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交通事故被害者の支援 第2章 交通事故被害の実態

IV.被害者相談からみた被害の状況

 本節では、2001年末に行われた「交通事故の被害者に関するアンケート調査」7)の結果を中心に、被害者や遺族がどのような支援を求めているのか、相談に関しての課題は何かといった点をみていく8)。 調査対象者は、全国の交通事故相談窓口を訪れた交通事故被害者および遺族である。調査票約5,000部を配布し、1,190部の回答があった。

7)調査方法などは次のとおりである。
・実施主体:内閣府。
・調査方法:質問紙調査。交通事故の被害者および遺族に対し、都道府県および市町村の交通事故相談窓口などを通じて調査票を配布し、郵送により回収。
・主な調査項目:被害状況、事故後問題に感じたこと、相談の有無、ボランティア団体の認知など。
・なお、調査票回収・集計後、相談担当者に対して面接調査を実施している。

8) 本節で用いる図表および記述は、内閣府政策統括官『交通事故の被害者に関する調査研究報告書』(2002年)の内容に負うものである。


1.事故後どのようなことに困ったのか

 図-16は、家族または本人が交通事故に遭ってから現在までで困ったことについての回答である。
 相談者にとって困ったこととして、「精神的なショックや苦痛」の回答が最も多く1,075件となっており、次いで、「身体的な苦痛や傷害」1,014件、「医療費や失職などの経済的負担」936件などと続いている。
 各項目のうち、「大変困った」とする割合の多いものに、

・1位 精神的なショックや苦痛75.8%
・2位 身体的な苦痛や障害55.5%
・3位 家事育児の負担43.0%
・4位 示談交渉や民事訴訟などの負担38.5%
・5位 医療費や失職などの経済的負担32.7%

などがあげられている。

 一方、「全く困らなかった」とする割合の多いものに

・1位 マスコミの取材や報道84.3%
・2位 捜査や刑事裁判における負担45.1%
・3位 介護や看病などの負担37.1%
・4位 周囲の人の無責任な発言や噂話など29.6%
・5位 事件の真相に関する情報が得られない24.4%

などがあげられている。

グラフ

図-16 交通事故に遭ってからの困難に遭った項目別評価の構成比

* 各設問項目により有効回答数が異なるため、アンケート回収件数1,190件とは必ずしも一致しない。


 その他の意見は193件(150回答者による複数回答)あげられており、「加害者が無責任、過失を認めない」、あるいは「加害者が任意保険に加入しておらず費用手続きなどが進まない」などといった「加害者に関する意見」が33件と最も多い。
 次いで「事故による精神的な被害(後遺症、示談によるストレス、介護によるストレスなど)」30件、「生活環境の変化など、対応の困難さに関する意見」20件、「警察の対応の悪さ、無責任、あるいは事情聴取時の無神経さなどに関する意見」18件、「経済的な負担増などに関する意見」18件、「保険会社の対応の悪さに関する意見」17件、「被害者への介護による疲れなどに関する意見」14件、「けがの回復の遅れ、後遺症などに関する意見」9件などがあげられている。
 なお、前述(III-2)の交通事故被害実態調査研究委員会による「交通事故被害実態調査研究」においては、精神的苦痛、身体的後遺症、警察の捜査に対する意見などを中心に質問が行われたのに対し、この調査では、さらに生活上の問題(家事育児の負担)および経済的な問題(示談交渉や民事訴訟の負担、医療費や失職などの経済的負担)について困難と感じている被害者が多いとされている。
 今後は、交通事故被害者の生活面、経済面の困難についても着目することが必要であると考えられる。


イラスト


2.事故後、問題を感じた事柄はなにか

 図-17は、家族または本人が交通事故に遭って問題を感じた項目についての回答である。
 「事故の相手方(加害者)との関係」の回答が最も多く1,077件となっており、次いで「保険会社や相手方の弁護士との関係」995件、「病院・医療機関との関係」980件、「家族との人間関係」942件などと続いている。

 各項目のうち、「大変問題がある」とする割合の多いものに、

・1位 事故の相手方(加害者)との関係45.2%
・2位 保険会社や相手方の弁護士との関係38.3%
・3位 家族との人間関係16.5%
・4位 病院・医療機関との関係15.8%
・5位 親戚との人間関係11.9%

などがあげられている。

 事故の相手方および保険会社や相手方の弁護士(広い意味での加害者側)との関係に問題を感じている被害者が7割を超えている。
 一方、「全く問題ない」とする割合の多いものに、

・1位 友人との人間関係49.0%
・2位 職場での人間関係47.4%
・3位 親戚との人間関係44.2%
・4位 近隣・周囲の人との人間関係43.3%
・5位 警察や検察との関係37.2%

などがあげられている。

グラフ

図-17 交通事故に遭って問題を感じた項目別評価の構成比

* 各設問項目により有効回答数が異なるため、アンケート回収件数1,190件とは必ずしも一致しない。


 その他の意見は119件(91回答者による複数回答)あげられており、「加害者に誠意が感じられない」、あるいは「加害者が保険会社にすべて一任している」などといった「加害者に関する意見」が26件と最も多い。
 次いで「加害者側の保険会社に対する不満などに関する意見」17件、「入院中の子供の養育など、生活に関する意見」15件、「警察の事情聴取時の無神経さなどに関する意見」12件、「社会の風評などに関する意見」10件、「経済的な負担増などに関する意見」8件、「事故による精神的被害(後遺症、示談によるストレス、介護によるストレスなど)」7件などがあげられている。
 交通事故の相談に訪れた人の多くが、「事故の相手方(加害者)との関係」や「保険会社や相手方の弁護士との関係」に問題を感じている。これらの問題に比較して、家庭内の人間関係の悪化や病院・医療機関との関係についての問題をあげている人は多くない。しかし、本章IIIの「実態調査からみた交通事故被害」でみたように、実態調査の結果では家庭内の人間関係の悪化を感じている人は多い。こうした家族などの人間関係に問題を感じている人が、相談に訪れる割合が少ないことが推測される。
 また、家族との人間関係とほぼ同じ割合で、病院・医療機関との関係について問題を感じている被害者が多い。こうした家族や医療機関との関係に問題を感じる被害者などの相談に応じる体制づくりが求められる。


3.どのような相談をしているのか

 各相談窓口への相談内容をみると、「精神的なショックや苦痛」、「医療費や失職などの経済的負担」および「示談交渉や民事訴訟などの負担」といった項目が全体的に多い傾向にある(表-5 参照)。
 警察の相談所(都道府県警察本部・警察署など)」については、その窓口の特性から、「捜査や刑事裁判における負担」および「事件の真相に関する情報が得られない」といった相談内容も多い。

表-5 相談窓口別相談内容

示談交渉や民事訴訟などの負担 医療費や失職などの経済的負担 精神的なショックや苦痛 身体的な苦痛や障害 捜査や刑事裁判における負担 事件の真相に関する情報が得られない 介護や看病などの負担 家事・育児の負担 相談窓口が分からない 周囲の人の無責任な発言や電話など マスコミの取材や報道 その他 不明
都道府県の交通事故相談所 281 138 142 112 21 23 44 20 28 16 1 43 1
市町村の交通事故相談所 187 107 109 92 20 25 36 20 32 9
31 2
警察の相談所(都道府県警察本部・警察署など) 35 12 24 19 37 54 2 1 20 3
12
都道府県交通安全活動推進センター(交通安全協会) 9 3 2 1 2 4 1
6

3
日弁連交通事故相談センター 59 19 16 13 7 9 7 1 7 3
8
自動車事故対策センター 14 51 22 15 1 1 41 17 7 2
33 1
交通事故紛争処理センター 28 11 3 4 3 4 2 1 1

7
法律扶助協会 11 3 3 3
2 1 1 3 1
1
民間の被害者支援組織 3 6 5 4 1 1 6 3 3 1
1
被害者の会や遺族の会など 7 5 12 5 5 5 5 2 4 6 1 5

* 各相談機関の中で比較的回答の多い事柄に網掛け(黄色)をしている。


 各種の相談窓口には、それぞれ主たる対象とする分野があるが、実際には各窓口に多様な相談が持ち込まれている状況であることが分かる。
 例えば、都道府県市町村の交通事故相談所や警察の相談所に、精神的ショックや苦痛に関する相談がなされたり、警察の相談所に経済的負担や民事紛争処理に関する相談がなされたりしている。各相談窓口の機能分担と連携協力のあり方を検討する必要があると思われる。
 また、「相談窓口が分からない」場合における最初の接触点は、都道府県市町村の交通事故相談所や警察の相談所であることが多い。これらの窓口においては、いわゆる適切な振り分けの役割も期待される。当初の振り分けが適切になされることで、相談者の負担を軽減するとともに、各種社会資源の機能が十分に活用されることにより迅速適切な問題解決を図ることが期待される。


4.ボランティア活動についてどう思っているか

 本節で紹介している調査では、ボランティア活動への理解を尋ねている。ここでいうボランティア活動は、交通事故の被害者や遺族が中心になって行われる被害者のカウンセリングや支援などを指している。
 調査では、「被害者の支援のために、自分の体験を役立てたい」という気持ちをどう思うかと質問している。
 これに対し、63.5%の人が「よく理解できる」と回答し、多くの人が理解を示している。また、そのような活動への協力については、58.1%の人が協力したいと回答している。
 しかし、そのほとんどは「機会があれば協力したい」としており、活動の場を増やしたり活性化していく必要がある。

グラフ

図-18 ボランティア活動について


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