第3章 令和7年度高齢社会対策(第2節 5)
第2節 分野別の高齢社会対策(5)
5 研究開発・国際展開等
(1) 高齢社会に資する研究開発等の推進
① 高齢者等のサポートに係る技術の開発や社会実装等の推進
ア 先進技術の活用及び高齢者向け市場の活性化
公的保険外の予防・健康管理サービス等の振興及び社会実装に向けた取組を、需要側・供給側の両面から一体的に進めていく。
需要面においては、企業等の健康投資・健康経営を促すため、健康経営顕彰制度等を通じて健康経営の普及促進を図るとともに、資本市場や労働市場等において健康経営が適切に評価されるための効果の可視化や質向上、健康経営を支える産業の創出に向けた検討や国際展開の推進、健康経営の社会への浸透定着に向けた中小企業への普及検討等を行う。また、ヘルスケア分野におけるPFS/SIBの活用促進を行う。
供給面においては、PHRを活用し、個人に最適化されたサービスの創出やそのために必要となる事業環境の整備を引き続き実施する。具体的には、介護予防分野や多職種連携におけるユースケース創出に向けた実証事業を実施する。持続的な介護保険外サービス振興に向けては、地域属性を踏まえた民間企業との連携を促す。加えて、ヘルスケアサービスの信頼性確保に向けて、業界自主ガイドラインの策定支援や、AMEDによる、認知症等の疾患領域の学会を中心とした指針の整備・普及・社会実装の支援を実施する。また、ヘルスケア分野のベンチャー企業等のためのワンストップ相談窓口として令和元年7月に開設したInnoHubを通じて、イノベーション創出に向けた事業化支援やネットワーキング支援等を実施するほか、令和6年度に選定したエビデンス・ビジネスモデル構築等の社会実装支援を担う拠点と連携することでヘルスケアスタートアップ振興を図る。
高齢者事故対策や移動支援等の諸課題の解決に向け、高齢者事故防止を目的とした安全運転支援技術の普及啓発及び性能向上や、自動運転の高度化や自動運転移動サービスの全国各地の普及拡大に向けた取組に対する支援を行うほか、自動運転移動サービスの導入を目指す地方公共団体と連携し、自動運転車に対する道路インフラからの適切な情報提供に関する実証実験に取り組む。
生産性向上の取組等による職場環境の改善等を推進する観点から、協働化・大規模化への支援、地域の実情に応じた介護テクノロジーの導入支援及び伴走支援、DX人材の育成等の取組を引き続き進めるとともに、全都道府県へのワンストップ型の総合相談センターの設置を進める。
また、介護テクノロジーの開発・普及の加速化を図るため、従来の開発・実証・普及広報のプラットフォームを発展的に見直し、CARISO(CARe Innovation Support Office)を立ち上げ、スタートアップ支援を専門的に行う窓口設置を含め、研究開発から上市に至るまでの各段階で生じた課題等に対する総合的な支援を行う。そのほか、認知症になってからも自分らしく暮らし続けられるよう、認知症当事者の真のニーズをとらえた製品・サービス開発を行う「当事者参画型開発」を推進し、開発された製品・サービスの普及拡大を行う。
イ 医療・リハビリテーション・介護関連機器等に関する研究開発
高齢者等の自立や社会参加の促進及び介護者の負担の軽減を図るためには、高齢者等の特性を踏まえた福祉用具や医療機器等の研究開発を行う必要がある。
福祉や医療に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進、福祉用具・医療機器の民間やアカデミアによる開発の支援等を行う。例えば、医療機器等研究成果展開事業を実施し、大学・企業・臨床の連携を通じ、医療現場のニーズに応じた本格的な医療機器開発への橋渡しを支援するとともに、若手・女性研究者等に対する人材育成を推進している。
日本が強みを持つロボット技術や診断技術等を活用して、低侵襲の治療装置や早期に疾患を発見する診断装置等、世界最先端の革新的な医療機器・システムの開発・実用化を推進する。さらに、日本で生み出された基礎研究の成果等を活用し、高齢者に特徴的な疾病等の治療や検査用の医療機器、遠隔や在宅でも操作しやすい医療機器の研究開発・実用化を推進する。また、関係各省や関連機関、企業、地域支援機関が連携し、開発初期段階から事業化に至るまで、切れ目なく支援する「医療機器開発支援ネットワーク」を通じて、中小企業またはスタートアップと医療機関等との医工連携により、医療現場が抱える課題を解決する医療機器の開発・事業化を引き続き推進する。また、「優れた医療機器の創出に係る産業振興拠点強化事業」を通じて、医療機器創出に携わる企業等の人材の育成、リ・スキリングやスタートアップ企業の伴走支援等を行う医療機器産業振興拠点の更なる充実・強化を図る。さらに、介護現場の課題を解決する介護テクノロジーの開発を支援するとともに、引き続き施設等の課題に応じた介護DXパッケージモデルの確立や導入効果をユーザーに提示して関心喚起を促すエビデンス構築等の支援を行う。こうした事業をAMEDを通じて実施する。
また、NEDOでは、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に基づき、スタートアップ等による研究開発を促進し、その成果を円滑に社会実装することによって、我が国のイノベーション創出を促進する新SBIR制度の下、高齢者及び障害のある人の自立支援や介護者の負担軽減につながる福祉機器の開発に対する支援を引き続き行う。
NIBNでは、患者の診療や検体情報をリアルタイムで収集、AI解析することで、患者を層別化し、創薬に有用なマーカーの特定や患者への情報還元が可能なプラットフォーム構築を進める。
ウ 情報通信の活用等に関する研究開発
高齢者等が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため、引き続き、高齢者等向けの通信・放送サービスの充実に向けた、新たなICT機器・サービスの研究開発を行う者に対する助成を行う。
エ 医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進
日々の活動から得られるPHRデータを医療現場での診療に活用することで、医療の高度化や診察内容の精緻化を図るため、各種PHRサービスから医師が求めるPHRデータを取得するために必要なデータ流通基盤を改良・高度化するための研究開発を、引き続き実施する。
② 高齢期にかかりやすい疾病等及び健康増進に関する研究開発等
高齢者の健康保持等に向けた取組を一層推進するため、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)、要介護状態になる要因の一つである認知症等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を推進する。
新興感染症や自然災害の発生に備え、平時からの保健・医療・介護に関する情報収集・分析等公衆衛生領域等の調査研究について検討する。
高齢者が罹患しうる疾患を含めた難病の病因や病態を解明し、難病の患者を早期に正しく診断し、効果的な治療が行えるよう研究開発の推進を図る。
このほか、ヘルスケアサービスの信頼性確保に向けて、認知症やフレイル等の高齢者が罹患しうる疾患領域の学会が作成した予防・健康づくりの医学会指針を、事業者が利活用できるよう、AMEDの支援を通じて普及・整備を行う。
③ 高齢社会対策の総合的な推進のための調査分析・データ等の利活用
ア 高齢社会対策の総合的な推進のための調査分析
高齢社会対策基本法に定められた基本的施策に沿ったテーマを中心に、高齢社会対策総合調査を行っており、高齢者の意識や実態に関する調査を実施する。
また、JSTが実施する社会技術研究開発事業において、高齢者の社会的孤立・孤独の予防に向けて、高齢者向けの新たな居場所の立ち上げ、リアルとバーチャルなコミュニティ・ネットワーク形成、ボランティア活動を通じて社会参加を促すシステムの構築等の研究開発を引き続き実施する。
イ データ等利活用のための環境整備
急速な人口構造の変化等に伴う諸課題に対応するため、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づき、官民データの利活用を推進する。
(2) 健康・医療産業の国際展開及び国際社会への知見等の発信
① 健康・医療産業の国際展開
我が国は、G7、G20、TICAD、WHO総会、WHO西太平洋地域委員会、国連総会等の国際的な議論の場において、UHC推進を積極的に主張してきた。UHCにおける基礎的な保健サービスには、母子保健、感染症対策、高齢者の地域包括ケアや介護等、全てのサービスが含まれている。世界的な高齢化が加速する中で、高齢者に対する様々なリスクに対し、高齢者が身体的・精神的健康を享受する権利を守るために、今後も、高齢社会対策や社会保障制度整備において、専門家の派遣、研修、技術協力プロジェクト等の取組を通じて、日本の経験・技術・知見を活用した協力を引き続き行っていく。
また、令和5年G7首脳宣言において、「ファイナンス、知見の管理、人材を含むUHCに関する世界的なハブ機能」の重要性が確認されたことを受け、WHOや世界銀行等の国際機関と連携しながら、少子高齢化に対応しつつ質の高いUHCを維持している日本の知見や経験も活用して、途上国の財務・保健当局の人材育成を行う世界的な拠点、「UHCナレッジハブ」を令和7年に我が国に設置するための調整を進めている。
アジア健康構想に基づく各国とのヘルスケア分野における協力覚書に基づき、高齢化対策に関連する事業ベースでの一層の協力に向けた環境整備の推進に向け、引き続き具体的な検討及び取組を進めていく。
さらに、介護ロボットやICT等のテクノロジーについて、各国の制度や背景を踏まえ、海外での販売や規制の承認といった具体的な成果創出に向けた実効性の検証等を支援することで、海外展開を促進し、世界市場の獲得を引き続き目指す。
医療機器の海外展開に向けて、当初より海外展開を見据えた医療機器の研究開発を行う企業に対する開発支援や、海外展開に必要となるネットワーク構築支援を行う。
福祉用具等の開発・普及を促進するためには、安全性を含めた品質の向上とともに公正なルール形成や市場基盤創造に資する観点から標準化が重要であり、関連するJISの開発や国際標準化活動を推進する。
② 国際社会への知見等の発信
各分野における閣僚級国際会議等の二国間・多国間の枠組み等を通じて、世界で最も高齢化が進んでいる日本の経験や知見及び課題を発信するとともに、高齢社会に伴う課題の解決に向けて諸外国と政策対話や取組を進めていく。特に、具体的な取組に関心のある国においては、アジア健康構想及びアフリカ健康構想の下、予防・リハビリテーション・自立支援等、我が国が培ってきた様々な高齢社会対策の知見・経験を相手国の実情とニーズに見合う形で紹介するとともに、政策対話を実施し、当該相手国との連携体制の構築を推進する。
諸外国の高齢化に伴い増加するがん、循環器病、糖尿病等、我が国が研究・知見の蓄積を有する分野での保健課題に関する取組を推進し、世界におけるUHCの達成や令和7年4月のJIHS設立を始めとした、パンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防、備え及び対応(PPR)を強化する。
各国政府のリーダーシップの下、多分野におけるマルチステイクホルダーの関与・連携を進めることが期待される中、我が国はWHOやUNFPAなどの国際機関とも協働しながら、その知見を共有し、国際社会の連携強化を目指していく。
既存のヘルスケア分野における協力覚書に基づき、相手国と確認した事項を一層深化・推進していくこととし、その他の国々とも、アジア健康構想やグローバルヘルス戦略に基づき、協力の推進に向けた取組を行っていく。
引き続き、国際会議等の二国間・多国間の枠組みを通じて、我が国の高齢対策の経験や知見等を国際社会に発信するとともに、高齢社会に伴う課題の解決に向けて諸外国と政策対話や取組を進めていく。