「道路交通安全の基本政策等検討会」報告書
平成17年3月
内閣府
目次
- 「道路交通安全の基本政策等検討会」の目的
- 交通事故の現状を踏まえた道路交通の安全対策に関するビジョン
- 交通安全意識等に関するアンケート調査
- 第7次交通安全基本計画(道路交通部分)の政策評価について
- 「第8次交通安全基本計画に盛り込むべき事項」に関する関係団体からの意見
- 今後の交通安全対策の方向性
1.「道路交通安全の基本政策等検討会」の目的
1)調査研究の目的
次期(第8次)交通安全基本計画を検討するための基礎資料として、
- 交通事故の現状を踏まえた道路交通の安全対策に関するビジョン
- 現行(第7次)交通安全基本計画(道路交通部分)の政策評価
の検討を行う。
2)検討会の実施概要
(1)検討会の体制
下記の委員からなる検討会を開催し、ご意見を伺いながら作業を進める。
- 座長
- 太田 勝敏
- 東洋大学国際地域学部教授
- 委員
- 鈴木 春男 自由学園最高学部長
- 岡野 道治 日本大学理工学部教授
- 蓮花 一己 帝塚山大学心理福祉学部長
- 久保田 尚 埼玉大学大学院理工学研究科助教授
- 行政委員
- 二見 吉彦内閣府政策統括官付参事官(交通安全対策担当)
- 石井 隆之(末井 誠史)警察庁交通局交通企画課長
- 種谷 良二(倉田 潤)警察庁交通局交通規制課長
- 山口 敏(大木 高仁)文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長
- 谷口 隆(渡延 忠)厚生労働省医政局指導課長
- 北野 忠美(佐伯 洋)国土交通省総合政策局参事官
- 江畑 賢治国土交通省道路局道路交通管理課長
- 祢屋 誠(森永 教夫)国土交通省道路局地方道・環境課長
- 清谷 伸吾国土交通省自動車交通局総務課交通安全対策室長
- 武居 丈二消防庁救急救助課長
平成17年3月末現在。( )内は前任者である。
(2)実施期間
平成16年6月から平成17年3月まで
- 検討会の開催日程
- 第1回 平成16年 6月21日
- 第2回 平成16年 7月12日
- 第3回 平成16年12月17日
- 第4回 平成17年 3月 8日
(3)事務局
株式会社野村総合研究所
2.交通事故の現状を踏まえた道路交通の安全対策に関するビジョン
1)ビジョン設定の意義
欧州を中心とした先進諸国は、すでに野心的な交通事故削減目標を掲げているが、その策定過程では、交通安全対策のビジョンの検討が行われている。OECDが2002年に加盟各国の交通安全対策を調査してまとめた報告書「Safety on Roads」でも、ビジョンの必要性が強調されており、適切なビジョンの設定が必要であることは世界的な共通認識となっている。ここにビジョンとは、「今までにない交通システムの将来像や安全性増進のあるべき姿」であると定義されている。
国 | ビジョン |
---|---|
オランダ | 持続可能な安全 Sustainable safety |
スウェーデン | なん人も道路交通システムにおいて死亡したり、重傷を負ったりしない。 Nobody should be killed or seriously injured within the road transport system. |
第156回国会の施政方針演説にある「道路交通に関して世界で一番安全な国とすること」もビジョンと考えられるが、次期計画を作成するに当たっては、かかるビジョンをより明確かつ強力にするため、(1)目標(ターゲット)の設定を図るとともに、その達成のために(2)国民意識の改革を検討する必要があると考える。
- ビジョン:
- 長期的な方向性
-
- 「道路交通に関して世界一安全な国」だけでいいのか?
- 計画策定時により肉付けする必要はないのか?
↓
- 目標(ターゲット):
- 年次を区切った具体的な数値目標
-
- 平成24年末に5000人以下であるも、計画終了は平成22年末であり、 いかに設定するか?(計画期間を7年とする可能性もあり)
- 死者数のみならず事故件数や負傷者数を定める必要はないか?
↓
- 戦略(ストラテジー):
- 具体的な手段
-
- 各省庁がそれぞれの所掌に応じて様々な施策を実施しているも、その一つとして国民意識の改革を議論すべきではないか?(国民意識のアンケート調査結果をビジョンに反映することも考慮)
2)ビジョン設定におけるポイント
(1)目標(ターゲット)の設定
現行の第7次交通安全基本計画においては、第1部「陸上交通の安全」第1節「道路交通事故のすう勢と交通安全対策の今後の方向」において、次のように、死者数の数値目標は存在するが、事故件数(負傷者数)の数値目標は設定されていない。
しかしながら、かねてより、死者数のみならず、事故件数や負傷者数についても数値目標を設定すべきではないかとの意見があり、その当否を検討する必要がある。
交通事故による死傷者数を限りなくゼロに近づけ、国民を交通事故の脅威から守ることが究極の目的であるが、当面、自動車保有台数当たりの死傷者数を可能な限り減少させるとともに、平成17年までに、年間の24時間死者数を、交通安全対策基本法施行以降の最低であった昭和54年の8,466人以下とすることを目指すものとする。
なお、社会資本整備重点計画においては、第2章「社会資本整備事業の実施に関する重点目標及びその達成のため効果的かつ効率的に実施すべき社会資本整備事業の概要」において、死傷事故率の数値目標が設定されている。
道路交通における死傷事故率
【118件/億台キロ(H14)→約1割削減 108件/億台キロ(H19)】
(2)国民意識の改革
平成15年11月に内閣府が開催した国際シンポジウム「世界一安全な道路交通の実現を目指すキックオフ・ミーティング」の基調講演において、イギリス研究者リチャードオルソップ氏から、「(死者半減の目標を達成できるか否かは)意思決定者、利害関係者、そして一般国民の意識や考え方を変えることができるかどうかにかかっている」との指摘があり、交通安全活動にあまり関心のない国民の意識をいかに変えるかを検討する必要がある。
3.交通安全意識等に関するアンケート調査
1)アンケート実施概要
(1)調査方法
- 訪問留置き回収法による。
- 各個人を調査員が訪問し、調査票の説明を行う。
- 数日後調査票を回収に行く。回収時に質問票のチェックを行い回答が適切になされているのかをチェックする。無回答などがある場合にはその場で回答を要請する。
(2)調査対象
住民基本台帳を使用した層化多段無作為抽出法によって抽出された、全国の二輪免許保有可能な16歳以上の男女個人
(3)標本数
回収ベースで2,105標本
(4)調査期間
平成16年12月9日~12月17日
(5)調査会社
社団法人 新情報センター
2)調査分析結果
(1)属性
1.性年代
年齢層別人口比による重み付き乱数により年齢層別の個人抽出を行い配布したため、回収ベースでも各年齢層で回収が行われている(第1-1-1図)。
2.家族構成
家族に高齢者がいる割合は55.1%と半数以上となっており、子供がいる割合は34.3%となっている(第1-2-1図、第1-2-2図)。
3.運転者・非運転者
自動車の運転者は63.1%とかなり多くなっている。バイクは9.3%と1割を切っており、自転車に関しては47.9%と半数近くが運転者となっている(第1-3-1図、第1-3-2図、第1-3-3図)。
4.交通事故経験
交通事故の被害者になったことがあるのは、自身が23.5%、家族が26.6%と20%台となっている(第1-4-1図、第1-4-2図)。加害者になったことがあるのは、自身が12.0%、家族が10.5%と10%台となっており、被害者経験よりは少なくなっている(第1-4-3図、第1-4-4図)。これは、一人の加害者が複数の被害者を出すような場合が見られることなどが原因ではないかと推測される。
5.交通安全活動への参加経験
交通安全活動への参加経験者は、18.6%である(第1-5-1図)。
(2)1日当たりの交通事故死者数
まず、単純集計結果(第2-1-1図)を見ると、30~49人、50~99人で回答の山ができている。回答値の平均は108.1人となるが、平均値は200人以上というような大きな値の影響を受けすぎるため、中央値で傾向を見ると35.0人となる。実際の値20.1人(平成16年における24時間以内死者数7,358人/366日)よりは15人程度多く認識されている。これは、国民が交通事故の実態について必ずしも十分な関心を有していないのではないかと推測される。
(3)交通安全に対する意識
1.交通安全についてどの程度考えているか
第3-1-1図を見ると、57.5%の人が「普段から考えている」と回答している。
2.交通事故についての考え方
全体としては、第3-2-1図の通り、「なくすことは困難だが大幅に減少させるべき」が一番多く76.5%となっており、次に「なくすことが可能でありゼロとすべき」が18.2%で続いている。こういった国民の意識を踏まえ、積極的に交通安全対策を実施することにより、交通事故を減少させることができるのではないかと考えられる。
3.交通事故情勢をどうとらえているか
「より悪化する方向にあると思う」と回答した人がほぼ半数を占めており、交通事故死者数の減少よりも、交通事故件数・死傷者数の増加という現状を反映する結果となっているのではないかと推測される(第3-3-1図)。
上記のように回答した理由(第3-3-2図)について見てみると、「より好ましい方向にある」と考えている人の51.3%が「交通事故が減ったと思うから」と回答し、「交通事故死亡者が減ったと思うから(46.0%)」を上回っている。また「より悪化する方向にある」としている人についても、70.5%が「交通事故が増えたと思うから」とし、「交通事故死亡者が増えたと思うから(39.9%)」を上回っている。つまり、一般的には交通事故件数が交通事故情勢を判断する上での基準となっていると考えられる。
また、実際には交通事故件数や負傷者数は増加傾向であり、死者数は減少傾向であるが、こういった事実が一般的に広く認識されていないと考えられる。
4.現在進められている交通安全対策のうち、効果が高いと考えられているもの
「効果的な指導取締りの実施」が63.9%と最も高く、二番目には「シートベルト及びチャイルドシート着用の徹底」58.3%となっている(第3-4-1図)。「効果的な指導取締りの実施」が高く、「市民参加型の交通安全活動の推進」が低くなっていることから、交通安全について、いわば受け身のものとして考えているのではないかと推測される。また「市民参加型の交通安全活動の推進」に関しては、適切な市民参加型の活動が定義されていないために有効性が十分理解されていない可能性もある。
5.日本の道路交通安全事情の位置付け
実際の日本の道路交通安全事情は上位の方に位置付いているにも関わらず、国民の意識としては、「日本は多い方である」が49.3%と半数近くになっており、続いて「およそ中間で多い方でも少ない方でもない」が33.4%となっている(第3-5-1図)。これは、国民が道路交通安全事情について必ずしも十分な関心を有していないのではないかと推測される。
6.加害者となることが多いと考えられている年齢層
第3-6-1図を見ると、加害者として最も多いと考えられている年齢層は、「16~24歳」が66.8%と圧倒的に高くなっている。参考として、原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数では、アンケート結果と同様に「16~24歳」が最も多く、2,100.8件となっている(平成16年実績)。
7.被害者となることが多いと考えられている年齢層
被害者として最も多いと考えられている年齢層については、「75歳以上」33.5%、「0~15歳」32.3%とこの2つの年齢層が同程度で回答されている(第3-7-1図)。
8.日常特に不安に感じるもの(犯罪)
第3-8-1図は、犯罪という選択肢の中から日常特に不安に感じるものを選択する質問の結果を示しているが、「ひき逃げや飲酒運転等の交通犯罪」は21.2%と二番目に多く選択されている。ただし、「傷害、強盗等の暴力的な犯罪」とは40ポイント以上の差が見られる。
9.日常特に不安に感じるもの(事故)
事故・天災関連の選択肢の中から日常特に不安に感じるものを選択する質問では、「地震等の天災」が46.5%と最も多くなっており、「道路交通事故」は40.0%と二番目に多くなっている(第3-9-1図)。ただし、調査期間の約1ヶ月半前(平成16年10月23日)に新潟県中越地震が発生したために、「地震等の天災」を回答する割合が特に大きくなっている可能性がある。
10.将来的な交通安全対策として、今後重要と思われるもの
将来的な交通安全対策として、「道路交通環境の整備」を重要だとする人は73.5%にものぼり、二番目の「道路交通秩序の維持(36.8%)」の約2倍になっている。現状の対策への評価である第3-4-1図と比較すると、「道路交通環境の整備」について現状が49.8%、今後が73.5%と際立って高くなっていることが分かる。これにより、当該対策に対する今後の期待が高いのではないかと推測される。
(4)積極的に協力しても良いと思うもの
「交通ルールやマナーを遵守する」に関しては88.1%と多くの回答者が協力しても良いとしている。しかし、それ以外の項目についてはいずれも半数以下となっており、積極的な協力の姿勢までは見られない。
(5)道路上にいる時間
道路上にいる時間は、第5-1-1図の通り、「1時間以上2時間未満」の値を回答した人が最も多く36.2%となっており、次に「1時間未満(21.8%)」となっている。無回答を除いた回答者の平均では、2時間0分となる。
2時間0分を国民の平均道路時間とし、道路を利用している1時間当たりの危険性と道路以外の生活場所における危険性とを比較すると以下のように考えられる。不慮の事故による死亡数総数38,714人(厚生労働省、平成15年)道路交通事故による死亡数10,645人(厚生労働省発表の数字をもとに算出)より、
- <道路上の危険>
- 10,645人÷2時間=5,323…(1)
- <道路以外の危険>
- (38,714人-10,645人)÷(24時間-2時間)=1,276…(2)
したがって、道路上の危険(1)÷道路以外の危険(2)=4.2倍
また、睡眠時間7時間42分(15歳以上の値、総務省、平成13年)を道路以外の生活場所で過ごす時間から除いた場合では、
- <睡眠を除いた道路以外の危険>
- (38,714人-10,645人)÷(24時間-2時間-7時間42分)=1,963…(2)’
したがって、道路上の危険(1)÷道路以外の危険(2)’=2.7倍
(6)交通安全問題の深刻さを訴えかけるための施策
第6-1-1図で「とても効果的」「やや効果的」の合計を見ると、「交通事故の被害者、遺族、加害者の肉体的・精神的な苦痛や悲惨さを強調する」「地域の1日当たりの交通事故件数・死者数などを示して、地域住民の関心を高める」「毎年の交通事故死者数を公表し、いかに多くの国民が亡くなっているか周知する」については、効果の高い方法だと考えられていることが分かる。
さらに、「交通安全問題の深刻さを訴えかけるための施策」に関して自由回答を求めたところ、以下のような意見を得られた。
- 学校、会社、家庭、地域等で交通安全指導を行う(33人)
- 罰則強化(飲酒、暴走、携帯電話、駐車違反、自転車の無灯火など)(33人)
- 個人への意識改革(23人)
- テレビでの交通安全番組やニュースでの放送(17人)
- 道路環境の改善(12人)
- 加害者になったときの社会的、経済的、精神的な損失を周知する(12人)
- ヒヤリ地図(ヒヤリ・ハット、身近で起きた事故の場所など)を作成し、地域に配布(8人)
- スリップ、急ブレーキ、衝突等の体験が出来るイベントの開催(6人)
- 交通事故に関する詳しい統計データを公表する(6人)
- 高齢者に対する安全教育の徹底(5人)
- 啓発的なCMを流す(5人)
- 人的な交通整理、指導(4人)
- 被害者家族や本人が、事故の悲惨さを発言できる場があればよい(4人)
- スピード規制車等、メーカーの協力(3人)
- 免許証発行を今より難しくする(3人)
- 更新時の教育をより徹底する(3人)
- 事故多発地点における警告表示を掲げる(3人)
- 交通事故の悲惨な写真(人体など)を公開する(2人)
- 車を減らす(2人)
- 法制度の改善(1人)
- 被害者団体の運動を国や警察が支持・支援する(1人)
- 交通犯罪者へ社会運動(ボランティア)等の参加義務を強化(1人)
- 地域の有線放送で注意を促す(1人)
- 事故車の公開(1人)
- 1年に1度、無料で運転者に対して適性検査を実施し、安全意識を高め、程度により再教習を行う(1人)
- 免許証に表示枠を設け、色別表示などで悪質違反を生涯累計で明示する(1人)
- 優良運転手を積極的にPRする(1人)
- 違反者にしっかりていねいカウンセリング(1人)
4.第7次交通安全基本計画(道路交通部分)の政策評価について
1)政策評価の実施
およそ新たな計画を作成する際に当たって、現行計画の評価を行うことは当然である。なぜなら、より大きな成果を得るためには、現行計画のうちの効果の大きな施策を選び出して、次期計画に反映し、それらを正しい優先順位で実施する必要があるからである。このような考え方から、現行の第7次交通安全基本計画の作成に際しても、「政策評価」という名称こそ用いられていないが、第6次交通安全基本計画の効果分析が行われている。平成13年1月から導入された政策評価制度に基づき、内閣府としては、第8次交通安全基本計画の作成に当たって、現行の第7次交通安全基本計画の政策評価を実施することとしており、具体的には、現行計画終了年度の前年度である16年度において、総合評価方式により政策評価を行うこととしている。
2)交通安全基本計画の性格
総合評価方式により政策評価を実施するとしても、そもそも、交通安全基本計画は、各省庁の交通安全施策をとりまとめたものであり、政策評価が第三者評価によらず自己評価を原則としていることから考えて、交通安全基本計画の政策評価についても、まずは各省庁の所掌事務に応じて当該担当省庁によることを原則とすべきである。
例えば、国土交通省において、平成13年度~14年度に「道路交通の安全施策」というテーマで政策レビューを実施しているが、その際には、国土交通省政策評価会をはじめとした各種の第三者委員会の知見が活用されており、内閣府において、かかる内容のものを更に同一の観点から評価することは妥当とは考えられない。
3)総合評価方式のガイドライン
そこで、内閣府が交通安全基本計画を総合評価方式によって評価するに際しては、各省庁が実施した政策評価を前提として、総合的な評価を実施することが妥当であると考えられる。
ここにおいて、その評価対象としては、基本計画上
- 第1節2「道路交通安全対策の今後の方向」に掲げられた10の重点施策及び新規施策
- 第2節「講じようとする施策」にある8の施策
の二種類が考えられるところ、前者の部分について、より掘り下げた分析を行うこととしたい。
なお、費用対効果分析については、様々な問題点があることから実施することは考えていない。
4)「道路交通安全の基本政策等検討会」において出された意見
(1)評価方法について
1.多面的な評価の必要性
- 「交通事故調査・分析の充実」と並行してプログラムを動かしていくのが一番いいように感じている。個別の施策については、投入する資源で図るもの、アウトプットとして目標通りに遂行されているか見るもの、アウトカム・目標にどれだけ貢献したかを見るものなど多面的に評価する姿勢が重要である。
- 限界があることは前提だが、施策ごとに定量的に換算できるもの、そのうちお金に換算できるもの、単一の要因に帰属できるもの等、いくつかの段階があると思う。個別の施策ごとにきめ細かい議論が必要で、それを公開していくことが重要である。
2.評価指標
- アウトカムで分析することが重要であるのは言うまでもないが、それができない場合は、インプット(予算額)ではなくアウトプットで評価するのが望ましい。適切なアウトプットがない場合に、インプットで代替したり、インプットを合わせて記したり、という対応にすればよいのではないか。その場合は、「一部インプットも記載している」旨、明記した方が良い。
- プロセス評価とプロダクト評価という視点で考えると、全てをプロダクト評価するのは無理だが、プロセス評価ならある程度可能だと思う。
- すぐに費用対効果の比較をすることには反対である。しかし、「国民に対する行政の説明責任」といった観点からすると、算定できないと断定してしまうのは良くない。「交通事故調査・分析の充実」に注力していくと、将来的には、できるようになってくるのではないか。
- 本来の評価では、自己評価、政策を受ける側(国民)の評価、第三者評価の三段階が一般的である。評価には、施策を実施したかどうか、効果があったかどうかの2種類あるが、後者の評価が少ない。各省庁に対して、効果・成果を少しでも加味してもらえる方向にしていけばよい。
3.その他(体制、政策評価のあり方等)
- 政策評価においては、中身の書けるところはできるだけ書いて次につなげるということが最も重要だと思う。
- 何をもって評価とするのかについて、事故件数だけでなく、ミクロ事故分析や意識調査を分析するなどいろいろ考えられると思うのだが、もともとのデータをとる体制が弱い。体制を整えるような方向になっていかなければ、効果的な評価ができないのではないかと危惧している。
- 地域で評価のための何らかのモノサシが出来て、さらに、計画の策定や評価の段階で国民が参加するという形になっていけば、国民の意識が随分変わってくると思う。
- 評価の仕方は難しい。性急にやるのではなくて、中期的にフィードバックの仕方を研究することが必要ではないか。
(2)第7次交通安全基本計画本体の評価
1.道路交通事故の長期的推移
- 第1次や第2次の交通安全基本計画では、モノを中心に安全対策が講じられていた。その後死者数が増えて、平成3年を境に減り始めており、減り始める背景として、「モノ対策」に加えて「ヒト対策」が登場してきたためだと考えている。今後は「モノ対策」・「ヒト対策」に加えて「情報対策」(IT、ITSなど)が重要だと思う。このようなことを踏まえて、予算の動きや講じた対策が書き加えられると分かりやすくなるのではないか。
2.第7次交通安全基本計画本体の評価
- 問題の性格が変わってきているので、第1次から第7次までの累積を強調しすぎるのではなく直近の効果を強調するとよい。
- 第7次交通安全基本計画の影響が第8次・第9次につながるということを書いておくとよいのではないか。
(3)「重点施策及び新規施策」の評価
1.重点・新規施策「高齢者の交通安全対策の推進」
- 例えば、「市民参加型の高齢者交通安全学習普及事業」について言うと、全国での開催数・出席者数がアウトプットとして考えられる。
- 「高齢者講習」について、受講者数は一つのアウトプットだと思うが、対象者数自体が増えてきているので、対象者数に占める受講者数のパーセンテージを出すとよい。他の講習についても対象者の何%なのかを示し、低い場合は問題点として指摘してもよいのではないか。
- 高齢者の交通事故件数から事故率といった評価に直接つながる指標に翻訳することで、事故率は減っているが、それ以上に高齢者数が増えているので結果として事故件数は減っていないというように、コメントの書き方が変わってくる。
- 高齢者の免許保有者も増えているので、それと関連したことが言えるとよい。
- 今後、高齢者数がさらに増えるのだから、もっと危険になるという警告をしてもよいのではないか。高齢者が第一当事者になっている交通事故件数は大変な勢いで伸びているため、高齢者の運転教育をもう少し強調してもよいのではないか。
2.重点・新規施策「交通事故調査・分析の充実」
- 次のステップでは、ミクロ分析を活用して対策に結びつけることが必要になってくると思う。GIS(地理情報システム)などの整備が出来ている県はまだ半数にも満たないので、「現在何県中の何県ができていて、今後のことを考えるとより一層整備する必要がある」という記述をしておかなければならない。ミクロ分析を実施するとなると、専門家も予算もマンパワーも不足しているし、合わせて基盤整備が必要な部分もある。問題点や限界を書いておく必要がある。
(4)第7次交通安全基本計画の評価
- 駐車違反については、法改正があったので、第8次交通安全計画ではいろいろな可能性が出てくると思う。第7次交通安全基本計画の政策評価で重要性を書いておくことで、せっかく法改正があったのだからしっかりやっていこうという流れになるとよい。
5.「第8次交通安全基本計画に盛り込むべき事項」に関する関係団体からの意見
1)「第8次交通安全基本計画に盛り込むべき事項」調査概要
(1)目的
第8次交通安全基本計画の作成に当たり、都道府県・関係団体に対して意見募集を行う。
(2)調査方法
都道府県・政令指定都市及び関係団体に対して文書により照会する。
(3)調査結果
- 都道府県:
- 47都道府県のうち、18県から47件の意見
- 政令指定都市:
- 13政令指定都市のうち、7市から12件の意見
- 関係団体:
- 78関係団体のうち、36団体から102件の意見
- 総意見数:
- 161件
2)都道府県・政令指定都市、関係団体からの主な意見(道路交通部分)
都道府県・政令指定都市、関係団体から寄せられた主な意見を、第7次交通安全基本計画の「第1部 陸上交通の安全 第1章 道路交通の安全」の目次に沿って、以下にまとめる。
第7次交通安全基本計画における項目 | 意見内容 | ||
---|---|---|---|
節 | 番号 | 項目名 | |
1 | 2 | 道路交通安全対策の今後の方向 | 新たに盛り込むべき項目案
|
1 | 3 | 交通安全基本計画における目標 | 交通事故死者数だけでなく、以下の数値目標も設定すべきではないか
|
2 | 1 | 道路交通環境の整備 | 1.道路の新設・改築による交通安全対策の推進
2.交通安全施設等整備事業の推進
3.高度道路交通システムの整備
4.交通需要マネジメントの推進
5.総合的な駐車対策の推進
6.その他の道路交通環境の整備
|
2 | 2 | 交通安全思想の普及徹底 | (1)段階的かつ体系的な交通安全教育の推進
(2)交通安全に関する普及啓発活動の推進
|
2 | 3 | 安全運転の確保 | (1)運転者教育等の充実
(4)自動車運送事業者等の行う運行管理の充実
○ドライブレコーダー(車載監視カメラ)の普及 |
2 | 4 | 車両の安全性の確保 | (2)自動車アセスメント情報の提供等
(3)自動車の検査及び点検整備の充実
(5)自転車の安全性の確保
|
2 | 5 | 道路交通秩序の維持 | (1)交通の指導取締りの強化等
|
2 | 6 | 救助・救急体制等の整備 | (1)救助・救急体制の整備
|
2 | 7 | 損害賠償の適正化と被害者対策の推進 | (3)交通事故被害者対策の充実強化
○交通事故被害者の社会復帰を推進するための対策の強化 |
2 | 8 | 科学技術の振興等 | (1)道路交通の安全に関する研究開発の推進
(2)道路交通事故原因の総合的な調査研究の充実強化
|
6.今後の交通安全対策の方向性
1)アンケート調査結果から考えられる方向性
交通安全についてどの程度考えているかというアンケート調査によると(9頁参照)、
- 「普段から考えている」 57.5%
- 「多少は考えたことがある」 36.6%
との結果が得られ、交通安全について考えている国民は約9割以上となっている。一方、積極的に協力して良いと思うものを質問したアンケート調査によると(14頁参照)、
- 「交通安全の視点から街づくりに参画」 20.5%
- 「交通安全指導や交通安全活動を行う」 11.0%
との結果が得られ、具体的な交通安全活動への参加をよしとする割合は1割から2割となっている。これら両アンケート結果の乖離から想像されることは、国民は、交通安全について高い関心を持っているけれども、未だ交通安全を行政から与えられる、いわば受け身のものとして考えているのではないかということである。この点、交通安全活動に対する参加の仕組みが不十分なのではないかとの意見もあり、今後検討すべきと考えられる。
言うまでもなく、国は、交通安全に関する総合的な施策を策定し実施する責務を有しているが、その一方で、国民が、交通安全を自らの問題として認識し、交通安全活動に主体的かつ積極的に関わっていくこともまた極めて重要であると考えられる。
以上から、次期交通安全基本計画において、
- 高齢者を中心に、子ども、親の三世代が一堂に会した場で、交通安全をテーマに交流する世代間交流事業のような市民参加型の交通安全活動
- 当該地域の事故発生状況を明らかにし、国、地方公共団体、警察、学校、関係民間団体が互いに連携を取りながら行う地域ぐるみの活動
- 交通安全総点検を始めとした住民の参画による道路交通環境の整備
などの「市民参加型の取組み」や「地域ごとの主体的な取組み」をより一層推進することとしたらどうかと考える。
また、交通事故についてどのように考えているかというアンケート調査によると(9頁参照)、
- 「なくすことは困難だが大幅に減少させるべき」 76.5%
- 「なくすことが可能でありゼロとすべき」 18.2%
との結果が得られ、交通事故を減少させるべきと考えている国民は約9割以上となっている。
しかしながら、その一方で、先に述べたとおり、自ら主体的かつ積極的に行動して事故を減らそうと考える国民はことのほか少なく、ここにおいても「交通安全を受け身のものとして考えている」国民意識が存在しているのではないかと想像される。
仮に、このような国民意識を、もっと能動的かつ積極的なものに高めることができるならば、交通事故が大幅に減少するであろうことは論をまたない。
その意味において、言うまでもないことであるが、交通安全対策の究極の目標は「交通事故のない社会」であり、例えば、スウェーデンにおいては、「ビジョンゼロ(何人も道路交通システムにおいて死亡したり、重傷を負ったりしない)」という基本理念に基づいて交通安全対策が推進されていることも参考にするならば、次期交通安全基本計画において、我が国においても「交通事故のない社会」を理想として掲げ、国民意識の高揚の一つの手段としたらどうかと考えられる。
次に、(4)「現在進められている交通安全対策のうち、効果が高いと考えられているもの」(11頁参照)と(10)「将来的な交通安全対策として、今後重要と思われるもの」(14頁参照)の両アンケート結果を比較した場合、「(安全かつ円滑な)道路交通環境の整備」は、(4)については「効果的な指導取締りの実施」63.9%、「シートベルト及びチャイルドシート着用の徹底」58.3%に続き、49.8%と第三番目となっているが、(10)については、73.5%と第一番目となっている。
この両アンケート結果の乖離から想像されることは、「道路交通環境の整備は効果的な施策であるが、まだまだ十分になされておらず、今後より一層推進すべきではないか」という国民の期待を反映しているのではないかということである。
以上から、次期交通安全基本計画において、道路交通環境の整備をより一層推進することとしたらどうかと考えられる。
さらに、日常特に不安に感じるもの(事故)に関するアンケート調査によると(13頁参照)、「地震等の天災」46.5%に続き、「道路交通事故」は40.0%と第二番目となっている。
これは、国民の中に、日常生活における「ヒヤリ体験」を通じて、いつ自分や家族が交通事故に遭うか分からないという不安があることを反映したものであると想像される。
その意味おいて、次期交通安全基本計画のビジョンを設定する際には、客観的な交通事故の発生状況という「安全」の指標とは別に、事故に遭うことを心配することがないという主観的な「安心」の指標も考慮に入れたらどうかと考えられる。
最後に、交通安全問題の深刻さを訴えかけるための施策に関するアンケート調査によると(16頁参照)、「道路上の危険性を他の社会活動や輸送手段における危険性と比較する」や「交通事故の経済的損失の巨額さを強調する」は、約半数の国民が効果的であると考えているとの結果が得られたところである。
道路上の危険性や交通事故の経済的損失に関する情報を周知することにより、国民の意識を、他の様々な社会問題から交通安全の問題へ振り向けることができると考えられる。
以上から、次期交通安全基本計画において、
- 道路上にいる時間は道路以外にいる時間と比較して約4倍も死に至る危険性が高いこと
- 1年間の道路交通事故により生じる経済的損失が約4兆2850億円(GDPの約1%弱)にも上る巨額なものであること
を記述したらどうかと考えられる。
2)政策評価結果から考えられる方向性
第7次交通安全基本計画は、計画期間の2年度目において「年間の24時間死者数を8,466人以下とする」という目標を達成することができたという点において、効果的なものであったと認められる。
しかしながら、全死者数に占める高齢者の割合や高齢者が第一当事者(原付以上運転者)となる事故件数が増加していることなどから考えて、今後とも、交通対策本部決定「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策について」に基づく諸対策をより一層推進することが重要であると思われる。
また、死者数が減少した一方で、交通事故発生件数や死傷者数についてみると、死者数のようには減少しておらず、残念ながら「自動車保有台数当たりの死傷者数を可能な限り減少させる」という目標を達成できたとは、必ずしも言い難い状況にある。今後、交通事故そのものを防ぐ施策についての更なる検討が必要であると考えられる。
3)関係団体の提出意見から考えられる方向性
寄せられた161件の意見のうち、第7次交通安全基本計画における「道路交通安全対策の今後の方向」という項目に関するものとして、
- 高齢者を交通事故から守るための施策のさらなる推進
- 民間ボランティア団体を中心とした市民参加型の交通安全活動の推進
- 自転車の交通安全対策の推進
等の意見があるが、これらについてはいずれも重要な問題であり、次期交通安全基本計画にどのような形で盛り込むべきかについては現時点で結論付けることはできないが、今後も、引き続き検討していかなければならない課題であると考えられる。
4)まとめ
交通事故のない社会は、国民全員の願いであり、次期交通安全基本計画を策定するに際しては、基本的には第7次交通安全基本計画の施策を踏まえるとともに、上記1)から3)で掲げたような観点から、様々な新規施策を盛り込むことが重要であると考えられる。
特に、「10年間で交通事故死者数を5000人以下にする」という新たな大目標に向けて、国民全体の意識を高めていくことが重要であると考えられるところ、そのひとつの方策として、例えば、地域の自主的な取組みの推進が考えられる。