第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス5)
第3節 <視点2>先端技術等で拓く高齢社会の健康(トピックス5)
トピックス5 支え合いの地域づくりに向けた高知県の取組~あったかふれあいセンターにおけるつながり・支え合いの地域支援活動~
中山間地域が多く、全国に先行して高齢化が進み、また、福祉サービスの利用者が広い地域に点在しているといった現状にある高知県において、地域の住民の交流の場、支え合いの拠点づくりのための取組である「あったかふれあいセンター」事業で行われている地域支援活動を紹介する。
1.はじめに
高知県では、人口減少、高齢化が全国に先行して進む中、政策の方向とその具体的な対策を示した「日本一の健康長寿県構想」を平成22年2月にとりまとめ、保健、医療、福祉の各分野の課題解決に取り組んでいる。現在の第3期構想では「県民の誰もが住み慣れた地域で、安心して暮らし続けられる高知県」を目指し、5つの柱を掲げて、より重点的かつ骨太な対策を推進している。その構想の柱の一つ「地域地域で安心して住み続けられる県づくり」では、小規模でありながらも、高齢者、障がい者、子どもなど誰もが気軽に集え、必要なサービスを受けることができる高知県独自の地域福祉の拠点「あったかふれあいセンター1」の整備・機能強化や中山間地域の介護サービスの確保等に取り組んでいる。ここでは、佐川町斗賀野地区の地域の高齢者を支える「あったかふれあいセンター」を核とした地域福祉活動の事例を紹介する。
佐川町は高知県の中西部に位置しており、高知市から西へ約27km、車で1時間圏内の距離にある、人口1万3,044人(※)の町で、高齢化率は37.9%(※)である。昭和29年と昭和30年に町村合併がなされ、町は旧町村別の5つの地区(佐川、黒岩、尾川、加茂、斗賀野)で構成されている。本コラムで紹介する斗賀野地区は人口が3,306人(※)、高齢化率は37.3%(※)の地区である。(※のデータは、平成30年3月31日時点)
2.「あったかふれあいセンターとかの」の取組
佐川町斗賀野地区では、平成26年5月に、ともに支えあいながら安心して自分らしく暮らせる地域を目指し、町がNPOとかの元気村に委託して運営する「あったかふれあいセンターとかの」が開所した。
子どもから高齢者まで誰もが気軽に集い・交流できる場所となるよう、カレーの日や喫茶の日、カラオケの日など参加者が楽しめるイベントや、異世代交流を目的としたイベント(流しそうめん)等を開催している。
また、あったかふれあいセンターは「集い」の機能だけでなく、希望者には無料で自宅までの「送迎」や、必要に応じて買物や通院の手助けも行っている。併せて、「生活支援」として、布団干しやごみ出し、電球の取替えといったちょっとした困りごとなどへの支援、窓拭きといったような時間がかかる支援についても基本利用料500円で提供している。さらに、地域の住民の声を取り入れて、保健師によるミニ講座や、クラフトバック教室、防災に対する意識を高める防災講座が開催されるなど、「学び」の場ともなっている。それらの講座の講師は、地域の住民がボランティアとして協力をしている。
利用者に高齢者が多いこともあって、「介護予防」にも取り組んでおり、全国的にも注目されている高知市が発祥の「いきいき百歳体操2」やエクササイズの感覚で楽しみながら体を動かす3B(ボール・ベル・ベルター)体操などを実施している。また、認知症の人や家族、そのほかの地域住民が一緒に集い・学ぶことのできる、「認知症カフェ」の開催や、認知症予防ゲーム(スリーAゲーム)の実施などを通じ、認知症への関心を高め、地域で認知症の人やその家族を支える仕組みづくりの一助にもなっている。このような集いの場に、誰もが移動の問題を気にせず参加できるよう、希望者には集いの場への送迎を「あったか号」で行う等、参加しやすい工夫がされている。
さらには、訪問活動や相談への対応などで把握した困りごとの関係機関などへの「つなぎ」機能も担っているなど、「あったかふれあいセンター」では、「集い」、「送る」、「生活支援」など、介護保険制度の枠外の多様なニーズにも対応する機能を有している。
「あったかふれあいセンター」の運営には、「あったかお助け隊」と呼ばれているボランティアの関わりが大きい。住民が活動に関わりを持ちやすいよう、ボランティアの募集にも力を入れて取り組んでおり、当初は、少なかったボランティアも現在では35名にまで増加した。草刈りや大工のほか、カレーの日には小学生がお手伝いをするなど、多くの住民が世代を超えて活動を行っている。
3.夏のお助け大作戦
平成29年9月3日に佐川町斗賀野地区で「あったかふれあいセンターとかの」を中心とした地域住民による生活支援のボランティアイベント「夏のお助け大作戦」が開催された。当日は、社会福祉協議会、町健康福祉課、NPOとかの元気村、子供ボランティア、学生、あったかお助け隊(35名中22名)、自主防災組織等の6歳から86歳までの76名のボランティアが参加した。参加者は公園に集合し、6人から8人のグループに分かれ、事前に決定していた支援先である独居の高齢者宅などを訪問し、掃除や草刈りなどに汗を流した。ボランティアの中には、当日飛び入りで参加してくれる方もおり、関心の高さがうかがえた。
本イベントが開催される前、「あったかふれあいセンター」が生活支援として行っている窓拭きや換気扇の清掃などへのニーズが年々増加しており、現在いるスタッフの人数では対応しきれないという状況にあった。また、「あったかお助け隊」の登録者へのボランティアの協力依頼が一部の方に留まっており、全員の方に役割意識を持ってもらうことができていないという課題があった。そこで、寄せられてくる生活支援のニーズを本イベントの開催によって解消につなげられないか、また、今後はボランティアによる生活支援の仕組みづくりにつなげられないかとのスタッフの思いから、このイベントが企画された。
このイベントを多数の参加者と共に開催できた背景としては、佐川町社会福祉協議会が災害ボランティア活動として災害が起こった際を想定し、実際に高齢者の自宅に支援に入り、助け合いができる地域づくりに取り組んでいるという基盤があったことや、開設から3年が経過し、様々な取組を通じて、「あったかふれあいセンター」についての地域の人々の理解を深めることができていたことが考えられる。今後とも、「あったかふれあいセンター」は、地域の住民と協働して、町、社会福祉協議会等の関係機関との連携体制を構築し、地域の困りごとの解決に丁寧に取り組むことで、人々から信頼される「地域福祉の拠点」として役割がさらに高まっていくものと考えられる。
「夏のお助け大作戦」の参加者からは、「ひとつの助け合いが大きなものになることに気づかされた時間だった。」、「定期的に計画すればお願いしたい人も増えて、広がりがみられると思う。近いうちに自分もお願いする側になると思うが、そのためにもできるところで参加していきたい。」等の感想が寄せられた。イベント開催前には、「あったかふれあいセンター」のスタッフが、利用者のうち独居、高齢者世帯、障害者など13名宅を訪問して困りごとなどを聞き取っている。実際の訪問を通じて見えてきた本当に必要な支援を提供することができたことで、ボランティアにとってもやりがいにつながったものと思われる。
4.まとめ
「あったかふれあいセンターとかの」では、地域住民が主役となって、地域の課題を解決したり、ともに支え合いながら安心して暮らせる地域づくりに取り組んでいる。「夏のお助け大作戦」や「あったかお助け隊」のように、地域住民が「我が事」としてボランティア活動に参画し、「お互い様意識」に気づき、人と人が世代や分野を超えてつながることで地域で共に暮らしている。それらの活動が地域住民にとって楽しみであり、生きがいとなり、人々のつながりを深めていく大切な活動として、地域に根づき始めている。このような支え合いの地域づくりに向けて、「あったかふれあいセンター」は地域福祉の拠点としてますます重要になると見込まれている。