第2章 令和元年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 5)
第2節 分野別の施策の実施の状況(5)
5 研究開発・国際社会への貢献等
「高齢社会に対応した市場の活性化と調査研究推進のための基本的施策」については、高齢社会対策大綱において、次の方針を示している。
先進技術を生活の質の向上に活用することは、高齢者の豊かな生活につながるとともに、新たな技術に対する需要・消費を生み出し、技術活用の好循環を生み出す。高齢社会と技術革新がお互いに好影響を与える関係づくりを推進する。
科学技術の研究開発は、高齢化に伴う課題の解決に大きく寄与するものであることから、高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究、高齢者の利用に配慮した福祉用具、生活用品、情報通信機器等の研究開発等を推進するとともに、そのために必要な基盤の整備を図る。また、高齢社会の現状やニーズを適切に把握して施策の検討に反映できるよう、ビッグデータ分析など、データ等の活用についても環境整備を図る。
世界でも急速な高齢化に直面している国が増加していることから、我が国の高齢社会対策の知見や研究開発成果を国際社会に発信し、各国がより良い高齢社会を作ることに政府のみならず、学術面や産業面からも貢献できるよう環境整備を行う。あわせて、高齢社会の課題を諸外国と共有し、連携して取組を進める。
(1)先進技術の活用及び高齢者向け市場の活性化
公的保険外の予防・健康管理サービス等の「健康寿命延伸産業」の創出推進に向け、需要・供給の両面から検討し、取組を進めた。具体的には、地域版次世代ヘルスケア協議会の活動の促進、官民ファンドの活用促進、グレーゾーンの解消等の供給面の支援及び企業・健保等による健康経営の促進等の需要面の支援について検討を行った。また医療・介護関係機関と民間企業の連携のもとで具体的なヘルスケアサービスのビジネスモデル創出を支援した。このような取組みに加えて、健康立国に向けて、認知症、虚弱(フレイル)等の健康課題や生活環境等に起因・関連する課題の解決のために、「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)で提唱したSociety 5.0の構築を目指した、最先端科学技術の活用、実装に取り組んだ。
高齢者等が安全で快適に移動できるよう、最先端の情報通信技術等を用いて、運転者に周辺の交通状況や信号灯火に関する情報等を提供することで注意を促し、ゆとりをもった運転ができる環境を作り出す信号情報活用運転支援システム(TSPS)やETC2.0等のITS(高度道路交通システム)のサービス展開を実施した。
高齢者事故対策や移動支援等の諸課題の解決に大きな期待がされている自動車の自動運転に関して、「国土交通省自動運転戦略本部」を立ち上げ、高齢者事故対策を目的とした自動運転技術の開発及び普及促進策や、中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実験・実装に向けた取組を実施し、令和元年11月から秋田県の道の駅「かみこあに」において、自動運転サービスを本格導入した。
また、自動車の自動運転の実用化に向けて、路側インフラやクラウド等を活用した信号情報や合流支援情報の提供等のITSに関する研究開発を実施した。
他方、令和元年5月には、いわゆるSAEレベル3の自動運転を対象とした改正道路交通法(令和元年法律第20号)が成立し、自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定が整備された。また、自動運転車のための専用空間の在り方や、路車連携技術等を含む自動運転に対応した道路空間の基準・制度等について検討を行った。
さらに、介護ロボットについては、自立支援等による高齢者の生活の質の維持・向上と介護者の負担軽減を実現するため、現場のニーズを真に汲み取った開発等を促進しており、令和元年度は、前年度に引き続き平成29年10月に拡充した開発重点分野に対して支援を実施した。
(2)研究開発等の推進と基盤整備
ア 高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究等
高齢者の健康保持等に向けた取組を一層推進するため、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)、要介護状態になる要因である認知症等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を行っている。
高齢期の主要な死因であるがんの対策については、「がん対策基本法」(平成18年法律第98号)に基づく「がん対策推進基本計画」により推進してきた。平成30年3月には、「がん予防」、「がん医療の充実」、「がんとの共生」の3つを柱とした第3期のがん対策推進基本計画を策定し、がんゲノム医療の実現や希少がん、難治性がん対策の充実、がん患者の就労支援の推進等、各分野の対策を進めるとともに、これらを支える基盤として、「がん研究」、「人材育成」及び「がん教育・がんに関する知識の普及啓発」を位置づけ、総合的ながん対策を進めている。がん研究については、がん対策推進基本計画に基づき策定された「がん研究10か年戦略」(平成26年3月策定)を踏まえ、がん対策推進基本計画に明記されている政策課題の解決に向けた政策提言に資することを目的とした調査研究等に加えて、革新的な診断法や治療法を創出するため、低侵襲性診断技術や早期診断技術の開発、新たな免疫療法に係る研究等について、戦略的に研究開発を推進している。また、小児がんや高齢者のがん、難治性がん、希少がん等、ライフステージや個々の特性に着目したがん研究を強力に推進することによりライフステージ別のニーズに応じたがん医療の提供を目指し、研究を進めている。
平成31年1月より、「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」を開催し、これまでのがん研究の評価や今後のあるべき方向性等を議論し、同年4月に「「がん研究10か年戦略」の推進に関する報告書(中間評価)」をとりまとめた。今後、中間評価を踏まえ、科学技術の進展や臨床ニーズに見合った研究を推進していく。
イ 医療・リハビリ・介護関連機器等に関する研究開発
高齢者等の自立や社会参加の促進及び介護者の負担の軽減を図るためには、高齢者等の特性を踏まえた福祉用具や医療機器等の研究開発を行う必要がある。
そのため、福祉用具及び医療機器については、福祉や医療に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進、短期間で開発可能な福祉用具・医療機器の民間による開発の支援等を行っている。
また、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(平成5年法律第38号)に基づき、福祉用具の実用化開発を行う事業者に対する助成や、研究開発及び普及のために必要な情報の収集・分析及び提供を実施した。
開発の前段階から介護現場のニーズの伝達、試作機器について介護現場での実証(モニター調査)等を行い、福祉用具・介護ロボットの実用化を支援した。
また、ロボット技術や診断技術等を活用して、低侵襲の治療装置や早期に疾患を発見する診断装置等、日本発の、国際競争力の高い革新的医療機器・システムの開発・実用化を図った。また、関係各省や関連機関、企業、地域支援機関が連携し、開発初期段階から事業化に至るまで、切れ目なく支援する「医療機器開発支援ネットワーク」を通じて、異業種参入も念頭に、ものづくり中小企業と医療機関等との医工連携により、医療現場が抱える課題を解決する医療機器の開発・実用化を支援した。こうした事業を国立研究開発法人日本医療研究開発機構を通じて実施した。
ウ 情報通信の活用等に関する研究開発
高齢者等が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため、高齢者等向けの通信・放送サービスに関する技術の研究開発を行う者に対する助成等を行った。
エ 医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進
ICTを活用した医療・介護・健康分野のネットワーク化を一層推進するため、個人の生涯にわたる医療等のデータを時系列で管理し、本人の判断のもと多目的に活用する仕組み(PHR:Personal Health Record)におけるルール作りに資する調査事業を実施するとともに、AIを活用した保健指導システムの開発といった医療等分野における先導的なICT利活用の研究開発を実施した。
オ 高齢社会対策の総合的な推進のための調査分析
高齢社会対策総合調査として、高齢社会対策の施策分野別にテーマを設定し、高齢者の意識やその変化を把握している。令和元年度は、高齢者の経済生活について調査を実施した。
また、国立研究開発法人科学技術振興機構が実施する戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)において、少子高齢化を始めとする人口・社会構造の変化を踏まえた持続可能な都市・地域デザインの提示や、高齢者の安全・安心な生活の実現のための地域連携モデルの開発等、研究者と関与者との協働による社会実験を含む研究開発を推進した。
カ データ等活用のための環境整備
急速な人口構造の変化等に伴う諸課題に対応するため、令和元年6月に閣議決定した「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」に基づき、官民データの利活用を推進した。
「統計等データの提供等の判断のためのガイドライン」(平成30年4月27日EBPM推進委員会決定)に基づき、各府省による統計等データの提供等が円滑に行われるようEBPM推進委員会において必要な調整を行うとともに、統計等データの提供等に関するユーザーからの要望・提案募集及び受領した要望・提案への対応を引き続き実施する等、ユーザー視点に立った統計システムの再構築と利活用の促進を図った。
(3)諸外国との知見や課題の共有
ア 日本の知見の国際社会への展開
アジア健康構想の進捗に伴い、「アジア健康構想に向けた基本方針」(平成28年7月29日健康・医療戦略推進本部決定、平成30年7月改定)により、アジアの高齢化社会に必要な介護産業の振興、人材の育成等、アジア諸国の互恵的な協力による医療・介護を中心とした疾病の予防、健康な食事等のヘルスケアサービス、健康な生活のための街づくり等、アジアにおける裾野の広い「富士山型のヘルスケア」の実現に向け取り組んだ。また、アジア各国と日本の間で「アジア健康構想に係る政府間覚書」を作成し、事業ベースでの一層の協力に向けた環境の整備を推進した。
さらに、今後、人口が増加するとともに、アジアとの関係がより強化されることが期待されるアフリカに関し、令和元年6月、健康・医療戦略推進本部において「アフリカ健康構想に向けた基本方針」を決定した。同基本方針においても、アジア健康構想と同様、裾野の広い「富士山型のヘルスケア」の実現を理念として掲げ、アフリカ固有の課題を念頭に置いた持続可能なヘルスケアの構築を目指すこととした。
また、我が国は、G7、G20、TICAD、国連総会等の国際的な議論の場において、全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられることを指すユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進を積極的に主張してきた。UHCにおける基礎的な保健サービスには、母子保健、感染症対策、高齢者の地域包括ケアや介護等全てのサービスが含まれている。これまで開発途上国において高齢化対策や社会保障制度整備の支援、専門家の派遣、研修等の取組を通じ、日本の高齢化対策等に関する経験・知見の共有を図ってきた。
イ 国際社会での課題の共有及び連携強化
令和2年2月に「高齢者ケアの新機軸と介護職の役割」をテーマとする日独高齢化シンポジウムをドイツで開催した。
平成31年4月にニューヨークで行われた第52回国連人口開発委員会では、国連人口基金(UNFPA)等の国際機関・他国政府と共に、少子高齢化に関わるサイドイベントを共催した。同様に、令和元年8月、横浜で開催されたTICAD7の機会においても、特にアフリカにおける高齢化に焦点を当てたサイドイベントが開催された。令和元年6月、日本が初めて議長国を努めたG20大阪サミットの成果文書「大阪首脳宣言」では、「健康長寿の推進のため、イノベーションを活用した保健サービスの質の向上」等、高齢化対策への文言が盛り込まれた。さらに、令和元年10月のG20岡山保健大臣会合においては、G20保健大臣会合として初めて議題となった「高齢化への対応」について、加藤厚生労働大臣が日本の経験を各国と共有し、議論がなされた。本会合の成果文書としても、高齢化への対応を含め、必要な政策に言及した大臣宣言が採択された。この機会に併せ、記念事業として、UNFPAアジア太平洋地域事務所が主催となり、「持続可能な高齢化社会・経済のためのライフ・サイクル・アプローチ」のテーマでイベントも行われた。加えて、同年11月にケニアで開催された「ICPD25周年 ナイロビ・サミット」においても、「Preparing for Older World(高齢化に備える)」のセッションにおいて日本の知見が各国と共有された。
そして、平成31年2月にはフィリピン共和国保健省と、令和元年7月にはベトナム社会主義共和国保健省と、令和元年8月にはウガンダ共和国保健省、セネガル共和国保健・社会活動省、タンザニア連合共和国保健・村落開発・ジェンダー・高齢者・児童省、ガーナ共和国保健省、ザンビア共和国保健省との間でヘルスケア分野における協力覚書を交換し、我が国のアジア健康構想・アフリカ健康構想を通じ、各国との当該覚書に基づくヘルスケア分野における協力の深化を図り、民間事業の振興を図ることを確認した。さらに、令和元年10月には、平成30年10月にインド共和国保健家族福祉省との間で作成したヘルスケアと健康分野における協力覚書に基づく合同委員会を開催し、アジア健康構想とインドのアユシュマン・バーラット・プログラムとの相乗効果を目指すことを明確にするためのモデルプロジェクト候補の考え方等を確認した。