住み替える先のサービス付き高齢者向け住宅に係る入居一時金及び住み替える先の住宅の建設・購入資金について、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関のリバースモーゲージの推進を支援している。
ウ 高齢者の居住の安定確保
(ア)良質な高齢者向け住まいの供給
平成23年10月の「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律」(平成23年法律第32号)の施行により創設された「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。
さらに、住宅に困窮している低所得の高齢者等の居住の安定確保に向け、居住支援協議会等との連携や適切な管理の下で、空き家等を活用し一定の質が確保された賃貸住宅の供給促進のため、空き家等のリフォームやコンバージョンに対する支援を行った。
また、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅について、利用者を保護する観点から、前払金の返還方法や権利金の受領禁止の規定の適切な運用を引き続き支援している。
(イ)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進
「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)の普及など住宅のバリアフリー化施策を展開した(表2-2-11)。
○ 趣旨
- 高齢者が居住する住宅において、加齢等に伴って心身の機能の低下が生じた場合にも、高齢者がそのまま住み続けることができるよう、一般的な住宅の設計上の配慮事項を示すとともに、現に心身の機能が低下し、又は障害が生じている居住者(要配慮居住者)が住み続けるために必要とされる、当該居住者の状況に応じた個別の住宅の設計上の配慮事項を示すもの。
○ 主な内容
- 一般的な住宅の設計上の配慮事項
- ①住宅の住戸専用部分に関する部屋の配置、段差、手すり、通路・出入口の幅員、階段、便所、浴室等
- ②一戸建て住宅の屋外部分のアプローチ、階段等
- ③一戸建て住宅以外の住宅の共用部分及び屋外部分の共用階段、共用廊下、エレベーター、アプローチ等
- 要配慮居住者のために個別に配慮した住宅の設計の進め方
- ①要配慮居住者及び住宅の特性の把握
- ②住宅の設計方針の検討及び住宅の設計
- ③設計の反映の確認
住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修について高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施している。また、証券化支援事業の枠組みを活用したフラット35Sにより、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行っている。さらに、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関が提供する住宅の建設、購入改良等の資金に係るリバースモーゲージの推進を支援している。
バリアフリー構造等を有する「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。
(ウ)公共賃貸住宅
公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、原則として、新たに供給するすべての公営住宅、改良住宅及び都市再生機構賃貸住宅について、段差の解消等一定の高齢化に対応した仕様により建設している。
この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中高層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について助成を行った。都市再生機構賃貸住宅においても、中高層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準としている。
また、老朽化した公共賃貸住宅については、計画的な建替え・改善を推進した。
(エ)住宅と福祉の施策の連携強化
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年法律第26号)に基づき、都道府県及び市町村において高齢者の居住の安定確保のための計画を定めることを推進した。また、生活支援・介護サービスが提供される高齢者向けの賃貸住宅の供給を促進し、医療・介護と連携した安心できる住まいの提供を実施した。
また、市町村の総合的な高齢者住宅施策の下、シルバーハウジング・プロジェクト事業を実施するとともに、公営住宅等においてライフサポートアドバイザー等のサービス提供の拠点となる高齢者生活相談所の整備を促進した(図2-2-12)。
(オ)高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援
スマートウェルネス住宅等推進事業により、高齢者等の居住の安定確保・健康維持増進に係る先導的な住まいづくりの取組に対して補助を行った。
(カ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給
営住宅については、高齢者世帯向公営住宅の供給を行った。また、地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断により、高齢者世帯の入居収入基準を一定額まで引き上げるとともに、入居者選考において優先的に取り扱うことを可能としている。
都市再生機構賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行っている(表2-2-13)。
年度 | 高齢者対策向 公営住宅建設戸数 |
サービス付き高齢者向け 住宅登録戸数 |
都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数 | 住宅金融支援機構の 割増貸付け戸数 |
||
---|---|---|---|---|---|---|
賃貸 | 分譲 | 計 | ||||
平成10年度 | 2,057 | - | 3,143 | 571 | 3,714 | 34,832 |
11 | 2,333 | - | 4,349 (946) |
531 | 4,880 | 11,831 |
12 | 1,476 | - | 8,265 (2,317) |
212 | 8,477 | 4,951 |
13 | 1,216 | - | 10,344 (4,963) |
123 | 10,467 | 2,822 |
14 | 1,203 | - | 8,959 (4,117) |
149 | 9,108 | 1,115 |
15 | 627 | - | 7,574 (3,524) |
45 | 7,619 | 558 |
16 | 724 | - | 5,510 (3,353) |
0 | 5,510 | 244 |
17 | 1,333 | - | 2,944 (1,662) |
0 | 2,944 | 60 |
18 | 859 | - | 2,957 (1,294) |
0 | 2,957 | 18 |
19 | 507 | - | 1,529 (843) |
0 | 1,529 | 0 |
20 | 303 | - | 1,221 (684) |
0 | 1,221 | 0 |
21 | 537 | - | 1,286 (612) |
0 | 1,286 | 0 |
22 | 726 | - | 773 (386) |
0 | 773 | 0 |
23 | 238 | - | 453 (309) |
0 | 453 | 0 |
24 | 433 | 31,094 | 522 (309) |
0 | 522 | 0 |
25 | 430 | 109,239 | 471 (368) |
0 | 471 | 0 |
26 | 260 | 146,544 | 372 (305) |
0 | 372 | 0 |
資料:国土交通省 | ||||||
(注1)サービス付き高齢者向け住宅登録戸数は、各年度末時点における総登録戸数である。 | ||||||
(注2)都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数には、障害者及び障害者を含む世帯に対する優遇措置戸数を含む(空家募集分を含む)。 | ||||||
(注3)優遇措置の内容としては、当選率を一般の20倍としている。(平成20年8月までは10倍) | ||||||
(注4)( )内は高齢者向け優良賃貸住宅戸数であり内数である。 | ||||||
(注5)住宅金融支援機構の割増(平成10年に制度改正)貸付け戸数は、マイホーム新築における高齢者同居世帯に対する割増貸付け戸数である。この制度は平成17年度をもって廃止されたが、平成17年度中に申込みを受け付けた貸付け戸数を平成18年度以降に表示した。 |
(キ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化
高齢者等の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体や関係事業者、居住支援団体等が組織する居住支援協議会が行う相談・情報提供等に対する支援を行った。
(2)ユニバーサルデザインに配慮したまちづくりの総合的推進
バリアフリー施策を効果的かつ総合的に推進するため、平成12年3月、閣議口頭了解により「バリアフリーに関する関係閣僚会議」が設置され、16年6月、同会議は政府が一体となってバリアフリー化に取り組むための指針として「バリアフリー化推進要綱」を決定した。その後、障害の有無、年齢、性別等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方であるユニバーサルデザインの浸透を踏まえ、20年3月、「バリアフリーに関する関係閣僚会議」において、同要綱を改定し、バリアフリーとともにユニバーサルデザインを併せて推進することを明確化し、取組方針として生活者・利用者の視点に立った施策の展開を明記した「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱」を決定した。また、閣議口頭了解の一部改正によって同会議を改組し、「バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する関係閣僚会議」を設置した。
ア 共生社会の実現に向けた「ユニバーサルデザイン2020行動計画」の策定
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、共生社会の実現に向けたユニバーサルデザイン、心のバリアフリーを推進し、大会以降のレガシーとして残していく施策を実行するため、28年2月、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣を座長とし、関係府省庁担当局長等を構成員とする「ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議」が設置された。本会議の下で、空港から競技会場等に至る連続的かつ面的なバリアフリー化、全国のバリアフリー水準の底上げ、心のバリアフリーの推進等取り組むべき施策について検討し、29年2月に関係閣僚会議を開催し、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を決定した。
イ 高齢者に配慮したまちづくりの総合的推進
高齢者等すべての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進するため、市町村に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)に基づく基本構想の作成を働きかけるとともに、バリアフリー環境整備促進事業を実施した。
環境価値、社会的価値、経済的価値を新たに創造し、「誰もが暮らしたいまち」・「誰もが活力あるまち」を実現することを目標とする「環境未来都市」構想の推進に向け、「地方創生に向けた『まちづくり』」をテーマに、神奈川県横浜市において、第6回国際フォーラムを開催し、「環境未来都市」構想に基づく各都市の取組状況等を国内外に広く周知した。また、各都市の取組が着実に推進されるよう、有識者によるフォローアップ等の支援を行った。
商店街振興組合などが行う商店街活性化の取組のうち、商店街の空き店舗を活用して、高齢者交流拠点としての機能を担うコミュニティ施設を設置・運営する事業などへの支援を実施した。
ウ 公共交通機関のバリアフリー化、歩行空間の形成、道路交通環境の整備
(ア)バリアフリー法に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
公共交通機関のバリアフリー化については、バリアフリー法に基づき、公共交通事業者等に対して、鉄道駅等の旅客施設の新設若しくは大規模な改良又は車両等の新規導入に際しての公共交通移動等円滑化基準への適合義務、既設の旅客施設・車両等に対する適合努力義務を定めるとともに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、平成32年度末までの整備目標を定めている。なお、公共交通移動等円滑化基準については、公共交通分野のバリアフリー水準の底上げを図るため、28年10月から開催している検討委員会の下、28年度末までに改正の内容の方向性を整理すべく、検討を進めた。交通政策基本法(平成25年法律第92号)に基づく交通政策基本計画(平成27年2月閣議決定)においても、バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の1つとして掲げており、これらを踏まえながらバリアフリー化の更なる推進を図っている。
(イ)ガイドライン等の策定
公共交通機関の旅客施設、車両等について、ガイドライン等でバリアフリー化整備の望ましい在り方を示し、公共交通事業者等がこれを目安として整備することにより、利用者にとってより望ましい公共交通機関のバリアフリー化が進むことが期待される。旅客施設については、平成25年6月に必要な見直しを行った「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」、車両等については、25年6月に必要な見直しを行った「公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン」に基づきそれぞれバリアフリー化を進めている。なお、当該2つのガイドラインについては、公共交通移動等円滑化基準と同様に、28年度末までに改正の内容の方向性を整理すべく検討を進めた。また、旅客船については19年8月に必要な見直しを行った「旅客船バリアフリーガイドライン」、ユニバーサルデザインタクシーについては、24年3月に創設した標準仕様ユニバーサルデザインタクシーの認定制度、ノンステップバスについては、27年7月に必要な見直しを行った標準仕様ノンステップバスの認定制度によって更なるバリアフリー化の推進を図っている。
(ウ)公共交通機関のバリアフリー化に対する支援
高齢者の移動等円滑化を図るため、駅・空港等の公共交通ターミナルのエレベーターの設置等の高齢者の利用に配慮した施設の整備、ノンステップバス等の車両の導入などを推進している(表2-2-14)。
(1)旅客施設のバリアフリー化の状況(注1)
1日当たりの平均利用者数 3,000人以上の旅客施設数 |
平成27年度末 | 1日当たりの平均利用者数 3,000人以上かつトイレを 設置している旅客施設数 |
平成27年度末 | ||
---|---|---|---|---|---|
段差の解消 | 視覚障害者 誘導用ブロック |
障害者用トイレ | |||
鉄軌道駅 | 3,542 | 3,045(86.0%) | 3,320(93.7%) | 3,319 | 2,754(83.0%) |
バスターミナル | 48 | 43(89.6%) | 41(85.4%) | 40 | 27(67.5%) |
旅客船ターミナル | 14 | 14(100%) | 10(71.4%) | 12 | 11(91.7%) |
航空旅客ターミナル | 35 | 30(85.7%) (100%注2) |
35(100%) | 35 | 35(100%) |
(注1)バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)に基づく公共交通移動等円滑化基準に適合するものの数字。 | |||||
(注2)航空旅客ターミナルについては、障害者等が利用できるエレベーター・エスカレーター・スロープの設置はすでに平成13年3月末までに100%達成されている。 |
(2)車両等のバリアフリー化の状況
車両等の総数 | 平成27年度末移動等円滑化 基準に適合している車両等 |
|
---|---|---|
鉄軌道車両 | 52,346 | 34,140(65.2%) |
ノンステップバス (適用除外認定車両を除く) |
45,228 | 22,665(50.1%) |
リフト付きバス (適用除外認定車両) |
15,124 | 895(5.9%) |
旅客船 | 650 | 238(36.6%) |
航空機 | 593 | 571(96.3%) |
(注1)「移動等円滑化基準に適合している車両等」は、各車両等に関する公共交通移動等円滑化基準への適合をもって算定。 |
(3)福祉タクシーの導入状況(ユニバーサルデザインタクシーを含む)
平成27年度末 15,026両
(タクシー車両総数 228,325両(平成26年度末))
このための推進方策として、鉄道駅等旅客ターミナルのバリアフリー化、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシーを含む福祉タクシーの導入等に対する支援措置を実施している。
(エ)歩行空間の形成
移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう、信号機、歩道等の交通安全施設等の整備を推進した。
高齢歩行者等の安全な通行を確保するため、①幅の広い歩道等の整備、②歩道の段差・傾斜・勾配の改善、③道路の無電柱化、④立体横断施設へのエレベーターや傾斜路の設置、⑤歩行者用案内標識の設置、⑥歩行者等を優先する道路構造の整備、⑦自転車道等の設置による歩行者と自転車交通の分離、⑧生活道路における速度の抑制及び通過交通の抑制・排除並びに幹線道路における交通流の円滑化を図るための信号機、道路標識、道路構造等の重点的整備、⑨バリアフリー対応型信号機の整備、⑩歩車分離式信号の運用、⑪見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備、⑫信号灯器のLED化等の対策を実施した。
また、生活道路において、区域を設定して最高速度30km/hの区域規制や路側帯の設置・拡幅、ハンプ設置等を行う「ゾーン30」の整備等、ソフトとハードが連携した歩行者・自転車利用者の交通安全対策を推進した。踏切道の高齢者等対策として平成28年4月に施行された改正後の踏切道改良促進法に基づき、高齢者等の通行の安全対策を推進することとした。また、鉄道事業者と道路管理者が連携し、踏切の諸元や対策状況、事故発生状況等の客観的データに基づき、緊急に対策の検討が必要な踏切を抽出し、それらについて「踏切安全通行カルテ」の作成・公表を行った。
さらに、積雪や凍結に対し、鉄道駅周辺や中心市街地等の特に安全で快適な歩行空間の確保が必要なところにおいて、歩道除雪の充実、消融雪施設等のバリアフリーに資する施設整備を実施した。
(オ)道路交通環境の整備
高齢者等が安心して自動車を運転し外出できるよう、生活道路における交通規制の見直し、付加車線の整備、道路照明の増設、道路標識の高輝度化・大型化、道路標示の高輝度化、信号灯器のLED化、「道の駅」等の簡易パーキングエリア、高齢運転者等専用駐車区間の整備等の対策を実施した。
平成28年3月に策定した「高速道路での今後の逆走対策に関するロードマップ」に基づき、「2020年までに高速道路での逆走事故ゼロを目指す」目標を達成するため、インターチェンジやジャンクション部等でラバーポールや大型矢印路面標示の設置といった物理的・視覚的な抑止対策等を進めた。さらに28年11月から、対策のより一層の推進を図るため、逆走車両を自動検知、警告、誘導する技術を募集した。
(カ)バリアフリーのためのソフト面の取組
国民一人ひとりがバリアフリーについての理解を深めるとともに、高齢者、障害者等の困難を自らの問題として認識し、自然に快くサポートできるよう、高齢者、障害者等の介助体験・擬似体験等を内容とする「バリアフリー教室」の開催や目の不自由な方への声かけや列車内での利用者のマナー向上を図る「ひと声マナー」キャンペーンといった啓発活動等ソフト面での取組を推進している。
高齢者や障害者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援施策を推進している。「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」(委員長:坂村健東洋大学情報連携学部INIAD学部長)においてとりまとめられた提言を踏まえ、施設や経路のバリアフリー情報等の移動に必要なデータのオープンデータ化を推進し、これらデータの整備促進のためデータ仕様を簡素化した改訂版を平成29年3月に公表した。また、東京駅周辺・新宿駅周辺・成田空港・横浜国際総合競技場(日産スタジアム)をモデルケースとして、屋内電子地図や測位環境を整備し、段差を回避するナビゲーション等の移動支援サービス実証実験を実施した。
エ 建築物・公共施設等の改善
バリアフリー法に基づき、建築物のバリアフリー化を引き続き推進するとともに、同法に基づく認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)のうち一定のものの整備に対して支援措置を講じることにより、高齢者・障害者等が円滑に移動等できる建築物の整備を促進している(図2-2-15、図2-2-16)。
窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保などにより、高齢者等をはじめすべての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。
社会資本整備総合交付金等の活用によって、誰もが安全で安心して利用できる都市公園の整備を推進している。また、都市公園については、バリアフリー法に基づく基準等により、主要な園路の段差の解消、車いすでも利用可能な駐車場やトイレの設置など、公園施設のバリアフリー化を推進している。
(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護
ア 交通安全の確保
近年、交通事故における致死率の高い高齢者の人口の増加が、交通事故死者数を減りにくくさせる要因の一つとなっており、今後、高齢化が更に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全対策は重点的に取り組むべき課題である。
高齢者にとって安全で安心な交通社会の形成を図るため、平成28年3月に中央交通安全対策会議で決定した「第10次交通安全基本計画」(計画期間:平成28~32年度)等に基づき、①生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備、②参加・体験・実践型の交通安全教育、③交通安全教育を受ける機会の少ない高齢者を対象とした個別指導、④シルバーリーダー(高齢者交通安全指導員)を対象とした交通安全教育、⑤高齢運転者対策等の交通安全対策を実施した。
また、歩行中及び自転車乗用中の交通事故死者に占める高齢者の割合が高いことを踏まえ、歩行者及び自転車利用者の交通事故が多発する交差点等における事故防止の重点化や歩行者、自転車、自動車が適切に分離された空間の整備を図った。
さらに、高齢運転者対策の推進を図るため、臨時の認知機能検査を導入すること等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」(平成27年法律第40号)の円滑な施行(29年3月12日施行)に向けて、関連事務の実施体制・予算の確保、医師会等関係機関・団体との一層の連携、新制度の周知・広報等を推進した。
また、28年中に高齢運転者による交通事故が相次いで発生したことを受け、28年11月15日に「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」が開催された。これを受け、高齢運転者の交通事故防止について、関係行政機関における更なる対策の検討を促進し、その成果等に基づき早急に対策を講じるため、28年11月24日、交通対策本部(本部長:内閣府特命担当大臣)の下に関係省庁局長級を構成員とする「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」を設置した。同ワーキングチームでは、内閣総理大臣からの指示を踏まえ、各種対策についてそれぞれ担当する省庁を中心に検討し、取り得る対策を早急に講じていくこととし、29年6月を目途に全体的な取りまとめを行うとともに、それ以降も検討が必要なテーマについては引き続き検討を継続していくこととしている。
イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護
(ア)犯罪からの保護
高齢者が犯罪や事故に遭わないよう、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、困りごとや要望、意見等を把握するとともに、必要に応じて関係機関や親族への連絡を行ったほか、認知症等によってはいかいする高齢者を発見、保護する体制づくりを関係機関等と協力して推進した。
振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺については、特に高齢者の被害が多いオレオレ詐欺、還付金等詐欺、未公開株・社債等の取引を装う詐欺等に重点指向した取締活動を強化するとともに、高齢者への複線的な広報啓発活動、関係機関等と連携した官民一体となった予防活動を推進した。
また、高齢者をねらう悪質商法等の取締りを推進するとともに、口座凍結等の被害拡大防止対策、悪質商法等からの被害防止に関する広報・啓発及び悪質商法等に関する相談活動を行った。
さらに、特殊詐欺や利殖勧誘事犯の犯行グループは、被害者や被害者になり得る者等が登載された名簿を利用しており、当該名簿登載者の多くは高齢者であって、今後更なる被害に遭う可能性が高いと考えられるため、捜査の過程で警察が押収したこれらの名簿をデータ化し、都道府県警察が委託したオペレーターがこれを基に電話による注意喚起を行うなどの被害防止対策を実施した。
加えて、今後、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加していく状況を踏まえ、市民を含めた後見人等の確保や市民後見人の活動を安定的に実施するための組織体制の構築・強化を図る必要があることから、平成25年度に引き続き、市町村において地域住民で成年後見に携わろうとする者に対する養成研修や後見人の適正な活動が行われるよう支援した。
(イ)人権侵害からの保護
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成17年法律第124号)に基づき、養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、平成27年度に引き続き必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態・対応状況の把握に努めるとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行うなど、高齢者虐待への早期対応が推進されるよう必要な支援を行った。
なお、支援を必要とする高齢者の実態把握や虐待への対応など、高齢者の権利擁護や総合相談窓口の業務を円滑に行うことができるよう、各市町村に設置された「地域包括支援センター」の職員に対する研修については、引き続き実施した。
法務局・地方法務局等において、高齢者の人権問題に関する相談に応じるとともに、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行い、その結果を踏まえ、事案に応じた適切な措置を講じるなどして、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努めている。28年度においても、引き続き高齢者施設等の社会福祉施設において入所者等及び家族が気軽に相談できるよう、特設相談所を開設するほか、全国一斉の「高齢者・障害者の人権あんしん相談」強化週間を設け、電話相談の受付時間を延長するとともに、休日も相談に応じるなど、相談体制の強化を図った。
(ウ)悪質商法からの保護
高齢者を狙った特殊詐欺(振り込め詐欺等)などを未然に防止するため、政府広報として、平成24年度より継続的に様々な媒体を活用したキャンペーン広報を実施している。28年度は、11月より「高齢者詐欺・トラブル予防は、みんなが主役!」を合言葉に、高齢者本人及び家族を含む周囲層を主なターゲットとして、こまめな声かけ、日頃の連絡が大切であることなどを啓発している。
また、高齢者被害の掘り起こしと注意喚起を目的に「アクティブシニアのトラブル増加!60歳以上の消費者トラブル110番」を9月に実施した。
28年4月から施行された消費者安全法の改正を一部内容とする「不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律」(平成26年法律第71号。以下同法による改正後の消費者安全法を「改正消費者安全法」という。)では、地域社会における高齢者等の見守りネットワークの構築のため、地方公共団体において消費者安全確保地域協議会を設置できることが盛り込まれており、地方公共団体向けの説明会等を行った。また、消費者安全確保地域協議会を設置した地方公共団体の先進的事例を収集し、公表に向けて準備を行う等、各地域における見守りネットワークの設置促進に向け取り組んだ。
高齢者の周りの人々による見守りの強化の一環として、高齢者団体のほか障害者団体、行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」を29年3月に開催し、「高齢者、障害者の消費者トラブル防止のため、積極的な情報発信を行う」「多様な主体が緊密に連携して、消費者トラブルの防止や「見守り」に取り組む」等を申し合わせた。
消費者がトラブルに見舞われたとしても、相談窓口の存在に気付かなかったり、相談窓口があることは知っていたとしても、その連絡先が分からないことがあるため、消費者庁では、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながる共通の電話番号である「消費者ホットライン」の事業を平成22年1月から実施している。27年7月1日からは、高齢者にとってもより覚えやすいものとなるよう3桁の電話番号「188」番での運用を開始した。
さらに、消費者トラブルに逢うリスクの高い高齢者等の被害防止のため、地方消費者行政推進交付金等を通じて、消費生活相談体制の整備や地域の見守りネットワークの推進等に向けた地方公共団体の取組を支援している。
高齢者の電話をきっかけとした消費者被害を抑止するため、通話録音装置等の活用を促す地方自治体向けの手引を活用し、取組の普及を図った。
また、消費者側の視点から注意点を簡潔にまとめたメールマガジン「見守り新鮮情報」を月2回程度、行政機関のほか、高齢者や高齢者を支援する民生委員や福祉関係者等に向けて配信した。政府広報オンラインの政府広報アプリ電子書籍「消費者トラブルからお年寄りを守る」に「①自然災害に関連する消費者トラブルにご注意ください、②悪質商法から守ろう! 高齢者 見守りチェックポイント、③“あなたの土地を高く買います”は要注意! 原野商法の2次被害急増」を掲載し、消費者への周知活動を行った。
「平成28年版消費者白書」において、高齢者の消費生活相談の状況や、高齢者が巻き込まれる主なトラブルの例を取り上げ、広く国民や関係団体等に情報提供を行った。
28年6月に公布された「特定商取引に関する法律の一部を改正する法律」(平成28年法律第60号)では、業務停止を命ぜられた法人の役員等に対する業務禁止命令制度の創設や、高齢者を中心に苦情相談が増加している電話勧誘販売における過量販売への解除権の導入といった、高齢者被害の防止のための新たな措置を盛り込んだ。
一人暮らしの高齢者の判断能力の低下等につけ込んで、大量の商品を購入させる被害事案が、店舗契約の事例も含めて発生していたことから、28年6月に公布された「消費者契約法の一部を改正する法律」(平成28年法律第61号)では、過量な内容の消費者契約について消費者に取消権を認めることとした。
このような被害事案の発生・拡大の防止及び被害の回復を図る観点からは、消費者団体訴訟制度の活用が重要であるため、28年6月に取りまとめられた「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会」報告書を踏まえて消費者契約法施行規則等を改正し、消費者団体訴訟制度の機能強化を図った。加えて、28年10月から施行された「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号、平成25年12月11日公布)により、特定適格消費者団体が消費者に代わって損害賠償等の請求に関する訴訟を追行することができる制度が導入されたところ、28年12月には、特定非営利活動法人消費者機構日本を特定適格消費者団体の第1号として認定し、制度の円滑な運用に向けた環境整備を進めている。
(エ)司法ソーシャルワークの実施
日本司法支援センター(法テラス)では、法的問題を抱えていることに気付いていなかったり、意思の疎通が困難であるなどの理由で自ら法的援助を求めることが難しい高齢者・障がい者に対して、地方公共団体、福祉機関・団体や弁護士会、司法書士会等と連携を図りつつ、当該高齢者・障がい者に積極的に働きかける(アウトリーチ)などして、法的問題を含めた諸問題を総合的に解決することを目指す「司法ソーシャルワーク」を推進している。
そこで、弁護士会・司法書士会と協議をして出張法律相談等のアウトリーチ活動を担う弁護士・司法書士を確保するなど、「司法ソーシャルワーク」の実施に必要な体制の整備を進めるとともに、地域包括支援センターや福祉事務所等の福祉機関職員を対象に業務説明会や意見交換会を実施するなど、福祉機関との連携を通じた出張法律相談等の利用を促進するための取組を行った。
(オ)成年後見制度の利用の促進
認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度について周知を図った(表2-2-17)。
○ 制度の趣旨
本人の意思や自己決定の尊重、ノーマライゼーション等の理念と本人の保護の理念との調和を図りつつ、認知症等の精神上の障害により判断能力が不十分な方々の権利を擁護する。
○ 概要
法定後見制度と任意後見制度の2つがある。法定後見制度については、各人の多様な判断能力の程度に応じた制度とするため、補助・保佐・後見の三類型に分かれている。
(1)法定後見制度(民法)
3類型 | 補助 | 保佐 | 後見 |
---|---|---|---|
対象者 | 判断能力が不十分な方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が欠けているのが 通常の状態の方 |
(2)法定後見制度の充実(民法)
社会福祉協議会等の法人や複数の者が成年後見人等となることを認め、また成年後見人等の権限の濫用を防止するために監督体制の充実を図っている。
(3)任意後見制度(任意後見契約に関する法律)
自分の判断能力が低下する前に、公正証書によって、本人が選ぶ後見人(任意後見人)に将来の財産管理を委ね、その財産に関する法律行為についての代理権を付与する旨の任意後見契約を締結することができる。
(4)成年後見登記制度(後見登記等に関する法律)
本人のプライバシー保護と取引の安全との調和を図る観点から、戸籍への記載に代わる公示方法として成年後見登記制度を設けている。
成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある者を支える重要な手段であり、その利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、平成28年4月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)が成立し、本法律に基づき、「成年後見利用促進委員会」における議論を踏まえ、平成29年3月に「成年後見制度利用促進基本計画」を閣議決定した。基本計画には、利用者がメリットを実感できる制度、運用の改善、権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり、不正防止の徹底と利用しやすさとの調和などの観点からの施策目標を盛り込んでいる。
ウ 防災施策の推進
病院、老人ホーム等の要配慮者利用施設を保全するため、土砂災害防止施設の整備や激甚な水害・土砂災害が発生した地域等における再度災害防止対策を実施した。
平成28年台風第10号により、岩手県岩泉町でグループホームが被災する等、多くの高齢者が被災したことを踏まえ、災害時における高齢者等要配慮者の円滑かつ迅速な避難体制を確保するため、有識者による検討会を設置し、28年12月に「平成28年台風第10号災害を踏まえた課題と対策の在り方(報告)」がとりまとめられた。報告を踏まえ、要配慮者利用施設の災害計画等の実効性や避難訓練の実施状況について、施設開設時及び定期的な指導監査時に地方公共団体が具体的な内容を確認することとした。また、関係行政機関・団体が連携して、全国の要配慮者利用施設の参考となるような具体的な取組みを現場で実施し、その知見を全国に展開することとした。さらに28年台風第10号による水害では、高齢者施設において避難準備情報の意味するところが伝わっておらず、適切な避難行動がとられなかったことが課題とされ、高齢者等が避難を開始する段階であるということを明確にする等の理由から、上記報告も踏まえ、「避難準備情報」の名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更した。
「水防法」(昭和24年法律第193号)及び「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)に基づき、浸水想定区域内又は土砂災害警戒区域内の高齢者等要配慮者が利用する施設への洪水予報又は土砂災害警戒情報等の伝達方法を定めることを推進した。また、平成27年1月に施行された「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」(平成26年法律第109号)により、市町村地域防災計画において土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の名称及び所在地を定めるよう規定するとともに、「土砂災害防止対策基本指針」及び「土砂災害警戒避難ガイドライン」の改定により市町村の警戒避難体制の充実・強化が図れるよう支援を行った。さらに、土砂災害・全国防災訓練では、要配慮者利用施設での避難訓練等を重点的に実施した。
また、土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の建築の許可制等を通じて高齢者等の安全が確保されるよう、土砂災害防止法に基づき基礎調査や区域指定の促進を図った。
住宅火災で亡くなる高齢者等の低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動において、高齢者等の要配慮者の把握や安全対策等に重点を置いた死者発生防止対策を推進項目とするとともに、住宅用火災警報器や防炎品、住宅用消火器の普及促進など総合的な住宅防火対策を推進した。また、「敬老の日に『火の用心』の贈り物」をキャッチフレーズとする「住宅防火・防災キャンペーン」を実施し、高齢者等に対して住宅用火災警報器等の普及促進を図った。
災害情報を迅速かつ確実に伝達するため、全国瞬時警報システム(J-ALERT)との連携を含め、防災行政無線による放送(音声)や携帯メール等による文字情報等の種々の方法を組み合わせて、災害情報伝達手段の多様化を推進した。
山地災害からの生命の安全を確保するため、病院、社会福祉施設等の災害時要援護者関連施設が隣接している山地災害危険地区等について、治山施設の設置や荒廃した森林の整備等を計画的に実施した。
25年6月に「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)を改正し、高齢者や障害者などの要配慮者のうち災害発生時の避難に特に支援を要する者について「避難行動要支援者名簿」の作成を市町村長に義務付けるとともに、この名簿を消防機関や民生委員等の地域の支援者に情報共有するための制度を設けた。
これを受けて同年8月に「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を策定・公表した。28年度においては、各市町村における名簿の作成状況等を把握するための調査を行った。
同法改正においては、避難所における生活環境の整備等に関する努力義務規定も設けられ、この取組を進める上で参考となるよう、25年8月には避難所運営に当たって留意すべき事項などを盛り込んだ、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を公表した。
28年度においては、避難所の確保と質の向上を促進するため、前年度に行った有識者による検討会での検討を踏まえ、高齢者などの避難所で特に配慮が必要となる方々への対応も記載するため、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を改定するとともに、「避難所運営ガイドライン」、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を公表して、平時から市町村が取り組むべき事項について、より具体的に示した。
また、28年9月に開催した災害救助法等担当者会議においても、都道府県等の防災担当者や福祉担当者を対象として両取組指針の内容を説明するなど、周知徹底を図った。
エ 東日本大震災への対応
東日本大震災に対応して、復興の加速化を図るため、被災した高齢者施設等の復旧に係る施設整備について、国庫補助率の引上げ等を行い、その復旧に要する経費の一部を助成した。
また、「地域医療介護総合確保基金」等を活用し、日常生活圏域で医療・介護等のサービスを一体的・継続的に提供する「地域包括ケア」の体制を整備するため、都道府県計画等に基づき、地域密着型サービス等、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行った。
あわせて、介護保険において、被災者を経済的に支援する観点から、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う帰宅困難区域等(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域の3つの区域をいう。平成28年度に指定が解除された区域を含む。)、上位所得層を除く旧避難指示区域等(25年度以前に指定が解除された旧緊急時避難準備区域等(特定避難勧奨地点を含む。)、26年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域等(田村市の一部、川内村の一部及び南相馬市の特定避難勧奨地点)の2つの区域等をいう。)及び27年度に指定が解除された楢葉町の旧避難指示解除準備区域の住民について、介護保険の利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を1年間継続した。なお、27年度に指定が解除された楢葉町の旧避難指示解除準備区域の住民のうち上位所得層の住民については、利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を28年9月末まで実施し、保険者の判断により、28年10月以降も利用者負担等の減免措置を行った場合は、特別調整交付金を活用して、財政の負担が著しい場合に減免額の一定の額について財政支援を行った。
日本司法支援センター(法テラス)では、24年度から引き続き、震災により、経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者を支援するため、震災以降の取組を継続し、「震災 法テラスダイヤル」(フリーダイヤル)や被災地出張所における業務の適切な運用を行うなど、生活再建に役立つ法制度などの情報提供及び民事法律扶助を実施した。
被災地出張所は、弁護士のいる都市部への移動が困難な高齢者を始めとする被災者に対する法的支援の拠点として、24年度までに7か所(岩手県2か所、宮城県3か所、福島県2か所)設置されたが、上記の業務に加えて、出張所に来所することが困難な被災者のために、車内で相談対応可能な自動車を利用した仮設住宅等での巡回相談も実施した。
また、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」(平成24年法律第6号、平成24年4月1日施行)に基づき、東日本大震災法律援助事業(東日本大震災に際し災害救助法が適用された市町村の区域(東京都を除く。)に23年3月11日において住所等を有していた者の法的トラブルについて、その者の資力状況にかかわらず、無料で法律相談を行う法律相談援助、震災に起因する紛争に関する弁護士・司法書士の費用等の立替え等を行う代理援助・書類作成援助に係る業務)を実施した。
(4)快適で活力に満ちた生活環境の形成
ア 快適な都市環境の形成
誰もが身近に自然とふれあえる快適な環境の形成を図るため、歩いていける範囲の身近な公園を始めとした都市公園等の計画的な整備を行っている。
また、河川等では、高齢者にとって憩いと交流の場を提供する役割を果たしている。
イ 活力ある農山漁村の形成
高齢者の生きがい発揮と女性の能力を十分発揮するために必要な施設及び通作の利便性、作業の安全性の確保を図るための高齢者を支援する施設等を整備した。
農山村地域においては、集落が市町村、特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という。)等多様な主体と連携を行い、農山漁村の持つ豊かな自然と「食」を健康等に活用する取組を支援するとともに、福祉、教育、観光等と連携した都市と農山漁村との共生・対流に関する取組については、重点的に支援した。
また、社会福祉法人等が高齢者のデイサービスの一環として利用する農園の整備や、高齢者を対象とした生きがい農園の整備等を実施した。
さらに、人・農地プランの見直しや、集落営農の組織化・法人化、新規就農者の定着のための経営・技術指導等を効率的・効果的に進められるよう、普及指導員やJAのOB、リタイアした高齢農業者等のノウハウを活用する地域連携推進員の活動を支援した。
農山漁村の健全な発展と活性化を図るため、農山漁村地域の農林水産業生産基盤と生活環境の一体的・総合的な整備を推進し、都市にも開かれた美しくゆとりある農山漁村空間の創出を図った。
また、高齢者が安心して活動し、暮らせるよう、農山漁村における農業施設等のバリアフリー化等の整備、高齢者等による農作業中の事故が多い実態を踏まえ、地域ぐるみでの農作業安全活動を実践する体制の整備を促進するとともに、高齢農業者の安全意識を効果的に高める啓発方法の検討及び農作業安全の全国運動を実施した。
加えて、「水産基本法」(平成13年法律第89号)に基づき策定された「水産基本計画」(平成24年3月閣議決定)を踏まえ、高齢者に配慮した浮桟橋や屋根付き岸壁等の施設整備を実施した。
ウ 生涯活躍のまち(日本版CCRC)の推進
地方創生の観点から、中高年齢者が、希望に応じて地方や「まちなか」に移り住み、様々な世代の地域の住民と交流しながら、就労や生涯学習、社会活動への参加等を通じて健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができるような「生涯活躍のまち」づくりを推進している。平成28年4月には改正地域再生法(平成28年4月20日施行)が国会で可決・成立し、地方公共団体が地域再生計画の認定を受けた場合に講じられる措置として、新たに交付金の交付や、「生涯活躍のまち」に取り組む場合の事業者の手続き上の特例が盛り込まれた。この特例措置に係る「生涯活躍のまち」の地域再生計画は、平成28年度中に13市町、13計画について認定を行った。また、地方創生推進交付金に関しては、「生涯活躍のまち」分野で51事業を交付決定した。
なお、平成28年10月現在で実施した自治体に対するアンケート調査によると、71団体が既に「生涯活躍のまち」の取組を開始していると回答している。
また、関係府省が連携して地方公共団体の取組を支援する「生涯活躍のまち形成支援チーム」を開催し、取組の過程で浮上した課題の解決に向け、検討、助言等を行った。
さらに、自治体による取組を一層促進するため、「生涯活躍のまち」づくりを担う人材の育成カリキュラムやビジネスモデルの調査・研究等を行い、「生涯活躍のまち」の取組を進める上で参考となるマニュアルをとりまとめた。