令和元年度交通安全フォーラムの開催結果について

テーマ
追突事故と高齢者の交通事故防止を考える
~すすめ、安全なミライへ~
日時
令和元年10月29日(火)午後1時から午後4時30分まで
場所
佐賀勤労者総合福祉センター(メートプラザ佐賀)
佐賀県佐賀市兵庫北三丁目8番40号
主催
内閣府、佐賀県、佐賀市
後援
警察庁、文部科学省、厚生労働省、国土交通省
協賛
交通安全フォーラム推進協議会構成団体
一般社団法人 日本自動車工業会 一般財団法人 全日本交通安全協会
一般社団法人 日本自動車連盟 公益財団法人 三井住友海上福祉財団
公益財団法人 国際交通安全学会 一般財団法人 日本交通安全教育普及協会
  • 内閣府では、国の重要施策及び開催都道府県が実施する交通安全対策上の諸問題を踏まえ、学識経験者等の専門家による研究発表、討議等を通じて、交通事故防止のための有効適切な提言を得て、国民の交通安全意識の高揚を図ることを目的とした「交通安全フォーラム」を毎年各地で開催している。
  • 令和元年度は、10月29日、佐賀県・佐賀市との共催のもと、「追突事故と高齢者の交通事故防止を考える~すすめ、安全なミライへ~」をテーマに、佐賀勤労者総合福祉センター(メートプラザ佐賀)において開催した。
  • 今回で39回目となるフォーラムでは、専門家から追突事故、出会い頭の衝突事故の実践的な防止方法について講演の後、パネリストから佐賀県における交通事故の状況について、高齢運転者としての安全運転の心構え、ドライブレコーダーのデータを交通事故防止に活用するテレマティクス自動車保険の説明が行われ、追突事故防止、高齢者の交通事故防止について有益な提言がなされた。

専門家からの提言内容

基調講演及びパネルディスカッションパネリスト

松永 勝也 氏の写真
一般社団法人安全運転推進協会理事 九州大学名誉教授 松永 勝也 氏

『追突事故・高齢者の運転事故発生要因と防止法』

 交通死亡事故の約35%は、歩行者と自動車との衝突によって発生しており、その約80%は運転者側に責任があると判定されており、また、多くは、自動車運転者側の歩行者道路横断優先妨害によって発生しています。
 最多の交通死傷事故類型である追突事故防止には、停止距離よりも長い車間距離を保持した走行習慣の形成が必要です。しかし、現在、停止距離よりも長い車間距離で走行している人は約半数です。また、停止距離よりも長い車間距離を見積もろうとしても、見え方での距離の見積もりの精度は低く、数え上げによる時間での見積もりを行うと、妥当な精度の見積もりが可能です。安全な車間時間としては、特に高齢者においては4秒以上が推奨されます。
 高齢者には、出会い頭の衝突が多くなりますが、出会い頭の衝突事故防止のためには、道路の交差部の一時停止線では3秒間程度停止し、停止状態で安全を確認し、さらに、停止線での停止では交差道路の左右の確認ができない場合には、見える位置までゆっくり、あるいは多段階での停止を繰り返して進行し、再び停止し、左右それぞれ2秒以上の時間をかけて安全確認をすると、高い確率で見逃しを防止できます。このように、停止状態での安全確認を習慣化することが、出会い頭の事故防止のためには必要です。
 狭いところでの事故防止のためには、発進操作(アクセル操作)開始前に進行方向の安全確認、同様に進路を変える場合にも、ハンドル操作を開始する前に進行方向や側方の安全確認を行う運転の習慣が必要です。


パネルディスカッションパネリスト

川久保 正文 氏の写真

佐賀県警察本部交通部首席参事官 川久保 正文 氏

『県内の交通事故情勢とその特徴等について』
『高齢歩行者の交通事故防止について』

 佐賀県の平成30年の交通事故死者数は30人で、統計を取り始めた昭和26年以降で最少となりましたが楽観はできません。人身事故の類型別では、追突が47.1%を占め全国の34.7%を上回っています。さらに、第1原因者の年齢層別では、20代は追突が61.1%を占め、65歳以上では、出会い頭が30.5%を占めており、追突事故と高齢運転者の事故防止が大きな課題となっています。
 追突事故防止のために、平成31年4月から道路情報版に「~「とっとっと!3秒間の車間距離」~」と表示し車間距離を取るよう呼び掛けています。高齢運転者の支援として、平成31年4月に「シルバードライバーズサポート室」を設置し、高齢運転者技能講習を行っています。さらに、「交通安全対策アドバイザー」として医療系の専門スタッフを配置して相談等に対応しています。また、自動車販売協会連合会佐賀県支部と県警で覚書を締結して、各地でサポカーの体験試乗会を開催しています。
 次に、平成26年から平成30年までの歩行者対車両事故の死者・重傷者は278名で、そのうち、75歳以上の方が112名で全体の4割を占めていました。112名のうち道路の横断中に事故に遭っている方が46名おられます。事故の発生時間帯で最も多かったのが、17時から20時までの41名で、そのうち反射材を付けていた方は1名でした。そのため、県警では、平成28年から反射材着用モデル自治体の指定を受けていただいて、町ぐるみで着用促進を図っています。また、VR歩行環境シミュレーターを導入し、歩行時の危険を体感していただく取組も行っています。


掛園 治司 氏の写真

鹿島警察署中央交番連絡協議会会長 掛園 治司 氏

 昭和29年に運転免許を取得し、65年間無事故でいます。米屋を営んでいる関係もあって月間1,500キロメートルくらい運転をしています。高齢ドライバーとして心構えとしては、人に迷惑をかけない運転を心がけています。先日、運転免許の更新がありました。あと3年間は運転したいと思います。
 私は、趣味で長崎県まで魚釣りに行きます。知らない道を運転するときは、「だろう運転」ではなく「かもしれない運転」を心がけています。そして、1時間くらい運転をすると、道の駅などで車を停めて休憩をとります。また、夜間はなるべく車に乗らないようにしています。
 私は、運転免許の返納には少々抵抗があります。免許を返納すると商売ができません。しかし、日頃の運転の状況を家族に見てもらいながら、運転を続けることが難しい状況になれば、自分としても考えなければならないと思っています。そのためにも、慎重に、緊張感をもちながら運転していかなければと思っております。


梅田 傑 氏の写真

あいおいニッセイ同和損害株式会社
自動車保険部 テレマティクス開発グループ長 梅田 傑 氏

『テレマティクス技術の活用による「事故を起こさないための保険」』

 現在、インターネット技術が進み、運転者ごとの自動車のスピード、ブレーキ、アクセルの使い方等の走行データが取得できるようになりました。これらのデータを使った安全運転のためのサービスを「テレマティクス自動車保険」と呼んでいます。「テレマティクス」という言葉は、「テレコミュニケーション(通信)」と「インフォマティクス(情報工学)」の造語です。
 サービスとしては、①カーナビと連携した行先の渋滞情報やゲリラ豪雨のような天候情報の提供。②運転者の急ブレーキ、急ハンドルが増えている状況では、事故防止のために音声で注意を促す。③自動車から大きな衝撃が通信で来た時には、事故を想定し、保険会社から運転者(保険契約者)に連絡をとり、事故後のきめ細かいサポートを行う。といったものがあります。
 当社では、運転ごとに、走行ルートを示し、御自分の運転の危険なポイントを示すことができます。これを1カ月単位でレポートとして、運転者だけでなく御家族と共有することができるようにしています。これは、運転免許の自主返納に際しても、御家族との話し合いのきっかけになると思います。
 また、当社は、テレマティクスの機械を無償で地域の方にお配りし、住民参加の交通安全推進イベントを行っております。何百人の方に参加していただき、一定の期間、安全運転のスコアを競っていただくことで、楽しみながら安全運転に取り組んでいただきます。それだけでなく、イベントで収集したビッグデータを解析して、危険挙動箇所をマッピングして道路環境改善などの交通安全対策への活用に役立てていただいております。すでに、いくつかの自治体と協定を締結し実施しており、佐賀市の皆様にも御参加いただいております。


パネルディスカッションコーディネーター

富吉 賢太郎 氏の写真

学校法人佐賀清和学園理事長 富吉 賢太郎 氏

 私は進行役でしたが、出演者の方々のお話をききながら、平成31年4月、東京の東池袋で起きた87歳の元官僚が運転していた暴走事故を思い出しました。この事故では多数の死傷者が出ましたが、この事故で妻と娘を亡くされた方が次のようなメッセージを出されています。「それぞれのご家庭で事情があることは重々承知しておりますが、少しでも運転に不安がある人は車を運転しないという選択肢を考えてほしい」 いかがでしょうか。佐賀のいわゆる公共交通機関の事情からすれば、自動車はなかなか手放せません。免許証も返納できない。自動車が頼りなのです。でも、この呼びかけを私たちは今こそ自分のものとして、一人一人が受けとめる時ではないかということをお願いしまして、まとめとさせていただきたいと思います。



(パネルディスカッション開催状況)

過去3回の開催状況
平成30年度 山梨県甲府市 飲酒運転の根絶に向けて ~ 富士山に誓って なくそう!飲酒運転 ~
平成29年度 千葉県船橋市 高齢社会の交通安全を考える ~ 事故にあわない、おこさない ~
平成28年度 和歌山県和歌山市 みんなにやさしい自転車の安全運転 ~ ルールを守ろう、もしもに備えよう ~