第2部 海上交通の安全
海難等のない社会を目指して
- 海難の発生を未然に防止する。
- 乗船者等の迅速かつ的確な捜索救助・救急活動を推進する。
海上交通の安全についての目標
- ふくそう海域における航路を閉塞するような大規模海難の発生を防止し、その発生数をゼロとする。
- 平成22年までに年間の海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を220人以下とすることを目指す。
海上交通の安全についての対策
<2つの視点>
- 海難防止のための諸施策の継続的推進
- 迅速かつ的確な人命救助体制の充実・強化
<9つの柱>
- 海上交通環境の整備
- 海上交通の安全に関する知識の普及
- 船舶の安全な運航の確保
- 船舶の安全性の確保
- 小型船舶等の安全対策の充実
- 海上交通に関する法秩序の維持
- 救助・救急活動の充実
- 被害者支援の推進
- 研究開発及び調査研究の充実
第1節 海難等のない社会を目指して
周囲を海に囲まれ、資源が乏しい我が国は、エネルギー関連資源、食物資源等の大半を海外からの輸入に頼っており、また多くの基幹産業が臨海部に立地しているため、海上輸送は我が国の産業、国民生活を支える上で欠くことができないものとなっている。このため、我が国沿岸海域では、海上輸送活動が活発に行われ、特に、大都市を配し、経済活動の拠点となっている東京湾等では、船舶交通がふくそうしている。加えて、漁業活動やマリンレジャーも活発に行われていることから、海上交通をとりまく環境は非常に厳しい状況にあると言える。
このような中、一たび海難が発生すれば、我が国の経済活動や自然環境に計り知れない影響を及ぼす可能性があるほか、尊い人命を失うことにもつながりかねないことから、海難の発生を未然に防止することを第一とし、海難が発生した場合でも、乗船者等の迅速かつ的確な捜索救助・救急活動を行い、海難等のない社会を目指した海上交通の安全対策を強力に推進する必要がある。
I 海難等の状況
我が国周辺海域において、救助を必要とする海難に遭遇した船舶(要救助船舶)の隻数は、平成13年から17年までの年平均で2,086隻(死者・行方不明者167人)であり、それ以前の5年間の年平均1,877隻(170人)と比べ約11%増加しているものの、死者・行方不明者数は約2%減少している。また、死者・行方不明者のうち、約54%が漁船、約18%がプレジャーボート・遊漁船(プレジャーボート等)によるものであった。この間、14年9月には北海道サロマ湖沖でプレジャーボートが転覆、7名の尊い命が失われ、また16年には相次いで来襲した大型台風により、座礁海難、転覆海難が多発した。さらに、17年9月には北海道根室沖でさんま漁船と外国貨物船が衝突し、ここでも7名の尊い命が失われた。
また、船舶からの海中転落についてみると、平成13年から17年までの年平均は204人(死者・行方不明者139人)であり、それ以前の5年間の年平均210人(同165人)と比べ約3%減少しており、死者・行方不明者数も約16%減少している。なお、平成13年から17年までの5年間の海難等の特徴は、次のとおりである。
- 海難の原因は、見張り不十分、操船不適切、気象・海象不注意等の運航の過誤、機関取扱い不良等のいわゆる人為的要因によるものが全体の約7割を占め、それ以前の5年間と同様に高いものとなっている。
- 海難は、我が国沿岸全域にわたって発生しており、距岸20海里未満の海域での海難が全体の9割以上を、特に港内や湾内等の船舶交通がふくそうする海域での海難が全体の約4割を占めている。
- 漁船の要救助船舶の隻数は、ほぼ横ばいである。
- 要救助船舶のうちプレジャーボート等の隻数は最も多く、全体の約5割を占めており、その原因は、バッテリーの過放電や燃料の欠乏等極めて初歩的なミスによるものが、プレジャーボート等以外の一般船舶の海難に比べて高い。
- 海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者は依然として多く、中でも漁船からの海中転落による死者・行方不明者が多い。小型漁船については、気象・海象等外力の影響を受けやすく、一般船舶に比べ転覆しやすいこと、またライフジャケットの着用率(海難及び船舶からの海中転落により、海に投げ出された者のライフジャケットの着用率をいう。)が低迷していることが原因として考えられる。
- 外国船舶は日本船舶に比べ、死者・行方不明者を伴う海難が発生した場合、死者・行方不明者が多くなる傾向が見られる。これは、我が国周辺海域を航行する外国船舶には大型船が多く、乗組員が多数乗船しているためと考えられる。
- 台風等の特異気象による海難により、多くの死者・行方不明者が発生し、死者・行方不明者数の増大(年較差)の大きな要因となっている。平成16年については、過去30年間の平均上陸数(3回)の3倍以上の10個の台風が上陸し、これに伴う海難による死者・行方不明者が36人(15年は11人)と激増した。
II 交通安全基本計画における目標
【数値目標】大規模海難発生数ゼロ 死者・行方不明者数220人以下
国民の理解と協力の下、第2 2節に掲げる諸施策を総合的かつ強力に推進することにより、第一義的に、ふくそう海域における航路を閉塞するような大規模海難の発生を防止し、その発生数をゼロとする。また、平成22年までに年間の海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を220人以下とすることを目指す。
第2節 海上交通の安全についての対策
I 今後の海上交通安全対策を考える視点
近年、航路を閉塞するような大規模海難は発生していない。全体の海難発生隻数はやや増加しているが、海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数についてはほぼ横ばいとなっている。よって、引き続き海難防止のための諸施策を推進するとともに、沿岸海域における迅速かつ的確な人命救助体制の充実・強化等、より効果的な施策を強力に推進する必要がある。
II 講じようとする施策
【第8次計画における重点施策及び新規施策】
- 船舶自動識別装置を活用した次世代型航行支援システムの構築(1(1)エ、(2)ア)
- 旅客船事業者等に対する指導監督の充実強化(3(2)ア)
- 水先制度の抜本改革(3(4))
- ボートパーク、フィッシャリーナ等の整備(5(1))
- 漁船等の安全対策の推進(5(2))
- プレジャーボート等の安全対策の推進(5(3))
- ライフジャケット着用率の向上(5(4))
- 海難等の情報の早期入手(5(5))
- 救助・救急体制の充実(7(2)イ)
1.海上交通環境の整備
船舶の大型化、高速化、海域利用の多様化、海上交通の複雑化等を踏まえ、船舶の安全かつ円滑な航行、港湾における安全性を確保するため、航路、港湾、漁港、航路標識等の整備を推進するとともに、海図、水路誌等の安全に関する情報の充実及びITを活用した情報提供体制の整備を図る。
- (1)交通安全施設等の整備
- ア 開発保全航路の整備
- 船舶の安全かつ円滑な航行の確保を図るため、周辺の水域利用や漁業との調整、船舶の航行規制の状況等に配慮しつつ、必要に応じ、新規航路の開削、既存航路の拡幅・増深又は水深の維持、航路法線の改良、浮遊物の除去等の開発保全航路の整備を行う。
特に、大型船や危険物船が航行し、又は多数の船舶が航行する国際幹線航路においては、既存航路の拡幅・増深等のハード施策と高速航行船舶の技術要件の検討、港湾情報システムの整備等のソフト施策を有機的に組み合わせることにより、船舶航行の安全性と海上輸送の効率性の両立を図る。 - イ 港湾の整備
- 港湾における船舶の安全かつ円滑な航行及び諸活動の安全の確保が図られるよう、船舶の大型化や高速化を勘案しつつ、防波堤、航路及び泊地の整備を推進する。
また、小型船等が異常気象を察知してから速やかに避難できる距離を目標として、自然条件及び避難船の船形等を勘案した避難港を全国的に配置するとともに、その機能の向上を図る。 - ウ 漁港の整備
- 漁港について、平成14年度を初年度とする漁港漁場整備長期計画に基づいて、漁船の避難のための漁港等を整備するとともに、港内の安全性を確保するために、津波防護効果も考慮した防波堤、泊地、津波による漂流物防止のための施設等の整備を推進する。
- エ 航路標識等の整備
- 船舶交通の安全性と海上輸送の効率性が両立した船舶交通環境を創出するため、ふくそう海域を始めとする我が国沿岸海域に船舶自動識別装置(AIS※)を活用した次世代型航行支援システムを構築するとともに、同期点滅化等による既存航路標識の高機能化、沿岸域情報提供システムの拡充等を推進する。
また、航路標識の信頼性確保のため、老朽化した航路標識施設及び機器の更新を計画的に推進する。 - ※AIS:
- Automatic Identification System
- オ 港湾の耐震性の強化
- 兵庫県南部地震や福岡県西方沖地震の教訓を踏まえ、以下の施策を実施する。
- (ア)耐震設計の充実強化、研究開発の推進
- 平成7年兵庫県南部地震に関する調査研究やその後の研究成果を踏まえ改訂された耐震設計基準により、設計震度の設定方法、耐震強化施設の設計基準等の充実を図り、港湾構造物について所定の耐震性能を確保する。
また、港湾の施設の耐震性向上を図るための各種研究開発を推進する。 - (イ)全国の主要港湾における耐震強化岸壁等の整備の推進
- 大規模震災時等に避難者や緊急物資の輸送を確保するため、耐震強化岸壁の整備を推進するともに、海上輸送網としての一定の機能を確保するため、国際海上コンテナターミナルや複合一貫輸送等に対応した内貿ターミナル等の耐震強化を図る。
あわせて、被災地の復旧・復興の支援拠点を確保する必要のある場合は、避難等のための広場と必要に応じて緊急物資の保管施設、通信施設等を配置し、災害時に一体的に機能する防災拠点を整備する。 - (ウ)既存港湾施設の耐震性強化
- 臨港道路等の既存施設については、その耐震性について点検を実施し、必要に応じ橋りょう及び高架部の耐震性を強化するとともに、液状化による被災が生じた場合復旧に長期間を要するおそれがある施設について、液状化対策を実施する。
- カ 漁港の耐震性の強化
- 地震等の災害時に地域の防災拠点や水産物の流通拠点となる漁港において、地域の防災計画と整合性を図り、救援船等に対応可能な泊地、耐震性を強化した岸壁、輸送施設等の整備を推進する。
また、漁港構造物の耐震性についての現状の把握に努めるとともに、耐震化の技術開発について検討を行う。 - キ 港湾の保安対策の推進
- 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(平成16年法律第31号)に基づく国際埠頭施設の保安措置が適確に行われるように実施状況の確認や人材育成等の施策を行うとともに、港湾施設の出入管理の高度化や内航旅客ターミナルの保安施設整備を進め、港湾における保安対策を強化する。
- (2)交通規制及び海上交通に関する情報提供の充実
- ア ふくそう海域における船舶交通安全対策の推進
- 海域利用の多様化、海上交通の複雑化に対応して船舶交通の安全を確保するため、海上交通関係法令の整備等を推進するなど、実態に即した効果的な交通規制の充実を図るとともに、船舶交通の安全のために必要な情報の提供、指導を積極的に行う。
また、海上交通の特にふくそうする海域における船舶交通の安全を確保するため、海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムである海上交通情報機構を適切に運用するほか、AISを活用した次世代型航行支援システムの整備・運用、主要港湾等における管制方法の改善により、船舶交通の安全性と効率性が両立した船舶交通環境を創出する。 - イ 沿岸海域における情報提供の充実
- 海難発生の割合が高い沿岸海域における船舶交通の安全を確保するため、気象・海象情報、航行危険情報等海の安全情報をインターネット等で提供する沿岸域情報提供システムの拡充を図る。また、よりきめ細かな安全情報を文字により個々の船舶宛に直接提供し、指導することも可能なAISを活用した次世代型航行支援システムを構築する。
- ウ 海図・水路誌等の整備及び水路通報等の充実
- 港湾・航路の整備の進展、マリンレジャーの普及等に対応するため、航空機搭載用測深機等を活用し、効率的な水路測量・海象観測の充実強化を図り、電子化を含めた海図・水路誌等の整備を行う。特に、海難発生の割合が高く、一般船舶・プレジャーボート等の利用頻度の高い沿岸海域の情報の充実を図り、これらの刊行物を逐次見直し、その内容を適切なものとする。また、電子海図表示装置の搭載義務化の動きに対応するため、航海用電子海図刊行区域の充実を図る。
外国人船員の増加に伴い、日本周辺海域の航行安全に資するため、我が国の海図等を海外で容易に入手できるよう、販売ルートの確立を図る。
船舶交通の安全に係る情報について、海図等の最新維持及び船舶交通の安全に必要な情報を提供する水路通報のインターネットによる利用促進を図る。 - エ 気象情報等の充実
- 海上交通に影響を及ぼす自然現象を的確に把握し、海上警報・予報及び津波警報・注意報並びに台風予報図、波浪の実況・予想図等の質的向上と適時・適切な発表及び迅速な伝達に努める。
また、気象、津波等に関する観測施設を適切に整備・配置し、維持するとともに、防災関係機関等との間の情報の共有やITを活用した観測・監視・通報体制の強化を図るものとする。これらの情報のより有効な活用が図られるよう広報や講習会等を通じて気象知識の普及に努める。
このほか、船舶のインテリジェント化により、最適な航行ルートの選定を可能とする最適ルーティング情報提供システムを研究開発する。 - (3)高齢社会に対応した旅客船ターミナル等の整備
- 港湾においては、利用者の安全を確保するため、波浪の影響による浮桟橋の動揺や潮位差による通路の勾配の変化等、特有の要因を考慮する必要がある。そのため、高齢者、障害者等も含めたすべての利用者が旅客船、旅客船タ-ミナル、係留施設、マリーナ等を安全かつ身体的負担の少ない方法で利用・移動できるよう段差の解消、視覚障害者誘導用ブロックの整備等による施設のバリアフリー化を推進する。
2.海上交通の安全に関する知識の普及
海上交通の安全を図るためには、海事関係者のみならず、マリンレジャー愛好者、更には広く国民一人一人の海難防止に関する意識を高める必要がある。そのため、あらゆる機会を通じて、海難防止思想の普及に努める。
さらに、各種船舶の特性や海難の実態に即したより具体的、より効果的な安全指導を行う。
- (1)海難防止思想の普及
- 海事関係者のみならず広く国民全般に対し、海難防止思想の普及・高揚を図り、また、海難防止に関する知識・技能及びマナーの習得・向上に資するため、官民一体となった効果的な海難防止強調運動の実施、外国船舶に対する訪船指導等、各種船舶の特性に応じた海難防止活動の充実を図る。
また、海難防止思想の普及の重要性から、新聞、テレビ、インターネット等の媒体を通じて広く海難防止思想の普及に努める。 - (2)民間組織の指導育成
- 海難防止思想の普及と海難防止対策の実効を期するため、海難防止を目的とする海難防止協会、小型船安全協会、外国船舶安全対策連絡協議会等の各民間組織の自主的活動が、着実かつ活発に推進されるようその指導育成の強化に努める。
- (3)海難の原因究明結果の活用
- 個々に明らかにした海難の原因や実態について、態様、用途、地域等による詳細な分析を行い、その傾向、問題点、防止策をとりまとめて公表するとともに、これを活用した海難防止活動を推進する。
- (4)外国船舶に対する情報提供等
- 我が国周辺海域の地理や気象・海象等に不案内な外国船舶に対して、外国語によるリーフレットを配布・説明するなどして、航行安全上必要な情報等について周知・指導を図る。
- (5)台風等特異気象時における安全対策の強化
- 台風接近時における安全指導、注意喚起の徹底、各種船舶の特性に応じた台風等特異気象時における安全対策を推進する。
3.船舶の安全な運航の確保
海事関係者の知識・技能の維持向上や安全な運航に係る体制を確立することにより、船舶の運航面からの安全の確保を図る。
そのため、船員、水先人、旅客船事業者及び内航運送業者の資質の向上、運航管理の適正化に関し、事故の要因分析も踏まえた適切な指導・監督を充実強化するとともに、平成17年4月に設置した運航労務監理官による監査を推進する。
また、国際的な協力体制の下、我が国に寄港する外国船舶の乗組員の資格要件等に関する監督を推進する。
これらに加えて、経営トップから現場まで一丸となった安全管理の態勢の構築を推進するとともに、その確認を国が行う「安全マネジメント評価」の仕組みを導入する。
- (1)船員の資質の向上
- 「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約※)に対応し、船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭和26年法律第149号)に基づく海技士試験の際、一定の乗船実務経験を求めつつ、最新の航海機器等に対応した知識・技能の確認を行うとともに、5年ごとの海技免状の更新の際、一定の乗船履歴又は講習の受講等を要求することにより、船舶職員の知識・技能の最新化を図る。
また、船員の資質の向上がヒューマンエラーの防止に重要であることから、船舶の運航に関する学術等の教授や航海実習等を行う各船員教育機関において、新人船員の養成及び船員の再教育を実施し、その教育内容の充実を図る。
このほか、船員法(昭和22年法律第100号)に基づく発航前検査の励行、操練の適切な実施、航海当直体制の確保、船内の巡視制度の確立等について、運航労務監理官による監査等を徹底し、船員の安全意識等の維持及び向上を図る。 - ※STCW条約:
- The International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers, 1978
- (2)船舶の運航管理の適正化等
- ア 旅客船事業者等に対する指導監督の充実強化
- 旅客船事業者及び内航運送業者に対して、運航管理規程の遵守状況を重点に監査を行うとともに、監査の効果を高めるため、監査手法の改善に努め、監査の充実強化を図る。
- イ 運航管理者等に対する研修等の充実
- 運航管理者や乗組員に対する研修については、受講者の運航管理に関する知識、意識の向上を図るため、最新の事故事例の分析結果を活用するなどにより、研修水準の向上を図る。
また、万一の事故に際しての旅客船乗組員、事業者の対応能力の向上を図るため、旅客船事故対応訓練の充実を図る。 - ウ 海上タクシー等の運航管理の指導監督
- 旅客運送事業の一層の安全性向上を図るため、外航旅客船事業や海上タクシー等旅客定員12名以下の船舶による国内旅客運送事業者が運航管理規程の策定等の安全対策を確実に実施するよう指導・監督する。
- エ 事故再発防止対策の徹底
- 旅客船の事故が発生した場合であって、事業者の運航管理体制等に根本的な問題があることが判明したときは、広く外部の有識者を交えた検討会を開き、抜本的な事故再発防止対策を策定させ、その対策の徹底を指導する。
また、事故の内容や発生頻度により必要な場合は、事業者団体、マスコミ等を通じ、注意喚起を行い、事業者や一般利用者の事故防止意識の啓発に努める。 - オ 安全情報公開の推進
- 利用者が適切な選択を行うことを可能とするとともに、事業者に安全対策推進のインセンティブを与えるため、事業者と国とがそれぞれの役割に応じて、旅客運送事業における安全確保の仕組みや事故に関する情報の公開を推進する。
- (3)船員災害防止対策の推進
- 安全衛生管理体制の整備等を通じ船内の労務管理等の不備に起因する海難を防止するため、船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和 42年法律第61号)に基づき策定している船員災害防止基本計画及び船員災害防止実施計画の着実な実施を図る。そのため、事故災害の要因分析を踏まえて、船員災害防止協会の活動並びに運航労務監理官による監査等により船員災害防止対策の推進を図る。
- (4)水先制度の抜本改革
- 水先制度について、水先人の養成・確保、船舶交通の安全確保、水先業務運営の効率化・適確化といった観点から、その抜本的な改革を行い(平成19年4月実施予定)、水先制度の目的である船舶交通の安全確保が確実かつ効率的に図られるよう所要の措置を講ずる。
- (5)海難原因究明体制の充実
- 海難の防止に寄与するため、迅速かつ的確な原因究明に努めるとともに、深く掘り下げた科学的な原因究明を行うための体制の充実を図る。また、海難調査の国際協力体制を早期に確立するため、国際海事機関(IMO※)等における検討に積極的に対応する。
- (6)外国船舶の監督の推進
- 我が国近海において、依然として国際条約の基準に適合していない船舶(サブスタンダード船)に起因する海難が少なからず発生し、人命及び航行の安全の確保等に深刻な問題が生じていることから、STCW条約及び「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約※)に基づき、乗組員の資格証明書、航海当直体制及び操作要件等に関して的確に外国船舶の監督(PSC※)を推進する。 さらに、アジア太平洋地域におけるPSCの協力体制に関する覚書(東京MOU※)の枠組みに基づき、アジア太平洋域内の加盟国と協力して効果的なPSCを推進し、サブスタンダード船の排除を図る。
- ※IMO:International Maritime Organization
- ※SOLAS条約:The International Convention for the Safety of Life at Sea
- ※PSC:Port State Control
- ※東京MOU:Memorandum of Understanding on Port State Control in the Asia-Pacific Region
4.船舶の安全性の確保
船舶の安全性を確保するため、国際的な協力体制の下、船舶の構造、設備、危険物の海上輸送及び安全管理システム等に関する基準の整備並びに検査体制の充実を図るとともに、我が国に寄港する外国船舶の構造・設備等に関する監督を推進する。さらに、ユニバーサルデザインの観点も考慮した必要な対策を講ずる。
- (1)船舶の安全基準等の整備
- 船舶の安全性を確保するため、国際海事機関において船舶の構造、設備等の安全基準の整備について検討されており、我が国はこれらの動向に対応するとともに、技術革新、海上輸送の多様化等の情勢に対応するため、所要の安全基準や検査体制の整備を図る。特に、目標指向の新造船構造基準、次世代救命システム、海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(次世代GMDSS※)等の国際海事機関における新たな安全基準等の検討に積極的に対応するとともに、技術革新の促進及び規制適合コストの低減を図るため、事業者の創意工夫による多種多様な規制適合方法が認められることを可能とする性能基準化を推進する。
また、サブスタンダード船の使用を抑制することを目的とする各船舶の安全等の情報を公開するための国際的データベース(EQUASIS※)の構築等、船舶の安全性向上による質の高い海上輸送に資する国際的動向に積極的に対応する。
さらに、交通バリアフリー法に基づく旅客船のバリアフリー化の義務化に対して、旅客船事業者が円滑に対応できるよう、ユニバーサルデザインの観点も考慮した必要な対策を講ずる。 - (2)重大海難の再発防止
- 平成9年1月に日本海で発生したロシア船籍タンカー「ナホトカ号」折損沈没事故、11年12月にフランスのブレスト沖で発生したマルタ船籍タンカー「エリカ号」折損沈没事故、14年11月にスペイン沖で発生したパナマ船籍タンカー「プレステージ号」折損沈没事故は、すべて船齢の高いタンカーが荒天中に船体を折損し沈没したものであった。このような海難の再発防止を図るために、現在、国際海事機関において、国際海事機関加盟国監査制度の開始を契機とした船舶の登録国(旗国)の検査の充実、PSCの推進が進められており、我が国はこれらの動向に積極的に対応する。
- (3)危険物の安全審査体制の整備
- 危険物の海上輸送の増加・多様化に対応して、国際海事機関が定める国際的な安全基準に基づく技術基準の整備を図るとともに、運送前の各種検査の徹底や危険物運搬船に対する立入検査の効果的な実施等による安全審査体制の充実強化を図ることにより、海上輸送における事故防止に万全を期す。
- (4)船舶の検査体制の充実
- 近年の技術革新、海上輸送の多様化等により、従来の設計手法とは全く異なる船型を有する船舶が増加するなど、非常に高度で複雑な検査が必要となっている。こうした状況に対応するため、ISO9001に準拠した厳格な品質管理システムを導入し、船舶検査体制の品質の高度化を図る。
さらに、小型船舶の検査については、マリンレジャーの発展とともに多様化するプレジャーボート等の安全性を確保するため、小型船舶の検査実施機関である小型船舶検査機構の検査体制の充実を図る。 - (5)旅客船事業者等による船舶の安全管理体制構築の普及促進
- 海上における人命の安全の観点から、船舶の航行に関し、海難等の緊急事態への対応手順を定めるなど、船舶及びそれを管理する会社の総合的な安全管理体制を確立するための国際安全管理規則(ISMコード※)については、規則上強制化されていない内航船舶に対しても、申請者が任意に構築した安全管理システムを認証するスキームとして運用している。ISMコードは、トップマネージメントやPDCA(Plan、Do、Check、Action)による継続的改善等を核とするISO9000シリーズの安全管理システムを基本としており、ヒューマンエラー防止や企業の安全重視風土の確立に当たり極めて有効であるため、旅客船事業者等に対しISMコードの認証取得の普及を促進するとともに、安全管理システムを認証するための審査体制の強化を図る。
- (6)外国船舶の監督の推進
- 我が国近海において、依然としてサブスタンダード船に起因する海難が少なからず発生し、人命及び航行の安全の確保等に深刻な問題が生じていることから、SOLAS条約及び「1966年の満載喫水線に関する国際条約」(LL条約※)等に基づき、船舶の構造・設備等に関して的確にPSCを推進する。
さらに、東京MOUの枠組みに基づき、アジア太平洋域内の加盟国と協力して効果的なPSCを推進し、サブスタンダード船の排除を図る。
- ※次世代GMDSS:Global Maritime Distress and Safety System
- ※EQUASIS:European Quality Shipping Information System
- ※ISM コード:International Management Code for the Safe Operation of Ship and for Pollution Prevention
- ※LL条約:International Convention on LOAD LINES
- ※PFI:Private Finance Initiative
5.小型船舶等の安全対策の充実
海難全体の大半を占める小型船舶等による海難の防止を図るため、マリンレジャー愛好者、漁業関係者が自ら安全意識を高めることに加え、安全に運航できる環境の整備及び救助体制の強化が必要不可欠である。
このため、ボートパーク等の整備、水域の秩序ある利用、ライフジャケットの着用、ヘリコプターを活用した機動救難体制の拡充等を推進する。
さらに、船員災害防止基本計画及び船員災害防止実施計画に基づき、高年齢船員や漁船等の死傷災害防止対策を推進する。
- (1)ボートパーク、フィッシャリーナ等の整備
- ア ボートパーク等の整備
- 近年、各地で課題となっている放置艇問題を解消し、港湾等の公共水域の秩序ある利用を図るために、既存の静穏水域の護岸を活用した係留施設や公共空地等を活用した陸上保管施設等、ボートパークの整備を、公共事業により推進している。また、民間、3セクマリーナの整備については、「公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法」(PFI※)を含む民間活力を積極的に導入して推進する。
プレジャーボート活動の安全を確保し、秩序ある水域の利用を図れるよう、ボートパーク等の位置及びプレジャーボートの活動水域の設定に十分留意するとともに、ボートパーク等内の安全性の確保を図る。
プレジャーボート保管情報提供ホームページ「海覧版」により、ボートパーク等の施設情報を提供し、適正な利用を推進する。 - イ フィッシャリーナの整備
- 漁港においては、海洋性レクリエーションのニーズの増加に伴い、漁港を利用するプレジャーボート等が増加していることから、これらと漁船とのトラブル等を防止するため、漁船とプレジャーボート等とを分離・収容するフィッシャリーナの整備を進める。
- ウ 係留・保管能力の向上と放置艇に対する規制措置
- 放置艇問題の解消のために、係留・保管能力の向上と併せて、港湾法(昭和25年法律第218号)及び漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号)に基づく船舶等の放置等を禁止する区域の指定を、津波・高潮防災や景観形成の観点等も考慮した上で、積極的に推進する。
さらに、プレジャーボートの保管場所確保の義務化について制度化に向けた検討を進める。 - (2)漁船等の安全対策の推進
- ア 漁船等の安全に関する指導等の推進
- 死者・行方不明者を伴う海難の半数以上を漁船海難が占めるとともに、漁船乗組員のライフジャケット着用率についても約20%と極めて低調な状況が継続している。また、海難原因についても依然乗組員の不注意である見張り不十分、操船不適切等の運航の過誤や機関取扱い不良といった人為的要因によるものが大半を占めている。
このような状況から、関係省庁連携の下、漁業関係者を対象とした海難防止講習会の開催を通じ、安全意識の高揚・啓発を図るとともに、出漁前の整備点検、見張りの励行、沿岸域情報提供システム等による気象・海象情報の的確な把握等、安全運航に関する事項の遵守及び海事関係法令の励行指導等を行うことにより漁船の安全対策を推進する。
さらに、漁業者自らの安全意識を高めるため、関係省庁が連携して漁業者自身による安全意識の啓蒙のための会議の開催や安全推進のための計画の立案等を促進する。 - イ 漁船の安全性の確保
- 漁船は、転覆による犠牲者が多いことから、復原性等について安全性向上に関する検討を行う。
また、専ら12海里以内において漁ろうに従事している20トン未満の小型漁船は、当分の間、船舶安全法(昭和8年法律第11号)に定める構造・設備等の技術基準の適用が免除されているが、これらの船舶は救命設備の設置率が低く転覆や海中転落等による犠牲者が多いことから、船外への転落に対する安全対策について検討を行う。 - (3)プレジャーボート等の安全対策の推進
- ア プレジャーボート等の安全に関する指導等の推進
- プレジャーボート等の海難を防止するためには、マリンレジャー愛好者自らが安全意識を十分に持つことが重要であるため、海難防止講習会や訪船指導等を通じ、海難防止思想の普及を図るとともに、海上交通ルールの遵守、沿岸域情報提供システム等による気象・海象等の安全に資する情報の早期入手その他安全運航のための基本的事項の励行等の指導を行う。
- イ プレジャーボート等の建造に関する技術者講習の推進
- プレジャーボート等の建造技術の適正な水準を維持し、船舶の安全性を確保するため、建造技術者を対象とした各種講習会の開催等を推進し、これからの市場ニーズや技術革新等に対応し得る技術者を養成し、その資質の向上を図る。
- ウ プレジャーボート等の安全基準、検査体制の整備
- ISOにおけるプレジャーボートの国際的な安全基準に関する検討について積極的に対応し、その結果を踏まえ、安全基準、検査体制の整備を図る。
- エ プレジャーボート等の安全に対する情報提供の充実
- マリンレジャー情報提供の窓口としての「海の相談室」、「マリンレジャー行事相談室」の利用促進を図るとともに、プレジャーボート等に対し安全に関する情報をリアルタイムに提供し、情報内容の充実強化を図る。
- オ 免許取得者の知識・技能の確保及び小型船舶操縦者の遵守事項の周知・啓発
- 簡素・合理化された新小型船舶操縦士免許制度の下で、免許取得者が小型船舶を的確・安全に操縦できるような一定の知識・技能の習得の確保を図る。
また、船舶職員及び小型船舶操縦者法に基づく小型船舶操縦者の遵守すべき事項(酒酔い等操縦の禁止、危険操縦の禁止、ライフジャケットの着用等)の周知・啓発、違反事項の調査等を実施し、マリンレジャー愛好者のマナー意識・安全意識の向上を図る。 - (4)ライフジャケット着用率の向上
- ライフジャケット着用率は約36%であり、海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者においては、ライフジャケット非着用者が高い割合を占めていることを踏まえ、関係省庁、地方自治体及び関係団体が連携し、自己救命策確保キャンペーンを積極的かつ効果的に推進し、ライフジャケットの着用効果等についての理解と、その着用の徹底を図る。また、着用義務違反に対する指導・取締りの充実、着用措置に関する規制のあり方を検討しライフジャケットの着用率を向上させる。
特に、着用率が一向に向上しない漁船については、水産関係団体等に対しても、漁業者に対しライフジャケットの着用を推進するよう働きかける。
このような施策を推進することにより、平成22年までにライフジャケットの着用率を50%以上にすることを目指す。
【数値目標】ライフジャケットの着用率 50%以上
- (5)海難等の情報の早期入手
- 海難等が発生してから海上保安庁が認知するまでの時間が2時間以内である関知率は、約75%であり、通報に時間を要するとともに、第三者機関を経由することにより、情報内容の正確性が低下することがある。
このため、関係機関、関係団体等により、緊急通報電話番号「118番」の周知・啓蒙を推進するとともに、防水機能付携帯電話や、更に平成19年4月から各電話事業者により携帯電話からの架電位置情報等の提供が開始されることから位置表示機能付携帯電話等の携行を推奨し、海難等の通報体制の整備を図る。
このような施策を推進することにより、平成22年までに海難及び船舶からの海中転落発生から2時間以内に海上保安庁が情報を入手する割合を80%以上にすることを目指す。【数値目標】2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手する割合80%以上
6.海上交通に関する法秩序の維持
海上交通のふくそうする航路等における航法に関する指導取締りの強化及び海難の発生に結び付くおそれのある事犯に関する指導取締りの実施に加え、特に海上輸送やマリンレジャー活動が活発化する時期等には、指導取締りを強化し、海上交通に関する法秩序の維持を図る。
7.救助・救急活動の充実
海難等による死者・行方不明者を減少させるためには、海難等の情報の早期入手、精度の高い漂流予測、救助勢力の早期投入、捜索救助・救急救命能力の強化等が肝要である。このため、ヘリコプターの機動性、高速性等を活用した機動救難体制の拡充によるリスポンスタイムの短縮、救急救命士による高度な救急救命体制の充実等救助・救急活動の充実を図る。
- (1)海難等の情報の収集処理体制の充実
- 海難救助を迅速かつ的確に行うためには、海難等の情報を早期に把握することが必要であることから、海上保安庁では司令部門と通信部門の一体化により情報収集の一元化を図るほか、新型衛星が中継する遭難信号を受信できるよう、コスパス・サーサット捜索救助衛星システムの地上設備の機能を強化し、さらに、携帯電話の発信位置情報を取得できるよう、緊急電話通報「118番」の受付機能を強化して、情報収集体制の充実を図る。
また、コスパス・サーサット捜索救助衛星システムによる遭難警報、携帯電話からの 118番通報による位置情報、船舶に搭載されたAIS等から得られる我が国周辺海域の船舶動静情報等を、海上保安庁が保有する各種の情報と横断的に照合できる新システム(船舶動静情報を活用した海上保安業務システム)を構築し、救難即応体制、海難防止対策等の更なる向上を図る。 - (2)海難救助体制の充実・強化
- ア 救助勢力の早期投入
- 海難等が発生した際に、救助対象へ勢力を早期に投入するため、24時間の当直体制をとるとともに、大型台風の接近等により大規模な海難の発生が予想される場合には、非常配備体制をとり、事案の発生に備える。
実際に海難等が発生した場合には、巡視船艇、航空機を現場に急行させるとともに、迅速に精度の高い漂流予測を実施し、関連する情報を速やかに収集・分析して捜索区域、救助方法等を決定するなど、迅速、的確な救助活動の実施を図る。
さらに、老朽・旧式化が進んだ巡視船艇・航空機を代替し、併せて速力、夜間捜索能力の向上等高性能化に努め、現場海域への到達時間や捜索に要する時間を短縮するなど救助勢力の充実・強化を図る。 - イ 救助・救急体制の充実
- 海難等の発生の可能性が高い沿岸部における人命救助については、レンジャー救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた「機動救難士」の(海上保安)航空基地への配置を拡充する。救急救命士については、年々、実施できる救急救命処置範囲の拡大・高度化が進められていることから、救急救命士の技能を向上させ、実施する救急救命処置業務の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制の拡充を推進する。
- ウ 海難救助体制の連携
- 「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約※)に基づき、北西太平洋の広大な海域における捜索救助活動を迅速かつ的確に行うため、今後ともSAR条約締約国の捜索救助機関との連携・協力を深めていくとともに、非締約国に対しても、SAR条約への締結促進の働きかけを行うほか、船位通報制度(JASREP※)についても、これを有効に活用するため、海運・水産関係者に対する説明会、巡視船艇による訪船指導、周知用パンフレットの配布、海事出版物への掲載等を通じて参加の促進を図る。
また、各国が独自に運用する船位通報制度について効果的・効率的な運用と参加船舶の利便性の向上を図る。
さらに、小型船舶等に対する海難救助については、社団法人日本水難救済会や日本海洋レジャー安全・振興協会等と連携した救助活動を行う。 - (3)海難救助技術の向上
- 海難救助に当たって、転覆船内から遭難者を救助するなど、高度な技術・知識が要求される特殊な海難に有効・適切に対応するため、人員の充実等体制の強化を図るとともに、海難救助に係る手法の調査研究、訓練及び研修等を充実させ、海難救助技術の向上を図る。
- (4)洋上救急体制の充実
- 洋上で発生した傷病者に対し、医師、看護師等の迅速かつ円滑な出動等が行われるよう、社団法人日本水難救済会を事業主体として実施している洋上救急事業について、その適切な運営を図るための指導及び協力を行うとともに、関係団体と協力し医療機関の参加の促進、医師、看護師に対する慣熟訓練を実施するなど、洋上救急体制の充実強化を図る。
- ※SAR条約:International Convention on Maritime Search and Rescue, 1979
- ※JASREP:Japanese Ship Reporting System
8.被害者支援の推進
船舶の事故により、旅客、第三者等に与えた損害に関する船主等の賠償責任に関し、損害水準の変動等を勘案して適正化を図るとともに、保険契約締結命令の適用範囲の拡大に伴い、関係者への周知徹底及び保険契約締結の充実強化を図る。
また、被害者等の心情に配慮した対策の推進を図る。特に、大規模事故が発生した場合に、海上保安庁、警察、医療機関、地方公共団体、民間の被害者支援団体等が連携を図り、被害者を支援する。
9.研究開発及び調査研究の充実
海上交通の安全に関する研究開発及び海難原因究明のための総合的な調査研究を推進し、その成果を速やかに安全対策に反映させることにより、海上交通の安全の確保を図る。
- (1)海上交通の安全に関する研究開発の推進
- 海上交通の安全を確保するためには、海難の発生要因となる交通環境及び気象、海象等の自然的条件並びに船舶、船舶運航システム、港湾等の性能・機能に関する科学的研究を推進するとともに、これらの試験研究の成果を海上交通の安全対策に反映させる必要がある。
特に、近年の海難・海洋汚染事故の発生等を考慮し、老朽船等のサブスタンダード船対策のための構造設備基準の概念及び経年劣化対策技術の確立や、国際海事機関で検討が進められている目標指向の新造船構造基準の策定のための調査研究を推進するとともに、最新の通信技術を活用した次世代GMDSSの構築、船舶運航面におけるITの活用やヒューマンエラーの防止等に必要な調査研究を推進する。
さらに、沿岸域の船舶航行安全を確保するため、強潮流観測技術及び情報提供手法の研究開発を推進する。 - (2)海難原因究明のための総合的な調査研究の推進
- 迅速かつ的確な原因究明を行うため、海難の調査・原因究明手法等についての調査研究を推進するとともに、海難についての総合的な調査・分析を行い、その成果を海上交通における安全対策に反映させる。
- (3)船舶の総合的安全評価の推進
- 海上技術安全研究所等において、事故データ等を基に規制内容に対する客観的な評価を行う船舶の総合的安全評価(FSA※)手法に関する研究を推進する。また、船舶の安全及び海洋汚染の防止のための技術的な規制について、合理的かつ効果的な規制体系を構築するため、当該研究の成果を活用し、評価の実施を充実する。
- ※FSA:Formal Safety Assessment