第1章 高齢化の状況(第3節 2-1)
第3節 <視点2>先端技術等で拓く高齢社会の健康(1)
我が国の65歳以上人口は、3,515万人(総務省「人口推計」平成29年10月1日確定値)となり、高齢化率は27.7%となっている。そのような中、健康寿命の延伸や、高齢者の高い就業意欲が見られるなど、健康で意欲と能力に応じた力を発揮できる社会環境の整備が必要とされている。平成29年度は、それらの背後にある高齢者の健康と日常生活や就業との関わりに関する調査(「高齢者の健康に関する調査」)を実施した。この白書では当該調査のうち、高齢者の意識に係る項目に着目し、健康状態と日常の活動や就労の状況について、特徴的な事項と科学技術の活用による解決策の可能性を考察する(資料出所は特に断りのない限り内閣府「高齢者の健康に関する調査」(平成29年))。
内閣府「高齢者の健康に関する調査」(平成29年度)
- 調査地域:全国
- 調査対象者:全国の55歳以上(平成29年1月1日現在)の男女個人(施設入所は除く)
- 調査時期:平成29年12月16日~平成30年1月14日(ただし、年末年始にあたる12月26日~1月5日は、調査の実施を休止した。)
- 有効回収数:1,998人(標本数男女あわせて3,000人)
- [都市規模区分]
- 大都市 東京都23区・政令指定都市
- 中都市 人口10万人以上の市
- 小都市 人口10万人未満の市
- 町村 郡部(町村)
1 健康と日常生活
(1)現在の主観的な健康状態
調査結果では、現在の主観的な健康状態は「良い」、「まあ良い」の回答を合計すると52.3%となった。一方、「良くない」、「あまり良くない」を合計したものは18.1%であった(図1-3-2-1)。
年齢層別にみると、「良い」と「まあ良い」の計の割合が最も高い年齢層が65歳~69歳で54.4%、最も低い年齢層が80歳以上で49.5%であり、約5ポイントの差である。「良くない」と「あまり良くない」の計は、55歳~59歳では10.6%であるのに対し、80歳以上では28.9%と高く、約18ポイントの差となっている(図1-3-2-2)。
日頃心がけている健康活動でみると、心がけていることがある人は、健康状態が「良い」91.0%、「良くない」86.9%となっており、「良い」が約4ポイント高い。ほとんどの項目で「良い」が「良くない」と比べ高く、「散歩やスポーツをする」では、「良い」59.8%に対し、「良くない」16.4%と約43ポイントの差となっている(図1-3-2-3)。
(2)外出の頻度
外出の頻度を主観的な健康状態別にみると、健康状態が「良い」人では約8割が「ほとんど毎日外出」しており、週に1回未満しか外出しない者は1.5%にとどまった。一方、健康状態が「良くない」人では「ほとんど毎日」外出する者は約3割にとどまり、「ほとんど外出しない」という者が23.0%、週に1回未満しか外出しない者の合計は約3割に上った(図1-3-2-4)。
次に世帯別にみると、「ほとんど毎日」外出すると回答した者が三世代同居(親・子と同居)では78.7%と最も高く、夫婦のみ世帯などこれ以外の世帯でも6割から7割強を占めているが、単身世帯では6割弱でもっとも低い結果となった。しかしながら、2~3日に1回程度外出しているかどうかを見ると、単身世帯、夫婦のみ世帯、二世代世帯(親)、二世代世帯(子)、三世代世帯(親・子)、三世代世帯(子・孫)のいずれでも9割前後が2~3日に1回程度は外出している結果となり、単身世帯だけ著しく外出頻度が低いとも言えない(図1-3-2-5)。
収入のある仕事の状況別でみると、無職の者では半数強の55.9%しか「ほとんど毎日外出」していないのに対し、有職の者では自営や在宅など態様に関わらず約8割かそれ以上が「ほとんど毎日外出」している結果が見られた(図1-3-2-6)。
(3)会話の頻度
家族や友人との会話の頻度を主観的な健康状態別にみると、健康状態が「良い」人では「ほとんど会話をしない」が1.1%と極めて低いのに対し、健康状態が「良くない」人では13.1%に上り、12ポイントの差が見られた(図1-3-2-7)。
次に世帯別にみると、夫婦のみ世帯、二世代世帯、三世代世帯ではいずれも9割以上の者が「ほとんど毎日」会話をすると回答したが、単身世帯で「ほとんど毎日」会話をすると回答したものは54.3%にとどまり、他の世帯グループと比較して著しく低い結果がみられた(図1-3-7)。単身世帯をさらに男女別でみると、女性単身世帯で「ほとんど会話をしない」とした者は2.2%にとどまったのに対し、男性単身世帯では11.7%に上り、単身世帯の中でも女性と男性で大きく異なる様子がみられた(図1-3-2-8)。
収入のある仕事の状況別でみると、有職の者はいずれのグループでも9割以上が、無職の者でも8割強が「ほとんど毎日」会話すると回答しており、無職であることによって会話の機会が極端に少ないという結果は見られなかった(図1-3-2-9)。
(4)社会的な活動への参加の有無
社会的な活動への参加の有無を主観的な健康状態別にみると、健康状態が「良い」「まあ良い」「ふつう」とする人では3割以上が社会的な活動に参加していたが、「あまり良くない」では20.3%、「良くない」では11.5%で、低めの傾向が見られた(図1-3-2-10)。
(%) | |||||||||
自治会、町内 会などの自治 組織の活動 |
まちづくりや 地域安全など の活動 |
生活の支援・ 子育て支援など の活動 |
その他のボラ ンティア・社 会奉仕な どの活動 |
地域の伝統 芸能・工芸技 術・お祭りな どを伝承する 活動 |
その他 | 特に活動はし ていない |
不明 | 何らかの社会 的活動を行っ ている(計) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
良い | 21.9 | 1.3 | 2.1 | 9.0 | 0.9 | 1.7 | 63.2 | - | 36.8 |
まあ良い | 17.9 | 1.0 | 1.4 | 9.8 | 0.4 | 2.6 | 66.8 | 0.2 | 33.0 |
普通 | 20.1 | 2.0 | 0.8 | 4.6 | 0.8 | 2.2 | 69.4 | - | 30.6 |
あまり良くない | 9.3 | 1.7 | - | 5.3 | 1.7 | 2.3 | 79.7 | - | 20.3 |
良くない | 6.6 | - | - | 4.9 | - | - | 88.5 | - | 11.5 |
(5)収入のある仕事をする理由
収入のある仕事をする理由を主観的な健康状態別にみると、いずれも最多の回答は「収入がほしい」である。「働くのは体によい、老化を防ぐ」と回答したものは、いずれの健康状態グループにおいても10%台であり、大きな差は見られなかった(図1-3-2-11)。
(%) | ||||||
収入がほしい | 面白い、自分の 活力になる |
友人や仲間を得 ることができる |
働くのは体によ い、老化を防ぐ |
その他 | 不明 | |
---|---|---|---|---|---|---|
良い | 53.3 | 21.2 | 5.0 | 12.7 | 6.9 | 0.8 |
まあ良い | 57.1 | 20.5 | 1.9 | 16.2 | 4.3 | - |
普通 | 63.2 | 10.8 | 4.8 | 14.0 | 6.8 | 0.4 |
あまり良くない | 59.5 | 14.9 | 2.7 | 13.5 | 9.5 | - |
良くない | 60.0 | 40.0 | - | - | - | - |
世帯別にみても「収入がほしい」がいずれのグループでも最多であるが、単身世帯を男女別にみると、男性単身世帯では「収入がほしい」の次に多い回答が「面白い、自分の活力になる」であったのに対し、女性単身世帯で次に多かったのは「働くのは体によい、老化を防ぐ」であり、女性のほうが就業を健康維持と結び付けて捉える傾向が強く見られた(図1-3-2-12、図1-3-2-13)。
(6)考察
以上の結果から、主観的な健康状態が「良い」者は、外出頻度、会話頻度、社会的な活動への参加のいずれにおいても「良くない」者よりも活発である結果が見られた。この調査からは、「健康状態が実際に良いから日常生活において活発である」のか、それとも「日常生活において活発であるから健康状態の自認が良い」のかの因果関係を判断することはできない。しかし、少なくとも主観的な健康状態が「良くない」者は、外出頻度、会話頻度、社会的活動への参加のいずれも低めの結果であることから、健康自認が「良くない」者が日常生活において不活発になり、不活発になることでますます健康自認が下がる、という悪循環が生じることのないよう、健康自認が「良くない」層の特性や実態を踏まえて対策を講じることが有益と考えられる。
また、今般の調査結果では単身世帯において外出や会話の頻度が特に低いという結果も見られた。我が国では平成52年には65歳以上男性の約21%、女性の約25%が単身世帯となると推計されている(図1-1-9参照)。外出したり他人と会話したりすることは、高齢期の健康維持や孤立防止に有益であることから、日常生活の中で単身世帯は特に他者との関わりが希薄になりがちである実態に留意し、就業や社会的活動、多世代交流など多様な形で高齢期の社会生活を支援することが望ましい。
(7)科学技術で拓く日常生活の健康
それでは、近年の科学技術を用いて会話を増やしたり、外出を増やしたりすることは可能だろうか。高齢期には、身体や認知能力の低下などが支障となって日常生活が不活発になりやすい場合もある。
実用化されている例の1つに、AIを使ったロボットがある。セラピー・ロボット、コミュニケーション・ロボット、対話ロボットなど様々な呼び名で複数の実用化や研究が進められているが、さきがけとなったのは国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が2004年に発表したロボット・セラピー用の「アザラシ型ロボット・パロ」ではないだろうか(図1-3-2-14、図1-3-2-15)。この「パロ」はタテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルに、体長57センチメートル、重さは2.5キログラム。センサーやマイクロフォンを備え、外部刺激や朝昼夜のリズムなどから生き物らしい動きをする。また学習機能により、新しい名前を学習したり、なでられた際の反応など持ち主の好みに応じた行動を学習したりして、使ううちに個性を獲得するようになっている。
産総研が行った介護老人保健施設における実証研究や世界各地での治験結果によれば、社会的効果(高齢者同士や介護者との会話の増加)や心理的効果(気分、うつ、不安、痛み、孤独感の改善等)、生理的効果(ストレスの低減、血圧の安定化等)が見られたという。
また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構では、人を相手に音声や動作で働きかける機能などを搭載した「コミュニケーションロボット」を活用し、介護現場に導入する効果等を分析するための大規模調査を実施し1、2017年に成果発表2を行ったが、対象者866名のうち296名(34.2%)について、生活上の自立度向上及び生活の活発化についての改善効果が認められた。
自室トイレや食事時に食堂へ車いす介助で行くとき以外はベッドで寝ていることが多かった女性(88歳)の場合、コミュニケーションロボットによる介入を行ったところ、2週間後にはロボットが「促す」だけで自ら車いすへの移乗動作を行うようになり、3週間後には自立して車いすへ移乗し、食堂やデイルームに移動するようになり、日中はほとんど車いす座位で、食堂とデイルームにいる時間も増えた。4週間後では散髪や更衣などが自立し、見守りながら歩行器歩行をするようになった。8週間後にはさらに自立度が上がり、移動は食堂・デイルームまで歩行器で自立となり、生活の活発さもさらに向上するといった結果も見られた。
こうしたコミュニケーションロボットの介入による変化(改善)の内容をみると、会話を楽しむといったコミュニケーション分野よりも、セルフケア(身体各部の手入れ、更衣等)、運動・移動(歩行や手足の使用)、社会生活(行事への参加)といった分野で自立度の改善が見られた。このことは、コミュニケーションを目的とするだけでなく、セルフケアや運動・移動の自立度向上・活発化を促す手段として今後のロボットの活用の幅が広がる可能性を含んでいる。
なお、同じコミュニケーションロボットであっても、効果が施設によって大きく異なり、それは介護プログラムによる差が大きかったという分析が示されている。コミュニケーションロボットを導入して要介護者に与えれば効果が出るというものではなく、介護プログラムにおける位置づけの仕方の影響が大きいといえる。
また、科学技術は高齢期の外出促進にも役立てることが期待できる。
高齢期には、運転免許の自主返納などを機に外出頻度が急減する場合がある。内閣府が平成28年度に実施した「高齢者の経済・生活環境に関する調査」では、全国の60歳以上の男女約2000人に日常の買い物の仕方を尋ねたところ、いずれの年齢層でも「自分でお店に買いに行く」が最多で、その手段は「自分で自動車等を運転」が「徒歩」、「公共交通機関」「家族等が運転する自動車やタクシー」を上回った(図1-3-2-16、図1-3-2-17)。高齢期にも安全に運転できるような車が利用できるのであれば、日常の買い物などの必要に応じて外出機会を得る契機になるものと思われる。
高齢運転者による交通事故防止対策の一環として、国は、高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車を「安全運転サポート車」と位置づけて、「セーフティ・サポートカーS」(サポカーS)の愛称で官民を挙げた普及啓発に取り組んでいる(図1-3-2-18)。安全運転サポート車に搭載される機能には自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、車線逸脱警報、先進ライトなどがあり、高齢運転者による交通事故防止に一定の効果が期待されている(図1-3-2-19)。