第3章 令和4年度高齢社会対策(第2節 1)

[目次]   [前へ]   [次へ]

第2節 分野別の高齢社会対策(1)

1 就業・所得

(1) エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備

ア  多様な形態による就業機会・勤務形態の確保
(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備

地域における高年齢者の多様な雇用・就業機会の創出を図るため、地方公共団体を中心とした協議会が行う高年齢者の就労支援の取組と地域福祉・地方創生等の取組を一体的に実施する仕組みの実証等を行う。

シルバー人材センター事業について、人手不足の悩みを抱える企業を一層強力に支えるため、シルバー人材センターによるサービス業等の人手不足分野や現役世代を支える分野での就業機会の開拓・マッチング等を推進するとともに、特に、介護分野の人材確保支援及び高年齢者の一層の活躍を促進し高年齢者の生きがいの充実、社会参加への促進等を図る。

また、高齢者を含め多様な人材の能力を最大限発揮させることにより、イノベーションの創出等の成果につなげるダイバーシティ経営を全国に普及させる取組を行う。

また、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けて、引き続き「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に基づく是正指導等により同法の着実な履行確保を図るとともに、パートタイム・有期雇用労働者の均等・均衡待遇の確保に向けた各企業の取組を支援するために、希望する企業に対し、職務分析・職務評価の意義や手法について丁寧に説明し、適切な助言を行うことができる体制を整備する。

加えて、企業における非正規雇用労働者の待遇改善等を支援するため、平成30年度より47都道府県に設置している「働き方改革推進支援センター」において、労務管理の専門家による個別相談支援やセミナー等を引き続き実施する。

さらに、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」制度の普及・拡大を図るため、オンラインセミナーを開催するとともに、企業に対し、「多様な正社員」制度導入支援員による導入支援を実施する。また、「多様な正社員」の一類型である「短時間正社員制度」についても、引き続き、制度導入・運用支援マニュアルや多様な働き方の実現応援サイトにより、制度の概要や企業の取組事例について周知を行っていく。

加えて、副業・兼業については、令和2年9月に改定したガイドライン等について、分かりやすい解説パンフレット、Q&Aの活用のほか、事業主や労働者を対象としたセミナー等の開催を通じた周知を行い、企業も労働者も安心して副業・兼業を行うことができる環境整備に努める。

(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の普及

テレワークが高齢者等の遠隔型勤務形態に資するものであることから、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を関係府省庁が連携して推進する。

ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方として、適正な労務管理下における良質なテレワークの導入・実施を進めていくことができるよう、令和3年3月に改定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」や、情報セキュリティに関するガイドラインの周知を図るとともに、企業等に対する労務管理や情報通信技術に関する専門家による相談対応やコンサルティングの実施、事業主を対象としたセミナー等の開催、中小企業を支援する団体と連携した全国的なテレワーク導入支援制度の構築、テレワークに先進的に取り組む企業等に対する表彰の実施、テレワーク導入経費の助成、「テレワーク月間」等の広報を実施する。

また、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握を行う。

イ 高齢者等の再就職の支援・促進

「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、交付を希望する高年齢離職予定者に求職活動支援書を交付しない事業主に対しては、公共職業安定所が必要に応じて指導・助言を行う。求職活動支援書の作成に当たって、ジョブ・カードを活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促す。

公共職業安定所において、特に65歳以上の高年齢求職者を対象に、本人の状況に即した職業相談や職業紹介、求人開拓等の支援を行う生涯現役支援窓口を設置するとともに、当窓口において、高年齢求職者を対象とした職場見学、職場体験等を実施する。

また、常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により一定期間試行雇用した事業主に対する助成措置(トライアル雇用助成金)や、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施する。

さらに、再就職が困難である高年齢者等の円滑な労働移動を実現するため、労働移動支援助成金により、離職を余儀なくされる高年齢者等の再就職を民間の職業紹介事業者に委託した事業主や、高年齢者等を早期に雇い入れた事業主、受け入れて訓練(OJTを含む。)を行った事業主に対して、助成措置を実施し、生産指標等により一定の成長性が認められる企業が、事業再編等を行う企業等から離職した者を雇い入れた場合の助成において、新型コロナウイルス感染症の影響により離職した45歳以上の者を離職前と異なる業種の事業主が雇い入れた場合の助成額の上乗せを引き続き行う。あわせて、中途採用者の能力評価、賃金、処遇の制度を整備した上で45歳以上の中高年齢者を初めて雇用した事業主に対して、60歳以上の高年齢者を初めて雇用した場合の助成額の上乗せも含めた助成措置を引き続き実施する。

また、高年齢退職予定者のキャリア情報等を登録し、その能力の活用を希望する事業者に対してこれを紹介する高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業を(公財)産業雇用安定センターにおいて実施し、高年齢者の就業促進を図る。

ウ 高齢期の起業の支援

日本政策金融公庫において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度により開業・創業の支援を行う。

日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)の融資制度(地域活性化・雇用促進資金)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用等を行う事業者に対しては、当該制度の利用に必要な雇用創出効果の要件を緩和(2名以上の雇用創出から1名以上の雇用創出に緩和)する措置を継続する。

エ 知識、経験を活用した高齢期の雇用の確保

高年齢者雇用安定法は、事業主に対して、高年齢者雇用確保措置を講ずる義務及び高年齢者就業確保措置を講ずる努力義務を定めており、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導等を実施するほか、高年齢者就業確保措置については、適切な措置の実施に向けた事業主への周知啓発を実施する。

また、令和3年4月から高年齢者就業確保措置が努力義務とされたことを踏まえ、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の高年齢者雇用アドバイザー及び65歳超雇用推進プランナーにより、高年齢者就業確保措置に関する技術的事項についての相談・援助を行う。

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第9条に基づき、労働者の一人一人により均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行う。

また、企業における高年齢者の雇用を推進するため、65歳以上の年齢までの定年延長や66歳以上の年齢までの継続雇用制度の導入又は他社による継続雇用制度の導入を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の見直し又は導入等や高年齢の有期雇用労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対する支援を実施する。また、継続雇用延長・定年引上げに係る具体的な制度改善提案を実施し、企業への働きかけを行う。

高年齢労働者が安心して安全に働ける職場づくりや労働災害の防止のため、エイジフレンドリーガイドラインの周知及び労働災害防止団体による個別事業場支援の利用勧奨を行う。また、高年齢労働者の安全・健康確保の取組を行う中小企業等に対し、エイジフレンドリー補助金による支援を行うことで、高年齢労働者の安全衛生対策を推進する。

公務部門における高齢者雇用において、国家公務員については、現行の「国家公務員法」に基づく再任用制度を活用し、65歳までの雇用確保に努めるとともに、特に雇用と年金の接続を図る観点から、「国家公務員の雇用と年金の接続について」に基づき、令和3年度の定年退職者等のうち希望者を対象として、公的年金の支給開始年齢まで原則再任用する等の措置を講じる。

地方公務員については、同閣議決定の趣旨を踏まえ、引き続き地方の実情に応じて必要な措置を講ずるよう各地方公共団体に対して必要な助言等を行う。

また、国家公務員の定年引上げについては、「国家公務員法等の一部を改正する法律」が令和5年4月に施行予定であり、定年の65歳までの段階的な引上げを見据えて、必要な準備を進める。

地方公務員の定年引上げについては、「地方公務員法の一部を改正する法律」が令和5年4月に施行予定であり、定年の65歳までの段階的な引上げを見据えて、各地方公共団体において円滑な実施ができるよう、必要な準備を進める。

オ  労働者の職業生活の全期間を通じた能力の開発

DXの加速化やカーボンニュートラルの対応など、労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化していくことが予想されるとともに、職業人生の長期化が同時に進行する中で、リスキリング・リカレント教育の重要性が高まっている。労働者がこうした変化に対応して、自らのスキルを向上させるためには、企業主導型の職業訓練の強化とともに、労働者がその意義を認識しつつ、自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを行うことが必要であり、こうした取組に対する広く継続的な支援が重要となる。このため、職業訓練の実施や職業能力の「見える化」を推進するとともに、職業生涯を通じたキャリア形成に向けて、労働者のキャリアプラン再設計や企業内の取組を支援するキャリア形成サポートセンターを整備し、労働者等及び企業に対しキャリアコンサルティングを中心とした総合的な支援を引き続き実施する。

また、在職中も含めた学びの促進のため、教育訓練休暇制度の普及促進を図るとともに、教育訓練給付制度の活用により、労働者個人の自発的な能力開発・キャリア形成を引き続き支援する。

また、職業訓練に地域のニーズを適切に反映する等のための協議会の設置等の内容を盛り込んだ「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第12号)が令和4年3月に成立したところであり、その円滑な施行に努める。

カ ゆとりある職業生活の実現等

仕事と生活の調和の実現のため、労働時間等設定改善指針の周知・啓発や、企業における働き方・休み方の改善に向けた検討を行う際に活用できる「働き方・休み方改善ポータルサイト」による情報発信等、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に向けた労使の自主的な取組の支援を行う。

(2) 誰もが安心できる公的年金制度の構築

ア  働き方の多様化や高齢期の長期化・就労拡大に対応した年金制度の構築

今後、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる。こうした社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、国民年金法等の一部を改正する法律が令和2年5月に成立したところであり、その円滑な施行に向けた取組を引き続き進めていく。

また、国民年金法等の一部を改正する法律の検討規定等には、被用者保険の更なる適用拡大や公的年金制度の所得再分配機能の強化等が盛り込まれており、次期制度改正に向け検討を進めていく。

イ 年金制度等の分かりやすい情報提供

短時間労働者等への被用者保険の適用拡大の円滑な施行に向け、適用拡大の対象者や適用拡大による被保険者のメリット等を含め、より積極的な周知・広報に努める。また、引き続き、若い人たちが年金について考えるきっかけにするため「学生との年金対話集会」や、「令和の年金広報コンテスト」の開催や、令和3年度に開発した若い世代向けの年金学習教材について中・高校生向けに更なる改善を行う。さらに、公的年金等を通じて、個々人の現在の状況と将来の見通しを全体として「見える化」するための仕組みである公的年金シミュレーターについて、令和4年4月に運用開始する。

また、「ねんきん定期便」については、老後の生活設計を支援するため、国民年金法等の一部を改正する法律による年金の繰下げ受給の上限年齢の引上げを踏まえた年金額増額のイメージ等について、分かりやすい情報提供を推進する。

(3) 資産形成等の支援

ア 資産形成等の促進のための環境整備

勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進する。

企業年金・個人年金制度に関して、国民年金法等の一部を改正する法律による確定拠出年金(DC)の加入可能年齢の引上げ、受給開始時期等の選択肢の拡大、脱退一時金の見直し及び企業型DC加入者の個人型DCiDeCo)加入の要件緩和並びに「令和3年度税制改正の大綱」において決定されたDCに係る拠出限度額の算定方法の見直しの着実な施行に努める。退職金制度については、中小企業における退職金制度の導入を支援するため、中小企業退職金共済制度の普及促進のための施策を実施する。

NISA(少額投資非課税)制度に関して、「所得税法等の一部を改正する法律」において、つみたてNISA(非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度)については期限を5年間延長、一般NISA(少額投資非課税制度)についてはより多くの国民に積立・分散投資による安定的な資産形成を促す観点から制度を見直した上で、令和6年から5年間の制度として措置、ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)については延長せず、新規の口座開設を令和5年までとすることとされた。引き続き、つみたてNISAの普及に努めるとともに、新しいNISA制度の周知広報を行っていく。

イ 資産の有効活用のための環境整備

住宅金融支援機構において、高齢者が住み替え等のための住生活関連資金を確保するために、リバースモーゲージの普及を促進する。

低所得の高齢者世帯が安定した生活を送れるようにするため、各都道府県社会福祉協議会において、一定の居住用不動産を担保として、世帯の自立に向けた相談支援に併せて必要な資金の貸付けを行う不動産担保型生活資金の貸与制度を実施する。

[目次]   [前へ]   [次へ]