第2章 令和元年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 4)

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第2節 分野別の施策の実施の状況(4)

4 生活環境

「生活環境」については、高齢社会対策大綱において、次の方針を示している。

高齢者の居住の安定確保に向け、高齢者向け住宅の供給を促進し、重層的かつ柔軟な住宅セーフティネットの構築を目指すとともに、住み慣れた地域の中で住み替えの見通しを得やすいような環境整備を進める。また、高齢者のニーズを踏まえ将来にわたり活用される良質な住宅の供給を促進し、併せて、戸建てや共同住宅の特性の違いにも留意しつつ、それらが適切に評価、循環利用される環境を整備することを通じ、生涯にわたって豊かで安定した住生活の確保を図るとともに、高齢者が保有する住宅の資産価値を高め、高齢期の経済的自立に資するとともに、その資産の次世代への適切な継承を図る。

地域における多世代間の理解や助け合いを行える地域コミュニティづくりを推進する。地域公共交通ネットワークを再構築するとともに、福祉・医療等の生活機能や人々の居住をまちなかや公共交通沿線に立地誘導し、徒歩や公共交通で移動しやすい環境を実現するため、コンパクト・プラス・ネットワークを推進する。また、快適な都市環境の形成のために水と緑の創出等を図るとともに、活力ある農山漁村の再生のため、高齢化の状況や社会的・経済的特性に配慮しつつ、生活環境の整備等を推進する。

高齢者を含む全ての世代の人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、住宅等から交通機関、まちなかまでハード・ソフト両面にわたり連続したバリアフリー環境の整備を推進する。東京2020大会の開催も視野に取組を進める。

関係機関の効果的な連携の下に、地域住民の協力を得て、災害から高齢者を守るとともに、高齢者が交通事故や犯罪の当事者となることを防止し、高齢者が安全に生活できる環境の形成を図る。また、成年後見制度が一層利用されるように環境整備を図る。

(1)豊かで安定した住生活の確保

「住生活基本計画(全国計画)」(平成28年3月閣議決定)に掲げた目標(〔1〕結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現、〔2〕高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現、〔3〕住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、〔4〕住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築、〔5〕建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新、〔6〕急増する空き家の活用・除却の推進、〔7〕強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長、〔8〕住宅地の魅力の維持・向上)を達成するため、必要な施策を着実に推進している(表2-2-13)。

表2-2-13 「住生活基本計画(全国計画)」(平成28年3月閣議決定)における高齢社会対策に関する目標、成果指標及び基本的な施策

目標2 高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現

(1) 高齢者が安全に安心して生涯を送ることが出来るための住宅の改善・供給

(2) 高齢者が望む地域で住宅を確保し、日常生活圏において、介護・医療サービスや生活支援サービスが利用できる居住環境を実現

【指標】

  • 高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合

    2.1%(平成26)→4%(令和7)

  • 高齢者生活支援施設を併設するサービス付き高齢者向け住宅の割合

    77%(平成26)→90%(令和7)

  • 都市再生機構団地(大都市圏のおおむね1,000戸以上の団地約200団地が対象)の地域の医療福祉拠点化

    0団地(平成27)→150団地程度(令和7)

  • 建替え等が行われる公的賃貸住宅団地(100戸以上)における、高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯の支援に資する施設の併設率

    平成28~令和7の期間内に建替え等が行われる団地のおおむね9割

  • 高齢者の居住する住宅の一定のバリアフリー化率※

    41%(平成25)→75%(令和7)※一定のバリアフリー化率:2箇所以上の手すり設置又は屋内の段差解消

【基本的な施策】

(1)住宅のバリアフリー化やヒートショック対策を推進するとともに、高齢者の身体機能や認知機能、介護・福祉サービス等の状況を考慮した部屋の配置や設備等高齢者向けの住まいや多様な住宅関連サービスのあり方を示した「新たな高齢者向け住宅のガイドライン」を検討・創設

(2)まちづくりと調和し、高齢者の需要に応じたサービス付き高齢者向け住宅等の供給促進や「生涯活躍のまち」の形成

(3)公的賃貸住宅団地の建替え等の機会をとらえた高齢者世帯・子育て世帯等の支援に資する施設等の地域の拠点の形成

(4)公的保証による民間金融機関のバックアップなどによりリバースモーゲージの普及を図り、高齢者の住み替え等の住生活関連資金の確保

(5)高齢者の住宅資産の活用や住み替えに関する相談体制の充実

資料:国土交通省
ア 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進

良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄の普及促進等を図るとともに、独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業及び勤労者財産形成持家融資を行っている。

また、住宅ローン減税等の税制上の措置を活用し、引き続き良質な住宅の取得を促進した。

(イ)高齢者の持家ニーズへの対応

住宅金融支援機構において、親族居住用住宅を証券化支援事業の対象とするとともに、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施している。

(ウ)将来にわたり活用される良質なストックの形成

「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(平成20年法律第87号)に基づき、住宅を長期にわたり良好な状態で使用するため、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備え、適切な維持保全が確保される「認定長期優良住宅」の普及促進を図った。

イ 循環型の住宅市場の実現
(ア)既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備

消費者ニーズに対応した既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備を図るため、登録講習機関が実施する既存住宅状況調査技術者講習による技術者の育成を通じ、建物状況調査(インスペクション)の実施体制の整備を進めることで、適正なインスペクションの普及促進を図った。

既存住宅売買に活用可能な瑕疵担保責任保険については、関連制度との連携を通じ、利用件数が増加した。

さらに、住宅リフォーム事業の健全な発達及び消費者が安心してリフォームを行うことができる環境の整備を図るため、住宅リフォーム事業者の業務の適正な運営の確保及び消費者への情報提供等を行う等、一定の要件を満たす住宅リフォーム事業者の団体を国が登録する「住宅リフォーム事業者団体登録制度」を実施している。

また、住宅ストック維持・向上促進事業により、良質な住宅ストックが適正に評価される市場の形成を促進する先導的な取組に対し支援したほか、長期優良住宅化リフォーム推進事業により、既存住宅の長寿命化に資するリフォームの取組を支援した。

「住みたい」「買いたい」既存住宅を選択できるようにするため一定の要件を満たす既存住宅に対し、国が商標登録したロゴマークを事業者が広告時に使用することを認める「安心R住宅」制度を実施している。

(イ)高齢者に適した住宅への住み替え支援

高齢者等の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する制度により、高齢者に適した住宅への住み替えを促進した。

また、同制度を活用して住み替える先の住宅を取得する費用について、住宅金融支援機構の証券化支援事業における民間住宅ローンの買取要件の緩和を行っている。

さらに、高齢者が住み替える先のサービス付き高齢者向け住宅に係る入居一時金及び住み替える先の住宅の建設・購入資金について、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関のリバースモーゲージの推進を支援している。

ウ 高齢者の居住の安定確保
(ア)良質な高齢者向け住まいの供給

「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律」(平成23年法律第32号)により創設された「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。

さらに、高齢者世帯等の住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度等を内容とする新たな住宅セーフティネット制度において、セーフティネット住宅の登録促進を図るとともに、住宅の改修や入居者負担の軽減等への支援を行った。

また、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅について、利用者を保護する観点から、前払金の返還方法や権利金の受領禁止の規定の適切な運用を引き続き支援している。

(イ)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進

健康で快適な暮らしを送るために必要な既存住宅の改修における配慮事項を平成31年3月にまとめた「健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」を普及推進することで、バリアフリー化等の改修を促進した。

住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修について高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施している。また、証券化支援事業の枠組みを活用したフラット35Sにより、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行っている。さらに、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関が提供する住宅の建設、購入、改良等の資金に係るリバースモーゲージの推進を支援している。

バリアフリー構造等を有する「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。

(ウ)公共賃貸住宅

公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、原則として、新たに供給するすべての公営住宅、改良住宅及び都市再生機構賃貸住宅について、段差の解消等一定の高齢化に対応した仕様により建設している。

この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中高層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について助成を行った。都市再生機構賃貸住宅においても、中高層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準としている。

また、老朽化した公共賃貸住宅については、計画的な建替え・改善を推進した。

(エ)住宅と福祉の施策の連携強化

「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年法律第26号)に基づき、都道府県及び市町村において高齢者の居住の安定確保のための計画を定めることを推進した。また、生活支援・介護サービスが提供される高齢者向けの賃貸住宅の供給を促進し、医療・介護と連携した安心できる住まいの提供を実施した。

また、市町村の総合的な高齢者住宅施策の下、シルバーハウジング・プロジェクト事業を実施するとともに、公営住宅等においてライフサポートアドバイザー等のサービス提供の拠点となる高齢者生活相談所の整備を促進した(図2-2-14)。

図2-2-14 シルバーハウジング・プロジェクトの概念図

さらに、平成30年度から、既存の公営住宅や改良住宅の大規模な改修と併せて、高齢者福祉施設等の生活支援施設の導入を図る取組に対しても支援を行っている。

(オ)高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援

スマートウェルネス住宅等推進事業により、高齢者等の居住の安定確保・健康維持増進に係る先導的な住まいづくりの取組に対して補助を行った。

(カ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給

公営住宅については、高齢者世帯向公営住宅の供給を行った。また、地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断により、高齢者世帯の入居収入基準を一定額まで引き上げるとともに、入居者選考において優先的に取り扱うことを可能としている。

都市再生機構賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行っている(表2-2-15)。

表2-2-15 公営住宅等の高齢者向け住宅供給戸数
年度 高齢者対策向
公営住宅建設戸数
サービス付き高齢者向け
住宅登録戸数
都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数 住宅金融支援機構の
割増貸付け戸数
賃貸 分譲
平成10年度 2,057 3,143 571 3,714 34,832
15 627 7,574
(3,524)
45 7,619 558
20 303 1,221
(684)
0 1,221 0
25 430 109,239 471
(368)
0 471 0
26 260 146,544 372
(305)
0 372 0
27 328 199,056 486
(303)
0 486 0
28 319 215,955 329
(293)
0 329 0
29 287 229,947 255
(223)
0 255 0
30 430 244,054 470
(226)
0 470 0
資料:国土交通省
(注1)サービス付き高齢者向け住宅登録戸数は、各年度末時点における総登録戸数である。
(注2)都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数には、障害者及び障害者を含む世帯に対する優遇措置戸数を含む(空家募集分を含む)。
(注3)優遇措置の内容としては、当選率を一般の20倍としている。(平成20年8月までは10倍)
(注4)( )内は高齢者向け優良賃貸住宅戸数であり内数である。
(注5)住宅金融支援機構の割増(平成10年に制度改正)貸付け戸数は、マイホーム新築における高齢者同居世帯に対する割増貸付け戸数である。(この制度は平成17年度をもって廃止。)
(キ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化

高齢者等の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体や関係事業者、居住支援団体等が組織する居住支援協議会や平成29年度に改正された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(平成19年法律第112号)に基づいた居住支援法人が行う相談・情報提供等に対する支援を行った。

(2)高齢社会に適したまちづくりの総合的推進

ア 共生社会の実現に向けた「ユニバーサルデザイン2020行動計画」に基づく取組の推進

東京2020大会を契機として、共生社会の実現に向けたユニバーサルデザインの街づくり、心のバリアフリーを推進し、大会以降のレガシーとして残していく施策を実行するため、「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」にて、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を決定した。また、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」の実行を加速化し、障害者の視点を施策に反映させる枠組みとして、構成員の過半を障害当事者又はその支援団体が占める「ユニバーサルデザイン2020評価会議」を設置した。「ユニバーサルデザイン2020評価会議」は令和元年度末までに計3回実施されており、構成員の意見を踏まえ、ホテル・飲食店のバリアフリー化の推進やバリアフリーマップ等の整備・充実、ユニバーサルデザインタクシーの改善等、施策の改善が図られている。

また、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を受けて開催された「バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会」での議論を踏まえ、交通事業者によるハード・ソフト一体となった取組の推進、バリアフリーのまちづくりに向けた地域における取組強化等を内容とする「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第32号)が第196回国会で成立し、平成31年4月に全面施行を迎えた。

さらに、令和2年2月、東京2020大会のレガシーとしての共生社会の実現に向け、ハード対策に加え、移動等円滑化に係る「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実等ソフトの対策を強化する「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を第201回国会に提出した。

イ 多世代に配慮したまちづくり・地域づくりの総合的推進

高齢者等すべての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進するため、地域公共交通バリアフリー化調査事業を実施し、市町村に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)に基づく移動等円滑化促進方針の作成を働きかけた。また、同法に基づく基本構想についても市町村に作成を働きかけるとともに、バリアフリー環境整備促進事業を実施した。

高齢化の進行や人口減少等を含めた社会構造変化や環境等に配慮したまちづくりを進めることが不可欠であるとの観点から、環境価値、社会的価値、経済的価値を新たに創造し、「誰もが暮らしたいまち」・「誰もが活力あるまち」の実現をめざす「環境未来都市」構想を推進するため、引き続き、選定された環境未来都市及び環境モデル都市の取組に関する普及展開等を実施した。

「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取組は、地方創生の実現にも資するものである。このため、「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』」(令和元年12月20日閣議決定)において、政策体系のうち「横断的な目標」として「地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくり」が位置付けられ、経済・社会・環境を巡る広範な課題に統合的に取り組み、SDGsを原動力とした地方創生を推進する旨が盛り込まれた。

平成31年2月から3月にかけて、地方公共団体(都道府県及び市区町村)によるSDGsの達成に向けた取組を公募し、令和元年7月に、優れた取組を提案する都市を「SDGs未来都市」として31都市選定し、その中でも特に先導的な取組を自治体SDGsモデル事業として10事業選定した。令和元年8月には多様なステークホルダー間のパートナーシップを深め、官民連携の取組を促進することを目的として「令和元年度地方創生SDGs官民連携プラットフォーム総会」及び関連イベントを開催し、マッチングや分科会の取組等に係る支援を実施するとともに、成功事例の普及展開を図った。また、地方創生SDGsに取り組む地域事業者とその取組に対して積極的に支援を行う地域金融機関を地方公共団体がつなぎ、地域における資金の還流と再投資を生み出し、全てのステークホルダーが関わる「地方創生SDGs金融」を通じた自律的好循環の形成を目的とし、令和元年8月から9月にかけて「地方創生SDGs金融調査・研究会」を開催した。

さらに、令和2年1月に、企業の日本国内の地域課題解決へ向けた自発的な取組の促進を図ることを目的として、「上場企業及び機関投資家等における地方創生SDGsに関する調査」(上場企業を対象にSDGsの取組状況や関心度等を調査)を行い、その結果を分析したうえ取組事例について情報発信し普及展開を図った。

加えて、SDGs未来都市等における取組の国内外へ向けた普及展開や都市間ネットワークの形成を目的として、令和2年1月に「地方創生SDGs国際フォーラム2020」を開催した。

誰もが身近に自然とふれあえる快適な環境の形成を図るため、歩いていける範囲の身近な公園を始めとした都市公園等の計画的な整備を行っている。

また、河川等では、高齢者にとって憩いと交流の場を提供する役割を果たしている。

地方創生の観点から「生涯活躍のまち」の取組を推進しており、令和2年2月現在で366の地方公共団体が「生涯活躍のまち」に取り組む意向を示しているとともに、102団体が「生涯活躍のまち」に関する構想等を策定しているところ。

こうした多くの自治体に対し、アウトリーチによる伴走支援を行うとともに、「生涯活躍のまちアドバイザー」の養成等を通じて、広域的な支援体制の構築に努めていることに加え、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」や地方版総合戦略の策定に向け、地方公共団体職員・事業者を対象とした「生涯活躍のまち」に関する全国会議を開催し、「生涯活躍のまち」の参考となる事例やノウハウ等の周知に努めた。

また、「地域再生法」(平成17年法律第24号)に基づく特例措置に係る「生涯活躍のまち」の地域再生計画の認定は、累計で25市町となっており、各地で特色のある「生涯活躍のまち」の形成が進んでいる。

さらに、今後の取組を加速させるため、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において「生涯活躍のまち」の位置付けを見直し、抜本的な強化を図ることとした。具体的には、これまで中高年齢者の移住に重点が置かれていた「生涯活躍のまち」について、全世代を対象とし、制度の縦割りを超え、誰もが居場所と役割を持つ「ごちゃまぜ」のコミュニティづくりを推進する施策としてその位置付けを抜本的に見直す等の取組を推進することとしている。

ウ 公共交通機関等の移動空間のバリアフリー化
(ア)バリアフリー法に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進

公共交通機関のバリアフリー化については、バリアフリー法に基づき、公共交通事業者等に対して、鉄道駅等の旅客施設の新設若しくは大規模な改良又は車両等の新規導入に際しての公共交通移動等円滑化基準への適合義務、既設の旅客施設・車両等に対する適合努力義務を定めるとともに、平成30年10月に告示された「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、令和2年度末までの整備目標を定めている。「交通政策基本法」(平成25年法律第92号)に基づく「交通政策基本計画」(平成27年2月閣議決定)においても、バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の1つとして掲げており、これらを踏まえながらバリアフリー化の更なる推進を図っている。

(イ)ガイドライン等の策定

公共交通機関の旅客施設、車両等について、ガイドライン等でバリアフリー化整備の望ましい在り方を示し、公共交通事業者等がこれを目安として整備することにより、利用者にとってより望ましい公共交通機関のバリアフリー化が進むことが期待される。そのため、旅客施設、車両等について令和元年10月及び令和2年3月に必要な見直しを行った「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」、「公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン」に基づきそれぞれバリアフリー化を進めている。また、旅客船については令和2年3月に必要な見直しを行った「旅客船バリアフリーガイドライン」、ユニバーサルデザインタクシーについては、令和2年3月に必要な見直しを行った「標準仕様ユニバーサルデザインタクシー認定要領」、ノンステップバスについては、平成27年7月に必要な見直しを行った「標準仕様ノンステップバス認定要領」、航空旅客ターミナルについては、平成30年10月に必要な見直しを行った空港旅客施設バリアフリーガイドラインによって更なるバリアフリー化の推進を図っている。

(ウ)公共交通機関のバリアフリー化に対する支援

高齢者の移動等円滑化を図るため、駅・空港等の公共交通ターミナルのエレベーターの設置等の高齢者の利用に配慮した施設の整備、ノンステップバス等の車両の導入等を推進している(表2-2-16)。

表2-2-16 高齢者等のための公共交通機関施設整備等の状況

(1)旅客施設のバリアフリー化の状況(注)

  1日当たりの平均利用者数
3,000人以上の旅客施設数
平成30年度末 1日当たりの平均利用者数
3,000人以上かつトイレを
設置している旅客施設数
平成30年度末
段差の解消 視覚障害者
誘導用ブロック
障害者用トイレ
鉄軌道駅 3,586 3,241(90.4%) 3,397(94.7%) 3,343 2,901(86.8%)
バスターミナル 47 44(93.6%) 45(95.7%) 40 30(75.0%)
旅客船ターミナル 14 14(100%) 11(78.6%) 12 11(91.7%)
航空旅客ターミナル 37 32(86.5%) 36(97.3%) 37 34(91.9%)
(注)バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)に基づく公共交通移動等円滑化基準に適合するものの数字。

(2)車両等のバリアフリー化の状況

  車両等の総数 平成30年度末移動等円滑化
基準に適合している車両等
鉄軌道車両 52,673 38,564(73.2%)
ノンステップバス
(適用除外認定車両を除く)
46,872 27,574(58.8%)
リフト付きバス
(適用除外認定車両)
13,530 696(5.1%)
旅客船 666 308(46.2%)
航空機 655 643(98.2%)
(注)「移動等円滑化基準に適合している車両等」は、各車両等に関する公共交通移動等円滑化基準への適合をもって算定。

(3)福祉タクシーの導入状況(ユニバーサルデザインタクシーを含む)

平成30年度末 28,602両
(タクシー車両総数 233,470両(平成29年度末))
※法人、個人事業者及び福祉輸送限定事業者の車両数の合計
資料:国土交通省

このための推進方策として、鉄道駅等旅客ターミナルのバリアフリー化、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシーを含む福祉タクシーの導入等に対する支援措置を実施している。

(エ)歩行空間の形成

移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう、信号機、歩道等の交通安全施設等の整備を推進した。

高齢歩行者等の安全な通行を確保するため、①幅の広い歩道等の整備、②歩道の段差・傾斜・勾配の改善、③無電柱化推進計画に基づく道路の無電柱化、④エレベーター等の付いた立体横断施設の設置、⑤歩行者用案内標識の設置、⑥歩行者等を優先する道路構造の整備、⑦自転車道等の設置による歩行者と自転車交通の分離、⑧生活道路における速度の抑制及び通過交通の抑制・排除並びに幹線道路における交通流の円滑化を図るための信号機、道路標識、道路構造等の重点的整備、⑨バリアフリー対応型信号機の整備、⑩歩車分離式信号の運用、⑪見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備、⑫信号灯器のLED化等の対策を実施した。

また、新設又は改築を行う際に道路移動等円滑化基準に適合させなければならない特定道路の指定を拡大し、全国の主要鉄道駅周辺等の道路のユニバーサルデザイン化を推進した。

生活道路において、区域を設定して最高速度30km/hの区域規制を実施するとともにその他の安全対策を必要に応じて組み合わせた「ゾーン30」の整備や、路側帯の設置・拡幅、ハンプ設置等の道路整備等、ソフトとハードが連携した歩行者・自転車利用者の交通安全対策を推進した。

さらに、積雪や凍結に対し、鉄道駅周辺や中心市街地等の特に安全で快適な歩行空間の確保が必要なところにおいて、歩道除雪の充実、消融雪施設等のバリアフリーに資する施設整備を実施した。

(オ)道路交通環境の整備

高齢者等が安心して自動車を運転し外出できるよう、生活道路における交通規制の見直し、付加車線の整備、道路照明の増設、道路標識・道路標示の高輝度化、信号灯器のLED化、「道の駅」における優先駐車スペース、高齢運転者等専用駐車区間の整備等の対策を実施した。

(カ)バリアフリーのためのソフト面の取組

国民一人ひとりがバリアフリーについての理解を深めるとともに、高齢者、障害者等の困難を自らの問題として認識し、自然に快くサポートできるよう、高齢者、障害者等の介助体験・擬似体験等を内容とする「バリアフリー教室」の開催や目の不自由な方への声かけや列車内での利用者のマナー向上を図る「声かけ・サポート運動」といった啓発活動等ソフト面での取組を推進している。また、高齢者や障害者等に対する交通事業者による統一された一定水準の接遇を確保するため、「接遇研修モデルプログラム」を活用した研修実施の推進を図った。

高齢者や障害者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援施策を推進している。「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」においてとりまとめられた提言を踏まえ、施設や経路のバリアフリー情報等の移動に必要なデータを多くの方の参加により効率的に収集する新たな手法等の検討を実施した。また、屋内外シームレスな移動支援サービスの普及を促進するため、渋谷駅において民間主体による屋内電子地図、測位環境の整備を支援し、民間アプリを活用した屋内外シームレスなナビゲーションサービスの実証実験を実施した。

(キ)訪日外国人旅行者の受入環境整備

訪日外国人旅行者の移動円滑化を図るため、エレベーター・スロープ等の設置等を、補助制度により支援した。

エ 建築物・公共施設等のバリアフリー化

バリアフリー法に基づく認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)のうち一定のものの整備に対して支援措置を講じることにより、高齢者・障害者等が円滑に移動等できる建築物の整備を促進している(図2-2-17、図2-2-18)。

図2-2-17 バリアフリー化された建築物のイメージ

窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保等により、高齢者を始めすべての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。

社会資本整備総合交付金等の活用によって、誰もが安全で安心して利用できる都市公園の整備を推進している。また、都市公園については、バリアフリー法に基づく基準等により、主要な園路の段差の解消、車いすでも利用可能な駐車場やトイレの設置等、公園施設のバリアフリー化を推進している。

また、訪日外国人旅行者が我が国を安心して旅行できる環境を整備するため、訪日外国人旅行者の来訪が特に多い、又はその見込みのあるものとして観光庁が指定する市区町村に係る観光地における代表的な観光スポットにおける段差の解消を支援している。

オ 活力ある農山漁村の再生

社会福祉法人等による高齢者を対象とした生きがい及びリハビリを目的とした農園の整備等を支援した。

さらに、都市にも開かれた美しくゆとりある農山漁村空間の創出を図った。

また、高齢者等による農作業中の事故が多い実態を踏まえ、高齢農業者への安全指導体制を強化する観点から、高齢農業者を対象とした安全啓発活動や高齢農業者が所有する農業機械の点検等の取組を支援するとともに、農作業安全の全国運動を実施した。

加えて、「漁港漁場整備法」(昭和25年法律第137号)に基づき策定された「漁港漁場整備長期計画」(平成29年3月閣議決定)を踏まえ、防風・防暑・防雪施設や浮き桟橋等の就労環境の改善に資する施設整備を実施した。

(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護

ア 交通安全の確保

近年、交通事故における致死率の高い高齢者の人口の増加が、交通事故死者数を減りにくくさせる要因の一つとなっており、今後、高齢化が更に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全対策は重点的に取り組むべき課題である。

高齢者にとって安全で安心な交通社会の形成を図るため、平成28年3月に中央交通安全対策会議で決定した「第10次交通安全基本計画」(計画期間:平成28~令和2年度)等に基づき、①生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備、②参加・体験・実践型の交通安全教育、③交通安全教育を受ける機会の少ない高齢者を対象とした個別指導、④シルバーリーダー(高齢者交通安全指導員)を対象とした交通安全教育、⑤高齢運転者対策等の交通安全対策を実施した。

また、歩行中及び自転車乗用中の交通事故死者に占める高齢者の割合が高いことを踏まえ、歩行者及び自転車利用者の交通事故が多発する交差点等における交通ルール遵守の呼び掛けや、「自転車活用推進計画」(平成30年6月閣議決定)に基づいた自転車道や自転車専用通行帯、自転車の通行位置を示した路面表示等の自転車通行空間の整備等により、自転車利用環境の総合的な整備を推進した。

さらに、踏切道の歩行者対策として「踏切安全通行カルテ」により、踏切道の現状を「見える化」しつつ、「踏切道改良促進法」(昭和36年法律第195号) に基づき、地方踏切道改良協議会を活用し、道路管理者と鉄道事業者が、地域の実情に応じた対策を実施し、高齢者等の通行の安全対策を推進した。

このほか、高齢運転者対策については、高齢運転者による交通事故、子供が犠牲となる交通事故が相次いで発生したことを踏まえ、令和元年5月21日に「昨今の事故情勢を踏まえた交通安全対策に関する関係閣僚会議」が開催され、内閣総理大臣から「高齢者の安全を支える対策の更なる推進」、「高齢者の移動を伴う日常生活を支える施策の充実について、新たな技術の進展等も考慮しつつ、一層強力に推進」等について対策を早急に講じるよう指示があった。これを受け、関係省庁の局長級を構成員とするワーキングチームを設置し、連携して対策をとりまとめ、同年6月18日に「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策」を同関係閣僚会議において決定した。緊急対策に盛り込まれた各種対策について担当省庁を中心に強力に推進した。

高速道路での逆走事故対策として、行き先を間違えた車に対する安全・適切な誘導や平成30年度に民間企業から公募・選定した逆走対策技術を積極的に展開した。さらに画像認識技術等を活用した路車連携技術の開発を推進するため、東北道旧蓮田サービスエリアに試験コースを設置し、実験を開始した。

高齢運転者の交通事故防止対策に関する検討を行うため、有識者による「高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究」分科会を開催し、高齢運転者の運転免許証の更新時における運転技能の確認や、安全運転サポート車を前提とする限定免許の導入等、高齢運転者の運転免許制度の在り方について検討した。

また、現在は、運転免許証の更新を予定している70歳以上の高齢運転者を対象とした高齢者講習において、運転適性検査の項目の一つとして、水平方向の視野検査を実施しているものの、これまでの調査研究により、高齢者に多くみられる緑内障等の病気は上下方向を含めた視野全体に影響を与え、これが安全な運転に影響を与えていることが明らかとなったことから、高齢者講習で使用することができる運転適性検査器材として、視野の欠損状況を面的に測定する視野検査器を加えた。

さらに、「運転適性相談」においては、これまでも運転に不安を持つ運転者及びその家族等からの相談に対応してきたところであるが、近年は特に高齢運転者及びその家族等から積極的に相談を受け付け、安全運転の継続に必要な助言・指導や、自主返納制度及び自主返納者等に対する各種支援施策の教示を行う等、運転適性に関する相談対応以外の役割も求められるようになっている。

このため、運転適性相談の名称をより親しみやすい「安全運転相談」に改めるとともに、令和元年11月22日からは、全国統一の専用相談ダイヤル「#8080」を導入し、安全運転相談の認知度及び利便性の向上を図った。

イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護
(ア)犯罪からの保護

高齢者が犯罪や事故に遭わないよう、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、高齢者が被害に遭いやすい犯罪の手口の周知及び被害防止対策についての啓発を行うとともに、必要に応じて関係機関や親族への連絡を行ったほか、認知症等によって行方不明になる高齢者を発見、保護する体制づくりを関係機関等と協力して推進した。

高齢者を中心に大きな被害が生じている特殊詐欺については、令和元年6月、犯罪対策閣僚会議において策定した「オレオレ詐欺等対策プラン」に基づき、全府省庁において、幅広い世代に対して高い発信力を有する著名な方々と連携し、公的機関、各種団体、民間事業者等の協力を得ながら、家族の絆の重要性等を訴える広報啓発活動を多種多様な媒体を活用して展開する等被害防止対策を推進するとともに、電話転送サービスを介した固定電話番号の悪用への対策を始めとする犯行ツール対策、効果的な取締り等を推進した。

また、悪質商法の中には高齢者をねらった事件も発生したことから、悪質商法の取締りを推進するとともに、犯罪に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供等の被害拡大防止対策、悪質商法等からの被害防止に関する広報啓発活動及び悪質商法等に関する相談窓口の周知を行った。

さらに、特殊詐欺や利殖勧誘事犯の犯行グループは、被害者や被害者になり得る者等が登載された名簿を利用しており、当該名簿登載者の多くは高齢者であって、今後更なる被害に遭う可能性が高いと考えられるため、捜査の過程で警察が押収したこれらの名簿をデータ化し、都道府県警察が委託したコールセンターの職員がこれを基に電話による注意喚起を行う等の被害防止対策を実施した。

加えて、今後、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加していく状況を踏まえ、市民を含めた後見人等の確保や市民後見人の活動を安定的に実施するための組織体制の構築・強化を図る必要があることから、平成30年度に引き続き、市町村において地域住民で成年後見に携わろうとする者に対する養成研修や後見人の適正な活動が行われるよう支援した。

(イ)人権侵害からの保護

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成17年法律第124号)に基づき、前年度の養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態・対応状況の把握に努めるとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行う等、高齢者虐待への早期対応が推進されるよう必要な支援を行った。

なお、支援を必要とする高齢者の実態把握や虐待への対応等、高齢者の権利擁護や総合相談窓口の業務を円滑に行うことができるよう、各市町村に設置された「地域包括支援センター」の職員に対する研修については、引き続き実施した。

法務局・地方法務局等において、高齢者の人権問題に関する相談に応じるとともに、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行い、その結果を踏まえ、事案に応じた適切な措置を講じる等して、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努めている。令和元年度においても、引き続き高齢者施設等の社会福祉施設において入所者等及び家族が気軽に相談できるよう、特設相談所を開設する等、相談体制の強化を図った。

(ウ)悪質商法からの保護

独立行政法人国民生活センターでは、全国の消費生活センター等が行う高齢者の消費者被害防止に向けた取組を支援すること等を目的に、高齢者への注意喚起として報道発表資料「60歳以上の消費者トラブルが40万件を突破!-トラブルの現状を知って、被害を防ぎましょう-」を令和元年9月に公表した。

平成28年4月から施行された消費者安全法の改正を一部内容とする「不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律」(平成26年法律第71号)により、地方公共団体において設置されることが可能となった消費者安全確保地域協議会について、設置を促進した。徳島県での先駆的な施策推進を図るための実証プロジェクトにおいて、徳島県下の消費者安全確保地域協議会設置自治体の取組事例の作成及び公表を行い、徳島モデルとして各地域における見守りネットワーク設置推進に向け取り組んだ。消費者安全確保地域協議会設置の手引きの作成及び公表を行い、設置促進を図った。

消費者がトラブルに見舞われたとしても、相談窓口の存在に気付かなかったり、相談窓口があることは知っていたとしても、その連絡先が分からないことがあるため、消費者庁では、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながる共通の電話番号である「消費者ホットライン」の事業を平成22年1月から実施している。平成27年7月1日からは、高齢者にとってもより覚えやすいものとなるよう3桁の電話番号「188」番での運用を開始した。また、イメージキャラクター「イヤヤン」の制作及び関連グッズの配布、新たに「5月18日」を「消費者ホットライン188の日(いややの日)」に制定し、PRイベントを行う等、様々な広報活動を通じて同ホットラインの周知に取り組んでいる。

さらに、消費者トラブルに遭うリスクの高い高齢者等の被害防止のため、地方消費者行政強化交付金等を通じて、消費生活相談体制の整備や地域の見守りネットワークの推進等に向けた地方公共団体の取組を支援している。

また、消費者側の視点から注意点を簡潔にまとめたメールマガジン「見守り新鮮情報」を月2回程度、行政機関のほか、高齢者や高齢者を支援する民生委員や福祉関係者等に向けて配信した。

「令和元年版消費者白書」において、高齢者の消費生活相談の状況や、高齢者が巻き込まれる主なトラブルの例を取り上げ、広く国民や関係団体等に情報提供を行った。

令和元年6月に施行された「消費者契約法の一部を改正する法律」(平成30年法律第54号)により、加齢又は心身の故障による判断力の低下を不当に利用して契約を締結させた場合の取消権等が追加されたことを踏まえ、周知活動を行った。

(エ)司法ソーシャルワークの実施

日本司法支援センター(法テラス)では、法的問題を抱えていることに気付いていなかったり、意思の疎通が困難である等の理由で自ら法的援助を求めることが難しい高齢者・障害者に対して、地方公共団体、福祉機関・団体や弁護士会、司法書士会等と連携を図りつつ、当該高齢者・障害者に積極的に働きかける(アウトリーチ)等して、法的問題を含めた諸問題を総合的に解決することを目指す「司法ソーシャルワーク」を推進している。

そこで、弁護士会・司法書士会と協議をして出張法律相談等のアウトリーチ活動を担う弁護士・司法書士を確保する等、「司法ソーシャルワーク」の実施に必要な体制の整備を進めるとともに、地域包括支援センターや福祉事務所等の福祉機関職員を対象に業務説明会や意見交換会を実施する等して、福祉機関との連携強化を図った。

なお、法テラスの設置根拠法である「総合法律支援法」(平成16年法律第74号)の改正を受け、平成30年1月24日から、認知機能が十分でなく、法的サービスを自発的に求めることが期待できない方に対して、資力にかかわらず出張法律相談を実施する事業(特定援助対象者法律援助事業)を実施している。

ウ 防災施策の推進

病院、老人ホーム等の要配慮者利用施設を保全するため、土砂災害防止施設の整備を第4次社会資本整備重点計画に基づき重点的に実施するとともに、激甚な水害・土砂災害を受けた場合の再度災害防止対策を引き続き実施した。

災害時における高齢者等要配慮者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、「要配慮者利用施設における避難に関する計画作成の事例集」を周知したとともに、高齢者が災害時に適切な避難行動をとれるよう、「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」を踏まえ、防災・減災への取組実施機関と地域包括支援センター・ケアマネジャーが連携し高齢者の避難行動に対する理解促進を図った。

「水防法」(昭和24年法律第193号)に基づき市町村地域防災計画に名称及び所在地を定められた高齢者等が利用する要配慮者利用施設の所有者又は管理者における避難確保計画の作成及び計画に基づく訓練の実施を推進するため、要配慮者利用施設の施設管理者等を対象とした講習会を通じて避難確保計画作成の促進を図る「講習会プロジェクト」を全国に展開した。

土砂災害に対して、高齢者等要配慮者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)において、土砂災害警戒区域内に位置し、市町村地域防災計画に名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成及び計画に基づく訓練の実施を義務づけており、避難確保計画が早期に作成されるよう促進を図っている。また、土砂災害・全国防災訓練では、住民等が主体となり要配慮者利用施設等が連携し地域の実情にあわせた避難訓練等を重点的に実施した。

さらに、土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の建築の許可制等を通じて高齢者等の安全が確保されるよう、土砂災害防止法に基づき基礎調査や区域指定の促進を図った。

住宅火災で亡くなる高齢者等の低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動において、高齢者等の要配慮者の把握や安全対策等に重点を置いた死者発生防止対策を推進項目とするとともに、住宅用火災警報器や防炎品、住宅用消火器の普及促進等総合的な住宅防火対策を推進した。また、「敬老の日に『火の用心』の贈り物」をキャッチフレーズとする「住宅防火・防災キャンペーン」を実施し、高齢者等に対して住宅用火災警報器等の普及促進を図った。

災害情報を迅速かつ確実に伝達するため、全国瞬時警報システム(Jアラート)との連携を含め、防災行政無線による放送(音声)や緊急速報メールによる文字情報等の種々の方法を組み合わせて、災害情報伝達手段の多様化を推進した。

山地災害からの生命の安全を確保するため、要配慮者利用施設に隣接している山地災害危険地区等について、治山施設の設置や荒廃した森林の整備等を計画的に実施した。

平成25年6月に「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)を改正し、高齢者や障害者等の要配慮者のうち災害発生時の避難に特に支援を要する者について「避難行動要支援者名簿」の作成を市町村長に義務づけるとともに、この名簿を消防機関や民生委員等の地域の支援者に情報共有するための制度を設けた。

これを受けて同年8月に「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を策定・公表した。令和元年度においても、各市町村における名簿の作成状況等を把握するための調査を行った。

災害時の避難行動への支援については、災害対策基本法、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を踏まえ、市町村の取組が促進されるよう、適切に助言を行った。

エ 東日本大震災への対応

東日本大震災に対応して、復興の加速化を図るため、被災した高齢者施設等の復旧に係る施設整備について、国庫補助率の引上げ等を行い、その復旧に要する経費の一部を助成した。

また、地域医療介護総合確保基金等を活用し、日常生活圏域で医療・介護等のサービスを一体的・継続的に提供する「地域包括ケア」の体制を整備するため、都道府県計画等に基づき、地域密着型サービス等、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行った。

あわせて、介護保険において、被災者を経済的に支援する観点から、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う帰宅困難区域等(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域の3つの区域をいう。)、上位所得層を除く旧避難指示区域等(平成25年度以前に指定が解除された旧緊急時避難準備区域等(特定避難勧奨地点を含む。)、平成26年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域等(田村市の一部、川内村の一部及び南相馬市の特定避難勧奨地点)、平成27年度に指定が解除された楢葉町の旧避難指示解除準備区域及び平成28年度に指定が解除された居住制限区域等(居住制限区域及び避難指示解除準備区域で、平成28年度に指定が解除された葛尾村の一部、川内村の一部、南相馬市の一部、飯舘村の一部、川俣村の一部、浪江町の一部及び平成29年4月1日に指定が解除された富岡町の一部をいう。)の4つの区域等をいう。)の住民について、介護保険の利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を1年間継続した。

また、避難指示区域等の解除に伴い、福祉・介護サービスの提供体制を整えるため、平成30年度に引き続き、介護施設等への就労希望者に対する就職準備金の貸付や全国の介護施設等からの応援職員の確保に対する支援、介護施設等の運営に対する支援等を行った。

日本司法支援センター(法テラス)では、平成24年度から引き続き、震災により、経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者を支援するため、震災以降の取組を継続し、「震災 法テラスダイヤル」(フリーダイヤル)や被災地出張所における業務の適切な運用を行う等、生活再建に役立つ法制度等の情報提供及び民事法律扶助を実施した。

被災地出張所は、弁護士のいる都市部への移動が困難な高齢者を始めとする被災者に対する法的支援の拠点として、平成24年度までに7か所(岩手県2か所、宮城県3か所、福島県2か所)設置されたが、上記の業務に加えて、出張所に来所することが困難な被災者のために、車内で相談対応可能な自動車を利用した仮設住宅等での巡回相談も実施した。

また、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」(平成24年法律第6号)に基づき、東日本大震災法律援助事業(東日本大震災に際し災害救助法(昭和22年法律第118号)が適用された市町村の区域(東京都を除く。)に平成23年3月11日において住所等を有していた者の法的トラブルについて、その者の資力状況にかかわらず、無料で法律相談を行う法律相談援助、震災に起因する紛争に関する弁護士・司法書士の費用等の立替え等を行う代理援助・書類作成援助に係る業務)を実施した。

(4)成年後見制度の利用促進

認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度について周知を図った(表2-2-19)。

表2-2-19 成年後見制度の概要
○ 制度の趣旨

本人の意思や自己決定の尊重、ノーマライゼーション等の理念と本人の保護の理念との調和を図りつつ、認知症等の精神上の障害により判断能力が不十分な方々の権利を擁護する。

○ 概要

法定後見制度と任意後見制度の2つがある。法定後見制度については、各人の多様な判断能力の程度に応じた制度とするため、補助・保佐・後見の三類型に分かれている。

(1)法定後見制度(民法)

3類型 補助 保佐 後見
対象者 判断能力が不十分な方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が欠けているのが
通常の状態の方

(2)法定後見制度の充実(民法)

社会福祉協議会等の法人や複数の者が成年後見人等となることを認め、また成年後見人等の権限の濫用を防止するために監督体制の充実を図っている。

(3)任意後見制度(任意後見契約に関する法律)

自分の判断能力が低下する前に、公正証書によって、本人が選ぶ後見人(任意後見人)に将来の財産管理を委ね、その財産に関する法律行為についての代理権を付与する旨の任意後見契約を締結することができる。

(4)成年後見登記制度(後見登記等に関する法律)

本人のプライバシー保護と取引の安全との調和を図る観点から、戸籍への記載に代わる公示方法として成年後見登記制度を設けている。

資料:法務省

成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある者を支える重要な手段であり、その利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、平成28年4月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)が成立し、本法律に基づき、「成年後見制度利用促進委員会」における議論を踏まえ、平成29年3月に「成年後見制度利用促進基本計画」を閣議決定した。基本計画には、利用者がメリットを実感できる制度、運用の改善、権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり、不正防止の徹底と利用しやすさとの調和等の観点からの施策目標を盛り込んでおり、その総合的かつ計画的な推進に取り組んだ。また、各施策が着実に推進されるよう基本計画に係るKPI(成果指標)を令和元年5月に設定するとともに、同年度は基本計画の中間年度に当たることから、各施策の進捗状況を踏まえ、個別の課題の整理・検討を行った。

また、成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく措置として、成年被後見人及び被保佐人(以下「成年被後見人等」という。)の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等に係る欠格条項その他の権利の制限に係る措置の撤廃等を盛り込んだ関係法案を国会に提出し、令和元年12月までに成立した。

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