第2部 海上交通の安全

第1節 海難のすう勢と交通安全対策の今後の方向

1 海難のすう勢

 我が国周辺海域において,救助を必要とする海難に遭遇した船舶(以下「要救助船舶」という。)隻数は,昭和61年から平成2年までの年平均は 2,120隻(死亡・行方不明者 264人)であったが,平成3年から7年までの年平均は 1,891隻(同 204人)と減少傾向にある。しかしながら,プレジャーボート・遊漁船(以下「プレジャーボート等」という。)の海難は,平成3年から4年にかけて減少した後,平成5年から7年の3年間は若干増加している。
 このことは,船舶交通がふくそうする海域における情報提供・航行管制システムの整備を始め,海難防止思想の普及,民間団体の海難防止活動の展開,気象・海象情報の提供の充実等の各種安全対策を計画的に推進してきた成果と考えられる。また,プレジャーボートの海難が減少しないのは,近年の国民の余暇志向の高まりに伴い海洋レジャーが進展していることが,その背景にあると考えられる。
 ちなみに,平成3年から7年までの5年間の海難の特徴は,次の3点に集約できる。

  1. 見張り不十分,操船不適切,気象・海象不注意等の運航の過誤,機関取扱い不良等のいわゆる人為的要因によるものが全体の約7割を占め,それ以前の5年間と同様に高いものとなっている。
  2. 港内や湾内などの船舶交通がふくそうする海域での海難はそれ以前と比較し減少しているものの,依然として全体の約4割を占めている。
  3. プレジャーボートの海難が,それ以前の5年間に比べ若干増加傾向にある。

2 海上交通安全対策の今後の方向

 我が国周辺海域は,厳しい気象・海象条件や複雑な地理的条件の中で,海上輸送活動や漁業活動に加え,海洋を場とする各種プロジェクトの推進等により,海上交通の複雑化,ふくそう化が進み,船舶交通を取り巻く環境は,厳しい状況にある。特に,今後も海洋レジャーの一層の進展に伴うプレジャーボート等の海域利用の増加,高速船の就航等により海上交通を取り巻く諸情勢は,従来に増して変化し,更に厳しいものとなることが予想される。
 このような状況に対応するため,今後も海難の発生動向を的確に見極めるとともに進展の著しい通信技術等の科学技術の活用や各種施策間の一層の連携を図りながら,海上交通の安全確保に必要な施策を総合的かつ積極的に推進していくこととする。

第2節 講じようとする施策

1 海上交通環境の整備

1) 交通安全施設等の整備

 ア 航路,港湾及び漁港の整備
 港湾整備五箇年計画に基づき,港湾内における船舶の安全を確保するため,防波堤,航路及び泊地等を整備する。特に,避難港や外海に面した港湾において,荒天時に港内での避泊要請が強い中小型船舶の避泊を可能とする水域を確保するとともに,交通の途絶による生活不安が生じる島しょ部も含めた輸送の安全性,確実性(定時性)の向上を図るため,防波堤,泊地等の整備を積極的に推進する。また,狭水道や船舶ふくそう海域における船舶航行の安全を図るため,開発保全航路を整備する。大規模地震時に津波の発生が懸念される地域においては,津波防波堤の整備等の対策を推進するほか,港湾における危険物取扱施設を他の施設から分離し,集約化を図ることにより,港湾の安全を確保する。これらの整備を計画的に進めるため,平成8年度を初年度とする第9次港湾整備五箇年計画を策定し,計画的に事業を推進することにより,海上交通の安全の確保を図る。
 漁港については,平成6年度を初年度とする漁港整備長期計画に基づいて,漁船の避難のための漁港等を整備するとともに,港内の安全性を確保するために,防波堤,泊地等の整備を推進する。
 イ 港湾の耐震性の強化
 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,以下の施策を実施する。
(ア)耐震設計の充実強化
 耐震設計の充実強化として,耐震強化岸壁の耐震設計に際しては直下型地震を設計対象地震に加えること,岸壁などのうち重要な施設については耐震設計基準を厳正に適用すること,高架道路等の臨港交通施設のうち水際の橋脚基礎の設計に際しては,前面の護岸の挙動や構造を考慮して臨港交通施設の耐震性能の確保を図る。
 また,複数のフェリーが柔軟に対応できるようフェリーターミナルの着岸・乗降形式の汎用性の向上を図る。
(イ)全国の主要港湾における耐震強化岸壁等の整備の推進
 震災において有効性が確認された耐震強化岸壁について,従来の緊急物資輸送等を想定した一般岸壁の一層の整備の推進を図るほか,新たに,三大湾等のコンテナターミナル,フェリーターミナル等の耐震強化を図るとともに,これらの施設の拠点的全国配置により港湾相互の補完機能の強化を図る。あわせて,多目的に利用可能なオープンスペースと耐震強化岸壁等に緊急物資の保管施設,通信情報施設等を必要に応じ備えた防災拠点を新たに整備するとともに,背後市街地での避難地と連携して,港湾内に避難緑地を新たに整備する。
(ウ)既存港湾施設の耐震補強,研究開発の推進
 高架臨港道路などの重要な既存施設については,その施設の重要性,緊急性等に応じて順次点検・耐震補強を行うとともに,港湾施設の新しい耐震構造の在り方等の耐震性向上を図るための研究開発を推進する。
 ウ 漁港の耐震性の強化
 阪神・淡路大震災の際には,多くの漁港が被害を受けながら,救援活動等において重要な役割を担ったところであり,地震等の災害時に地域の救援活動等の拠点となる漁港においては,周辺の漁港等との連携に配慮しつつ,救援船等に対応できる泊地,耐震性を強化した岸壁,輸送施設等の整備を推進する。
 また,今後の漁港施設の耐震設計基準については,阪神・淡路大震災の経験を踏まえ,内容の見直しを進めるとともに,漁港構造物の耐震構造の在り方等についての研究開発を進める。
 エ 航路標識の整備
 船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため,港湾・航路の整備の進展,船舶高速化等により変化する海上交通環境に適応した灯台,灯浮標,無線方位信号所等の航路標識を計画的に整備する。また,既設の航路標識の機能と信頼性の向上を図るため,改良改修についても計画的に実施する。
 さらに,狭水道等を中心に,我が国周辺海域における船舶交通のより一層の安全を確保するため,10メートル以内の誤差で位置測定が可能な航行援助システムであるディファレンシャルGPSの整備を行うとともに,普及を促進する。

2) 交通規制及び海上交通に関する情報提供の充実

 ア ふくそう海域における船舶交通安全対策の推進
 海域利用の多様化,海上交通の複雑化に対応して,港内,主要狭水道等における船舶航行の安全を確保するため,海上交通関係法令の整備等を推進するなど,実態に即した効果的な交通規制の充実を図る。
 また,海上交通の特にふくそうする海域における船舶航行の安全を確保するため,東京湾並びに瀬戸内海の備讃海域,関門海域及び大阪湾において,海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムである海上交通情報機構を整備し,運用を行っているが,瀬戸内海の来島海域についても,引き続き,同システムの整備を推進する。
 このほか,主要港湾における航行管制等の近代化,東京湾及びその周辺沿岸海域における交通流体系等について,見直しのための調査・検討を進め,所要の措置を講じる。このほか,テクノスーパーライナー等の超高速船の就航が予想されることから,これらの航行安全対策について検討を進める。
 イ 海図・水路誌等の整備及び水路通報等の充実
 港湾・航路の整備の進展,海洋レジャーの普及等に対応して,海図・水路誌等の内容を適切なものとするため,水路測量,海象観測等の体制の強化を図り,これらの刊行物の新改版・補正を実施するとともに,電子海図データーベースの構築等を推進し,航海用電子海図が全国を網羅できるよう順次刊行する。
 また,水路通報,海流通報等リアルタイムの情報の内容及び提供体制の充実を図るとともに,「プレジャーボート・小型船用港湾案内」等の海洋レジャー用参考図誌類の整備・普及を図る。
 ウ 気象情報等の充実
 海上交通の安全に関係の深い台風,波浪,霧,海氷,海況,津波等について,予報,注意報・警報及び情報の適時・適切な発表及び関係機関への迅速な伝達に努める。
 また,これらの情報が安全航行に寄与するよう,内容の充実及び効果的な利用のために,静止気象衛星システム,極軌道気象衛星の利用体制,気象レーダー観測網,海洋気象観測船,海洋気象ブイロボット,沿岸における検潮及び波浪の観測網など,予報,観測,船舶通報等の各業務体制の充実強化を図るとともに,津波による災害の防止・軽減を図るため,量的な表現を含めた時間的・空間的にもきめ細かい予報の発表の実施を目指す。これらの情報をより有効に活用が図られるよう広報及び講習会等により気象知識の普及に努める。
 さらに,沿岸海域を航行する船舶,操業漁船等の安全及び能率的な運航を図るため,航路標識施設において,局地的な気象・海象の観測を行い,その現況を無線電話又はテレホンサービスで通報する船舶気象通報システムのサービス範囲の拡大等を推進する。

3) 公共用水域の使用の適正化
 東京湾横断道路,本州四国連絡橋,国家石油備蓄基地,関西国際空港,東京湾口道路等の大規模プロジェクトが計画又は実施されている。これらの海上における新たな大規模プロジェクトについてはその計画を策定する段階から,実施主体において,海上交通に及ぼす影響を十分に検討の上,船舶交通の危険を防止するための措置を計画に取り入れるほか,完成後のみならず,建設中においてもその工事工程に応じて所要の安全対策を講ずるよう指導・措置する。
 また,現在,建設が着手されているものについても,引き続き船舶の航行安全対策の着実な実施が図られるよう対処する。

2 海上交通の安全に関する知識の普及等

1) 海難防止思想の普及
 海事関係者のみならず広く国民全般に対し,海難防止思想の普及・高揚を図り,また,海難防止に関する知識・技能及びマナーの習得・向上に資するため,官民一体となった更に効果的な海難防止強調運動の実施や海難防止講習会,海上安全教室の開催等の海難防止活動の一層の充実を図る。
 また,海難防止思想の普及の重要性にかんがみ,新聞,テレビ,ファックス新聞等の広報媒体を通じて広く海難防止思想の普及に努める。

2) 民間組織の指導育成
 海難防止思想の普及と海難防止対策の一層の実効を期するため,海難防止を目的とする海難防止協会,小型船安全協会,外国船安全対策連絡協議会等の各種民間組織の自主的活動が,一層着実で活発に推進されるようその指導育成の強化に努めるとともに,海難防止に関する民間組織の拡充強化を図る。

3 船舶の安全な運航の確保

1) 船員の資質の向上
 「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)に対応し, 船舶職員法(昭和26年法律第 149号)に基づき5年ごとの海技免状の更新の際, 一定の乗船履歴又は講習の受講等を要求することにより, 船舶職員の知識・技能の維持及び最新化を図るとともに, 平成9年2月に発効するSTCW改正条約において, 航海士への無線従事者資格の義務付け等船舶職員の資格要件等が変更されていることから, 我が国においても当該改正条約の資格要件を満たすよう法令の整備を推進する。
 また,時代のニーズに即した船員を確保する必要があることから, 船員教育の一層の充実が必要であり, このため, 船員の再教育を実施している海技大学校, 新人船員の養成を実施している海員学校及び各教育機関の学生・生徒の航海実習を行っている航海訓練所において, 教育内容のレベルアップを図る等その教育体制の一層の整備充実を推進する。

2) 船舶の運航管理の適正化等
 旅客船の安全を確保するため, 運航監理官による乗船監査・事業所監査, 運航管理者研修等を実施することにより,運航管理の一層の適正化を図る。
 また,船員法(昭和22年法律第 100号)に基づく発航前検査の励行,操練の適切な実施,航海当直体制の確保,船内の巡視制度の確立等について,船員労務官による監査及び指導をより一層強化し,船舶の安全な運航の確保を図る。

3) 船員災害防止対策の推進
 船員災害防止対策を推進することにより,船内の労務管理等の不備に起因する海難を防止するため,船員労務官の監査等を強化するとともに,船員災害防止基本計画及び船員災害防止実施計画に沿い,船員の労働条件の改善並びに作業環境及び居住環境の整備対策の推進を図る。

4) 水先体制の充実
 自然条件や船舶交通の状況にかんがみ,水先区の新設及び変更の検討を行うとともに,水先業務用施設の整備並びに水先人の適正員数の確保及び資質の向上を推進する。

5) 外国船舶の監督の推進
 船員に係る外国船舶の監督(ポートステートコントロール:PSC)は,STCW条約の批准に伴い国際基準に適合していない船舶(サブスタンダード船)の排除を目的として,昭和58年から乗組員の資格証明及び海難等を生じさせた場合の航海当直体制について実施している。しかし, 近年における人的要因に係る海難事故に対応するため, 平成6年5月の「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)の改正(平成8年1月 発効)により, PSCの対象として航海の安全に係る船内の主要な手続きについて乗組員が習熟しているか否かの監督が追加され, さらに, 平成7年7月のSTCW条約の改正(平成9年2月発効)によりPSCの対象として安全配員要件が追加されたほか, 海難等の発生にかかわらず随時航海当直体制について, PSCが実施できるようになったことから, 我が国においてもPSC体制の充実強化を図り, これらPSC業務を積極的に推進する。
 また,PSCは,国際協力の下での実施が有効であることから,欧州地域におけるPSC協力体制(パリMOU)にならい,アジア・太平洋地域においても,我が国が中心となり,当該地域18か国によるPSC協力体制(東京MOU)を平成6年4月から実施しており,これに基づき,更なるPSC実施体制の充実強化を図っている。

6) 国際安全管理コードへの対応
 最近の人的要因による海難の増加により,海上における人命の安全,海洋環境の保全等の観点から,船舶の航行に関し,事故等の緊急事態に対する準備及び対応の手順を定める等船舶の総合的な安全管理体制を確立するための国際安全管理コード(ISMコード)が新たにSOLAS条約に導入され,平成10年7月から発効することから,国内法令への取り入れ等,国内体制の整備を早急に図る。

7) 海難原因究明体制の充実
 海難の再発防止に寄与するため,海難原因について迅速かつ多角的に究明する審判体制の充実を図る。

4 船舶の安全性の確保

1) 船舶の安全基準の整備
 船舶の安全性を確保するため,国際海事機関(IMO)において船舶の構造,設備等の安全基準の整備について検討されているほか,関係する船舶の無線局の技術基準について国際電気通信連合(ITU)において整備が図られてきたところであり,我が国においても,これらの動向に対応するとともに,技術革新,海上輸送の多様化等の情勢に対応するため所要の基準の整備を図る。
 特に,船舶における防火及び救命設備の充実強化を図るためにSOLAS条約を改正し,平成10年2月1日に発効することとなっているため,我が国においても所要の基準の整備を図る。
 また,平成6年9月バルト海において 900名以上の死者を出したロールオン・ロールオフ型旅客船(旅客フェリー)「エストニア」号の沈没事故を契機として,世界的に旅客フェリーの安全性について関心が高まり,IMOにおいて旅客フェリーに関する広範囲な安全対策の見直しを行ったところである。このため,我が国としては,IMOにおける検討の結果を踏まえ,旅客フェリーの安全性の向上を図るほか,関係する船舶の無線局の技術基準に関するITUの検討にも積極的に参加する。

2) 危険物の安全審査体制の整備
 原子力発電,医療機器等の発展に伴う使用済み核燃料等放射性物質の海上輸送量の増加,将来予想される放射性廃棄物の輸送の増加及び化学工業の発展に伴う新規危険物の多様化に対応して,船舶による運送に関する安全基準の整備を図るとともに,安全審査体制の充実強化を図る。

3) 船舶の検査体制の充実
 IMOにおいて,平成6年5月に94SOLAS条約の改正が行われ,平成8年1月には,高速船に関する新たな基準策定,貨物船等の船体に対する検査の強化,タンカーの非常用曳航装置の設置義務等に関する94SOLAS条約の改正が発効し,また,平成10年7月には,燃料油等可燃性油による火災防止に関する措置,船橋からの視界の確保等に関する改正が発効することとなっている。また,技術革新等により,軽合金を用いた非常に軽量な波浪貫通型双胴船体にジェットエンジン及びウォータージェット推進機を搭載した船舶等従来の設計手法とは全く異なる船型を有する船舶が増加する等,非常に高度で複雑な検査が必要となっている。こうした状況に対応するため,船舶検査体制の整備充実を図る。
 また,小型船舶の検査については,海洋性レクリエーションの発展とともに増加及び多様化するプレジャーボート等に対応するため,小型船舶の検査実施機関である小型船舶検査機構の検査体制の整備充実を図る。さらに,船舶運航に必要な船舶の無線局の検査についても,検査実施の円滑化を推進する。

4) 外国船舶の監督の推進
 近年,SOLAS条約等のサブスタンダード船による海難の増加から,サブスタンダード船の排除が国際的に問題となっており,我が国においても,PSCを実施し,サブスタンダード船の排除を推進する。
 また,PSCは,国際協力の下での実施が有効であることから,東京MOUに基づき,さらなるPSC実施体制の充実強化を図る。
 さらに,最近,人的要因による海難の増加から,乗組員が船上における設備の操作等に習熟しているか否かを確認するPSC(操作要件に係るPSC)がSOLAS条約(平成8月1月発効)及び海洋汚染防止条約(平成8年3月発効)に規定されたことから,新たなPSCを導入するための国内体制の整備等を図る。

5 各種船舶等の安全対策の充実

1) 漁港,漁船だまり,マリーナ等の整備

 ア 漁港,漁船だまり等の整備
 港内における船舶の安全を確保するため,漁港・漁船だまり等の整備に当たっては,その利用船舶が小型であることを考慮して,より高い静穏度が確保されるよう努める。取り分け,漁船等の小型船舶と大型船舶が共に利用する港湾にあっては,漁船だまり等を港内の適切な位置に整備することとし,小型船舶とその他の船舶との分離を図る。
 なお,漁港においては,海洋性レクリエーションのニーズの増加に伴い,漁港を利用する遊漁船等が増加していることから,これらと漁船とのトラブル等を防止し,円滑な漁業生産活動の維持増進を図るため,遊漁船等を分離・収容する施設整備を進める。
 イ マリーナ等の整備
 放置プレジャーボートを解消し港湾等の公共水面の秩序ある利用を図るとともに,海洋性レクリェーションの振興を図るため,公共事業のほか,民間活力を積極的に導入してマリーナの整備を推進するとともに,公共事業により簡易なプレジャーボート係留施設(プレジャーボートスポット)の整備を推進する。この場合において,秩序ある海域の利用を図るため,マリーナの位置及びプレジャーボートの活動水域に十分留意するともに,マリーナ内の安全性の確保を図る。

2) 漁船の安全対策の推進
 漁船の海難や海中転落等の事故が跡を絶たない状況にあることから,救命胴衣の着用率向上のためのビデオ・テキストの作成,作業しやすい救命胴衣の技術開発,沿岸漁業基地における漁業者のための遭難時における生存教育訓練等の実施及び災害多発業種・地域を対象とした安全対策の推進を図る。
 海難防止思想の普及の徹底を図るほか,安全運航に関する事項の遵守及び海事関係法令の励行の指導等を行うことにより漁船の安全対策を推進するとともに関係機関等との連携を深め,安全思想の普及の強化を図る。
 また,自動操舵使用中の海難のうち6割を占める漁船の事故防止対策についての検討を推進するとともに,小型沿岸漁船の航行の安全を確保するための緊急時の新しい通信システムを構築するための技術開発及び電波利用整備の制度等を検討する。

3) プレジャーボート等を用いた海洋レジャーに係る安全対策の推進

 ア プレジャーボート等の救助体制の充実強化
 プレジャーボート等の海難に迅速・的確に対応するため,海洋レジャーが盛んである海域,また,これらの活動が活発となる時期におけるパトロールを更に強化し,救難即応体制の確立を図るとともに,海難の情報収集,船艇・航空機による救助体制の強化に努めるほか,民間救助組織の育成等救助体制の充実強化を図る。
 イ 海洋レジャーの安全に関する指導等の推進
 プレジャーボート等の海難を防止するためには,愛好者自らが安全意識を十分に持つことが重要であるため,引き続き海難防止講習会や訪船指導等を通じて,海難防止思想の一層の普及を図る。また,海洋レジャー安全強調運動を実施するなどして海上交通ルールの周知,気象・海象等の安全に資する情報の早期入手その他安全運航のための基本的事項の励行等の指導を行う。特に水上オートバイの事故の増加にかんがみ,事故に結び付くおそれのある,危険な行為の防止に重点をおいた一層の安全指導を行う。
 また,これらプレジャーボート等の海難原因を詳細に究明し,この結果を踏まえ,さらに,効果的な指導方策を検討する。
 あわせて,海洋レジャーが今後さらに国民に定着していくものと考えられることから,ボランティアである海上安全指導員制度の推進,小型船安全協会等の民間団体による自主的な安全活動を支援することにより安全指導の充実・強化に努める。
 そのほか,海洋レジャー情報提供の窓口としての「海の相談室」「海洋レジャー行事相談室」業務の一層の周知を行うとともに,愛好者に対し安全に関する情報をリアルタイムに提供できるよう情報提供体制の充実・強化を図る。
 ウ プレジャーボート等に係る海技制度等の検討等
 プレジャーボート等の隻数の増加,船型,操縦方法の多様化,レジャー目的の免許取得者の増加等プレジャーボート等をめぐる状況の変化に対応して,小型船舶に係る海技資格制度,試験・養成制度,安全対策等について検討を行う。また,5年ごとの海技免状の更新制度を活用して知識・技能の維持及び最新化を図る。
 エ プレジャーボート等の建造技術者講習の推進
 プレジャーボート等の建造技術の適正な水準を維持し,船舶の安全性を確保するため,建造技術者を対象に各種技術講習会を開催し,これからの市場ニーズや技術革新等に対応し得る技術者を養成し,その資質の向上を図る。
 オ プレジャーボート等の通信システムの普及促進
 プレジャーボート等の海難の増加に対処するため,関係団体ではマリンVHFの通信システム(海岸局及び船舶局)の普及に努めているところであり,プレジャーボート等への今後一層の無線設備の普及促進を図る。
 カ 優良マリーナ認定制度の活用
 安全性,利便性の面で質の高いマリーナの普及を図るため,施設のみならず,管理・運営の面でも優れたマリーナを認定する優良マリーナ認定制度を活用し,マリーナ及びプレジャーボートに対する安全対策の充実を図る。

4) 外国船舶に対する安全対策の推進
 我が国周辺海域における外国船舶の海難はほぼ横ばい状態であるものの,老朽化した船舶の機関故障,材質・構造上の欠陥,気象・海象情報等必要な情報の入手不足等が主な要因となっている。
 気象・海象情報等必要な情報の入手方法等及び我が国周辺海域の地形,気象,航法等に不案内な船員を配乗した外国船も見られることから,これらに対応するため,パンフレット等を活用し,気象・海象の特性,同情報の入手方法,ふくそう海域の航法等について周知の徹底を図るとともに,気象・海象情報の適切な入手及び荒天時における早期避難,航行経路付近の海図の備付け等について訪船指導等機会あるごとに指導を行う。
 また,我が国の主要な港において外国船舶への航海情報等の提供に重要な役割を果たしている外国船舶安全対策連絡協議会の設置の促進及び活動の活性化を推進する。
 このほか,我が国に来航する船舶関係諸国との間で,安全に関する情報の交換等を行うことにより,連携体制の構築を図り,効果的な安全対策を進める。

6 海上交通に関する法秩序の維持

 海上交通のふくそうする航路等における航法に関する指導取締りの強化及び海難の発生に結び付くおそれのある事犯に関する指導取締りの実施に加え,特に,海上輸送や海洋レジャー活動が活発化する時期等には,全国一斉の指導取締りを実施し,海上交通に関する法秩序の維持を図る。

7 救助・救急体制等の整備 

1) 海難情報の収集処理体制の整備
 海難情報等を収集処理する情報処理システムの高度化を行うほか,同システムを構成する情報通信回線の高速化,大容量化を図り,海難情報等の収集処理体制の充実強化を図る。
 また,衛星通信技術,デジタル通信技術等最新の通信技術を利用した新たな遭難安全通信システムである「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS)の完全導入(平成11年2月1日)に向け,GMDSSに適切に対応する通信施設及び運用体制の整備を推進するほか,船舶からの遭難位置,識別信号等の遭難情報を解析し,捜索救助機関等に情報を提供する業務管理センター(MCC)の中核的役割を果たす基幹MCCの整備を行うことにより,情報収集処理体制の充実を図る。

2) 海難救助体制の充実・強化及び海難救助技術の向上
 「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)に対応し,北西太平洋の広大な海域における捜索救助活動を迅速かつ的確に行うため,航空機との連携強化を図った巡視船,捜索救助の能力に優れた航空機等を整備するとともに,海運・水産関係者等に対する日本の船位通報制度(JASREP)への参加促進とその有効な活用を図るほか,SAR条約に基づく近隣諸国等との捜索救助に関する協力体制の充実強化を図る。
 また,船舶交通のふくそう状況,気象・海象状況等を勘案し,海難の発生のおそれがある海域にあらかじめ巡視船艇を前進配備するとともに,航空機の機動性とヘリコプターの吊り上げ救助能力の活用を図るなど,巡視船艇・航空機を効率的に運用する。
 海難救助に当たって,転覆船内から遭難者を救助する等高度の技術・知識が要求される特殊な海難に有効・適切に対応するため,資器材及び人員の充実等体制の強化を図るとともに海難救助に係る手法の調査研究,訓練及び研修等を一層充実させ海難救助技術の向上を図る。
 このほか,高度な応急処置を必要とする傷病者に対しては,救急救命士を養成する等により,海上における救急救命体制の充実強化を図る。

3) 洋上救急体制の充実
 洋上で発生した傷病者に対し,医師,看護婦等の迅速かつ円滑な出動等が行われるよう,日本水難救済会を事業主体として実施している洋上救急事業について,その適切な運営を図るための指導及び協力を行うとともに,関係団体と協力し医療機関の参加を促進するなど洋上救急体制の一層の充実強化を図る。

4) 海上防災体制の整備
 タンカー事故等による油及び有害液体物質等の排出並びに海上災害等に対処し,海上交通の安全等を確保するため,衛星を利用したヘリコプター撮影画像伝送システムの活用,大型巡視船(災害対応型),防災資材等の整備を推進するとともに,排出油の防除に関する協議会の育成及び海上災害防止センターの充実強化等民間組織の指導育成に努め,海上防災体制の充実を図る。
 また,有害液体物質の排出等多様化する海上災害に対処するため高度な知識・技術を有する機動防除隊を育成強化していくとともに,油及び有害液体物質等の防除技術及び防除資材の開発等を推進する。

8 損害賠償の適正化

 船舶の事故により,旅客,第三者等に与えた損害に関する船主等の賠償責任に関し,損害水準の変動等を勘案して一層の適正化を図る。

9 科学技術の振興等

1) 海上交通の安全に関する研究開発の推進
 海難を防止するためには,その発生要因となる交通環境及び気象,海象等の自然的条件並びに船舶・航海計器及び港湾等の性能・機能に関する科学的研究を一層推進するとともに,これらの試験研究の成果を海上交通の安全対策に反映させる。
 また,エネルギー多様化の時代に即応し,使用済核燃料や返還廃棄物等放射性物質の安全輸送を確保するため,必要な調査研究を推進する。
 このため,国立の試験研究機関等においては,研究施設,研究費等の充実による研究体制の整備を図るとともに,関係する試験研究機関相互の連携強化による総合的な試験研究の一層の推進を図る。

2) 海難原因究明のための総合的な調査研究の推進
 海難の再発防止に資するため,海難に関する研究の充実を図るとともに総合的な調査研究を行い,その成果を安全対策に反映させる。