第1章 高齢化の状況(第3節 2-2)
第3節 <視点2>先端技術等で拓く高齢社会の健康(2)
2 医療サービスの利用と移動手段
(1)医療サービスの利用頻度
医療サービスの利用頻度を聞いたところ、全年齢計では「月に1回くらい」が35.8%で最多(図1-3-2-20)。年齢別(60歳~80歳以上まで5歳刻み)に見ても、いずれの年齢層でも「月に1回くらい」が最多であった(55歳~59歳では「年に数回」が最多)(図1-3-2-21)。
また、「利用している」の計が50代後半では65.1%だが80歳以上では88.6%で、年齢が高いほど医療サービスを利用している結果となった(図1-3-2-22)。
(2)医療サービス利用時の移動手段
医療サービスを「利用している」人に利用時の移動手段を主観的な健康状態別にみると、健康状態が「良い」「まあ良い」「ふつう」である人ではいずれも「自分で運転する自動車等」が約半数を占めて最多、次いで「徒歩」であるのに対し、「良くない」人では「家族による送迎」が3割弱、次いで「自分で運転する自動車等」が2割弱という結果だった(図1-3-2-23)。
次に都市規模別でみると、大都市では「徒歩」「自分で運転する自動車等」「バスや電車などの公共交通機関」がいずれも25%前後であるのに対し、中都市、小都市、町村は「自分で運転する自動車等」が最多であった(中都市46.8%、小都市59.2%、町村55.2%)。また、小都市や町村では「家族による送迎」が2割弱見られ、大都市や中都市よりも高い(図1-3-24)。
性・年齢別では、男性ではいずれの年齢層でも「自分で運転する自動車等」が最多であった。女性では74歳までの各年齢層では男性と同様に「自分で運転する自動車等」が最多であるが、70代後半及び80歳以上では「家族による送迎」や「徒歩」が多く、「自分で運転する自動車等」は70代後半で17.9%、80歳以上で10.8%と、他の性・年齢層と比較して著しく低かった(図1-3-2-25、図1-3-2-26)。
(3)考察
以上の結果から、主観的な健康状態が「良くない」者や70代後半以降では、約2~3割の者が医療サービス利用時の移動手段を家族による送迎に頼っている実情が見えた。健康状態が「良くない」「あまり良くない」者は医療サービスの利用頻度も他のグループと比べて高い。「良い」グループでは週に1回以上利用しているのは2.1%にとどまったのに対し、「あまり良くない」では約2割、「良くない」では約3割が医療サービスを週に1回以上利用しており、送迎で頼りにされる家族の負担にも留意する必要がある(図1-3-2-27)。
(%) | ||||||||||
ほとんど 毎日 |
週に4、5 回くらい |
週に2、3 回くらい |
週に1回くら い |
月に2、3回 くらい |
月に1回くら い |
年に数回 | 利用してい ない |
不明 | 利用してい る(計) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
良い | 0.2 | - | 0.4 | 1.5 | 6.0 | 28.0 | 23.0 | 40.9 | - | 59.1 |
まあ良い | 0.4 | 0.2 | 1.6 | 3.5 | 8.6 | 40.3 | 24.0 | 21.4 | - | 78.6 |
普通 | 0.8 | 0.5 | 3.0 | 2.7 | 9.8 | 37.2 | 26.9 | 18.9 | 0.2 | 80.9 |
あまり良くない | 0.3 | 1.7 | 9.3 | 9.7 | 20.3 | 40.0 | 13.3 | 5.3 | - | 94.7 |
良くない | 3.3 | 4.9 | 16.4 | 4.9 | 19.7 | 32.8 | 11.5 | 6.6 | - | 93.4 |
(4)科学技術で拓く医療サービスへのアクセス
それでは、近年の科学技術を用いて医療サービスへのアクセスを容易にすることは可能だろうか。主観的な健康状態が低いほど医療サービスの利用頻度が高い状況において、健康に不安を持ちながら自分で運転することの負担や、運転をやめて家族に送迎を依頼することにより家族にかかる負担などが考えられる中で、移動手段が支障となって適切に医療サービスを受けられない状態が生じないような取り組みが望まれる。
支援策の一つとして、情報通信技術を活用した遠隔医療が挙げられる。
遠隔医療には、医師が患者を診療する際に別の専門医からオンラインでアドバイスを受けるケース(医師間)や、医師がコンピューターの画面を通して自宅や高齢者福祉施設にいる患者の状態を確認して診察するケース(医師・患者間)がある。医師・患者間のものは、診療の全てをオンラインだけで行うことはできないが3、例えば病院で手術を受けた後の予後の確認などフォローアップ目的の通院を遠隔医療で代替することなどが考えられる。毎回病院に赴かず時折自宅で診療を受けることができれば、移動負担が軽減され、その結果として医療サービスへのアクセスも容易になる。
遠隔医療は、特に人口密度の低い地域や離島などでこれまでも活用されてきた。例えば旭川医科大学病院は、広大な面積に医師が偏在している北海道に立地していることなどを踏まえ、平成6(1994)年から情報通信技術を活用して遠隔医療を進めてきた。医師・患者間では、例えば眼科で手術を受けた患者が専門的な術後管理を必要とする場合などに、患者の近所の主治医のもとで旭川医科大学病院の執刀医の診察も受けることができるような取り組みを行っている。また、併せて自宅療養中の患者が使う家庭用情報端末を開発し、患者に自宅で測定した血圧などのバイタルデータをこの端末から送信させることで、旭川医科大学病院において遠隔でモニタリングできる仕組みも備えている。
さらに2016年からは、モバイル端末を用いた「クラウド医療」も行っている。地方病院からインターネット上のクラウドを介して送られてくる患者情報を専門医がスマートフォンやタブレット端末で閲覧し、診断や治療方針のアドバイス、旭川医科大学病院への救急搬送の必要性有無の判断などを行うもので、心疾患などが発症してから治療開始までの時間が短縮されるなどの効果を得ている(図1-3-2-28、図1-3-2-29)。
こうしたオンライン診療や遠隔によるバイタル情報管理によって、移動に何らかの困難が見込まれる者の医療サービスへのアクセスが改善されることが期待できる。
また、先に紹介したサポカーSも、高齢運転者の安全運転を支援するものであることから、医療サービスを利用する際に自分の運転で安心して移動できるという観点から、アクセス改善の面でも活用が期待される。