計画の基本的考え方

 交通の安全のための施策を講ずるに当たっては、人命尊重の理念に立つことはもちろんのこと、交通事故がもたらす大きな社会的・経済的損失をも勘案して、交通事故及びこれによる死傷者根絶の究極目標を目指す立場から、経済社会情勢の変化を踏まえつつ、交通事故の実態に対応した安全施策を講じていく必要がある。

 本計画においては、このような観点から、交通社会を構成する人間、車両・船舶・航空機等の交通機関及びそれらが活動する場としての交通環境という三つの要素について、それら相互の関連を考慮しながら、科学的な交通事故の調査分析や、交通安全対策に関する効果評価・予測等の成果をも踏まえ、適切かつ効果的な施策を総合的に策定し、かつ、これを国民の理解と協力の下、官民一体となって強力に推進する。

 第一に、人間に関する安全対策については、交通機関の安全な運転・運航を確保するため、運転・運航する人間の知識・技能の向上、交通安全意識の徹底、資格制度の合理化、指導取締りの強化、運転・運航の管理の改善、労働条件の適正化等を図るものとする。また、交通社会に参加する国民一人一人の交通安全思想の高揚と交通安全意識のかん養を図ることが極めて重要であることにかんがみ、交通安全に関する教育、普及啓発活動を充実させる。

 第二に、交通機関が原因となる事故の防止対策としては、不断の技術開発によってその構造、設備、装置等の安全性を高めるとともに、各交通機関の社会的機能や特性を考慮しつつ高い安全水準を常に維持させるための措置を講じ、さらに、必要な検査等を実施し得る体制を一層充実させるものとする。

 第三に、交通環境に係る安全対策としては、機能分担された道路網の整備、交通安全施設等の整備、交通管制システムの充実、効果的な交通規制の推進、交通に関する情報の提供の充実等を図るものとする。また、交通環境の整備に当たっては、特に、混合交通に起因する接触の危険を排除するため、必要な方策を講じて、交通の流れを秩序付け、もって安全な通行・運航に資するものとする。

 三要素に関する有効かつ適切な交通安全対策を講ずるに当たっては、その基礎として交通事故原因の総合的な調査研究の充実・強化、交通の安全に関する科学技術の振興及びそれらの成果の普及を図るとともに、交通事故が発生した場合に、その被害を最小限に抑えるため、迅速な救助・救急活動の充実、負傷者の治療の充実、損害賠償の確保等被害者の救済に必要な措置に万全を尽くすよう努めるものとする。

 交通の安全に関する施策は、このように多方面にわたっているが、相互に密接な関連を有するので、有機的に連携させ、総合的かつ効果的に実施することが肝要である。また、これらの施策は、高齢化、情報化、国際化等の社会情勢の変化や交通事故の状況、交通事情等の変化に弾力的に対応させるとともに、施策の効果等を勘案して、適切な施策を選択し、これを重点的かつ効果的に実施するものとする。

 さらに、交通の安全は、交通需要や交通の円滑性・快適性と密接な関連を有するものであるので、これらの視点に十分配慮するとともに、沿道の土地利用や道路利用の在り方も視野に入れた取組を行っていくものとするほか、防災の観点にも適切な配慮を行うものとする。

 交通事故防止のためには、民間の自主的な交通安全活動を積極的に促進するとともに、官民一体となって施策を推進することが重要であるため、国及び地方公共団体の行う交通の安全に関する施策について、広く国民の声を反映させ、真に実効あるものとする。