第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス6)

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第3節 <視点2>先端技術等で拓く高齢社会の健康(トピックス6)

トピックス6 先進技術の導入に向けた北九州市の取組~介護ロボットの活用やICTを用いた先進技術の導入等について~

産学官の連携により介護ロボットやICTを用いた先進的介護の実証を進め、介護職員の負担軽減等に取り組んでいる自治体がある。モノづくりの集積地として発展してきた背景も生かし、国家戦略特区制度を活用して、先進的介護の拠点形成を目指している北九州市の取組を紹介する。

1.北九州市の目指す先進的介護

北九州市は、介護ロボット等を活用した成功モデル「先進的介護1」の創造を目指し、全国に向けて発信している。先進的介護システムにより実現される「先進的介護」モデルとは、「介護従事者にとって最も魅力的」で、「介護が必要な人にとってサービスの質が高く」、「介護ロボット産業の活動が、質・量ともに最も盛ん」な都市となることである。

そのために、介護現場の声にしっかりと耳を傾け、最新型のロボット・テクノロジーに関するアンテナを高く張り、国や関係機関と連携し、将来の日本、世界のモデルとなるような介護の実現を目指してチャレンジしている。

【図1 北九州モデルの先進的介護】

2.背 景

少子高齢化の進展、労働環境や処遇を理由とした介護職員の離職などにより、介護現場の人材不足は全国的に深刻化しており、北九州市も同様の状況にある。

北九州市は政令指定都市の中で最も高齢化率が高く、平成5年に「北九州市高齢化社会対策総合計画」を定めて以来、高齢社会対策に取り組んできた。このため、市内の医療・保健・福祉関係者にはこれまでの経験と実績が蓄積されている。また、モノづくりの都市として発展してきたことから、ロボットや情報通信技術など高い技術力を持つ企業や学術研究機関も集積している。

こうした北九州市の有するノウハウや潜在的能力を活かして、「介護職員の負担軽減」、「介護の質の向上や高齢者の自立支援」、「高年齢者の雇用機会の拡大」、さらには「介護ロボット産業の振興」を図るため、平成28年度から国家戦略特区を活用した取組みを開始した。

3.これまでの取組

(1)概 要

北九州市の取組みは、大きく「実証」「開発」「導入」「社会実装」の4つのフェーズで構成される。具体的には、今までほぼ人の手によって行われていた介護現場での作業を科学的に分析することから始め、次に、この分析結果や施設職員との意見交換等を踏まえ、ロボット等の導入・実証を行い、そこから導き出されたニーズを介護ロボット等の開発・改良につなげる。

また、開発・改良された介護ロボット等を実際の介護施設に導入するとともに、使いこなすためのノウハウの提供や人材育成も行う。さらに、科学的に定量的な評価を行い、効果が見えるものとし社会実装につなげていく。こうしたサイクルを繰り返すことで「先進的介護」を実現していくというものである。

(2)具体的な取組

平成28年度から、国家戦略特区を活用して市内の企業、大学、実証施設等と連携して、介護ロボット等を活用した先進的介護の実証に取り組んできた。

実証を行う施設は、公募により市内の特別養護老人ホームから5施設を選定した。施設の詳細は表2に示す。

【表2 実証施設の概要】
年  度 法人名 施設名 備  考
28年度 (社福)春秋会 好日苑大里の郷 ユニット型
(社福)孝徳会 サポートセンター門司 ユニット型
29年度 (社福)援助会 聖ヨゼフの園 多床室
(社福)無何有の郷 杜の家 ユニット型
(社福)広寿会 足原のぞみ苑 多床室

1 「科学的な手法」を用いた介護作業の分析(介護作業の見える化)

北九州市では介護ロボット等の実証にあたり、まず特別養護老人ホームの職員が1日の中で、どのような作業にどのくらいの時間をかけ、また、どのような姿勢が身体的負担になっているのかを「見える化」(データ化)するため、一連の介護作業を270項目に分類し、30秒ごとに観察を行った。

その主な結果は図3に示すが、こうしたデータは「介護の科学化に向けた第一歩」など、多くの関係者から評価されている。

【図3 作業分析の結果】

2 介護ロボット等の実証

次に、介護ロボット等の実証である。北九州市では、ロボット等の選定にあたり、作業分析の結果を踏まえ、さらに、実証施設の職員と一緒にどのような作業の負担を軽減したいのかといったことの意見交換を経て、導入する機器を決定した。

機器の導入前には、入居者や家族への説明会の開催や倫理審査を行うなど、実証の安全確保にも十分に配慮してきた。

平成28年度は移乗支援や記録支援など5分野7機種、平成29年度は記録時間の短縮、夜間巡回の効率化、情報共有の効率化、移乗時の姿勢改善、レクリエーションの効率化、移動時の姿勢改善などの観点から7分野11機種について実証を行っている。

平成28年度に実証施設の介護職員を対象としたアンケートを実施したところ、職員からは、介護ロボット等の活用により身体的負担は減ったという回答が半数以上あったが、その一方で、ロボットを使用するための準備や操作に時間を要することや、操作ミスへの不安などから精神的な負担は増えたとの回答もあった。今後は、職員研修の充実など、施設職員が安心して、効果的にロボットを活用できる仕組みづくりも必要であると考えている。

また、入居者に関しては、「自ら歩きたいと思うようになった」等、積極的な行動や意欲が増加したという回答もあったが、その一方で、抱えられることで、表情や手足の緊張が増加したという精神的負担の増を窺わせる回答もあった。今後は、入居者の状態にあったロボットを適切に活用することで、入居者の自立に向けた意欲を喚起し、自立支援に向けた取組を進めていくことが必要であると考えている。

3 介護ロボットの改良・開発

介護ロボットの改良・開発について、北九州市は介護現場のニーズに適った機器の改良・開発を促進するため、「北九州市介護ロボット開発コンソーシアム」を設置した。平成29年度末には企業や大学など39団体が加入している。

このコンソーシアムでは、会員に対し、作業分析データや実証から得られる開発・改良ニーズ等の情報提供を始め、倫理審査(審査会を市独自で設置)や安全性の検証など開発側にとって必要な手続面の包括支援などを行っている。

また、平成29年度には北九州市発の取組として、パラマウントベッド(株)、(株)安川電機、TOTO(株)の3社による機器の連動の研究がスタートし、11月に開催された西日本国際福祉機器展において実際の連動デモを行ったところ、来場者に大きなインパクトを与えることができた。

【図4 西日本国際福祉機器展のデモ風景】

4 人材育成(介護ロボットマスター育成講習)と環境整備

介護施設のレイアウトや入居者の状態は施設ごとに異なっており、ここに単に介護ロボット等を導入しても、その効果は十分に発揮できない。介護ロボット等を導入する際には、その機能や性能を、個々の施設や入居者の状態に応じて使いこなせる人材、環境整備が重要となる。

このため、北九州市では、介護作業を理解し、入居者の状態などの施設の状況やロボットの長所・短所などをしっかり把握したうえで、ロボットの効果を発揮できる人材(介護ロボットマスター)の養成にも取り組むなど、スキルの向上に取り組んでいる。

平成29年度は、これまで育成講習を2回開催し、実証施設をはじめ市内の特別養護老人ホームの職員41名が受講している。

また、介護ロボットの導入に伴う課題としては、データや現場ニーズに即したものである必要があること、また介護とは一連の生活の世話であることから、ロボットそれぞれを単体で使用するのでなく、組み合わせに配慮し連続的に使用する必要があること、介護現場が導入しやすくなるには価格も重要になること等が明らかになってきた。

【図5 介護ロボットマスター育成講習の様子】

5 情報発信(介護ロボット等を活用した先進的介護に関するシンポジウム)

北九州市の目指す「先進的介護」について、国や企業、介護事業者等が理解を深め、産学官民が一体となって北九州モデルを構築するためのきっかけづくりとするため、平成29年7月に、北九州市においてシンポジウムを開催した。

このシンポジウムでは、塩崎厚生労働大臣と山本地方創生担当大臣が来賓として出席し、北橋北九州市長による報告をはじめ、基調講演やパネルディスカッション、介護ロボット開発コンソーシアムによる介護ロボット等の展示などを行った。

4.先進的介護の実現に向けて

これまでの北九州市の取組みから見えてきた課題としては、

  • 介護ロボット等の導入に当たっては、介護職員や介護を受ける人の身体的負担だけでなく、精神的負担を排除する必要があること。
  • 介護を受ける人の状態にあった介護ロボットを適切に活用する必要があること。
  • 介護ロボット等を使いこなせる人材が必要で、そのための人材育成が必要であること。あわせて、介護ロボット等を効率的・効果的に使うための環境整備が必要で、複数の介護ロボット等の組み合わせも考慮する必要があること。
  • 費用対効果の観点からは、価格も重要であること。

といった点があげられる。

このような課題について解決の方法を検討しながら、北九州市は先進的介護の実現に向けた取組を産学官民が一体となって、引き続き、精力的に行っていく考えであるという。


1 北九州市では、ロボット技術等を導入することにより、介護職員の負担軽減、介護の質の向上や高齢者の自立支援、介護職員の専門性・働き甲斐の向上、介護現場の生産性の向上を実現するための新しい介護のことを「先進的介護」と定義して取組を進めている。
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