第3章 令和7年度高齢社会対策(第2節 1)

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第2節 分野別の高齢社会対策(1)

1 就業・所得

(1) 年齢に関わりなく希望に応じて働くことができる環境の整備

① 高齢期を見据えたスキルアップやリ・スキリングの推進

職業訓練の実施や職業能力の「見える化」を推進するとともに、職業人生を通じたキャリア形成や学び・学び直しの支援に向けて、労働者のキャリアプラン再設計や企業内の取組の支援を行うキャリア形成・リスキリング推進事業において、労働者等及び企業に対しキャリアコンサルティングを中心とした総合的な支援を引き続き実施する。

また、在職中も含めた学びの促進のため、教育訓練給付制度の活用により、労働者個人の主体的な能力開発・キャリア形成を引き続き支援するとともに、令和6年5月に成立した改正雇用保険法において、令和7年10月より、雇用保険被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるために賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金を創設する。併せて、令和7年10月より、雇用保険被保険者以外の者を対象に教育訓練費用と生活費を融資対象とするリ・スキリング等教育訓練支援融資事業を創設する。

令和4年10月から施行された改正職業能力開発促進法により法定化された都道府県単位の協議会において、地域の実情やニーズに即した公的職業訓練の設定や実施、職業訓練効果の把握、検証等を引き続き実施する。

生涯学習のニーズの高まりに対応するため、大学においては、社会人選抜の実施、夜間大学院の設置、昼夜開講制の実施、科目等履修生制度の実施、長期履修学生制度の実施等を引き続き行い、履修形態の柔軟化等を図って、社会人の受入れを一層促進する。また、大学等が、その学術研究・教育の成果を直接社会に開放し、履修証明プログラムや公開講座を実施する等高度な学習機会を提供することを促進する。

放送大学においては、テレビ・ラジオ放送やインターネット等の身近なメディアを効果的に活用して、幅広く大学教育の機会を国民に提供する。

さらに、高等教育段階の学習機会の多様な発展に寄与するため、短期大学卒業者、高等専門学校卒業者、専門学校等修了者で、大学における科目等履修生制度等を利用し一定の学習を修めた者については、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構において審査の上、「学士」の学位授与を行う。

② 企業等における高齢期の就業の促進

ア 知識、経験を活用した高齢期の雇用の確保

高年齢者雇用安定法では、事業主に対して、高年齢者雇用確保措置を講ずる義務及び高年齢者就業確保措置を講ずる努力義務を定めており、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導等を実施するほか、高年齢者就業確保措置については、適切な措置の実施に向けた事業主への周知啓発を実施する。

また、令和3年4月から高年齢者就業確保措置が努力義務とされたことを踏まえ、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の70歳雇用推進プランナー等により、高年齢者就業確保措置に関する技術的事項についての相談・助言を行う。

労働施策総合推進法第9条に基づき、労働者の一人一人により均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行う。また、企業における高年齢者の雇用を推進するため、65歳以上の年齢への定年延長や66歳以上の年齢への継続雇用制度の導入又は他社による継続雇用制度の導入を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の見直し又は導入等や高年齢の有期雇用労働者を無期雇用労働者に転換する事業主に対する支援を実施する。また、継続雇用延長・定年引上げに係る具体的な制度改善提案を実施し、企業への働きかけを行う。加えて、日本政策金融公庫(中小企業事業)の融資制度(地域活性化・雇用促進資金)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用等を行う事業者に対しては、当該制度の利用に必要な雇用創出効果の要件を緩和(2名以上の雇用創出から1名以上の雇用創出に緩和)する措置を継続する。

地域における高齢者の就業促進に当たり、地方公共団体の意向を踏まえつつ、都道府県労働局と地方公共団体が一体となって地域の雇用対策に取り組むための雇用対策協定の活用を図る。

高年齢労働者が安心して安全に働ける職場づくりや労働災害の防止のため、エイジフレンドリーガイドラインの周知を行う。また、高年齢労働者の安全・健康確保の取組を行う中小企業等に対し、エイジフレンドリー補助金による支援を行うとともに、労働災害防止団体による個別事業場支援の利用勧奨を行うことで、高年齢労働者の安全衛生対策を推進する。また、高年齢労働者の特性に応じた作業環境の改善等の措置を事業者の努力義務とし、事業場が実施すべき事項について、国が指針を定めること等を内容とする「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」を令和7年3月に国会に提出した。

公務部門における高齢者雇用において、国家公務員については、定年を段階的に引き上げて65歳とすることとされたところであり、シニア職員の具体的な職務付与等について、引き続き、「国家公務員の定年引上げに向けた取組指針」を踏まえた取組を進める。また、定年引上げに伴う経過措置として暫定再任用制度を適切に運用することにより、65歳までの雇用確保に引き続き努める。

地方公務員についても、国家公務員と同様に、定年を段階的に引き上げて65歳とすることとされたところであり、高齢期職員の具体的な職務付与、モチベーション維持のための取組、周囲の職員も含めた職場環境の整備等について、定年引上げの適切かつ円滑な運用に向けて、引き続き必要な助言等を行う。

イ ゆとりある職業生活の実現等

労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るため、引き続き、労働時間等設定改善指針の周知・啓発や、企業における働き方・休み方の改善に向けた検討を行う際に活用できる「働き方・休み方改善ポータルサイト」による情報発信などにより労使の自主的な取組を支援するほか、年次有給休暇の取得促進や、勤務間インターバル制度の導入促進等を行う。

③ 高齢期のニーズに応じた多様な就業等の機会の提供

ア 多様な形態による就業機会・勤務形態の確保
(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備

働く意欲がある高年齢者へ多様な働き方を提供するために、70歳までの就業確保を事業主の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月に施行された。従来の定年引上げや継続雇用制度の導入等に加えて、雇用以外で働く機会を提供する創業支援等措置を導入することで働き方の選択肢を増やし、今後も高齢者の就業促進をより一層図っていく。

地域における高年齢者の多様な雇用・就業機会の創出を図るため、地方公共団体を中心とした協議会が行う高年齢者の就労支援の取組と地域福祉・地方創生等の取組を一体的に実施する生涯現役地域づくり環境整備事業を実施し、先駆的なモデル地域の取組の普及を図る。

シルバー人材センター事業について、人手不足の悩みを抱える企業を一層強力に支えるため、シルバー人材センターによるサービス業等の人手不足分野や現役世代を支える分野での就業機会の開拓・マッチング等を推進するとともに、特に、介護分野の人材確保支援及び高年齢者の一層の活躍を促進し高年齢者の生きがいの充実、社会参加への促進等を図る。

労働者協同組合制度について、引き続き、セミナー等による制度の周知やモデル事業を通じた制度の活用促進に取り組むことで、高齢者がこれまでの豊富な経験を活かし、地域のニーズに応じた働く場を創出する取組の促進を図る。

さらに、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に向けて、引き続きパートタイム・有期雇用労働法違反が認められる企業に対しては是正指導を行い、法違反に当たらないものの、改善に向けた取組が望まれる企業に対しては、具体的な助言を行いつつ、支援ツール等を活用し、企業の制度等の見直しを検討するように促し、同法の着実な履行確保を図る。引き続き、労働基準監督署と都道府県労働局が連携し、同一労働同一賃金の更なる遵守の徹底に取り組む。加えて、企業における非正規雇用労働者の待遇改善等を支援するため、平成30年度より47都道府県に設置している「働き方改革推進支援センター」において、労務管理等の専門家による無料の個別相談支援やセミナー等を引き続き実施する。あわせて、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」制度の導入・定着を図るため、引き続き、「多様な正社員」制度導入支援セミナーや「多様な働き方の実現応援サイト」での好事例の周知、企業への社会保険労務士などによる導入支援等を実施する。

そのほか、副業・兼業については、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」等の周知を引き続き実施するとともに、公益財団法人産業雇用安定センターにおいて、「副業・兼業に関する情報提供モデル事業」を引き続き実施することにより、副業・兼業への取組の拡大を図る。

(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の普及

テレワークが高齢者等の遠隔型勤務形態に資するものであることから、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を関係府省庁が連携して推進する。

具体的には、適正な労務管理下におけるテレワークの導入・定着促進を図るため、引き続き、テレワークに関する労務管理とICTの双方についてワンストップで相談できる窓口での相談対応や、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の周知、中小企業事業主に対するテレワーク勤務制度導入への助成、情報セキュリティに関するガイドラインの周知を行うとともに、事業主等を対象としたセミナー等の開催、中小企業を支援する団体と連携した全国的なテレワーク導入支援制度の構築、テレワークに先進的に取り組む企業等に対する表彰の実施、「テレワーク月間」等の広報を実施する。

また、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握を行う。

イ 高齢者等の再就職の支援・促進

「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、求職活動支援書の交付を希望する高年齢離職予定者に対して必ず事業主が交付するよう公共職業安定所において指導・助言を行う。求職活動支援書の作成に当たって、ジョブ・カードを活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促す。

公共職業安定所において、特に65歳以上の高年齢求職者を対象に、本人の状況に即した職業相談や職業紹介、求人開拓等の支援を行う生涯現役支援窓口を設置するとともに、当該窓口において、高年齢求職者を対象とした職場見学、職場体験等を実施する。また、常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により一定期間試行雇用した事業主に対する助成措置(トライアル雇用助成金)や、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施する。

さらに、再就職が困難である高年齢者等の円滑な労働移動を実現するため、早期再就職支援等助成金(再就職支援コース)により、離職を余儀なくされる高年齢者等の再就職を民間の職業紹介事業者に委託した事業主に対して助成措置を実施するほか、早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)により、高年齢者等を早期に雇い入れるとともに、前職よりも賃金を5%以上上昇させた事業主に対して助成措置を実施し、賃金上昇を伴う労働移動の促進を図る。あわせて、早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)により中途採用者の能力評価、賃金、処遇の制度を整備した上で、45歳以上の中高年齢者の中途採用率等を拡大させるとともに、当該45歳以上の中高年齢者の賃金を前職よりも5%以上上昇させた事業主に対して助成額を増額し、中高年齢者の賃金上昇を伴う労働移動の促進を図る。また、高年齢退職予定者のキャリア情報等を登録し、その能力の活用を希望する事業者に対してこれを紹介する「高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業」を公益財団法人産業雇用安定センターにおいて実施し、高年齢者の就業促進を図る。

ウ 高齢期の起業の支援

日本政策金融公庫において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度により開業・創業の支援を行う。

(2) 公的年金制度の安定的運営

ア 働き方の多様化や高齢期の長期化・就労拡大に対応した年金制度の構築

社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方等に中立的で、ライフスタイル等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再分配機能の強化等により高齢期における生活の安定を図るため、更なる被用者保険の適用拡大等の内容を盛り込んだ「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(以下「令和7年年金改正法案」という。)を第217回国会に提出した。

イ 年金制度等の分かりやすい情報提供

年金制度の意義や基本的な仕組みとともに、短時間労働者等への被用者保険の適用拡大による被保険者のメリット等について、国民に分かりやすい周知・広報に努める。また、若い人たちに年金について考えるきっかけとしてもらうため「学生との年金対話集会」に取り組む。さらに、令和6年の財政検証で初めて行った個人単位の年金額の推計や、利用者の働き方等に対応した将来受け取る年金額の見通しを「見える化」する公的年金シミュレーターを積極的に周知していくとともに、公的年金シミュレーターについて、利用者のニーズ等を踏まえて改善や機能追加を検討する。

また、「ねんきん定期便」については、老後の生活設計を支援するため、令和2年年金改正法による年金の繰下げ受給の上限年齢の引上げを踏まえた年金額増額のイメージ等について、引き続き分かりやすい情報提供を行う。

(3) 高齢期に向けた資産形成等の支援

ア 資産形成等の促進のための環境整備

勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進する。

企業年金・個人年金制度については、iDeCoの加入可能年齢の上限の70歳未満への引上げ等の措置を講ずる令和7年年金改正法案を第217回国会に提出した。また、iDeCoについて、更なる普及を図るため、各種広報媒体を活用した周知・広報を行うとともに、「令和7年度税制改正の大綱」を踏まえ、iDeCoの拠出限度額の引上げ等について、必要な法令改正等を行う。退職金制度については、中小企業における退職金制度の導入を支援するため、中小企業退職金共済制度の普及促進のための施策を実施する。

このほか、NISAに関して、更なる普及や適切な活用促進のための施策を実施する。

イ 資産の有効活用のための環境整備

住宅金融支援機構において、高齢者が住み替え等のための住生活関連資金を確保するために、リバースモーゲージ型住宅ローンの普及を促進する。

低所得の高齢者世帯が安定した生活を送れるようにするため、各都道府県社会福祉協議会において、一定の居住用不動産を担保として、世帯の自立に向けた相談支援に併せて必要な資金の貸付けを行う不動産担保型生活資金の貸与制度を実施する。

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