交通事故の被害・損失の経済的分析に関する調査研究 報告書

平成19年3月
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)

交通事故の被害・損失の経済的分析に関する調査研究の委員名簿
  氏名 役職名
座長 金本 良嗣 東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科教授(*)
委員 赤羽 弘和 千葉工業大学工学部建築都市環境学科教授
鹿島 茂 中央大学理工学部土木工学科交通計画研究室教授(*)
栗山 浩一 早稲田大学政治経済学術院教授(*)
岸本 充生 独立行政法人産業技術総合研究所(*)
化学物質リスク管理研究センターリスク管理戦略研究チーム
田和 淳一
(坂本 仁一)
社団法人日本損害保険協会
業務企画部企画・安全技術グループ
園 高明 日弁連交通事故相談センター常務理事
行政委員 高橋 広幸 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(交通安全対策担当)
横山 雅之
(石井 隆之)
警察庁交通局交通企画課長
大野 祐司 国土交通省総合政策局総務課交通安全対策室長
尾藤 勇 国土交通省道路局地方道・環境課道路交通安全対策室長
蒲生 篤実
(藤井 直樹)
国土交通省自動車交通局保障課長
(注)
括弧内は前任者。順不同。
(*)印の委員は平成17年度ワーキンググループ参加者。

目次

第1章 序論

第1節 調査研究の目的

これまで、内閣府(平成12年以前は総務庁)では、効果的な交通安全対策の策定及び交通安全に関するより効果的な啓発に資するため、

  • 交通事故の経済的側面に着目した分析手法に関する調査研究(平成7・8年度)
  • 交通事故による経済損失に関する研究(平成13年度)

を実施し、交通事故1件当たりの損失額及び交通事故によるマクロの経済的損失の算定を行ってきた。

今回の調査においては、

  1. 従来の調査手法の検討を行った上、最新のデータに基づき、従来の調査手法による交通事故の金銭的損失を算定するとともに
  2. 従来の手法では諸外国と比較して交通事故による死者1名当たりの損失額が大幅に低い額となっていることから、前回調査で検討課題となっていた損失の算定範囲の見直しを行い、非金銭的損失である「死傷損失」も包含した交通事故による損失の算定手法について調査検討を行う

ことにより、今後の交通安全対策の重点化・効率化の検討に関しての基礎資料とすることを目的とする。

なお、「死傷損失」を包含した交通事故による損失の算定手法について調査検討を行うに当たって、前回調査からの用語体系を見直した。括弧内は前回調査において使用していた用語である。

交通事故による損失フロー

第2節 調査研究の概要

上記の目的に照らして、大きく分けて次の2点について調査研究を行った。

  1. 前回調査手法の検討・検証と最新データによるアップデート
  2. 損失の算定範囲の見直しとして「死傷損失」を包含した算定手法の検討

初年度となる平成17年度には(2)に関するアンケートの実施・分析を先行して実施した。平成18年度には、(1)を実施するとともに、最終的なとりまとめとして、「死傷損失」も包含した交通事故の損失の算定を行った。

第3節 調査研究の実施体制

本調査研究は、学識経験者及び関係省庁・関係機関担当者から構成される検討会を設置して行った。なお、平成17年度は上記(2)の専門的な内容についての検討を進めるため、金本委員(座長)、鹿島委員、栗山委員、岸本委員の4名からなるワーキンググループを中心に検討を行った。栗山委員には、アンケートの統計的分析にも多大なご協力を頂いた。

また、データの収集及び損失額の算定等に関する事務は株式会社野村総合研究所において実施した。

第4節 検討会の実施日程

平成18年度は検討会を4回開催して検討を行い、検討結果を報告書として取りまとめた。検討会の日程は次のとおりである。
第1回 平成18年7月24日
第2回 平成18年10月30日
第3回 平成18年12月25日
第4回 平成19年3月1日
(参考)平成17年度のワーキンググループの日程は以下のとおりである。
第1回 平成17年11月22日
第2回 平成17年12月27日
第3回 平成18年3月24日

第2章 交通事故による金銭的損失の定義、対象範囲等

第1節 金銭的損失の定義

今回の調査研究においては、「交通事故による金銭的損失」を以下のとおり定義し損失額の算定を行った。

「道路交通事故の発生により個人等の身体や財物が物理的な損傷を被ることにより、

  1. それらを事故直前の状態に原状復帰するのに要する因果関係が通常の範囲で妥当と考えられる直接的・間接的費用(再生費用)
  2. 事故による人身損傷の結果、将来にわたって発生する生産性の低下などの人的資源損失
  3. 事故に関連し発生する社会福祉費用、救急費用、車両・医療設備費用、裁判費用、保険運営費等(各種公的機関等の損失)

(すなわち、交通事故がなければ他の用途に振り向けられたであろう金銭的資源の消費、滅失及び性能低下をいう。)」

なお、金銭的損失は、前回調査の経済的損失の定義を踏襲している。

第2節 算定の対象範囲と追加的検討の結果

1 金銭的損失算定の対象範囲

検討会における検討結果に基づき、算定の対象範囲は基本的に前回調査と同範囲とした。具体的算定費目は図表2-1のとおりである。なお、前回調査と相違する部分には下線を付した。

また、人的損失等の算定に必要な損害保険データの最新版が平成16年のものであるため、算定の対象期間は平成16年(度)とした。

図表2-1 金銭的損失算定の対象範囲
損失の種別 算定費目
人的損失 治療関係費、休業損失、慰謝料、逸失利益等
物的損失 車両、構築物の修理、修繕、弁償費用
交通事故の人身・財物に係る
損失以外の諸費用
事業主体の損失 死亡、後遺障害、休業等による付加価値額低下分の損失
各種公的機関等の損失 救急搬送費 交通事故救急搬送に伴う人件費、機材費
警察の事故処理費用 事故処理に要する人件費
裁判費用 交通事故関係裁判の歳出額
訴訟追行1費用 交通事故関係裁判の弁護士の費用、印紙代
検察費用 交通業過2等事件処理に要する歳出額
矯正費用 交通事故関係収容者の矯正に要する歳出額
保険運営費 損害保険会社の事故調査費用
被害者救済費用 被害者救済機関の交通事故関連歳出額
社会福祉費用 交通事故後遺障害者関係の歳出額
救急医療体制整備費 救急医療体制の整備費
渋滞の損失 渋滞に伴う時間損失、走行経費損失
「人的損失」は、前回調査における「人身損失」の名称を変更したものである。

1 訴訟の目的を追い求め訴訟手続きを行うこと。

2 交通関係の業務上過失致死傷をいう。

2 追加的検討の結果

(1)介護費用について

前回調査において今後の課題とされた介護に要する費用について、算定手法の検討を行ったが、現時点では基礎データの不足により適切に算定することが困難であった。

一方で、自動車損害賠償保障法施行令等の改正により、平成14年4月から、介護を要する重度後遺障害者に対する自賠責保険限度額が引き上げられたこと(常時介護を要する者は3,000万円から4,000万円に、随時介護を要する者は2,590万円から3,000万円に引き上げ)などから、損害保険データ等に介護費用が徐々に反映されるようになっていると考えられる。

このため、今回の調査では、介護費用を別立てでは算定せず、損害保険データや被害者救済費用等に含まれている範囲で算入することとした。

(2)加害者の逸失利益について

検討会において、交通事故の加害者となることにより生じる損失(免職、収監、社会的信用低下等による逸失利益など)についても算定範囲に含めるべきか否か検討がなされた。

これまでの調査研究では、加害者あるいは被害者という分け方はせず、交通事故による損傷の有無や事故件数等を基に損失額の算定を行っているため、加害者についても、傷害を受けたことによる逸失利益や裁判費用等の直接的な金銭的損失の多くは算定範囲に含まれている。

一方で、特に加害者であることにより生じる二次的な損失(収監されることによる逸失利益など)を算入している例は諸外国においても見当たらず、また、算定が極めて困難であると考えられるため、今回は算定の対象とはしないこととした。

(3)渋滞の損失について

渋滞の損失については、これまでは東京都における渋滞損失額推計(平成4年)を基に全国の交通状況や事故件数を勘案して損失額を算定していたが、全国の状況をより反映した手法に改善するための検討を行った結果、国土交通省の費用便益分析マニュアル(平成15年8月、国土交通省道路局都市・地域整備局)の作成過程において算定された人身事故1件当たりの渋滞損失額を基に損失額を算定することとした。

なお、この手法は、渋滞により生じる時間損失(人、車両及び貨物の機会費用)及び走行経費損失(燃料費、油脂費、タイヤ・チューブ費、整備費及び車両償却費)を算定対象としており、人の時間損失と燃料費のみを対象とした前回調査とは厳密には算定範囲が異なっている。

第3章 人的損失額の算定

第1節 算定の方法

判例や損害保険等の実務上、交通事故損害賠償額の算定は、死亡、後遺障害、傷害別に行うことが通例であることから、本調査研究においてもこの区分を採用して損失額の算定を行った。

なお、後遺障害とは、症状固定後、事故以前の状態に復帰する見込みの無い損傷であり、傷害とは、後遺障害以外の損傷のことである。

各区分別の計算方法は以下のとおりである。

1 死亡による損失額の算定方法

(1)被害者数の算定

交通統計、厚生統計、損害保険関連統計から、最大の死亡者数を求める。

(2)被害者1名当たり人的損失額の算定

日本損害保険協会発行の資料から、年齢区分別の死亡者1名当たり人的損失額を算定する。なお、この数値の妥当性に関しては別途検証した上で使用する。検証方法に関しては参考資料1を参照のこと。

この死亡者1名当たり人的損失額を厚生統計の年齢区分別被害者数に乗じ総額を求めた上、被害者全数で除して、補正した死亡者1名当たり人的損失額を算定する。

この処理は、損害保険データは賠償データのため、過失100%の場合のデータが含まれないことに対する補正である。若年層ほどこのような事案が多いため年齢区分で補正する。

(3)人的損失額の算定

(1)×(2)により算定する。

2 後遺障害による損失額の算定方法

(1)被害者数の算定

交通統計、厚生統計、損害保険関連統計から、最大の後遺障害者数を求める。

(2)被害者1名当たり人的損失額の算定

日本損害保険協会発行の資料から、年齢区分別の後遺障害者1名当たり人的損失額を算定する。

交通統計の年齢区分別負傷者数に、損害保険データにおける年齢区分別の後遺障害者の構成割合(後遺障害者数と傷害者数の合計に対する後遺障害者数の比率)を乗じて、年齢区分別の後遺障害者数を求める。なお、このように算定された後遺障害者数の合計値は、(1)の後遺障害者数とは異なるため、さらに補正係数を乗じて(1)の後遺障害者数に一致するように調整した。これに年齢区分別の後遺障害者1名当たり人的損失額を乗じ総額を求めた上、後遺障害者数合計で除して、補正した後遺障害者1名当たり人的損失額を算定する。

なお、前回調査においては、後遺障害者数に交通統計における負傷者の年齢区分別構成割合を乗じた数値を使用している。より実態に近い数値を算定するために、今回調査では年齢区分別の計算方法に変更した。

(3)人的損失額の算定

(1)×(2)により算定する。

3 傷害による損失額の算定方法

(1)被害者数の算定

交通統計、厚生統計、損害保険関連統計から、最大の傷害者数を求める。

(2)被害者1名当たり人的損失額の算定

日本損害保険協会発行の資料から、年齢区分別の傷害者1名当たり人的損失額を算定する。

(3)人的損失額の算定

(1)×(2)により算定する。

第2節 死傷者数の算定

1 死者数の算定

交通事故死者数に関する統計としては、交通統計、厚生統計及び損害保険料率算出機構や日本損害保険協会等の保険・共済関連統計などがある。

交通統計でいう死亡とは、事故発生から24時間以内に死亡した者(重傷とは治療日数が1ヶ月以上の損傷を受けた者、軽傷とは治療日数が1ヶ月未満の損傷を受けた者)である。

厚生統計でいう死者数とは場所の如何を問わず自動車等が関与した交通事故の発生後1年以内に死亡した者の数である。

保険・共済関連統計は保険金や共済金が支払われた件数であり、当該年度に発生した事故とは限らないという特徴がある。また、保険・共済関連統計の場合には非賠償事案が含まれていない。

死傷者数を算定する際には、交通事故により損傷を受けた結果至った死傷事案毎に、可能な限り全数を網羅することが重要である。従って、今回の調査研究においては、前回調査と同様に、各統計の特徴および各統計中死者数が最大であることなどから考えて最も当該年の死者全数に近いと考えられる厚生統計を採用した。

図表3-1 交通統計及び厚生統計の交通事故死傷者数(平成16年)単位:人
  死亡 重傷 軽傷 負傷(重傷+軽傷)
交通統計 7,358 72,777 1,110,343 1,183,120
交通統計30日死者数 8,492      
厚生統計死者数 10,318      
参照資料
交通統計平成16年版、平成17年版(警察庁交通局)

なお1名当たり人的損失額の算定では年齢区分別の図表3-2の数値を用いた。図表3-2の死者数の合計は図表3-1と異なっているが、これは図表3-1に含まれる年齢不詳などの数値を除外したことによる。

図表3-2 厚生統計の年齢区分別交通事故死者数(平成16年)
  死者数(人) 増減率(%)
16年 11年
6歳以下 156 184 -15.2
7~12歳 109 145 -24.8
13~15歳 71 60 18.3
16~19歳 529 931 -43.2
20~24歳 619 1,079 -42.6
25~29歳 508 775 -34.5
30~34歳 481 505 -4.8
35~39歳 394 386 2.1
40~44歳 328 466 -29.6
45~49歳 413 658 -37.2
50~55歳 612 815 -24.9
55~59歳 741 984 -24.7
60~64歳 813 1,001 -18.8
65~69歳 873 1,102 -20.8
70~74歳 1,116 1,235 -9.6
75歳以上 2,546 2,513 1.3
全体 10,309 12,839 -19.7
参照資料
平成16年、平成11年人口動態統計(厚生労働省)

2 後遺障害者数、傷害者数の算定

後遺障害、傷害の区分は、保険・共済関連統計以外には存在していないため、前回調査と同様に、これらの統計の各数値を合算し、最も全数に近いと考えられる数値を採用することとした。

自賠責保険、自賠責共済、保障事業(ひき逃げ等)、自損事故(推定)などを合計した支払い件数は、図表3-3のようになっている。

後遺障害者数、傷害者数としては、図表3-3の合計値を採用することとした。

図表3-3 自賠責保険、自賠責共済等の支払い件数(平成16年度)単位:人
  死亡 後遺障害 傷害 負傷
(後遺障害+傷害)
自賠責保険 7,277 58,653 1,122,911 1,181,564
自賠責共済 569 3,104 59,416 62,520
保障事業(ひき逃げ、無保険) 122 219 4,413 4,632
自損事故(推定) 1,962 955 18,284 19,239
平成16年度計 9,930 62,931 1,205,024 1,267,955
平成11年度計 12,460 48,751 1,126,811 1,175,562
参照資料
自賠責保険~保障事業:自動車保険の概況16年度版(損害保険料率算出機構)
自損事故:損害保険各社の事業報告書、電話ヒアリングによる自損事故保険データ、自動車保険の概況16年度版(損害保険料率算出機構)データより推計。

(参考) 自損事故の推計方法

平成16年度損害保険各社の事業報告書ならびに電話ヒアリングより集計した自損事故保険の支払い件数21,201件を死亡・後遺障害・傷害別に按分し、損傷程度別自損事故被害者数を算定した。

a 死亡数の算定方法

自賠責保険の無責、対象外というデータ区分が自損事故に該当する。このデータ区分の16年度の件数(日本損害保険協会提供データ)は以下のとおり。

無責・対象外の被害者数(平成16年度)
死亡 傷害(含む後遺障害)
無責 435 無責 4,367
対象外 60 対象外 486
死亡計 495 傷害計 4,853
死亡割合 9.26% 傷害割合 90.74%

この死亡割合を自損事故保険の支払い件数に乗じて死亡の被害者数を算定すると1,962人となる。

b 後遺障害・傷害数の算定方法

後遺障害、傷害に関しては、自賠責保険の傷害、後遺障害の割合を使用する。自賠責データでは負傷者に占める後遺障害、傷害の割合は各々4.96%、95.03%である。

上表の傷害割合にこれらの割合を乗じて、後遺障害、傷害の死傷者に占める割合を求める。

この割合に自損事故保険の支払い件数を乗じると、後遺障害955人、傷害18,284人となる。

3 死傷者数のまとめ

以上の結果を集約すると図表3-4のようになる。平成16年(度)中の交通事故による死傷者は約128万人と推定される。

死亡・後遺障害・傷害別では、死亡が19.8%減少した一方、後遺障害が29.1%、傷害も6.9%増加しており、死傷者全体では5年間で7.6%増、約9万人増加した。

図表3-4 死亡、後遺障害、傷害別の被害者数 単位:人
  死亡 後遺障害 傷害 合計
平成16年 10,318 62,931 1,205,024 1,278,273
平成11年 12,858 48,751 1,126,811 1,188,420
増減率(%) -19.8 29.1 6.9 7.6

第3節 被害者1名当たり人的損失額

死亡、後遺障害、傷害別の1名当たり人的損失額(認定損害額ベース)は(社)日本損害保険協会のデータによれば図表3-5のようになっている。前回調査の平成11年度データと比較すると平成16年度は全般に減少している。これは、逸失利益算定の根拠となっている平均賃金の低下や算定方法がライプニッツ方式に統一されたことなどの影響によるものと考えられる。

図表3-5 1名当たり人的損失額(損害保険データ)単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害
平成16年 28,872 8,048 555
平成11年 32,185 11,584 652
増減率(%) -10.3 -30.5 -14.9
参照資料
自動車保険データに見る交通事故の実態2004年4月~2005年3月(日本損害保険協会)より人的損失額を被害者数で除して算定

損害保険データには非賠償事案が含まれないため、死亡及び後遺障害については、そのまま図表3-5の1名当たり人的損失額に被害者数を乗じて人的損失額を算出することは適当でない。

そこで、死亡及び後遺障害の場合は以下のように補正して使用する。

  1. 死亡、後遺障害別の年齢区分別1名当たり人的損失額(損害保険データ)を用意する。
  2. 1.に年齢区分別死者数(厚生統計)を乗じて合算し死亡の場合の人的損失額を算定する。
  3. 1.に年齢区分別の後遺障害者数を乗じて合算し後遺障害の場合の人的損失額を算定する。後遺障害者数は賠償外当事者を含む年齢区分別のデータが不在のため、交通統計の年齢区分別負傷者数に損害保険データにおける年齢区分別の後遺障害者の構成割合(後遺障害者数と傷害者数の合計に対する後遺障害者数の比率)を乗じた数値を、年齢区分別の後遺障害者数として使用する。なお、このように算定された後遺障害者数の合計値は、今回算定の後遺障害者数とは異なるため、さらに補正係数を乗じて今回算定の後遺障害者数に一致するように調整した。
  4. これらの人的損失額を死者数、後遺障害者数で割ると死亡、後遺障害の1名当たり人的損失額が算定される。

図表3-6の網掛け部分(最下段中央)が補正した1名当たり人的損失額である。

図表3-6 年齢区分別死傷者数・1名当たり人的損失額・人的損失額(平成16年度)
単位:死傷者数(人)、1名当たり人的損失額・人的損失額(千円)
年齢 死傷者数死亡は厚生統計後遺障害は推定値 1名当たり人的損失額
(損害保険データ(「全体」の欄を除く))
人的損失額(死傷者数×1名当たり人的損失額)
死亡 後遺障害 死亡 後遺障害 死亡 後遺障害
6歳以下 156 383 27,500 9,944 4,290,000 3,808,903
7~12歳 109 921 34,513 10,387 3,761,947 9,569,835
13~15歳 71 563 35,000 8,789 2,485,000 4,947,210
16~19歳 529 3,428 36,798 9,837 19,466,011 33,723,713
20~24歳 619 4,615 38,701 8,205 23,955,650 37,867,380
25~29歳 508 4,573 39,130 7,804 19,878,261 35,689,348
30~34歳 481 4,838 36,179 7,031 17,402,033 34,015,680
35~39歳 394 4,522 39,713 7,002 15,646,890 31,666,139
40~44歳 328 3,994 41,497 7,483 13,610,884 29,888,168
45~49歳 413 4,071 41,593 7,816 17,177,876 31,815,549
50~55歳 612 5,855 34,770 7,654 21,279,310 44,810,570
55~59歳 741 5,817 30,435 7,404 22,552,174 43,066,974
60~64歳 813 5,445 28,265 7,450 22,979,532 40,568,702
65~69歳 873 4,922 26,271 8,172 22,934,746 40,220,347
70~74歳 1,116 4,003 24,406 8,565 27,237,467 34,284,694
75歳以上 2,546 4,981 20,496 10,448 52,182,692 52,040,604
全体 10,309 62,931 29,764 8,072 306,840,473 507,983,816
参照資料
自動車保険データに見る交通事故の実態2004年4月~2005年3月(日本損害保険協会)より算定

賠償外当事者を含む場合は含まない場合と比較し、死亡の場合は893千円程度、後遺障害の場合は24千円程度1名当たり人的損失額が高いものと見積もられた。(図表3-7

図表3-7 1名当たり人的損失額の相違(平成16年度)単位:千円
  死亡 後遺障害
損害保険データ 28,872 8,048
補正後 29,764 8,072
差額 893 24

傷害に関しては、図表3-5の数値を使用した。以上をまとめると図表3-8となる。

図表3-8 死亡、後遺障害、傷害別の1名当たり人的損失額 単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害
平成16年度 29,764 8,072 555
平成11年度 33,515 11,517 652
増減額(%) -11.2 -29.9 -14.9

このように、平成11年度と比較し、死亡、後遺障害、傷害いずれにおいても1名あたり人的損失額は大幅に減少している。

人的損失額は損害保険データを基にして算定しているため、損害額の算定手法の変更や賃金など根拠となるデータの変動が人的損失額の増減に影響を与える。例えば死亡の場合については、逸失利益の算定方法がライプニッツ方式に統一されたこと(平成11年までは、より算定額が高くなるホフマン方式も使用されていた)や平均賃金が低下したことなどが人的損失額の減少の理由として考えられる。また、逸失利益が高い若年者層の被害者が減少した一方で、一般的に逸失利益が低く算定される高齢者層の被害者が増加したことも、平均の人的損失額が減少した要因と考えられる。

後遺障害の場合については、逸失利益算定方法の統一及び平均賃金の低下に加え、後遺障害の等級1~14級のうち慰謝料や労働能力喪失率(後遺障害により低下する労働能力の割合。逸失利益の算定に用いられる。)が最も低く設定されている14級の後遺障害者の比率が大幅に増加したことが、平均の損失額が大きく減少した要因と推測される。

さらに、傷害については、診療実日数や入院率の減少が損失額の減少につながったと考えられる。

(関連するデータについては参考資料2を参照。)

第4節 人的損失額の算定

第2節で求めた死傷者数に、第3節で補正した1名当たり人的損失額を乗じることにより、図表3-9が得られる。

死亡の人的損失額は人数が減少(12,839→10,318)したこと、および、1名あたり人的損失額が減少(33,515千円→29,764千円)したため総額も大幅に減少している。

後遺障害については人数は増加(48,751→62,931)したが、1名あたり人的損失額が大幅に減少(11,517千円→8,072千円)したため、総額は減少した。

傷害も人数は増加(1,126,811→1,205,024)したが、1名あたり人的損失額が大幅に減少(652千円→555千円)したため、総額は減少した。

図表3-9 死亡、後遺障害、傷害別の人的損失額 単位:百万円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷合計
平成16年度 307,108 507,984 668,868 1,483,960
平成11年度 430,936 561,447 734,472 1,726,855
増減額(%) -28.7 -9.5 -8.9 -14.1

第4章 物的損失額の算定

今回調査においても、人身事故死傷者を算定の基礎単位と考え、物的損失額の総額の把握に止まらず、その内訳である人身事故における物的損失額及び物損のみの事故における物的損失額の概算も実施した。

なお、前回調査までは物的損失額を車両と構築物に分けていたが、今回調査では元データ(社団法人日本損害保険協会提供)においてその区分が無かったため車両と構築物を分けた記載はしていない。

第1節 人身事故における物的損失額の算定

1 算定方法

人身事故の物的損失額の算定方法は下記のとおりである。

  1. 公表されている平成16年度の事故類型別の損害物1件当たりの物的損失額を用意する。
  2. 人対車両事故は損害保険データの損害物数を用い、それ以外については、交通統計の事故類型別事故件数を基に、横転・転落及びその他の車両単独事故に関しては損害物が1件発生、それ以外の事故類型に関しては損害物が2件発生と考えて、事故類型別の人身事故における損害物数を求める。
  3. 人身事故における事故類型別の損害物数に、事故類型別の損害物1件当たり物的損失額を乗じて、人身事故における事故類型別の物的損失額とその合計を算定する。
  4. 物的損失額の合計を交通統計の死傷者数で割り、1名当たり物的損失額を算定する。
  5. 1名当たり物的損失額に被害者数を乗じ、人身事故における物的損失額の総額を算定する。

2 損害物1件当たり物的損失額

平成16年度の事故類型別の損害物数、物的損失額、損害物1件当たり物的損失額は図表4-1のようになっている。

図表4-1 損害保険データにみる事故類型別・損害物1件当たり物的損失額
事故類型 損害物数(件) 物的損失額(百万円) 損害物1件当たり物的損失額(千円)
人対車両 63,360 3,295 52
車両相互事故 正面衝突 205,233 72,447 353
側面衝突 1,439,937 352,785 245
追突 1,889,938 500,834 265
後退時衝突 969,393 124,082 128
その他 620,830 140,928 227
車両相互事故小計 5,125,331 1,191,076 232
車両単独 構築物衝突 2,024,863 522,415 258
横転・転落 147,587 64,643 438
車両単独事故小計 2,172,450 587,058 271
合計 7,361,141 1,781,429 242
参照資料
自動車保険データに見る交通事故の実態2004年4月~2005年3月(日本損害保険協会)

3 人身事故における損害物数

(1)交通統計における事故類型別人身事故件数

交通統計による事故類型別の人身事故件数は図表4-2のとおりである。

前回調査と比較し、正面衝突、構築物衝突、駐停車車両衝突が減少しているが、それ以外の事故類型の事故は増加している。

図表4-2 事故類型別人身事故件数(平成16年)
事故類型 人身事故件数(件) 増減率(%)
平成16年度 平成11年度
人対車両 82,546 80,034 3.1
車両相互 正面衝突 28,227 32,802 -13.9
追突 297,182 252,049 17.9
出合頭衝突 251,601 228,134 10.3
右折時衝突 85,922 82,225 4.5
左折時衝突 46,839 40,424 15.9
追越時衝突 12,973 12,244 6.0
すれ違い時衝突 9,026 7,792 15.8
後退時衝突 19,212 12,158 58.0
その他 65,645 56,812 15.5
車両相互事故小計 816,627 724,640 12.7
車両単独 構築物衝突 23,865 24,478 -2.5
駐停車車両衝突 2,459 2,705 -9.1
横転・転落 20,016 15,252 31.2
その他 6,555 3,135 109.1
車両単独事故小計 52,895 45,570 16.1
踏切 123 119 3.4
合計 952,191 850,363 12.0
参照資料
交通統計平成16年版、平成11年版(警察庁交通局)

(2)事故類型別の人身事故における損害物数

人対車両事故の場合、物的損失が発生しないケースもあり、全人身事故件数に対し損害物が1件発生すると考えるのは不合理であるため、人対車両事故に関しては損害保険データの数値をそのまま用いることとする。

横転・転落及びその他の車両単独事故に関しては損害物が1件発生、人対車両事故は損害保険データの損害物数を使用、それ以外の事故類型に関しては損害物が2件発生すると考えて、交通統計の事故類型別事故件数から事故類型別の人身事故における損害物数を求めたのが図表4-3である。

人身事故の損害物数は約178万件と見積もられる。前回調査では約157万件と算定されており、約20万件程度の増加となっている。

図表4-3 事故類型別の人身事故における損害物数(平成16年)
事故類型 損害物数(件) 増減率(%)
平成16年度 平成11年度
人対車両 63,360 48,278 31.2
車両相互 正面衝突 56,454 65,604 -13.9
追突 594,364 504,098 17.9
出合頭衝突 503,202 456,268 10.3
右折時衝突 171,844 164,450 4.5
左折時衝突 93,678 80,848 15.9
追越時衝突 25,946 24,488 6.0
すれ違い時衝突 18,052 15,584 15.8
後退時衝突 38,424 24,316 58.0
その他 131,290 113,624 15.5
車両相互事故小計 1,633,254 1,449,280 12.7
車両単独 構築物衝突 47,730 48,956 -2.5
駐停車車両衝突 4,918 5,410 -9.1
横転・転落 20,016 15,252 31.2
その他 6,555 3,135 109.1
車両単独事故小計 79,219 72,753 8.9
踏切 246 238 3.4
合計 1,776,079 1,570,549 13.1

4 人身事故における物的損失額

図表4-1の損害物1件当たり物的損失額に図表4-3の損害物数を乗じて人身事故の場合の物的損失額を求める。

なお、計算に当たっては次のように数値を使用する。

  1. 人対車両、正面衝突、追突、後退時衝突、その他の車両相互衝突、構築物衝突、横転転落は損害保険データの数値をそのまま使用する。
  2. 出合頭衝突、右折時衝突、左折時衝突、追越時衝突、すれ違い時衝突には側面衝突のデータを使用する。
  3. 駐停車車両衝突は損害保険では車両相互に分類されるので車両相互事故の平均を使用する。
  4. その他の車両単独事故には車両単独事故の平均を使用する。
  5. 踏切には構築物衝突のデータを使用する。算定された事故類型別の人身事故の場合の物的損失額を図表4-4に示す。
図表4-4 事故類型別の人身事故における物的損失額(平成16年)単位:百万円
事故類型 人身事故における物的損失額
人対車両 3,295
車両相互 正面衝突 19,928
追突 157,506
出合頭衝突 123,284
右折時衝突 42,102
左折時衝突 22,951
追越時衝突 6,357
すれ違い時衝突 4,423
後退時衝突 4,918
その他 29,803
車両相互事故小計 411,273
車両単独 構築物衝突 12,314
駐停車車両衝突 1,141
横転・転落 8,767
その他 1,776
車両単独事故小計 23,999
踏切 63
合計 438,630

5 人身事故における死傷者1名当たり物的損失額と物的損失額の総額

図表4-4の合計値を死傷者数(交通統計)により除して下図表を得る。

図表4-5のように平成16年では36万8千円となっており、平成11年と比較し3万2千円の減少となっている。

図表4-5 死傷者1名当たり物的損失額(平成16年)
  平成16年 平成11年
交通統計の死傷者数(人) 1,190,478 1,059,365
死傷者1名当たり物的損失額(千円) 368 400
参照資料
交通統計平成16年版(警察庁交通局)

この数値に人的損失額において算定した被害者数を乗じ、人身事故の物的損失額を算定する。結果は図表4-6のとおりである。

被害者数は増加しているが、1名当たり物的損失額が減少したため、物的損失額全体は減少している。

図表4-6 人身事故の物的損失額
  平成16年 平成11年 増減額(%)
算定した被害者数(人) 1,278,273 1,188,420 7.6
物的損失額(百万円) 470,977 475,047 -0.9

第2節 物損のみの事故における物的損失額の算定

人身事故における物的損失額を事故全体の物的損失額から差し引くことにより、物損のみの事故における物的損失額を算定する。

1 人身事故と事故全体における損害物数と物的損失額

図表4-3の事故類型別の損害物数、図表4-4の事故類型別の物的損失額は、交通統計の事故件数を基にした推計値であるため、人的損失額において算定した被害者数(厚生統計などの合算値)に対応するよう補正する必要がある。補正は以下のように行った。

  1. 図表4-6の物的損失額から図表4-4の人対車両事故分を除いた数値」を「図表4-4の物的損失額合計から図表4-4の人対車両事故分を除いた数値」で除する。
  2. この数値を人対車両事故以外の損害物数および物的損失額に乗じる。(人対車両事故は元々損保データの全数のためそのまま用いる。)
図表4-7 人身事故と物損事故の損害物数と物的損失額
事故類型 損害物数(件) 物的損失額(百万円)
人身事故 人身事故と物損事故の合計 人身事故 人身事故と物損事故の合計
人対車両 63,360 63,360 3,295 3,295
車両相互 正面衝突 60,649 205,233 21,409 72,447
側面衝突 873,112 1,439,937 213,912 352,785
追突 638,529 1,889,938 169,210 500,834
後退時衝突 41,279 969,393 5,284 124,082
その他 146,329 620,830 33,243 140,928
車両相互事故小計 1,759,897 5,125,331 443,058 1,191,076
車両単独 構築物衝突 51,277 2,024,863 13,229 522,415
横転・転落 21,503 147,587 9,418 64,643
その他 7,042 1,908
車両単独事故小計 79,822 2,172,450 24,556 587,058
踏切 264 68
合計 1,903,344 7,361,141 470,977 1,781,429
(注)
合計の損害物数及び物的損失額は、図表4-1の再掲。

2 物損のみの事故における物的損失額

全体から人身事故のデータを差引き図表4-8を得る。

図表4-8 物損のみの事故の物的損失額
事故類型 物損事故のみの場合の損害物数(件) 物損事故のみの場合の物的損失額(百万円)
人対車両 0 0
車両相互 正面衝突 144,584 51,038
側面衝突 566,825 138,872
追突 1,251,409 331,624
後退時衝突 928,114 118,799
その他 474,501 107,685
車両相互事故小計 3,365,434 748,018
車両単独 構築物衝突 1,973,586 509,185
横転・転落 126,084 55,225
その他
車両単独事故小計 2,092,628 562,502
踏切
合計 5,457,797 1,310,451
注:
図表4-8の数値は図表4-7の人身事故と物損事故の合計のデータから人身事故のデータを差し引き計算した数値である。人身事故と物損事故の合計の事故類型には「車両単独事故のその他」と「踏切」が無いため図表中の各数値を合算しても、「車両単独事故小計」及び「合計」の数値とは一致しない。
図表4-9 物損のみの事故の損害物1件当たり物的損失額 単位:千円
  平成16年 平成11年 増減率(%)
物損のみの事故の損害物1件当たり物的損失額 240 267 -10.1

第3節 物的損失額の算定結果のまとめ

これまでの結果をまとめると図表4-10が得られる。

人身事故に伴う物的損失額は約4,710億円であり、物的損失額全体の26.4%は人身事故に伴い発生しているものと考えられる。

また、人身事故により死傷者1名当たり36万8千円の物的損失額が発生している。

図表4-10 損害物数と物的損失額(平成16年)
  人身事故 物損のみの事故 合計
物損事故(件) 1,903,344 5,457,797 7,361,141
1名(1件)当たり物的損失額(千円) 368 240
物的損失額(百万円) 470,977 1,310,451 1,781,428
物的損失額の構成割合(%) 26 74 100

前回調査と比較すると、1名(1件)当たり物的損失額が損害物数の増加分以上に減少したため、物的損失額全体では減少する結果となった。

図表4-11 前回調査との比較
  16年度 11年度 増減率(%)
損害物数(件) 人身事故 1,903,344 1,757,364 8.3
物損のみの事故 5,457,797 4,978,627 9.6
1名(1件)当たり物的損失額(千円) 人身事故 368 400 -7.9
物損のみの事故 240 267 -10.1
物的損失額(百万円) 人身事故 470,977 475,047 -0.9
物損のみの事故 1,310,451 1,329,053 -1.4

第5章 事業主体の損失の算定

第1節 算定方法

事業主体の損失は以下のように算定している。

なお、事業主体という観点から、学生、無職等は除外している。

(1) 被害者数の算定

交通統計の性・年齢別被害者数のデータを、今回算定した死亡、後遺障害、傷害別の最大の被害者数に一致するように補正する。

(2) 損失日数の算定

日本損害保険協会提供のデータなどから、死亡、後遺障害、傷害別に損失日数(就業不能の日数)を算定する。

(3) 付加価値額から人件費を差引いた数値の算定

財務省資料より業種別の付加価値額、人件費、就業者数を抽出し、「単位時間当たりの就業者1名当たり付加価値額-人件費」を算定する。

(4) 損失額の算定

(2)×(3)により損失額を算定する。

第2節 業種別死傷者数

交通統計の性・年齢別被害者数のデータは図表5-1のとおりである。

図表5-1 業種別の死傷者数(平成16年)単位:人
  死亡 負傷者
公務員等 116 34,469
農林水産業 412 14,527
鉱業 6 1,653
建築業 480 56,468
製造業 353 75,427
卸・小売業・飲食店 459 80,870
金融・保険業 21 10,668
不動産業 15 2,928
運輸通信業 388 49,563
電気・ガス・水道業 30 4,026
サービス業 1,398 394,438
平成16年計 3,678 725,037
平成11年計 4,891 650,467
増減率(%) -24.8 11.5
参照資料
交通統計平成16年版(警察庁交通局)

図表5-1の死亡と負傷者合計が今回算定した死亡者数と後遺障害者数+傷害者数に一致するように調整し、さらに負傷の数値に後遺障害と傷害の比率を乗じて、業種別の死亡・後遺障害・傷害別人数を算定した。

結果は図表5-2のとおりである。

図表5-2 業種別の死傷者数(平成16年)単位:人
  死亡 後遺障害 傷害 合計
公務員等 163 1,833 35,107 37,103
農・林・水産業 578 773 14,796 16,146
鉱業 8 88 1,684 1,780
建築業 673 3,004 57,513 61,190
製造業 495 4,012 76,823 81,330
卸・小売業・飲食店 644 4,302 82,367 87,312
金融・保険業 29 567 10,866 11,462
不動産業 21 156 2,982 3,159
運輸通信業 544 2,636 50,481 53,661
電気・ガス・水道業 42 214 4,101 4,357
サービス業 1,960 20,980 401,740 424,681
平成16年計 5,158 38,565 738,460 782,183
平成11年計 6,983 30,190 697,812 734,986
増減率(%) -26.1 27.7 5.8 6.4

第3節 業種別損失日数

損失日数は1名当たりの就業不能期間を死傷者数に乗じて算定する。就業不能期間は次のように設定する。算定結果は図表5-3のとおりである。

  • A 死亡:死亡の場合1年後には補充されると仮定し、事故発生後の1年間を就業不能期間とする。
  • B 後遺障害:後遺障害の場合配置転換などにより事業主体における損失は1年以内に抹消するものと仮定し、事故発生後の1年間の内労働能力喪失率の平均分を就業不能期間とする。平成16年度の労働能力喪失率の平均は17.35%3である。
  • C 傷害:診療実日数(実際に入院、通院した日数)を就業不能期間とする。平成16年度の診療実日数の平均は16.1日4である。

3 日本損害保険協会提供データ

4 日本損害保険協会提供データ

図表5-3 業種別損失日数(平成16年)単位:人年
  死亡 後遺障害 傷害 合計
公務員等 163 318 1,544 2,025
農・林・水産業 578 134 651 1,363
鉱業 8 15 74 98
建築業 673 521 2,530 3,724
製造業 495 696 3,379 4,570
卸・小売業・飲食店 644 746 3,623 5,013
金融・保険業 29 98 478 606
不動産業 21 27 131 179
運輸通信業 544 457 2,221 3,222
電気・ガス・水道業 42 37 180 260
サービス業 1,960 3,640 17,672 23,273
平成16年計 5,158 6,691 32,484 44,333
平成11年計 6,983 6,307 33,457 46,747
増減率(%) -26.1 6.1 -2.9 -5.2

第4節 就業者1名当たり生産関連指標

財務省資料より業種別の付加価値額、人件費、就業者数を抽出し、「単位時間当たりの就業者1名当たり付加価値額-人件費」を算定する。結果は図表5-4のとおりである。多くの業種において付加価値額が増加している一方で人件費が減少しているため、「付加価値額-人件費」は、例えば全業種平均で34.1%と大きく増加している。

公務員については付加価値額に相当する金額が不明のため空欄となっているが、例えば業務に精通している人材が事故により亡くなった場合、業務に影響が発生することは民間企業と変わらないものと考えられるため、実際に損失を計算する場合には全業種平均を用いるものとする。

図表5-4 就業者1名当たり生産関連指標(平成16年)単位:千円
  付加価値額 人件費 付加価値額-人件費
16年度 11年度 増減率(%)  
公務員等
農・林・水産業 3,418 3,169 249 237 4.9
鉱業 11,005 4,089 6,916 3,330 107.7
建築業 5,326 3,878 1,449 838 72.9
製造業 7,612 4,510 3,102 1,596 94.4
卸・小売業・飲食店 7,803 5,010 2,793 1,102 153.4
金融・保険業 24,486 9,327 15,159 13,574 11.7
不動産業 9,550 3,386 6,164 5,422 13.7
運輸通信業 7,512 4,179 3,333 1,958 70.2
電気・ガス・水道業 31,888 8,042 23,846 19,778 20.6
サービス業 4,478 3,071 1,407 1,136 23.9
全業種平均 6,787 4,141 2,646 1,974 34.1
参照資料
金融以外:財政金融統計月報法人企業統計年報特集(財務省)
金融・保険: 前回調査データに財政金融統計月報法人企業統計年報特集の全業種平均の伸び率を乗じた推計値。

第5節 事業主体の損失

「業種別損失日数×(付加価値額-人件費)」により損失額を算定する。結果は図表5-5のとおりである。

前回調査と比較し全般に増加している。特に後遺障害・傷害では増加が著しい。

これは死亡においては人数が減少したが、後遺障害・傷害においては人数も増加したこと、「付加価値額-人件費」の数値が大幅に増加していることなどによるものである。

図表5-5 事業主体の損失(平成16年)単位:百万円
  死亡 後遺障害 傷害 合計
公務員等 430 842 4,087 5,359
農・林・水産業 144 33 162 339
鉱業 58 105 512 676
建築業 975 755 3,665 5,395
製造業 1,536 2,159 10,484 14,179
卸・小売業・飲食店 1,798 2,084 10,120 14,002
金融・保険業 446 1,492 7,245 9,184
不動産業 130 167 809 1,105
運輸通信業 1,814 1,525 7,402 10,740
電気・ガス・水道業 1,003 886 4,301 6,191
サービス業 2,759 5,123 24,870 32,751
平成16年計 11,092 15,171 73,656 99,920
平成11年計 10,375 10,597 56,211 77,183
増減率(%) 6.9 43.2 31 29.5

第6節 1名当たり事業主体の損失

就業者が被害者となった場合の1名当たり事業主体の損失額は、図表5-5の数値を図表5-2の数値で除して得られる。結果は図表5-6のとおりである。

前回調査と比較し、全般に増加しているが、死亡の場合と比較すると後遺障害及び傷害の場合の増加幅は小さくなっている。

これは、全般に「付加価値額-人件費」の数値が大幅に増加している一方で、後遺障害については平均労働能力損失率が、傷害については診療実日数が減少したことによる。

図表5‐6 業種別にみた就業者1名当たりの事業主体の損失(平成16年)単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 合計
公務員等 2,646 459 116 144
農・林・水産業 249 43 11 21
鉱業 6,916 1,200 304 380
建築業 1,449 251 64 88
製造業 3,102 538 136 174
卸・小売業・飲食店 2,793 485 123 160
金融・保険業 15,159 2,630 667 801
不動産業 6,164 1,069 271 350
運輸通信業 3,333 578 147 200
電気・ガス・水道業 23,846 4,137 1,049 1,421
サービス業 1,407 244 62 77
平成16年計 2,151 393 100 128
平成11年計 1,486 351 81 105
増減率(%) 44.7 12.1 23.1 21.7

また、被害者1名当たり事業主体の損失額は、図表5-7のとおりである。

図表5‐7 業種別にみた被害者1名当たりの事業主体の損失(平成16年)単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷
平成16年 1,075 241 61 78
平成11年 807 217 50 66
増減率(%) 33.2 10.9 22.5 18.4

第6章 各種公的機関等の損失の算定

第1節 今回算定した費目について

今回算定した費目並びに算定の概要を図表6-1に示す。なお、前回調査と相違する部分には下線を付した。

図表6-1 各種公的機関等の損失算定費目
費目 内容 算定の概要
救急搬送費 交通事故発生に伴い出動した場合の救急医療関係機関の総費用 人口10万人の標準都市の救急業務単位費用に、出動件数の中の交通事故出動件数の割合を乗じ、全国の人口で割り戻して算定。
警察の事故処理費用 警察官が交通事故の処理に要する総費用 警察官1名当たりに要する一般財源所要額をベースに事故処理費用単価を算定し、処理時間を乗じる。
裁判費用 交通事故事案の公判に係わる裁判所の費用の総額 裁判件数中の交通事故事案の割合を裁判所の年間歳出額に乗じる。
訴訟追行5費用 交通事故事案の公判に係わる弁護士に支払う費用の総額 交通事故事案(民事及び刑事)の裁判件数に弁護士費用単価を乗じる。
検察費用 交通業過6等事案の公判に係わる検察の費用の総額 起訴事案中の交通業過等事案の割合を検察の年間歳出額に乗じる。
矯正費用 交通事故事案の新規収容者に必要となる矯正施設費用の総額 新規収容者中の交通事故事案の割合を矯正関連施設の年間歳出額に乗じる。
保険運営費 保険調査機関の事故調査費用 保険調査機関の事故調査費用を用いる。
被害者救済費用 交通事故被害者救済機関の歳出額 交通事故被害者救済のための各種機関の歳出額。今回調査で自賠責保険・共済紛争処理機構の費用及び国土交通省の短期入院協力費を追加。
社会福祉費用 身障者のための各種機関の歳出額の内、交通事故による身障者に関する部分 身障者中の交通事故関係の割合を身障者のための各種機関の歳出額に乗じる。
救急医療体制整備費 救急医療体制の整備費のうち交通事故関係相当分 厚生労働省の陸上交通安全対策費と国土交通省の救急医療機器整備費の合計に救急出動件数の中の交通事故出動件数の割合を乗じ算定する。
渋滞の損失 交通事故渋滞による金銭的損失額 国土交通省算定の人身事故1件当たり渋滞損失額に事故件数を乗じて算定する。

5訴訟の目的を追い求め訴訟手続きを行うこと。

6交通関係の業務上過失致死傷をいう。

第2節 各費目の算定結果

1 救急搬送費

交通事故の救急隊出動件数は図表6-2のようになっている。

図表6-2 交通事故による出動件数
  交通事故による出動件数 全出動件数中の交通事故出動件数の割合(%)
平成16年 667,928 13.3
平成11年 646,057 16.4
参照資料
消防白書平成17年版

平成16年の人口10万人の標準都市における救急業務単位費用は237百万円。この額のうち13.3%が交通事故に関わるものとすると、人口10万人当たりの交通事故のための救急業務費用は237×13.3%=約31.5百万円となる。この金額に平成16年の人口を乗じると総費用は40,249百万円と算定される。

図表6-3 救急出動費用
  救急業務単位費用(百万円) 交通事故の救急隊出動件数の全件数に占める割合(%) 人口10万人当たりの救急業務費用(百万円) 人口(万人) 救急出動費用(百万円)
平成16年 237 13.3 31.5 12,769 40,249
平成11年 167 16.4 27.5 12,586 34,553
増減率(%) 41.9 -18.9 14.6 1.5 16.5
参照資料
平成16年度地方交付税制度解説(財団法人地方財務協会)
人口推計月報(総務省)

なお、従来計上していた道路公団の救急業務費用については、平成16年度には予算項目として存在していないとのことであったため、今回は算入されていない。

死亡、後遺障害、傷害別に分別する根拠となるデータが無いため、総費用を死傷者数で除して死傷者1名当たり費用を算定したものが図表6-4である。

図表6-4 死傷者1名当たり救急搬送費用 単位:千円
  死傷者1名当たり費用
平成16年 31
平成11年 33
増減率(%) -4.6

2 警察の事故処理費用

平成16年度の標準団体における警察官1名当たりに要する一般財源所要額は9,650千円(警察職員費:一般職員の人件費や時間外手当等も含まれる)である。警察官が年間261日、8時間勤務すると考えると1時間当たり4,621円の費用が発生しているものと考えられる。

図表6-5 警察官1名当たり費用(人件費分)
  警察官1名当たり一般財源所要額(千円) 1時間当たり費用(円)
平成16年 9,650 4,621
平成11年 9,777 5,023
増減率(%) -1.3 -8.0
参照資料
平成16年度地方交付税制度解説(財団法人地方財務協会)

平成16年度については、前回調査で使用したような事故処理時間のデータを警察庁で集計していないとのことであったため、分類毎の件数については、前回使用したデータに、人身事故については件数の伸び率、物損事故については物損のみの事故の損害物件数の伸び率を乗じて推計した。1件当たりのべ処理時間は前回のデータをそのまま用いている。算定結果は図表6-6のとおりである。

図表6-6 警察の事故処理時間(平成16年)
  件数 1件当たりのべ処理時間(時間) のべ処理時間(時間)
1.人身事故 被害程度が大きいもの 44,950 85.8 3,856,709
被害程度が中程度のもの 173,408 23.4 4,057,757
被害程度が小さいもの 733,833 13.2 9,686,590
平成16年小計 952,191 18.5 17,601,056
平成11年小計 850,363 18.5 15,718,786
増減率(%) 12.0 0.0 12.0
2.物損事故 実況検分を行うもの 551,374 3.3 1,819,535
現場臨検するが実況検分を省略するもの 1,204,090 2.3 2,769,406
現場臨検を省略するもの 1,649,853 0.3 494,956
平成16年小計 3,405,317 1.5 5,083,897
平成11年小計 3,106,345 1.5 4,637,554
増減率(%) 9.6 0.0 9.6
3.人身+物損 平成16年計 4,357,508 5.2 22,684,953
平成11年計 3,956,708 5.2 20,356,340
増減率(%) 10.1 0.0 11.4

前頁図表ののべ処理時間合計に警察の処理費用単価を乗じて図表6-7を得る。

図表6-7 警察の事故処理費用
  人身事故件数 物損事故件数 事故処理費用(百万円)
人身事故 物損事故 合計
平成16年 952,191 3,405,317 81,343 23,495 104,838
平成11年 850,363 3,106,345 78,963 23,297 102,259
増減率(%) 12.0 9.6 3.0 0.9 2.5

なお、前回調査で算入されていた事故処理備品の費用については、平成16年度地方交付税制度解説において費目として計上されていなかったため今回は算入していない。

事故処理時間が被害程度別になっているものの、これらの時間は死亡、後遺障害、傷害に対応していないため、人身事故の総費用を死傷者数で除して死傷者1名あたりの費用を算定した。また、物損については、物損のみの事故の損害物1件当たりの費用として算定した。結果を図表6-8に示す。

図表6-8 死傷者数1名当たり、損害物1件当たり警察事故処理費用 単位:千円
  死傷者数1名当たり費用 物損事故の損害物1件当たり費用
平成16年 63.6 4.3
平成11年 66.4 4.7
増減率(%) -4.7 -8.0
注:
平成11年の数値は、前回調査の損失額を今回の区分の仕方に合わせて再配分した。

3 裁判費用

平成16年度の裁判件数は図表6-9のとおりである。なお、交通関係とは、民事の場合交通事故関連の損害賠償訴訟、刑事、少年の場合交通関係の業務上過失致死傷及び危険運転致死傷に関する裁判のことである。

図表6-9 裁判件数(平成16年度)
  総件数 交通関係裁判件数 交通関係裁判の割合(%)
民事 135,792 4,782 3.5
刑事 81,251 7,791
うち交通業過 7,475
危険運転致死傷 316
9.6
少年 258,040 40,321 15.6
平成16年度計 475,083 52,894 11.1
平成11年度計 479,613 55,775 11.6
増減率(%) -0.9 -5.2
参照資料
最高裁資料
注:
危険運転致死傷は平成11年統計には無い。

また平成16年度の裁判所の歳出額は図表6-10のとおりである

図表6-10 裁判所の歳出額(平成16年度)単位:百万円
  全歳出額 交通関係費用
平成16年度 308,745 34,375
平成11年度 318,406 37,028
増減率(%) -3.0 -7.2
参照資料
平成16年決算参照書・平成16年度歳入決算明細書(第164回国会提出資料)

致死、致傷別の裁判件数は図表6-11のようになっている。致死を死亡の場合に、致傷を後遺障害・傷害に適用して費用を按分すると、図表6-12の死亡・後遺障害・傷害別の裁判費用を得る。

図表6-11 致死、致傷別の裁判件数(平成16年度)
  件数 割合(%)
致死 6,079 11.5
致傷等 46,815 88.5
合計 52,894 100
参照資料
最高裁資料
図表6-12 裁判費用 単位:百万円
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 3,951 30,424 34,375
平成11年度 4,991 32,037 37,028
増減率(%) -20.8 -5.0 -7.2

さらに被害者数で除して図表6-13を得る。

図表6-13 被害者1名当たり裁判費用 単位:千円
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 383 24 27
平成11年度 388 27 31
増減率(%) -1.3 -12.0 -13.7

4 訴訟追行費用

民事訴訟の場合の印紙代及び弁護士費用に民事裁判件数4,782件を乗じ算定した結果を図表6-14に示す。(例えば84,600×4,782=405百万円)

図表6-14 民事訴訟の場合の訴訟追行費用(平成16年度)
  単価(円) 交通関係損害賠償訴訟の必要費用(百万円)
印紙代 84,600 405
弁護士費用 2,820,000 13,485
平成16年度計 2,904,600 13,890
平成11年度計 2,597,600 12,554
増減率(%) 11.8 10.6
参照資料
日弁連資料

また、刑事訴訟の弁護士費用(着手金)に、図表6-9の交通業過及び危険運転致死傷の件数を乗じて算定した結果を図表6-15に示す。

図表6-15 刑事訴訟の場合の訴訟追行費用
  罪名 単価(円) 必要費用(百万円)
平成16年度 交通業過 300,000 2,243
危険運転致死傷 500,000 158
2,401
平成11年度 交通業過 300,000 2,862
増減率(%) -16.1
参照資料
日弁連資料
注:
危険運転致死傷は平成11年統計には無い。

裁判費用の場合と同様に、致死・致傷別の裁判件数の割合を民事と刑事の合計費用に乗じて死亡、後遺障害・傷害別の費用を算定したものが図表6-16である。

図表6-16 訴訟追行費用 単位:百万円
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 1,872 14,418 16,290
平成11年度 2,078 13,338 15,417
増減率(%) -9.9 8.1 5.7

さらに被害者数で除して図表6-17を得る。

図表6-17 被害者1名当たり訴訟追行費用 単位:百万円
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 181.5 11.4 12.7
平成11年度 161.6 11.3 13.0
増減率(%) 12.3 0.2 -1.8

5 検察費用

平成16年度の検察の新規受理件数は図表6-18のとおりである。「交通業過+危険運転致死傷の割合」は前回調査の「交通業過の割合」に比べ増加している。

図表6-18 検察の新規受理件数(平成16年度)
  公判請求 略式命令請求 起訴 不起訴 家庭裁判所送致 合計
交通業過 8,964 88,256 97,220 771,509 37,972 906,701
危険運転致死傷 316 0 316 9 14 339
交通業過+危険運転致死傷 9,280 88,256 97,536 771,518 37,986 907,040
新規受理件数計 148,939 754,128 903,067 1,041,670 239,074 2,183,811
交通業過+危険運転致死傷の割合(平成16年) 6.2% 11.7% 10.8% 74.1% 15.9% 41.5%
交通業過の割合(平成11年) 5.4% 7.8% 7.6% 81.4% 14.3% 34.7%
参照資料
司法統計年報
注:
危険運転致死傷は平成11年統計には無い。

また、平成16年度の検察の歳出額は図表6-19のとおりである。

図表6-19
  全歳出額 交通関係費用
平成16年度 308,745 34,375
平成11年度 318,406 37,028
増減率(%) -3 -7.2
参照資料
平成16年決算参照書・平成16年度歳入決算明細書(第164回国会提出資料)
注:
平成11年度は交通業過のみ。

致死、致傷別の新規受理件数は図表6-20のようになっており、致死を死亡の場合に、致傷を後遺障害・傷害に適用して費用を按分した死亡・後遺障害・傷害別の検察費用(図表6-21)を得る。

図表6-20 致死・致傷別新規受理件数 単位:件
  致死 致傷 合計
平成16年 6,330 900,710 907,040
平成11年 7,481 755,356 762,837
増減率(%) -15.4 19.2 18.9
参照資料
検察庁資料
図表6-21 検察費用 単位:百万円
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 295 42,008 42,303
平成11年度 333 33,662 33,996
増減率(%) -11.3 24.8 24.4

さらに被害者数で除して図表6-22を得る。

図表6-22 被害者1名当たり検察費用 単位:百万円
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 28.6 33.1 33.1
平成11年度 25.9 28.6 28.6
増減率(%) 10.5 15.7 15.7

6 矯正費用

平成16年度の交通関係の収容人員は図表6-23のとおりである。

交通関係の収容人員は前回調査と比較し10%減少している。一方全収容人員は25.3%増加しており、この結果交通関係の構成割合は2.5%だったものが1.8%へと減少している。

図表6-23 交通関係の収容人員
  交通業過等の収容人員 危険運転致死傷の収容人員 全収容人員 交通関係の構成割合
刑務所 懲役 410 86 496
禁固 116 0 116
小計 526 86 612 32090 1.9%
少年院 66 0 66 5300 1.2%
平成16年度計 592 86 678 37390 1.8%
平成11年度計 753 753 29834 2.5%
増減率(%) -21.4 -10.0 25.3  
参照資料
矯正統計年報(法務省)

また、平成16年度の矯正関連の歳出額は図表6-24のとおりである。

図表6-24 矯正関連の歳出額 単位:百万円
  矯正官署 矯正収容費 刑務所作業費
平成16年度 160,759 45,881 4,330 210,970
平成11年度 162,522 32,108 4,235 198,865
増減率(%) -1.1 42.9 2.2 6.1
参照資料
平成16年決算参照書・平成16年度歳入決算明細書(第164回国会提出資料)

図表6-24の費用に交通関係の構成割合を乗じて交通関係の費用を算定したものが図表6-25である。交通関係の構成割合が大幅に減少した結果、交通関係の矯正費用も大幅に減少している。

図表6-25 交通関係の矯正費用 単位:百万円
  矯正官署 矯正収容費 刑務所作業費
平成16年度 2,915 832 79 3,826
平成11年度 4,102 810 107 5,019
増減率(%) -28.9 2.7 -26.6 -23.8

矯正費用は被害者死亡のケースが大部分と考えられるので、全費用を死亡に係る費用として死者数で除し、1名当たりの費用を算定したものが図表6-26である。

図表6-26
  死亡 後遺障害・傷害 死傷全体
平成16年度 371 0 3.0
平成11年度 390 0 4.2
増減率(%) -5.0 -29.1

7 保険運営費

平成16年度の損害保険関係の諸費用は図表6-27のとおりである。

図表6-27 損害保険の諸費用(平成16年度)単位:百万円
  自賠責保険 任意自動車保険 合計
一般管理費 146,884 467,218 614,102
諸手数料集金費 60,846 656,140 716,986
損害調査費 65,141 183,109 248,250
総合計 272,871 1,306,467 1,579,338
参照資料
インシュアランス損害保険統計号平成17年版(株式会社 保険研究所)

共済事業については、損害保険の損害調査費に、(収入保険料-支払保険金)の共済と損害保険の比を乗じて、図表6-28のように算定される。政府補償事業については政府保障事業保障業務委託費(決算額)を計上した。

図表6-28 保険運営費 単位:百万円
  平成16年度 平成11年度
損害保険 248,250 245,438
共済 27,615 28,050
政府保障事業 904 904
276,769 274,392
参照資料
損害保険:インシュアランス損害保険統計号平成17年版(株式会社 保険研究所)
共済:自動車保険の概況(損害保険料率算出機構)
政府保障事業:第122回自賠責審議会資料4

死亡、後遺障害、傷害別の内訳が不明であるため、総費用を死傷者数で除して死傷者1名当たり費用を算定した。その結果が図表6-29である。

図表6-29 死傷者1名当たり保険運営費 単位:千円
  死傷者1名当たり費用
平成16年度 217
平成11年度 231
増減率(%) -6.2

8 被害者救済費用

各関係機関の被害者救済費用は図表6-30のとおりである。交通遺児育英会の給付金の減額は支払件数の減少によるもの、自治体交通事故相談所の減額は、相談件数の減少によるものである。

自動車事故対策機構の増額は療護施設の増加や介護料支給対象の拡大による。日弁連交通事故相談センターの増額は窓口の増加など被害者救済の充実を図ったため、高等学校交通遺児授業料減免事業の増額は支払件数の増加によるものである。

なお、被害者救済費用については、代表的な機関のみ参入しており、全国にある全ての被害者救済関連機関の費用を網羅しているわけでない。

図表6-30 各関係機関の被害者救済費用 単位:百万円
  平成16年度 平成11年度 増減率(%)
自動車事故対策機構 6123 3583 70.9
自治体交通事故相談所 801 991 -19.2
日本損害保険協会自動車保険請求相談センター 625 612 2.1
日弁連交通事故相談センター 1097 650 68.8
交通事故紛争処理センター 911 726 25.5
交通遺児育成基金 1021 1050 -2.7
交通遺児育英会 1708 2704 -36.8
高等学校交通遺児授業料減免事業 131 90 45.6
自賠責保険・共済紛争処理機構 276
重度後遺障害者短期入院協力費 27
12720 10406 22.2
参照資料
自動車事故対策機構については、決算資料の貸付業務費、療護施設業務費、援護業務費の合計。
自治体交通事故相談所については、業務費用の合計。内閣府資料による。
日本損害保険協会自動車保険請求相談センターについては、決算資料の支出の合計。
日弁連交通事故相談センターについては、決算資料の支出の合計。
交通事故紛争処理センターについては、決算資料の事業費、物損事故相談費用の合計。
交通遺児育成基金については、決算資料の給付金支出合計。
交通遺児育英会については、決算資料の支出の合計。
高等学校交通遺児授業料減免事業は、交付実績。国土交通省資料による。
自賠責保険・共済紛争処理機構は、決算資料の事業費。
重度後遺障害者短期入院協力費は、在宅の重度後遺障害者の短期入院を受入れる病院に対する受入れ体制の整備に要する経費の一部の補助。国土交通省資料による。

交通遺児育成基金、交通遺児育英会及び高等学校交通遺児授業料減免事業は被害者死亡のケースと考え、自動車事故対策機構及び重度後遺障害者短期入院協力費は後遺障害のケースと考え7、他は全ての事故のケースに均等に割り振り死亡、後遺障害・傷害別の費用を算定したものが図表6-31である。

7交通遺児育英会、高等学校交通遺児授業料減免事業及び自動車事故対策機構(貸付業務)は、保護者が死亡した場合だけでなく重度後遺障害者となった場合も対象としている。

図表6-31 被害者救済費用 単位:百万円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷全体
平成16年度 2,890 6,307 3,523 12,720
平成11年度 3,876 3,705 2,825 10,406
増減率(%) -25.4 70.2 24.7 22.2
前回調査と死亡・後遺障害・傷害の区分の仕方が異なる費用については、前回調査の損失額を今回の区分の仕方に合わせて再配分した。

被害者数で除して被害者1名当たり被害者救済費用を求めると図表6-32が得られる。

図表6-32 被害者1名当たり被害者救済費用 単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷全体
平成16年度 280 100 2.9 10.0
平成11年度 304 76 2.5 8.8
増減率(%) -8.0 31.9 16.6 13.6

9 社会福祉費用

最新の調査結果である平成13年の身体障害者数は図表6-33のようになっている。

身体障害者総数に比べ交通関係の身体障害者数の増加率が高いため身体障害者に占める交通事故が原因となった割合も増加している。

図表6-33 身体障害者数 単位:千人
  総数 交通関係 交通事故が原因となった割合(%)
平成13年 3,255 144 4.4
平成8年 3,177 128 4.0
増減率(%) 2.5 12.5
参照資料
平成13年身体障害者実態調査(厚生労働省)

この割合を平成16年度の交通事故関連の社会福祉費用(歳出額)に乗じて交通関係のみの費用を求めたものが図表6-34である。なお、平成11年度は身体障害者福祉促進事業委託費は計上されていなかった。

図表6-34 交通事故関連の社会福祉費用 単位:百万円
  平成16年度 平成11年度 増減率(%)
身体障害者福祉促進事業委託費 515
身体障害者保護費 122,928 104,043 18.2
合計 123,443 104,043 18.6
交通関係のみ 5,461 4,192 30.3
参照資料
平成16年決算参照書・平成16年度歳入決算明細書(第164回国会提出資料)

この費用全てが後遺障害のケースと考えて後遺障害者数で除して図表6-35を得る。

図表6-35 被害者1名当たりの社会福祉費用 単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷全体
平成16年度 0 86.8 0 4.3
平成11年度 0 86.0 0 3.5
増減率(%) 0.9 21.1

10 救急医療体制整備費

平成16年度の救急医療体制の整備等に関する費用は14,459百万円である。

この費用に救急出動件数中の交通事故出動件数の割合(図表6-2、13.3%)を乗じ交通事故発生に関連すると考えられる費用のみを算定した結果が図表6-36である。

図表6-36 救急医療体制等整備費 単位:百万円
  厚生労働省陸上交通安全対策関係予算額 国土交通省救急医療機器整備費 交通関係費用
平成16年度 13,933 499 1,919
平成11年度 20,496 3,369
増減率(%) -32.0 -43.0
参照資料
厚生労働省陸上交通安全対策関係予算額:平成16年版交通安全白書(内閣府)
国土交通省救急医療機器整備費: 救急病院に対する救急医療設備の整備に要する経費の一部の補助。国土交通省提供資料。

死亡、後遺障害、傷害別に分別する根拠となるデータが無いため、総費用を死傷者数で除して死傷者1名当たり費用を算定したものが図表6-37である。

図表6-37 死傷者1名当たり救急医療体制等整備費 単位:千円
  死傷者1名当たり費用
平成16年度 1.5
平成11年度 2.8
増減率(%) -47.0

11 渋滞の損失

(1)算定方法

前回調査では、警視庁調査等による東京都の交通事故渋滞損失(平成4年)を基に、各都道府県の事故件数、交通量及び混雑度を考慮して全国の損失額を算定したが、今回調査においては、検討会の検討結果を踏まえ、全国の道路を対象にした国土交通省の費用便益分析マニュアル(平成15年8月、国土交通省道路局都市・地域整備局)で使用されている人身事故1件当たりの渋滞損失額を基に、損失額を算定することとした。

費用便益分析マニュアルは、主に高速道路、一般国道及び主要地方道に関する道路事業評価に用いられるため、ここで使用されている人身事故1件当たりの渋滞損失額も主にこれらの道路に対応したものである。

このため、交通統計(警察庁交通局)における事故件数データのうち、高速自動車国道、自動車専用道路、一般国道及び主要地方道において起きた事故件数について、この人身事故1件当たり渋滞損失額を乗じることにより、事故渋滞損失の総額を算定した。

なお、人身事故1件当たり渋滞損失額は平成15年の値であるため、時間損失は賃金上昇率、走行経費損失は物価上昇率でそれぞれ平成16年の値に補正している。

(2)算定結果

人身事故1件当たり渋滞損失額、事故件数等は図表6-38のようになっている。

図表6-38 算定のための基礎データ
項目 データ 参照資料
人身事故1件当たり渋滞損失額(千円) 時間損失 1,297 国土交通省第1回道路事業評価手法検討委員会 参考資料5-7『交通事故減少便宜の原単位の算出方法』
第2回検討委員会 参考資料3-4『交通事故減少便宜原単位の改定案について』
走行経費損失 19
事故件数 高速自動車国道 6,840 交通統計平成16年度版(警察庁交通局)
自動車専用道路 7,441
一般国道 224,007
主要地方道 152,073
390,361
賃金上昇率(%)(H15→H16) -0.414 毎月勤労統計調査(厚生労働省)
物価上昇率(%)(H15→H16) 0.00 消費者物価指数年報(総務省)

図表6-38のデータを基に算定した結果を図表6-39に示す。図表6-38の人身事故1件当たり渋滞損失額については死亡、後遺障害、傷害別の区分はないため、総費用を一律に死傷者数で除して死傷者1名あたり交通事故渋滞損失額を算定した。

図表6-39 交通事故渋滞による損失額
  渋滞損失額(百万円) 死傷者1名あたり損失額(千円)
平成16年度 511,619 400
平成11年度(参考) 151,309 127
増減率(%)(参考) 238.1 215.0

今回は損失額の算定範囲及び手法を変更したため、前回調査との単純な比較はできないが、損失額が大きく増加している理由として、交通事故件数の多くを占める一般道での交通事故渋滞についての評価(特に渋滞時間)が大きく異なること、今回の手法では全国の損失額を算定する際に交通量や混雑度による調整を行っていないこと、などが考えられる。なお、単位時間評価値については、前回調査と今回調査の手法で著しい違いはなかった。

(備考)算出対象外の道路について

今回調査方式で算定対象に含まれていない一般都道府県道、市町村道及びその他の道路(農道、林道など)における交通事故件数は以下のとおりである。

図表6-40 算定対象外の道路種別別事故件数
道路種別 件数
一般都道府県道 97,289
市町村道 439,553
その他の道路 25,024
561,866
総事故件数に占める割合(%) 41.0
参照資料
交通統計平成16年版(警察庁交通局)

市町村道(一部を除く)及びその他の道路については交通センサスの調査対象外であり、平均交通量等のデータが存在しない。また、一般都道府県道については平均交通量等のデータは存在するが、費用便益分析マニュアルにおける損失額算定時の基礎データが公表されていない。このため、公表されている人身事故1件当たり渋滞損失額から一般都道府県道及び市町村道における損失額を推定することは不可能である。

また、これらの道路は主に地域住民の生活道路として使用されており、事故が発生した場合にも比較的容易に迂回することができるため、大きな渋滞が起きる蓋然性は低いと考えられる。

さらに、平成11年度交通センサス(平日値)によると、一般都道府県道における12時間平均交通量は2,918台(1分間に換算すると4台程度)、平均混雑度は0.56である8。一般的には、市町村道における交通量及び混雑度は更に小さくなると考えられる。

このような状況を考慮すると、当然これらの道路においても事故渋滞が発生する場合はあると考えられるが、その影響は(2)で算定した損失額と比較すると大幅に小さくなると推測される。したがって、今回は、これらの道路における損失額の算定は行わないこととした。

8一般国道は12時間平均交通量9,028台(12.5台/分)、平均混雑度0.92。主要地方道は12時間平均交通量5,008台(7台/分)、平均混雑度0.73。

第3節 各種公的機関等の損失のまとめ

1 総額

以上の算定結果より損失額をまとめたものが図表6-41であり、平成16年(度)の交通事故による各種公的機関等の損失額は、約1兆500億円と算定された。

損失額は、前回調査と比較すると55.2%と大幅に増加しているが、これは主に「渋滞の損失」の算定手法等を変更したことによるものである。前回は東京都の交通事故渋滞損失を基に各都道府県の事故件数、交通量及び混雑度を考慮して全国の損失額を算定したが、今回は、国土交通省の費用便益分析マニュアルで使用されている人身事故1件当たりの損失額に事故件数を乗じて算定している。2つの手法では事故渋滞時間等の評価が異なることなどから、今回調査では損失額が大幅に増加した。

「渋滞の損失」を除いた場合には、前回調査と比較して2.5%の微増となっている。「検察費用」については、額、率共に大きく増加しているが、これは検察における交通関係の新規受理件数が増加し全体の件数に占める割合が増加したことによる。また、「被害者救済費用」も、自動車事故対策機構における後遺障害者支援の拡大等により増加している。一方、「裁判費用」や「矯正費用」などは、交通関係の裁判件数や収容人員の割合が減少したことにより減少している。

図表6-41 各種公的機関等の損失額(平成16年(度))単位:百万円
  平成16年(度) 平成11年(度) 増減率(%)
救急搬送費 40,249 39,103 2.9
警察の事故処理費用 104,838 102,653 2.1
裁判費用 34,375 37,028 -7.2
訴訟追行費用 16,290 15,417 5.7
検察費用 42,303 33,996 24.4
矯正費用 3,826 5,019 -23.8
保険運営費 276,769 274,392 0.9
被害者救済費用 12,720 10,406 22.2
社会福祉費用 5,461 4,192 30.3
救急医療体制整備費 1,919 3,369 -43.0
渋滞の損失 511,619 151,309 238.1
合計 1,050,370 676,884 55.2
(参考:渋滞の損失を除いた場合)
合計 538,750 525,575 2.5
物損は物損のみの事故の場合である。

さらに、死亡・後遺障害・傷害別の各種公的機関等の損失については、図表6-42のとおりである。多くの費目で被害者数に応じて損失額を配分しているため、平成11年(度)と比較して被害者数が減少した死亡については、損失額も減少している。

図表6-42 死亡・後遺障害・傷害別の各種公的機関等の損失額(平成16年(度))単位:百万円
  死亡 後遺障害 傷害 物損 合計
救急搬送費 325 1,981 37,943 40,249
警察の事故処理費用 657 4,005 76,682 23,495 104,838
裁判費用 3,951 1,510 28,914 34,375
訴訟追行費用 1,872 716 13,702 16,290
検察費用 295 2,085 39,923 42,303
矯正費用 3,826 0 0 3,826
保険運営費 2,234 13,626 260,909 276,769
被害者救済費用 2,890 6,307 3,523 12,720
社会福祉費用 0 5,461 0 5,461
救急医療体制整備費 15 94 1,809 1,919
渋滞の損失 4,130 25,187 482,302 511,619
平成16年(度)計 20,195 60,973 945,707 23,495 1,050,370
平成11年(度)計 22,221 33,635 597,731 23,297 676,884
増減率(%) -9.1 81.3 58.2 0.8 55.2
(参考:渋滞の損失を除いた場合)
平成16年(度)計 16,065 35,785 463,405 23,495 538,750
平成11年(度)計 20,584 27,428 454,266 23,297 525,575
増減率(%) -22.0 30.5 2.0 0.8 2.5
注1
物損は物損のみの事故の場合である。
注2
前回調査と死亡・後遺障害・傷害の区分の仕方が異なる費目については、前回調査の損失額を今回の区分の仕方に合わせて再配分した。

2 被害者1名当たり各種公的機関等の損失

以上の算定結果より平成16年(度)における被害者1名(損害物1件)当たり各種公的機関等の損失額をまとめたものが図表6-43である。被害者1名当たり損失額は、死亡について約196万円、後遺障害について約97万円、傷害について約79万円となっており、いずれの場合も前回調査に比べて増加しているが、算定手法等に変更があった「渋滞の損失」を除くと、被害者救済費用の充実が図られた後遺障害を除き全て減少している。

図表6-43 被害者1名(損害物1件)当たり各種公的機関等の損失額(平成16年(度))単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷 物損
救急搬送費 31 31 31 31
警察の事故処理費用 64 64 64 64 4
裁判費用 383 24 24 27
訴訟追行費用 181 11 11 13
検察費用 29 33 33 33
矯正費用 371 0 0 3
保険運営費 217 217 217 217
被害者救済費用 280 100 3 10
社会福祉費用 0 87 0 4
救急医療体制整備費 2 2 2 2
渋滞の損失 400 400 400 400
平成16年(度)計 1,957 969 785 803 4
平成11年(度)計 1,728 690 530 550 5
増減率(%) 13.3 40.4 47.9 46.1 -8.0
(参考:渋滞の損失を除いた場合)
平成16年(度)計 1,557 569 385 403 4
平成11年(度)計 1,601 563 403 423 5
増減率(%) -2.7 1.1 -4.6 -4.6 -8.0
注1
物損は物損のみの事故の場合で、損害物1件当たりの損失額を示している。
注2
死傷は、死亡・後遺障害・傷害の損失額合計を死傷者数で除した平均。
注3
前回調査と死亡・後遺障害・傷害の区分の仕方が異なる費目については、前回調査の損失額を今回の区分の仕方に合わせて再配分した。

第7章 金銭的損失の全容

第1節 交通事故による金銭的損失額

1 総額

以上の算定結果より、平成16年(度)の交通事故による金銭的損失額をまとめると図表7-1のとおりであり、損失額は約4兆4,160億円、GDP比で0.9%と算定された。

前回調査と比較すると、金銭的損失額はわずかながら(約1,310億円(3.0%))増加しているが、一部算定手法等の変更により大きく増加した「各種公的機関等の損失」を除くと、約2,430億円(6.7%)減少している。これは、「事業主体の損失」が増加した(約230億円)ものの、「人的損失額」が前回調査から約2,430億円(14.1%)と大きく減少したことによる。

図表7-1 金銭的損失額(平成16年(度))単位:百万円
  平成16年(度) 平成11年(度) 増減 増減率(%)
人的損失 1,483,960 1,726,855 -242,895 -14.1
物的損失 1,781,428 1,804,100 -22,672 -1.3
事業主体の損失 99,920 77,183 22,737 29.5
各種公的機関等の損失 1,050,370 676,884 373,486 55.2
合計 4,415,678 4,285,022 130,656 3.0
(参考:各種公的機関等の損失を除いた場合)
合計 3,365,308 3,608,138 -242,830 -6.7
注:
物損は物損のみの事故の場合である。


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なお、人的損失は逸失利益等に関する損害保険データを基に、事業主体の損失は就業者による付加価値額から人件費を差し引いた数値を基に算定している。このため、いずれの損失額についても、交通事故による被害の程度や被害者数の増減だけでなく、企業活動の好不調、賃金の増減、損害額の算定手法の変更などの外部要因によっても変化することに留意する必要がある。

例えば、事業主体の損失については、多くの業種において就業者による付加価値額が増加する一方で人件費が減少したことにより「付加価値額-人件費」が大幅に増加したため、交通事故による被害者の就業不能期間が全体では減少したにもかかわらず損失額は増加する結果となった。

また、人的損失については、「2 被害者1名当たり金銭的損失額」に詳述するとおり、逸失利益の算定手法の統一や平均賃金の減少などの要因が重なったことが損失額の大幅な減少に繋がっていると考えられる。

さらに、死亡・後遺障害・傷害別の金銭的損失は図表7-2のようになる。平成11年(度)と比較して被害者数が減少した死亡については、損失額の減少も大きい。なお、被害者数が大きく増加した傷害による損失額が増加しているが、これは今回増加した「各種公的機関等の損失」の多くの費目が被害者数に応じて配分されていることによるものである。

図表7-2 死亡・後遺障害・傷害別の金銭的損失額(平成16年(度))単位:百万円
  死亡 後遺障害 傷害 物損 合計
人的損失 307,108 507,984 668,868 1,483,960
物的損失 3,802 23,187 443,989 1,310,451 1,781,428
事業主体の損失 11,092 15,171 73,656 99,920
各種公的機関等の損失 20,195 60,973 945,707 23,495 1,050,370
平成16年(度)計 342,197 607,315 2,132,221 1,333,946 4,415,678
平成11年(度)計 468,672 625,167 1,838,834 1,352,350 4,285,022
増減率(%) -27.0 -2.9 16.0 -1.4 3.0
(参考:各種公的機関等の損失を除いた場合)
平成16年(度)計 322,002 546,342 1,186,513 1,310,451 3,365,308
平成11年(度)計 446,451 591,531 1,241,103 1,329,053 3,608,138
増減率(%) -27.9 -7.6 -4.4 -1.4 -6.7
注:
物損は物損のみの事故の場合である。


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(再掲)図表3-4 死亡、後遺障害、傷害別の被害者数 単位:人
  死亡 後遺障害 傷害 合計
平成16年 10,318 62,931 1,205,024 1,278,273
平成11年 12,858 48,751 1,126,811 1,188,420
増減率(%) -19.8 29.1 6.9 7.6

2 被害者1名当たり金銭的損失額

被害者1名当たり金銭的損失額は、死亡については約3,317万円、後遺障害は約965万円、傷害は約177万円、物損は約24万円と算定された。

図表7-3 被害者1名(損害物1件)当たり金銭的損失額(平成16年(度))単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 死傷 物損
人的損失 29,764 8,072 555 1,161
物的損失 368 368 368 368 240
事業主体の損失 1,075 241 61 78
各種公的機関等の損失 1,957 969 785 803 4
平成16年(度)計 33,165 9,650 1,769 2,411 244
平成11年(度)計 36,450 12,824 1,632 2,468 272
増減率(%) -9.0 -24.7 8.4 -2.3 -10.1
(参考:各種公的機関等の損失を除いた場合)
平成16年(度)計 31,208 8,682 985 1,608 240
平成11年(度)計 34,722 12,134 1,102 1,918 267
増減率(%) -10.1 -28.5 -10.6 -16.2 -10.1
注1:
物損は物損のみの事故の場合で、損害物1件当たりの損失額を示している。
注2:
死傷は、死亡・後遺障害・傷害の損失額合計を死傷者数で除した平均。

死亡、後遺障害、傷害、死傷別の被害者1名当たり金銭的損失額について、平成11年(度)と比較すると次のようになる。

死亡による金銭的損失


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後遺障害による金銭的損失


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傷害による金銭的損失


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死傷による金銭的損失


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特に死亡、後遺障害について損失額が減少しているが、これは人的損失額が大幅に減少したことによる。

人的損失額は損害保険データを基にして算定しているため、損害額の算定手法の変更や賃金など根拠となるデータの変動が人的損失額の増減に影響を与える。例えば死亡の場合については、逸失利益の算定方法がライプニッツ方式に統一されたこと(平成11年までは、より算定額が高くなるホフマン方式も使用されていた)や平均賃金が低下したことなどが人的損失額の減少の理由として考えられる。また、逸失利益が高い若年者層の被害者が減少した一方で、一般的に逸失利益が低く算定される高齢者層の被害者が増加したことも、平均の人的損失額が減少した要因と考えられる。後遺障害の場合については、逸失利益算定方法の統一及び平均賃金の低下に加え、後遺障害の等級1~14級のうち慰謝料や労働能力喪失率(後遺障害により低下する労働能力の割合。逸失利益の算定に用いられる。)が最も低く設定されている14級の後遺障害者の比率が大幅に増加したことが、平均の損失額が大きく減少した要因と推測される。

第8章 死傷損失の算定

第1節 死傷損失の算定の必要性と定義

前回調査においては、今後の課題として、「...『知人友人の心理的損失』や『生活の喜びに対する損失』など...の算入について検討していく必要がある」との指摘がなされたことから、今回の調査に当たっては、これらの損失の算入の必要性や新たな損失の定義について検討を行った。

1 諸外国における損失額との比較

交通事故の損失額の算定は、諸外国においても、費用便益分析の原単位の算定や交通事故による影響の把握などの目的から実施されている。これまでの調査研究で算定された日本の交通事故の損失額は、諸外国と比較して少なすぎるのではないかという指摘があることから、今回算出した金銭的損失の総額と諸外国における損失総額との比較を行った。その結果は図表8-1に示すとおりである。

これによると、諸外国における損失総額はGDP比で1.4%~3.4%、一方日本は0.9%と、事故発生状況等の違いはあるものの、日本は諸外国と比較して最もGDP比で見た損失額が少ないことが分かる。さらに、損失額を死者1名当たりで比較したものが、図表8-2のグラフである。諸外国と比較して歴然と低いことがみてとれる。

図表8-1 諸外国における総損失額
損失額(百万円)
(但し、総額は十億円)
アメリカ 英国 ニュージーランド オランダ ドイツ オーストラリア 日本
総額 約49,684
(2004年)
約3,561
(2004年)
約248
(2006年)
約1,480
(2004年)
約5,038
(2004年)
約1,427
(2004年)
約4,416
(2004年)
GDP比 3.4% 1.5% 2.2% 2.2% 1.4% 1.7% 0.9%
逸失利益 9,906,104 510,522 364,504 2,846,026 303,717 1,483,960
物的損失 5,401,297 1,098,186 12,150 227,613 2,192,041 390,493 1,781,428
救急・治療コスト 4,146,087 108,988 6,225 32,439 224,172 42,168
訴訟費用 1,365,368 2,100 89,645 65,082 96,794
保険運営費 1,718,070 32,637 86,776 276,769
職場の損失 490,123 975 28,925 99,920
警察関連費用 5,538 7,231 104,838
財産への損害 2,893 18,181
渋滞コスト 1,737,965 13,999 144,627 511,619
死傷損失 24,918,523* 1,805,123* 226,350* 751,890* 173,553**
注1:
“-”は、その国において費用が計上されていない項目を表す。
注2:
死傷損失において、*はWTPアプローチ、**は慰謝料に基づいて算出。
注3:
英国、ニュージーランド以外の諸外国については公式数値確認年度を基にGDP比から2004年度の値を算出。公式数値確認年度は、アメリカ:2000年、オランダ:2003年、ドイツ:1998年、オーストラリア:1999年。
注4:
各費用項目の算定範囲・手法は各国で異なる。
注5:
「死傷損失」には、各国において「human costs」「quality of life」「immaterial cost」等と呼称される費用項目を分類している。

図表8-2 諸外国における死亡1名当たりの損失額
諸外国における死亡1名当たりの損失額

諸外国における死亡1名当たりの損失額
(千円) アメリカ フィンランド 英国 スウェーデン ニュージーランド ドイツ オーストラリア 日本
総額 413,411 289,966 274,119 252,761 229,880 176,796 174,756 33,165
逸失利益 96,635 64,401 94,233 17,217 173,119 37,179 29,764
物的損失 1,261 1,192 3,723 330 3,677 47,802 368
救急・治療コスト 2,816 162 620 420 27,442 33
訴訟費用 12,544 1,024 630 7,967 964
保険運営費 4,559 10,622 217
職場の損失 1,068 0 3,541 1,075
警察関連費用 884 64
財産への損害 369 280
渋滞コスト 1,123 17,705 400
死傷損失 293,405 224,373 179,724 230,177 228,500 21,245
注1:
“-”は、その国において費用が計上されていない項目を表す。
注2:
ニュージーランドは2006年、英国は2004年、その他の国については公式数値確認年度を基にGDP比から2004年度の値を算出。公式数値確認年度は、アメリカ:2000年、フィンランド:2000年、スウェーデン:1999年、ドイツ:1998年、オーストラリア:1999年。
注3:
各費用項目の算定範囲・手法は各国で異なる。
注4:
英国は死亡1名当たり費用が算出されている費目のみを記載、フィンランドの損失額の内訳は推計による。
注5:
「死亡損失」には、各国において「human costs」「quality of life」「immaterial cost」等と呼称される費用項目を分類している。

このような大きな差が発生した主たる原因は、米国、英国等多くの国々では逸失利益、物的損失等の金銭的損失以外に、「human costs」「quality of life」「immaterial cost」等と呼ばれる非金銭的損失を算定していることである。本報告書ではこれらの非金銭的損失をまとめて「死傷損失」と呼ぶ。死傷損失が損失額に占める割合の大きさ等を考えると、交通事故による被害・損失の大きさに対する社会の認識を深めるとともに、より効果的な交通安全施策の策定に資するためには、我が国でも今回の調査研究において死傷損失を交通事故の損失額として算定することが妥当であると考えられる。

2 「死傷損失」の定義

死傷損失は、前回調査の指摘にあるように、交通事故により「生活の喜びを享受できなくなることによる損失」や「知人友人を失うことによる心理的損失」などを対象としているため、物的損失、医療費用、所得稼得機会の喪失等を対象とする「金銭的損失」に含めることは適当でない。このため、今回の調査においては、「金銭的損失」とは別に、新たに「非金銭的損失」である「死傷損失」を定義し、その内訳として死亡に関する損失を「死亡損失」、重傷に関する損失を「重傷損失」とすることとした。

「死傷損失」の定義は次のとおりとする。

「道路交通事故の発生により被害者本人、その家族及び友人が被る痛み、苦しみ、悲しみ、生活の質の低下及び生きる喜びを享受できなくなることなどの非金銭的損失。」

3 算定の対象範囲

死傷損失を算定するための調査の精度を高めるには質問の数を絞り込む必要があるため、今回の調査研究においては、まず被害者本人の死亡損失に焦点を絞って調査を行うとともに、被害者本人の重傷損失について試行的に1つの状況9を想定して調査を行うこととした。したがって、今回の調査研究では、それ以外の傷害による被害者の損失や、被害者の家族及び友人が被る損失については算定の対象外としている。

9重度の後遺障害が残るような状態(参考資料3のQ8参照)であり、交通統計の重傷の定義(第3章第2節の1参照)とは異なる。

第2節 算定の方法

交通事故により失われてしまった特定の個人の生命や生活の質の低下を金銭で事後的に評価することは不可能である。このため、死傷損失を算定する場合には、損失を回避することに対する人々の支払意思額(Willingness to Pay:WTP)を基にその価値を算定する手法が多く使われている。本調査研究では、このような死傷損失の算定手法に関する調査を基に、我が国における算定手法について検討を行った。

1 死傷損失の算定方法

(1) 死亡損失の算定方法

より効率的に限りある資源を配分し効果的な交通安全対策を実施していくためには、交通安全対策による死者数削減の便益を測るための指標が不可欠である。このため、個人の生命ではなく、社会全体における“死亡リスク”に着目し、「人々が、交通事故による死亡リスクを削減するために支払ってもよいと考える額(支払意思額)」を測定することにより死亡リスク削減の便益を測る手法が考案された。これが、WTPアプローチと呼ばれる手法である。

WTPアプローチを用いると、次のようにリスク削減の便益を測ることができる。例えば、現在の交通事故による死亡リスクが1万分の6(R0)で、そのリスクを1万分の5(R1)まで1万分の1(ΔR)だけ削減する交通安全対策があるとする。この対策の恩恵を受ける人が百万人(n)いて、それぞれがこの対策について最大1万円(X)支払ってもよいと考えるとすると、この対策の便益は、100万人×1万円=100億円(n・X)と算定される。また、死亡リスクをゼロとすることの便益(つまり、現在1万分の6の死亡リスクを社会が許容していることによる損失)を算定する場合、直接リスクをゼロとするためのWTPを尋ねると極端に大きな値となることが知られている。

このため、1万分の1のリスク削減に対するWTPを基に、WTPはリスク削減率に比例すると仮定することにより、死亡リスクをゼロとする便益を100億円×(1万分の6/1万分の1)=600億円(n・X・R0/ΔR)と算定している。

死亡損失の算定方法

図表8-3に示すように、諸外国における死傷損失の算定手法としては、WTPアプローチによるものが主流となっており、本調査研究においても、WTPアプローチにより死亡損失の算定を行うこととした。

図表8-3 諸外国における死傷損失の算定手法
EUの指針
(COST313)
苦しみ、痛み、悲しみ、生きる喜びを享受できなくなることなどによる非物質的な損失。WTPアプローチによる算出方法を推奨。死亡リスクの削減に対する支払意思額には消費の価値も含まれるため、重複しないように修正する必要がある。
イギリス 被害者本人、家族、友人の受ける痛み、悲しみ、苦しみ、また、死亡者については、物やサービスを消費する楽しみその他生きる喜びを享受できなくなることを示す。WTPアプローチにより算定。
オランダ 被害者及びその家族や友人の苦しみ、痛み、悲しみ、生きる喜びを享受できなくなることといった非物質的な損失。WTPアプローチによって行われたアンケートに基づく。死亡者の消費の価値は逸失利益に含まれているため、WTPから除くよう補正。
アメリカ 悲しみ、痛み、人命の喪失など、交通事故が個人や家族にもたらす無形の結果。WTPアプローチによるさまざまな研究から大部分の権威者の間で合意が形成されている数値を用いている。
ニュージーランド 交通事故による不特定の生命の喪失による苦痛や苦悩の費用を、ニュージーランドの人々が一人の死を回避するような安全性の向上のために支払っても良いと考える金額から算定。WTPアプローチによる。
オーストラリア 現レポートでは裁判もしくは示談よる慰謝料を用いている。WTPアプローチも今後算定基準に用いることを視野に入れている。
(参考)
統計的生命価値(Value of a Statistical Life:VSL)について

WTP推計値を元にして計算される概念として、VSLがある。VSLは、「対策の便益=削減される死者数×死者数を1名削減する場合の便益(VSL)」として簡単に便益が計算できるよう便宜的に計算された数字であり、具体的にはWTP÷死亡リスクの削減率(X/ΔR)により求められる。

対策の効果は“死者数を○名削減する”といった形で示されることが多いため、VSLは費用便益分析を容易にするという利点があるが、一方で、「命の値段」という誤解を生みやすいという懸念も指摘されている。しかし、算定方法からも明らかなように、WTP同様、VSLは特定の1名の命を救う又は補償する価値・費用ではないということに留意する必要がある。なお、本調査研究報告においては、統計的分析等についてVSLを用いて説明している。

(2) 重傷損失の算定方法

重傷損失については、死亡に関するWTPの算定結果を基に、スタンダードギャンブルの手法を用いて算定することとした。

スタンダードギャンブルとは、例えば現在重傷の状態にあるとした場合、確率pで失敗し死亡するが確率1-pで完全に健康な状態に回復するという治療を、pがいくつであれば選択するかを尋ねることにより、死亡と重傷の価値の比(限界代替率)を推定し、重傷の状態を回避する価値を求める手法である。重傷に関するWTPは、(死亡関するWTP)×pにより求められる。

2 WTPの算定手法

WTPの算定手法には、大きく分けて顕示選好法(revealed preference)と表明選好法(stated preference)の2つがあり、これらはさらにいくつかの手法に分けられる。それぞれの手法の特徴や今回の調査における利用可能性の評価等については図表8-4のとおりである。

図表8-4 WTPの算定手法の比較
  顕示選好法 (人々の経済行動から間接的に価値を評価する手法) 表明選好法 (人々に価値を尋ねることで直接評価する方法)
代替法 ヘドニック法 トラベルコスト法 仮想市場評価法 コンジョイント法
特徴
  • 施設設備によって生じる便益を、それと同じだけの便益が得られる代替可能な市場財で置き換えた時、その市場財を購入するための増加額で評価する手法
  • 環境や事故リスクのような非市場財の価値をそれを反映する地価や賃金によって推定する方法の一つで、被説明変数の価格 を、それに影響する説明変数で回帰分析する手法
  • 特定の場所から受ける便益を、その場所を訪問するために必要とされる旅行費用によって評価する手法
  • 市場の存在しない財(死亡リスクの削減もそのうちの1つである)に対する支払意思額を直接尋ねる手法
  • 財の持つ複数の属性間の相対的な重みを明らかにする手法。例えば、死亡リスク削減という属性と価格という属性を、属性として持つ財を設定し、死亡リスク削減と価格の間の関係から死亡リスク削減に対する限界支払意思額を導出する
利点
  • 代替財の市場価格により評価を行うため、直感的に理解しやすく、データ収集が比較的容易
  • 統計的分析が可能
  • 地価についてはデータが集めやすい
  • レクリエーションに関わる公共財の価値を算出する事には向いている
  • 既存のデータの有無とは関係なく、理論上ほぼあらゆる財の評価に適用可能
  • 得られる評価額が、受益者のWTPやWTAを集計したものであるため,市民の何らかの政策合意点を示す
  • 適用範囲が広い
  • 複数の項目についても評価が可能
欠点
  • 事業効果を代替する財が存在しない場合には用いる事ができない
  • あるいは代替財の選定によって不適切な評価結果がもたらされる
  • 市場データが必要
  • レクリエーションに関係しない公共財の価値を評価できない
  • 市場データが必要
  • 場所に依存するため、心情価値ははかれない
  • 無理に架空の市場を作って尋ねるため,いかにして回答者が答えやすくするか が重要
  • 質問者の意図を汲まない回答や虚偽の回答をする恐れがある
  • 適切な手順を踏まないとバイアスが発生し、推計精度が低下する恐れがある
  • 財の持つ複数の属性を抽出しなければならない
  • 質問者の意図を汲まない回答や虚偽の回答をする恐れがある
  • レベルの設定によっては支配的選好が多くなる場合がある
評価 × ×

交通事故による死傷リスクの削減をヘドニック法等の顕示選好法で推定することは可能であるが、そのためのデータ収集にはかなりの時間と資源が必要である。したがって、本調査では表明選好法を採用することとした。表明選好法のうち、コンジョイント分析は、同様の事例(死亡リスクの削減)に対する適用事例が少なく、精度のよい調査を行うための知見が蓄積されていないため、本調査研究においては、適用事例が多く手法も確立されている仮想市場評価法(Contingent Valuation Method:CVM)によりWTPを算定することとした。なお、CVMは、同様の事例の算定を行う際に近年諸外国で広範に採用されている手法であり、我が国においても費用便益分析等で活用されている。

CVMではアンケートを用いて、ある仮想的な財を購入するためいくらまでなら支払っても構わないかを直接尋ね、その財に対するWTPを評価する。これを交通事故による死亡リスクの例に当てはめると、次のようになる。

まず現在、交通事故によって死亡するリスクがどの程度存在するのかを回答者に伝える。次に、ある対策により、死亡するリスクが一定の値だけ削減されるという仮想的状態を示す。この仮想的状態を想像しやすくするため、対策の大まかな内容(ただし、値段を推定できるような類似の対策がないもの)も示す。その後、この死亡リスクを削減する対策のためにいくらまでなら支払っても構わないかを回答者に尋ねる。この時、回答者が答える金額が死亡リスク削減に対するWTPである。

3 CVMによるWTP調査の設計

CVMは、図表8-4に示されているように、あらゆる財の評価に活用可能などの利点がある一方で、質問の意図を汲まない回答や様々なバイアスが生じると推計の精度が低下する恐れがあるため、調査の設計には十分注意を払う必要がある。このため、平成17年度のワーキンググループにおいて、質問内容や質問形式、調査票の種類などについて検討を重ね、プレテストの結果も踏まえて、WTP調査の設計を行った。調査票の大まかな流れを図表8-5、また設計の要点を図表8-6に示す。実際の調査票の例は参考資料3のとおりである。プレテストの結果については参考資料4に、WTP調査の設計の詳細を参考資料5に示す。

図表8-5 調査票の流れ

現在の交通事故による死亡リスクの大きさの説明

死亡リスク(確率)の理解に関する質問
車の保有台数など交通安全に関する質問

交通事故による死亡リスク削減に対するWTPに関する質問
削減率(1) 削減率(2)
重傷の状態における治療の選択に関する質問

属性、アンケート理解度などに関する質問

図表8-6 WTP調査の設計の要点
項目 バイアスなどの課題点 対応策
質問の範囲
  • 複数の質問をすると、回答者の負担が増し回答率が低下するおそれがある。また、先の質問が後の質問への回答に影響を及ぼす順序効果が発生。
  • 本人のみの死亡リスク削減に対するWTPに質問を限定。
  • 重傷の場合については、上記WTPを基に、別の手法(スタンダードギャンブル)により推計。
  • サンプルを2つに分け、2つの削減率を異なる順番で質問。
質問形式
  • 質問形式によっては、無回答が多くなったり、提示金額が回答に影響を与えたりすることがある。
  • 二段階二項選択方式を採用。
現状・仮想的状況の説明
  • 交通事故の死亡リスクに関する現状、仮想的状況及びその二つの違いが理解されないと、適切な回答額が得られない。
  • 各年代のがんによる死亡リスクと現在の交通事故による死亡リスク、削減後の死亡リスクを並べて提示するリスクものさしを活用。
  • 死亡リスクそのものだけでなく、その削減率も併記。
仮想の安全対策の内容
  • 類似の製品等があると、回答額がその価格の影響を受けるおそれ。
  • 安全対策の実現可能性に対し否定的な場合、極端に低い回答や回答の拒否(抵抗回答)につながる。
  • 死亡リスクのみを削減することが理解されないと、他のリスク削減に対するWTPも含まれてしまい過大評価となる。
  • 仮想の安全対策として、「死亡リスクのみを削減できる(完全に事故を防ぐわけではない)ICカードのようなもので、所持していれば歩行中・乗車中に関わらず事故になる直前に車のブレーキが自動的にかかるような安全グッズ」を提示。
抵抗回答の判別
  • 正確なWTP推計のためには、抵抗回答をサンプルから除外する必要がある。
  • 2回の提示額に対し「いいえ」と答えた回答者に対してその理由を尋ねる問を設定。
予算制約の明示
  • 回答額を支払う分、他への支出が減ることが理解されていないと、WTPが過大に評価される。
  • 設問に「料金は自身で支払い、その分他への支出が減ること」を考慮するよう注意書きを追加。
提示金額
  • 統計分析のため、平均的なWTPを含むような範囲に適切な間隔で設定する必要がある。
  • プレテストの結果を参考に、最初の提示金額が500円、1,000円、2,500円、5,000円、10,000円の5種類を設定。
死亡リスク削減率
  • 調査結果の信頼性を評価するため、評価対象が変化したとき評価額が変化するかを検証するスコープテストが必要。
  • 2つのWTPを尋ねる場合、2番目の評価額が低くなる順序効果が発生する。
  • 2つの死亡リスクの削減率(17%減:10万分の6から10万分の5に削減、50%減:10万分の6から10万分の3に削減)に対するWTPについて質問。
  • サンプルを2つに分け、2つの削減率を異なる順番で質問。
調査内容の理解の確認
  • 死亡リスクの考え方など調査内容が理解されていないと、回答額に本来のWTPが反映されない。
  • 死亡リスクの確率やアンケート内容の理解度についての問を設定。
サンプル数
  • 統計精度と数種の調査票の分析に必要なサンプル数の確保が必要。
  • 全体で2,000サンプル(性年代毎に200サンプル)を収集。

第3節 WTP調査の分析結果

1 分析手順

調査にあたっては、3,720名の調査対象者を訪問し、2,000サンプルを回収した。回収率は、53.8%である。未回収理由としては、拒否、不在、非該当(既に回収済みの性年代であった)等である。

この2,000サンプルのうち、以下の抵抗回答者と非理解者はアンケートについて正しい理解が得られなかったと考えられることから、WTP推定に用いるサンプルからは削除した。

(抵抗回答者)
  • 最低金額提示時に「No」と答えた回答者の回答理由で以下を選択した回答者
    • 「安全グッズ」が本当に効果をもつとはどうしても思えなかったから。
    • 「安全グッズ」によって運転が不注意になりそうだから。
(非理解者)
  • 死亡リスクの大小について納得できるかを問う設問と死亡のリスクの倍率について納得できるかを問う設問でどちらにも「納得できない」を選んだ回答者
  • アンケートについて理解できたかを問う設問にて「理解できなかった」を選んだ回答者

初めに、A、Bの各サンプルのリスク削減率17%の場合、50%の場合のそれぞれについて計4つのWTPを算定し、それらを比較することにより内部スコープテスト((1)と(2)、(3)と(4)の比較)及び外部スコープテスト((1)と(3)、(2)と(4)の比較)を実施し、データの信頼性を確認した。

データの信頼性を確認
  1回目の質問 2回目の質問
調査票A (1) 17%削減 (2) 50%削減
調査票B (3) 50%削減 (4) 17%削減

なお、統計分析に当たっては、柔軟でモデルの当てはまりが良いとされる生存分析のワイブルモデルを用いることとした。

次に、A、Bのサンプルを合わせ、順序効果の影響を判定する変数を加えた上でWTPの分析を行い、順序効果の有無を確認するとともに、その影響を除去したWTPを算定した。

また、回答者の属性等の要因がWTPに与えている影響について分析を行い、WTPの分析結果の整合性についても検証した。

2 分析結果

WTP調査の統計分析の詳細については、参考資料6に示すこととし、以下にはその概要のみを示す。

(1) 死亡損失

統計分析の結果は全体的に良好であった。

死亡リスクの削減率の違いによるスコープテストについては、内部スコープテスト、外部スコープテストともにクリアしており、データの信頼性が確認された。また、分析の結果順序効果が発生していることが明らかになったため、その影響を除外してWTPの補正を行った。

回答者の属性等の要因とWTPの関係については、予想されたとおり、車所持数や車利用頻度が高いことがWTP増加の方向で有意となり、また年齢も増加要因となった。

一方で、子どもがいることは予想に反し減少要因となったが、例えば子どもがいる場合は他に比べ予算制約が強いことなどが理由として考えられる。このように、回答者の属性等の要因とWTPとの関係は概ね合理的であり、WTPの分析結果は整合性のあるものと考えられる。

順序効果を補正した後のWTPは図表8-7のとおりである。一般的に、平均値は少数の高いWTPを持つ回答者の影響を受けて高めの金額になりやすい。一方、中央値はそのような影響が見られず、中央値を用いて政策を実行すると半数の回答者から支持を得られることから、政策に用いるときは中央値が用いられることが一般的である。

そのため本調査では、図表8-7の評価額の中央値を最終的なWTPとして採用した。

図表8-7 死亡リスク削減に対するWTP(順序効果補正済み)
  リスク17%削減 リスク50%削減
中央値 4,623[4,244-5,054] 6,782[6,194-7,438]
平均値 裾切なし 7,246[6,634-7,939] 10,630[9,641-11,702]
裾切あり 6,617[6,180-7,071] 8,687[8,180-9,205]
注:
[ ]内は95%信頼区間。裾切ありは、最大提示額までの分布で計算した値。

このWTPをもとに1名あたりの死亡損失額(統計的生命価値(VSL))を有効数字3桁で算出したものが図表8-8である。リスクの削減率が大きくなるほど、リスク削減の限界効用が低下し、統計的生命価値も低下している。

図表8-8 1名当たりの死亡損失額 単位:百万円
リスク17%削減 462[424-505]
リスク50%削減 226[206-248]
注:
[ ]内は95%信頼区間

これまで行われてきたVSLに関する研究ではVSLの算定結果には数億円単位の幅があることと諸外国において採用されている値が2億円足らずから4億円超までの幅をもっていることを考えると、図表8-8に示されたいずれの値も妥当な範囲に含まれると考えられる。本調査研究では、図表8-8の2つの推計値のうちでリスク削減率の大きいケース(リスク50%削減)のVSLを算定に用いることとし、リスク17%削減のケースのVSLを用いた推計値も参考値として示す。リスク50%削減を採用した理由としては、第一に、この値が諸外国において費用便益分析や交通事故による損失額の算定に用いられている値とほぼ同水準であることである。第二に、本調査研究の目的は交通事故による死亡損失の総額を算定することであるが、これは死亡リスクを100%削減する場合の便益を算定していると解釈できる。この目的のためには、リスク削減率の大きいケース(リスク50%削減)のVSLを用いる方がよいと考えられる。

なお、今回算出したVSLの数値は1回の調査結果に基づく値であるため、今後我が国においても多くの研究が蓄積されることにより適切なVSLの範囲が限定されていくことが望ましい。

死亡損失の総額は、VSLに被害者数を乗じることにより求められ、図表8-9のとおりとなる。

図表8-9 死亡損失の総額 単位:十億円
死亡損失 2,330
(参考値) 4,770

(2) 重傷損失

死亡と重傷の限界代替率(Marginal Rate for Substitution:MRS)の回答者分布は図表8-10のとおりである。90%以上と答えた回答者の限界代替率を95%とみなして、平均値及び中央値を求めると図表8-11のとおりである。

図表8-10 回答者の分布
限界代替率 0.10% 1% 2% 5% 10% 20% 30% 50% 70% 90% 90%超
回答数(人) 25 45 95 128 249 258 139 195 219 55 159
注:
90%以上は、アンケート調査において0.1%から90%までの全てで○をつけた回答者の数。
図表8-11 重傷の限界代替率
平均値 0.37
中央値 0.20

死亡損失が中央値を用いて算定されているため、死亡と重傷の限界代替率にも中央値を用いると過小評価となる可能性もあること、また、限界代替率は0から1の値となるため極端に大きな値の少数回答の影響を受けるおそれがないことなどから、重傷損失については、平均値と中央値を併記することとした。

1名当たりの死亡損失額は、2億2,600万円(参考値:4億6,200万円)と推定されたため、死亡と重傷の限界代替率の平均値、中央値を用いると、それぞれに対応する1名当たりの重傷損失額は平均値を用いた場合は8,360万円(参考値:1億7,100万円)、中央値を用いた場合は4,520万円(参考値:9,240万円)と推定される。

図表8-12 重傷1名当たりの重傷損失額 単位:百万円
重傷1名当たりの重傷損失 平均値 84[76-918]
中央値 45[41-50]
(参考値) 平均値 171[157-187]
中央値 92[85-11]

なお、ここでの重傷の定義に対応する被害者数のデータが存在しないため、重傷損失の総額については算定していない。

第4節 死傷損失の算定結果のまとめ

死傷損失の算定結果をまとめると、図表8-13図表8-14のとおりであり、死亡損失の総額は2兆3,300億円、1名当たり死亡損失は2億2,600万円、1名当たり重傷損失は平均値で8,400万円、中央値で4,500万円となる。

図表8-13 死亡損失の総額(平成16年)単位:十億円
死亡損失 2,330
(参考値) 4,770
図表8-14 死亡・重傷別の1名当たり死傷損失(平成16年)単位:百万円
  死亡 重傷
平均値 中央値
1名当たり死傷損失 226 84 45
(参考値) 462 171 92

第5節 統計的生命価値の推計結果についての考察

1 推計結果について

今回の調査研究においては、2つのシナリオ(死亡リスク17%減、死亡リスク50%減)について死亡損失を算定している。2つの1名当たりの死亡損失の推計値には2億円以上の開きがあるが、これは、WTPがリスク削減率に比例するという仮定の下に算定を行っているためである(第2節の1参照)。実際には、リスク削減率が増えるにつれてWTPの増加量が小さくなるため、死亡リスク50%減を仮定した場合の死亡損失は17%減の場合の死亡損失の2.94倍(50÷17)にはならない。

このような算定手法の特徴等を考慮し、今回の調査研究においては、両方の死亡損失額を示すこととした。

2 諸外国における統計的生命価値(VSL)の研究との比較

諸外国においてはこれまでVSLに関する研究が数多く行われており、これら複数の研究結果を用いて統計的分析を行うことにより、推計手法や母集団の特性等とVSL推計値との関係性やVSLの最適範囲などを推定するメタアナリシスも行われている。

Boardman et al. は、費用便益分析について解説した文献において、最近の3つのメタアナリシス(Miller(2000)、Mrozek and Taylor(2002)、Viscusi and Aldy(2003))を参考に、米国において政策目的で用いるべきVSLの最良推計値を400万ドル(感度分析は200万ドル-600万ドルの範囲で実施)としている(図表8-15)。

今回の調査で導き出された1名当たりの死亡損失額は、リスク17%削減の場合4億6,200万、リスク50%削減の場合2億2,600万であり、同様の水準となっている。

図表8-15 VSLの推計範囲(2002年米ドルベース)
Boardman et al.(2005) 400万ドル[200万ドル-600万ドル]
Miller(2000) 410万ドル[370万ドル- 510万ドル]
Mrozek and Taylor(2002) 280万ドル[214万ドル-320万ドル]
Viscusi and Aldy(2003) -[570万ドル-787万ドル]
参照資料
Anthony E. Boardman, David H. Greenberg, Aidan R. Vining, and David L. Weimer (2005):Cost-Benefit Analysis, Concepts and Practice, Third Edition
注:
Millerは68の、Mrozek and Taylorは33の、Viscusi and Aldyは49の国際的研究を基にメタアナリシスを実施。ただし、上記のVSL推定値は、Millerは米国におけるVSL、Mrozek and Taylorは“平均的労働者”のVSL、Viscusi and Aldyは米国民のVSLとして算定したもの。

3 我が国における統計的生命価値(VSL)の研究との比較

我が国においても、政策評価に対する要求の高まりなどを背景に、様々なVSLに関する研究が行われている。いくつかの研究結果を図表8-16に示す。VSLの算定結果は、図表8-16でも0.2億円~35.5億円と広範にわたっているが、今後更に研究が積み重ねられることにより適切なVSLの範囲が明らかになっていくものと期待される。

図表8-16 VSLに関する研究結果 単位:億円
山本・岡(1994) -[22.4-35.5]
竹内・岸本・柘植(2001) -[0.2-2.4]
今長(2001) 4.6
国土交通省道路局(2005) 1.6
Tsuge, Kishimoto and Takeuchi (2005) 3.5[2.1-5.1]
Itaoka et al. (2005) -[1.03-3.44]
参照資料
山本秀一・岡敏弘(1994)「飲料水リスク削減に対する支払意思調査に基づいた統計的生命の価値の推定」『環境科学会誌』、7(4)、289-301p
竹内憲司・岸本充生・拓植隆宏「表明選考アプローチによる確率的生命価値の推計」環境経済政策学会2001年大会報告論文、2001年9月29日、京都国際会議場
今長久(2001)「道路交通事故の社会的損害額の推計」『道路交通経済』2001-7、No.96、98-105国土交通省道路局・財団法人道路経済究所(平成17年3月)「道路交通における人身被害に伴う損失額推計に関する調査研究」
Tsuge, T., Kishimoto, A., and Takeuchi, K. (2005) "A Choice Experiment Approach to the Valuation of Mortality," Journal of Risk and Uncertainty, vol.31(1), pages 73-95
Itaoka, K., Krupnick, A., Akai, M., Alberini, A., Cropper, M. and Simon, N. (2005) "Age, Health, and the Willingness to Pay for Mortality Risk Reductions: A Contingent Valuation Survey in Japan," Resources for the Future Discussion Paper 05-34
注:
竹内・岸本・拓植(2001)は仮想評価法を用いた推計の中央値を記載。

4 推計結果を活用する場合の参考

今回の調査研究においては、バイアスの除去等に細心の注意を払ってアンケートを設計し、サンプル数2,000という大規模な調査の結果を用いてデータの統計的検定等による検証も実施しているため、推計されたVSLは信頼性の高い数値であると考えられるが、上述のように一般的にVSLの推計値には数億円単位での幅があること、また、アンケートにおける評価対象によってもVSLの推計値が変わり得ることなどから、今回の推計結果を活用する場合には注意が必要である。

第9章 交通事故による損失の全容

第1節 交通事故による損失額

1 総額

ここでは金銭的損失と死亡損失を合算したものを、交通事故による損失として示す。平成16年(度)における交通事故による損失額は、約6兆7,500億円(GDP比1.4%)と算定された。

また、慰謝料が死亡損失に含まれると考え、算定された死亡損失額から慰謝料を除いた場合、約6兆6,100億円となる。

図表9-1 交通事故による損失額(平成16年(度))単位:十億円
  死亡 後遺障害 傷害 物損
人的損失 逸失利益 160
慰謝料 133
治療関係費 6
葬祭費 8
小計 307 508 669 1,484
物的損失 4 23 444 1,310 1,781
事業主体の損失 11 15 74 100
各種公的機関等の損失 20 61 946 23 1,050
金銭的損失合計 342 607 2,132 1,334 4,416
死亡損失 2,330 2,330
総計 2,672 607 2,132 1,334 6,746
(慰謝料が重複すると考える場合)
死亡損失 2,197 2,197
総計 2,539 607 2,132 1,334 6,612
注1
物損は物損のみの事故の場合である。
注2
後遺障害、傷害及び物損については、図表7-2の値を再掲している。
注3
人的損失額の内訳は、参考資料1で計算された内訳の比率を使用し算定した。
注4
数値は四捨五入しているため。図表中の各数値を合算しても、「金銭的損失合計」及び「総計」の数値とは必ずしも一致しない。
交通事故による損失額を費目別に見ると、死亡損失が約2兆3,300億円で全体の約1/3を占めている。

交通事故による損失額6兆7,450億円(単位:十億円)


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また、損失額の死亡、後遺障害、傷害、物損による内訳を見ると、死亡損失が加算された死亡による損失額の比率が極めて大きくなっている。

死亡・後遺障害・傷害・物損の内訳(単位:十億円)


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2 被害者1名当たりの交通事故による損失額

被害者1名当たりの損失額を算定すると、図表9-2のようになる。

死亡者1名あたりの損失額は、約2億5,900万円と算定された。(慰謝料が重複する場合で、約2億4,600万円。)

なお、後遺障害のうち、今回試行的に死傷損失の算定を行った重傷の場合について、死傷損失(平均値)9を算入した1名当たりの損失額を参考に示した。

9限界代替率の平均値を使用した場合の損失額(第8章第4節参照)。

図表9-2 被害者1名(損害物1件)当たりの交通事故による損失額(平成16年(度))単位:千円
  死亡 後遺障害 傷害 物損 死傷
  重傷
人的損失 逸失利益 15,496          
慰謝料 12,919          
治療関係費 599          
葬祭費 751          
小計 29,764 8,072 8,072 555 1,161
物的損失 368 368 368 368 240 368
事業主体の損失 1,075 241 241 61 78
各種公的機関等の損失 1,957 969 969 785 4 805
金銭的損失合計 33,165 9,650 9,650 1,769 244 2,411
死傷損失 226,000 83,600 1,823
総計 259,165 9,650 93,250 1,769 244 4,234
(慰謝料が重複すると考える場合)
死傷損失 212,900 1,718
総計 246,246 9,650 1,769 244 4,129
注1
物損は物損のみの事故の場合である。
注2
「死傷」の数値は死傷者1名当たりの場合の損失額。重傷損失は含まれていない。
注3
重傷の場合については、人的損失額のうち慰謝料の推計が不可能であるため、重傷損失と慰謝料が重複する場合については記載していない。
注4
後遺障害、傷害及び物損については、図表7-3の値を再掲している。また、死傷損失が加算された死亡、重傷、死傷についての1名当たり損失額の内訳を見ると、死亡及び重傷の場合は全体の約9割が死傷損失によるものである。

死亡2億5,917万円(単位:千円)


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重傷(参考)9,325万円(単位:千円)


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死傷423万円(単位:千円)


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後遺障害965万円(単位:千円)


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傷害177万円(単位:千円)


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第2節 諸外国における交通事故による損失額との比較

死亡損失を含めた死亡1名当たりの交通事故による損失額(慰謝料が重複しない場合)を諸外国の事例とともに図表9-3に示す。死亡1名当たりの交通事故による損失額は、概ねフィンランド、英国、スウェーデンなどと同じ水準となっている。

図表9-3 諸外国における死亡1名当たりの交通事故による損失額(2004年)

諸外国における死亡1名当たりの交通事故による損失額(2004年)

図表9-3
(千円) アメリカ フィンランド 英国 スウェーデン ニュージーランド ドイツ オーストラリア 日本
総額 413,411 289,966 274,119 252,761 229,880 176,796 174,756 259,165
逸失利益 96,635 64,401 94,233 17,217 173,119 37,179 29,764
物的損失 1,261 1,192 3,723 330 3,677 47,802 368
救急・治療コスト 2,816 162 620 420 27,442 33
訴訟費用 12,544 1,024 630 7,967 964
保険運営費 4,559 10,622 217
職場の損失 1,068 0 3,541 1,075
警察関連費用 884 64
財産への損害 369 280
渋滞コスト 1,123 17,705 400
死亡損失 293,405 224,373 179,724 230,177 228,500 21,245 226,000
注1:
“-”は、その国において費用が計上されていない項目を表す。
注2:
ニュージーランドは2006年、英国は2004年、その他の国については公式数値確認年度を基にGDP比から2004年度の値を算出。公式数値確認年度は、アメリカ:2000年、フィンランド:2000年、スウェーデン:1999年、ドイツ:1998年、オーストラリア:1999年。
注3:
各費用項目の算定範囲・手法は各国で異なる。
注4:
英国は死亡1名当たり費用が算出されている費目のみを記載、フィンランドの損失額の内訳は推計による。
注5:
「死亡損失」には、各国において「human costs」「quality of life」「immaterial cost」等と呼称される費用項目を分類している。

第10章 今後の課題

1 金銭的損失の算定の対象範囲について

算定の対象範囲に関しては、交通事故による損失全てを包含するように設定すべきであるが、算定に必要なデータの不在などの事由により今回の調査研究においても必ずしも全ての損失を網羅できているわけではない。

今後も、追加すべき費目の検討、算定手法の検討、算定に必要となるデータ確保の方法の検討などを継続し、交通事故被害の全容をより正確に反映するよう努めることが重要である。

2 死亡損失について

データの更新の手法については、諸外国に見られるように、今回の調査研究の算定結果を元に経済成長率を乗じて更新する方法や、長期的には社会情勢や交通事故状況の変化などを考慮し、再度アンケート調査を実施することなどが考えられる。また、交通事故による死亡損失に関する各方面での調査研究が進めば、複数の調査研究結果を統合して統計分析を行うメタアナリシスの手法により、これらの成果を活用することも考えられる。

今後、データを更新するに当たっては、このような交通情勢の変化や研究動向などに応じ、その具体的方法について検討する必要がある。

3 重傷損失について

今回の調査研究では重傷損失を試行的に算定したが、重度の障害が残るケースのみ検討対象としていること、重度の障害が残るケースについては死亡と同等又はそれ以上の損失額とする調査結果もあること、などから、今後、重傷損失額の算定手法の研究動向などを踏まえつつ、算定の対象とする傷害の区分の仕方や算定手法などについて検討する必要がある。

4 傷害の死傷損失について

今回の調査研究では重傷を除く傷害の死傷損失は算定していない。しかし、被害の程度を軽減するような対策の費用便益分析を行う場合などは、傷害の程度毎の死傷損失額が必要になると考えられる。

したがって、今後、傷害の死傷損失について、算定結果の活用の可能性やデータの整備状況、算定手法に関する研究動向などを踏まえつつ、算定の必要性について検討する必要がある。

参考資料

参考資料1 人的損失額算定結果の客観性・妥当性に関する検証結果詳細

1 考え方

以下では、前回調査において損害保険データの検証のために使用した方法を踏襲し、業種別の平均賃金を用いたライプニッツ法などを適用して、人的損失額の損害保険データについて検証した結果を述べる。

なお、損害保険料率算出機構では、人的損失額の内訳が非公開情報となっており、直接収集されたデータにより内訳を確認することは出来ない。

2 算定方法

(1)逸失利益

1.自賠責の基準の場合

計算は損害保険や裁判などで通常使用されているライプニッツ法(ライプニッツ係数×賃金により逸失利益を算定する方法)を使用する。

ライプニッツ法に適用する賃金は以下のように考える。

  • 有職者に関しては性年齢別・業種別の平均賃金(賃金センサスデータ)を使用する。
  • 18歳未満に関しては18歳平均賃金を使用する。
  • 18歳以上で無職の場合には「働く意志のある者」と想定し、18歳平均賃金を使用した方式と各性年齢別平均賃金の50%を使用した方式の内高額なものを採用する。
  • 公務員についても賃金データが不在のため各年齢の平均賃金を使用する。
  • 70歳以上に関しては計算対象外とする。
  • 主婦は女性の各年齢の平均賃金を使用する。

生活費控除率は扶養者ありの場合35%、なしの場合50%の基準値を採用する。25歳~64歳までの男性は扶養者が3名に2名の割合でありとし、他は扶養者なしとした。

2.任意保険の基準の場合

自賠責の場合と同様である。

(2)慰謝料

1.自賠責の基準の場合

自賠責の場合本人350万円、請求権者1名の場合550万円、2名の場合650万円、3名以上の場合750万円、さらに被害者が扶養者ありの場合(税務上の控除対象者のみ)200万円が加算される。

今回は24歳以下は請求権者2名(親)で扶養者なし、25歳~64歳までの男性は請求権者3名以上(親+配偶者+子供)で扶養者が3名に2名の割合であり、その他は請求権者3名以上で扶養者なしとした。

2.任意保険の基準の場合

扶養者ありは1,700万円、65歳以上は1,250万円その他は1,450万円という基準値を元に、25~64歳までの男性は3名に2名の割合で扶養者ありとして1,617万円、65歳以上は1,250万円、その他は1,450万円とした。

(3)治療関係費

自賠責でも任意でも実額ベースのため自賠責保険データの死亡時の診療費752千円を使用する。

(4)葬祭費

自賠責でも任意でも60万円が基準のためこれを使用する。

以上の(1)~(4)までを自賠責基準で算定、合計額が3,000万円を超えた場合には任意基準の算定方法により算定し、全体の数値を合算、この合算値と日本損害保険協会から公表されているデータを比較する。

3 計算結果

実際に計算した結果は下図表のとおりである。

日本損害保険協会から公表されているデータは28,872千円であるから算定値との差異は3.3%である。

外部データにより概ね人的損失額が再現されていることから、損害保険データの客観性は保たれていると考えられるため、前回調査と同様に損害保険データを使って人的損失額の算定を行うこととする。

死亡時の1名当たり人的損失額 単位:千円
  自賠責限度内 自賠責限度超 全体
逸失利益 3,890 32,024 15,525
慰謝料 11,098 15,559 12,943
葬祭費 600 600 600
治療関係費 752 752 752
合計 16,340 48,935 29,820

参考資料2 人的損失額の減少要因に関する参考データ

図表1 業種別・年齢別平均賃金の増減率(平成16年度と平成11年度の比較)単位:%
  鉱業 建築業 製造業 卸小売業 金融保険業 不動産業 運輸通信業 電気・ガス・熱供給・水道業 サービス業 全業種
18~19歳 -3.0 -4.2 1.7 -5.6 -7.1 21.4 -6.4 -8.1 -2.3 -1.2
20~24歳 -7.9 -9.2 -0.8 -5.1 -3.2 -0.3 -3.5 -3.6 -6.4 -3.9
25~29歳 -4.4 -8.6 -2.9 -7.2 -0.7 -2.9 0.9 -6.4 -7.6 -5.1
30~34歳 -4.5 -8.4 -4.0 -9.7 -3.9 -1.7 1.0 -11.9 -11.5 -7.3
35~39歳 -8.0 -7.2 -2.4 -9.7 4.6 3.6 8.7 -10.5 -10.2 -4.9
40~44歳 -1.3 -9.7 1.1 -7.7 0.9 11.6 12.1 -12.6 -8.2 -3.2
45~49歳 -7.9 -8.2 0.4 -8.8 -9.7 1.5 11.1 -11.1 -7.3 -2.7
50~54歳 -8.9 -11.6 -3.9 -9.4 -9.2 1.4 -0.2 -11.2 -9.8 -5.6
55~59歳 -9.1 -2.2 -1.0 -12.7 -13.4 -0.7 1.3 -20.9 -9.6 -2.9
60~64歳 -6.1 -4.3 -4.1 -4.8 -6.1 -4.9 -8.1 -7.9 -11.1 -1.6
65歳以上 -9.9 -8.4 -6.3 -10.5 2.2 0.1 -9.3 -9.1 -22.3 0.6
合計 -6.2 -5.4 -1.2 -6.4 0.4 3.0 3.5 -13.4 -6.7 -2.8
参照資料
平成16年、平成11年賃金センサス(厚生労働省)

図表2 死亡者の職業構成(平成16年)

死亡者の職業構成(平成16年)グラフ

参照資料
交通統計平成16年版(警察庁交通局)
図表3 ライプニッツ方式、ホフマン方式の各係数
年齢区分 就労可能年数 ホフマン係数 ライプニッツ係数
6歳以下 49 13.43539 7.78906
7~12歳 49 17.13795 11.0609
13~15歳 49 20.85186 14.62277
16~19歳 49 23.46385 17.21634
20~24歳 45 23.23072 17.77407
25~29歳 40 21.64262 17.15609
30~34歳 35 19.91745 16.37419
35~39歳 30 18.02931 15.37245
40~44歳 25 15.94417 14.09394
45~49歳 20 13.61607 12.46221
50~55歳 15 10.98084 10.37966
55~59歳 10 7.94495 7.72173
60~64歳 7 5.87434 5.78637
65~69歳 2 1.86147 1.85941
70~74歳 0 0 0
75歳以上 0 0 0

図表4 死亡者の年齢分布

死亡者の年齢分布グラフ

参照資料
平成16年、平成11年人口動態統計(厚生労働省)

図表5 自賠責保険の後遺障害等級別分布

自賠責保険の後遺障害等級別分布グラフ

参照資料
自動車保険の概況(損害保険料率算出機構)
図表6 自賠責保険の後遺障害による労働能力喪失率の平均
  平成11年度 平成16年度 増減率(%)
平均労働能力喪失率(%) 21.13 17.35 -17.9
参照資料
自動車保険の概況(損害保険料率算出機構)より算定。
図表7 自賠責保険の診療関係データ(傷害)
  平成11年度 平成16年度 増減率(%)
一件平均診療期間(日) 52.0 51.1 -0.9
診療実日数(日) 17.5 16.1 -1.4
入院率(%) 11.7 8.5 -3.2
参照資料
自動車保険の概況(損害保険料率算出機構)

参考資料3 アンケート調査票の例

道路交通安全に関する意識調査

<ご協力のお願い>

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

本調査票は内閣府から委託を受けた株式会社野村総合研究所が作成し、実査は株式会社野村総合研究所から委託を受けた社団法人輿論科学協会が実施しております。

内閣府では、道路交通安全向上のために各種データに基づく交通事故の分析、各種施策の策定・実施を推進しております。このたびは、道路交通安全に関する国民全般の意識を把握する一環として、経済的観点から交通安全に関する意識調査をすることとなりました。

つきましては、この調査をお願いする方々を無作為に選ばせていただいた結果、あなた様に、ぜひご回答をしていただきたくお願い申し上げます。

このアンケートは、あなたの道路交通安全に関するご意見についておうかがいするものです。結果はすべて個人情報保護の観点から、個人を特定できぬように統計的に処理を行いますので、個人にご迷惑をおかけすることは決してございません。

突然のお願いで恐縮ですが、調査の趣旨をご理解いただき、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。なお、ご回答いただいた方全員に、謝礼として、図書券を進呈致します。

※アンケートは15分程度でお答えいただけます。

内閣府 交通安全対策ホームページ

このアンケートでは、1年間で国民1人が道路交通事故で死亡する可能性(交通事故による死者数を人口で割った数値です。以下、交通事故による死亡リスクと記します。)と交通事故を回避するために個人が支払っても良いと考えている金額を主に質問しています。

まず、この考え方に慣れていただくためにいくつかのご説明とご質問をさせていただきます。

【交通事故による死亡リスクの大きさの説明】

平成15年における日本の総人口は1億2,762万人、年間の死亡数が101万5,034人です。死因順位別の1位は、悪性新生物(がん)で30万9,465人となっています。1年間で、日本人10万人中およそ240人が悪性新生物(がん)により死亡していることになります。

また、平成15年における交通事故発生件数は94万7,993件、交通事故による死者数は7,702人です。1年間で、日本人10万人中およそ6人が交通事故により死亡していることになります。これは、1年間の交通事故による死亡リスクが10万分の6であることを表し、図1にあるように、10代の方が、がんで死亡するリスクと20代の方が、がんで死亡するリスクの間の値です。

図1 リスクのものさし1

リスクのものさし1グラフ

【死亡リスクという考えに慣れていただくための質問】

まず、死亡リスク(死亡する確率、あるいは可能性と考えてください)という考え方に慣れるために、簡単な質問を2ついたします。深く考えず、思った通りにお答えください。

Q1.今、AさんとBさんがいます。Aさんの今後1年間の死亡リスクは5/1,000、Bさんの今後1年間の死亡リスクは10/1,000です。あなたは以上の説明でAさんよりもBさんの方が、今後1年間の死亡リスクが高いということに納得できますか。(ひとつだけ○)

  1. はい
  2. いいえ

Q2.今、CさんとDさんがいます。Cさんの今後1年間の死亡リスクは6/1,000、Dさんの今後1年間の死亡リスクは2/1,000です。あなたは以上の説明でCさんの死亡リスクはDさんの死亡リスクの3倍であるということに納得できますか。(ひとつだけ○)

  1. はい
  2. いいえ

【交通安全についての意識に関する質問】

では、以下の交通安全に関する質問にお答えください。

Q3.ご家庭に自動車をお持ちですか。また、お持ちの方はご家庭に何台お持ちかをお答えください。(ひとつだけ○)

  1. 持っている( 台)
  2. 持っていない→Q4.へ

Q4.乗用車を持っておられる方は、その車に搭載している安全装備について下の中からいくつでもお選びください。(いくつでも○)

  1. シートベルト
  2. エアバッグ
  3. サイドエアバッグ
  4. ABS
  5. 衝突安全ボディー
  6. その他(

Q5.運転だけでなく、同乗も含んだ自動車及び自動二輪の利用頻度についてお答えください。(ひとつだけ○)

  1. ほぼ毎日利用する
  2. 週に数回程度利用する
  3. 月に数回程度利用する
  4. 半年に数回程度利用する
  5. 1年に数回程度利用する
  6. 全く利用しない

交通事故による死亡リスクは、安全装備(シートベルやエアバッグなど)により減らすことが出来ます。以下では、いくつかの状況を想定し、このリスクを減らすためにあなたご自身が支払っても良いとお考えの金額をおうかがいします

Q6.次の設問を読み、矢印に従って「はい」「いいえ」どちらかに○をつけてください。

あなたが交通事故によって死亡するリスクは2ページ図1のリスクのものさしで示したように年間6/100,000(10万分の6)です。ここからは仮想的な質問です。もし、「あなたの死亡リスクのみを削減できる新しい安全グッズが開発されたとしたら」と考えてお答えください。安全グッズは、ICカード(キャッシュカード大のプラスチック製カード)のようなものを想像してください。所持していれば、歩行中・乗車中に関わらず、事故になる直前に車のブレーキが自動的にかかります。しかし、完全に事故を防ぐわけではありません。

その安全グッズを所持する事により、次ページの図2に示したように、死亡リスクを年間6/100,000(10万分の6)から年間5/100,000(10万分の5)へと17%減少させる事ができます。

この安全グッズを1年間使用するための料金が、500円だったとしたら、あなたはこの安全グッズを購入しますか? なお、料金はあなたご自身が支払い、他のものに支出できるお金がその分だけ減ってしまうことを考慮してお考えください。

  1. はい
    それでは、1,000円でも購入しますか。
    1. はい
    2. いいえ
  2. いいえ
    それでは、100円なら購入しますか。
    1. はい
    2. いいえ

図2 リスクのものさし2

リスクのものさし2グラフ

Q7.次の設問を読み、矢印に従って「はい」「いいえ」どちらかに○をつけてください。

Q6と同様に、あなたの死亡リスクのみを削減できる新しい安全グッズが開発されたとします。今回は新しい安全グッズを所持する事により、次ページの図3に示したように、死亡リスクを年間6/100,000(10万分の6)から年間3/100,000(10万分の3)に半減させることができます。

この安全グッズを1年間使用するための料金が、500円だったとしたら、あなたはこの安全グッズを購入しますか? なお、料金はあなたご自身が支払い、他のものに支出できるお金がその分だけ減ってしまうことを考慮してお考えください。

  1. はい
    それでは、1,000円でも購入しますか。
    1. はい → Q8へ
    2. いいえ → Q8へ
  2. いいえ
    それでは、100円なら購入しますか。
    1. はい → Q8へ
    2. いいえ

その理由についてお答えください。(ひとつだけ○)

  1. それほどの金額を出すものとは思わないから。
  2. 「安全グッズ」が本当に効果をもつとはどうしても思えなかったから。
  3. 「安全グッズ」によって運転が不注意になりそうだから。
  4. 自分は絶対事故に遭わないから。
  5. その他( )

図2 リスクのものさし3

リスクのものさし3グラフ

Q8.次もまた仮想的な質問です。あなたは交通事故に遭い、病院に運ばれたとします。現在、あなたは(a)のような状態にあります。無料で「特別な治療」を受けることが可能ですが、その場合の結果は確実ではありません。成功すれば2、3日で回復します。しかし、失敗すれば、即座に死亡します。

Q8の質問

(a)現在の状態:
6ヶ月以上の入院が必要となります。大きな手術と集中治療、その後のリハビリテーションを行う必要があります。退院後、一生の間、精神的、肉体的な機能が大きく損なわれ、社会復帰はできません。食事やトイレに行く時など、生活の多くの場面で他人の助けが必要となります。
特別な治療に成功すると:
2、3日で健康な状態まで回復。
特別な治療に失敗すると:
死亡する。

あなたは「特別な治療」が失敗する確率がどの程度であれば、「特別な治療」を受けたいと思いますか。回答例を参考に、「特別な治療」を選ぶ時は回答欄に「○」を、選ばない時は「×」をお書きください。

回答欄
0.1%   20%  
1%   30%  
2%   50%  
5%   70%  
10%   90%  
回答例
0.1% 20% ×
1% 30% ×
2% 50% ×
5% × 70% ×
10% × 90% ×

最後にあなたご自身についてお伺いします。(統計分析上必要な項目です。個人を特定するものでは御座いません。)

F1:あなたの性別をお答え下さい。(1つだけ○)

  1. 男性
  2. 女性

F2:あなたの年齢をお答え下さい。(1つだけ○)

  1. 18歳以上25歳未満
  2. 25歳以上30歳未満
  3. 30歳以上35歳未満
  4. 35歳以上40歳未満
  5. 40歳以上45歳未満
  6. 45歳以上50歳未満
  7. 50歳以上55歳未満
  8. 55歳以上60歳未満
  9. 60歳以上65歳未満
  10. 65歳以上

F3:あなたはご結婚されていますか。(1つだけ○)

  1. 既婚
  2. 未婚

F4:あなたは18歳以下のお子様あるいはお孫様をお持ちですか。(1つだけ○)

  1. はい
  2. いいえ

F5:あなたのご家族形態をお答え下さい。(1つだけ○)

  1. 単身世帯
  2. 夫婦のみ世帯
  3. 夫婦と未婚の子供世帯
  4. ひとり親と未婚の子供世帯
  5. 夫婦と既婚の子供世帯
  6. ひとり親と既婚の子供世帯
  7. 三世代以上の同居世帯

F6:差し支えなければ、あなたのご家庭のご家族全員の最近1年間の収入をお答え下さい。(1つだけ○)

  1. 収入はない
  2. 500万円未満
  3. 500万円~ 1000万円未満
  4. 1,000万円以上

F7:あなたは外出する時に、降水確率が何%以上ならば傘を持って出かけますか。(1つだけ○)

  1. 100%の時のみ
  2. 70%以上
  3. 50%以上
  4. 30%以上
  5. 10%以上
  6. 常に傘を持ち歩いている

F8:あなた自身の交通事故リスクは日本人平均よりも大きいと思いますか。それとも小さいと思いますか。

  1. 大きい
  2. 平均的
  3. 小さい

F9:あなたは何歳くらいまで生きたいと思いますか。

( )歳

F10:今回行ったアンケートに興味を持つ事が出来ましたか。(1つだけ○)

  1. 興味を持てた
  2. どちらかというと興味を持てた
  3. どちらでもない
  4. どちらかというと興味をもてなかった
  5. 興味をもてなかった

F11:今回のアンケート内容について理解出来ましたか。(1つだけ○)

  1. 理解できた
  2. だいたい理解できた
  3. あまり理解できなかった
  4. 理解できなかった

F12:リスクのものさしについて理解出来ましたか。(1つだけ○)

  1. 理解できた
  2. だいたい理解できた
  3. あまり理解できなかった
  4. 理解できなかった

F13:今回のアンケートについてご意見・ご感想があればご自由にお書きください。

長い間アンケートにご協力ありがとうございました

参考資料4 プレテストの結果について

今回のWTP調査では、プレテストを2回実施し、質問内容等の検討を行った。以下に、最終的なWTP調査に近い内容で実施した2回目のプレテストについて、概要とプレテストの結果を反映して行った調査内容の改善点について示す。

1 調査概要

調査対象:
内閣府、各委員の関係機関、野村総合研究所内
回収サンプル:
57 サンプル

2 プレテストの結果から得られた改善点

(1)リスクものさし

プレテストでは、様々な病気や要因による死亡リスクを示したパターン1と、年代毎のがんによる死亡リスクを示したパターン2の2つを用意した。パターン1では、交通事故よりもなじみが薄い病気が指標になっており、交通事故のリスクを分かりやすくするというリスクものさしの役目を果たしていないという指摘があった。このため、本調査ではパターン2を採用することとした。

(2)安全グッズの使用期間

安全グッズの使用期間を10年間使用する場合の支払額について尋ねたが、交通事故による死亡リスクを1年間で提示しているため、分かりにくいという指摘があった。よって本調査では、安全グッズを1年間使用する時の金額を尋ねるものとした。

(3)死亡リスクの削減率の表示方法

死亡リスクについては、10万分の6から10万分の5の削減と10万分の6から10万分の3の削減の2種類用意したが、外部スコープテストを行ったところ、クリアできなかった。そこで、死亡リスクの低減幅をよりわかりやすいものとするため、本調査では「6/100,000(10万分の6)から年間5/100,000(10万分の5)へと17%減少させる事ができます。」「死亡リスクを年間6/100,000(10万分の6)から年間3/100,000(10万分の3)に半減させることができます。」という設問文とした。

(4)提示金額

調査結果の提示額受諾率0~1をおおよそ6等分した点の提示金額を求めることにより、本調査で最初に提示する金額を5通り導き出した。算出した5通りの提示金額は、500円、1,000円、2,500円、5,000円、10,000円である。

(5)負傷についての設問

負傷については、WTPとスタンダードギャンブルの2種類の方法で尋ねたが、以下の理由から、本調査ではWTPではなく、スタンダードギャンブルで尋ねるものとした。

  • 回答者にとって、負傷のみのリスクを減らす(死亡のリスクは減らない)という設定が想定し難い。
  • 3問続けてWTPを尋ねると、順序効果を考慮することが難しくなる。順序効果によるバイアスがかからないようにするには、サンプルを多数のグループに分けなければればならず、サンプル数の確保が難しい。

参考資料5 WTP調査の設計について

1 質問の範囲

WTP調査で尋ねる範囲については、本人の死亡リスク削減の他、死亡以外の傷害度毎のリスクや、家族、友人知人などのリスク削減に対するWTPなどが考えられる。

しかし、複数の項目について尋ねた場合には、先の質問が後の質問への回答に及ぼす影響(順序効果といわれる。詳細は後述。)を検証・除去できない、回答者の負担が増し回答率が低下する、など推計の精度を高める上で弊害があるため、今回の調査においては、本人のみの死亡リスク削減に対するWTPに範囲を限定して調査を行うこととした。

また、試行的に、重傷(重度の後遺障害が残るような傷害)について、スタンダードギャンブルの手法により死亡リスク削減に関するWTPを基に推計を行うこととした。

(参考)スタンダードギャンブル

スタンダードギャンブルとは、例えば現在重傷の状態にあるとした場合、確率pで失敗し死亡するが確率1-pで完全に健康な状態に回復するという治療を、pがいくつであれば選択するかを尋ねることにより、死亡と重傷の価値の比(限界代替率)を推定し、重傷の状態を回避する価値を求める手法である。これによれば、重傷の回避に関するWTPが、(死亡回避に関するWTP)×pにより求められる。

2 質問形式

CVMの質問形式には、図表1のようなものがある。

図表1 CVMにおける支払意思額の質問形式
  自由回答方式 付値ゲーム方式 支払カード方式 二項選択方式
内容 自由に金額を回答してもらう方法 市場のセリのように繰り返し金額を提示して「yes」か「no」で答えてもらう方法 金額が書かれたカードから自分の意志に相当するものを選択してもらう方法 提示した金額に対する支払意志を答えてもらい「yes」と答えた確率と提示額との関係から支払意思額を推定する方法
特徴 無回答が多くなる金額のばらつきが多くなる 回答が得られるまでに相当の時間を要する開始時の提示金額による影響を受けやすい 提示した金額の範囲が回答に影響を与えやすい バイアスが生じにくい回答者にとって答えやすい
出所:
栗山浩一「公共事業と環境の価値 -CVMガイドブック-」築地書館、1997年 を参考に作成。

4番目の二項選択方式は、1回だけ金額を提示する一段階(シングルバウンド)二項選択方式と、提示した金額に「はい」と答えた場合はより高い金額を、「いいえ」と答えた場合はより低い金額を再度提示する二段階(ダブルバウンド)二項選択方式がある。本調査研究では、バイアスが少なく統計的な精度を高めることができる二段階二項選択方式を採用した。

3 現状及び仮想的状況の説明

回答者は評価対象の状況を想像しながら支払の可否を回答しなければならないため、回答の信頼性を高めるためには、現状と評価対象の仮想的状況を回答者に対し明確に示すことが重要である。

まず、現状の説明において、交通事故による死亡リスクという微小なリスクについて回答者の理解を促すためにリスクのものさし(図2)を用いた。10代~80代のそれぞれの年代において1年間におけるがんで死亡する確率を表示し、その中に交通事故により死亡するリスクを並べている。

図2 リスクのものさし

リスクのものさし図

4 設問文

死亡リスクの削減についてのWTPを尋ねる設問文においても、次のような点に配慮した。

(1)仮想の安全対策

死亡リスクを削減するような仮想の対策については、既に類似の製品等が市場に存在するとその値段に回答額が影響を受けるおそれがあることから、具体的な製品等を連想させないようなものでなければならない。また、到底実現不可能と考えられるような技術である場合、その実現可能性に対する否定的な態度が極端に低い回答額や回答の拒否につながるため、ある程度実現可能と思われるような対策でなければならない。さらに、事故そのものを回避するという誤解があると、死亡だけでなく傷害のリスク削減に対するWTPが含まれてしまうため、死亡リスクのみを削減することを理解してもらう必要がある。このため、設問においては、“死亡リスクのみを削減できる(完全に事故を防ぐわけではない)ICカードのようなもので、所持していれば歩行中・乗車中に関わらず事故になる直前に車のブレーキが自動的にかかるような安全グッズ”を提示することとした。

(2)抵抗回答の判別

上記(1)の2番目に示した、実現可能性の否定等から低い回答額を示したまたは回答を拒否したものは、「抵抗回答」と呼ばれ、本来のWTPを反映していないことから、正確なWTPの推計のためには除外する必要がある。この「抵抗回答」を判別するため、2回の提示額に対していずれも「いいえ」と答えた回答者に対しては、その理由を尋ねる問を設け、安全グッズが死亡リスクを削減しないという選択肢(“グッズが本当に効果を持つとは思えない”、“グッズによって運転が不注意になりそう”)を選択した回答者をWTPの推計から除外できるようにした。

(3)死亡リスクの削減度合

安全グッズにより削減される死亡リスクについては、現状の説明と同様にリスクものさしに示すとともに、削減率(例えば、年間10万分の6から10万分の5へ17%減少など)を併記することにより、現状と容易に比較できるようにした。

(4)予算の制約

実際に回答した額を支払う場合には、他の財を購入できる金額が低下することが理解されていないと、WTPが過大に評価されることになるため、設問の最後に“料金は自身で支払い、その分他への支出が減ること”を考慮するよう注意書きを加えた。

5 調査票の種類

調査票は、WTPの統計的分析及び信頼性の検証を行うため、提示金額5種類、死亡リスク削減率の提示順序2種類、合計10種類を用意した。

図表3 調査票10種のWTP提示額パターン
調査票 提示金額 死亡リスク削減率の提示パターン
最初の提示額 No回答者への提示額 Yes回答者への提示額
A-1 500円 100円 1,000円 17%削減→半減
A-2 1,000円 500円 2,500円 17%削減→半減
A-3 2,500円 1,000円 5,000円 17%削減→半減
A-4 5,000円 2,500円 10,000円 17%削減→半減
A-5 10,000円 5,000円 20,000円 17%削減→半減
B-1 500円 100円 1,000円 半減→17%削減
B-2 1,000円 500円 2,500円 半減→17%削減
B-3 2,500円 1,000円 5,000円 半減→17%削減
B-4 5,000円 2,500円 10,000円 半減→17%削減
B-5 10,000円 5,000円 20,000円 半減→17%削減

(1)提示金額

WTP調査結果の統計的分析を行うには、提示する金額が、人々の平均的なWTPを含むような範囲に適切な間隔で設定されていなければならない。このため、本調査研究では、プレテストの結果を参考に、最初の提示金額が500円、1,000円、2,500円、5,000円、10,000円の5種類を設定した。

(2)死亡リスク削減率

CVMによるWTP調査結果の信頼性を検証する手法として、評価対象が異なる場合にその評価額も異なる値が得られるかをチェックする「スコープテスト」があり、このスコープテストを満足しているか否かがWTP調査の信頼性の評価に大きく影響する。スコープテストには、同一サンプルに対して異なる評価対象についての評価額を尋ねて比較する「内部スコープテスト」と、異なるサンプルに対して異なる評価対象を尋ねる「外部スコープテスト」がある。今回の調査においては、両スコープテストを実施するため、サンプルをA、Bの2つに分け、それぞれに2つの死亡リスクの削減率(17%減:10万分の6から10万分の5に削減、50%減:10万分の6から10万分の3に削減)に対するWTPを尋ねることとした。

また、2つのWTPを尋ねると、最初の設問で回答した金額に、さらに追加的に支払うことになると回答者が認識する可能性があり、2番目の設問の評価額が低くなる傾向にあることが知られている。これは「順序効果」と呼ばれている。そこで、本調査では、サンプルAには1問目:17%減、2問目:50%減、の順番で、サンプルBには1問目:50%減、2問目:17%減、の順番で質問をすることにより、順序効果の影響を分析することとした。

6 内容の理解や属性に関する質問

上記の抵抗回答の場合と同様に、設問の内容、特に、死亡リスクの考え方など調査の内容が理解されていない場合は、回答額に正しいWTPが反映されないため、このような回答はWTPの推計から除外しなければならない。このため、WTPに関する設問の前に、死亡リスクの確率に関する理解度についての質問を設けるとともに、設問後に、アンケート内容について理解できたか問う質問を設けた。

また、WTPの推計結果の整合性を確認するため、回答者の自動車の利用状況や属性(年齢、性別、家族形態、収入など)、リスクに対する考え方などに関する質問を設定し、これらの要素がWTPに与えている影響を分析できるようにした。

7 アンケート概要

調査対象は、全国の20歳以上の男女個人とした。

標本数は、統計の精度と数種の調査票の分析が必要なことを考え、全体で2,000サンプルとし、性年代により男女別20代~60代の10区分に分けたそれぞれの性年代ごとに200サンプルずつ収集した。

サンプルの抽出法は層化多段無作為抽出法である。調査方法は、全国的に調査を行うため、面接方式ではなく訪問留置回収法とした。

参考資料6 WTP調査の統計分析

1 はじめに

平成17年度に実施された道路交通事故に関するWTP調査の統計分析を行った。

ここでは、統計分析によってWTPを推定するとともに、評価額の信頼性を検証する。

死亡リスク評価は海外では多数の先行研究が存在するが、微小なリスクの変化に対するWTPを尋ねることからバイアスの影響を受ける可能性が高いことが知られている。そこで、本WTP調査においては、死亡リスクを17%削減する場合と50%削減する場合の2種類のシナリオを設定し、スコープテストを行った。具体的には、以下のように2種類のタイプの設問票を用意し、2種類の死亡リスクに対するWTPを尋ねた。

図表1 調査票の種類と死亡リスク
  1回目の質問 2回目の質問
タイプA (1)17%削減 (2)50%削減
タイプB (3)50%削減 (4)17%削減

スコープテストとは、評価対象が変化したときにWTPが変化するかどうかを検証することで、評価額の信頼性を検証するテストのことである。スコープテストには、同一の回答者に2種類のリスクを尋ねてWTPの差を検証する「内部スコープテスト」と、異なる回答者に2種類のリスクを尋ねてWTPの差を検証する「外部スコープテスト」がある。本WTP調査においては、図表1の(1)と(2)、または(3)と(4)を比較する場合が「内部スコープテスト」に相当し、(1)と(3)または(2)と(4)を比較するのが「外部スコープテスト」に相当する。

ただし、一回の調査で複数のWTP設問を行うと、後ろの設問ほど評価額が低くなる「順序効果」が発生する傾向が知られている。順序効果を調べるには、同じリスクで質問順序が変化したときに評価額が変化するかどうかを調べる必要がある。本WTP調査においては、図表1の(1)と(4)、または(2)と(3)を比較することで順序効果を検証できる。

このWTP調査では二段階二肢選択形式(ダブルバウンド)CVMと呼ばれる質問形式が用いられている。対数ロジットモデルとワイブルモデルによる統計分析を行ったところ、ワイブルモデルの当てはまりが良いことがわかった。そこで、以下ではワイブルモデルを用いた分析結果を報告する。

2 サンプル別推定結果

まず、図表1の(1)~(4)の4種類の設問について個別にWTPを推定したところ、図表2の結果が得られた。「全回答者」は各サンプルの有効回答をすべて用いた場合であり、「抵抗回答等を削除」は以下の抵抗回答と非理解者を削除したものである。

  • 抵抗回答Q7の反対理由で以下を回答した回答者
    • 「安全グッズ」が本当に効果をもつとはどうしても思えなかったから。
    • 「安全グッズ」によって運転が不注意になりそうだから。
  • 非理解者
    • Q1およびQ2の死亡リスクの説明にどちらも「納得できない」を選んだ回答者
    • またはF11のアンケート理解にて「理解できなかった」を選んだ回答者
図表2 サンプル別推定結果(ワイブルモデル)タイプA(1)17%削減
(1)17%削減 全回答者 抵抗回答等を削除
係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.709 176.20 0.00 8.893 173.16 0.00
スケールパラメータ 1.229 27.37 0.00 1.072 25.07 0.00
対数尤度 -1312.13     -986.501    
サンプル数 984     766    
タイプA(2)50%削減
(2)50%削減 全回答者 抵抗回答等を削除
係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.921 158.87 0.00 9.169 163.35 0.00
スケールパラメータ 1.332 25.58 0.00 1.084 23.87 0.00
対数尤度 -1288.04     -952.262    
サンプル数 991     771    
タイプB(4)17%削減
(4)17%削減 全回答者 抵抗回答等を削除
係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.456 148.92 0.00 8.678 157.97 0.00
スケールパラメータ 1.465 26.19 0.00 1.198 25.23 0.00
対数尤度 -1332.43     -1040.86    
サンプル数 993     758    
タイプB(3)50%削減
(3)50%削減 全回答者 抵抗回答等を削除
係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.967 175.43 0.00 9.139 167.44 0.00
スケールパラメータ 1.193 26.61 0.00 1.031 23.73 0.00
対数尤度 -1267.8     -901.041    
サンプル数 997     760    

推定結果は全体的に良好で、いずれの場合も変数は1%水準で有意であった。これらの推定結果をもとにWTPを計算したものが図表3である。中央値WTPは、半数の回答者はこの金額よりWTPが高く、残りの半数はこの金額より低いことを意味する。つまり、中央値WTPを用いて政策を実行すると、半数の回答者から支持を得られる。一方の平均値WTPはWTPを平均したものであるが、少数だが極端に高いWTPを持った回答者が存在すると、平均値WTPはその影響を受けて高めの金額になりやすいため、政策に用いるときは中央値WTPが採用されることが多い。平均値は積分計算を行う際に最大提示額までで計算したもの(裾切りあり)と、無限大まで行ったもの(裾切りなし)の両方を計算した。95%信頼区間は、1000回のモンテカルロ・シミュレーション法により推定した。

図表3 サンプル別WTP タイプA(1)17%削減
(1)17%削減 全回答者 抵抗回答者等削除
中央値 3,862[3,506-4,260] 4,916[4,457-5,434]
平均値(裾切なし) 6,784[6,123-7,569] 7,518[6,766-8,383]
平均値(裾切あり) 6,075[5,643-6,519] 6,863[6,351-7,385]
タイプA(2)50%削減
(2)50%削減 全回答者 抵抗回答者等削除
中央値 4,596[4,110-5,097] 6,447[5,761-7,124]
平均値(裾切なし) 8,910[7,776-10,120] 9,963[8,762-11,202]
平均値(裾切あり) 7,133[6,595-7,619] 8,378[7,727-8,954]
タイプB(4)17%削減
(4)17%削減 全回答者 抵抗回答者等削除
中央値 2,749[2,413-3,096] 3,785[3,351-4,237]
平均値(裾切なし) 6,101[5,331-7,010] 6,463[5,717-7,307]
平均値(裾切あり) 5,246[4,798-5,696] 5,898[5,375-6,415]
タイプB(3)50%削減
(3)50%削減 全回答者 抵抗回答者等削除
中央値 5,061[4,613-5,581] 6,380[5,784-7,079]
平均値(裾切なし) 8,605[7,684-9,611] 9,437[8,393-10,597]
平均値(裾切あり) 7,306[6,816-7,799] 8,219[7,635-8,810]
注:
[ ]は1000回のモンテカルロ・シミュレーションにより推定した95%信頼区間

図表3の信頼区間を見ると、17%削減の場合と50%削減の場合でWTPが有意に異なっていることがわかる。例えば、タイプAの「(1)17%削減」の中央値WTPは4,457円~5,434円に対してタイプBの「(3)50%削減」のWTPは中央値5,784円~7,079円となっており、両者に重複がないことが分かる。

3 スコープテスト

つぎに、2種類の異なるリスクに対してWTPが異なる値を示しているかを見ることで、スコープテストを行う。ここでは、異なるリスクのWTP設問のデータをプールし、リスクの違いが回答に影響しているか否かを検定する。すなわち、死亡リスク50%削減のときに1となるダミー変数を作成し、この変数の符号が+で有意となるかどうかを見ることでスコープテストを行う。スコープテストは、図表1の(1)と(2)、または(3)と(4)を比較する場合が「内部スコープテスト」に相当し、(1)と(3)または(2)と(4)を比較するのが「外部スコープテスト」に相当する。

スコープテストの結果は図表4のとおりである。内部スコープテストおよび外部スコープテストの全ての場合において「死亡リスク半減」の変数の符号は+であり、1%水準で有意である。したがって、内部スコープテストおよび外部スコープテストはいずれもクリアした。したがって、回答者は死亡リスク17%削減と50%削減の違いを十分に認識して回答したと判断できる。

図表4 スコープテスト 内部スコープテスト(タイプA)
(1)と(2) 全回答者 抵抗回答等を削除
  係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.712 169.63 0.00 8.894 172.55 0.00
スケールパラメータ 1.278 37.46 0.00 1.078 34.61 0.00
死亡リスク半減 0.202 2.73 0.01 0.273 3.64 0.00
対数尤度 -2601.31     -1938.79    
サンプル数 1975     1537    
内部スコープテスト(タイプB)
(3)と(4) 全回答者 抵抗回答等を削除
  係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.462 163.68 0.00 8.676 168.60 0.00
スケールパラメータ 1.331 37.33 0.00 1.122 34.63 0.00
死亡リスク半減 0.532 6.90 0.00 0.488 6.25 0.00
対数尤度 -2607.54     -1945.23    
サンプル数 1990     1518    
外部スコープテスト(1回目の設問)
(1)と(3) 全回答者 抵抗回答等を削除
  係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.709 178.73 0.00 8.891 176.57 0.00
スケールパラメータ 1.212 38.16 0.00 1.053 34.52 0.00
死亡リスク半減 0.261 3.68 0.00 0.253 3.41 0.00
対数尤度 -2580.09     -1887.77    
サンプル数 1981     1526    
外部スコープテスト(2回目の設問)
(2)と(4) 全回答者 抵抗回答等を削除
  係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.458 155.65 0.00 8.677 165.20 0.00
スケールパラメータ 1.401 36.62 0.00 1.145 34.74 0.00
死亡リスク半減 0.474 5.91 0.00 0.509 6.46 0.00
対数尤度 -2621.98     -1994.61    
サンプル数 1984     1529    

4 順序効果とフルモデル分析

今回のWTP調査では、1回の調査で17%削減と50%削減の両方の評価を行っているが、過去の先行研究では1回の調査で複数のWTP設問を行うと、後ろの設問になるほど評価額が低くなる傾向にあることが知られている。これは「順序効果」と呼ばれている。順序効果は、後ろの回答になるほど、それまでの設問で回答した金額に、さらに追加的に支払うことになると回答者が認識すると、所得効果によりWTPが低下していくことが原因と考えられる。最初の設問は順序効果が発生していないが、最初の設問のデータだけを用いると有効サンプル数が少なくなるという問題が発生する。そこで、ここでは、順序効果の影響を分析し、順序効果の影響を削除することでWTPの補正を行う。

順序効果の補正は以下のように行った。まず、WTPは以下のように表現できるとする。

WTPの表現式

ただし、WTP*は支払意思額のうち誤差項を含まない部分、(Risk50)Xは死亡リスク50%削減のときに1となるダミー変数、X(2nd)は2番目の設問のときに1となるダミー変数、βは推定されるパラメータである。順序効果が存在する場合、β(2nd)がマイナスで有意となるはずである。その場合、すべてのサンプルで(1)式にX(2nd)=0を代入することで順序効果の影響を除去できる。一方、死亡リスクの違いによる影響 は、X(Risk50)=0を代入すると死亡リスク17%削減のWTPが算出され、X(Risk50)=1を代入すると死亡リスク50%削減のWTPが算出される。

図表5は順序効果の影響を分析したものである。ここでは(1)~(4)のすべてのサンプルをプールして分析を行った。そして2番目の設問のときのみ1となるダミー変数を作成し、死亡リスク半減のダミー変数とともに推定を行った。その結果、「2番目の設問」はマイナスで有意の結果となり、順次効果が存在することが明らかとなった。

図表5 順序効果の影響
(1)~(4) 全回答者 抵抗回答等を削除
係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 8.671 192.04 0.00 8.842 195.54 0.00
スケールパラメータ 1.305 52.89 0.00 1.101 48.96 0.00
死亡リスク半減 0.367 6.86 0.00 0.383 7.06 0.00
2番目の設問 -0.166 -3.12 0.00 -0.113 -2.11 0.04
対数尤度 -5210.84     -3886.85    
サンプル数 3965     3055    

図表5の推定結果をもとに(1)を用いて順序効果を補正した後のWTPを計算したところ図表6の結果が得られた。この評価額は、すべての有効回答者の2回のWTP設問のデータを用いていることから、ここでは、図表6のWTPを採用することとする。

図表6 順序効果を補正した後のWTP リスク17%削減
リスク17%削減 全回答者 抵抗回答等削除
中央値 3,613[3,316-3,951] 4,623[4,244-5,054]
平均値(裾切なし) 6,823[6,240-7,482] 7,246[6,634-7,939]
平均値(裾切あり) 5,971[5,586-6,359] 6,617[6,180-7,071]
リスク50%削減
リスク50%削減 全回答者 抵抗回答等削除
中央値 5,212[4,776-5,702] 6,782[6,194-7,438]
平均値(裾切なし) 9,842[8,916-10,813] 10,630[9,641-11,702]
平均値(裾切あり) 7,676[7,249-8,108] 8,687[8,180-9,205]
注:
[ ]は1000回のモンテカルロ・シミュレーションにより推定した95%信頼区間

さらに、その他のWTPの要因を分析するために、フルモデルによる分析を行った。

フルモデルに用いた変数は図表7のとおりである。車所持数の多い人や利用頻度が高い人は、自動車事故の確率も高くなるので死亡事故削減のWTPは高くなることが予想される。

図表7 フルモデルで用いた変数一覧
車所持数 所有する車の台数
車安全装置数 搭載している安全装置の数
車利用頻度1 ほぼ毎日利用=1
車利用頻度2 週に数回利用=1
リスク許容度 治療を受けるときに最大許容可能な死亡リスク
男性 男性=1
年齢 年齢
既婚 既婚=1
子供有り 子供有り=1
単身世帯 単身世帯=1
所得3 500万円~1000万円未満=1
所得4 1,000万円以上=1
降水確率 傘を持っていくときの降水確率
事故リスク 平均よりリスクが大きい=1
生きたいと思う年齢 生きたいと思う年齢

推定結果は図表8のとおりである。モデル1はすべての変数を用いた場合であり、モデル2は有意な変数のみ用いたものである。車所持数や車利用頻度はプラスで有意となった。また年齢もプラスで有意となった。フルモデルでも死亡リスク半減は有意であり、スコープテストがクリアされた。図表9はフルモデルのときのWTPである。なお、フルモデルでは、用いられる変数のすべてに対して有効回答のサンプルのみ分析対象となるため、これまでの分析よりも用いられたサンプル数が少なくなっている。このため、図表9(フルモデル)ではなく図表6(順序効果補正済み)のWTPを採用すべきである。

図表8 フルモデル推定結果
抵抗回答等削除
  モデル1 モデル2
係数 t値 p値 係数 t値 p値
位置パラメータ 7.5932 25.5 0.00 7.9064 61.48 0.00
スケールパラメータ 1.0675 43.29 0.00 1.0845 45.12 0.00
死亡リスク半減 0.4061 6.72 0.00 0.4111 7.05 0.00
2番目の設問 -0.1102 -1.84 0.07 -0.1176 -2.04 0.04
車所持数 0.0505 1.44 0.15 0.0644 1.95 0.05
車安全装置数 0.0288 1.07 0.28      
車利用頻度1 0.2208 2.36 0.02 0.12 1.87 0.06
車利用頻度2 0.1353 1.31 0.19      
リスク許容度 0.0025 2.24 0.03 0.0021 2.02 0.04
男性 0.1147 1.86 0.06 0.113 1.92 0.05
年齢 0.0161 5.93 0.00 0.0175 8.12 0.00
既婚 -0.0065 -0.06 0.95      
子供有り -0.1344 -1.79 0.07 -0.133 -2.11 0.04
単身世帯 -0.2625 -1.78 0.08 -0.2471 -1.82 0.07
所得3 0.0173 0.26 0.79      
所得4 0.0892 0.83 0.41      
降水確率 -0.0005 -0.37 0.71      
事故リスク -0.0303 -0.35 0.73      
生きたいと思う年齢 0.0029 0.97 0.33      
対数尤度 -2970.3     -3293.8    
サンプル数 2397     2651    
図表9 フルモデルのWTP(順序効果補正済み) リスク17%削減
リスク17%削減 抵抗回答等削除
中央値 5,074[4,442-5,405]
平均値(裾切なし) 7,843[6,832-8,412]
平均値(裾切あり) 6,927[6,361-7,417]
リスク50%削減
リスク50%削減 抵抗回答等削除
中央値 7,655[6,570-8,172]
平均値(裾切なし) 11,831[10,136-12,715]
平均値(裾切あり) 9,136[8,495-9,712]

5 まとめ

ここでは、平成17年度に実施された道路交通事故に関するWTP調査の統計分析を行い、WTPを推計するとともに評価額の信頼性を検証した。分析結果は以下のとおりである。

第一に、統計分析の結果は全体的に良好であった。ワイブル分析の結果、位置パラメータとスケールパラメータはすべてのケースにおいて1%水準で有意であった。

第二に、死亡リスクの違いによるスコープテストを行ったところ、内部スコープテスト、外部スコープテストともにクリアした。これまでの先行研究においては、死亡リスクを評価対象とするスコープテストはクリアできない事例が多かったが、この調査では内部・外部のいずれのスコープテストもクリアしており、評価結果の信頼性の高さを示している。

第三に、このWTP調査では、1つのアンケートで2つのWTP設問を行ったため順序効果が発生し、2回目の設問の回答が低くなる傾向が生じていた。このため順序効果の補正が必要となった。

第四に順序効果を補正した後のWTPは以下のとおりであった(抵抗回答・非理解回答を削除したサンプル)。ここでは、以下の評価額を最終的なWTPとして採用した。一般的に、平均値WTPは少数の高いWTPを持つ回答者の影響を受けて高めの金額になりやすい。一方、中央値WTPはそのような影響が見られず、中央値WTPを用いて政策を実行すると半数の回答者から支持を得られることから、政策に用いるときは中央値が用いられることが一般的である。

図表10 順序効果補正済みWTP リスク17%削減
リスク17%削減 抵抗回答等削除
中央値 4,623[4,244-5,054]
平均値(裾切なし) 7,246[6,634-7,939]
平均値(裾切あり) 6,617[6,180-7,071]
リスク50%削減
リスク50%削減 抵抗回答等削除
中央値 6,782[6,194-7,438]
平均値(裾切なし) 10,630[9,641-11,702]
平均値(裾切あり) 8,687[8,180-9,205]
注:
[ ]内は95%信頼区間、図表6を再掲したもの

第五に、このWTPをもとに統計的生命の価値は算出すると図表11のとおりである。リスクの削減率が大きくなるほど、リスク削減の限界効用が低下し、統計的生命の価値も低下している。

図表11 統計的生命の価値
リスク17%削減 4億6227万円[4億2444万円-5億0535万円]
リスク50%削減 2億2607万円[2億0646万円-2億4794万円]
注:
[ ]内は95%信頼区間。抵抗回答・非理解回答を削除したサンプルで推定。中央値WTPを元に評価

6 補論 推定方法

今回のWTP調査ではダブルバウンド形式のCVM設問が用いられた。この設問のデータからWTPを推定するためには統計分析が必要である。ここではダブルバウンドのデータの統計分析について概要を説明する。

(1) ワイブルモデル

ワイブルモデルは生存分析を用いている。生存分析では生物統計学や経営工学で使われる統計手法である。提示額TのときにYesと回答する確率を示す関数を生存関数S(T)と呼ぶ。なお生存関数S(T)と分布関数G(T)にはS(T)=1-G(T)の関係がある。加速ワイブルモデルでは、生存関数として次のようなワイブル分布関数を想定する。

ワイブル分布関数

μは位置パラメータ、σはスケールパラメータと呼ばれている。

二段階で尋ねるダブルバウンド形式では、1回目に提示額T1を示し、回答者が賛成した場合にはより高い金額TUを、反対した場合にはより低い金額TLを提示する。賛成をY、反対をNとすると、回答は、YY,YN,NY,NNの4種類が得られる。このとき、それぞれの回答が得られる確率は、

回答が得られる確率

このとき対数尤度関数は

対数尤度関数

となる。ただし、dYYは回答者が2回ともYESと答えたときに1、それ以外は0となるダミー変数であり、dYN、dNY、dNNもそれぞれ同様のダミー変数である。パラメータの推定は最尤法により行われる。つまり(2)式が最大となるようにパラメータが推定される。

最尤法により推定されたパラメータをもとに支払意思額を算出する。支払意思額には中央値と平均値の2種類がある。中央値はYESと答える確率が0.5となるときの提示額に相当する。一方の平均値の場合は、中央値と平均値によって算出される。この場合、支払意思額の平均値と中央値は、以下のとおりとなる。ただし、Γはガンマ関数である。

支払意思額の平均値と中央値

最大提示額で裾切りするときは、積分計算を0から最大提示額まで行う。これは数値計算により行う。

支払意思額の要因を分析するとき、位置パラメータをμ=β′xと置き換える。βは推定されるパラメータのベクトル、xは変数ベクトルである。本調査で行ったスコープテスト、順序効果、フルモデルの分析は、この方法で行っている。

(2) 最尤法

最尤法は、対数尤度関数が最大となるようにパラメータの推定を行う。一般に対数尤度関数は非線型なので、最適解を直ちに求めることが困難であり、試行錯誤により最適解を求める必要がある。繰り返し回数t回目のときのパラメータをθtとすると、次式によりパラメータの更新を行う。

パラメータの更新の式

ただし、λはステップサイズ、Δは方向ベクトルである。このパラメータの更新方法のアルゴリズムには、Newton法、BHHH、DFP、BFGSなど様々な方法が開発されているが、本調査の統計分析ではBFGSを使用している。

(3)信頼区間の推定

WTPの信頼区間を推定する方法には、モンテカルロ・シミュレーション法やブートストラップ法などが用いられるが、本調査では比較的簡単に信頼区間を求めることのできるモンテカルロ法を用いた。

(4)推定に使用したアプリケーション

統計アプリケーションのGAUSS(Aptech社)を用いた。

参考資料7 海外の交通事故損失額算定事例

1 諸外国における損失額の詳細

諸外国の交通事故による死者1名当たりの損失額と算定の主な内訳を以下の図表1にまとめた。日本、英国、ニュージーランド以外の諸外国については公式数値を確認できた年度を基にGDP比から2004年度の値を算出している。公式数値確認年度は、スウェーデン:1999年、フィンランド:2000年、ドイツ:1998年、アメリカ:2000年、オーストラリア:1999年である。

図表1 諸外国における損失額と内訳<死者1名当たり> (千円)
国名 日本 英国 スウェーデン フィンランド ドイツ アメリカ ニュージーランド オーストラリア
総額
(百万円)
約36
(1999年)
約274
(2004年)
約253
(2004年)
約290
(2004年)
約177
(2004年)
約413
(2004年)
約230
(2006年)
約175
(2004年)
逸失利益 33,515 94,233 17,217 64,401 173,119 96,635 37,179
物的損失 1,518 3,723 1,192 3,677 1,261 330 47,802
救急・治療コスト 36 162 620 2,816 420 27,442
訴訟費用 77 1,024 12,544 630 7,967
保険運営費 231 4,559 10,622
職場の損失 65 1,068 0 3,541
警察関連費用 86 884
財産への損害 13 369
渋滞コスト 127 1,123 17,705
死傷損失 179,724 230,177 224,373 293,405 228,500 21,245
注1:
“-”は、その国において費用が計上されていない項目を表す。
注2:
各費用項目の算定範囲・手法は各国で異なる。
注3:
英国は死亡1名当たり費用が算出されている費目のみを記載、フィンランドの損失額の内訳は推計による。

公式数値として総額のみを確認できたオランダとカナダについて以下に示した。オランダについては、公式数値を確認できた2003年度の数値を基にGDP比から2004年度の数値を推計している。

図表2 諸外国における死者1名当たりの損失額 (百万円)
国名 オランダ カナダ
損失額 約296(2004年) 約155(1991年)

※1 カナダは、空路・海路も含めた全ての交通機関についての便益のため参考値

諸外国の交通事故による損失額の総額は図表3のとおりである。日本、英国、ニュージーランド以外の諸外国については公式数値を確認できた年度を基にGDP比から2004年度の値を算出している。公式数値確認年度は、オランダ:2003年、ドイツ:1998年、アメリカ:2000年、オーストラリア:1999年である。

図表3 諸外国における交通事故における損失額<総額> (百万円)
国名 日本 英国 オランダ ドイツ アメリカ ニュージーランド オーストラリア
総額
(十億円)
約4,285
(1999年)
約3,561
(2004年)
約1,480
(2004年)
約5,038
(2004年)
約49,684
(2004年)
約248
(2006年)
約1,427
(2004年)
GDP比 0.9% 1.5% 2.2% 1.4% 3.4% 2.2% 1.7%
逸失利益 1,726,855 510,522 364,504 2,846,026 9,906,104 303,717
物的損失 1,804,100 1,098,186 227,613 2,192,041 5,401,297 12,150 390,493
救急・治療コスト 42,472 108,988 32,439 4,146,087 6,225 224,172
訴訟費用 91,460 89,645 1,365,368 2,100 65,082
保険運営費 274,392 32,637 1,718,070 86,776
職場の損失 77,183 490,123 975 28,925
警察関連費用 102,653 5,538 7,231
財産への損害 14,598 2,893
渋滞コスト 151,309 13,999 1,737,965 144,627
死傷損失 1,805,123 751,890 24,918,523 226,350 173,553

※1 “-”欄は、その国において費用が計上されていない項目を表す

※本資料で使用した各国通貨換算レート(海外1通貨当たりの円換算)
英国 197.8(円/ポンド:2004年)
スウェーデン 11.8(円/クローネ:2004年)
フィンランド 134.2(円/ユーロ:2004年)
オランダ 134.2(円/ユーロ:2004年)
アメリカ 108.2(円/ドル:2004年)
ニュージーランド 75.0(円/ドル:2006年)
オーストラリア 81.2(円/ドル:2004年)
カナダ 117.6(円/ドル:1991年)
※本資料で使用したGDP成長率
スウェーデン 15.6(1999年→2004年)
フィンランド 12.2(2000年→2004年)
ドイツ 8.1(1998年→2004年)
オランダ 0.3(2003年→2004年)
アメリカ 13.5(2000年→2004年)
オーストラリア 18.9(1999年→2004年)

※上記図表1、3中の日本の経済損失額は平成14年度に行われた調査結果で算出されている費目を振分けて記載している。図表1、3における費目への振分方法は以下のとおりである。「人身損失」:逸失利益、「物的損失」:物的損失、「救急搬送費、救急医療体制整備費」:救急・治療コスト、「裁判費用、訴訟追行費用、検察費用、矯正費用」:訴訟費用、「保険運営費」:保険運営費、「事業主体の損失」:職場の損失、「警察の事故処理費用」:警察関連費用、「被害者の救済費用、社会福祉費用」:財産への損害、「渋滞の損失」:渋滞コスト

2 各国における算定方法概要

諸外国における交通事故による死傷者1名当たりの金銭的損失額を求める算定方法の概要、算定範囲を以下で述べる。

(1)EU諸国(オーストリア、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェイ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、ユーゴスラビア)

EU諸国では、COST 313 Socio-economic Cost of Road Accidentsに従い、金銭的損失を算出している。金銭的損失の内訳は以下のとおりであるが、死傷損失に関しては、算入している国とそうでない国にわかれている。

(1)EU諸国
(1)逸失利益 負傷者の一時的もしくは永久的な障害、および死亡による生産性の損失から算出。人的資本方法で決定しなければならない。負傷、もしくは死亡しなかった場合に死傷者が生産したであろう価値を表す。すべての国でほぼ同じように算定するが、国内生産分に限定したり、消費による損失で修正するなどの違いもある。
(2)死傷損失 生活の喜びの喪失や痛み、悲しみなどから受ける無形の損失。WTPアプローチによる算出方法を推奨。一般的には、多くの国がこの費用カテゴリを認識しているが、WTPアプローチを採用している国はわずかである。死亡リスクの削減に対する支払意思額は消費の金銭的価値も含まれるため、重複して数えないように修正する必要がある。
(3)医療費 病院、リハビリ、薬、障害者支援などを含んだ負傷者に対する治療費。
(4)物的損失 車両、積荷、道路、道路脇の構築物の損傷費用。減価償却法を用いて計算することを推奨。この方法を用いてすべての国が算定している。
(5)訴訟費用 衝突による示談や消防や警察、裁判所、保険会社に関わる費用。
(出所)
SWOV, Leidschendam, the Netherlands: Road crash costs,February 2006

(2)イギリス

基本的にはCOST313に準拠している。

(2)イギリス
(1)逸失利益 得られたであろう所得と賃金以外の部分(年金等)を合算した金額を現在価値に割戻して算定。
(2)医療・救急費 保険データより算定。
(3)死傷損失 WTPアプローチによる考え方。本人、親戚、友人の被った悲しみや苦しみ、致命的な場合には、生活を享受すること、物を買ったりサービスを受けたりできなくなる損失などのすべてが含まれる。
(4)警察関連費用 交通輸送調査研究所の報告書に基づく。警察官の給与から1時間あたりの人件費を算定し、これを別途算定された平均事故処理時間を乗じて算定。
(5)損害保険の管理コスト 交通輸送調査研究所の報告書に基づく。事故に関連する保険種目ごとに保険請求件数に基づき管理コスト按分し算定。
(6)物的損失 交通輸送調査研究所の報告書に基づいて算定。
(出所)
Department for Transport:Highways Economics Note No1 2004 Valuation of the Benefits of Prevention of Road Accidents and Casualties

(3)オランダ

基本的にはCOST313に準拠して事故の経済費用を算出している。

(3)オランダ
(1)医療・救急費 CBS統計データと病院の患者データを含む種々のデータを用いている。負傷者の平均入院期間と一日の平均入院費もしくは家での看護費、さらに年間の救急車出動回数から算定。
(2)逸失利益 負傷者が事故前に雇用されていたか、今後雇用される予定があったかは関係ない。家事やボランティアなどの支払いのない仕事に対しても割引をしていない。
(3)死傷損失 WTPアプローチによって行われたDeBlaeij(2003)によるアンケートに基づく。死亡者の消費額は逸失利益に含まれているため、除くよう補正されている。
(4)物的損失 支払済み保険金、物損見積等の保険データや警察データに基づき算定。
(5)訴訟費用 CBS統計データと保険データに基づく。
(6)渋滞コスト 交通渋滞コストと交通事故による時間ロス分を算定している。渋滞による損失額に、衝突事故による渋滞の比率を乗じている。
(出所)
SWOV, Leidschendam, the Netherlands: Road crash costs,February 2006

(4)アメリカ

事故による被害者の負傷度合に応じて損失額を計上している。負傷度合は、物損のみ+負傷6段階+死亡の8段階存在する。表1、3における経済損失総額は、負傷度合に応じた年間負傷者数に、負傷者あたりの損失額を掛け合わせた結果を合算する事で推定している。

(4)アメリカ
(1)治療費 CDS(Crashworthiness Data System)NASS(National Accident Sampling System)の古いデータを更新したGES(General Estimates System)から2000年に起こった自動車事故での負傷者データを抽出して利用。
(2)救急救命費用 NASSより搬送を伴うデータを抽出し、入院状態別に合算し算定。ヘリコプター輸送費のみRiceの研究成果を活用。
(3)逸失利益(失われた収入、行えなかった家事等) 短期間の生産損失(軽微、中等度)は、事故後180日までの損失勤労日数に関するNASSデータに、平均時給に給与外所得(Riceの研究成果)を加えたものとNASSの性・年齢分布を乗じて算定。長期間の生産損失(重度、致命的、死亡)は、ライプニッツ法により算定。就労不能日数はDCIデータより抽出。
(4)保険管理費 保険支払期間毎に収入保険料から支払保険金を控除した金額の支払保険金に占める割合(管理費支払比率と呼ばれている)が別途分析されている。この割合を支払保険金に乗じて算定。
(5)職場の損失 軽微、中等度の場合には2日間の損失、重度は1ヶ月の損失、致命的もしくは死亡は1年間の損失として、これに平均賃金を乗じて算定。
(6)訴訟費用 Kakalik、Ross、NHTSAの研究成果を活用。この研究によると、家族が交通事故で負傷した場合、35%が代理人を雇っている。代理人の費用は補償額の29.7%と算定されている。
(7)渋滞コスト Miller(1991)の算定方法を改良している。Miller(1991)では、交通事故による時間遅延に対するコンピュータシミュレーションを実施し、遅延時間を決定。これに運転者に付いては賃金の90%、同乗者に付いては67.5%を乗じて算定している。改良点は以下の4点である。
・事故程度を抽出する警察のデータベースを3つから5つに増やした。
・都市間高速の事故による遅延時間を増加している。
・道路の場所や大きさにより渋滞時間見積を細分化した。
・警察届出のある事故に関してのみ渋滞コストを考慮した。
(8)物的損失 NASSデータ、Motor Carrier Safetyデータより算定。
(9)死傷損失
(QALY)
個人や家族の悲しみや痛み、喪失感といった無形の損失についての評価額。WTPアプローチによるさまざまな研究からほとんどの権威者の間で合意が形成されている数値を用いている。
(出所)
U.S. Department of Transportation, National Highway Traffic Safety Administration, The Economic Impact of Motor Vehicle Crashes 2000 (Washington, DC: 2002)
(5)ニュージーランド
(1)死傷損失 WTPアプローチによる統計的生命価値(VSL)。交通事故による不特定の生命の喪失による苦痛や苦悩の費用を、ニュージーランドの人々が一人の死を回避する安全性向上のために払っても良いと考える金額から算定。VSLは1991年に200万ドルと算定されており、それを通常時間における時間当たり平均収入単価の伸び率を指数として現在価値に更新されている。2006年6月の相場で305万ドル。
(2)生産損失 交通事故による失業や欠勤によって失われた労働力。生産損失額はGuria(1991)により平均入院期間によって見積もられた。病院のデータであるTCR負傷データ(2003年から2005年における12,400人の入院期間が記録されている。)から重傷者で12.2日、軽傷者で2.6日が平均入院日数。この数値と負傷者の平均収入が、2005年で日当53.34ドルであることから算定。
死傷損失と同じく、通常時間における時間当たり平均収入単価の伸び率を指数として現在価値に更新。
(3)医療費 入院費用、緊急治療費用、追加治療費用の3費目から成る。入院費用は1988年から1990年のDunedin病院のデータを基にLangley et al(1991)が算定したものと、1990年から1992年にWaikato病院のデータを基にGuriaが算定した2つの値を基にしている。緊急治療費用と追加治療費用は入院費用の12%と49%。
すべての指標は、生産物価指数のヘルス&コミュニティサービスを指数として現在価値に更新。
(4)訴訟費用 交通違反についての司法制度に関する費用、警察関連費用、拘留費用の3費目から成る。司法制度費用は、Guria(1991)による交通違反に関する裁判の平均的な長さに基づく。警察関連費用はニュージーランド政府交通プログラムの調査に基づく。拘留費用は、矯正省による囚人一日にかかるコスト平均の一日155ドルに基づく。
この数値は、生産物価指数の公的サービスを指数として現在価値に更新。
(5)物的損失 Guria(1995)により、保険金請求データに基づいて算定。これを消費者物価指数の車両サービス&修理を指数として現在価値に更新。
(出所)
Ministry of Transport: The social cost of road crashes and injuries June 2006 update

(6)オーストラリア

以下の費目ごとに細かく計上されている。前述の図表1、3での費目は以下の費目のいくつかをまとめたものである。図表1、3における費目への振分方法は以下のとおりである。「医療費用、長期医療費用」:救急・治療コスト、「修理費、牽引費、乗車機会損失」:物損、「検視官費用、訴訟費用」:訴訟費用、「保険管理費」:保険運営費、「矯正施設費、警察関連費用、消防費用」:警察関連費用、「車両以外の物損」:財産への損害。なお、葬祭費用は総額に占める割合が0.02%と僅少であるため、図表1、3中には記載していない。

(6)オーストラリア 人的損失
人的損失 (1)逸失利益 職業と家事における労働力の和で算定。職場における労働力の価値は、1995-96年の収入と住宅費用調査からの平均賃金を基に算定。性、年齢、職業を考慮し、一生働くことで得られたであろう賃金の平均を現在価値で割引いている。割引率には4%か7%を使用。家事における労働力の価値は、家事やコミュニティ内での平均時間と賃金データから算定。この値にも割引率を適用。
(2)死傷損失 WTPアプローチも今後算定基準に用いることを視野に入れているが、本レポートでは裁判もしくは示談よる慰謝料を使用。慰謝料はTAC(Transport Accident Commission)の基準により決定。
(3)医療費用 救急車の利用料、入院費用、通院費用、医者などの救急サービスの費用、リハビリ費、長期医療費など。死亡者は事故から30日以内に死亡した者、重傷者は入院した者として算定。
(4)長期医療費用 病院の外で長期医療を必要とする被害者にかかる費用。交通事故による身体障害者の数と年間にかかる費用から算定。
(5)検視官費用 1回の申し立ての検視官費用から検視解剖費用を除いたものを基に算定。
(6)葬祭費用 州や地域ごとに葬儀費用を火葬と埋葬の頻度から重み付けをして平均したものを基に算定。
(7)訴訟費用 保険請求による訴訟費用と交通事故による刑事訴訟費用を算入。刑事訴訟費用は、過失致死罪、危険運転致死傷罪、不注意運転を基本としており、裁判にかかった期間と準備時間、法廷弁護士手数料、弁護士手数料、公訴局長官の給料から算定。
(8)矯正施設費 詳細不明
(9)職場の損失 詳細不明
(6)オーストラリア 車両費用・事故費用
車両費用 (10)修理費 事故車両の保険データベースにある、事故車両数と修理費用の平均値から算定。
(11)牽引費 保険会社の運送業部門のデータから算定。
(12)乗車機会損失 死亡や重傷で車両を使えない場合を除き、車両が使用できない期間の乗車機会の損失額。車両の種類ごとに、車両へのダメージ、平均修理期間、その間の費用を求め、合計を算出。
事故費用 (13)車両以外の物損 保険データの車両被害を除く物損被害から算定。しかし、車両以外の物損や届出のない被害も存在するため、正確な値の算定は困難であり保守的な値となっている。
(14)警察関連費用 事故に関わる警察官の平均人数と時間、給与から算定。
(15)消防費用 都心部と地方部でそれぞれ消防活動にかかる時間を基に算定して合算。
(16)保険管理費 保険年金取引委員会の記録に基づき、交通事故に関わる保険の管理費を算定。
(17)渋滞コスト 渋滞により無駄にする時間とトラックの荷物占有率、車両費用から算定。
(出所)
Bureau of Transport Economics (2000). Road Crash Costs in Australia (Report 102). Commonwealth of Australia.

(7)カナダ

費用便益分析に基づき、金銭的損失を算定している。

(7)カナダ
(1)死傷損失 各国で行われた研究と実際の利用をレビューした結果、妥当と考えられる数値を用いている。
(2)渋滞コスト 乗り物の運用費用、燃料費見積り、乗客の移動時間の便益、積み荷の運搬時間の便益、労働賃金率、その他推定に必要な情報などを用いて便益を計算。
(出所)
Guide to Benefit-Cost Analysis in Transport Canada - September 1994

参考文献

(統計的生命価値等に関する参考文献)

  • Boardman, Greenberg, Vining, Weimer (2005): Cost-Benefit Analysis, Concepts and Practice (3rd Edition)
  • Viscusi and Aldy (2003):The Value of a Statistical Life: A Critical Review of Market Estimates Throughout the World
  • HM Treasury (2003): The Green Book, Appraisal and Evaluation in Central Government

(交通事故による損失の算定に関する参考文献)

  • 内閣府政策統括官(総合企画調整担当)(平成14年6月):交通事故による経済的損失に関する調査研究報告書
  • Department for Transport:Highways Economics Note No1 2004 Valuation of the Benefits of Prevention of Road Accidents and Casualties
  • FINAL REPORT OF THE EXPERTADVISORS TO THE HIGH LEVELGROUP ON INFRASTRUCTURE CHARGING (WORKING GROUP 3)(1999): CALCULATING TRANSPORT ACCIDENT COSTS
  • SWOV, Leidschendam, the Netherlands: Road crash costs,February 2006
  • U.S. Department of Transportation, National Highway Traffic Safety Administration, The Economic Impact of Motor Vehicle Crashes 2000 (Washington, DC: 2002)
  • Ministry of Transport: The social cost of road crashes and injuries June 2006 update
  • Va"gverket (1997). Va"gverkets samha"llsekonomiska kalkylmodell Ekonomisk teori ochva"rderingar. Publikation 1997:130. (pp.40~41)
  • Bureau of Transport Economics (2000). Road Crash Costs in Australia (Report 102). Commonwealth of Australia.
  • OECD Economic Research Centre(2000): Economic Evaluation of Road Traffic Safety Measures
  • Guide to Benefit-Cost Analysis in Transport Canada - September 1994
  • Ministry of Transport and Communications, Finland (2003): Guidelines for the Assessment of Transport Infrastructure Projects in Finland
  • Tervonen, J. (1999). Accident costing using value transfers. New unit costs for personal injuries in Finland. VTT Publications.