第2章 令和3年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 3)
第2節 分野別の施策の実施の状況(3)
3 学習・社会参加
「学習・社会参加」については、大綱において、次の方針を示している。
高齢社会においては、価値観が多様化する中で、学習活動や社会参加活動を通じての心の豊かさや生きがいの充足の機会が求められるとともに、就業を継続したり日常生活を送ったりする上でも社会の変化に対応して絶えず新たな知識や技術を習得する機会が必要とされる。また、一人暮らし高齢者の増加も背景に、地域社会において多世代が交流することの意義が再認識されている。
このため、高齢者が就業の場や地域社会において活躍できるよう高齢期の学びを支援する。さらに、高齢者を含めた全ての人々が、生涯にわたって学習活動を行うことができるよう、学校や社会における多様な学習機会の提供を図り、その成果の適切な評価の促進や地域活動の場での活用を図る。
また、高齢化する我が国社会の持続可能性を高めるには全ての世代による支え合いが必要であることから、義務教育を含め、生涯を通じて社会保障に関する教育等を進め、若い世代を含む全世代が高齢社会を理解する力を養う。
さらに、ボランティア活動やNPO活動等を通じた社会参加の機会は、生きがい、健康維持、孤立防止等につながるとともに、福祉に厚みを加えるなど地域社会に貢献し、世代間、世代内の人々の交流を深めて世代間交流や相互扶助の意識を醸成するものであることから、こうした活動の推進や参画支援を図る。
(1) 学習活動の促進
ア 学校における多様な学習機会の提供
(ア)初等中等教育機関における多様な学習機会の確保
児童生徒が高齢社会の課題や高齢者に対する理解を深めるため、学習指導要領に基づき、小・中・高等学校において、ボランティア等社会奉仕に関わる活動や高齢者との交流等を含む体験活動の充実を図った。
(イ)高等教育機関における社会人の学習機会の提供
生涯学習のニーズの高まりに対応するため、大学においては、社会人選抜の実施、夜間大学院の設置、昼夜開講制の実施、科目等履修生制度の実施、長期履修学生制度の実施等を引き続き行い、履修形態の柔軟化等を図って、社会人の受入れを一層促進した(図2-2-3)。
また、大学等が、その学術研究・教育の成果を直接社会に開放し、履修証明プログラムや公開講座を実施する等高度な学習機会を提供することを促進した。
さらに、高等教育段階の学習機会の多様な発展に寄与するため、短期大学卒業者、高等専門学校卒業者、専門学校等修了者で、大学における科目等履修生制度等を利用し一定の学習を修めた者については、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構において審査の上、「学士」の学位授与を行っている。
放送大学においては、テレビ・ラジオ放送やインターネット等の身近なメディアを効果的に活用して、幅広く大学教育の機会を国民に提供した(図2-2-4)。
(ウ)学校機能・施設の地域への開放
令和4年3月に取りまとめた「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について(最終報告)」を通じて、学校は地域コミュニティの核となることから、ともに創造的な活動を企画・立案したり交流したりするための「共創空間」を生み出す必要があることや、他の公共施設との複合化等を推進する必要があることを周知した。
また、地域コミュニティの核となる公立学校施設の整備に対して国庫補助を行うとともに、令和4年度から、学校以外の公共施設との複合化・集約化を伴う改築及び長寿命化改修について、一定の条件の下、補助率を引き上げる(1/3から1/2)制度改正を実施した。
イ 社会における多様な学習機会の提供
生涯学習の振興に向けて、平成2年に「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」(平成2年法律第71号)が制定され、推進体制の整備が図られた。その後、平成18年に改正された「教育基本法」(平成18年法律第120号)で生涯学習の理念(第3条)が、さらにこの理念の実現のために、平成20年に改正された「社会教育法」(昭和24年法律第207号)でも「生涯学習の振興への寄与」が明示された(第3条第2項)。これらの法律や中央教育審議会の答申等に基づき、国民一人一人が生涯を通して学ぶことのできる環境の整備、多様な学習機会の提供、学習した成果が適切に評価されるための仕組み作り等、「生涯学習社会」の実現のための取組を進めた。
(ア)社会教育の振興
地域住民の身近な学習拠点である公民館を始めとする社会教育施設等において、幅広い年齢層を対象とした多様な学習機会の充実を促進した。
また、高齢者等の社会的に孤立しがちな住民の社会参画促進を図るため、行政や各種団体等で社会教育に携わる者を対象に、学びを通じた社会参画の実践による社会的孤立の予防・解消を図る方策を共有した。
(イ)文化活動の振興
国民文化祭の開催等による幅広い年齢層を対象とした文化活動への参加機会の提供、国立の博物館等における高齢者に対する優遇措置やバリアフリー化等による芸術鑑賞機会の充実を通じて多様な文化活動の振興を図った。
(ウ)スポーツ活動の振興
いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会を実現するため、「スポーツによる地域活性化推進事業」を活用し、スポーツを通じた地域の活性化を推進するとともに、スポーツ行事の実施等の各種機会を通じて多様なスポーツ活動の振興を図った。
(エ)自然とのふれあい
国立公園等の利用者を始め、国民の誰もが自然とふれあう活動が行えるよう、自然ふれあい施設や自然体験活動等の情報をインターネット等を通じて提供した。
ウ 社会保障等の理解促進
平成29年3月に改訂した中学校学習指導要領の社会科や技術・家庭科、平成30年3月に改訂した高等学校学習指導要領の公民科や家庭科において、少子高齢社会における社会保障の充実・安定化や介護に関する内容等が明記されたことを踏まえ、その趣旨の徹底を図るとともに、厚生労働省が作成・提供している各種教材に対する教職員等の意見を踏まえ、新たな教材等を開発し、学校現場へ提供した。
また、教職員向けの研修会の実施等を通じて、教育現場における社会保障に関する教育の普及促進を図った。
より公平・公正な社会保障制度の基盤となるマイナンバー制度については、平成29年11月から、情報連携の本格運用が開始され、各種年金関係手続のほか、介護保険を始め高齢者福祉に関する手続において、従来必要とされていた住民票の写しや課税証明書、年金証書等の書類が不要となっている。本格運用の対象事務は、平成29年11月の約900から、令和4年11月には約2,400と、順次拡大している。こうしたマイナンバー制度の取組状況について、地方公共団体等とも連携し、国民への周知・広報を行った。
また、金融庁・財務局職員による出張授業(オンライン授業を含む。)の実施や教員向け研修会への講師派遣を行うほか、高校生及び教員向けの授業動画や若年層向けの金融経済に関する解説動画のオンライン配信など、ICTの活用により幅広い層に対して金融経済教育を推進した。
エ 高齢者等に向けたデジタル活用支援の推進
高齢者等が、デジタル技術の利活用により、豊かな生活を送ることができるようにするため、住居から地理的に近い場所で、身近な人からデジタル活用を学べる環境が必要である。このため、総務大臣政務官及び厚生労働大臣政務官の共宰により開催された「デジタル活用共生社会実現会議」において、高齢者等のデジタル活用を支援するデジタル活用支援推進事業の講師の仕組みの検討が行われ、平成31年4月に提言が示された。令和元年度には、この提言に基づきデジタル活用支援の全国展開に向けた基礎調査を実施し、令和2年度には全国11か所(12件)で実証事業を実施した。
令和3年度からは本格的に事業を実施することとし、民間企業や地方公共団体等と連携し、スマートフォンを利用したオンライン行政手続等に対する助言・相談等を行うデジタル活用支援の講習会を、全国の携帯ショップ等において実施している。令和4年度は、全国4,804箇所において実施した。
また、関係省庁、地方公共団体・関連団体・ボランティア団体等と連携し、高齢者等のデジタルに不慣れな方をサポートするため、国民運動として、「デジタル推進委員」の取組を令和4年度に2万人以上でスタートした。
オ ライフステージに応じた消費者教育の取組の促進
消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育、すなわち消費者教育は、幼児期から高齢期までの各段階に応じて体系的に行われるとともに、年齢、障害の有無その他の消費者の特性に配慮した適切な方法で行わなければならない。こうした消費者教育を総合的かつ一体的に推進するため、平成24年12月に「消費者教育の推進に関する法律」(平成24年法律第61号)が施行され、令和5年3月には、同法に基づく「消費者教育の推進に関する基本的な方針」の2回目の変更の閣議決定を行った。令和4年度には、令和3年度地方消費者行政に関する先進的モデル事業において作成した高齢者向け消費者教育教材の活用事例集を取りまとめた。
(2) 社会参加活動の促進
ア 多世代による社会参加活動の促進
(ア)高齢者の社会参加と生きがいづくり
高齢者の生きがいと健康づくり推進のため、地域を基盤とする高齢者の自主的な活動組織である老人クラブ等や都道府県及び市町村が行う地域の高齢者の社会参加活動を支援した(図2-2-5)。国民一人一人が積極的に参加し、その意義について広く理解を深めることを目的とした「全国健康福祉祭(ねんりんピック)」について、令和4年11月に「第34回全国健康福祉祭 神奈川・横浜・川崎・相模原大会」を開催した。
また、地域の社会教育を推進するため、社会教育を行う者に対する専門的・技術的な指導助言を行う社会教育主事等の専門的職員の養成等を図った。
さらに、退職教員や企業退職高齢者等を含む幅広い地域住民や企業・団体等の参画により、地域と学校が連携・協働して、学びによるまちづくり、地域人材育成、郷土学習、放課後等における学習・体験活動等、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支え、地域を創生する「地域学校協働活動」を全国的に推進した。
加えて、地域で子供たちがプログラミング等ICT活用スキルを学ぶ機会を提供し、高齢者を含む地域住民との交流や地域人材の育成に資するものである「地域ICTクラブ」の普及促進に取り組んだ。
また、企業退職高齢者等が、地域社会の中で役割を持って生き生きと生活できるよう、有償ボランティア活動による一定の収入を得ながら自らの生きがいや健康づくりにもつながる活動を行い、同時に介護予防や生活支援のサービスの基盤整備を促進する「高齢者生きがい活動促進事業」を実施した。
加えて、高齢者を含む誰もが旅行を楽しむことができる環境を整備するため、令和2年12月に創設した「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の普及促進に取り組んでいる。さらに、旅館・ホテル等におけるバリアフリー化への改修の支援を実施した。
また、高齢者の社会参加や世代間交流の促進、社会活動を推進するリーダーの育成・支援、さらには関係者間のネットワーキングに資することを目的に、地域参加に関心を持つ者が情報交換や多様な課題についての議論を行う「高齢社会フォーラム」を毎年行っており、令和4年度においては、令和4年10月に愛知県名古屋市で開催した。
また、年齢にとらわれず自由で生き生きとした生活を送る高齢者(エイジレス・ライフ実践者)や社会参加活動を積極的に行っている高齢者の団体等を毎年広く紹介しており、令和4年度においては、個人55名及び40団体を選考し、社会参加活動等の事例を広く国民に紹介する事業を実施した。
(イ)高齢者の余暇時間等の充実
高齢者等がテレビジョン放送を通じて情報アクセスの機会を確保できるよう、字幕放送、解説放送及び手話放送の充実を図るため、平成30年2月にテレビジョン放送事業者の字幕放送等の令和9年度までの普及目標値を定めた「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を策定した。本指針に基づき、各放送事業者は字幕放送等の普及に取り組んでおり、本指針対象番組に対する字幕放送の令和3年度実績において、NHK総合及び在京キー5局では約100%を引き続き達成した。本指針は策定から5年後を目途に見直しを行うとされていたことから、本指針の見直しを始め、視聴覚障害者等向け放送の充実に関する施策の企画・立案に資することを主たる目的として、令和4年11月から「視聴覚障害者等向け放送の充実に関する研究会」を開催している。
イ 市民やNPO等の担い手の活動環境の整備
市民やNPO等の活動環境を整備するため、認定NPO法人等の寄附税制の活用促進に取り組むとともに、特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号、以下「NPO法」という。)の円滑な運用に取り組んだ。また、NPO法に基づく各種事務のオンライン化のためのシステムを構築し、稼働を開始した。
また、開発途上国からの要請(ニーズ)に見合った技術・知識・経験を持ち、かつ開発途上国の社会や経済の発展への貢献を希望する国民が、JICA海外協力隊員(対象:20歳から69歳まで)として途上国の現場で活躍する、独立行政法人国際協力機構を通じた事業(JICAボランティア事業)を引き続き推進した。なお、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、感染状況や医療面での受け入れ体制が整った国から派遣を行い、派遣前訓練も限定的なものとした。