平成29年度 高齢社会対策(第2 4)

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第2 分野別の高齢社会対策(4)

4 生活環境等分野に係る基本的施策

(1)豊かで安定した住生活の確保

「住生活基本計画(全国計画)」(平成28年3月閣議決定)に掲げた目標(〔1〕結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現、〔2〕高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現、〔3〕住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、〔4〕住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築、〔5〕建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新、〔6〕急増する空き家の活用・除却の推進、〔7〕強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長、〔8〕住宅地の魅力の維持・向上)を達成するため、必要な施策を着実に推進する。

ア 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進

良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄の普及促進等を図るとともに、独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業及び勤労者財産形成持家融資を行う。

また、住宅ローン減税等の税制上の措置を活用し、引き続き良質な住宅の取得を促進する。

(イ)住宅資産活用推進事業

住宅金融支援機構において、親族居住用住宅を証券化支援事業の対象とするとともに、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施する。

(ウ)将来にわたり活用される良質なストックの形成

「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(平成20年法律第87号)に基づき、住宅を長期にわたり良好な状態で使用するため、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備え、適切な維持保全が確保される「認定長期優良住宅」の普及促進を図る。

イ 循環型の住宅市場の実現
(ア)既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備

売買時点の既存住宅の状態を把握するための現況検査に対する消費者等の信頼の確保と円滑な普及、安心してリフォーム工事を依頼することができる市場環境の整備、瑕疵担保責任保険の充実を図るとともに、良質な住宅の資産価値が適正に評価される市場環境の整備などの施策を推進する。長期優良住宅化リフォーム推進事業により、既存住宅の長寿命化に資するリフォームの先進的な取り組みを支援し、既存住宅ストックの質の向上及び流通促進に向けた市場環境の形成を図る。

(イ)高齢者に適した住宅への住み替え支援

高齢者等の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する制度により、高齢者に適した住宅への住み替え等を促進するとともに同制度を活用して住み替える先の住宅を取得する費用について、住宅金融支援機構の証券化支援事業における民間住宅ローンの買取要件の緩和を行う。

さらに、高齢者が住み替える先のサービス付き高齢者向け住宅に係る入居一時金及び住み替える先の住宅の建設・購入資金について、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関のリバースモーゲージの推進を支援する。

さらに、高齢者世帯等のライフステージに応じた住み替えを円滑化するため、住宅資産の活用について助言する専門家の育成及び相談体制の整備を支援する。

ウ 高齢者の居住の安定確保
(ア)良質な高齢者向け住まいの供給

平成23年10月の「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律」(平成23年法律第32号)の施行により創設された「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行う。

さらに、高齢者世帯などの住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者向け住宅の登録制度等を内容とする新たな住宅セーフティネット制度を平成29年度に創設し、住宅の改修や入居者負担の軽減等への支援を行う。

また、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅について、利用者を保護する観点から、前払金の返還方法や権利金の受領禁止の規定の適切な運用を引き続き支援する。

(イ)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進

「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)の普及など住宅のバリアフリー化施策を展開する。住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修について高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施する。また、証券化支援事業の枠組みを活用したフラット35Sにより、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行う。さらに、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関が提供する住宅の建設、購入、改良等の資金に係るリバースモーゲージの推進を支援する。

また、バリアフリー構造等を有する「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行う。

(ウ)公共賃貸住宅

公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、原則として、新たに供給するすべての公営住宅、改良住宅及び都市再生機構賃貸住宅について、段差の解消等一定の高齢化に対応した仕様により建設する。

この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中高層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について助成を行う。都市再生機構賃貸住宅においても、中高層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準とする。

また、老朽化した公共賃貸住宅については、計画的な建替え・改善を推進する。

(エ)住宅と福祉の施策の連携強化

「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づき、都道府県及び市町村において、高齢者の居住の安定確保のための計画を定めることを推進していく。また、生活支援・介護サービスが提供される高齢者向けの賃貸住宅の供給を促進し、医療・介護と連携した安心できる住まいの提供を実施していく。

また、市町村の総合的な高齢者住宅施策の下、シルバーハウジング・プロジェクト事業を実施するとともに、公営住宅等においてライフサポートアドバイザー等のサービス提供の拠点となる高齢者生活相談所の整備を促進する。

(オ)高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援

スマートウェルネス住宅等推進事業により、高齢者等の居住の安定確保・健康維持増進に係る先導的な住まいづくりの取組に対して補助を行う。

(カ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給

公営住宅については、高齢者世帯向公営住宅の供給を促進する。また、地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断により、高齢者世帯の入居収入基準を一定額まで引き上げるとともに、入居者選考において優先的に取り扱うことを可能としている。

都市再生機構賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行う。

(キ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化

高齢者等の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体や関係事業者、居住支援団体等が組織する居住支援協議会等が行う相談・情報提供等に対する支援を行う。

(2)ユニバーサルデザインに配慮したまちづくりの総合的推進

ア 共生社会の実現に向けた「ユニバーサルデザイン2020行動計画」に基づく取組の推進

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催及びその後に向けて、29年2月に決定した「ユニバーサルデザイン2020行動計画」におけるバリアフリーの具体的な施策内容に着実に取り組む。

イ 高齢者に配慮したまちづくりの総合的推進

高齢者等全ての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進するため、バリアフリー法に基づく基本構想の作成を市町村に働きかけるとともに、バリアフリー環境整備促進事業を実施する。

高齢化の進行や人口減少等の社会構造変化や環境等に配慮したまちづくりを進めることが不可欠であるとの観点から、環境価値、社会的価値、経済的価値を新たに創造し、「誰もが暮らしたいまち」・「誰もが活力あるまち」を実現するため、「環境未来都市」構想を推進する。

商店街振興組合などが行う商店街活性化の取組のうち、商店街の空き店舗を活用して、高齢者交流拠点としての機能を担うコミュニティ施設を設置・運営する事業などへの支援を実施する。

ウ 公共交通機関のバリアフリー化、歩行空間の形成、道路交通環境の整備
(ア)バリアフリー法に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進

バリアフリー法に基づき、公共交通事業者等による旅客施設や車両等のバリアフリー化の取組を促進する。このための推進方策として、公共交通移動等円滑化基準・ガイドラインについて、平成28年度末までに改正内容の方向性を整理し、29年度はその検討結果等を踏まえ、必要な追加的検討を行うとともに、具体の改正作業を行う。また、鉄道駅等旅客ターミナルのバリアフリー化、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシーを含む福祉タクシーの導入等に対する支援措置を実施する。27年2月閣議決定された交通政策基本計画においても、バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の1つとして掲げており、これを踏まえバリアフリー化の更なる推進を図る。

(イ)歩行空間の形成

移動の障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう、信号機、歩道等の交通安全施設等の整備を推進する。高齢歩行者等の安全な通行を確保するため、①幅の広い歩道等の整備、②歩道の段差・傾斜・勾配の改善、③道路の無電柱化、④立体横断施設へのエレベーターや傾斜路の設置、⑤歩行者用案内標識の設置、⑥歩行者等を優先する道路構造の整備、⑦自転車道等の設置による歩行者と自転車交通の分離、⑧生活道路における速度の抑制及び通過交通の抑制・排除並びに幹線道路における交通流の円滑化を図るための信号機、道路標識、道路構造等の重点的整備、⑨バリアフリー対応型信号機の整備、⑩歩車分離式信号の運用、⑪見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備、⑫信号灯器のLED化等の対策を実施する。

また、生活道路において、区域を設定して最高速度30km/hの区域規制等を行う「ゾーン30」や路側帯の設置・拡幅、ハンプ設置等の道路整備等、ソフトとハードが連携した歩行者・自転車利用者の交通安全対策を推進する。

踏切道の歩行者対策として、「踏切安全通行カルテ」により、踏切道の現状を「見える化」しつつ、踏切道改良促進法に基づき、高齢者等の通行の安全対策を推進する。

積雪や凍結に対し、鉄道駅周辺や中心市街地等の特に安全で快適な歩行空間の確保が必要なところにおいて、歩道除雪の充実、消融雪施設等のバリアフリーに資する施設整備対策を実施する。

(ウ)道路交通環境の整備

高齢者等が安心して自動車を運転し外出できるよう、生活道路における交通規制の見直し、付加車線の整備、道路照明の増設、道路標識の高輝度化・大型化、道路標示の高輝度化、信号灯器のLED化、「道の駅」等の簡易パーキングエリア、高齢運転者等専用駐車区間の整備等の対策を実施する。特に重大事故に繋がる可能性の高い高速道路での逆走に対して、平成28年3月に策定した「高速道路での今後の逆走対策に関するロードマップ」に基づき、「2020年までに高速道路での逆走事故ゼロを目指す」目標を達成するため、有識者委員会や官民連携会議の場で検討を進め、道路側、運転者側、自動車側それぞれから、ハード・ソフト面での重層的な逆走対策を講じていく。また、逆走車両を自動検知、警告、誘導する技術について、実道での検証を行い、30年度からの実用化を目指す。

「心のバリアフリー」社会を実現し、ハード面のみならずソフト面も含む総合的なバリアフリー化を実現するため、高齢者等の介助体験・擬似体験等を内容とする「バリアフリー教室」の開催等ソフト面での取組を推進する。

(エ)バリアフリーのためのソフト面の取組

高齢者や障害者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進を図る。民間事業者等が多様な歩行者移動支援サービスを提供できる環境を整備するため、施設や経路のバリアフリー情報等の移動に必要なデータのオープンデータ化を進めるとともに、これらデータの効率的な整備・更新手法の検討を行う。また、誰もが使いやすいよう、音声操作・案内によるナビゲーション等の実証を行うとともに、民間事業者との連携を強化し、移動支援サービスの普及を促進する。

(オ)訪日外国人旅行者の受け入れ環境整備

訪日外国人の急増に伴い発生した交通アクセス等の課題について、エレベーター・スロープ等の設置等を、補助制度等により支援する。

エ 建築物・公共施設等の改善

バリアフリー法に基づき、建築物のバリアフリー化を引き続き推進するとともに、同法に基づく認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)等のうち一定のものの整備に対して支援措置を講じることにより、高齢者・障害者等が円滑に移動等できる建築物の整備を促進する。

窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保などにより、高齢者等をはじめすべての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進する。

社会資本整備総合交付金等の活用によって、誰もが安心して利用できる都市公園の整備を推進するとともに、バリアフリー法に基づく基準等により、公園施設のバリアフリー化を推進する。

(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護

ア 交通安全の確保

近年、交通事故における致死率の高い高齢者の人口の増加が、交通事故死者数を減りにくくさせる要因の一つとなっており、今後、高齢化が更に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全対策は重点的に取り組むべき課題である。

高齢者にとって、安全で安心な交通社会の形成を図るため、平成28年3月に中央交通安全対策会議で決定した「第10次交通安全基本計画」(計画期間:平成28~32年度)等に基づき、①生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備、②参加・体験・実践型の交通安全教育、③交通安全教育を受ける機会の少ない高齢者を対象とした個別指導、④シルバーリーダー(高齢者交通安全指導員)を対象とした交通安全教育、⑤高齢運転者対策等の交通安全対策を実施する。

また、歩行中及び自転車乗用中の交通事故死者に占める高齢者の割合が高いことを踏まえ、歩行者及び自転車利用者の交通事故が多発する交差点等における事故防止対策の重点化や、歩行者、自転車、自動車が適切に分離された空間の整備を図る。

さらに、高齢運転者対策の推進を図るため、臨時の認知機能検査を導入すること等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」(平成27年法律第40号)(平成29年3月12日施行)について、その円滑な運用に努める。

運転免許証の更新を予定している70歳以上の高齢運転者を対象とした高齢者講習においては、現在、運転適性検査の項目の一つとして、水平方向の視野検査を実施している。これまでの調査研究により、高齢者に多くみられる緑内障等の病気は上下方向を含めた視野全体に影響を与え、これが安全な運転に影響を与えていることが明らかとなったことから、視野全体を検査することができる新たな検査方法の導入に向けた具体的な検討を実施する。

また、高齢運転者による交通死亡事故が相次いで発生したことを受け、平成28年11月15日に「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」が開催された。これを受け、高齢運転者の交通事故防止について、関係行政機関における更なる対策の検討を促進し、その成果等に基づき早急に対策を講じるため、平成28年11月24日に、交通対策本部(本部長:内閣府特命担当大臣)の下に関係省庁局長級を構成員とする「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」を設置した。同ワーキングチームでは、内閣総理大臣からの指示を踏まえ、各種対策についてそれぞれ担当する省庁を中心に検討し、取り得る対策を早急に講じていくこととし、平成29年6月を目途に全体的な取りまとめを行うとともに、それ以降も検討が必要なテーマについては引き続き検討を継続していくこととしている。

また、平成29年3月31日には、高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車(安全運転サポート車)のコンセプトや愛称「セーフティ・サポートカーS(略称:サポカーS)」等が決定され、今後、官民を挙げて普及啓発に取り組むこととしている。

イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護
(ア)犯罪からの保護

高齢者が犯罪や事故に遭わないよう、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、困りごとや要望、意見等を把握するとともに、必要に応じて関係機関や親族への連絡を行うほか、認知症等によってはいかいする高齢者を発見、保護する体制づくりを関係機関等と協力して推進する。

振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺については、特に高齢者の被害が多いオレオレ詐欺、還付金等詐欺、未公開株・社債等の取引を装う詐欺等に重点指向した取締活動を強化するとともに、高齢者への複線的な広報啓発活動、関係機関等と連携した官民一体となった予防活動を推進する。

また、高齢者をねらう悪質商法等の取締りを推進するとともに、口座凍結等の被害拡大防止対策、悪質商法等からの被害防止に関する広報・啓発及び悪質商法等に関する相談活動を行う。

さらに、特殊詐欺や利殖勧誘事犯の犯行グループは、被害者や被害者になり得る者等が登載された名簿を利用しており、当該名簿登載者の多くは高齢者であって、今後更なる被害に遭う可能性が高いと考えられるため、捜査の過程で警察が押収した際はこれらの名簿をデータ化し、都道府県警察が委託したオペレーターがこれを基に電話による注意喚起を行うなどの被害防止対策を実施する。

加えて、今後、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加していく状況を踏まえ、市民を含めた後見人等の確保や市民後見人の活動を安定的に実施するための組織体制の構築・強化を図る必要があることから、平成28年度に引き続き、市町村において地域住民で成年後見に携わろうとする者に対する養成研修や後見人の適正な活動が行われるよう支援していく。

(イ)人権侵害からの保護

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者の支援に関する法律」(平成17年法律第124号)に基づき、養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、平成28年度に引き続き必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態・対応状況の把握に努めるとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行うなど、高齢者虐待への早期対応が推進されるよう必要な支援を行っていく。

法務局・地方法務局等において、高齢者の人権問題に関する相談に応じるとともに、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行い、その結果を踏まえ、事案に応じた適切な措置を講じるなどして、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努める。29年度においても、引き続き高齢者施設等の社会福祉施設において入所者等及び家族が気軽に相談できるよう、特設相談所を開設するほか、全国一斉の「高齢者・障害者の人権あんしん相談」強化週間を設け、電話相談の受付時間を延長するとともに、休日も相談に応じるなど、相談体制を強化する予定である。

(ウ)悪質商法からの保護

平成28年4月1日に施行された改正消費者安全法により、地方公共団体において設置することが可能となった消費者安全確保地域協議会について、多くの地方公共団体において設置されるよう継続して支援するとともに、高齢者等の消費者被害の未然防止・拡大防止のため、トラブルに遭うリスクの高い消費者(高齢者等)を見守る「地域ネットワーク」の構築や啓発活動等を推進する。

高齢者の周りの人々による見守りの強化の一環として、高齢者団体のほか障害者団体・行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」を開催し、消費者トラブルの情報共有や、悪質商法の新たな手口や対処の方法などの情報提供等を図る。

さらに、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながる共通の3桁の電話番号である「消費者ホットライン188」を引き続き運用するとともに、同ホットラインについて消費者庁ウェブサイトへの掲載、啓発チラシの作成・配布、各種会議を通じて周知を行い、利用の促進を図る。

引き続き、消費者トラブルに逢うリスクの高い高齢者等の被害防止のため、地方消費者行政推進交付金等を通じて、消費生活相談体制の整備や地域の見守りネットワークの推進等に向けた地方公共団体の取組を支援する。

また、引き続き、消費者側の視点から注意点を簡潔にまとめたメールマガジン「見守り新鮮情報」を月2回程度配信する。

さらに、高齢者や障害者を、悪質電話を契機とした消費者トラブルから守るための取組として、迷惑電話対応機器の普及を図るほか、高齢者被害等の掘り起こしと注意喚起を目的にした110番を実施する。

消費者団体訴訟制度(被害回復制度)の実効性の向上に引き続き取り組む。被害回復制度において、特定適格消費者団体は、財産を隠匿又は散逸をする悪質な事業者に対しては仮差押えの手続により財産の保全を図った上で手続を実施することが想定されているところ、この特定適格消費者団体による仮差押えを国民生活センターがバックアップする仕組みを整備するための法改正を行う。

(エ)司法ソーシャルワークの実施

日本司法支援センター(法テラス)では、法的問題を抱えていることに気付いていなかったり、意思の疎通が困難であるなどの理由で自ら法的援助を求めることが難しい高齢者・障がい者に対して、地方公共団体、福祉機関・団体や弁護士会、司法書士会と連携を図りつつ、当該高齢者・障がい者に積極的に働きかける(アウトリーチ)などして、法的問題を含めた諸問題を総合的に解決することを目指す「司法ソーシャルワーク」を推進している。

そこで、出張法律相談等のアウトリーチ活動を担う弁護士・司法書士を確保するなど「司法ソーシャルワーク」実施に必要な体制の整備をより一層進めるとともに、福祉機関との連携を通じた出張法律相談等の利用を促進するための取組をさらに推進する。

(オ)成年後見制度の利用の促進

認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度について周知する。

成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理又は日常生活等に支障がある者を支える重要な手段であり、その利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、平成28年4月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)が成立し、本法律に基づき、「成年後見制度利用促進委員会」における議論を踏まえ、平成29年3月に「成年後見制度利用促進基本計画」を閣議決定した。今後基本計画に沿って、成年被後見人等の財産管理のみならず意思決定支援・身上保護も重視した適切な支援に繋がるよう、利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善や権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりなどの、成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進していく。併せて、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度(いわゆる欠格条項)について、検討を加え、必要な見直しを行うこととしている。

ウ 防災施策の推進

病院、老人ホーム等の要配慮者利用施設を保全するため、土砂災害防止施設の整備を第4次社会資本整備重点計画に基づき重点的に実施するとともに、激甚な水害・土砂災害が発生した地域等における再度災害防止対策を引き続き実施する。

災害時における高齢者等要配慮者の円滑かつ迅速な避難体制を確保するため、「平成28年台風第10号災害を踏まえた課題と対策の在り方(報告)」を踏まえ、要配慮者利用施設の災害計画等の実効性や避難訓練の実施状況について、施設開設時及び定期的な指導監査時に地方公共団体が具体的な内容を確認するためのマニュアルを作成・確認を徹底するとともに、関係行政機関、団体が連携して、全国の要配慮利用施設の参考となるような具体的な取組みを現場で実施し、それを事例集としてとりまとめ、全国にその知見を展開する。

また、水防法及び土砂災害防止法に基づき、浸水想定区域内又は土砂災害警戒区域内の高齢者等要配慮者が利用する施設への洪水予報又は土砂災害警戒情報等の伝達方法を定めることを推進する。あわせて、市町村地域防災計画において土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の名称及び所在地を定めるとともに、「土砂災害防止対策基本指針」及び「土砂災害警戒避難ガイドライン」により市町村の警戒避難体制の充実・強化が図れるよう支援を行う。さらに、土砂災害・全国防災訓練では、ハザードマップを活用した実践的な避難訓練等を重点的に実施する。

さらに、土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の建築の許可制等を通じて高齢者等の安全が確保されるよう、土砂災害防止法に基づき基礎調査や区域指定の促進を図る。

住宅火災で亡くなる高齢者等の低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動において、高齢者等の要配慮者の把握や安全対策等に重点を置いた死者発生防止対策を推進項目とするとともに、住宅用火災警報器や防炎品、住宅用消火器の普及促進など総合的な住宅防火対策を推進する。また、「敬老の日に『火の用心』の贈り物」をキャッチフレーズとする「住宅防火・防災キャンペーン」を実施し、高齢者等に対して住宅用火災警報器等の普及促進を図る。

災害情報を迅速かつ確実に伝達するため、全国瞬時警報システム(J-ALERT)との連携を含め、防災行政無線による放送(音声)や携帯メール等による文字情報等の種々の方法を組み合わせて、災害情報伝達手段の多様化を引き続き推進する。

山地災害からの生命の安全を確保するため、病院、社会福祉施設等の災害時要援護者関連施設が隣接している山地災害危険地区等について、治山施設の設置や荒廃した森林の整備等を計画的に実施する。

災害時の避難行動や避難生活への支援については、災害対策基本法、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」や、その他の避難所の確保と質の向上に関して公表している各種ガイドライン等を踏まえ、市町村の取組が徹底されるよう、引き続き必要に応じ調査等を行い進捗状況を把握し、適切に助言を行う。

エ 東日本大震災への対応

東日本大震災に対応して、復興の加速化を図るため、被災した高齢者施設等の復旧に係る施設整備について、国庫補助率の引上げ等を行い、その復旧に要する経費の一部助成を行う。

「地域医療介護総合確保基金」等を活用し、日常生活圏域で医療・介護等のサービスを一体的・継続的に提供する「地域包括ケア」の体制を整備するため、都道府県計画等に基づき、地域密着型サービス等、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行う。

あわせて、介護保険において、被災者を経済的に支援する観点から、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う帰還困難区域等(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定された3つの区域をいう。平成29年度に解除された区域を含む。)、上位所得者層を除く旧避難指示区域等(25年度以前に指定が解除された旧緊急時避難準備区域等(特定避難勧奨地点を含む。)、26年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域等(田村市の一部、川内村の一部及び南相馬市の特定避難勧奨地点)、27年度に指定が解除された楢葉町の旧避難指示解除準備区域の3つの区域等をいう。)及び28年度に指定が解除された旧居住制限区域等(居住制限区域及び避難指示解除準備区域で、28年度に指定が解除された葛尾村の一部、川内村の一部、南相馬市の一部、飯館村の一部、川俣町の一部、浪江町の一部及び29年4月1日に指定が解除された富岡町の一部をいう。)の住民について、介護保険の利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を1年間継続する。なお、28年度に指定が解除された旧居住制限区域等の住民のうち上位所得層の住民については、利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を29年9月末まで実施することとしており、保険者の判断により、29年10月以降も利用者負担等の減免措置を行った場合は、特別調整交付金を活用して、財政の負担が著しい場合に減免額の一定の額について財政支援を行うこととしている。

日本司法支援センター(法テラス)では、震災により、経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者を支援するため、震災以降の取組を継続し、「震災 法テラスダイヤル」(フリーダイヤル)や被災地出張所における業務の適切な運用を行うなど、生活再建に役立つ法制度などの情報提供及び民事法律扶助を実施する。また、東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律に基づき、東日本大震災法律援助事業(東日本大震災に際し災害救助法が適用された市町村の区域(東京都を除く。)に23年3月11日において住所等を有していた者の法的トラブルについて、その者の資力状況にかかわらず、無料で法律相談を行う法律相談援助、震災に起因する紛争に関する弁護士・司法書士の費用等の立替え等を行う代理援助・書類作成援助に係る業務)を実施する。

(4)快適で活力に満ちた生活環境の形成

ア 快適な都市環境の形成

誰もが身近に自然とふれあえる快適な環境の形成を図るため、歩いていける範囲の身近な公園を始めとした都市公園等の計画的な整備を推進する。

また、河川等では、高齢者にとって憩いと交流の場となる良好な水辺空間の整備を推進する。

イ 活力ある農山漁村の形成

高齢者や女性等の交流、地域の伝統文化の継承、地域の農産物や特産品の生産活動に寄与するための拠点施設等を整備する。

農山村地域においては、集落が市町村、NPO法人等多様な主体と連携を行い、農山漁村の持つ豊かな自然と「食」を、福祉、教育、観光等に活用した都市と農山漁村との共生・対流等を推進する取組を支援する。

また、社会福祉法人等が高齢者のデイサービスの一環として利用する農園の整備や、高齢者を対象とした生きがい農園の整備等を実施する。

さらに、人・農地プランの見直しや、集落営農の組織化・法人化、新規就農者の定着のための経営・技術指導等を効率的・効果的に進められるよう、普及指導員のOB、リタイアした高齢農業者等のノウハウを活用した地域連携推進員の活動を支援する。

農山漁村の健全な発展と活性化を図るため、農山漁村地域の農林水産業生産基盤と生活環境の一体的・総合的な整備を推進し、都市にも開かれた美しくゆとりある農山漁村空間の創出を図るとともに、高齢者が安心して活動し、暮らせるよう農山漁村における農業施設等のバリアフリー化等の整備を行う。

また、高齢者等による農作業中の事故が多い実態を踏まえ、農作業中の事故を未然に防止するため、一連の作業の中の危険要因を洗い出し、事故の起こりやすさやけがの度合いを評価することにより、対策をたてる優先順位を決め、実際に対策を考えて周知徹底する取組(農作業へのリスクアセスメントの適用)を支援するとともに、農作業安全の全国運動を実施する。

加えて、「水産基本法」(平成13年法律第89号)に基づき策定された「水産基本計画」(平成24年3月閣議決定)を踏まえ、高齢者に配慮した浮桟橋や屋根付き岸壁等の施設整備を実施する。

ウ 生涯活躍のまち(日本版CCRC)の推進

地方創生の観点から、中高年齢者が希望に応じて地方や「まちなか」に移り住み、様々な世代の地域の住民と交流しながら就労や生涯学習、社会活動への参加等を通じて健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができるような「生涯活躍のまち」づくりを進める。このために、平成28年4月に改正した地域再生法(平成28年4月20日施行)に基づき、「生涯活躍のまち」に取り組む場合の事業者の手続きの特例や地方創生推進交付金に係る地域再生計画の認定を通じて、「生涯活躍のまち」の実現に向けた地方公共団体の取組を引き続き支援する。

また、関係府省が連携して地方公共団体の取組を支援する「生涯活躍のまち形成支援チーム」において、対象となる自治体を拡大し、地方公共団体からのヒアリング等を通じて、課題やニーズの把握・検討を進める。

加えて、28年度にとりまとめた「生涯活躍のまち」の取組を進める上で参考となるマニュアルの普及や先行事例の横展開に努めるなど、「生涯活躍のまち」構想を推進する意向のある地方公共団体の取組が一層円滑に進むよう、引き続き支援を行っていく。

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