第2章 令和3年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 2)

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第2節 分野別の施策の実施の状況(2)

2 健康・福祉

「健康・福祉」については、大綱において、次の方針を示している。

高齢期に健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、長寿を全うできるよう、個人間の健康格差をもたらす地域・社会的要因にも留意しつつ、生涯にわたる健康づくりを総合的に推進する。

今後の高齢化の進展等を踏まえ、地域包括ケアシステムの一層の推進を図るとともに、認知症を有する人が地域において自立した生活を継続できるよう支援体制の整備を更に推進する。また、家族の介護を行う現役世代にとっても働きやすい社会づくりのため、介護の受け皿整備や介護人材の処遇改善等の「介護離職ゼロ」に向けた取組を推進する。

高齢化の進展に伴い医療費・介護費の増加が見込まれる中、国民のニーズに適合した効果的なサービスを効率的に提供し、人口構造の変化に対応できる持続可能な医療・介護保険制度を構築する。また、人生の最終段階における医療について国民全体で議論を深める。

(1) 健康づくりの総合的推進

ア 生涯にわたる健康づくりの推進

健康寿命の延伸や生活の質の向上を実現し、健やかで活力ある社会を築くため、平成12年度から、生活習慣病の一次予防に重点を置いた「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を開始した。その後平成25年度からは、国民健康づくり運動を推進するため、健康を支え、守るための社会環境の整備に関する具体的な目標も明記した「健康日本21(第二次)」を開始した。令和4年9月からは、健康日本21(第二次)の最終評価の結果等も踏まえ、令和6年度から開始する次期国民健康づくり運動プラン策定に向けた検討を開始した。

平成25年4月に開始した健康日本21(第二次)に基づき、企業、団体、地方公共団体等と連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施していく。

さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が「健康増進法」(平成14年法律第103号)に基づき実施している健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図った。

このほか、国民が生涯にわたり健全な食生活を営むことができるよう、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の発症及び重症化予防の観点から、「日本人の食事摂取基準」を策定し、5年ごとに改定している。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、我が国における更なる高齢化の進展を踏まえ、新たに高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて策定を行った。この改定と併せて、高齢者やその家族、行政関係者等が、フレイル予防に役立てることができる普及啓発ツール(パンフレットや動画)を作成、公表し、普及啓発ツールを用いた地方公共団体の取組事例を収集した。

また、「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」(平成29年3月策定)を踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、適切な配食の提供及び栄養管理を行う事業をモデル的に実施した。

さらに、医療保険者による特定健康診査・特定保健指導の着実な実施や、データヘルス計画に沿った取組等、加入者の予防・健康づくりの取組を推進していくとともに、糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進的な事例の横展開等を実施した。

いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会の実現に向けて、地方公共団体におけるスポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を推進した。

「第4次食育推進基本計画」(令和3年3月食育推進会議決定)に基づき、家庭、学校・保育所、地域等における食育の推進、食育推進運動の全国展開、生産者と消費者の交流促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化、食文化の継承のための活動への支援、食品の安全性の情報提供等を実施した。

加えて、高齢受刑者で日常生活に支障がある者の円滑な社会復帰を実現するため、リハビリテーション専門スタッフを配置した。

そのほか、散歩や散策による健康づくりにも資する取組として、河川空間とまち空間が融合した良好な空間の形成を目指す「かわまちづくり」の推進を図った。

国立公園等においては、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等についてユニバーサルデザイン化、情報発信の充実等により、高齢者にも配慮した環境の整備を実施した。

イ 介護予防の推進

介護予防は、高齢者が要介護状態等になることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。平成27年度以降、通いの場の取組を中心とした一般介護予防事業等を推進しており、一部の地方公共団体では、その取組の成果が現れてきているとともに、介護予防に加え、地域づくりの推進という観点からも保険者等の期待の声も大きく、また、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の動向も踏まえ、その期待は更に大きくなっている。

令和元年12月に取りまとめられた「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の報告書を踏まえ、令和3年度から開始した第8期介護保険事業(支援)計画が円滑に実施されるよう、地方公共団体職員等に対する担当者会議や研修会等を実施するとともに、多様な通いの場の展開を図るため、令和3年8月に、通いの場の取組について先進的な事例等を参考に類型化して示した事例集「通いの場の類型化について(Ver.1.0)」を公表・周知し、市町村における地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進した。

さらに、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、高齢者の外出自粛による閉じこもりや健康への影響が懸念されたことから、高齢者が居宅で健康に過ごすための情報や感染防止に配慮して通いの場の取組を実施するための留意事項等を紹介する特設ウェブサイトを活用した広報や、地方公共団体等の好事例の横展開、国立長寿医療研究センターで開発しているスマートフォン等用アプリを活用した居宅における健康づくりの支援等を実施した。

(2) 持続可能な介護保険制度の運営

介護保険制度については、平成12年4月に施行されてから20年以上を経過したところであるが、介護サービスの利用者数は制度創設時の3倍を超える等、高齢期の暮らしを支える社会保障制度の中核として確実に機能しており、少子高齢社会の日本において必要不可欠な制度となっているといえる(表2-2-2)。

表2-2-2 介護サービス利用者と介護給付費の推移
利用者数
平成12年4月 平成15年4月 平成18年4月 平成21年4月 平成24年4月 平成27年4月 平成28年4月 平成29年4月 平成30年4月 平成31年4月 令和2年4月 令和3年4月 令和4年4月
居宅(介護予防)
サービス
97万人 201万人 255万人 278万人 328万人 382万人 390万人 381万人 366万人 378万人 384万人 399万人 408万人
地域密着型
(介護予防)サービス
14万人 23万人 31万人 39万人 72万人 81万人 84万人 87万人 84万人 87万人 89万人
施設サービス 52万人 72万人 79万人 83万人 86万人 90万人 92万人 93万人 93万人 95万人 95万人 95万人 96万人
合計 149万人 274万人 348万人 384万人 445万人 512万人 523万人 554万人 543万人 559万人 564万人 581万人 593万人

介護給付費
平成12年4月 平成15年4月 平成18年4月 平成21年4月 平成24年4月 平成27年4月 平成28年4月 平成29年4月 平成30年4月 平成31年4月 令和2年4月 令和3年4月 令和4年4月
居宅(介護予防)
サービス
618億円 1,825億円 2,144億円 2,655億円 3,240億円 3,795億円 3,626億円 3,670億円 3,651億円 3,811億円 3,817億円 4,040億円 4,155億円
地域密着型
(介護予防)サービス
283億円 445億円 625億円 801億円 1,120億円 1,181億円 1,245億円 1,299億円 1,325億円 1,369億円 1,410億円
施設サービス 1,571億円 2,140億円 1,985億円 2,141億円 2,242億円 2,325億円 2,336億円 2,379億円 2,436億円 2,484億円 2,598億円 2,598億円 2,624億円
合計 2,190億円 3,965億円 4,411億円 5,241億円 6,107億円 6,921億円 7,082億円 7,230億円 7,332億円 7,594億円 7,741億円 8,007億円 8,189億円
資料:厚生労働省「介護保険事業状況報告」(月報)
(注)端数処理の関係で、合計の数字と内訳数が一致しない場合がある。地域密着型(介護予防)サービスは、平成17年の介護保険制度改正に伴って創設された。

令和22年に向けて、高齢化が一層進展し、85歳以上人口の急増や生産年齢人口の急減等が見込まれている中、高齢者ができるだけ住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、「地域包括ケアシステム」を深化・推進すること、介護人材の確保や介護現場の生産性が向上するよう取組を推進することが重要であることから、これらの内容を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」を第211回通常国会に提出した。

(3) 介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)

ア 必要な介護サービスの確保

地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、令和4年度においても地域医療介護総合確保基金等を活用し、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行った。

また、地域で暮らす高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法として、全国の地方公共団体に「地域ケア会議」の普及・定着を図るため、市町村に対し、「地域ケア会議」の開催に係る費用に対して、財政支援を行った。

あわせて、介護人材の確保のため、介護助手等の普及を通じた介護現場での多様な就労の促進等を地域医療介護総合確保基金に新たに位置付け、令和3年度に引き続き、当該基金の活用により、「参入促進」「労働環境の改善」「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援した。さらに、介護福祉士修学資金等貸付事業の更なる活用促進等に取り組んだ。加えて、介護職の魅力及び社会的評価の向上や、他業種で働いていた方等が介護・障害福祉分野における介護職に就職する際の支援を行い、更なる介護分野への参入促進に向けた取組を行った。介護職員の処遇改善については、これまでに実施してきた処遇改善に加えて、令和元年10月から、経験・技能のある職員に重点化を図りつつ、介護職員の更なる処遇改善を実施している。また、令和3年度補正予算において、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、介護職員について、収入を3%程度(月額9,000 円)引き上げるための措置を令和4年2月から実施しており、令和4年10月に臨時の報酬改定を行い、同様の措置を継続している。なお、介護福祉士修学資金等貸付事業については、令和4年度補正予算において、貸付原資の積み増しを行った。

また、介護労働者の雇用管理改善を促進する「介護雇用管理改善等計画」(令和3年厚生労働省告示第117号)に基づき、介護福祉機器の導入等を通じて労働者の離職率の低下に取り組んだ事業主への助成措置や介護労働者の雇用管理全般に関する雇用管理責任者への講習に加え、事業所の雇用管理改善に係る好事例把握やコンサルティングを実施した。人材の参入促進を図る観点からは、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための公的職業訓練について、民間教育訓練実施機関等を活用した職業訓練枠の拡充のため、職場見学・職場体験を組み込むことを要件とした訓練委託費等の上乗せを実施するとともに、全国の主要な公共職業安定所に設置する「人材確保対策コーナー」において、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人充足に向けた助言・指導等を実施することに加え、「人材確保対策コーナー」を設置していない公共職業安定所においても、医療・福祉分野の職業相談・職業紹介、求人情報の提供及び「人材確保対策コーナー」の利用勧奨等の支援を実施した。さらに、各都道府県に設置されている福祉人材センターにおいて、離職した介護福祉士等からの届出情報を基に、求職者になる前の段階からニーズに沿った求人情報の提供等の支援を推進するとともに、当該センターに配置された専門員が求人事業所と求職者双方のニーズを的確に把握した上で、マッチングによる円滑な人材参入・定着支援、職業相談、職業紹介等を推進した。

また、在宅・施設を問わず必要となる基本的な介護の知識・技術を修得する「介護職員初任者研修」を各都道府県において実施した。

「11月11日」の「介護の日」に合わせ、都道府県・市町村、介護事業者、関係機関・団体等の協力を得つつ、国民への啓発のための取組を重点的に実施した。

また、地域包括ケアの推進等により住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるような体制整備を目指して、引き続き在宅医療・介護の連携推進等、制度、報酬及び予算面から包括的に取組を行っている。

イ 介護サービスの質の向上

介護保険制度の運営の要である介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」という。)の資質の向上を図るため、引き続き、実務研修及び現任者に対する研修を体系的に実施した。また、地域包括支援センターにおいて、ケアマネジャーに対する助言・支援や関係機関との連絡調整等を行い、地域のケアマネジメント機能の向上を図った。

また、高齢者の尊厳の保持を図る観点から、地方公共団体と連携し、地域住民への普及啓発や関係者への研修等を進め、高齢者虐待の未然防止や早期発見に向けた取組を推進した。

平成24年4月より、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下に喀痰吸引等の行為を実施できることとなった。令和4年度においては、引き続き各都道府県と連携の下、研修等の実施を推進し、サービスの確保、向上を図った。

高齢化が進展し要介護・要支援認定者が増加する中、介護者(家族)の不安の軽減やケアマネジャー等介護従事者の負担軽減を図る必要があることから、平成31年1月より、マイナポータルを活用し介護保険手続の検索やオンライン申請を可能とする「介護ワンストップサービス」を開始した。

令和2年度に、マイナポータルぴったりサービスにオンライン申請における標準様式を登録しており、令和4年度においても引き続き地方公共団体への導入促進を図った。

ウ 地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供

持続可能な社会保障制度を確立するためには、高度急性期医療から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保できるよう、質が高く効率的な医療提供体制を整備するとともに、国民が可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう、医療・介護が連携して地域包括ケアシステムの実現を目指すことが必要である。

このため、平成26年6月に施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第83号、以下「医療介護総合確保推進法」という。)に基づき各都道府県に創設された消費税増収分を財源とする地域医療介護総合確保基金を活用し、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備等のための地域の取組に対して支援を行った。また、医療介護総合確保推進法の下で、在宅医療・介護の連携推進に係る事業は、平成27年度以降、「介護保険法」(平成9年法律第123号)の地域支援事業に位置付け、市町村が主体となって地域の医師会等と連携しながら取り組むこととされた。平成30年度からは、全ての市町村で、地域の実情を踏まえつつ、医療・介護関係者の研修や地域住民への普及啓発等の取組が実施されている。また、令和2年10月には在宅医療・介護が円滑に切れ目なく提供される仕組みを構築できるよう、「介護保険法施行規則」(平成11年厚生省令第36号)の一部改正(令和3年4月施行)を行うとともに「在宅医療・介護連携推進事業の手引き(ver.3)」(令和2年9月策定)を公開した。

また、第8次医療計画等に関する検討会における議論を踏まえて、令和6年度からの第8次医療計画においては、「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」及び「在宅医療に必要な連携を担う拠点」を医療計画に位置づけ、適切な在宅医療の圏域を設定する等、今後見込まれる在宅医療の需要の増加に向け、地域の実情に応じた在宅医療の体制整備を進めることとした。

エ 介護と仕事の両立支援
(ア)育児・介護休業法の円滑な施行

介護休業や介護休暇等の仕事と介護の両立支援制度等を定めた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)について、都道府県労働局において制度の内容を周知するとともに、企業において制度内容が定着し、法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導を行った。

また、有期雇用労働者の介護休業取得要件の緩和等に関する法令の改正内容(令和3年6月公布、令和4年4月施行)について周知を図った。

(イ)仕事と介護を両立しやすい職場環境整備

中高年齢者を中心として、家族の介護のために離職する労働者の数が高止まりしていることから、全国各地での企業向けセミナーの開催や仕事と家庭の両立支援プランナーによる個別支援を通じて、事業主が従業員の仕事と介護の両立を支援する際の具体的取組方法・支援メニューである「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」の普及促進を図るとともに、介護に直面した労働者の介護休業の取得及び職場復帰等を円滑に行うためのツールである「介護支援プラン」の普及促進に取り組んだ。加えて、ケアマネジャーなど家族介護者を支援する者が仕事と介護の両立について学習できる「仕事と介護の両立支援カリキュラム」を用いた研修の実施等により、当該カリキュラムの普及促進を図った。

また、「介護支援プラン」を策定し、介護に直面する労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業事業主や、その他の仕事と介護の両立に資する制度(介護両立支援制度)を労働者が利用した中小企業事業主、新型コロナウイルス感染症への対応として家族を介護するための有給の休暇制度を設け、労働者が利用した中小企業事業主に対し助成金により支援することを通じて、企業の積極的な取組の促進を図った。

(4) 持続可能な高齢者医療制度の運営

全世代型社会保障制度の構築のため、第204回通常国会において、後期高齢者(3割負担である現役並み所得者を除く。)のうち、課税所得28万円以上かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、年収合計が320万円以上)の方について窓口負担割合を2割とする改正法が成立し、令和4年10月から施行された。また、2割負担への変更による影響が大きい外来患者について、施行後3年間、1月分の負担増が、最大でも3,000円に収まるような配慮措置を実施している。

さらに、令和7年までに全ての団塊の世代が後期高齢者となる中、現役世代の負担上昇の抑制を図り、負担能力に応じて、増加する医療費を全ての世代で公平に支え合う観点から、後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じとなるよう後期高齢者の保険料負担割合を見直すこと、その際、低所得の方々の負担増が生じないようにする等の激変緩和措置を講じること等を内容とする法案を第211回通常国会に提出した。

後期高齢者の保健事業について、高齢者の心身の多様な課題に対応し、きめ細かな支援を実施するため、後期高齢者医療広域連合のみならず、市民に身近な市町村が中心となって、介護保険の地域支援事業や国民健康保険の保健事業と一体的に後期高齢者の保健事業を実施する「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」の法的な枠組みが、令和2年度から開始されている。

この取組を推進するため、後期高齢者医療広域連合から市町村へ高齢者保健事業を委託し、①事業全体のコーディネートや企画調整・分析等を行う医療専門職、②高齢者に対する個別的支援や通いの場等への関与等を行う医療専門職について配置する費用等を、国が後期高齢者医療調整交付金のうち特別調整交付金により支援した。加えて、後期高齢者医療広域連合や市町村の職員を対象とする保健事業実施に関する研修や市町村の取組状況の把握等を行う「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の全国的な横展開事業」等を通じて、取組の推進を支援した。

(5) 認知症高齢者支援施策の推進

(ア)認知症施策推進大綱の基本的な考え方

「認知症施策推進大綱」(令和元年6月認知症施策推進関係閣僚会議決定)では、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪とした施策を推進していくことを基本的な考え方としている。なお、ここでいう「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」、「認知症になっても進行を穏やかにする」という意味である。

(イ)「認知症施策推進大綱」の5つの柱

こうした基本的な考え方の下、「認知症施策推進大綱」は5つの柱に沿って施策を推進することとされており、令和4年度もこれらの施策等について取組を推進した。

  • ① 普及啓発・本人発信支援

    認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域などで認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けをする人である「認知症サポーター」の養成や、認知症の人ご本人が務める「希望大使」による普及啓発活動等。

  • ② 予防

    高齢者等が身近に通うことができる「通いの場」の拡充等。

  • ③ 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援

    複数の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメントした上で家族支援などの初期の支援を包括的・集中的に行い、自立生活のサポートを行う「認知症初期集中支援チーム」の整備や、家族等の負担軽減を図るため、認知症の人とその家族などが集まる「認知症カフェ」の設置促進等。

  • ④ 認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援

    認知症サポーターなどが認知症の人の支援チームを作り、見守りや外出支援などを行う仕組みである「チームオレンジ」の取組推進や、行政のみならず経済団体や医療・福祉団体等により設置された「日本認知症官民協議会」による、買い物、金融手続きなどの局面での認知症の人への接遇方法に関する「認知症バリアフリー社会実現のための手引き」の作成・普及等。

  • ⑤ 研究開発・産業促進・国際展開

    認知症の予防、診断、治療、ケア等を進めるためにも、認知症の危険因子と認知症発症の関連解明など、様々な病態やステージを対象にした研究開発の推進等。

(ウ)「認知症施策推進大綱」の中間評価

「認知症施策推進大綱」の対象期間は令和7年までとされており、令和4年は、策定後3年の中間年に当たることから、各種施策の進捗状況について確認を行い、一部KPI/目標の見直しを行うとともに、進捗状況が低調な項目について理由の分析や対応策を検討し、その結果を首相官邸ホームページに掲載した(令和4年12月認知症施策推進関係閣僚会議)。

(6) 人生の最終段階における医療の在り方

人生の最終段階における医療・ケアについては、医療従事者から本人・家族等に適切な情報の提供がなされた上で、本人・家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話合いを行い、本人による意思決定を基本として行われることが重要であり、国民全体への一層の普及・啓発が必要である。

そのため、人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業として、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)に基づき、医療従事者等に向けて、研修を行った。

また、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組(人生会議)の普及・啓発を図るため、人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の国民向け普及啓発事業として、国民向けに映像配信を行った。

(7) 住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進

ア 地域の支え合いによる生活支援の推進

年齢や性別、その置かれている生活環境等にかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、地方公共団体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「生活困窮者支援等のための地域づくり事業」等を通じて、地域福祉の推進を図った。

また、「寄り添い型相談支援事業」として、24時間365日ワンストップで電話相談を受け、必要に応じて、具体的な解決につなげるための面接相談、同行支援を行う事業を実施した。

市町村において、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を整備するため、対象者の属性を問わない相談支援、多様な参加支援、地域づくりに向けた支援を一体的に行う重層的支援体制整備事業の推進を図った。

イ 地域福祉計画の策定の支援

福祉サービスを必要とする高齢者を含めた地域住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう地域福祉の推進に努めている。このため、福祉サービスの適切な利用の推進や福祉事業の健全な発達、地域福祉活動への住民参加の促進等を盛り込んだ地域福祉計画の策定の支援を引き続き行った。

ウ 地域における高齢者の安心な暮らしの実現

令和4年度においても、地域主導による地域医療の再生や在宅介護の充実を引き続き図った。医療、介護の専門家を始め、地域の多様な関係者を含めた多職種が協働して個別事例の支援方針の検討等を行う「地域ケア会議」の取組の推進や、ICTの活用による在宅での生活支援ツールの整備等を進め、地域に暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会の構築を進めた。

また、高齢者が地域での生活を継続していくためには、多様な生活支援や社会参加の場の提供が求められている。そのため、市町村が実施する地域支援事業を推進するとともに、各市町村が効果的かつ計画的に生活支援・介護予防サービスの基盤整備を行うことができるよう、市町村に生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)を配置するとともに、就労的活動をコーディネートする人材の配置を可能とするなど、その取組を推進した。

高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行等、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境の整備を行った。

(8) 新型コロナウイルス感染症への対応

政府においては、「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」(令和3年11月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)に基づき、医療体制の強化と稼働を進めるとともに、学校や保育所、高齢者施設等における感染対策を強化してきた。また、若者等の重症化リスクが低い一方で高齢者のリスクは引き続き高い等のオミクロン株の特徴を踏まえ、新たな行動制限を行わず重症化リスクのある高齢者等を守ることに重点を置き、感染拡大防止と社会経済活動との両立を図ってきた。

感染が急速に拡大した令和4年7月には、「社会経済活動を維持しながら感染拡大に対応する都道府県への支援について」(同年7月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を決定し、都道府県が「BA.5対策強化宣言」を行い、国と緊密に連携しながら住民や事業者に対する協力要請又は呼びかけを実施する枠組みを設けた。

令和4年9月には、「Withコロナに向けた政策の考え方」(同年9月新型コロナウイルス感染症対策本部決定、以下「Withコロナ決定」という。)を決定し、Withコロナに向けた新たな段階への移行の全体像を示した。

さらに、令和5年1月に決定した「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更等に関する対応方針について」(令和5年1月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を踏まえ、同年2月には、「マスク着用の考え方の見直し等について」(同年2月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を決定した。この中で、マスクの着用は個人の判断に委ねることを基本とするとともに、感染防止対策としてマスクの着用が効果的である場面などを示した。

個別の施策としては、新型コロナウイルス感染症の検査については、無料検査事業により、無症状者が社会経済活動を行うに当たっての検査や、感染拡大傾向時に都道府県知事の要請に基づいて感染不安を抱える無症状の住民が受ける検査を無料化するとともに、大型連休等においては、特に帰省する場合、地元で高齢の親族などとの接触があることから、帰省前等に検査を受けていただくよう呼びかけ、当該呼びかけに伴う検査需要の増加に対応するため、臨時の検査拠点を整備するなどの都道府県における取組を支援した。

高齢者施設等での医療提供体制に関しては、高齢者施設等での療養者に必要な医療支援が提供されるよう、感染発生から24時間以内に感染制御・業務継続支援チームを派遣できる体制の整備や、医師や看護師による往診・派遣が可能な医療機関の事前確保を進めてきた。加えて、令和4年9月のWithコロナ決定を受け、オミクロン株の特性を踏まえて、高齢者等重症化リスクの高い方を守るため、全国一律で感染症法に基づく医師の届出(発生届)の対象を65歳以上の方等に限定し、保健医療体制の強化、重点化を進めるとともに、療養期間の短縮を行い、社会経済活動との両立を強化した。

また、令和4年も新型コロナウイルス感染症対応医療機関に対する必要な支援を継続するとともに、介護サービス事業所・施設等に対しては、感染者等が生じた場合において、必要なサービスを継続して提供できるよう、通常の介護サービスの提供時では想定されない、職員の確保に関する費用や消毒費用などのかかり増し経費等に対して支援を行うとともに、緊急時の応援派遣に係る体制整備を構築する取組について補助を行った。さらに、令和3年度介護報酬改定において、全ての介護サービス事業者に対し、一定の経過措置期間を設け、BCP(業務継続計画)の策定やシミュレーションの実施を運営基準で義務付けた。

このように、新型コロナウイルス感染症への対応を進めた一方で、中長期的な観点からの課題の整理等を行うため立ち上げた「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」での取りまとめを踏まえ、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」(令和4年9月新型コロナウイルス感染症対策本部決定、以下「感染症危機対応具体策」という。)を決定し、政府の司令塔機能を強化するため「内閣感染症危機管理統括庁」を令和5年度中に内閣官房に設置する方針が決定され、必要となる法律案を第211回通常国会に提出した。

なお、令和5年3月政府対策本部決定において、新型コロナの感染症法上の位置付け変更後(令和5年5月8日以降)については、高齢者施設には重症化リスクが高い高齢者が多く生活していることを踏まえ、入院が必要な高齢者は、適切かつ確実に施設から入院できる体制を確保しつつ、施設における感染対策の徹底、医療機関との連携強化、療養体制の確保等の各種の政策・措置は、当面継続することとしている。

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