第3章 令和6年度高齢社会対策(第2節 4)
第2節 分野別の高齢社会対策(4)
4 生活環境
(1) 豊かで安定した住生活の確保
「住生活基本計画(全国計画)」に掲げた目標(〔1〕「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現、〔2〕頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保、〔3〕子どもを産み育てやすい住まいの実現、〔4〕多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり、〔5〕住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備、〔6〕脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成、〔7〕空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進、〔8〕居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展)を達成するため、必要な施策を着実に推進する。
ア 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進
良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄の普及促進等を図るとともに、住宅金融支援機構の証券化支援事業及び独立行政法人勤労者退職金共済機構等の勤労者財産形成持家融資を行う。
また、住宅ローン減税等の税制上の措置を活用し、引き続き良質な住宅の取得を促進する。
(イ)高齢者の持家ニーズへの対応
住宅金融支援機構において、親族居住用住宅を証券化支援事業の対象とするとともに、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施する。
(ウ)将来にわたり活用される良質なストックの形成
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、住宅を長期にわたり良好な状態で使用するため、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備え、適切な維持保全が確保される「認定長期優良住宅」の普及促進を図る。
イ 循環型の住宅市場の実現
(ア)既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備
既存住宅ストックの質の向上及び流通促進に向けて、建物状況調査(インスペクション)の円滑な普及、安心して既存住宅を取得したりリフォーム工事を依頼したりすることができる市場環境の整備、瑕疵保険や住宅紛争処理制度の充実を図るとともに、良質な住宅ストックが適正に評価される市場の形成を促進する先導的な取組や既存住宅の長寿命化に資するリフォームや省エネリフォームの取組を支援する。
(イ)高齢者に適した住宅への住み替え支援
高齢者等の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する制度により、高齢者に適した住宅への住み替え等を促進するとともに、同制度を活用して住み替える先の住宅を取得する費用について、住宅金融支援機構の証券化支援事業における民間住宅ローンの買取要件の緩和により支援する。
さらに、高齢者が住み替える先のサービス付き高齢者向け住宅に係る入居一時金及び住み替える先の住宅の建設・購入資金の確保に資するよう、住宅融資保険事業や証券化支援事業の枠組みを活用し、民間金融機関のリバースモーゲージ型住宅ローンの普及を支援する。
ウ 高齢者の居住の安定確保
(ア)良質な高齢者向け住まいの供給
「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律」により創設された「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行う。また、非接触でのサービス提供等を可能とするIoT技術の導入支援を行う。
さらに、高齢者世帯等の住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅を活用したセーフティネット登録住宅を推進するとともに、登録住宅の改修や入居者負担の軽減等への支援を行う。加えて、高齢者世帯等の住宅確保要配慮者が円滑に入居できる賃貸住宅の供給を推進し、さらに、住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制を強化するため、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」を第213回国会(令和6年)に提出している。
(イ)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進
「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」の普及等によりバリアフリー化等の改修を進める。住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修について高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施する。また、証券化支援事業の枠組みを活用したフラット35Sにより、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行う。さらに、住宅融資保険事業や証券化支援事業の枠組みを活用し、民間金融機関が提供する住宅の建設、購入、改良等の資金に係るリバースモーゲージ型住宅ローンの普及を支援する。
また、バリアフリー構造等を有する「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行う。
(ウ)公共賃貸住宅
公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、新たに供給する公営住宅、改良住宅及び都市再生機構賃貸住宅について、段差の解消等一定の高齢化に対応した仕様を原則とする。
この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中高層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について助成を行う。都市再生機構賃貸住宅においても、中高層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準とする。
また、老朽化した公共賃貸住宅については、計画的な建替え・改善を推進する。
(エ)住宅と福祉の施策の連携強化
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づき、都道府県及び市町村において、高齢者の居住の安定確保のための計画を定めることを推進していく。また、生活支援サービスが提供される「サービス付き高齢者向け住宅」の供給を促進し、福祉と連携した安心できる住まいの提供を実施していく。
また、市町村の総合的な高齢者住宅施策の下、シルバーハウジング・プロジェクト事業を実施するとともに、公営住宅等においてライフサポートアドバイザー等のサービス提供の拠点となる高齢者生活相談所の整備を促進する。
(オ)高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援
スマートウェルネス住宅等推進事業により、高齢者等の居住の安定確保・健康維持増進に係る先導的な住まいづくりの取組等に対して補助を行う。
(カ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給
公営住宅については、高齢者世帯向け公営住宅の供給を促進する。また、地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断により、高齢者世帯の入居収入基準を一定額まで引き上げるとともに、入居者選考において優先的に取り扱うことを可能としている。
都市再生機構賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行う。
(キ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化
高齢者等の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体や関係事業者、居住支援団体等が組織する居住支援協議会や居住支援法人が行う相談・情報提供等に対する支援を行う。
(2) 高齢社会に適したまちづくりの総合的推進
ア 共生社会の実現に向けた取組の推進
誰もが暮らしやすい共生社会の実現に向けて、引き続き、バリアフリー法及び関係施策に基づき、ユニバーサルデザインの街づくりや心のバリアフリーなど、ハード・ソフト両面からの取組を推進するとともに、「共生社会ホストタウン」等と連携して、他の地方公共団体や国民等へ取組の周知を行う。
イ 多世代に配慮したまちづくり・地域づくりの総合的推進
高齢者等全ての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進するため、バリアフリー法に基づく移動等円滑化促進方針及び基本構想の作成を市町村に働きかけるとともに、地域公共交通バリアフリー化調査事業及びバリアフリー環境整備促進事業を実施する。
「誰一人取り残さない」社会の実現を目指して、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に統合的に取り組むための世界共通の目標である持続可能な開発目標(SDGs)を、広く全国の地方公共団体において積極的に推進するため、地方創生に向けたSDGs推進事業を実施する。令和5年度に引き続き令和6年度においても、SDGs達成に向けた優れた取組を提案する都市を「SDGs未来都市」として選定するとともに、その中でも特に先導的な取組を「自治体SDGsモデル事業」として選定する。また、地方公共団体が広域で連携し、SDGsの理念に沿って地域のデジタル化や脱炭素化等を行う地域活性化に向けた取組を「広域連携SDGsモデル事業」として、地方創生SDGsの経験や知見のある人材を活用し、多くの自治体に共通する喫緊かつ深刻な地域課題に、先進的・試行的な解決策を講じる都市を「地方創生 SDGs課題解決モデル都市」として選定し、支援を行う。
また、SDGsの推進に当たっては、多様なステークホルダーとの連携が不可欠であることから、引き続き、官民連携の取組を促進することを目的とした「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を通じて、マッチングイベント等を開催する。
さらに、金融面においても、地方公共団体と地域金融機関等が連携して、地域課題の解決やSDGsの達成に取り組む地域事業者を支援し、地域における資金の還流と再投資を生み出す「地方創生SDGs金融」を通じた自律的好循環の形成を目指す。
さらに、地方創生の観点からは、女性、若者、高齢者、障害者など、誰もが居場所と役割を持つコミュニティをつくり、活気あふれる温もりのある地域をつくるため、「交流・居場所」、「活躍・しごと」、「住まい」、「健康」、「人の流れ」といった観点で、デジタル技術等の活用により、分野横断的かつ一体的な地域の取組を支援する全世代・全員活躍型「生涯活躍のまち」の更なる推進に取り組む。具体的には、デジタル技術を活用した「生涯活躍のまち」づくりのプロセスモデルを活用して、地方公共団体への伴走支援や官民連携のマッチングイベントを実施し、地方公共団体の取組を支援するとともに、先進的な地方公共団体の取組事例を収集する。これらの取組から得られた知見・ノウハウをもとにプロセスモデルの検証・改訂を行い、先進的な地方公共団体の取組事例と合わせ、全国の地方公共団体に向けて情報発信することで、デジタル技術を活用した「生涯活躍のまち」づくりを推進する。
中山間地域等において、各種生活サービス機能が一定のエリアに集約され、集落生活圏内外をつなぐ交通ネットワークが確保された拠点である「小さな拠点」の形成拡大と質的向上を目指し、地域の自立共助の運営組織や全国の多様な関係者間の連携を図る等、総合的に支援する。
ウ 公共交通機関等の移動空間のバリアフリー化
(ア)バリアフリー法に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
バリアフリー法に基づき、公共交通事業者等による旅客施設や車両等のバリアフリー化の取組を促進する。このため、「公共交通移動等円滑化基準」、「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」及び「公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン」に基づく整備を進めるとともに、「公共交通機関の役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドライン」によるソフト面での取組を推進する。また、鉄道駅等の旅客施設のバリアフリー化、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシーを含む福祉タクシーの導入等に対する支援措置を実施する。加えて、「交通政策基本法」に基づく「第2次交通政策基本計画」においても、バリアフリー化等の推進を目標の一つとして掲げている。
(イ)歩行空間の形成
移動の障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう、信号機、歩道等の交通安全施設等の整備を推進する。高齢歩行者等の安全な通行を確保するため、①幅の広い歩道等の整備、②歩道の段差・傾斜・勾配の改善、③無電柱化推進計画に基づく道路の無電柱化、④歩行者用案内標識の設置、⑤歩行者等を優先する道路構造の整備、⑥自転車道等の設置による歩行者と自転車交通の分離、⑦生活道路における速度の抑制及び通過交通の抑制・排除並びに幹線道路における道路構造の工夫や、交通流の円滑化を図るための信号機、道路標識等の重点的整備、⑧バリアフリー対応型信号機(Bluetoothを活用し、スマートフォン等に対して歩行者用信号情報を送信するとともに、スマートフォン等の操作により青信号の延長を可能とする高度化PICSを含む。)の整備、⑨歩車分離式信号の運用、⑩見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備、⑪信号灯器のLED化等の対策を実施する。
(ウ)道路交通環境の整備
高齢者等が安心して自動車を運転し外出できるよう、生活道路における交通規制の見直し、付加車線の整備、道路照明の増設、道路標識・道路標示の高輝度化、信号灯器のLED化、「道の駅」における優先駐車スペース、高齢運転者等専用駐車区間の整備等の対策を実施する。
(エ)バリアフリーのためのソフト面の取組
高齢者や障害者等も含め、誰もがストレス無く移動できるユニバーサル社会の構築に向けて、歩行空間における移動支援サービスの普及・高度化を推進する。有識者も含めたワーキンググループの開催も交えながら運用実証等を踏まえたデータ整備プラットフォームの高度化やデータ整備仕様の改定の検討を行うとともに、シンポジウムの開催等による継続的な広報活動も実施する。
「心のバリアフリー」社会を実現し、ハード面のみならずソフト面も含む総合的なバリアフリー化を実現するため、高齢者・障害者等の介助・擬似体験等を内容とする「バリアフリー教室」の開催等、ソフト面での取組を推進する。
(オ)訪日外国人旅行者の受入環境整備
訪日外国人旅行者の移動円滑化を図るため、旅客施設における段差の解消等の取組を支援する。
エ 建築物・公共施設等のバリアフリー化
バリアフリー法に基づく認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)等のうち一定のものの整備及び不特定多数の者が利用し、又は主として高齢者・障害者等が利用する既存建築物のバリアフリー改修工事に対して支援措置を講じることにより、高齢者・障害者等が円滑に移動等できる建築物の整備を促進する。
窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保等により、高齢者を始め全ての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進する。
社会資本整備総合交付金等の活用によって、誰もが安心して利用できる都市公園の整備を推進するとともに、バリアフリー法に基づく基準等により、公園施設のバリアフリー化を推進する。
また、河川等では、高齢者にとって憩いと交流の場となる良好な水辺空間の整備を推進する。
加えて、訪日外国人旅行者が我が国を安心して旅行できる環境を整備するため、訪日外国人旅行者の来訪の見込みがある市区町村に係る観光地等において、代表的な観光スポット等における段差の解消を支援する。
オ 活力ある農山漁村の再生
農福連携の取組として、高齢者の生きがい及びリハビリテーションを目的とした農林水産物生産施設及び付帯施設の整備等を支援する。
また、農山漁村の健全な発展と活性化を図るため、農山漁村地域の農林水産業生産基盤と生活環境の一体的・総合的な整備を実施する。
さらに、高齢者等による農作業中の事故が多い実態を踏まえ、引き続き、全国の農業者が農作業安全研修を受講するよう推進するとともに、農作業安全に関する指導者の育成及び活動の拡大を図る。
農業人口の減少と高齢化が進行する中、作業ピーク時における労働力不足や高齢農業者への作業負荷の増大等を解消するため、産地が一体となって、シルバー人材等の活用を含め、労働力の確保・調整等に向けた体制の構築を支援する。
加えて、漁港漁場整備法に基づき策定された「漁港漁場整備長期計画」を踏まえ、浮体式係船岸や岸壁、用地等への防暑・防雪施設等の軽労化施設等の整備を実施する。
(3) 交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護
ア 交通安全の確保
近年、交通事故における致死率の高い高齢者の人口の増加が、交通事故死者数を減りにくくさせる要因の一つとなっており、今後、高齢化が更に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全対策は重点的に取り組むべき課題であり、令和3年3月に中央交通安全対策会議で決定した「第11次交通安全基本計画」(計画期間:令和3~7年度)等に基づき、各種施策に取り組んでいる。
高齢者が安全な交通行動を実践することができるよう必要な実践的技術及び交通ルール等の知識を習得させるため、高齢者を対象とした交通安全教室の開催、交通安全教育を受ける機会の少ない高齢者を対象とした家庭訪問による個別指導等を利用した交通安全教育を推進するほか、シルバーリーダー等を対象とした参加・体験・実践型の講習会を実施し、高齢者交通安全教育の継続的な推進役の養成に努める。
また、最高速度30キロメートル毎時の区域規制とハンプ等の物理的デバイスとの適切な組合せにより交通安全の向上を図ろうとする区域を「ゾーン30プラス」として設定し、警察と道路管理者が緊密に連携しながら、生活道路における人優先の安全・安心な通行空間の整備の更なる推進を図る。
さらに、歩行中及び自転車乗用中の交通事故死者数に占める高齢者の割合が高いことを踏まえ、交通事故が多発する交差点等における交通ルール遵守の呼び掛けや参加・体験・実践型の交通安全教育を実施していくとともに、「自転車活用推進法」(平成28年法律第113号)により定められる「第2次自転車活用推進計画」に基づき、歩行者、自転車及び自動車が適切に分離された自転車通行空間の整備を促進するなど、安全で快適な自転車利用環境の創出を推進する。
加えて、踏切道の歩行者対策として、「踏切道安全通行カルテ」や地方踏切道改良協議会を通じてプロセスの「見える化」を行い、道路管理者と鉄道事業者が、地域の実情に応じた移動等円滑化対策等を検討・実施することにより、高齢者等の通行の安全対策を推進する。
令和4年5月から施行された「道路交通法の一部を改正する法律」に基づき、運転技能検査制度やサポートカー限定免許制度を効果的に運用することにより、高齢運転者による交通事故の防止を図っていく。
車両の安全技術の観点からは、安全運転サポート車の普及促進、新車への衝突被害軽減ブレーキの搭載義務化(令和3年11月以降順次)等の取組により、ほぼ全ての新車乗用車に衝突被害軽減ブレーキ等の先進安全技術が搭載されている。更なる高齢ドライバーの事故削減に向けて、ドライバー異常時対応システムなど、より高度な安全技術の開発・普及の促進に取り組んでいく。
イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護
(ア)犯罪からの保護
高齢者が犯罪や事故に遭わないよう、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、高齢者が被害に遭いやすい犯罪の手口の周知及び被害防止対策についての啓発を行うとともに、必要に応じて関係機関や親族への連絡を行うほか、認知症等によって行方不明になる高齢者を発見、保護するための仕組み作りを関係機関等と協力して推進する。
高齢者を中心に大きな被害が生じている特殊詐欺については、令和元年6月、犯罪対策閣僚会議において策定した「オレオレ詐欺等対策プラン」、さらに令和5年3月に策定された「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」に基づき、全府省庁において特殊詐欺等の撲滅に向け、NTTによるナンバー・ディスプレイ及びナンバー・リクエスト契約を無償化する取組の周知並びに当該サービス利用に向けた積極的な支援、国際電話番号を悪用した詐欺の増加に伴う国際電話番号からの発着信を無償で休止できる「国際電話不取扱受付センター」(連絡先0120-210-364)の周知及び申込みの促進に向けた取組等の被害防止対策を推進するとともに、特殊詐欺に悪用される電話への対策を始めとする犯行ツール対策や背後にいると見られる暴力団等の犯罪者グループ等に対する取締り等を推進する。
また、悪質商法の中には高齢者を狙った事件もあることから悪質商法の取締りを推進するとともに、犯罪に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供等の被害拡大防止対策、悪質商法等からの被害防止に関する広報啓発活動及び悪質商法等に関する相談活動を行う。
さらに、特殊詐欺、利殖勧誘事犯及び特定商取引等事犯の犯行グループは、被害者や被害者になり得る者等が登載された名簿を利用しており、当該名簿登載者の多くは高齢者であって、今後更なる被害に遭う可能性が高いと考えられるため、捜査の過程で警察が押収した際はこれらの名簿をデータ化し、都道府県警察が委託したコールセンターの職員がこれを基に電話による注意喚起を行う等の被害防止対策を実施する。
加えて、今後、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加していく状況を踏まえ、市民を含めた後見人等の確保や市民後見人の活動を安定的に実施するための組織体制の構築・強化を図る必要があることから、引き続き、地域住民で成年後見に携わろうとする者に対する養成研修や後見人の適正な活動が行われるよう支援していく。
(イ)人権侵害からの保護
高齢者虐待防止法に基づき、前年度の養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態・対応状況の把握に努めるとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行う等、高齢者虐待への早期対応が行われるよう、必要な支援を行っていく。
法務局において、高齢者の人権問題に関する相談に応じるとともに、法務局に来庁することができない高齢者等からの相談について、引き続き老人福祉施設等に特設の人権相談所を設置するほか、電話、手紙、インターネット等を通じて受け付ける。人権相談等を通じて、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行い、その結果を踏まえ、事案に応じた適切な措置を講じる等して、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努める。
(ウ)悪質商法からの保護
消費者庁では、引き続き、地域において認知症高齢者等の「配慮を要する消費者」を見守り、消費者被害の未然防止・拡大防止を図るための消費者安全確保地域協議会について、地方消費者行政強化交付金の活用や地方消費者行政に関する先進的モデル事業の実施などにより、地方公共団体における更なる設置や活動を支援する。
また、高齢者の周りの人々による見守りの強化の一環として、高齢者団体のほか障害者団体・行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障がい消費者見守りネットワーク連絡協議会」を開催し、消費者トラブルの情報共有や、悪質商法の新たな手口や対処の方法等の情報提供等を図る。
さらに、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながる共通の3桁の電話番号である「消費者ホットライン188」を引き続き運用するとともに、同ホットラインについて消費者庁ウェブサイトへの掲載、SNSを活用した広報、啓発チラシやポスターの配布、各種会議等を通じた周知を行い、利用の促進を図る。
また、独立行政法人国民生活センターでは引き続き、消費者側の視点から注意点を簡潔にまとめたメールマガジン「見守り新鮮情報」を月2回程度配信する。
令和4年5月に成立した、事業者が消費者に消費者契約の締結について勧誘をする際の情報提供の努力義務における考慮要素として「年齢」や「心身の状態」を追加すること等を内容とする「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」の施行について、消費者及び事業者に対して引き続き周知を行う。
(エ)司法ソーシャルワークの実施
法テラスでは、法的問題を抱えていることに気付いていない、意思の疎通が困難であるなどの理由で自ら法的支援を求めることが難しい高齢者・障害者等に対して、地方公共団体、福祉機関・団体や弁護士会、司法書士会等と連携を図りつつ、当該高齢者・障害者等に積極的に働きかける(アウトリーチ)などして、法的問題を含めた諸問題を総合的に解決することを目指す「司法ソーシャルワーク」を推進する。
そこで、出張法律相談等のアウトリーチ活動を担う弁護士・司法書士を確保するなど、「司法ソーシャルワーク」の実施に必要な体制整備をより一層進めるとともに、福祉機関職員に対して業務説明会を行うなどして、福祉機関との連携を更に強化する。あわせて、福祉機関に対して、平成30年1月から実施している特定援助対象者法律援助事業の周知を図る。
ウ 防災施策の推進
病院、老人ホーム等の要配慮者利用施設を保全するため、土砂災害防止施設の整備を推進するとともに、激甚な水害・土砂災害を受けた場合の再度災害防止対策を引き続き実施する。病院等の医療施設において、浸水想定区域や津波災害警戒区域に所在する災害拠点病院は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や、自家発電機等の電気設備の高所移設、排水ポンプの設置による浸水対策の実施を促進する。また、浸水想定区域や津波災害警戒区域に所在するその他の医療機関は、浸水対策を講じるように促す。
また、災害時等においても、在宅療養患者に対し、在宅医療の診療体制を維持し継続的な医療を提供することが求められるため、在宅医療提供機関におけるBCP策定支援研修を引き続き実施する。
水防法及び土砂災害防止法に基づき、浸水想定区域内又は土砂災害警戒区域内に位置し、市町村地域防災計画に名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設に対して、避難確保計画の作成及び計画に基づく訓練の実施を引き続き促進する。
また、令和3年5月に水防法及び土砂災害防止法が改正され、施設の避難確保計画や訓練結果に関して市町村から要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対して助言・勧告を行うことができる制度が創設されたことを受け、市町村が施設の所有者又は管理者に適切に助言・勧告を行うことができるように、市町村職員を対象とした研修を引き続き行う。さらに、土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の開発の許可制等を通じて高齢者等の安全が確保されるよう、土砂災害防止法に基づき区域指定の促進を図る。
住宅火災で亡くなる高齢者等の低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動において、高齢者等の要配慮者の把握や安全対策に重点を置いた死者発生防止対策を図るとともに、住宅用火災警報器や防炎品、住宅用消火器の普及促進等総合的な住宅防火対策を推進する。また、「老人の日・敬老の日に『火の用心』の贈り物」をキャッチフレーズとする「住宅防火・防災キャンペーン」を実施し、高齢者等に対して住宅用火災警報器等の普及促進を図る。
災害情報を迅速かつ確実に伝達するため、全国瞬時警報システム(Jアラート)との連携を含め、防災行政無線による放送(音声)や緊急速報メールによる文字情報等の種々の方法を組み合わせて、災害情報伝達手段の多重化を引き続き推進する。
山地災害からの生命の安全の確保に向け、要配慮者利用施設に隣接する山地災害危険地区等について、情報提供等のソフト対策と治山施設の設置等を一体的に実施する。
災害時に自ら避難することが困難な高齢者などの避難行動要支援者への避難支援等については、「災害対策基本法」、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を踏まえ、市町村による避難行動要支援者名簿や個別避難計画の作成・更新、活用等の取組が促進されるよう、適切に助言を行う。
エ 東日本大震災への対応
東日本大震災に対応して、復興の加速化を図るため、被災した高齢者施設等の復旧に係る施設整備について、関係地方公共団体との調整を行う。
「地域医療介護総合確保基金」等を活用し、日常生活圏域で医療・介護等のサービスを一体的・継続的に提供する「地域包括ケア」の体制を整備するため、都道府県計画等に基づき、地域密着型サービス等、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行う。
あわせて、介護保険制度において、被災者を経済的に支援する観点から、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う帰還困難区域等、上位所得者層を除く旧避難指示区域等(平成25年度以前に指定が解除された旧緊急時避難準備区域等(特定避難勧奨地点を含む。)、平成26年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域等(田村市の一部、川内村の一部及び南相馬市の特定避難勧奨地点)、平成27年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域(楢葉町の一部)、平成28年度に指定が解除された旧居住制限区域等(葛尾村の一部、川内村の一部、南相馬市の一部、飯舘村の一部、川俣町の一部及び浪江町の一部)、平成29年度に指定が解除された旧居住制限区域等(富岡町の一部)、令和元年度に指定が解除された旧帰還困難区域等(大熊町の一部、双葉町の一部及び富岡町の一部)、令和4年度に指定が解除された旧特定復興再生拠点区域(葛尾村の一部、大熊町の一部、双葉町の一部及び浪江町の一部)及び令和5年度に指定が解除された旧特定復興再生拠点区域(富岡町の一部及び飯舘村の一部))の住民について、介護保険の利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を1年間継続する。
なお、当該財政支援については、「「第2期復興・創生期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針」において、「避難指示解除の状況も踏まえ、適切な周知期間を設けつつ、激変緩和措置を講じながら、適切な見直しを行う」こととされたところ、関係自治体の意見を踏まえ、
- 避難指示解除から10年程度で特例措置を終了すること
- 避難指示解除の時期にきめ細かく配慮し、対象地域を分けて施行時期をずらすこと
- 急激な負担増とならないよう、複数年かけて段階的に見直すこと
といった方針に基づき、令和5年度以降順次見直しを行っていくこととしている。
また、避難指示区域等の解除に伴い、福祉・介護サービスの提供体制を整えるため、介護施設等への就労希望者に対する就職準備金の貸付け、相双地域から福島県内外の養成施設に入学する者への支援等や全国の介護施設等からの応援職員の確保に対する支援を行うとともに、介護施設等の運営に対する支援を行う。
法テラスでは、コールセンターや被災地出張所等において、生活再建に役立つ法制度等の情報提供業務及び民事法律扶助業務を通じて、震災により経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者の支援を行う。
(4) 成年後見制度の利用促進
認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度について周知する。
成年後見制度の利用促進については、令和4年3月に閣議決定した「第二期成年後見制度利用促進基本計画」に基づき、成年後見制度等の見直しに向けた検討、総合的な権利擁護支援策の充実、成年後見制度の運用改善等、権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりに積極的に取り組む。